IS~ワンサマーの親友   作:piguzam]

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同居人は電気ネズミ?

 

「え~っとぉ……成程なぁ。こりゃあ、こうなってんのか……よっしゃ、終わりっと」

 

最後の復習を終えた俺は、筆記用具やノートを片付けてカバンに仕舞い込む。

 

「おい、一夏。俺はもう終わったぞ、オメエはまだかよ?」

 

「え、ええぇっとぉ~……って、えぇ!?も、もう終わったのかよ!?俺まだ半分も終わってねえのに!?」

 

「そりゃあ……ここで予習してるかしてねえかの差が出たなぁ」

 

教科書を詰めたカバンを肩に掛けて立ち上がった俺は、まだ席に座って四苦八苦状態で弱音を吐く一夏に苦笑いを送ってやる。

現在の時刻は放課後、俺と一夏は教室で居残り勉強をしていた。

まだ廊下に女子生徒が陣取ってるけどな。

朝方に約束した勉強会は5時限目が終わった瞬間始まり、俺達は実質6時限目に突入したわけだが……。

 

「うぐぐぐ……い、意味が解らん。なんでこんなにややこしいんだよ」

 

一夏は真耶ちゃんが作ってくれたテキストを開いた状態で頭を抱えて煙を噴出していた。

まぁ何の予備知識もなけりゃそうなるのが当たり前、俺だってそうなってただろうな。

俺は逆にある程度の知識はあったし、解らない箇所も少なかったから直ぐ終わった。

 

「でもよぉ。そのテキスト、大分解りやすく纏めてあんぜ?下手すりゃ参考書より解りやすいと思うぞ」

 

俺は一夏の上から、真耶ちゃんお手製のテキストをざっと見てみる。

要約できるところはかなり簡単に纏めてあるし、重要なところは字の色が変えてあった。

1人のためにこんな解りやすいテキスト作ってくれるなんて、やっぱ真耶ちゃんって優しいなぁとしみじみ思う。

 

「そんな事言われてもなぁ。知識がゼロじゃ厳しいっての……はぁぁ……本当なら山田先生が教えてくれる筈だったのになぁ……職員会議のバカヤロー」

 

「ははっ、仕方ねえよ。何か緊急らしいしな……まぁ、俺は逆に千冬さんの監視が無くなって大分楽だったがよ」

 

なんせ浴びせてくるプレッシャーが半端ねえっす。

俺達は互いに違う意見を言いつつ、視線を教卓に向ける。

そこには、俺と一夏の居残り勉強を指導してくれる筈だった千冬さんと真耶ちゃんの姿は無い。

最後の授業が終わり、俺達が「さぁ、勉強始めよう」って気合を入れた時に、真耶ちゃんと千冬さんは緊急の職員会議に出なければならなくなった。

それで仕方なく、千冬さんと真耶ちゃんは俺達のために作ってくれたテキストを渡して教室を後にした。

そっからは俺達2人して黙々とテキストをやっていたわけだが、一夏は教えてくれる筈の真耶ちゃんが居なくてかなり大変みてえだ。

まぁ俺は千冬さんからのキツイ視線が無くなったのがありがたかったけどな。

いやはや、伸び伸びできるってのぁ良いモンだ……。

 

ズドンッ!!

 

「痛っででェェええええええええええええええええええええええッ!!!???」

 

「うお!?な、なんだどうした!!?」

 

俺のふくらはぎに尋常じゃない痛みがぁぁああああああああッ!!?

そんな事に思考を働かせていたら、いきなり俺のふくらはぎに尋常じゃない痛みが奔った。

俺の叫びを聞いた一夏が切羽詰った声で心配してくれたが、痛みに悶える俺はそれどころじゃなかった。

しかも平たいモノでド突かれるような痛みじゃなく、何か鋭いモンで突き刺すような痛みだ。

俺はいきなり奔った痛みに耐え切れず、ふくらはぎを押さえてピョンピョンと飛び跳ねちまう。

こ、こんな鋭い痛みをいきなり俺に与えてくるのは!?

 

「人の好意を無下に扱うとはいい度胸だな。鍋島」

 

「も……戻ってらしたんですかい織斑先生ぇ……痛てえ~」

 

「だ、大丈夫ですか元次さん!?」

 

やっぱりですかアナタですかチクショー。

ピョンピョンと跳ねながら後ろを振り向いてみると、其処にはローキック気味に脚を突き出した千冬さんがいらっしゃいました。

もう1人の声の主はワタワタと慌てながらも、痛がる俺を心配して下さる真耶ちゃんだった。

目を凝らして良く見てみりゃ千冬さんのヒールの踵部分から煙が上がってるじゃねえっすか。

つまりその先っちょで俺のふくらはぎを突いたってわけっすか、どうりで滅茶苦茶痛えわけだよ。

ってだから俺はマゾじゃねえってばよ千冬さぁぁあん!!!俺にゃ痛みなんぞご褒美にならんわ!!?

 

「痛てて……あ、ありがとうっす、山田先生」

 

「い、いえいえ。でも、大丈夫なんですか?凄い音がなってましたけど……」

 

ふくらはぎを軽く摩りながら、俺は心配してくれた真耶ちゃんに礼を言う。

いくらこの痛みが俺の自業自得とは言え、真耶ちゃんが本気で心配してくれてるのがスッゲエありがたかった。

ほんと優しい人だぜ真耶ちゃん。

 

「だ、大丈夫っすよ。なんてったって俺は」

 

「『サイボーグ並にタフだから』……ですか?」

 

「……あ」

 

不安そうな表情を浮かべて心配してくれる真耶ちゃんに言葉を返そうとしたんだが、俺が言うつもりだったセリフが真耶ちゃんの口から出てきた。

あ~、そっか……初めて会った時も、こんな会話したじゃねえか。

脳内で勝手に納得していると目の前の真耶ちゃんはさっきまでの不安げな顔から一転、クスクスと忍び笑いをしてた。

 

「ふふっ……なんだか、あの時と同じですね」

 

「ははっ、確かに、ね」

 

あの時と同じで、俺と真耶ちゃんは可笑しくなって笑ってしまう……が。

 

「フン……自業自得だ、馬鹿者」

 

此方の御方はヤベエぐらい不機嫌ですはい。

痛みの引いてきた脚をトントンと地面に当てていると、俺に蹴りをプレゼントして下さった千冬さんから追加の叱責が飛んできた。

不機嫌そうな表情でそう吐き捨ててるが、俺には千冬さんの表情が何やら面白くなさそうな感じ、っていうか拗ねているように見える。

まぁいくら怖えからって折角時間を割いて教えてくれるって言ってくれた千冬さんにあの言葉は失礼すぎたよな、反省しねえと。

 

「あ~、その~……すんませんでした。折角教えてくれるって言ってもらったのに、あんな生意気言っちまって」

 

俺は千冬さんに向き直ってしっかりと頭を下げて謝罪する。

今回は全面的に俺に非があるしな。

 

「……分かればいい。で?テキストの内容は終わったのか?筆記用具は片付けてあるが」

 

俺がしっかりと反省してるのが伝わったようで、千冬さんは剣呑とした雰囲気を幾分か和らげて俺に聞いてきた。

もちろん完璧にテキストが終わってる俺は千冬さんの問いに胸を張って答える。

 

「モチのロンっすよ。ちゃんと予習はしてましたんで。それに、織斑先生がわざわざ作ってくれたテキスト、馬鹿な俺でも解り易かったっすから」

 

「ハァ、まったく……調子のいい奴め(パコン)」

 

「へへっ、すいません」

 

俺の胸を張っての答えに千冬さんは苦笑いを浮かべて、軽く小突く様に出席簿で俺を叩いた。

千冬さんの言葉に、俺は後ろ髪を掻きながら謝罪を口にする。

そーいや、俺って出席簿で叩かれたのコレが初めてだな……今まで全部蹴りだったし。

さて、千冬さん達も戻って来たことだし、俺は帰りますか。

まだアパートの荷物整理も終わってねえし。

千冬さんに蹴られた拍子に落っことしたカバンを拾い上げて、俺はもう一度千冬さんに向き直る。

 

「じゃあそーゆーワケで、そろそろ俺は帰りますわ。ほんじゃ一夏、また明日な」

 

「え、ちょ!?待っててくれねえのかよ!?」

 

俺が一夏に別れの挨拶をすると、一夏は何やら悲痛な表情を浮かべて俺を見上げながら、焦った声音で聞いてきた。

まぁ、嫌っちゃ嫌だろうなぁ……ここで俺が帰ったら親しい知り合いは箒と千冬さんだけになるし。

しかも廊下には好奇心の視線を雨あられと降らせてくる女子軍団がわんさと待機中。

うん、この状況に1人になっちまうんだったらそりゃ焦るわな。

 

箒はというとこの学園の剣道部に入ったらしく、初日から遅れるわけにゃ行かねえからって5時限目の授業が終わったら即効で出て行った。

つまり、この学園の寮まで行かねえと会えない状況だ。

俺はバイクでの通学が許可されてるから寮には入る必要はない。

つうか、男の俺にゃ女子寮に住む勇気なんてありまっせぇん!!ハードル高すぎるぜ。

一夏は寮生活を承諾したらしく1週間後には部屋が準備できるので、それまでは俺と同じく自宅通学になってるらしい。

俺も最初はまぁ、部屋が準備できるなら……って考えてたけど、やっぱり住みなれたアパートを選んだ。

女子寮に置いておけない様な、男の子の夜の教科書とかもあるしな。

もし、寮の中に持ち込んだりしたら千冬さんに殺される、間違いなく、弁解の余地無く。

まぁ、何が言いたいかと言うと、だ。俺が居なきゃ一夏は後数時間は肩身の狭い思いをするってこった。

 

「オメエにゃワリィと思ってる……が、家の荷物整理がまだできてねえんだ。だから早く帰りてぇんだよ」

 

寝るだけなら問題ねえとしても、色々片付けたいしな。

音楽CDの整理やら夜の教科書の隠蔽工作やら、やることは山積みだ。

 

「そ、そっか……じゃあ仕方ねえよな。……わかった、また明日な。ゲン」

 

「おう、すまねぇな。じゃあお疲れ~」

 

俺は仕方なさそうに挨拶してくる一夏に返事を返して、教室の扉に向かう。

 

「待て、鍋島。お前にはまだ連絡する事がある」

 

「え?」

 

だが、俺が教室から出る事は叶わなかった。

我が家へ帰ろうとする俺を引き止めたのは、千冬さんだった。

え?何だ、俺に伝える事ってのは?

俺は疑問の表情を浮かべて、背後にいる千冬さんに視線を向けなおした。

 

「何っすか?織斑先生」

 

「あぁ、正確には織斑と鍋島の2人になんだが……」

 

「「……?」」

 

え?俺と一夏の2人に?一体どうしたんだ?

何故か疲れた様な表情を浮かべながら話す千冬さんに、俺と一夏は顔を見合わせて混乱する。

千冬さんの隣りにいる真耶ちゃんも千冬さん程ではねえが、若干疲れた様な雰囲気を纏っていた。

そして、たっぷり10秒間ぐらい沈黙してから。

 

「お前等2人には、今日から学園での寮生活を始めて貰う」

 

何やら不穏なワードを口になされた。

 

「「……ゑ?」」

 

千冬さんの口から出た言葉が余りにも理解不能過ぎた俺は、何ともマヌケな声を出しちまった。

それは一夏も同じだった様で、俺とまったく一緒の声を出してた。

……え?何ですと?「お前等2人には、今日付けで寮生活を始めて貰う」って?

つまり今日から学園で暮らせと?なるほどなるほど……いやいやいやいや!!?おかしくね!!?

 

「……はあっ!?な、何でだよ千冬姉!?俺は寮の部屋が空いてないから、1週間は自宅通学って話じゃ……」

 

ズドンッ!!!

 

「ぴかすッ!!?」

 

俺より先に復活した一夏が千冬さんに質問するが、そんな一夏に無常にも振るわれる宝具SYUSSEKIBO。

その強力な振り下ろしの一撃で一夏は机に頭からダイブし、参考書に熱っついキッスをカマした。

うっわぁ~……痛そ。

殴られた頭を抑えて、震える一夏を尻目に千冬さんはただ一言。

 

「織斑先生だ」

 

呆れた表情を浮かべたままに、それだけ言ってため息を吐く。

……いや、その為だけにブッ叩くのはどうかと思うんすけど……じゃなくて!!?

 

「ど、どどどどーゆう事っすか千冬さん!!?なんで俺が寮生活しなきゃなんねえわけ!?マジでワケわかめなんすけど!?」

 

千冬さんの一撃で沈んだ一夏と入れ替わりで、今度は俺が千冬さんに詰め寄る。

しかも一夏と同じように千冬さんと名前で呼びながら。

 

「俺はバイクでの自宅通学って事になってる筈ですぜ!?何がどうなったら俺が学園の寮に放り込まれる事態になったんすか千冬さんッ!!?」

 

俺の必死な様子での疑問に千冬さんは一夏から俺に視線を変えて、腕を組んで俺に向き直った。

そして向き直った千冬さんの目を見つめながら俺は、何故寮に入らなきゃいけねえのかっていう説明を求める。

いやホント何がどうなってんだよ!?折角政府から直に許可取ったってのに!!

納得のいく説明をプリーズ!!

 

「それは判っている。だが政府からの通達と、先ほどの職員会議でお前の自宅通学は取り消しになった」

 

「はぁ!!?な、何すかそりゃ!?理由はなんなんです!?」

 

「喚くな。今から順を追って説明してやる。だから落ち着け……いいな?」

 

「……わかりました」

 

千冬さんの諭すような優しい声でそう言われ、俺は少しづつ、昂ぶっていた感情を落としていく。

そして、完全にテンションが落ち着いた俺は、もう一度自分の席に戻って話を聞くために腰掛ける。

俺が腰掛けた時には一夏も頭部の痛みが引いてたので、俺と同じように千冬さんに視線を向けていた。

俺と一夏が完全に聞く態勢になったのを確認した千冬さんは1度頷いてから、口を開いた。

 

「まず第一に、お前等2人は『世界で2人だけの男性IS操縦者』だ。これは理解しているな?」

 

「あ、ああ。でもそれがどうしたんだ、ちふ……お、織斑先生」

 

またもや千冬姉と言いかけた一夏だったが、済んでの処で言い直したおかげで制裁は免れたようだ。

そんな一夏の様子を見て、千冬さんは溜息を1つ吐く。

 

「はぁ……いいか、織斑。今言った通り、お前と鍋島は『世界にたった2人しかいない』貴重なケースなんだぞ?その意味が判らんのか?」

 

「え?……え、えぇっと……?」

 

席に着いた俺と一夏に千冬さんが説明してきたのは、俺達2人が『IS操縦者、しかも男性』だという事だけだった。

それを聞いた一夏は首を傾げて考え込むが、考えても千冬さんの言いてえ事が分かんねえのか、更に首を捻って考え始めた。

だが、この時俺には千冬さんの言いてえ事がなんなのか、薄っすらと判り始めた。

 

「……もしかして、俺等の身柄の安全ってヤツっすか?」

 

「そういう事だ。お前にしては珍しく察しが良いな」

 

「す、すごいですね、元次さん。こんな直ぐに話を理解できるなんて」

 

ちょ!?俺にしてはって酷いっす千冬さん!!

それと真耶ちゃん、感心してくれるのは嬉しいけど、俺は一回同じ目に会ってるからわかっただけだぜ。

千冬さんは俺の答えに満足したのか、俺の答えを頷いて肯定してくれた。

まぁこちとら実際に体験してるからこそ判った事なんだがな。

 

「……?どういう事だよゲン?」

 

俺と千冬さんのやり取りを見ていた一夏の純粋な疑問に千冬さんはため息を更に一つ、真耶ちゃんは仕方ありませんよ、と苦笑してた。

一夏はまだ答えに辿り着いてねえようで、傾げていた首を戻して俺に問いかけてきた。

だがそれも仕方ねえだろう、あーゆうのは一度体験しねえとわかんねえモンだかんな。

 

「一夏、俺達は『世界でたった2人しか存在しねえ男性のIS操縦者』ってレッテルが貼られてる。ここまではいいよな?」

 

「ああ。でも、なんでそれが俺達を急いで寮へ入れる理由になるんだ?」

 

「つまり、だ。ISを動かせる男なんて存在は、今の時代が気にいらねえ男連中からすりゃあ、ひょっとしたらこの時代の風潮をブッ壊せるかもしれねえ存在になりえるってこった」

 

「は?……この時代をブッ壊せる?俺とゲンの存在が?」

 

一夏は俺の言葉に更に顔色を混乱させていく。

他の連中からすりゃ、俺と一夏は可能性って名前の宝箱だからな。

まったく有難迷惑な話だぜ。

 

「あぁ、まず第一に俺とオメエがISを動かせる原因ってのは今の所不明、誰にも見当がついてねえ状況だろ?」

 

「そうだな。色々検査したけどわかんねえって話だった」

 

「そこで科学者連中はこう考えるだろうよ。『検査が駄目なら、俺かオメエのどっちかを解剖、実験すりゃ他の男でもISが使えるんじゃね?』ってな」

 

「……」

 

ここでやっと話の全体図が見えてきたのか、一夏は顔を青くして冷や汗を流し始める。

俺が何を言いたいのかを少しづつ理解し始めたんだろう。

 

「でも、だぜ?俺は勿論、お前も進んで解剖だとか実験なんかされたかねえだろ?それに、そんな道徳に喧嘩売るようなマネを政府が公にやる筈もねえ」

 

「あ、当たり前だろ!?それに、そんな事したら政府の支持なんて誰もしなくなるじゃねえか!!」

 

「そう、公にやりゃ政府はそれで終わり。なら非公式にやりゃどうだ?」

 

「……それって……つまり、俺かお前を…」

 

「そーゆう可能性があるってこった。勿論、日本がやるか、他の国がやるか、企業がやるかはわかんねえが、喰らいつく可能性はあるだろうよ。なんせ俺達は『男がISを動かせるかもしれねえ可能性』を持ってんだ。リスクしょってでも、後の事を考えりゃ釣りどころか一財産築けちまうからな。……まぁ、オメエは千冬さんの存在があっから政府も手は出さねえだろうし、俺も束さんが庇ってくれたから、そこまで心配はいらねーんだろうけどよ」

 

俺は寮に強制的に突っ込まれる理由を語って、溜息を吐く。

あ~ったくよぉ~……まぁそーゆう事情なら仕方ねえよな。

このIS学園はどの国からも強制や権力なんかが及ばない、所謂独立国家ってやつだ。

この学園に住めば、俺達の身柄は安全になる。

どこぞの国や企業にちょっかい掛けられる前に放り込んじまえって事かよ。

と、俺がそんな事を考えていると、一夏は表情を難しくしていた。

 

「俺達はギリギリの所に居るって事か……でも、良くあれだけの言葉でわかったな?」

 

まぁ、一夏の疑問も最もだろうよ。

俺は普段、そこまで察し良くはねえしな。

千冬さんと真耶ちゃんも「何で直ぐに分かった?」って視線を俺に向けてるし。

とりあえずタネ明かししとくか。

 

「いや、な……実はよ、俺にIS適正があるってわかった日に、政府の馬鹿が家に来たんだよ。俺を『モルモット』として買い付けにな」

 

「はぁッ!!?な、なんだよそれッ!!?」

 

「えぇッ!?だ、大丈夫だったんですか元次さん!!?」

 

「……何だと?(政府からそんな通達は無かった筈だ……隠蔽されたか)」

 

俺が頬を指でポリポリと掻きながら口にした事実に、真耶ちゃんと一夏は心底驚いた。

まぁ、もしかしたらそうなるかもって事態を既に経験してるんだからな。

驚かれても仕方ねえか。

 

「マジもマジ。政府の高官の1人が俺を自分の出世のために政府に引き渡そうとしやがったんだよ。政府には俺から進んで実験体になる、なんてウソ吐いてな。まぁ頭キて全員ブチのめしたけどな」

 

俺はそのまま続けて3人にあの時のやり取り、大立ち回りを事細かに説明してやった。

だが、最後まで説明すると、さっきまで一夏が浮かべていた怒りの表情は、ご愁傷様って表情に変わったがな。

まぁそう思っても仕方ねえだろうよ、俺と爺ちゃんと冴島さんに物理的に地獄に送られた後で、束さんの怒りを買ったんだからな。

特に一夏は、俺と爺ちゃんと冴島さんという超パワータイプ3人の連携技、『地獄巡りの極み』を聞いた時は身震いしてたし。

 

『地獄巡りの極み』。頭、顔面、金的と連続でダメージを与える究極の極悪技、トコトン男泣かせな技です☆

 

「まぁ、事情は理解できましたよ。でも、着替えとかがねえから、一回家に帰っていいっすよね?」

 

事の経緯が分かった俺は、千冬さんに視線を向けて質問する。

さすがに制服で過ごせなんて言われたら泣きます。

 

「そうだな、じゃあ俺も一緒に……」

 

俺の言葉に追従するように一夏も家に帰る趣旨を千冬さんに伝える。

まぁどうせなら、一夏と一緒に帰るのもアリか。

俺の相棒であるイントルーダーを自慢してえしな、それに乗せてやる約束もしたしちょうどいいだろ。

 

「あっ、いえ織斑君の荷物なら……」

 

「私が用意してやった。有難く思え」

 

だがしかし、千冬さんからは逃げられない。

なんかターミネーターのBGMが流れている気がするのは気のせいだろうか?

しかし千冬さんが?あの家事スキルが壊滅的に不足している千冬さんがかよ。

なんか嫌な予感がするぜ……一夏もなんか嫌な汗が出てるし。

 

「まぁ生活必需品だけだがな、着替えと携帯の充電器があれば十分だろう」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

そして俺達の嫌な予感は大的中。

一夏は千冬さんから渡されたカバンの軽さに項垂れた。

なんてこった……相変わらず大雑把だな千冬さん、この年頃の男にゃ生活に欠かせない娯楽が山ほどあるってのに。

ドンだけ質素な暮らしになるんだ一夏は……なんか漫画でも持って来てやろう。

着替えと充電器だけなんざ、可哀相すぐるぜ。

 

「鍋島の方の荷物も取りに行ったんだが、開封されていないダンボールばかりだったからな。2箱程開けて見たが、どれも違ったので諦めた」

 

ナイス判断です千冬さん。

アナタなら箱開けて探してたら、中身ブチ撒いちまう所ですやん。

さすがにそれは片付けるのが手間になっちまう。

 

「あぁ、それとだ。鍋島」

 

千冬さんは、なにやら思い出したかのように俺の名前を呼んで、俺の傍に歩んできた。

俺は何を言われるんだろうと考えながら千冬さんの次の言葉をまったんだが……。

 

「ダンボールの中にあった不埒な本とDVDは、全て処分しておいたからな(ぼそっ)」

 

俺の耳元で囁かれたお言葉は、まさかの死刑宣告だった。

 

ってちょぉ!!?

 

「な!!俺の宝に何て事をぉぉおおおおおおお!!!?」

 

酷い!!酷すぎるぜ千冬さん!!貴女には血も涙もないんすか!!?

余りにも非道すぎる千冬さんの仕打ちに、俺は千冬さんに抗議するが……。

 

「あぁ?文句があるのか貴様?」

 

「ありません!!??」

 

速攻で謝罪しましたよ。

アカン、これ以上突っ込んだら本気で殺される。

目が真っ黒に淀んでたし。

 

「言っておくが次は無いぞ……で、これがお前達の部屋のルームキーだ。無くすなよ」

 

千冬さんはポケットから2つの鍵を出して、俺と一夏に差し出してきた。

俺達はそれを受け取って部屋番号を見てみると……。

 

「ハァァ……グッバイ、宝達よ……ん?……あれ?俺は1030で……一夏は1025?……え?1人部屋なんすか?というか俺達それぞれの個室を準備なんて、エライ豪華じゃねっすか?」

 

「あ、ホントだ。てっきりゲンと一緒かと思ってたんですけど? 問題ないんですかそれ?」

 

俺と一夏の鍵番号が違ったので千冬さんに聞いてみると、千冬さんは苦い顔を浮かべた。

良く見ると、真耶ちゃんは何やら心配そうな表情を浮かべてる……え?なんで?

 

「……急遽部屋を用意したが、空きの部屋が存在していなかったのでな……お前達は、それぞれ女子と同部屋になる(元次を寮長室に住まわせたかったが、職員全員から反対されるとは……これ以上女を落としたら……どうしてくれようか?)」

 

「「……ゑ?」」

 

何かまたもや不穏なワードが出たんだけど?

女子と同部屋……え?マジで?

そして千冬さん、何故に俺を睨むんですか?俺聞いただけですよ?

 

「で、でもですね!?1ヶ月あれば調整がつきますので、それまでの辛抱です!!(ホントはそれ以上掛かるけど……元次さんが他の子を落とす前に、何とかして移動させなきゃ!!先輩だけでも強敵すぎなのに、他の職員の皆さんも好意的だし!!)」

 

項垂れる俺達に、真耶ちゃんはそう言って励ましてくれた。

まぁかなり緊急で用意してくれたんだし……贅沢は言えねえよな……ハァ。

 

「それと、何点か注意事項がある。山田先生」

 

そう言うと千冬さんは、傍に控えていた真耶ちゃんに声をかける。

寮で暮らすならそーゆうのはあるか、ちゃんと聞いておこう。

 

「あっ、はい。ええとですね、まず夕食についてですが、夕食は6時から7時寮の1年生用食堂で取って下さい。各部屋にはシャワーがあります。トイレの方はすいませんが、教員用のトイレを使ってください。トイレも調整が済み次第、寮に増設しますので」

 

「ふむふむ……真耶ちゃん、部屋にキッチンとかは?」

 

「それなら、システムキッチンがありますよ。冷蔵庫も電子レンジも、更に更に食器や調理道具まで完備です♪」

 

「ヒュゥ♪そいつぁ気前がいいねえ」

 

それなら同居人への挨拶がてら、何か振舞うとしますか。

 

「後は……えっと、大浴場もありますが、お二人はまだ使用できません」

 

真耶ちゃんは手元のノートを見ながらそう言ってきた。

まぁそりゃ当たり前だわな。

そんな事しちまったら警察でカツ丼もの……。

 

「え?どうしてですか?」

 

おいコラそこの馬鹿たれ、テメエは何を当たり前の事を聞いてんだよ。

なんだそんなにカツ丼食いてぇのか?

一夏のアホ極まる発言に、千冬さんは眉間を揉み解す仕草を見せる。

いやはやお疲れ様です千冬さん。

 

「はぁ……阿呆かお前は、女子と一緒に風呂に入りたいのか?」

 

「……い!?い、いやいやいやいやそうじゃなくて!?」

 

千冬さんの呆れながらの言葉に、やっと自分の言った事の意味を理解した一夏は首を音がなるぐらいの勢いで横に振る。

頼むからぼーっとして女子風呂に突撃なんて勘弁してくれよ。

色んな意味で喰われちまうぞ?

 

「お、織斑くんっ!女子とお風呂に入りたいんですか!?だっだめですよ!?」

 

ここで一夏の言葉を字面通りに受け取った真耶ちゃんが、顔を真っ赤に染めて一夏に詰め寄った。

そうしたくなる気持ちは良く分かるが……真耶ちゃんって純情だなぁ。

 

「え!?い、いや、入りたくないです!!!」

 

「ええっ!?女の子に興味がないんですか!?それはそれで問題があるような……」

 

ゴメン、それは深読みしすぎだぜ真耶ちゃん。

アナタは一夏を真っ当な道に戻したいんすか?それとも社会的に抹殺したいんすか?

 

ってなんか廊下の女子軍団がキャイキャイと騒ぎ出してるな?一体なんだ?

廊下の女子連中が気になった俺は、耳を凝らして聞き耳を立ててみる。

 

『織斑くん男にしか興味がないのかしら?』

 

『も、もしかして鍋島くんの事が……ゴクリッ』

 

『織斑くんと鍋島くん及び彼らの中学時代の友人関係を徹底的に洗って!!今日中によ!!使える情報源は全部使って!!花屋だろうとホームレスだろうと惜しんじゃダメ!!』

 

あっらあ!?なんか話がヤバイ方向へ行ってるんすけど!?

つうか何時の間にか俺まで巻き込まれてるじゃねえかチクショォォオオオオッ!!!?

おおおい!?後ろのやつ!!変な事考えんな!!

なに携帯取り出して連絡取り合ってんだよおおおおおお!?

 

余りにも手際の良すぎるIS学園の女子に戦慄していると……。

 

「ま、ままままさ、まさか元次さんも!!?ダ、ダメです!!ダメダメダメ元次さんは絶対ダメですよぉ!!?」

 

「なんで俺まで!?巻き込むのやめてくんねえか真耶ちゃん!?」

 

今度は俺に飛び火する始末、どうしてこうなった。

 

何時の間にか俺の前まで移動して、俺の胸元をポカポカと叩いてくる真耶ちゃん。

何でいっつも一夏が何かする度に俺が巻き込まれなくちゃならねえんだよぉぉおおおおお!!?

っていうかこのままじゃ俺ホモ扱い決定!?そ、それだけは回避しなけりゃダメだ!!

 

「お、女の子に興味が無いなんて不潔すぎますぅ!!お願いですからちゃんと女の子を好きになって下さい元次さぁんッ!!」

 

「待って!?何で俺がホモって路線で話が超絶爆走してんの!?俺はノーマルだからね!?真耶ちゃんみてえに可愛い女の子とか千冬さんみてえに綺麗な女の人が好きな普通の男だか……あ゛」

 

「は、はひゃぁぁあああっ!!!???!!?」

 

「ぶっ!?お、おおおおおま、おお前はいきなり何を、何を言い出すかぁぁあああ!!?」

 

「ゲン……何やらかしてんだよお前は……」

 

今度は盛大に俺が自爆。

 

まさかの目の前にいるお2人を例えに出すというお馬鹿アクシデントを披露した。

そして俺の言葉に顔を真っ赤になさる千冬さんと真耶ちゃん。

俺の隣で首を振って呆れる一夏、なんだこの図。

 

『キャーーッ!!?鍋島くん大胆ッ!!』

 

『千冬様と山田先生を同時に口説くなんてッ!?やっぱり見た目通り肉食なのね!?』

 

『肉食どころか『超』肉食よッ!!??きっとあのおっきな腕で捕まえて、動けないのを良い事に好き放題しちゃうんだわッ!!!』

 

『あの大きな身体で覆いかぶさられて……あの逞しい腕で抑えつけられて……そ、そそ、そのまま……ブハァッ!!?』

 

『ちょ!?この子鼻血噴いて倒れた!?メディーックッ!!?』

 

『くけけけけけけけけけけけけけけけッ!!!!』

 

『ちょっとぉぉおおお!!?何かレベル5患者がいるぅぅうううう!!?監督助けてーー!!??!』

 

どうしよう、廊下のカオス度がヤバイ、ヤバ過ぎる。

とゆうか俺の評価が野獣みてえになってるのはこれ如何に。

もうなんか収拾つかないぞこれ。

真耶ちゃんは何か頬に手を当てて顔真っ赤にして「わ、わわ、わ私みたいな子がす、すすす好きって……は、はうっ!? あうあうあうあうあうぅぅ~~~…!?(真っ赤)」って言葉にならない悲鳴を上げてるし……。

しかもイヤンイヤンと身体をくねくねしてらっしゃる。

やめて、真耶ちゃんのでっけえロマンの塊が大変な事になってるから、目のポイズンなブツ振り回さないで。

一方で千冬さんは「き、きれ……綺麗……私が……綺麗な女……ぶつぶつ(真っ赤)」って呟きつつ、顔を伏せてる。

 

ダメだ、この状況どうしたらいいんだ?どうやったらこの状況から抜け出せる?

 

ブーッブーッ

 

と、ここで何故か俺の携帯のバイブレーションが起動し、メールか電話かの着信を告げてきた。

この空気から目を逸らしたかった俺は、藁にも縋る思いで急ぎ携帯を開く。

着信はメールだった様で、俺は受信ボックスをタップしてメールを確認する。

 

 

 

『送信者:プリティキュートでラヴリーな束さん♪』

 

 

『件名:酷い酷い!!』

 

 本文:束さんは綺麗でも可愛いでも無いの!?

 束さんとの事は全部遊びだったんだね!!?

 うわぁ~んッ!!!ゲン君の飽きっぽいボス猿ぅッ!!!

 

 

 

携帯まで俺の敵だった件について、そろそろ俺の精神キャパシティも限界ですたい。

 

つうか登録名が何時の間にか変わってるじゃねえかよ、誰だ変えたヤツ即刻ブチのめしてやっから今すぐ俺の前に来やがれ。

そして束さん、アナタはこの状況をどっから見てらっしゃるんですか?

遊びも何も、そんな美味しすぎる体験はした覚えありません。それと誰が猿ですか誰が。

メールに添付されていたデフォルメの涙目ウサギがメッチャ可愛いかったぜ。

 

現在の1年1組付近の状況、カオス。

色んな意味で阿鼻叫喚の地獄絵図になっとります。

 

とりあえず携帯をポケットに仕舞って、辺りを見渡す。

正面には真っ赤なリンゴ状態の千冬さん&真耶ちゃん。

廊下には鼻から真っ赤な華を咲かせて倒れる生徒、興奮してキャーキャー言ってる生徒、何やら危ない生徒。

 

 

……よし。

 

「じゃあ俺帰るわ」

 

逃げよう、それがいい。

 

「おい待てゲン!!この状況どうにかしていけよ!!お前が事の発端だろうが!!?」

 

しかしそうは問屋が卸さない。

俺の隣でこの状況に呆れていた一夏が復活。

帰ろう(逃げよう)とした俺の肩を掴んで、かなり必死な表情で引き止めてくる。

一夏にしてみりゃ、この状況に1人取り残されるのは絶対勘弁だろうな。

 

だがしかし、一言言わせて頂こう。

 

「事の発端はテメエの思わせぶりなホモ発言だろうがぁぁああああああああああああッ!!!!!(ドゴォォオオオオンッ!!!)」

 

ついでに一発ブン殴らせろやぁぁぁあああああああああああッ!!!!!

 

「そうでしたぁぁああああああああッ!!??!」

 

責任転嫁も甚だしい事をのたまった一夏に渾身のラリアットをカマして満足した俺は、足早に教室を後にした。

 

あ、束さんにメール送っとかねえとな。

えーっと……『凄えキュートですよ(涙目ウサギが)』でいいだろ。

 

 

何故かその後で来た返信は♪マークが1個だけだった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

ドルルルルォオオン……キキッ、ドドッドドッドドッドドッドドッドドッ。

 

「ふぅ~……夕焼けのクルージングってのも、中々オツだったな」

 

現在、IS学園の正面入り口まで帰ってきた俺は、停車したイントルーダーに跨ったまま、IS学園を囲む海を眺めている。

夕焼けの赤色が、海を幻想的な色に染め上げていて落ち着く光景が視界いっぱいに広がった。

自宅で纏めてきた荷物と途中のスーパーで買い物してきた食材を大きなリュックに詰めて背負っている。

そのままもう少し海を眺めていようかと思ったが……。

 

「……ん?……ありゃあ、一夏か?」

 

IS学園の学校側から、キャイキャイと姦しい声が聞こえてきたので、そっちに目を向けると女子の軍団が歩いていた。

そして、その前方に少し距離を離した状態で一夏が歩いていた。

どうやら今学校から出た処のようだな。

遠目に見える一夏は、頭を項垂れるような体勢のまま、1年寮棟へ歩いていく。

たまにチラッと後ろを見ているトコを見ると、どうやら相当疲れているみてえだな。

 

「1年寮棟までは歩いて15分くらいの距離だし、ちょっくら乗せてやりますか」

 

俺はクラッチを切って、ニュートラルに戻していたギアをファーストへ蹴り込み、クラッチを繋ぐ。

そのままアクセルを緩く煽って、20キロぐらいのスピードで一夏の元へ走り出す。

 

ドルルルルォオオオオオオオオオオッ。

 

「おーい!!一夏ぁ!!」

 

「え!?ゲ、ゲン!!?」

 

俺が走りながら声をかけると、一夏は驚いたようにコッチに振り返って俺を視界に入れる。

すると、まるで待ち望んだ相手が来たような輝かしい表情を見せてきた。

しかも振り返ったのは一夏だけじゃなく、一夏の後ろを歩いていた女子も俺の声に反応して振り返ってきた。

 

ドルルルルォオオン……キキッ、ドドッドドッドドッドドッドドッドドッ。

 

「よぉ、今終わったのかよ?お疲れさん」

 

俺はギアをニュートラルに戻して一夏の横に停車し、一夏を労う。

大方、放課後にやってたテキストがこの時間になるまで終わらなかったんだろう。

途中で切り上げるなんてあの千冬さんが許す筈もねえしな。

 

「おぉ!?そっちも今帰ってきたのか!?し、しかも……こ、これがゲンのバイクか!!?すっげえええッ!!?カッコよすぎじゃねえか!!?」

 

一夏は瞳をキラキラと輝かせながらイントルーダーを色んな角度から眺めている。

まぁ俺達の年頃の男ってのは、バイクに憧れるのが当たり前だしな。

女子も興味があるのか、同じ様にイントルーダーを見て目を輝かせてるし。

 

「だろ?コイツが俺の相棒のイントルーダークラシックだ」

 

ドドッドドッドドドォォォンッドォォォンッドォォォォオオオオォンッ。

 

一夏の視線に気を良くした俺は、アクセルを煽って自慢のエキゾーストサウンドを周りにバラ撒く。

うるさすぎず、小さすぎない音量の重低音サウンドが腹に心地よく響いた。

その音の心地よさに、一夏は更にテンションを上げていく。

 

「おぉおおおおッ!!?マフラーサウンドも、それにこのブルーの炎の柄のペイントもカッコイイなッ!!!これもゲンが塗ったのか!?」

 

「へへっ、このフレイムスパターンも俺の自家塗装だ。コイツで俺の手が加わってねえ箇所は1つとしてねえよ」

 

俺は笑顔を浮かべながら一夏の質問に答えつつ、スタンドを起こしてバイクを立たせる。

そして、タンデムシートをポンポンと叩いて一夏に声を掛けてやる。

 

「さぁ、乗れよ。一夏、寮まで乗っけてやるぜ?」

 

「え!?い、いいのか!?(キラキラ)」

 

俺の言葉に一夏は目を更に輝かせて聞き返してきた。

 

「何だよ?乗っけて欲しいっつったのは、お前じゃねえか」

 

もはや一夏の目の輝きは、ショーウインドウ越しにトランペットを見つめる少年の様だった。

そんな一夏に俺は変わらず笑顔で答える。

 

「お、おう!!じゃあ乗せてくれ!!」

 

俺のOKを受け取った一夏はワクワクした表情でタンデムシートに跨る。

俺は一夏が完全にタンデムシートに跨った事を確認して、スタンドを畳む。

 

ドドッドドッドドドォォォンッドォォォンッ。

 

軽くアクセルを吹かしこんで、俺はクラッチを繋ぐ。

さあて、一夏にもコイツの素晴らしさを教えてやりますか。

 

「んじゃあ、行くぞ。一夏」

 

「おう!!」

 

一夏からのOKサインを合図に、俺はアクセルを煽ってイントルーダーを発進させ寮を目指す。

強めに吹かしたアクセルのパワーでリアタイヤを軽くスピンさせながら、イントルーダーは唸り声を上げて走った。

 

ドドドドドドドロロォォォォォオオオオオオォ…………。

 

 

 

尚、女子達は置いてきてしまったが、後で特に文句は言われなかった。

なんでも「男同士の会話に入り込めなかった」そうな。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「いや~!!さいっこうに気持ち良かったぜ!!サンキューなゲン、あれは確かに病み付きになる!!」

 

「だろ?流れる風景にバイクの鼓動音、あんな贅沢は、俺達の年で味わえるモンの中でもそうねえさ」

 

今、俺達は1年生寮の廊下を喋りながら歩いている。

これから俺達が厄介になる寮の部屋へ向かってる最中ってワケだ。

駐輪スペースにバイクを止めてから今に至るまで、一夏のテンションは上がりっぱなしだ。

まぁ初めてバイクに乗って自転車とは違う体感速度をその身で感じたら誰でもこうなる。

オマケに、俺が家から一夏のために持ってきてやった漫画とか携帯ゲームなんかも嬉しそうにしてたしな。

 

「確かに、あの風景は贅沢だったな~。あ~あ、俺もバイク欲しくなってきたぜ」

 

一夏は上機嫌にそう言って笑いながら俺と並んで歩く。

俺も一夏がバイクを手に入れたら一緒にツーリングとか行ってみてえもんだぜ。

そんな感じで男二人で楽しく話し合いながら廊下を進んで行く。

すると、一夏の部屋である1025室のプレートが目についた。

 

「お?ここだな。一夏の部屋は」

 

「お、ホントだ。しっかし、女子と同部屋か……緊張するなぁ」

 

「まぁ、仕方ねえよ。俺達の都合だしな。真耶ちゃんも1ヶ月の辛抱だっつってたし」

 

俺はそう言って不安がる一夏の肩を叩いて励ます。

まぁ俺も不安っちゃ不安だけどな。

 

「そうだな……っていうか、ゲン。今思い出したけどよ、お前が勝手に帰ったりするから千冬姉と山田先生が元に戻るまで大変だったんだぞ」

 

「ば~か。元はと言や、お前の不用意な発言の所為だろーが」

 

俺はぶ~垂れてくる一夏にそう言い返してやる。

お前が、なんで俺達は風呂に入れない?なんて聞いたりしなきゃ、あんな事にはならなかったっつの。

 

「ぐっ、そ、それは反論できねえ」

 

「むしろ反論したらブチのめす所だがな……まぁなんだ。今日はゆっくり休めよ、明日からも授業だしな」

 

「そうだな……ゲンは夕飯どうするんだ?食堂使うのか?」

 

「いや、今日は同居人に、飯を振舞うつもりだ」

 

ま、引越しの挨拶も兼ねて、1つよろしくってことでな。

俺の言葉を聞いた一夏は表情を成る程といった感じに変えて頷いた。

 

「そっか……よし、今日は俺も同居人と親睦を深めておくとしよう」

 

「それがいいだろうよ。じゃあな」

 

「おう、また明日」

 

俺と一夏は別れの挨拶を済まして別れる。

一夏は深呼吸をして意を決した表情で、部屋に入った……『ノックなし』で。

あんの馬鹿は……頑張れよ。

さっそくヤラかした一夏を尻目に、俺は自分の部屋を目指す。

アイツを注意しにいって、俺まで巻き込まれんのはゴメンだからな。

 

「っと。……1030、ここだな」

 

そして、目当ての扉についた。

俺は扉の前に立って、軽く深呼吸をする。

これから1ヶ月の同居人だ、教室の時みてえにヤラかさねえようにしねえとな。

後、できればあの金髪クソアマみてえな馬鹿女が同居人じゃねえ事を切に願うぜ。

 

「スゥ……ハァ……よっし(コンコンコンコン)」

 

覚悟を決めた俺は、扉を軽くノックする。

なんでも、前に観たトリビアの温泉ってTV番組で言ってたんだが、ノック2回はトイレノックらしい。

 

『は~~い。ちょっと待って~~~』

 

そしてノックから数秒、部屋の中から同居人が返事をくれた。

ってあれ?この妙に間延びした声は……。

 

ガチャッ

 

「だぁ~れ~?……お~!?ゲンチーだ~♪」

 

扉を開けて部屋から顔を出してきたのは、何やら黄色いネズミ……じゃなくて。

 

「ほ、本音ちゃんか?」

 

ぽややんとした笑顔を浮かべて黄色い電気ネズミに着ぐるみに全身を包んだ、IS学園の癒しっ子。

本音ちゃんその人だった。

 

「いえ~っす♪いつもニコニコお菓子を求めて貴女の傍に♪布仏本音でぇ~す♪」

 

「そりゃたかってるだけじゃねえのか?」

 

そして中々に強かな子です。

いつもニコニコしてお菓子をねだりに現われる……恐ろしい娘ッ!!

 

「にへへ~♪とゆうわけでゲンチ~、お菓子ちょ~だ~い♪」

 

「どーゆうわけよ!?」

 

しかもさっそくたかられたぜ。

しかしこれから1ヶ月も本音ちゃんと過ごすのか?

俺はさっきから「お菓子お菓子~~」と言って長い裾をパタパタと振ってくる本音ちゃんをしっかり見る。

束さんに勝るとも劣らない柔らかな笑顔、絡む者をぽわ~んとした気持ちにさせてくれるオーラ。

そして小動物的な仕草……。

 

「ゲ、ゲンチ~?……そ、そんなに見つめられると~……は……恥ずかしぃよぉう」

 

そして時折見せる、女の子らしい恥じらいの仕草。

長く余った裾で恥ずかしがってる顔を見せまいと、しかしこっちの事は見ようとする故に、顔半分だけを隠す萌え技の使い手。

 

……うん。

 

「本音ちゃん」

 

「な、なぁ~にぃ?」

 

俺はさっきからマイナスイオンを大量発生させてくれる本音ちゃんに真剣な表情で声を掛ける。

すると、俺に声を掛けられた本音ちゃんは、身長差のせいで下から上目遣いに見上げてくる体勢になった。

 

「本音ちゃん……これから暫く、よろしくな!!」

 

俺はさっきまでの真剣な表情を崩して、本音ちゃんに笑顔を見せる。

うん、この部屋割りなら1年間そのまんまでも文句ねえわ俺。

こんなマイナスイオン発生娘のためなら、俺いくらでもお菓子作ってあげちゃう。

 

「ふぇ?……こ、これからよろしくってぇ~~?何の事なの~~?」

 

「え?」

 

だが、本音ちゃんは俺の言葉に首を傾げて、俺に疑問を投げかけて来た。

あれ?まさか真耶ちゃんから話が行ってねえのか?

俺は真耶ちゃんから同居の話が行ってるモンだと思ってたので、この反応は予想外だった。

仕方なく俺は首を傾げて不思議がる本音ちゃんに、確認と説明をしようと思い、部屋の中に入れてもらった。

 

やれやれ、どうやら俺にはまだ一仕事あるようで。

 

部屋に備え付けられた椅子に、本音ちゃんと向き合って座った所で、俺は軽く溜息を吐いた。


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