IS~ワンサマーの親友   作:piguzam]

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走れ元次!!マイナスイオンを守る為に!!

 

「ねぇねぇ、ゲンチ~?」

 

「ん?なんだ本音ちゃん?」

 

俺は本音ちゃんの呼びかけに、部屋をキョロキョロと見渡しながら答える。

さて、只今本音ちゃんと向かい合ってソファーに腰掛けてるんだが……すげえな、本音ちゃんの私物。

俺の視界には部屋のアチコチを埋め尽くすかの如く大量のぬいぐるみが陳列されてる。

それこそ種類は多岐に渡り、統一性は全くねえ。

なんか……デフォルメされた動物の可愛い系のぬいぐるみばかりだな。

部屋の中の設備は高級感あふれる佇まいがあり、ベッドもフカフカそうでどこかの高級ホテルを連想させるような感じだ。

一体幾ら掛かってんだろうな?物壊したら洒落になんねえぞ。

そんな事を思いながら部屋のアチコチを見渡していると、突然本音ちゃんが両手を左右に広げて俺の視界に入って来た。

 

「こ、こら~。お、女の子の部屋を、そ、そんなにじろじろ見ちゃ~ダメなんだぞ~!!」

 

本音ちゃんはそう言って手を振り回しながら頬を膨らませたご立腹顔を見せてくるが……いやはや、怒ってるみてえだが俺からすりゃ和むっす、そのお顔。

 

「ははっ、ワリィな本音ちゃん。いやな?なんかぬいぐるみがいっぱいだな~と思ってよ」

 

俺がそう言うと、本音ちゃんはぷっくり膨らませてた頬を萎めて、にへらっと笑顔になった。

 

「にへへ~♪この子とか~、ちょぉ可愛いんだよ~♪」

 

本音ちゃんは笑顔のままに、ベットに転がっていた熊らしきもののぬいぐるみを抱き寄せてほっこりと笑ってる。

うん、すげえ幸せそうだな。

つうか、ぬいぐるみを可愛がる女の子ってのは良いな、見てて和む。

ましてや電気ネズミのような着ぐるみを着てる本音ちゃんには良く似合ってるぜ。

 

「後は~、お菓子があったら~ちょぉちょぉ幸せだよ~♪ハムハム……うまうま~♪」

 

そう言ってポッキーをカリカリと音を立てながら口に含む本音ちゃんの姿は、まごう事無きネズミだった。

ってちょい待て?どっから出したのそのポッキー……まぁ可愛いからいいけどよ。

俺は本音ちゃんの幸せオーラ全開の姿に、知らず知らずの内に笑顔を浮かべていた。

 

「はむはむ♪……それで~?さっきゲンチ~が言ってた~これからよろしくって、どぉ~ゆぅ~事なの~?教えて教えて~」

 

その幸せを体現して、マイナスイオンを辺り一面に放出していた本音ちゃんは、一度ポッキーを食べていた手を止めて俺に視線を合わせてきた。

っとと、いけねえいけねえ、早く本音ちゃんに事情を説明せにゃいけねえな。

俺はその和みオーラに飲まれかけていた思考を叩き起こして、本音ちゃんに向き合う。

 

「あ、ああ。……実は……よ……その~。まぁなんと言ったもんか、だな……」

 

「ふむふむ?」

 

本音ちゃんは言いよどむ俺を首を傾げながらじ~っと見ている。

 

「実は……俺も、この部屋に割り当てられてんだ」

 

「ほぉ~ほぉ~……ふぇ?」

 

そして、やっとの思いで俺がこの部屋に来た理由を話すと、話を聞いていた本音ちゃんはピシリッとでも擬音が付きそうな感じで硬直した。

まぁそうなるよなヤッパ……でも俺はここ以外に住む場所がねえんだ、何とかして受け入れてもらわねえと!!

 

「いや、だからまぁ……お、俺が、本音ちゃんのルームメイトって事なんだが……」

 

「ふ、ふぇぇ~~~!!??」

 

俺がルームメイトって事を理解したのか、本音ちゃんは持っていたぬいぐるみを空中に放り投げて驚愕する。

しかも驚いた時に口を大きく開けたので、食べかけのポッキーが俺に飛んできたっす。

 

「は……はぅ~(ゲ、ゲ、ゲンチ~と一緒……ゲンチ~と……一緒……ど、どどどどうしようぅぅ~~!!?)」

 

本音ちゃんは唸り声?を出しながら俯き、更にどっから出したか、ポッキーの箱をテーブルに置いてカリカリと食べ始め……。

 

「カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリッ!!(5倍速)」

 

って早!?なんかすげえ勢いでポッキーが消えてくんですけど!!?

一本食べちゃ直ぐに新しいのを食べてまた次のを……な、何て早業を!!?

俺は目の前の早食いマシーンと化した本音ちゃんに驚愕するが、本音ちゃんはそんな俺にお構い無しでポッキーを平らげていく。

更によく見てみると、着ぐるみの耳がピコピコと動いて……いや、ちょっと待て?おかしいぞ。

俺は目を擦ってもう一度よく見てみる……やっぱり耳はピコピコと動いてた。

い、一体どんなギミックで動いてるんだよあの耳!?そのギミックはすげえ可愛いけど、すげえ気になる!!

 

「カリカリカリッ!!……うゅぅ……(は、恥ずかしいけど~……でも……ゲンチ~と一緒、かぁ……ちょっと……嬉しいかも……よ~しっ)」

 

そして、顔を俯けてポッキーを齧っていた本音ちゃんは食べるのを止めると、顔を上げて俺に視線を合わせてきた。

俺は本音ちゃんの顔を見て、ゴクリッと喉を鳴らす。

……受け入れて、もらえっかな?

俺は本音ちゃんの口から出るであろう言葉に緊張していると……。

 

「……えへへ♪じゃあ~今日からゲンチ~とは「るーむめいと」だ~♪よろしくね~♪」

 

その、見る者を和ませるのほほんスマイルを浮かべて、俺にそう言ってくれた。

見知らぬ男と住むというのに、一言も嫌とは言わずに俺の同居を許可してくれた本音ちゃん、君はマジ天使だぜ。

 

「……あ、ああ!!今日からよろしくな!!本音ちゃん!!」

 

俺は自分にできる最高の笑顔を持って本音ちゃんに挨拶を返す。

いや~拒否されなくって良かったぜホント。

俺、千冬さんからよく顔が怖いって言われてっから、拒否されると思ってたし。

そこから俺は、まずこの部屋割りが緊急で1ヶ月だけ用意されたものって事を話して1ヵ月後にはまた変わると伝えた。

次に、同じ部屋に住む取り決めとして、シャワーの時間なんかを本音ちゃんと話し合って決めた。

 

「後は……うし、とりあえずはこんなモンだな?」

 

「そうだね~着替えの時は~ゲンチ~が脱衣所で良いよ~?」

 

「おう、了解だ。そんじゃあ、ちょっくら着替えてくるぜ」

 

「は~い♪いってらっしゃ~い」

 

決める段取りも全て決まったので、俺は本音ちゃんに声を掛けてから脱衣所にバッグを担いで入った。

バッグを開けて着替えを探し、とりあえず一番上に入れてあった薄い青色のジーパンと黒のタンクトップに着替え、ネックレスはそのままにしておいた。

寮の中は暖けえし、とりあえずはこれでいいだろ。

俺はそう結論付けて脱衣所から出る。

部屋に視線を戻すと、本音ちゃんはベットの上で寝転がってゴロゴロしてた。

うん、遊び盛りな猫っぽいぜ。

 

「あ~。お帰り~……わぁ~」

 

だが、俺を見つけた本音ちゃんは声を掛けてきたのに、いきなり俺を見たまま止まってしまった。

な、なんだ?なんか変なトコあったか?……社会の窓はちゃんと閉まってるし……別におかしなトコはねえと思うが。

 

「ど、どうした?本音ちゃん」

 

俺は沈黙に耐えられず、本音ちゃんに聞いてみる。

 

「ゲンチ~って、やっぱり~すっごいマッチョさんだね~」

 

そう言って本音ちゃんは俺の傍に近寄って腕を触ってくる。

つうかマッチョさんて……本音ちゃんの一つ一つの言動が和むのは仕様なのか?

どこの商品だ?即決で買うから誰か連絡先教えてくれ。

このマイナスイオン娘が商品化してんなら100万までなら即出すぜ。

 

「ん?そうか?」

 

俺はバッグを床に置いて、腕を触ってる本音ちゃんに聞き返す。

 

「うん~。力入れてないのに硬いよ~……ね?ね?ちょっと、腕グッてしてして~♪」

 

本音ちゃんは俺を下から見上げながら力こぶを出すように腕を曲げてくる。

あぁ、力を込めてみろってことか。

 

「あぁ、こうか?(グッ)」

 

俺は本音ちゃんのやった様に腕を折り曲げて軽く力を込める。

すると、鍛えあげた俺の筋肉が膨張し、硬度を増した。

 

「おぉ~!?すっご~い!!カッチカチだぁ~♪えいえい♪」

 

何やらテンションが上がった本音ちゃんは、俺の力こぶをペタペタと触って驚いている。

しかもそのまま両手を組んで、俺の力こぶにぶら下がってくるではないか。

……ふむ。

 

「ほい(グイッ)」

 

「おぉ?おぉ~♪足がプラプラしてる~♪」

 

ちょいと悪戯心が沸いた俺はそのまま腕を上に上げて、本音ちゃんを吊り上げてみる。

しかし女の子って軽いな、全然苦にならねえぞ。

本音ちゃんは足をプラプラさせながらブラーンと俺の腕にぶら下がって笑っていた。

そんなに楽しいのかね?

しかしなんで本音ちゃんはこんなに和む子なんだか……。

 

ズガァアンッ!!!

 

「は!?な、何だ!?」

 

「ふぇ?なんだろ~?」

 

と、そんな事を考えていたら何やら扉の向こう、つまりは廊下から何かを破壊する音が鳴り響いた。

防音ドアなのに部屋まで音が響くという事は、相当の音の筈だ。

俺は驚いて目を丸くしている本音ちゃんを降ろして、廊下に向かってみる。

 

「(ガチャッ)なんだよ今のは……ん?」

 

ドアを開けてみると、さっきの音に引き寄せられてか、廊下は女子で溢れかえっていた。

しかも何やら、全員薄着すぎて目の毒な光景だ。

何人かは下着のまんまの子もチラホラと見えるし。

……いくらIS学園が女子学園とはいえ、それは去年までの話だぞ?

今年は俺も一夏もいるんだから、少しは自重して欲しいぜ。

そして、この騒動の種はどこかとキョロキョロと視線を彷徨わせてみる。

すると、ある部屋のドアの前に女子が群がっていた。

どうやら、あそこが騒動の種みてえだな。

俺は部屋から出てその騒動の原因を探るべく、件の部屋の方へ向かう。

 

「ちぃとワリィが通してもらうぜ」

 

「あっ、うんごめ……」

 

何故か俺が声を掛けた女子は黙っちまったが、俺は気にせずに奥へ奥へと進んで行く。

周りは目の毒だし、早く部屋に戻りてえぜ。

 

『ちょ!?ね、ね、あれ!!』

 

『え?って鍋島君!?』

 

『うわ~!?すっごい身体!?ムキムキじゃん!?しかも暑苦しくない!?』

 

『タンクトップ一枚とか何のご褒美ですか!?』

 

『首元のネックレスがセクシー過ぎだよ……色気のあるマッチョって反則……』

 

『……抱かれたい』

 

『くきええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!』

 

『誰今の!?』

 

周りが何か騒がしいが、今は放置。

構ってたら俺の精神キャパシティを軽くオーバーしちまうよ。

そんなこんなで、俺は騒ぎの元凶の近くに着いた。

やれやれ、誰だよ入学初日からハッちゃけてる元気なヤツは……。

俺は溜息を吐きたくなる衝動を抑えつつ、元凶に目を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ!?よ、良かったゲン!!今助けてもらおうかと」

 

「さ、帰ってチョロQしよ(クルッ)」

 

元凶の顔を拝んだ瞬間、クルッと華麗に回れ右。

またテメエか一夏。

 

「待てぇぇええええ!!?頼むから帰らないでくれ!!つうかチョロQなんて持ってねえだろうが!!?(ガシッ!!)」

 

しかし失敗。

必死な表情で立ち上がった一夏は、回れ右して帰ろうとした俺の肩を掴んで引き止めてきた。

もうマジでイヤになるぜ、一体1日に何回イベント起こしたら気が済むんだよコイツ。

俺はさっき我慢した溜息を吐いて、もう一度回れ右をする。

振り向いた俺の視界に広がるは、必死な顔で俺に縋りつく一夏、そして何かで貫通させたかのような穴が沢山空いてるドア。

そして、ドアのプレートには1025の文字が彫られている。

 

「一夏、正直に言え。何をヤラかした?」

 

「俺が原因なのは確定かよ!?」

 

当たり前の事を聞くんじゃねえよ。

テメエ以外にこんな次々とハプニングを起こす奴ぁそういねえっての。

 

「あ?じゃあ違うってのか?」

 

「ちが……違わない……です」

 

俺の問いに一夏は項垂れながら答えた。

ほれ見ろ、やっぱりテメエが原因じゃねえか。

俺は項垂れる一夏から視線を外して、穴だらけの扉に目を向ける。

貫通されたドアの周りには木片が散らばっていて、部屋の中から衝撃を与えたのが分かった。

そうじゃねえと廊下に木片は散らばったりしねえからな。

 

「……んで?一夏、こりゃ一体何事よ?つうかお前のルームメイトは誰だったんだ?」

 

俺は扉を見てから一夏に事の顛末を聞いてみる。

一夏が廊下で扉にへばりついてたって事は、このドアは中にいる一夏のルームメイトがやったかも知れねえ。

つまり、一夏が何かルームメイトにいらん事して部屋を追い出された可能性が高い。

しかし防音ドアって普通のドアよりはブ厚いモンの筈なんだがな……それをこんな綺麗に貫通するなんて、一体どんな女傑がいるんだよ?

 

「ル、ルームメイトは箒だ。これは箒が木刀で……」

 

どうにも俺の幼馴染は剣道少女から剣姫へとアップグレードしてた様子。

見ねえ内に箒の奴も中々に腕を上げたモンだな。

 

「そんで?オメエは一体全体何をヤラかして、箒に木刀で追い出されたんだよ?」

 

「そ、それは、何と言うか……事故っていうか」

 

俺の質問に、一夏は言い淀みながら、視線を明後日の方向に向けていく。

なんだよ、要領得ねえっつうか、歯切れの悪い言い方だな。

コイツは言いたい事はハッキリ言う性質だから、コイツが言いよどむって事は相当の馬鹿ヤラかしたんだろう。

 

「はぁ……ったくよ……おい!!箒!!」

 

『……その声!?ゲ、ゲンなのか!?』

 

俺は溜息を吐いてから、穴だらけの扉に声を掛けると中から箒の焦った様な声が聞こえてきた。

 

「あぁ、俺だ。悪いが話しがしてえ。入っても大丈夫か?」

 

俺は今入ってもいいか箒に問いかける。

ここで何も言わずに部屋に入ったら、一夏の二の舞になりかねんしな。

 

『ち、ちょっと待ってくれ!!5分でいい!!』

 

その言葉の後に部屋の中からバタバタと騒がしい音が鳴りだした。

この状況で5分はキツイっすよ、箒さん。

箒の言葉に項垂れながら、俺は扉から視線を外して廊下に視線を向け直す。

 

「ねー、ねー、あそこって織斑君の部屋なんでしょ?イイ情報ゲット♪」

 

「夜に遊びに行ってもいい!?答えは聞いてない!!」

 

「え!?いや、ちょ!?」

 

廊下に視線を向けると、そこには女子に囲まれてワタワタと慌ててる一夏の姿があった。

ご丁寧に皆さん薄着、キャミソールのみの子も沢山いらっしゃる。

1人2人ならまだ眼福のレベルで済ませられるが……正直この光景は目の毒っていうか、オーバーキルだぜ。

一夏も目のやり場に困っている様で、話しかけてくる女子に視線を合わせられずにいた。

っていうか最後の子、アナタ特攻かける気満々ですね。

 

「そういえば、鍋島君の部屋はどこなの?」

 

「あっ!!私も知りたい!!」

 

「私も私も!!」

 

「なぬう!?」

 

ってしまった!?今度は俺がターゲットか!?

俺がぼーっと一夏の困ってる姿を眺めていると、今度は俺に女子の矛先が向かってきた。

しかも1人2人と触発されて、連鎖反応の如く俺に群がってくる。

増殖っすか!?アンタ等耳いいなおい!?

ってコラ一夏!!テメエ何を「良かった」みてえな目で俺を見てきやがる!!

事もあろうにまた巻き込みやがったなこの野郎!!

俺が一夏に恨みがましい視線を送っていようが、女子連中はそんな事お構い無しにキャイキャイと騒いでいる。

さて、この状況をどうしたもんかと俺が頭を捻っていると……。

 

ガチャッ

 

「す、すまない、待たせた。2人とも入ってくれ」

 

穴あきドアを開けて、胴着と袴に身を包んだ赤い顔の箒が登場した。

その瞬間、俺は女子に群がられている一夏の首根っこをムンズと掴んで……。

 

「おらよっと!!(ブォオンッ!!)」

 

「ちょ!?やめギャアスッ!?(ゴオンッ!!)」

 

部屋の中へ放り投げてやった。

毎回俺を面倒ごとに巻き込んでくれる代償だ、このボケ。

そのまま状況に着いてこれずに硬直している女子を放置して、箒を引きずり部屋に入る。

まぁ人間1人が片手で軽く持ち上げられた上に、飛んでいくなんて普通はねえわな。

すかさず扉を閉めて鍵を施錠、うんパーフェクトだ。

鮮やか過ぎる自分の手並みが恐いぜ。

 

「あいててて!?お、お前いきなり何すんだよ!!」

 

「だ、大丈夫か?一夏」

 

だが、俺の手腕が気に入らなかったのか、立ち上がった一夏は頭を摩りながら俺に猛抗議してきた。

そんな一夏を心配そうな目で見つめる箒。

お前等一体何があってあんな事になったんだよ。

普段からそんな感じでいろっての。

 

「あぁ?テメエの起こした騒動に巻き込んどいて、更にはあの空間から助けてやった事に文句があんのか?いい度胸だもういっぺんあの空間にブチ込んでやんぞコラ?(バキゴキ)」

 

「サーセンしたー!?」

 

俺が爽やかな笑顔を浮かべつつ拳を鳴らしてやると、一夏は90度のふつくしい礼を見せてくれた。

最初からそうしとけってんだ。

 

「ったく……それで?一体何があって、箒はあんな事したんだ?」

 

俺は部屋の椅子に座って、事の経緯を聞くために箒に声を掛ける。

箒は当事者だしな、一夏と違ってちゃんと答えてくれると思うが。

 

「あ、あぁ……実は……」

 

そして、俺の問いかけに、箒は気まずそうな表情を浮かべて話し始めた。

どんどんと話されていく内容に、最初は相槌を打っていた俺だったが、途中からは呆れに変わっていった。

箒の話を分かりやすく纏めるとこうだ。

 

箒、部屋で部活の汗を流す為にシャワーに入る。

一夏、さっき俺が見た通り、ノック無しで部屋に侵入。

箒、ルームメイトが来た=同姓と思って、タオル1枚でシャワー室から出る。

お2人、エンカウント。

箒、余りに突然過ぎて硬直。

一夏、焦って部屋から出ようとし、何・故・か箒のタオルに指を引っ掻ける。

ハラリとタオルが宙を舞った。

箒、覚醒。羞恥と怒りが相まって木刀を装備。

一夏、顔を青くして部屋からトンズラ。

結果、穴あきドアの出~来上~がり~☆

 

「判決、一夏ギルティ」

 

「相っ変わらずのスピード裁判だな!?弁護士制度は何処行った!?ちゃんと公正にやってくれよ!!」

 

「むしろ今の話し聞いてテメエを弁護する奴なんざ欠片もいねえよクソボケナス」

 

「親友の言葉が酷い!!酷すぎる!!」

 

喚く一夏を無視して、余りのアホらしさに俺は目を手で覆って天井を見上げる。

っつうか一夏君よい?何をどうやったら部屋から出ようとして箒のタオルを剥ぐなんてエキセントリックな業に変わるんだよ。

どこのラブコメ主人公だテメーは、ラッキースケベもここまでくるとスキル認定されてもおかしくねえぞ。

 

「ほ、本当にすまない、一夏。は……恥ずかしかったのと、怒りがごちゃごちゃになってしまって……す、すまなかった」

 

しかも俺が呆れていると、今度は何故か被害者の箒が謝るという始末。

いや、箒が謝る事は微塵もねえだろ……多分一夏に嫌われたくねえって乙女心なんだろうが……その辺は束さんと良く似てるわコイツ、やっぱ姉妹だって事か。

まぁ俺が出会う前の箒のままだったら、一夏をブチのめして怒るだけだったろうがな。

あの頃の箒はコミュ障っつっても差し支えねえぐらいに対人スキルが無かったし、その辺りも成長したんだな。

 

「い、いや!!?箒が謝る事はねえよ!!むしろ俺の方が悪かった!!女子と同部屋って事前に聞いてたのに、本当にすまん!!」

 

さすがにこれは無いと思ったのか、一夏も慌てて箒に頭を下げて謝罪した。

そりゃそうだろう。コイツはノックも無しに部屋に上がったあげく、嫁入り前の女の肌を見たんだ。

謝罪しなきゃブチ殺すところだったぜ。

 

「まぁ、とりあえずアレだ。どっちも謝った。喧嘩両成敗ってことで、ここらで終わらそうぜ」

 

「そ、そうだな」

 

「う、うむ。そうしよう」

 

俺はこの空気を払拭するように明るい声で2人にそう告げて、この騒動に終止符を打つ。

いつまでも引きずらすわけにゃいかねえからな。

 

「だがまぁ、一夏。テメエはじっくりと反省しとけ。経緯はどうあれ、嫁入り前の女の肌を見たんだ。箒じゃなかったら責任取らされるか、警察でカツ丼か、千冬さんになぶり殺されるか、のどれかかも知れなかったんだぜ?」

 

俺の言葉に、一夏は顔を真っ青に変えていく。

コイツにとっては特に千冬さんになぶり殺されるってのが一番の恐怖だろうな。

俺はチラリと箒に視線を向けてニヤリと笑いかける。

すると視線の合った箒は、首を傾げて疑問の顔で俺を見てきた。

どれどれ、ここらでいっちょ恋する乙女を応援してやりますか、幼馴染としてな。

俺は未だに顔を真っ青にして震えている一夏の肩に手を置いて優しい笑顔を向ける。

 

「箒に感謝しときな、裸を見られたってのにたった1回頭を下げただけで許してくれたんだ。ここまで優しい女はそういねえぞ」

 

「な!?」

 

ここで俺の放った言葉に箒は驚き、一夏は天使を見るような目で箒を見始めた。

 

「そ、そうだよな!!?本当にありがとう箒!!俺、箒が幼馴染で本当に良かったよ!!箒と一緒の部屋ってのもスゲエ嬉しいぜ!!」

 

「な、ななななな!!?……あ、あぁぁ……(ボォオーーーッ!!!)」

 

箒は一夏の言葉に顔をトマト色にして俯く。

そんな箒と相変わらずな一夏に、俺は苦笑いを浮かべてしまう。

おーおー、初々しいねえ……とゆうか、一夏はなんでこうも恥ずかしいセリフがポンポンと言えるかねえ。

まさに特A級フラグ建築士の名に恥じない建築っぷりだぜ。

 

「箒?どうしたんだ?」

 

「……はっ!?な、何でもない!!なんでもないぞ!?」

 

「ホントか?具合が悪かったら言ってくれよ?(ニコッ)」

 

「あ、あぁ……あ、ありがとう」

 

そして、恥ずかしくなって俯く箒に心配する声を掛ける我等がフラグメーカー、一夏。

オマケに爽やかな笑顔のプレゼント付きだ。

そんな一夏の爽やかスマイルを受けた箒は恥ずかしがりながらも、ちゃんと感謝の言葉を伝える。

おしおし、俺の忠告その1、『一夏は鈍感だから、暴力は逆効果。なるべく素直に』を忠実に守っているようで安心したぜ。

俺は視線を向けてくる箒にこっそりとサムズアップを送ってやる。

すると、箒は顔を輝かせてアイコンタクトで『ありがとうゲン!!本当にありがとう!!』と返してきた。

まぁ、幼馴染の味方ぐれえしたってバチはあたんねえだろ、6年振りに会いたかった男に会えたんだ。

これでバチが当たるってんなら、俺は神をボコってやる。

さて、後はもう1つの問題を片付けねえとな。

 

「そんじゃあ、箒に一夏。後は……」

 

「あぁ。後は部屋の取り決めだよな。ありがとうなゲン!!ちゃんと纏めてくれて……」

 

「ドアのケジメ……だよな?」

 

「「……ゑ?」」

 

俺は何やら勘違いしてる一夏にイイ笑顔でそう言い放つ。

すると、俺の言葉を聞いた幼馴染ズは、目を点にして呆けた顔を浮かべる。

おいおい、まだ最大の問題が残ってんだろうに。

俺はそんな2人に依然としてイイ笑顔を浮かべたまま、部屋の入り口を親指でクイッと指し示す。

俺のサインを受け取った2人は、呆けた顔のままに入り口へと視線を向けていく。

 

『(ドア)嫁入り前の乙女の身体に何て事してくれるんスか!?』

 

そこには、箒の突きで穴あきチーズへと変貌したドアが鎮座している。

もはや穴だらけでドアとしての役目は果たせねえだろう、防音なんてもっての他だ。

 

「「……」」

 

もはや言葉も無いといった感じで喋らない箒と一夏。

しかし段々と現状を理解したのか、薄っすらと冷や汗を流し始める。

俺はそんな幼馴染2人にイイ笑顔を浮かべたまま、ドアに向かって歩いていく。

目指す先は勿論廊下だ。

 

「えっと……あの、元次さん?」

 

一夏の「嘘だよな?」といった感じの声が聞こえてくるが当然無視。

そのまま滑らかな動作で『携帯』をポケットから取り出して、『ある御方』の番号をタップする。

勿論、依然として歩みは止めずに廊下を目指す。

 

プルルルルル。

 

『(ピッ)ん、んん!!んん!!……ど、どうしたんだ?げ、元次?(い、いきなり電話してくる奴があるか!!)』

 

ありゃ?なんかタイミング悪かったか?

 

「あ~、もしもし。すんません織斑先生。いきなり電話して」

 

目当ての相手は直ぐに出てくれた。

そう、皆ご存知千冬さんだ。

 

『……い、今は放課後、プライベートの時間だ……何時も通りで良い(コ、コッチはお前のさっきの発言の所為で緊張してるというのに!!何故お前は普段通り会話してこれるんだ!?)』

 

「あっ、そうっすか?そんじゃあ千冬さん。ちと大事なお話しがありまして」

 

『は、話し!?だ、大事な話だと!?ち、ちょっと待て!!……う、うむ……いいぞ、何だ?(何だ!?このタイミングで今度は何を言い出すつもりだ!?)』

 

「いえね?寮のドアを破壊した馬鹿モンがいまして」

 

ここまで喋っている段階で、後ろの一夏がどんな顔をしているか想像するのは難しくねえ。

まぁそれでも止めねえけどな。

 

『……何処のどいつだ?入学初日にそんな事を仕出かした命知らずは?』

 

俺が起きた事を有りのまま報告すると、電話先の温度が数10度下がった気がする。

現に、電話している俺ですら背筋が寒くなったぜ。

 

「皆ご存知一夏っす」

 

『……そうか……元次、一夏に伝えておけ。『そこを動くな』と』

 

「了解っす。『そこを動くな』ですね?頑張って下さい。今度、メシでも作りますんで」

 

『あぁ、楽しみにしている……ではな(さて、愚弟をどう調理して殺ろうか)(ピッ)』

 

千冬さんとの心冷える話を終えた時には、俺はドアに手を掛けて廊下に半分出ていた。

そこで顔だけ部屋に向けて、幼馴染ズを見る。

 

「……(ガタガタガタガタガタッ!!!)」

 

「い、一夏!?しっかりしろ!!」

 

そこには、顔を真っ青にして身体をガタガタと震わす一夏と、そんな一夏を心配する箒の姿があった(笑)。

まぁしっかりと物壊したケジメはつけねえとな。

あっ、後は俺を巻き込んだ罰も兼ねてっから、そこんとこよろしく。

 

「じゃあな。しっかりと怒られてこいよ?一夏」

 

俺は震える兄弟分にそれだけ言って、部屋を出る。

そして、廊下に視線を向けると……。

 

「「「「「……(ジ~ッ)」」」」」

 

そこには今か今かと俺に質問を投げかけようとしてる女子の群れがいた。

普段なら慌てる俺だが、今の俺には切り札があるんだぜ?

 

「あ~、廊下にいる皆。ちょっと聞いてくれや」

 

「「「「「何々!!?(ワクワク)」」」」」

 

俺が先に廊下の女子達に声を掛けると、女子達は勢い良く喰らい付いてきた。

その目は1つ残らず、何かを期待するように輝いていた。

まぁ、悪いがその期待にゃ応えらんねえぞ?

 

「まず1つ、これから織斑先生がここに来る」

 

「「「「「……」」」」」

 

そして、俺の口から出た単語に、女子はピタリッと動きを止めてしまった。

それを確認した俺は、そのまま会話を続ける。

 

「2つ、目的っつうか、理由はこの扉についてだ」

 

「「「「「……」」」」」

 

俺が後ろの扉を指し示しながら言葉を続けると、誰かの喉がゴクリと鳴った気がした。

仕上げに、俺は苦笑いを浮かべてトドメの台詞を放つ。

 

「3つ、このままこの場に居てもいいけどよ。織斑先生の説教に巻き込まれる事は間違い無しだぜ?」

 

「「「「「撤退ーーーーー!!!」」」」」

 

まるで蜘蛛の子を散らすかの如き勢いで、女子軍団はそれぞれの部屋に帰っていった。

よし!!勝利!!

俺は広くなった廊下を悠々と歩いて自室を目指す。

やれやれ、これであの馬鹿が起こしたハプニングにケリがついたな。

俺は疲れた首をコキコキと鳴らしながら、部屋のドアを開ける。

 

「あ~♪ゲンチ~♪お帰り~♪」

 

ドアを開けると長い裾をパタパタと揺らし、着ぐるみの耳をピコピコさせてる笑顔の本音ちゃんが出迎えてくれた。

心なしか、本音ちゃんの周りの空気がぽややんとしてる様に見える。

あぁ……あの馬鹿野郎のせいで荒んだ心が本音ちゃんのマイナスイオンで潤い、癒されていくぜ。

 

「おう、ただいま。本音ちゃん」

 

俺はそんな本音ちゃんに笑い掛けて、持ってきていたバッグに歩み寄る。

時間は6時前、始めるにゃちょうどイイ時間だろ。

 

「ふんふ~ん♪……はにゃ?ゲンチ~は何探してるの~?」

 

時間を確認した俺は、バッグから目当てのモノを取り出して準備にかかる。

そんな俺の様子が気になったのか、本音ちゃんが声を掛けてきた。

さて、始める前に本音ちゃんにも聞いておかなきゃな。

 

「なぁ、本音ちゃん」

 

「んにゅ?な~に~?」

 

俺が声を掛けると、本音ちゃんは首を傾げながら俺に問い返してきた。

俺はそんな本音ちゃんに笑いながら手に持った茄子を見せ……。

 

「よけりゃあ俺とディナーでも一緒に、どうだ?」

 

首を傾げる本音ちゃんにそう問いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ま、まま待ってくれ千冬姉!!?そんなの入らな、ア゛ーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!??』

 

『一夏ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!??』

 

ん?何か聞こえたって?気のせいだ本音ちゃん。気にしたら負けだぞ?

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

ジュー、ジュー。

 

フライパンの上で熱せられた具材が情熱的なダンスを踊り、室内に食欲をそそる香りが充満していく。

うし、良い感じだ。

後は片栗粉とごま油で仕上げを……っと。

 

「ごっは~ん♪ごっは~ん♪ゲンチ~、まだなの~?もうお腹ペコペコ~」

 

「おう、もうちょっとだから待っててくれ」

 

「は~い♪ディ~ナ~♪ディ~ナ~♪」

 

う~む、やっぱ本音ちゃんは見てるだけで和むぜ。

部屋のテーブルには、ウキウキと楽しそうな笑顔を浮かべた本音ちゃんが、今か今かと歌いながら俺の料理を待っていた。

はい、俺こと鍋島元次は只今調理の真っ最中でごぜーやす。

あの後、俺の夕飯一緒にいかが?って誘いを本音ちゃんは快くOKしてくれたので、俺は2人分の夕食を作ってる。

今日の献立はマーボー茄子とえのきの味噌汁にゆで卵とツナを入れたサラダ、白米です。

既に味噌汁とサラダは仕上がっているので、今はメインのマーボー茄子を仕上げている最中だ。

トロミ粉を入れて充分にトロミが出てきたら……ほい、あがりっと。

出来上がったマーボー茄子を皿に移して、フライパンに水を張ってから、俺は出来上がった料理片手にキッチンを後にする。

 

「ほいお待ち。今日のメイン、マーボー茄子だ」

 

「わ~い♪おいしそ~だよ~♪」

 

コトン、と静かに皿をテーブルの中央に置き、俺は本音ちゃんの向かい側に腰を降ろす。

既に箸を片手に装備した本音ちゃんの目は夕飯に釘付け。

俺はそんな本音ちゃんの様子に苦笑いしながら、手を合わせて飯の挨拶を口にする。

 

「それでは」

 

「ではでは~♪」

 

「「いただきます(ま~す♪)」」

 

俺に合わせて本音ちゃんもいただきますの挨拶をして、おかずに箸を伸ばしていく。

さぁ?俺の料理は本音ちゃんの口に合うか?緊張の一瞬だ!!

俺が固唾を飲んで見守る中、本音ちゃんは迷わずマーボー茄子に箸をつけて口へ運んでいく。

 

「あ~ん♪モグモグ……ごくんっ」

 

「……ど、どうよ?うめえか?」

 

マーボー茄子を口に含んだ本音ちゃんは、口の中でしっかりと噛んで味わってから飲み込む。

すると、そのまま何も言わずに押し黙ってしまった。

ま、まさか口に合わなかったか!?

何も言わない本音ちゃんの様子に、俺は冷や汗が流れそうになるが。

 

「……お~い~し~い~!!!ゲンチ~の料理、ちょぉちょぉちょぉ美味しい~~!!♪」

 

「しゃあッ!!!(バキッ!!)」

 

次の瞬間には満面の笑みで、本音ちゃんは俺の料理を褒めてくれた。

その余りの嬉しさにテンションが上がってしまった俺は拳をグッと握り、持っていた箸を粉砕しちまった。

おっと、ヤベエヤベエ、ちゃんと手加減しなくちゃな。

いや~、しっかし口に合って良かったぜ!!

これで不味いなんて言われた日にゃあ、もう二度と料理なんかできなくなる所だった!!

俺は新しい箸に交換して、笑顔で料理をパクつく本音ちゃんに視線を向ける。

どうやら次はサラダに取り掛かるみてえだな。

 

「ハムハム♪……うまうま~♪」

 

本音ちゃんはご機嫌に食事を進め、ドンドンと夕飯を平らげていく。

やれやれ、気に入ってもらえて良かったぜ、俺も食うとしますか。

本音ちゃんが料理を本当に美味しく食べてくれるのを見届けたので、俺も自分の食事を開始する。

その後は、本音ちゃんと2人で楽しく喋りながら食事を堪能し、デザートに約束していたパフェを振舞った。

コチラも本音ちゃんにはとても大好評だったぜ。

何せ一口食べる度に「幸せだよ~♪」って呟く本音ちゃんの周りに花畑が見えたからな。

パフェとゆうかデザートについては、また材料がある時に作る事を約束した。

本音ちゃんに聞いた所、IS学園には弁当派の生徒や自炊派の生徒のために購買部で食材なんかも売ってるらしい。

もはや何でもアリだなこの学園。

とりあえずそんな軽い雑談を交えて、夕飯は終わりを告げた。

 

 

 

 

その後は特に何事も無く、それぞれ風呂に入った俺たちは就寝する事にしIS学園入学1日目の夜が終了。

 

さぁ、明日はどんな日になるかね?

軽い期待に胸を躍らせながら、俺は意識を落としていく。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「むにゃむにゃ……も~食べられないよ~」

 

「待て本音ちゃん、俺達は今から朝食だ。古典的なギャグ呟きながら寝ぼけてねーで起きなさい」

 

「らめぇ~……そのパセリはデザートなのぉ……むにゃむにゃ」

 

「ドンだけ質素なデザートだよ」

 

さてさて、一夜明けておはようございます。

 

只今俺っち事鍋島元次は、ルームメイトの本音ちゃんを担いで食堂へと向かっている最中にございます。

いやね?本音ちゃんってば起こしたけど起きねー上に、寝ぼけ眼で俺に向かって両手を広げてきてさぁ……。

『抱っこ~して~』なんておっしゃりまして……ねぇ?

仕方なく、仕方なーく抱っこして食堂を目指してるわけです……が。

 

『あ、あれって……鍋島君と布仏さん!?』

 

『ホントだ!!ってなんで鍋島君は布仏さんを抱っこしてるの!?羨ましすぎる!!』

 

『きっと50メートル幾らかで乗せてくれるのよ!!』

 

『マジで!?私幾ら持ってたっけ!?』

 

『私、1万円下ろしてくる!!』

 

『何処で!?学園にATMは無いわよ!!?』

 

『もしもし『スカイファイナンス』さんですか!?大至急!!急ぎで入用なんだけど!?』

 

『ちょ!?ファイナンスって、アンタ何街金に電話してるのよ!?とゆうかどうやって学園まで持ってこさせる気!!?』

 

周りの目が……痛いっす。

っていうかいつの間にか俺の扱いがタクシーと同じになってるじゃねえか。

そんなサービスは一切行ってねえので、あしからず。

キャイキャイと聞こえてくる周りの声をなるべく意識しないようにしながら道を進み、俺はやっとの思いで食堂に到着した。

だが、食堂に入っても、相変わらず周りから好奇の視線が飛んできやがる。

ハァァ……こればっかりは慣れねえと仕方ねえか。

俺は心中で溜息を吐きつつ、食堂の食券売り場まで歩いていく。

そのまま食券販売機に並んだんだが、ここで一つ驚いた事がある。

 

「ほぉ~、スゲエ数の料理だな」

 

それは販売機に表示されてる料理の数だ、アメリカからフランスなんかの国旗表示の横に料理がカテゴライズされてやがる。

なるほど、IS学園には様々な国の子が入学してくるから、その国それぞれの食事が用意されているってワケか。

流石国立の学校はスケールが違うぜ……こりゃ食堂での食事も楽しみになってきたな。

食堂のおばちゃんに聞けば、何かしら新しい料理を覚えられるかも知れねえ。

俺はこれからの食堂利用に胸を躍らせつつ、食券を俺と本音ちゃんの分、買い込んで行く。

俺は牛丼の大盛り、本音ちゃんはトーストとサラダ、ミルクのセットだ。

女の子の食事量なんかわからねえが、隣りの販売機の子がこれ買ってたし、これでいいだろ。

 

出てきた食券を持って、俺は食堂のおばちゃんの元へ行き、食券を渡して一言。

 

「おはようっす。『お姉さん』、特盛で頼んます」

 

社交辞令をカッ飛ばす。

仕方ねーじゃん、特盛無かったんだからよ。

 

「アッハッハッハッ!!良い子だねアンタ!!よし、特別に特盛で出してあげよう!!」

 

だが、俺の言葉に気を良くしたおばちゃんは豪快に笑いながら、俺の牛丼を特盛にしてくれた。

いやはや、言ってみるモンだぜ。

 

「はい、お待ち!!しっかし、アンタデカイねえ。その図体じゃ普通盛りだと足りないだろ?今度から量増やして欲しかったら言いな。お世辞はいいからね」

 

しかも次からは言えば普通に増やしてくれるらしい。

なんて優しいんだIS学園のおばちゃん達は。

カウンターの奥を見れば、おばちゃん達皆が笑顔でウンウンと頷いていた。

こりゃありがてえぜ。

 

「へへっ、どうもありがとうっす。『お姉さん方』」

 

「あらやだ!!も~、まったく口が上手いねえアンタ!!気に入ったよ、またおいで!!」

 

「うい~っす」

 

俺はやいのやいのと豪快に笑ってるおばちゃん達に挨拶を返して、席を探しに向かう。

さて、まだ時間に余裕はあるが出来立ての内に食いてえしな、さっさと席を探そう。

片手にトレー(牛丼とトーストセット)もう片手に電気ネズミ(本音ちゃん)装備で席を探しに冒険を始めると。

 

「痛ててて……き、昨日は酷い目に遭った……」

 

「だ、大丈夫か、一夏?……あれは確かに、酷かったな。心なしか私怨が篭っていた様に感じたぞ」

 

「ア、アハハ……お、織斑君の悲鳴、部屋に居ても聞こえたしね」

 

「凄かったねー。もうなんか、この世の地獄を体験してますって感じだったし」

 

「し、篠ノ之さんは、だ、大丈夫だったの?」

 

「あ、あぁ。私は何も無かったが……正直、ホッとした……」

 

何やら朝っぱらから辛気くさいオーラを漂わせてる一夏と、それを心配する箒。

それと……確か同じクラスの女子2人の計4人でカウンター席に座っていた。

まだ横に席が空いてるし、あそこにするか。

俺は一夏達の後ろから本音ちゃんを抱えて、席に向かっていく。

 

「ハァ……初日からアレはねえよ」

 

「す、すまない。私の所為で……」

 

「いや、箒の所為じゃねえって。アレはどう考えてもゲンの仕業だろ?全く、アイツは……」

 

「何が俺の仕業だこのボケ(ガンッ!!)」

 

何やらほざいてる一夏に、俺はイスの底面を蹴り上げてケツに刺激をプレゼント。

俺の仕業?ありゃオメエの自業自得、それ以外の何者でもねえっての。

 

「おうっ!!?だ、誰だ!?ってゲン!?」

 

「よぉ、兄弟。テメエ朝っぱらから辛気くせえオーラ出してんじゃねえよ、コッチまで気が滅入るだろーが」

 

「お前の所為だかんな!?そこんとこわかってるか!?わかってるんだよなブラザー!?」

 

喚く一夏を無視して、俺はトレーをテーブルの上に置く。

今は朝食の方が大事なんだよ。お前に構ってる暇はねえんだ兄弟。

あっ、後本音ちゃんを降ろさねーとな。

 

「ゲ、ゲン。おはよう……ってお前、何を担いでいるんだ?」

 

「あっ、お早う鍋島君!!って本音ぇえ!!?」

 

「お、お早う……え!?な、なんで鍋島君がほ、本音ちゃんを、だ、だだ抱っこしてるの!?」

 

俺が本音ちゃんを降ろそうとすると、一夏の横に座っていたクラスの女子が驚きの声を上げて聞いてきた。

1人は純粋に驚愕し、もう1人は顔を赤くして驚いてる。

 

「ん?あぁ、そりゃ本音ちゃんが俺のルームメイトだからだ」

 

「「え、えぇーーーーーーーッ!!?」」

 

うお!?そ、そんなに驚く事か!?

女子の質問に答えた俺に、女子2人からのデケエ声が浴びせられた。

両手塞がって耳を塞げなかったから耳が痛えよ。

 

「にゃむにゃむ……むぅ~……はれ?……はれれれれれ~ッ!!?」

 

「おっ?やっと起きたか、本音ちゃん」

 

俺の肩に顎を乗せるように熟睡していた本音ちゃんだが、流石に辺りの騒がしさで目を覚ましてくれた。

つうか良く今の今まで寝てられたモンだな。

とりあえず本音ちゃんが目を覚ましたので、俺はゆっくりと本音ちゃんをイスに座らせてあげる。

 

「あ、あれ!?ゲ、ゲンチ~!?」

 

「ん?何だ、本音ちゃん?」

 

「え、え~っとぉ……な、なんで私は食堂にいるのかな~?」

 

「いや、何でって朝メシ食いに来たんじゃねえか」

 

一体何を言ってるんだこの娘?的な答え方をしたんだがこれがお気に召さなかったのか、本音ちゃんは袖をブンブン振り回して俺に詰め寄ってくる。

 

「そ、そうじゃなくってぇ~!!どうやって私は、ここまで来たの~!?」

 

更に本音ちゃんは俺を近距離で見つめながら問い返してくる。

ってあれ?もしかして本音ちゃん覚えてなかったのか?

 

「い、いや。朝に本音ちゃんを起こしたら、本音ちゃんが『抱っこして』って俺に言ったんだが?覚えてねえのかよ?」

 

「ふ、ふぇぇえええええ~~!!?し、ししし知らないよぉ~!?(だ、抱っこして、なんて恥ずかし……あれ?)」

 

俺が本音ちゃんの問いに答えると、本音ちゃんは驚きの声を上げて顔を真っ赤にしてしまった。

って事は……もしかして本音ちゃん、ありゃ寝惚けてたのか?

だとすると……俺は勝手に本音ちゃんを抱っこした事に……やっべえ。

色んな意味でヤラかした事に俺の全身から冷や汗が流れてくるが……。

 

「ね、ねぇ、ゲンチ~……」

 

「……あ、あぁ」

 

追撃の手は止まず、本音ちゃんは長い裾から出した両手の指をコチョコチョと合わせながら俺の名前をコールし。

 

「じ、じゃあ……こ、ここまで私を、ずっと……だ、抱っこして~……くれた、の?」

 

赤く染まった顔で俺をチラチラと見上げながら問いかけてきた。

その仕草、可愛いけど今は勘弁願いてえっす。

 

「……まぁ……そうだ、が」

 

「は、はうぅ~……あ……あ、ありがとぅ……です……」

 

「い、いや、なんかスマン」

 

俺の答えを聞いた本音ちゃんは、恥ずかしそうに顔を俯かせてしまった。

一応お礼は言われたが、俺の心は罪悪感がマッハです。

本音ちゃんからすりゃ、勝手に抱き上げられたあげく食堂まで勝手に連れて来られたんだからよ。

ホントごめんなさいっす。

 

「……う、うん♪じゃあ、ご飯を食べよう~♪(だ、抱っこされたのは恥ずかしかったけど~……ちょっと、得しちゃった~♪)」

 

そして、本音ちゃんは少し間を置いてから、いつも通りの笑顔でそう言ってくれた。

俺はそんな本音ちゃんに海よりも深く感謝して会話に乗る事にする。

 

「そ、そうだな。本音ちゃんのは勝手に決めちまったけど、それで良いか?」

 

「うん~♪これで良いよ~♪」

 

どうやら朝食セットはトーストで良かったらしい。

本音ちゃんって朝はパン派なんだな。

 

「うし、そんじゃあ……」

 

俺と本音ちゃんは一緒に手を合わせて。

 

「「頂きます(ま~す)」」

 

それぞれの朝食に手を伸ばす。

本音ちゃんはトーストに噛り付き、俺は牛丼を豪快にカッ混んでいく。

う~ん、濃いつゆの濃厚な味と紅生姜の酸味がマッチしてて凄く美味えぜ。

IS学園のおばちゃん達……かなりの猛者だな。

これは是非とも味の秘訣をお教え願わねば。

ある程度口に含んだ俺はどんぶりから口を離して口の中の牛丼を咀嚼する。

良く噛んで、味わって食べましょうってな。

 

「う、うわ~……お、織斑君もそうだけど、鍋島君も凄い食べるね?」

 

「男の子って言うより、さすが男って感じかな?」

 

俺が牛丼を味わっていると、一夏の隣りに座っている女子からそんな事を言われた。

とゆうか俺が大食いなだけなんだけどな。

俺は女の子達に話し返すために、口の中身を飲み込む。

 

「んぐっ……ごくんっ。ははっ、俺はガタイがこんなだからな。他の奴等より格別燃費がワリイんだ」

 

そう言って苦笑いすると、女子2人も「あ~、なるほど」みたいな顔を浮かべる。

この自慢のタフなボディはマッスルなアメ車並に大食らいなんです。

 

「まぁ、こればっかりは仕方ねえさ。ただ金欠の時は女の子の低燃費さが羨ましいけどよ。なぁ一夏?」

 

「あ?あぁ。確かにそう言う面では羨ましいけどな。食費が大分浮きそうだし」

 

「あははっ、それってモロ主夫の会話だよ」

 

「ふ、二人とも結構家庭的なんだね、ふふっ」

 

「いや、ゲンの場合はそう言う問題では無い気がするが……まぁいいか」

 

2人の手元にある皿を指差しながら茶化す様に言うと、2人はクスクスと笑いだした。

一夏も俺の言葉に賛同するように腕を組んで頷いている。

横にいる箒は苦笑いを浮かべていた。

目の前の女子達2人の皿には、本音ちゃんと似たり寄ったりのメニューが並んでいる。

つまりは小食低燃費で財布にエコロジーってやつだ。

 

「所でお2人さん、名前教えてくれねえか?俺まだクラスの人間は一夏と箒と本音ちゃんしか名前知らねーからよ」

 

俺がそう言うと、2人は顔を見合わせてから笑顔で俺に向き直った。

ちゃんとクラスの人間は知っとかねえと、また本音ちゃんの時と同じトラブルが起きかねえからな。

 

「はいはーい!!じゃあ私から!!出席番号一番、相川清香でーす!!部活はハンドボール部で、趣味はスポーツ観戦とジョギング!!よろしくね、鍋島君!!」

 

赤っぽい髪のショートヘアーの女の子、相川はそう言って俺に手を差し出してきた。

すると何やら周りから『ずるい!!』とかって声が聞こえてきたが、とりあえず無視。

何せ俺と一夏の扱いは好奇心から来るモンだろうし、一々気にしてたらキリがねえっての。

俺は相川の差し出した手を握り返して、言葉を返す。

 

「おう、知っての通り鍋島元次だ。仲の良い奴等からは『ゲン』って呼ばれてるが、好きに呼んでくれりゃいいぜ。よろしくな、相川」

 

「うん!!よろしくね!!」

 

そして、次は黒髪のロングヘアーの女の子だ。

こっちはさっきの相川と違って、ちょいと気弱そうな感じの子だな。

 

「わ、私は、夜竹さゆかっていいます。よ、よろしくね?鍋島君」

 

夜竹は相川と違って、ちょいと遠慮気味におずおずと手を差し出してきた。

俺はゆっくりと夜竹の手に触れて握り返す。

一気に握ったら驚きそうだしな。

 

「夜竹だな?鍋島元次だ。相川同様、俺ん事ぁ好きに呼んでくれ」

 

「う、うん。よ、よろしくね?……げ、元次……君(うぁああ!?い、いいいきなり名前呼びしちゃった!?お、怒られないかな!?)」

 

何だ?名前で呼んだかと思ったら顔赤くしてる……男に慣れてねえのか?

まぁなんでもいいけどよ。

 

「おう、よろしくな。夜竹」

 

「あっ、……うん!!(良かったぁ……げ、元次君の手って、すっごく大っきいな……やっぱり男の子だなぁ)」

 

夜竹はふわっとした女の子らしい笑顔を浮かべて俺に言葉を返してくれた。

よし、これでクラス内の知ってる奴は5人だな。

この調子でドンドンクラスの奴等の名前を覚えていかねえとな。

 

『くっ!?もっと……もっと早く話しかけていれば!!そうすれば握手する事が出来たのに……!!』

 

『大丈夫!!まだ二日目!!チャンスはあるわ!!』

 

『でも、昨日のうちに押し掛けた子がいるって噂も……』

 

『ダニィ!?』

 

『あっ!?もしもし『ワークス上山』さんですか!?実はピッキングツールが欲しいんですけど……え?『ウチは武器屋』?お客のニーズに応えられないんですか!?呆れますね!!』

 

『待て!?アンタ一体何する気!?』

 

……外野の声は聞かなかった事にしよう、そう!!俺は何も聞かなかった!!

よし!!この話はこれで終いだ!!

俺は牛丼を食う事を再開する。

目を逸らしてなきゃやってらんねえよ。

 

「……む~(ぷく~)」

 

しかし何故か俺の横に座ってる本音ちゃんは俺を見つめながら何やら唸ってらっしゃるではないか。

え?俺がこの2人と喋ってるのが悪いんすか?

俺にクラスの仲間との親睦を深めるなとおっしゃるんですかい本音ちゃん?

 

「ど、どうした?本音ちゃん?」

 

「……何でもないよ~だ~(ぷいっ)」

 

「え、えぇ~?」

 

気になって笑顔で聞いてみるも儚く撃沈。

ぷっくりと膨れたほっぺたをそのままに、本音ちゃんはそっぽを向いちまった。

ま、まずい!?ひっじょ~にマズイ!!?

このままでは俺の部屋に機嫌の悪い本音ちゃんが設置されてしまう!?じ、冗談じゃねえぞ!?

一夏の所為でささくれる心を癒してくれる本音ちゃんがこのままじゃ、俺が精神崩壊しちまう未来はそう遠くねえ!!

それだけは回避しねえといけねえぞ!!

 

「ほ、本音ちゃ~ん?そんな頬膨らませてたら河豚になっちまうぞ~?」

 

俺はスマイルを維持したまま本音ちゃんに声を掛ける。

冗談も交えつつその顔止めて欲しいな~っていう意味を掛けたナイスな言葉だ。

良し、これなら本音ちゃんも……。

 

「(ブチッ!!)……いいもんいいもん、河豚でいいも~んだ」

 

しかし空振り、バッターアウト。

あれ!?ミスった!?何かが千切れる音が聞こえたんだけど!?

心なしか、本音ちゃんの額に十字路の形をした怒りマークが見えるとです。

そのまま本音ちゃんは、目の前の朝食セットをパクパクと八つ当たり気味に食していく。

あぁ、何とかして機嫌直していただかねえと!!

 

「え、えぇっと……そ、そうだ!!実は新作のパフェを考えてんだが……」

 

「(ピクピクッ)……」

 

俺の苦し紛れの言葉に、本音ちゃんの着ぐるみの耳がピコンッ!!と反応を示す。

おっし!!食らい付いた!!

本音ちゃんは昨日俺の手作りパフェを食べてその美味さを良く知ってると思ったが、効果は抜群みてえだ。

このまま大物を釣り上げるために、俺はここぞとばかりに畳み掛ける。

 

「それがよぉ、種類がいくつかあってな~。誰か試食してくれる甘いモン好きな人を探してるん……」

 

「え!?ゲンの新作パフェ!?おいおい水臭いぞゲン!!俺がいるじゃ(ドゴォッ!!)ばぐらっちょ!?」

 

「「織斑君!?」」

 

「一夏……それは無いぞお前……ハァ」

 

(((((今、鍋島君の手がブレて見えなかった!!??)))))

 

何やら聞こえた戯言を手で軽く払い、俺は本音ちゃんに笑顔を送り続ける。

現在の本音ちゃんのほっぺた状況はまだ7割ほどふっくらとしてる模様、続けていきます!!

 

「しかもちゃんと評価してくれる上に、食べてて美味しいってのを全身で表現してくれるような可愛い子じゃないとダメなんだよな~(チラッ)」

 

「ッ!? う、うぅ~」

 

俺がチラリと意味ありげに視線を送ってみると、何時の間にか俺を見ていた本音ちゃんとお目目がバッチリエンカウント。

直ぐに本音ちゃんはそっぽを向いてしまったが既にほっぺたの膨らみは2割程を残すのみ、若干だが笑顔も見えてきた。

良し!!このままいけば勝つる!!

 

「って事で本音ちゃんよ……俺の新作パフェの試食……して、くれるかな?」

 

俺は最後のダメ押しに本音ちゃんの頭を撫でながら聞いてみる。

これでダメなら俺の明日はねえ、さあ!!どうだ!?

そのまま本音ちゃんはたっぷり数十秒沈黙して……。

 

「……い、いいとも~♪」

 

「そ、そうか!?ありがとな!!」

 

何時も通りのぽややんとした笑顔を見せてくれた。

うし!!うし!!これで俺は明日からも闘えるぜ!!

嬉しくなった俺は本音ちゃんの頭をそのまま撫で続ける。

 

「う、うにぃ~~♪(ゲンチ~の手……ゴツゴツしてるけど~……あったかい~♪)」

 

おうおう、えらくふにゃっとした笑顔を見せてくれるじゃねえの。

こりゃドンドン撫でてこのマイナスイオンオーラで食堂を覆ってやんなきゃな。

俺はそのままぽややんオーラを周囲に霧散させてくれる本音ちゃんの頭を撫で続けていると……。

 

 

ズドォオオオンッ!!!

 

「いッ!!?」

 

「あにゃッ!!?」

 

『『『『『『ッ!!??(ビクゥッ!!!)』』』』』』

 

突如、食堂全体を震わせるような轟音が鳴り響いた。

な、なんだってんだよ朝っぱらからッ!!?

俺や俺以外の生徒がこぞって音の発生源に目を向けると……。

 

 

 

 

「……(ゴゴゴゴゴゴゴ……)」

 

 

 

なんか鬼がいなすった。

 

 

いや千冬さんなんですけどね?

もうなんか体から放つオーラが鬼と言っても差し支えねえんですよ。

この俺ですら鬼と見紛う程にビビるオーラを体から撒き散らしてるわけで……。

 

「あ、あ、あぁぁ……」

 

まず箒は顔を青じゃなく白色に変えてガタガタと震えていた。

うん、その気持ちは良くわかるぜ。

 

『『『『『……(ガタガタガタガタガタッ!!!)』』』』』

 

食堂に居る他の女子は俺の隣の相川や夜竹も含め、誰も喋らなかった。

いや、正確には喋れなかった。

この場に居る一夏以外の誰も彼もが千冬さんの放つ圧倒的なオーラにヤラレちまったんだ。

一夏、良かったなお前、気絶してて。

俺でも気絶しときてえぐらいヤバイぞ、今の千冬さん。

そんな鬼人状態の千冬さんに食堂の目が集中していると……。

 

 

「……貴様等いつまでチンタラと食ってるつもりだッ!!!!!食事は迅速にッ!!!!!さっさとせんかぁッ!!!!!」

 

特大級の豪雷が降り注いだ。

 

 

千冬さんの怒号を皮切りに、食堂のアチコチで鳴り響く食器の騒がしいサウンドミュージックが開演する。

かくいう俺達もそうだ。

もはやしっかりと噛むなんて考えはハイパースペースの彼方まで飛び去り、ただ目の前の飯を腹に入れる事だけを必死にやる。

なんで!?なんで千冬さんはあんなに怒ってんだ!!?まだ時間は充分にあるってのに!!?

飯をカッ込みながら、俺は食堂に備えられた時計に目をやるが、時間はまだ充分に残されていた。

もう本気でわけわからん!!?

 

「いいかよく聞け小娘共ッ!!!!!私は1年の寮長だッ!!!!!遅刻したらグラウンド10周させてやるからそのつもりでいろッ!!!!!(元次の馬鹿者め!!昨日の今日で朝っぱらから別の女といちゃつきおって!!!コッチは只でさえ愚弟の壊した扉の修理依頼で寝不足だというのに!!!)」

 

俺は千冬さんの宣告を聞きながら、その内容に戦慄した。

確かIS学園のグラウンドのトラックは、1周5~6キロはあった筈だ。

それを10周……つまりは合計5~60キロですね、軽く死ねます。

 

 

 

まぁ、遅刻しなきゃ……ってやべえ!?本音ちゃんパジャマのまんまじゃねえか!?

 

 

 

本音ちゃんも飯を食べてる途中で気付いたのか、今は涙目になってる。

このままじゃ本音ちゃんは憐れグラウンド10周……いやいや、本音ちゃん死んじまうって!?

状況を把握した俺は更に牛丼をカッ込むスピードを上げて、さっさとどんぶりの中身を空にする。

すると、俺と同時に飯を食い終えた本音ちゃんがワタワタと慌てていた。

何せここから寮までは普通の人、若しくは本音ちゃんではどう頑張っても10分はかかる。

SHRは後15分弱。

このままじゃ遅刻してグラウンド10周は免れないだろう。

 

「あ、あうぅ~~~!!?死んじゃうよ~~~~!!?」

 

もうなんか本音ちゃんの涙腺は崩壊寸前、マジ泣き5秒前だ。

 

だが!!

 

「本音ちゃん!!(ガシッ!!)」

 

「ゲ、ゲンチ~~!!ぐすっ、ぐすっ、もう、もう、ゲンチ~のパフェ……食べられないのかな~……ぐすっ」

 

この俺が!!そんな事ぁさせねえ!!

IS学園のマイナスイオン発生娘のスマイルを守ってみせらあ!!!

 

「任せとけ!!(ガバアッ!!!)」

 

「ふえッ!!?ゲ、ゲンチ~!?」

 

俺は戸惑う本音ちゃんを抱き上げて、背中におんぶの形で背負う。

俺の筋肉は何もパワー特化なだけじゃねえ!!

 

「しっかり掴まってろよぉぉおおおおおおおおおおお!!!!!(ズドドドドドドッ!!!!!)」

 

「ふぇぇええええええええええええええッ!!!!???」

 

『脚力』がありゃ、スピードだって出せんだよおぉぉおおおおおッ!!!

『元次TAXI』を甘く見んなよぉぉおおおおおおおおおッ!!!!!

 

俺は本音ちゃんを背中に装備したまま原付並のスピードで校舎を駆け抜け、階段をジャンプで飛び、カーブをドリフトするかの如く豪快に滑り抜ける。

極めつけは高台からのショートカットジャンプ、そして走ること7分で、1年寮の自室に到着。

フラフラ状態の本音ちゃんを部屋の中に放り込む。

そして本音ちゃんは3分で制服に着替えて、再び俺の背中にドッキング。

またもや風になる俺と応援する本音ちゃんのタッグでショートカット、ドリフト、ジャンプを繰り返し……。

 

「(ズバァァアアアアアアアンッ!!!)と、到着ぅ!!そしてもうダメぽ!?(ズダァンッ!!)ぜはぁー!!ぜはぁー!!ぜはぁー!!ぜはぁー!!」

 

「わわわわわッ!!??だ、大丈夫、ゲンチ~!!?」

 

「14分25秒!!ま、間に合ったか!?ゲン!!急いで座れ!!」

 

「お、おう。サンキュ、箒、本音ちゃん」

 

「ゴ、ゴメンね~ゲンチ~」

 

「き、気にすんなって本音ちゃ、げほっげほぉっおうえ゛ぇっ!!?」

 

「あわわ!!?ど、どんとすぴーくだよ~!!?」

 

何とかギリッギリのタイムで俺は1組教室に到着。

教室に駆け込んで力付き、床に膝を突いた所で箒と本音ちゃんに支えられながら自分の席に着いた。

いやもう自分の足じゃ全く動けねえ上に呼吸がシンドイ。

さ、さすがにこの距離は本気でキツかったぜぇ……まさか朝からこんなに疲れる羽目になるとは……恐るべし、千冬さん。

俺は自分の席に体全体を預けて、呼吸を整える事に専念する。

 

『良かったね本音!!間に合って良かった!!』

 

『元次君、本音ちゃんの為にあんなになるまで頑張ったんだ……カッコイイなぁ』

 

何やら後ろの方から聞こえるが、呼吸困難寸前の俺には何を言ってるのか聞き取る余裕が無かった。

俺はそのまま身体を起こして、横の列にいる箒に感謝の言葉を掛けようとして……。

 

「はーっ、はーっ……あ、あれ?……なぁ、箒?」

 

「ん?どうしたゲン?水か?」

 

「い、いや。そうじゃなくてだな……」

 

俺は水筒を差し出してくる箒に首を振って否定し……。

 

「……一夏は?」

 

俺の横に、居なきゃいけねえ筈の人間が居ない事を聞いてみる。

 

 

 

『『『『『……あっ』』』』』

 

俺の言葉に1組全員がしまった、みたいな声を上げる。

もうそのアクションだけで全てが分かってしまった俺は、窓の外に広がる空を仰いで黙祷を捧ぐ。

 

 

「…いい奴だったぜ。兄弟」

 

本当に、いい奴だった。

 

 

その数秒後に、食堂の方から断末魔の様な悲鳴が聞こえたが1組生徒は全員聞かなかった事にした。


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