IS~ワンサマーの親友   作:piguzam]

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マイナスイオン娘と電撃イライラ娘

 

「であるからして、ISの基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり、枠内を逸脱したIS運用をした場合は、刑法によって罰せられます。……はい。では、ここまでで質問はありますか?」

 

教卓の横に立ってディスプレイを操作しながら立体映像を解説する真耶ちゃんから、俺達は質問があるか問いかけられる。

だが、誰も質問は無いらしく教室の誰もが挙手しなかった。

まぁこの段階で聞く子はいねえか、俺でも何とか解るレベルだしな。

 

さて、今は1時間目の授業の真っ最中で、ISについての法律などに関して学んでいる。

これは入学前に配られた参考書に書いてあったので俺は問題ないわけだが、ちょいと別の事でアクシデント?が発生してる。

つっても、別に教科書を忘れたとか筆記用具がねえとかってわけじゃねえ。

とゆうか俺に問題が発生したわけでもないんだがな。

あの後、一夏は授業前になんとか目覚めてギリギリのタイミングで千冬さんの制裁を受けずに済んだ。

チッ、運のいい奴め。

その事に大げさに息を吐いて安心していた一夏だったが俺と話しがしたかったのか、俺を見てモヤモヤした表情を浮かべていた。

まぁ、俺としてもダチと話したい事はあったのでとりあえず次の休み時間にでも話をしようと考えていたんだが……。

 

「…(キョロキョロ)……ッ!?……ッ!?」

 

一夏の奴は授業に入ってからいうもの、なんか滅茶苦茶に挙動不審だ。

教科書を見たかと思えば顔を真っ青にして他の子の手元を凝視したり、その視線に気付いた女の子に笑いかけて女の子が顔を赤くし……ちょいコラ?

またか?またなのか?また1人落としたのか?

やめろボケこれ以上は本当に止めてくれギブギブもう無理容量オーバーだって、この学園98パーの人間が女なんだぞ?

こんな場所で何人も女落とすなんて自殺行為は止めてくれ、つうか巻き込まれるコッチの身にもなりやがれ。

 

と、そんな感じで一夏が授業にこれっぽっちも集中してねーのは、横目でチラッと見た俺でも解った。

つまり、それは教卓で授業をしているお二人さんからは俺以上に良く解るわけで……。

 

「織斑君?今までの所でわからない所がありましたか?」

 

「うえッ!?」

 

まぁ、当然の如くお声が掛かった。

余りにも挙動不審過ぎる一夏に、教卓で生き生きと教鞭を振るっていた真耶ちゃんが優しく声を掛ける。

一方で真耶ちゃんから声を掛けられた一夏は素っ頓狂な声を上げて驚いてた。

しかし一体どうしたんだ一夏は?アイツは俺より頭は良いし、アイツのIS適正が発覚したのは俺より2週間も早かった。

だから俺より勉強する時間はあった筈だから、俺と違って今の授業内容ぐれえなら、余裕で解ってると思ってたんだがな?

ちなみに俺はちょいちょいと解らねえ場所はあったが、何とか着いていけてる状態だ。

 

「質問があったら聞いてくださいね?何せ私は先生ですから♪」

 

と、俺が一夏の状況に疑問を浮かべていると、真耶ちゃんはとても柔らかい微笑みを浮かべながら、一夏に声を掛けていた。

しかも胸を張って言うもんだから自己主張の激しい二つの塊が更に主張され、げふんげふんッ!!見てないっすよ千冬さん!?

あ、危ねえ所だった……千冬さんの目つきがかなりヤバかったぜ。

俺が冷や汗を流しながら安堵している横で、真耶ちゃんの微笑を見た一夏は俺とは違う意味で、同じ様に冷や汗をダラダラと流しながら。

 

「……先生」

 

小さく手を上げ、真耶ちゃんに挙手する。

俺はその隣で一夏は何処が解らなかったのか考え、俺に解る問題だったら教えてやろうと……

 

「はい♪織斑君」

 

「殆ど全部、解りません!!」

 

ズガンッ!!

 

「キャッ!?」

 

思っていた所で無駄に元気の良い一夏の発言に驚愕、頭から机にダイブをかました。

あ、あんちくしょうの度肝を抜くコメントのおかげでイイ音がしたぜぇ。

しかも隣の女の子がその音で驚くというオプション付き。

 

「わ、わりぃな。驚かしちまって」

 

俺はぶつけた額を摩りながら驚きの声を上げた女の子に小さい声で謝る。

するとその子は「気にしてないよ」と返してきた上に俺の額まで心配してくれた。

大丈夫、あんぐらいじゃ堪えませんって。

 

「え!?……ぜ、全部ですか?…い、今の段階で解らないっていう人は、どのくらいいますか!?」

 

と、俺が隣の子に謝ってる横で、一夏の台詞に愕然とした真耶ちゃんの声が響いた。

だが誰も手を上げたりはしない、もちろん俺も。

誰も手を上げなかった事に真耶ちゃんは安堵の息をつき、一夏は手を上げない俺を見て信じられないって表情を浮かべた。

おいこらテメエ。いくらなんでも失礼すぎやしねえか?

 

「ゲ、ゲン……お、お前は解るのか?嘘だよな?」

 

って等々聞いてきやがったよコイツ。

そんなに俺が授業に着いていってるのが信じられねえのか、この野郎。

俺は一夏を鼻で笑ってやろうかと思ってたんだが、一夏の言葉に反応したクラスの全員が俺に視線を向けていた。

さすがにこの状況で鼻で笑うだけなんて事はできねえ上に、真耶ちゃんも「わかりますよね!?」って切実な視線を向けてたので、俺は一夏に答えてやることにした。

 

「俺はなんとか着いていけてるぞ……つうかよ一夏?オメーはなんで着いてこれねえんだよ?俺より早くIS適正があるって解ったんなら、俺より勉強する時間はあっただろーが」

 

「うっ、いや……それは……」

 

俺の問いに一夏は顔色を更に悪くして押し黙っちまった。

一体どうしたってんだ?まさかマスコミのせいで碌に勉強出来なかったのか?

 

「……織斑。入学前の参考書は読んだか?」

 

その一夏の様子に怪訝なものを感じたのか、真耶ちゃんの反対側に控えていた千冬さんが一夏に歩み寄って聞いてきた。

千冬さんは俺にも視線を向けてきたが、俺の机に参考書が出ているのを見つけて視線を再び一夏へ向ける。

 

「え?え~っと……あの、ブ厚いヤツですか?」

 

千冬さんの問いに心当たりがあった様で、一夏は挙手して聞き返す。

 

「そうだ。必読と書いてあったろう?」

 

あぁ、確かに書いてあったね、しかもデカデカと表紙に。

あれを見た爺ちゃんが「大事なモンならちゃんと管理しろ」って、捨てそうになってたのを持ってきてくれたぐれえだ。

まさかあんなモンを間違えて捨てたりし。

 

「電話帳と間違えて捨てました」

 

ズガンッ!!

 

「キャッ!?」

 

スマン、また驚かせちまったな。

まさか予想がドンピシャとは……一夏ェ……。

 

ズパアンッ!!

 

「ギャバンッ!!?」

 

「キャアッ!?」

 

今度は俺じゃねえぞ!?

ってなんだ、一夏が千冬さんに頭ブッ叩かれただけか。

しかし、いつ聞いても惚れ惚れする快音だなぁおい。

その出席簿何で出来てるんです?

 

「必読と書いてあっただろうが馬鹿者……後で再発行してやるから、1週間以内に覚えろ。いいな」

 

呆れる千冬さんからの死刑宣告に一夏は顔を青色に変える。

横で聞いてた無関係の俺ですら、その衝撃内容に顔が引き攣っちまったよ。

この、人が軽く殺せる重さを誇る百科事典並の参考書をたった1週間で覚え切れってか?

さすがにこれは一夏に同情しちまったぜ。

 

「い、いや!?1週間であの厚さはちょっと……」

 

げ!?馬鹿、口答えなんてしたら!?

 

「やれと言っている」

 

あ~、一足遅かったか……狼を思わせる鋭いメンチを切りながら、千冬さんは一夏にそう告げる。

まぁ宝具SYUSSEKIBOが火を噴かなかっただけマシだろうよ。

俺なんか絶対出ると思ってたしな。

 

「……はい、やります」

 

「ISはその機動性、攻撃力、制圧力と過去の兵器を遥かに凌ぐ。そう言った兵器を深く知らずに扱えば必ず事故が起こる。そうしないための基礎知識と訓練だ。理解ができなくても覚えろ。そして守れ。規則とはそう言うものだ」

 

うあちゃあ、こりゃ耳の痛え台詞だな。

確かに最初出てきた『白騎士』は日本に迫ったミサイルを悉く切り落としてたし、ISは一歩間違えば兵器にもなりえるんだよな。

その辺は車やバイクだって一緒だ。

なんせ『走る凶器』って公認されてるぐらいだしな。

教習所でもその認識だきゃあ口を酸っぱくして何度も説明され、頭に叩き込まれたモンだったぜ。

 

「え、えっと、織斑君?分からないところは授業が終わってから放課後教えて教えてあげますから頑張って、ね?」

 

と、過去の教習所での事を振り返っていると、真耶ちゃんが千冬さんの言葉で撃沈してた一夏に励ましの言葉を送っていた。

その言葉を聞いた一夏は瞳を輝かせて、真耶ちゃんをこの世の救世主みたいな目で見始めた。

まぁ気持ちは解らんでもないがな。

 

「は、はいっ、それじゃまた、放課後お願いします」

 

「はい、頑張りましょう♪」

 

真耶ちゃんはそう言って一夏に微笑みかけると踵を返し……た途中で俺に振り返る。

しかも、なにやら俺を見つめる瞳はそわそわしてるっつーか、何かを期待してるような眼差しだった。

え?何よ真耶ちゃんその眼差しは?

 

「あ、あの。よろしかったら元次さんも織斑君と一緒にいかがですか?」

 

「え?俺も?」

 

「は、はい。さっき織斑君に聞かれた時に、なんとか着いていけてるって言ってましたから……め、迷惑でしたか?」

 

なるほど。しっかりと俺の事まで考えてくれたんだな真耶ちゃん。

なんて優しいんだよ真耶ちゃんってば。

俺は俺を見つめてくる真耶ちゃんから視線を外して考え込む。

さっき一夏に言ったように、俺は今の授業内容でなんとか着いていけるってレベルだ。

たかが30ページと侮っていたが、1ページの内容がかなり濃密で理解が及んでいない所があるのも正直な話だ。

よし、一夏と一緒に教えてもらうか。

 

「いや、迷惑なんかじゃねえよ。真耶ちゃんが大丈夫なら、むしろ俺から頼みてえんだが……」

 

俺の返事を聞いた真耶ちゃんは、瞳をパァッと輝かせて嬉しそうな表情を浮かべる。

 

「だ、大丈夫ですよ!!1人や2人教えるのも変わりはありませんから!!」

 

「そっか、そんじゃあお願いし「待て、山田先生」、え?」

 

俺が真耶ちゃんにお願いしようとしていたら、何故か教卓の横で控えていた千冬さんから待ったが掛かった。

その言葉に疑問を浮かべた俺真耶ちゃんは、?顔で千冬さんに視線を向ける。

 

「え?な、なんでしょうか?」

 

「イヤなに、山田先生1人に馬鹿共の世話を押し付けるわけにはいかないからな。鍋島は私が受け持とう」

 

どうやら俺には放課後すら気の休まる時間が無いらしい。

千冬さんの個人指導……何やらスパルタンなスメルがするのは気のせいでしょうか?

つうか馬鹿共って……千冬さんの中じゃ俺と一夏はセット扱いですかい。

するとさっきまで嬉しそうな顔をしていた真耶ちゃんは、千冬さんの言葉にワタワタと慌てだした。

 

「い、いえ!?大丈夫ですよ!!そ、それに織斑先生の方が、担任として忙しいんですから、これぐらいは私が……」

 

「担任として忙しい等という理由でクラスを疎かにしていては、私の立つ瀬が無い。スマンが山田先生は織斑を教えてやってくれ、織斑は基礎すら出来ていないからな。基礎の叩き込みなら、私より山田先生の方が適任だ」

 

「あ、あうぅ……わ、わかりましたぁ(あうぅ~、せっかく元次さんと居れると思ったのにぃ~)」

 

千冬さんの正論に真耶ちゃんは項垂れて涙をタパー、と流す。

そ、そんなに俺に教えられなかったのが悲しいのか?

いやまぁ、俺としても真耶ちゃんとの授業は楽しみだったけどね?

そんな真耶ちゃんの姿を見た千冬さんは満足そうに頷いて俺に視線を向けてくる。

 

「とゆう事だ。鍋島。放課後は空けておけ、私が徹底的に叩き込んでやろう」

 

千冬さんはそう言って、クールな……というかSッ気たっぷりな笑みを持って俺を見てくる。

だからなんでそんなにスパルタ思考なんですかい?

優しくして優しく、俺はマゾじゃねえっす。

まぁでも千冬さんもわざわざ忙しい時間を俺のために割いてくれるってんだ。

しっかりと覚えねえと、それこそ千冬さんに失礼ってもんだよな。

 

「わーかりやした。織斑先生、宜しくお願いしまっす」

 

「宜しい……処で、だ」

 

俺が返事を返すと、千冬さんは満足そうに言葉を返してくれたんだが、何やら最後に俺を睨みながら質問を投げかけてきた。

いやちょ?なんすかその怖い視線は!?俺何かした!?ちゃんと返事したよ!?

 

「お前はいつまで、教師を下の名前で、あげくちゃん付けで呼ぶつもりだ?」

 

俺が千冬さんの厳しい視線の意味を図りかねていると、千冬さんはそう言って、更に睨みをキツくしてらっしゃった。

ってしまった!?ま、真耶ちゃんってどうしても年上に見えねえからずっとちゃん付けで呼んだままだった!!

俺はずっとやらかしていた事にやっと気付き、急いで真耶ちゃんに向き直る。

 

「す、すまねえ真耶ちゃ、じゃなくてすいませんっした。山田先生、以後気を付けますんで」

 

俺はちゃんと真耶ちゃんに視線を合わせて、言葉遣いも正し、軽く頭を下げて謝罪する。

ふぅ~、危ねえ危ねえ、千冬さんが注意してくれなきゃ多分ずっと真耶ちゃんって呼んでた自信があるぜ。

これでいいだろ、と思った俺は謝罪するために下げていた頭を上げる。

 

「……むぅ~(ぷぅ~)」

 

「あ、……あれ~?……や、山田先生?」

 

すると何故か頭を上げた俺を出迎えたのは、頬をプックリ膨らませてご立腹顔の真耶ちゃんですた。

あっるえ?なんでさ?ちゃんと敬語使ったぜ?

 

「……なんでもないです(あのまま名前で良かったのに……元次さんの馬鹿)」

 

いや、絶対何かあるだろその視線は?

なんでそんなに非難がましい視線を浴びせてきますかね、真耶ちゃんよ?

馬鹿な俺にも判る様に教えてプリーズ。

 

「では、授業を再開する(なんとかあのままにする事は回避できたか……元次は渡さんぞ、真耶)」

 

そして千冬さんの号令で授業は再開し、その後は滞り無く終わった。

……何故か、授業中の質問に、俺が当てられる回数3割増しになってたけどな。

すっげえニコニコした真耶ちゃんの額に浮かぶ青筋が怖かったです。

 

そんでもって今は休み時間、俺は授業以外はなるべく勉強したくねえので、教材は机の中に仕舞っておく。

すると、休み時間の号令が掛けられて千冬さんが出て行った瞬間、一夏が俺の横に歩いてきた。

なぜか滅茶苦茶嬉しそうに笑ってるし。

 

「いや~!!久しぶりだな、ゲン!!ホントお前が一緒でほっとしたぜ!!」

 

一夏はそう言って俺の机に腰掛けてきた。

まぁ俺もここに男が1人じゃねえのは本気で助かるからな。

一夏の嬉しそうな気持ちも判る。

 

「まぁ、それは俺も同じ気持ちだ。所で一夏、お前もそうだが、他の奴等は元気にしてんのかよ?」

 

「あぁ、俺も弾も数馬も皆元気だよ。弾は相変わらずナンパに精を出してたし……付き合わされる方としては堪ったモンじゃなかったけどな」

 

「あの馬鹿弾も相変わらずか、やれやれだな」

 

俺たちは互いの近況を話して笑いあう。

離れていても変わりの無いダチの様子に、俺は笑顔を浮かべる。

 

「にしてもよぉ、一夏?参考書を捨てるなんて、オメエどんな芸術的プレーだよ」

 

「うぐっ、そ、それを言うなって。さすがにあんなブ厚いのが参考書だなんて夢にも思わなかったんだからよ」

 

俺の呆れながらの言葉に、一夏はそう言って苦い顔をする。

いやいや、大きく必読と書いてあったっての。

さすがにどう考えても電話帳に必読とは書かねえだろうが。

 

「ははっ、まぁ変わりねえようで安心したぜ」

 

「1ヶ月やそこらで変わるワケねえだろ?そう言うゲンは……なんかまた一段とマッチョになってねぇか?」

 

「あ?そうか?あんまり変わってねえと思うがな?」

 

俺は自分の身体を見渡しながら答える。

実力的には1ヶ月でかなりレベルアップしたが、体格はそこまで変わってないと思う。

 

「いや、とゆうかだぞ?千冬姉の本気の蹴り3発も食らってピンピンしてる時点でおかしいからな?1ヶ月前より明らかに頑丈になってんじゃねえか」

 

一夏はそう言いながら、蹴られてもいねえのに青い顔をしながら、自分の首元を摩り始める。

多分想像の中で自分が千冬さんに蹴られたらどうなるか置き換えたんだろう。

しかしだ一夏よ、そりゃ暗に千冬さんの蹴りが人外だと言ってるのと変わらねえからな?

あの人に聞かれたら瞬殺されっぞ?

 

「まぁ、向こうに行ってからも鍛えてたからな。今の俺なら、バイクの40キロぐらいの突進までなら耐えられるぜ?」

 

『猛熊の気位』の時限定の話だがな。

 

「どこまでタフさに磨きをかけるつもりだよ?このアイアンボディめ」

 

何やら呆れた顔をされたが、褒め言葉ドーモ、こちとら頑丈なのが取り柄なんです。

ちなみにこんな心暖まる会話を繰り広げている中で俺と一夏の視線は、教室の外には一切向かっていない。

まぁ、それは何故かっつーと……。

 

『ねぇねぇ、あの2人がISを動かした男子でしょ!?』

 

『しかも1人は千冬様の弟だって』

 

『結構イケメンだよね~!!』

 

『で、もう1人の方がSHRで先生が言ってた2人目の男子よね!?』

 

『うわぁ~!?すっごい逞しい!!』

 

『顔はアイドル系のイケメンってわけじゃなくて、ワイルド系!!男前なイケメンだわ!!』

 

『思いっきり寄り掛かっても、全部受け止めてくれそう……』

 

あんな会話が繰り広げられてる廊下に視線を向ける勇気なんざ俺も一夏も持ち合わせてねえっての。

 

教室と廊下にいる女の子達の、誰か話かけろよ! という雰囲気と抜け駆けすんじゃねぇ! という、相反する雰囲気が混ざり合って結局何もしないということになっている。

さらにISを使える男子は俺ら2人のみ、しかも一夏がISを動かしたというニュースは全世界で放送されたため、知らない人はまずいない。

かくいう俺に関しても、学園内で不審者と勘違いされねーようにという配慮の元、朝のSHRで全学年の全クラスの生徒に話が行き渡ってる。

なので1年だけではなく2,3年の先輩たちも一目俺らを見ようと廊下に押し寄せていた。

そしてその大人数からの好奇心の眼差し、受けている側の俺達としては堪ったモンじゃねえよ。

そんなワケで、俺と一夏は全身全霊で廊下から意識を外してたっつーワケです。

 

「一夏……俺ぁ今、動物園のパンダの気持ちってのがわかったぜ……今ならアイツ等と愚痴も言い合える……」

 

「それは俺も同意だ……はぁ……お前がいなかったらと思うと、正直ゾッとする」

 

しかしまあどれだけ意識から外そうとしても、だ。

やっぱ俺らからでも見える範囲で向けられる好奇の視線を完全に無視するなんて出来るはずもなく、俺らは自分達に突き刺さる視線の数にげんなりする。

弾あたりが聞いたら代われとか良いそうだが、代われるモンなら是非代わってやりてぇな。

正直、どうしていいかわかんねえよ。

 

「ちょっといいか?」

 

「え?」

 

「んあ?……って、おい?」

 

その時、突如横合いから掛けられた声に俺と一夏は声を返すが……俺達が振り向いた先にいたのは、かなり懐かしいヤツだった。

 

「……久しぶりだな、2人とも」

 

凛とした透き通る声で俺達に話しかけてきた少女は、大和撫子を髣髴させる黒髪をポニーテールに結い上げている少女だ。

彼女は、あっちこっちから刺さる女子の視線に参っている俺らを苦笑い気味の表情で見ていた。

 

「箒?」

 

「おー、おー、久しぶりじゃねえか箒?……そういや、なんか見覚えのあるヤツだな~と思ってたら箒だったのか」

 

俺らに声を掛けて来たのは、一夏からすりゃ6年振り、俺からすりゃ2年振りに会う幼馴染、『篠ノ乃箒』だった。

『篠ノ乃箒』、かつて隣近所に住んでいた俺と一夏の幼馴染にして、あの大天才、束さんの妹だ。

束さんみてえな天才と言える頭脳はねえが、類い稀な剣術の才能の持ち主で実家の篠ノ乃流剣術を道場で学んでいた剣道少女。

一夏と同門で剣道を学び、一夏にお熱を上げまくっている乙女でもある。

1時期は引っ越して一夏と離れ離れになった事を束さんを恨む事に矛先を向けていたが、それは俺が解決したから問題無し。

そんな懐かしいプロフィールを頭の中で思い出してると、箒は俺の言葉に呆れた表情を浮かべていた。

 

「一夏は6年振りだからともかくとして、だ……ゲン、お前は2年前に会っておいて私の顔を忘れてたのか?薄情な幼馴染だな」

 

あからさまに肩を落として大げさに溜息を吐く箒だが、それは勘弁して欲しいぜ。

 

「へへっ、悪いな箒、なにせここんとこ驚きの連続でな。休む暇が無くて色々参ってんだよ」

 

俺は手を振りながらケラケラと笑って箒に謝る。

ホント、一夏がIS動かしたり俺までIS動かしたり、千冬さんが教師だったり真耶ちゃんが年上だったりと、イベント盛り沢山でしたよ。

そんな俺の言い訳を聞いた箒は「仕方ないヤツめ」といった苦笑いの表情を浮かべた。

 

「まったく……まぁ良いだろう……そ、それとだ。一夏」

 

ここで箒は俺から視線を外して、一夏に視線を送る。

その頬はちょいと赤みが差してて上気していた。

おっ?さっそくアプローチをかけに行ったか箒のヤツ。

いいぞいいぞ、行け行け押せ押せ箒さん。

 

「え?なんだよ?」

 

「す、少し2人で話がしたいんだが……屋上に行かないか?」

 

何の気無しに返してくる一夏に、箒は感情を荒立てないように、慎重に言葉を選んで一夏を屋上に誘う。

何か、傍から聞いてりゃ「少しツラ貸せやコラ」って喧嘩のお誘いみてえに聞こえちまうよ。

 

「え?だったらゲンも一緒に……」

 

テメッ!?ちったあ空気読みやがれアホンダラァッ!!!

どう考えてもお前だけと話したいから誘って来てんじゃねえか!?

一夏は空気の読めない発言をしながら俺の振り向いて来たので、箒の今の表情は見えてねえが……俺からは丸見えなんだよドアホウッ!!

もうなんか「頑張ったのに駄目でした」って泣きそうな表情になってんじゃねえか!?

これで俺がのこのこ着いて行ったら完全に悪者だってえの!!

 

「俺は良いって。二人だけで行ってきな」

 

俺は今にも泣きそうな表情の箒に向かって苦笑いを送って2人に言葉を返す。

それを聞いた箒は、顔をパアッと輝かせるが……。

 

「なんでだよ?俺達、3人とも幼馴染じゃねえか。3人一緒で話そうぜ?」

 

俺の気を利かせた言葉を台無しにしてくれやがる馬鹿一匹。

だから空気読めっつってんだボケ!!?

俺らは幼馴染だが、箒はお前とはもう一歩進んだ関係を望んでるんだっての!!

俺は脳みそをフル回転させて、この馬鹿が納得する言い分を考える。

 

「……あ~、ほれ。俺と箒は2年前に会ってるからよ。けど、一夏と箒はツラ突き合せんのは6年振りだろ?俺は後で良いから、二人で積もる話でもしてこいや」

 

良し、これなら馬鹿も動くだろ、これで動かなきゃブチのめすだけだが。

俺の言葉に一夏は納得行ってないような表情を浮かべたが、そこはニッコリと笑って拳を見せれば解決。

さっそくにそのジェスチャーの意味を理解した一夏は顔を青くして、箒の手を引いて教室から足早に出て行く。

一夏に手を握られるという突拍子な行動を取られた箒の顔色は熟成リンゴにグレードアップした。

そのまま教室から2人は出て行き、何人かの生徒が一夏達を追って行った……。

 

「……(じ~)」

 

「…oh…早まったか?」

 

しかし、だ。

 

何人かの生徒が一夏達、正確には一夏を追って行ったとは言え、まだ何人かは残っているわけで……その視線の全てが俺にヒット。

さっきよりも辛い状況になっちまった。

次の授業が始まるまで、あと10分弱は時間がある。

つまりはあいつ等が帰って来るまでの間、1人でこの視線に耐えなきゃならねえ……耐え切れっかな?俺?

 

「ねえねえゲンチー」

 

「あ?」

 

と、俺が今置かれてる状況に冷や汗を流していると、さっきの裾ダボダボな女の子が俺に話しかけてきた。

それ自体はありがてえんだが……やべえ、俺この子の名前知らねえぞ……な、何とかなるか?

 

「な、なんだ?」

 

「ん~とねえ~、しののんとゲンチーとおりむーは~知り合いなの~?」

 

裾ダボダボな女の子……略して裾ダボ子さんは、妙に間延びした声で俺に質問してきた。

してきたのはいいんだが、しののんとおりむーとゲンチーって……俺と一夏と箒の事か?

妙なネーミングセンスだな。だが裾ダボ子さんは可愛いから許す。

 

「知り合いっつーか、俺と一夏がガキの頃からの付き合いってのはさっき自己紹介ん時言ったよな?」

 

「うん~。覚えてるよ~」

 

「実はな?ありゃ箒もその1人なんだわ、箒は事情があって小4の時に引っ越しちまったから、箒と一夏は6年振りに再会したってえわけだ」

 

「おぉ~!?衝撃事実だぁ~♪」

 

え?どの辺が?

俺が裾ダボ子さんの発言に首を傾げてると、周りから『幼馴染!?なんて羨ましいポジションを!!』とか『世界で2人だけの男性IS操縦者と幼馴染なんてズルイ!!』だなんて声がザワザワと上がっていた。

そんな外野を見てから視線を戻すと、裾ダボ子さんはニコニコしながら俺を見てるではないか。

こ、今度はなんすか?

 

「えへへ~♪じゃあじゃあ、次の質問行ってみよ~♪」

 

え?次っすか?

 

『『『『『行ってみよー!!』』』』』

 

「って何時の間にか外野全員が視聴者!?」

 

驚愕しながら周りを見渡すと、外野の全員が手を上げてシャウトしてたっす。

なんだこの団結力、ノリがいいな皆。

こ、これがIS学園の生徒……女子パワーってヤツか!?怖えよ!?

既に周りの女子は顔を輝かせてワクワクとした表情をアリアリと浮かべていた。

さすがにこの空気で何も答えないのはKY過ぎるので、俺は色々と諦めて席に着く。

 

「やれやれ……つってもよ、何が聞きてーんだ?俺のプロフィールはさっきの自己紹介で大体答えたトコだぜ?」

 

俺は隣の席に座る裾ダボ子さんに聞き返す。

答えられる範囲なら答えるが、何を答えたら良いか全然解んねえよ。

 

「あ~そだね~……ん~と~、ん~と~……じゃあまずは~……」

 

その後、裾ダボ子さんが聞いてきた質問は多種多様だった。

俺の飯の好みから、一夏の服の趣味とか、とにかく色んな質問だった。

まぁ、その辺はしっかりと答えられたから良かったんだが……。

 

「じゃあ、次で最後~♪」

 

「おう、なんだ?」

 

時間も大分進んで、もうすぐ休憩時間が終わるって頃に、裾ダボ子さんが最後の質問と言ってきた。

今まで遠くから聞くだけだった外野の生徒はというと、今は学年関係無しに俺と裾ダボ子さんを囲むように立っていた。

女子と男子の比率がハンパねえっす。

 

「ゲンチーは~私の名前知ってる~?」

 

「……」

 

どうしよう、最後の最後で答えらんねえ質問きちゃった☆

 

現在の俺、冷や汗ダラダラっす。

 

今までの質問に淀みなく答えていた俺が初めて言葉に詰まった事で確信したのか、周りの女子は『え?ウソ!?』みたいな目で見てらっしゃる。

仕方ねえじゃん!?俺最後に入って来たんだぜ!?誰の自己紹介も聞いてねえんだよ!!

俺が最後に入って来た事を知ってる1組女子は『そういえば……』みたいな事を呟いてた。

やっばい。どうしようこの気まず過ぎる空気。

しかも俺が黙っている時間に比例して、裾ダボ子さんの顔が悲しそうに歪んでいくではないか。

なんだこのヤバすぎる時限爆弾は。

 

「あ~……スマン、俺は自己紹介の最後に入って来たからな……良けりゃ名前……教えてくんねえか?」

 

その沈黙と視線に耐え切れなくなった俺は、諦めて事実を口にする。

引き伸ばしたりしたら更に泥沼になるかもしれねえからな。

聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥ってヤツだ。

俺が正直に暴露すると、裾ダボ子さんはにへら~っと笑ってくれた。

 

「うん~♪もし、ゲンチーがウソついたら悲しかったけど~……正直に言ってくれたから~許してあげる~♪」

 

どうしよう、すっげえ良い子がここにいる。

なんて優しいんだ裾ダボ子さん。

この子の笑顔見てるとなんかほっこりした気持ちになってくるぜ……癒し系とはこの事か!?

 

「私の名前は~布仏本音だよ~♪さぁ呼んでみて~♪」

 

裾ダボ子さんはそう言ってワクワクしてるような、期待してるような視線を送ってくる。

 

え?

 

「……の、……のどぼとけ?」

 

『『『『『だああああああッ!!!??』』』』』

 

近い様で遠すぎる間違いに周りの女子がずっこける。

シンクロ率高けえなおい。

 

「ち~が~う~!?の・ほ・と・け!!布仏だよ~!!酷いよゲンチー!!」

 

「わ、悪い!?えらく呼びづれえ苗字だったからよ」

 

「も~!!ば~か~!!(ぺしぺしぺし)」

 

痛恨のミスをやらかした俺に布仏ちゃんのポカポカパンチが見舞われる。

身体に痛みはねえが、涙目で怒ってくる布仏ちゃんの姿に心が締め付けられて、ソッチのダメージが甚大だ。

周りの女子はそんな布仏ちゃんの姿を見て苦笑いを浮かべてた。

うん、今のはカンッペキに俺が悪かったな、これは反論の余地もねえや。

 

「しっかし言いにくい苗字だな……なぁ、のど、ンンッ!!……の、布仏ちゃんよ」

 

「あ~!?またのどぼとけって言いそうだった~!!う~!!ゲンチーのばか~!!(ぺしぺしぺし)」

 

「い、いやホントにすまねえな。でも本気で言い難くてよ」

 

「う~!!う~!!」

 

なんか頬膨らまして睨むような視線で俺を見てくるが……小動物にしか見えねえんですけど?

ああ、もうメンドクセェ。もう名前でいいだろ。

 

「悪いけど苗字は言い辛くてかなわねえからよ、本音ちゃんって名前で呼ばせてもらうわ」

 

「ふえ!!?」

 

俺は面倒くさいと思って簡単な名前で呼んだら、本音ちゃんは変な声を上げた。

ありゃ?なんか驚いてる?もしかして名前で呼ばれた事あんまねえのか?

 

「な、なんだ?もしかして駄目だったか?」

 

「う、ううん……だ、駄目じゃないけどぉ~……うぅ~(お、男の子から名前を呼ばれた事なんて無いから……な、なんか恥ずかしいよ~)」

 

本音ちゃんは何やら百面相をしながら唸り声を上げて悩んでいた。

なんだ?そんなに悩む事なのか?

箒や鈴なんかは名前で良いって言ってたから、別に問題無いと思ったんだが。

何やら周りからは『抜け駆けされた!?』やら『布仏さんって意外と策士!?』って声が聞こえる。

まあ本音ちゃんの苗字は面倒だから無理だわ。

 

「そんじゃあ、これから1年間よろしく頼むぜ?本音ちゃん」

 

「う……うん~……よ、よろしくだよ~。ゲンチー」

 

俺が笑顔で本音ちゃんに言葉を掛けると、本音ちゃんはダボダボの裾で顔を半分隠したまま下から覗き込むように返事してくれた。

な、なんか今の本音ちゃん見てると……こう、保護欲みてえなモンがそそられるっつーか……あぁ、癒されるぜ。

他の女子の何人かも『の、布仏さん……がはあッ!?』とか言って萌えてるしな。

恐るべし本音ちゃんの小動物パワー、真耶ちゃんとイイ勝負してるぜ。

 

そんな感じで本音ちゃんに萌えていると、始業1分前のチャイムが鳴り他クラスの外野は急いで教室から出て行った。

まぁこのクラスの支配者(と書いて担任と読む)は千冬さんだからな。

チャイム無視で喋ってたらアウチだろ。

ウチのクラスの女子も席に着いて教材を準備し始めた。

最初から席に着いていて手暇になった俺は何気なく教室のドアを眺めたんだが、其処にはちょうど箒が帰ってきていた。

俺と視線が合った箒は、俺に小さく頭を下げてくる。

多分2人っきりにしてくれてありがとうとかその辺だろう。

俺は手をヒラヒラ振って「気にすんな」とジェスチャーを送り返す。

箒は俺のジェスチャーを受け取ると、ホクホクとした笑顔で席に戻っていく。

どうやら一夏と楽しく会話できたみてえだな、良かった良かった……ってありゃ?一夏はどうした?

箒1人で戻って来たのが気になった俺は、もう一度教室のドアに視線を向ける。

すると其処には、何やら教室を眺めてボーっとしてる一夏の姿があった。

俺は何やってんだ?と声を掛けようとしたが……。

 

パアンッ!!

 

「とっとと席に着け、織斑」

 

「……御指導ありがとうございます。織斑先生」

 

一夏の後ろから千冬さんが姿見せた時点で諦めた。

薄情?アイツがボーっとしてたのが原因だ。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「え!?じゃあゲン!!お前ここまでバイクで来てんのか!?」

 

「おおよ、苦節5年の集大成の相棒で、俺はIS学園まで来てんのさ」

 

「今から5年と言えば……し、小学生の時から作っていたのか!?」

 

「その通り。ガキの頃からコツコツと、爺ちゃんや会社の人にアドバイス貰ってな」

 

「それは……凄いな」

 

「すっげえええッ!!?なぁなぁゲン!!今度俺も乗せてくれよ!?」

 

「いいぜー。風を切る快感が良く解るぞ、ありゃあ」

 

「くうぅー!!楽しみだなあ!!」

 

時間は跳んで今は3時間目授業が終わった後の休み時間。

俺は一夏と箒と一緒に席に座って雑談を楽しんでいた。

さすがに授業以外で参考書は開きたくねえからな。

こういったダチとの雑談も、学校生活には必要なんだよ。

そうして俺達3人は、空白の時間を生めるように談笑に花を咲かせていた。

 

 

 

 

 

だが、この時、俺は忘れていたんだ。

世の中には……。

 

「ちょっと、よろしくて?」

 

「え?ああ。何だ?」

 

「あ?」

 

どうしようもなくウザくて……。

 

「まあ、何ですのそのお返事は!?私に話しかけられているだけでも光栄なのですから、それ相当の態度というものがあるのではなくて?」

 

俺のだいっ嫌いなタイプの女が何処にでもいるってのをな。

 

いきなり俺達に話しかけてきた女は、白人系の外国人だった。

席に座る俺達を見る目は、完全にコッチを見下してる目だ。

もうその目を見た瞬間、コイツは俺の嫌いな女だってのが解ったよ。

どうせ、多方今時の女尊男卑の志向に染まりきったアホな女だろう。

女性しかISを使えないからって男を性別だけで見下すアホ。

 

今の言葉も大げさに驚いて俺達を更に見下すためだけに出したんだろう。

 

俺はいきなりコッチを見下してきたアホ女に対して視線がキツくなっていく。

一夏も鈴の一件があったから、この手のアホに対しては少々キツイ所がある。

現に一夏の視線も嫌なモノを見る目に変わったからな。

箒も同じなのか、厳しい視線をアホに向けていた。

全くよぉ、せっかく楽しく喋ってたってのになんでこうなるんだっての。

 

「悪いな。俺、君が誰か知らないし。ゲンは?」

 

「俺は自己紹介の最後に入ってきたんだぞ?こんな奴知ってるわきゃねえだろうが」

 

俺達は互いに確認しあうが、結果は2人とも知らないってオチ。

箒には振らねえぞ?巻き込んだら可哀相だからな。

つうか誰だこのアホは?

だが、金髪は俺達の言葉が気に食わなかったのか、大げさに机を叩いて身を乗り出してきた。

 

「私を知らない!?セシリア・オルコットを!?イギリスの代表候補生にして、入試主席のこの私を!?」

 

だからさっきから知らねえって言ってんじゃねえかこのアホ、その耳はお飾りかっての。

しっかし、イギリスの代表候補生ねぇ……これが代表候補生かよ。

 

「あ、質問いいか?」

 

と、ここで身を乗り出して捲くし立ててくるアホに一夏が待ったを掛ける。

おいおい、何の質問をする気だよこの馬鹿一夏は?そんな態度とったら調子づくに決まってんじゃねえか。

 

「ふん!!下々の者の要求に応えるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ」

 

ほら見てみろ、変なポーズとって調子乗り出しやがったよ。

それとテメエ、貴族って言葉を辞書で引き直して意味調べてこいやアホンダラ。

そして一夏は、えらく真剣な表情と雰囲気を佇ませて……。

 

「……代表候補生って何だ?」

 

どんがらがっしゃん!!!

 

トンでもねえ事を言い出しやがった。

俺だけじゃなく、周りで事態を見守っていた女の子達もずっこけた。

あげくの果てには廊下側の女子までも、だ。

質問を許したアホ女まで呆然としてるし。

 

「あ……あ、ああ…」

 

「?あ?」

 

「信じられませんわ!!日本の男性というのは、こうも知識に乏しいものなのかしら!?常識ですわよ!!常識!!」

 

金髪アホはキーキーと喚きながら俺達に食って掛かる。

なんで一夏の野郎はこうも場を引っ掻き廻してくれるんだかな。

つうかコイツと他の奴らを一纏めにすんじゃねえよ。

こんな朴念神が大量にいたら、世界は間違いなく破滅してるっての。

 

「んで?ゲン、代表候補生ってなんだ?」

 

だからなんでここで俺に振るんだボケがあッ!?

見ろ!!お前の性であの腐れアマの視線が俺に向いてきたじゃねえか!!

俺は心中で溜息を吐きながら、一夏の質問の答えを頭の中で呼び出す。

 

「国家代表IS操縦者、その候補生の事だ。解りやすく言えば、千冬さんの優勝したISの世界大会モンド・グロッソに出場してるのが現役の国家代表、んで候補生ってのはそのまんまの意味でその国家代表になるかも知れねえ候補生ってこった」

 

「ほほ~なるほどな。解りやすい説明サンキュー、要するにエリートか」

 

俺の説明に、一夏は納得したようで1人で頷いてる。

まぁ俺も参考書の受け売りなんだがな。

 

「そう!!エリートなのですわ!!」

 

ここで一夏の言葉を耳聡く聞いたアマは得意顔で復活。

そのまんま何処へなりと消えてくれりゃあ良かったものを。

 

「本来なら、わたくしのような選ばれた人間とクラスを同じくするだけでも奇跡のようなもの。その幸運を少しは理解していただけるかしら?」

 

あぁ、俺のアンラッキーを呪うぜ。

テメエみてえな屑アマとクラスを共にしちまったんだからな。

もう良い。耳障りだし正論で黙らせるとしようかね。

また一夏が地雷踏み抜く前によ。

俺は悪な笑みを浮かべて一夏にサインを送る。

これは俺が何かやらかす時のサインだ。

一夏もこのアマには頭に来てたのか、似たような笑みを浮かべて頷いてくれた。

さあて、やりますかね。

 

「そんじゃあ、その代表候補生に1つ聞きてえんだがよぉ、構わねえか?」

 

俺が質問をすると、クソアマは一夏に向けていた視線を俺に向けて鼻息を1つ鳴らした。

 

「はぁ、まったく男という生き物は何度も聞かなくては学習しないのかしら?……ええ、よろしくてよ。私は寛大ですから」

 

クソアマはウザッタイ笑みを浮かべて俺を見下してきやがる。

横に視線を向けると、本音ちゃんが遠目に心配そうな表情を浮かべていたので一夏にしたのと同じ様に悪な笑みを送っておいた。

随分余裕で返事してくれたし、遠慮なくいきますか。

 

 

 

 

「じゃあ聞くがな……テメエは千冬さんよりスゲエ人間なのか?」

 

 

 

 

この時、周囲の音が割れた気がした。

クソアマは俺の言葉に凍りついた様に動かなくなる。

この手のアホにはこういった正論を並べた方が拳より効くだろうしな。

 

「なっ……」

 

「俺と一夏はよぉ、それこそガキの頃から千冬さんを見てきたわけだが、代表候補生になってもあの人はテメエみたいに偉ぶったりはしなかったぜ?それは国家代表になった時も、世界最強になった時もそうだ。人を見下さない、性別で他者を軽んじない。そんな人間として尊敬できるスゲエ人の背中を見続けてきた俺と一夏に、男だからどうたらこうたら言ってるテメエとクラスが一緒になったぐれえで、何をどう幸運だと思えやいいんだ?」

 

「そ、それは……」

 

俺の言葉に、クソアマは言葉が続かずに押し黙る。

まぁ、これは正論中の正論だからな。

 

「大体がだぜ?テメエは全世界の人間が知る様な何かを成し遂げてニュースにでも出たのかよ?そうでなきゃついこの間までISと無関係だった俺と一夏がまだ代表候補生のテメエの事を知ってるわきゃあねえだろう。テレビなんかで紹介されるのは国家代表ぐれえだぞ?……むしろテメエが言うエリートは知られて当たり前ってんなら、一夏や俺みたいに全世界に顔が知られた人間とクラスが一緒になるほうが幸運なんじゃねえのか?確率で言や、60億人のウチのたった2人だぜ?」

 

コイツは俺達が知ってて当たり前みてえに言ってるが国家代表ならいざ知らず、候補生までテレビで紹介された事は一度も無い。

精々が女性向けの雑誌ぐらいなモンだ。

そんなモン俺達が買うわきゃあねえだろうに。

 

『そうだよねえ、まだ国家代表じゃないわけだし』

 

『オルコットさんちょっと自意識過剰すぎるよ』

 

トドメとばかりに周りの女子達からも俺に賛同する声が聞こえてきた。

まぁ、正論しか言ってねえから当たり前だわな。

むしろここでこのクソアマに賛同するのは、性根の腐った同類ぐれえだしな。

 

「まぁ、俺も一夏もアンタ等は俺達と同じクラスになれて幸運です。なんて『戯言』を言うつもりはこれっぽっちもねえからどうでもいいがな」

 

言いたい事を言い終えた俺は、席に座って教材の準備を始める。

始業1分前のチャイムが鳴ったからだ。

隣を見てみると、一夏がスゲエいい笑顔で俺にサムズアップしてた。

一夏もかなり頭に来てたみてえだしな、まぁ俺も大分スッキリしたぜ。

箒は箒で苦笑いしてたがな。

 

「い、言わせておけば……!!」

 

と、俺らが視線でやりとりをしていると、俺の横で棒立ちになってた馬鹿がプルプルと震えながら俺を睨み付けてた。

まぁ、ヤマオロシや冴島さん、千冬さんみてえな本物の強者の睨みには程遠いもので、俺にはどうって事ねえんだが……早く席に着いたほうがいいぞ?

 

「大体あな」

 

ズパアアアアアアアンッ!!!

 

「ひぎっ!!?」

 

あ、遅かったか。

俺を睨み付けてくる馬鹿に、特大の雷が振り下ろされる。

その雷を振り下ろされた馬鹿女は頭を抱えて蹲るが、断罪者は容赦しない。

もちろんその特大の雷を振るった相手は……。

 

「授業時間だ。さっさと席に着け馬鹿者」

 

千冬さんしかいねえよな。

馬鹿女に鉄槌を下した千冬さんは、只それだけ言って馬鹿女に着席を促す。

一夏の時以上の速度で振り下ろされた出席簿の威力がどんなもんかなんて知りたくもねえが、馬鹿女が喋らない辺り相当なモンだろうな。

馬鹿女は何も言う余裕がねえのか、頭を抱えてフラフラと自分の席に帰っていった。

俺は馬鹿女の背中を見るのを途中で止めて、前を見る。

その俺とすれ違う様に千冬さんが教卓へ歩いて行ってたんだが……。

 

「……『人として尊敬できる凄い人』という言葉……う、嬉しかったぞ……元次(ぼそっ)」

 

「いっ!?」

 

俺はすれ違う時に千冬さんが呟いた言葉に、小さくだが驚きの声をあげちまった。

慌てて視線を千冬さんに向けてみると、耳たぶ、いや耳全体が赤くなってた。

……え?何?もしかしてさっきの台詞、全部聞かれてたってワケ?……だああああああああああああッ!!?

滅茶クソ恥ずいんですけどぉぉおおおおおおおおおおおおッ!!!???

余りの羞恥加減に、俺は顔が赤くなってくのが抑えられなかった。

そのまま授業は始まったが、何故か教卓の上でイイ笑顔を浮かべる真耶ちゃんがスッゴク怖かったです。

何故か俺を見つめ、いや睨んでくるぷっくり顔の本音ちゃんに「生まれてきてごめんなさい」と言いたい気持ちでいっぱいになったぜ。

 

 

 

 

 

ちなみにその4時間目の授業は1時間目と比べて、俺が当てられる回数が5割増しになった事を明記しておく。

 


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