IS~ワンサマーの親友   作:piguzam]

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KOOLとはひぐらしの造語で、落ち着くようにしていても結局はキャラクターが正常な判断力を欠いて暴走している状態のこと


傲慢なる愚者、野獣の怒りに触れる

「はーっ、はーっ、……な、何で…げほっ、俺……ばっかり……」

 

机にグッタリともたれ掛ってる我等がイケメン、一夏は疲れた様に息をぜーはーぜーはーと吐いていた。

そんな一夏の傍に控えるは、俺と一夏の幼馴染にして一夏に恋する乙女、箒だ。

そこに本音ちゃんも寄って来て、一夏をつんつんと突いていた。

これこれ、そんな虫を突く様な真似は止めなさいって。

 

「私もゲンチ~がいなかったら、おりむ~と一緒になってたんだ~……うぅ、ほんと~に間に合って良かったよぅ」

 

「だ、大丈夫か?一夏……なんだか、私は昨日からお前の心配をしてばかりな気がするぞ……」

 

「あぁ……俺を心配してくれるのはお前だけだよ、箒ぃ。お前は本当に優しいな」

 

「い、いや!?わ、私は別に、その……お、幼馴染の心配ぐらい、普通にするだろう……」

 

「その普通が俺にはスゲエ嬉しいんだって……本当にありがとうな、箒」

 

「……き、気にするな、当然の事だ(い、一夏と普通に話して笑い合える……なんて幸せなんだ)」

 

箒は一夏の言葉に顔を赤くしつつ、お礼を言われた事に頬の緩みが止められてなかった。

いいぞ箒、一夏の、いや好いた男の言葉は素直に受け取るんだ。

俺はそんな恋する箒に密かにエールを送ってやる。

 

はい、只今3時間目の授業が終了した休み時間です。

 

朝の鬼人と化した千冬さんによる恐怖の号令に間に合わなかった一夏は、気絶していたところを叩き起こされグラウンドをマジで走らされていた。

只、授業に遅れているからって理由で3週に負けてもらったらしい。

ちょうど今さっき帰って来たところで、一夏は朝の俺と同じ様に机に座って倒れ伏している。

どれ、苦行を終えてきたダチに労いの言葉ぐれえ掛けてやりますか。

俺も席を立ち上がって、机にダレている一夏の傍に歩み寄る。

 

「おう、お疲れさん一夏」

 

「……あんのなぁ!?ゲン!?お前のパンチで気絶したから俺はあんな目に遭ったんだぞ!?少しは悪びれろっての!!1ミリグラムの反省も無しか!?」

 

だが、俺が労いの言葉を掛けると、一夏は急に立ち上がって俺に詰め寄ってきやがった。

しかも俺の所為ときたかコノ野郎。

まぁ確かにその自覚はあるが、あれはタイミング的にもお前が悪いと俺は思うぜ。

詰め寄ってくる一夏を見ながら、仕方なく俺は謝罪を口にする。

 

「そうか、悪かったな。次は気絶しねえ様に気を付けろよ?」

 

「ったく、判ればい……ってちょっと待てぃ!?謝るのはそこなのか!?謝る部分が根本的に違うだろ!?」

 

「いや、まさかアレ程度で気絶するとは思わなくてなぁ……本当にスマン、一夏。次からはもう少し頑丈になっといてくれ」

 

「次もやるのは確定なのか!?やらないという選択肢は存在しねえのかよ!?それとせめて手加減してくれ!?」

 

はっはっは、何を言ってるんだブラザーよ?

お前が俺を面倒ごとに巻き込んだ瞬間に俺の拳はオートで飛ぶんだぜ?

それをやらねえなんて選択肢は存在するわけねえだろ。

 

「ゲ、ゲン。一夏も悪気があったわけではないのだ。どうか次は手加減してやってはくれまいか?」

 

およよ?今度は箒が来たか。

しかも一夏を庇うタメに言ってくるとは……成長したじゃねえか。

今ので一夏の中でお前の好感度は鰻登りだぜ?お前の後ろでキラキラした視線を送ってるからな。

ふむ、箒が相手に回るとちょっと厄介だから……懐柔するか。

 

「所で箒?一夏の好きな食べ物や女の好みなんだが(ぼそっ)」

 

「一夏、さすがにお前が悪かった時は甘んじて受けろ」

 

「ちょっと箒さぁぁあああああん!?ゲン!!テメエ箒に何を吹き込みやがった!!?」

 

あっという間に手の平を返した箒に絶望する一夏。

悪いが、テメエに恋する乙女達限定なら俺はある程度コントロールできるんだぜ?

そのまま俺に食って掛かる一夏を軽く受け流しながら過ごしていると、授業開始1分前のチャイムが鳴った。

 

「ほれ、一夏。早く席に着いとけ、また千冬さんの制裁を喰らいたかねえだろ?」

 

「げ、もう時間かよ?わ、わかった。もう千冬姉の制裁は腹いっぱいだしな。大人しく座っとく」

 

俺の言葉に、一夏は苦い表情を浮かべながら席に着き教科書とノートを広げていく。

さて、俺も準備しますか。

チャイムが聞こえた辺りで席に着いていた俺は、一夏と同様に教科書とノート、参考書を机から引っ張り出して用意していく。

千冬さんの作ってくれたテキストのお陰で今の所授業には着いていけてるし慌てる必要は無いな。

 

そしてチャイムから1分ジャストで、キリッとした黒スーツに身を包んだ千冬さんと可愛らしいワンピース姿の真耶ちゃんが入って来た。

しかし真耶ちゃんは何故か俺を見つけると、顔を赤くして俯きそのまま俺と視線を合わさないようにしているではないか。

え?なんでだ?俺何か真耶ちゃんにした……昨日の俺の自爆した台詞のせいか(汗)

俺は何となく、教卓に近づいていく2人を座ったまま眺めてみる。

う~む……キリッとしたクールビューティーなオーラを放ち、デキる大人の女を思わせる千冬さん。

そしてほわんとした柔らかい雰囲気と少女の様な可愛らしさを体現している真耶ちゃん……ホントに対照的な組み合わせだな。

でも、この組み合わせを見てると何故かピッタリだと思えちまうんだよなぁ……謎だぜ。

オマケに一番俺が気になっている謎は、真耶ちゃんの持つあの大きな夢の塊だ。

幼い見た目や身長とミスマッチながらもどこか全体的にマッチしていて、それでいて自己主張の激しいあの男達の浪漫。

一体あの中にゃどれだけの男の夢が詰め込まれてんだ?

真耶ちゃんの最大積載量『夢いっぱい』ですか?

 

ズドォオオンッ!!!

 

「んごがッ!?(ゴォオンッ!!!)」

 

そんなけしからんドリームの塊に文字通り夢を馳せていた俺に振り下ろされるは、我等が担任である千冬さんの宝具SYUSSEKIBO。

その凄惨たる威力は、俺のド頭を打ちぬき机に広げていた参考書と熱い熱いベーゼをカマせるぐらいの威力でした。

なんてこった。俺の栄えあるファーストキスは参考書か、幸せにするぜ?

 

「私の目の前で不埒な視線を教師に向けるとは、随分といい度胸だな?」

 

余りにも突発的かつ衝撃的な制裁に俺の頭が軽くお花畑っていると、頭上から俺に降り掛かる怒りのお声。

あ、これは大分カチ切れてらっしゃるね。すいません千冬さん、でも男の子は皆好きなんです。スケベなんです。

 

「げげげ元次さん!?ダ、ダメェ、ダメですまだ明るいですよぉう!!?」

 

千冬さんのお言葉で気付いてのか、真耶ちゃんの声はすっげえどもってた。

絶賛、参考書とキスしてる俺にゃどんな表情をしてるかわからねえが……っておい待て!?

 

「なぁにぃ!?暗かったらいいのか真耶ちゃん!?(ガバアッ!!!)」

 

真耶ちゃんのまだ明るいって部分のみに反応して、俺はさっきのダメージなんか無かったかの如く起き上がる。

俺の馬鹿丸出しの発言に、自分の胸を抱きしめるようにして恥ずかしがっていた真耶ちゃんの顔の赤みが更に濃くなっていくではないか。

 

やっべ、食い付いちまった。

 

「はひぇ!?そ、それふぁそのんにょ!?」

 

いや真耶ちゃん言葉になってね、って殺気!?

俺が殺気を感じた先に見たのは、出席簿を放り投げて軽く助走をつける千冬さんの姿なり。

ちょ!?そんなスピード乗せて何を!?

 

「教師に何をほざいとるか貴様ぁぁあッ!!(ガシイッ!!!)」

 

「すいま(ベキャアッ!!)べぇこんッ!?」

 

真耶ちゃんの発言を勝手に改造して夢いっぱいに受け取った俺に対して、千冬さんはマジ容赦無かった。

ムエタイの世界王者もビックリの速度で俺に叩き込まれる千冬さんの飛び膝蹴り。

首を押さえ込む首相撲状態からの蹴り技である『カウ・ロイ』が俺の鼻っツラに寸分の狂いも無く撃ち込まれたとです。

滅茶苦茶痛え、っていうか千冬さんいつからそんな技使えるようになったんです!?

そのまま蹴りの勢いで首相撲状態から強制的に開放され、その勢いで俺の視界は反転した後ろの様子を捉える。

 

『『『『『ピィッ!?』』』』』

 

すると、目の前で起きた惨劇の惨さを物語る俺の顔を上下逆さ向きに拝んでしまった女子は、皆一様に小鳥の様な悲鳴を上げた。

まぁいきなり上下逆さの顔が見えるようになったら怖えよな、皆すまねえ。

 

「むむむ~む~むぅ~!!(ぽっこり)」

 

だが、クラスの女子連中が恐怖している中で1人だけ例外が存在した。

IS学園の癒しマスコット、皆大好き本音ちゃんその人だ。

何やら俺が聞いた事がねえ程に激しく唸って俺に厳しい視線を送ってらっしゃるではないか。

しかも頬の膨れ具合が今朝と比べて段違いに大きくなってるし。

 

……俺は何も見てねえ、見てねえったら見てねえぞ。

 

とりあえず見たものに蓋をして、俺は撃ち抜かれた頭を起こして前に視線を向け直す。

元に戻った視界の先には、何時の間にか出席簿を持ち直して俺を射殺さんばかりに睨む千冬さんがいた。

しかも出席簿はちっとも曲がってねえ!?

鉄パイプで殴られても平気な俺の頭を殴って曲がらないとか……マジでその出席簿何で出来てるんすか千冬さん?

アレっすか?アダマンチウム製っすか?

 

「鍋島……グラウンドを100000周してくるか?ん?」

 

「以後気をつけます!!勘弁して下さい千冬さん!?」

 

「は、はうぅ(い、いけない!!集中しなきゃ!!先輩の授業の進め方を参考にしなくちゃいけないんだから!!……あぁん、元次さぁん……そんなご、強引になんてぇ……えへへぇ♪)」

 

千冬さんの提案した処刑メニューにすぐさま謝罪を口にする俺。

いくら俺がタフでも100000周とか無理、絶対無理、つうか一夏と単位が違う。

 

「馬鹿者が……んん!!さて、この時間は実践で使用する各種装備の特性について説明する」

 

俺の誠心誠意の謝罪が功を奏したのか、千冬さんは俺を一言叱責するとクラス全体に響く様な声で俺達に話してきた。

千冬さんの声の真剣さに、さっきまで怯えていたクラスの女子達も慌てて真剣に授業を聞く体勢に入る。

俺も下げていた頭を上げて教卓に視線を送るが……教卓に立っていたのは、真耶ちゃんではなく千冬さんだった。

あれ?真耶ちゃん何処行ったんだ?

不思議に思った俺が目線だけで真耶ちゃんを探すと、真耶ちゃんは教室の隅にパイプ椅子を使って座っていた。

何やら手元にはノートとペンを持っている。

え?なんでだ?

確かに『実践で使用する各種装備の特性』なんてISを使うならかなり重要な項目だと思うが、真耶ちゃんだって先生ならノートを取る必要なんてねえだろうに。

 

「……?……ッ!?(げ、元次さんが私を見てる!?すっごい真剣な表情で見つめてる!?……あ……あぅぅ)」

 

俺が真耶ちゃんを目線で見ながら首を捻っていると、俺の視線に気付いたようで俺と視線を合わせると真っ赤な顔になって俯いてしまった。

ま、まぁさっき『貴女の胸を暗かったら拝んでよろしかったんですか?』なんて面と向かって聞いちまったからなぁ。

思い返すと俺もかなり恥ずかしい……授業に集中しよう、今は真耶ちゃんと目が合うと気まずい。

真耶ちゃんの恥ずかしがる行動に俺も気恥ずかしさが伝染してしまったので、俺は目線を再び千冬さんに戻す。

 

「あぁ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」

 

だが、俺が視線を戻したと同時に、千冬さんは何かを思い出したように話の内容を変えてしまった。

ん?なんだ?『クラス対抗戦』って?

俺が知りもしない単語に首を捻っていると、千冬さんは話の続きを始めた。

 

「知らない者もいるかも知れないので一応説明しておくが、クラス代表者とはそのままの意味だ。クラス同士で行われる対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席等……まあ、クラス長のような役割と思ってもらって構わん。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点で大した差は無いが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間変更は無いからそのつもりで」

 

千冬さんの説明にざわざわと教室の女子が色めき立つ。

だが、俺はまだちゃんと理解できなかったので女子の騒ぎに交じって騒ぐ事は出来なかった。

隣を見てみると、一夏もぽかんとした表情を浮かべていたので一夏も何の事かわかってねえみてえだ。

えぇっとぉ~……千冬さんの言ってた事を纏めると、つまりぃ?

 

まず1つ目、クラス代表者なる者は、再来週から始まるクラス対抗戦……つまりはクラス同士のガチ喧嘩をやるクラスの代表だろ?

 

んで2つ目、クラス代表になると、会議とか委員会への出席がある……これはつまりクラス委員長の仕事も兼任って事だな。

 

次は3つ目、クラス同士の実力推移を測り、向上心を煽る目的もある……要は『あのクラスより強くなろうぜ!!』って競争する心構えを持たせるって腹だな。

 

最後に4つ目、この代表は一度決まると進級するまで変更できねえっと……うん、要はかなり面倒くさい役割ってわけだな。

 

決めた、俺絶対クラス代表にゃならねえ。

そんなモンになっちまったら、只でさえ面倒な今の生活が更に面倒になるのは分かりきってる。

しかも会議とか委員会とか、俺には全く持って似合わねえ場所じゃねえか。

俺は千冬さんの言った内容をしっかり噛み締め、絶対にクラス代表にはならないと心に誓う。

 

「さてそれでだ。誰が代表者になる?自薦他薦は問わない。誰かいるか?」

 

千冬さんの言葉に一度クラスから音が消える。

さあて、俺以外なら誰でもいいぞ。

誰かなってくれ。

俺がそんな事を心中で思っていると、1人の女子が手を挙げた。

 

「はい!!織斑君を推薦します!!」

 

しかも推薦されたのは、我等がフラグメーカー一夏君だ。

あらら、一夏の奴まぁた面倒事に巻き込まれちまったんだな。

 

「私もそれがいいと思います!!」

 

「私も私も!!」

 

一人が言い始めたことで連鎖反応の如く多くの女子が一夏を推し始める。

俺は心の中でほくそ笑みながら、今の話に挙がってる兄弟分に目を向けるが……。

 

「……(ぽけ~)」

 

一夏の奴は、まるで何事も関係ないかのように呆けていた。

なんだ?あいつ別に代表になってもいいの……いや、ありゃ多分「このクラスに他にも織斑っているんだな」ぐらいにしか考えてねえんだろう。

いくら一夏でも、自分の事が話題になってたら普通に反応するしな。

 

「候補者は織斑一夏と……他にいないか?いないなら無投票当選だぞ?」

 

「……へっ!!?お、織斑って俺の事だったのか!?」

 

千冬さんがフルネームを呼んだ事でやっと一夏は、織斑が自分の事を指していると気付いたのか、自分を指差しながら後ろの女子を見渡していた。

もちろん、そんな一夏の視線に頷きを返してくる女子一同。

つうか当たり前だろうに、一番初めの女子が「織斑君」と呼んでただろうが。

IS学園は女子の花園、その中で君付けされんのは異分子の俺かお前だけだろうに。

俺はアホ過ぎる一夏の言動に額に手を当てながら心中で溜息を吐き、事の成り行きを見守る。

そして、千冬さんの「いなければ無投票当選」って言葉を思い出したのか、一夏は慌てて千冬さんの立っている教卓に向き直った。

 

「ちょ!?ちょっと待った!!俺はそんなのやりません!!辞退します!!」

 

そして一夏は千冬さんに辞退する旨を必死な表情で伝えるが……。

 

「自薦他薦は問わんと言った。推薦された以上、拒否は許さん」

 

「うっそぉ!?」

 

それは儚くも千冬さんに却下される。

あぁ、なんという悲運だ、哀れ一夏よ、骨は拾ってやるからな?

俺は不運を背負った幼馴染に黙祷を捧げつつ、事の成り行きを見守る事に専念する。

 

「お、落ち着け織斑一夏!!KOOLだ、KOOLになれ!!この状況を打破するには!?……だ、だったら!!ちふ、……お、織斑先生!!俺はゲンを推薦します!!」

 

ゴンッ!!

 

思わず机にヘッドバットをカマす俺がいました☆

成り行きを見守っていたら、いきなり渦中に道連れにされたとです。

やべえ、ワケわかんねえ。

俺が状況に着いていけずに困惑していると……。

 

「織斑先生!!私も鍋島君が良いと思います!!」

 

「わ、私も……です!!」

 

そこに女子からの賛成の声が続く始末。

しかもそれを皮切りに、アチコチから俺を推す声が聞こえてくるではないか。

その光景を見て安堵の表情を浮かべる一夏君。

ふむ?つまり諸悪の根源はコイツか、また俺は巻き込まれたのか、そうかそうか成る程。

 

 

 

 

 

「一夏ぁ、焼却炉逝こうぜ?久しぶりにキレちまったよ♪」

 

そんなに俺に処刑して欲しかったのか?まったくこのイヤしんぼめ☆

骨を拾う前に俺が骨にしてやるよ。

 

 

 

 

 

俺は輝くような笑顔を浮かべて一夏と視線を合わせる。

すると目があった一夏は顔の色を青ではなく土気色に変えていくではないか。

なんだよ人の笑顔見てそんな顔すんなよマイブラザー。

 

「ま、まままま待て待て待て待て!?落ち着け、落ち着くんだゲン!?そこは普通屋上だろ!?いや屋上も嫌だけど、焼却炉って俺に何するつもりなんだ!?」

 

「落ち着け?落ち着けだって?何を言ってるんだい一夏君?俺はこれ以上ないぐらい落ち着いてるよ?今まさにどうやって目の前にいるフラグメーカーを惨たらしくブチ殺してやろうかと考えられるぐらい冷静だよ?」

 

「落ち着けてない!?それ全く冷静じゃないからな!?しかも丁寧語な分怖えよ!?」

 

「それで?焼き方はミディアム?それともレア?ロースト?はたまたウェルダン?さぁどれがお好みですかぁああッ!?(バキバキッ!!!)」

 

「助けてーーーーー!?」

 

俺はキラースマイルを浮かべつつ拳を鳴らして一夏ににじり寄っていく。

周りの女子は俺の笑顔に当てられてガタガタと震えていたが、俺は目の前のアホタレをあの世に叩き送らねばならないのでとりあえず放置。

そして俺が必殺の拳を一夏に繰り出そうとしたその時。

 

「待て、鍋島」

 

後もう一歩で射程距離に届くといった所で、千冬さんが教卓から俺にストップを掛けてきた。

その声に、俺は仕方なく拳を下げて千冬さんに向き直る。

一夏の野郎、滅茶苦茶安心していやがるな、後で覚えとけよコラ。

 

「何すか?織斑先生」

 

「今は私の管轄時間だ、織斑を殺るのは後にしろ」

 

「よ、良かったぁ、助かっ……って時間が延びただけ!?惨劇は回避できないのか!!??運命は打ち破れないのかよ!?」

 

千冬さんはそう言って俺と一夏に座るよう促してきた。

なんだ後ならいいのか、なら今は我慢するとしますか。

 

「わっかりました。織斑先生」

 

「うむ。では、候補者は織斑と鍋島の2人か……なら多数決を取るとするか」

 

俺と一夏が席に着いたのを見計らって千冬さんはそう言ってクラスを見渡し始める。

あ、ソッチは続行なんですね畜生。

既にクラスの女子達は、俺と一夏のどっちに投票するかでキャイキャイと姦しく話し合っていた。

俺はそんなクラスの様子を眺めながら、諦めの溜息を吐く。

もうこの空気じゃ辞退はできねえし、何より千冬さんがそれを許す筈もねえか……はぁぁ。

そんな感じで俺が諦めたように外を眺めていると……。

 

 

「(バァンッ!!)納得がいきませんわ!!!」

 

 

あ?何だ?

 

俺はいきなり鳴った音の発生源に目を向ける。

そこには、机に両手をついて怒りの表情を浮かべた……昨日の腐れアマの姿があった。

周りの女子も何事かと腐れアマに対して疑問の表情を見せている。

何だコイツ?何にそんなに怒ってんだ?

俺がソイツの起こした行動に首を傾げていると、ソイツはまるでマシンガンの如く喋りだした。

 

 

「そのような選出は認められません!!大体、男がクラス代表だなんていい恥晒しですわ!!わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

 

 

……あ?

 

ソイツはいきり立ちながら、俺と一夏を指差して喚き散らしてきやがった。

何だコイツ?昨日は男って事で見下してきて、今度は直接喧嘩売ってきてんのか?

 

「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります!!わたくしはこのような島国まで態々来ているのは、IS技術の修練に来ているのです!!サーカスの練習に来ているのではありませんわ!!大体こんな国にこの様な施設が有ること事態が可笑しいのです!!極東なぞのわざわざ遅れている国にこの様な重大な施設を作るなど!!」

 

……おい、コイツ掛け値無しの馬鹿だろ?今のテメエの発言がどれだけの人間敵に廻してるかわかってねえのかよ。

しっかし極東の猿、極東の遅れている国、ねえ……何考えてんだか。

つうか、IS学園の生徒は殆ど日本人だぞ?このクラスだってそうだし……自分がどう見られてるか分かって発言してんのか?

今、クラスの中ではこのアホが何か言う度に、アホに対する視線が厳しくなっていく。

そりゃそうだよな。自分達日本人が猿呼ばわりされたんだもんな、同姓でも言って良い事と悪い事はあるだろ。

しかも教卓の千冬さんもかなりイライラした表情になってるし。

だが、それでも腐れアマは周りの視線に気付かずにドンドンとヒートアップしていく。

 

「大体!!文化として後進的な国に暮らさなくてはいけない事自体!!わたくしにとっては耐え難い苦痛で……!!」

 

カチンッ!!

 

確かに今は女尊男卑だろうさ?だがよ、物事にゃ限度ってもんがある。

こいつは自覚さえもしていないんだろうな、言動も表情も目も、全てがちょっと良い玩具を与えられて調子に乗っている餓鬼としか、俺の目には映らなかったんだからな。

あ~あ、今度は文化が後進的と来たか……って何だ今の音は?

俺が腐れアマの戯言からヤバイ単語を拾っていると、何やら横から変な音が聞こえたのでソッチに視線を向けてみる。

 

「……ッ!!!」

 

其処には、怒りの表情で今にも立ち上がらんとする一夏がいた。

良く見れば反対側の箒も、拳を震える程握って厳しい表情を浮かべている。

あ~くそ、そういやコイツ等って日本に誇り持ってんだよなぁ……こりゃ言い返すつもりなんだろうが……仕方ねえ。

いっちょ思いっ切り意趣返しすんのに協力してやるか。

俺がそんな事を考えている間にも、俺の親友は立ち上がって腐れアマに視線を向けていた。

さてさて、じゃあ俺もやりますか。

 

「イギリ…」

 

「おう、待てや一夏」

 

一夏が何かを言おうと立ち上がって、周りの目がコッチに集中した瞬間、俺は声を大きくして一夏の名前を叫ぶ。

すると台詞を遮られた一夏を含めた全視線が俺に集まる。

さあて、掴みは上々っとくらあ。

 

「一夏、言い返すんじゃねえぞ」

 

俺はまず、怒って冷静さを失った兄弟分に言葉という名の冷水をブッかけてクールダウンを図る。

だが、俺の言葉に一夏は俺に対して怒りの表情を向けてきた。

クラスの女子も、俺がいの一番に言い返すと思っていたのか、目を丸くする。

 

だが、それでいい。

 

「何でだよ!?日本が馬鹿にされてんだぞ!!ゲンは悔しくないのかよ!?」

 

「フン、貴方は言い返さないのですね?やっぱり図体がデカイだけで、その程度の男ということですか。まぁ事実をしっかりと受け止めているようですから、その辺は評価してさしあげてよ?」

 

一夏と腐れアマは極端な意見を2人同時に俺に浴びせてきやがった。

一夏は悔しそうに、腐れアマはフフンと馬鹿にした笑みをもって。

さて、俺の怒りのボルテージもイイ感じになってきたし、今回も遠慮なくやらせてもらうぜ。

俺は悔しそうに表情を歪めている一夏に、俺がヤラかす時のサイン、ニヤリとした悪い笑みを送りつつ……。

 

 

 

 

 

 

 

「俺ぁなぁ、一夏。お前や箒っていう大事なダチに、あんな『ゴミ屑でド低脳なド腐れアマ』と同じ底辺に堕ちて欲しくねえから止めてんだぜ?」

 

特大の爆弾をブッ放つ。

 

 

 

 

 

 

 

俺の放った爆弾の威力に正しく、周囲の時が止まった。

俺に怒ろうとしてた一夏ですら呆けた表情を浮かべ、周りの女子は鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔になってた。

いや、千冬さんはなんかイイ笑顔を浮かべてるな。

そんな周りの様子が可笑しくて、俺は更に顔を笑顔に変えていく。

 

「――今……なんとおっしゃいました?」

 

そして、いの一番に復活したのは、あの腐れアマだったが……おー、おー、こりゃイイ感じにプッツンしてんな。

俺を見る視線はもはや絶対零度に近く、人を見る目じゃなかった。

まぁ、俺は元からコイツを人並みの目でなんて見ちゃいなかったがな。

俺はそんな腐れアマの視線を受け流しつつ、もう一度言い放ってやる。

 

「あぁ、言葉が足りなかったぜ。『ゴミ屑以下、クソ以下でド低脳なアバズレのド腐れアマ』だったわ」

 

「ッ!?……ひ、人をゴミ屑呼ばわりするなんてッ!?貴方には人としてのモラルというものが無いのかしら!?これだから猿は困りますわ!!」

 

俺の再度放たれた爆弾に、腐れアマは青筋を立てながら俺に叫ぶが俺はそれを正面から笑顔で受け止める。

ハッ、テメエなんぞが凄んだところで何とも思わねえっつの。

そして、腐れアマの叫び声を皮切りに、一夏達もハッと正気に戻った。

 

「お、おいゲン待ってくれ。どーゆう意味だよ?俺が言い返したらアイツと同じ底辺に堕ちるって?」

 

そして復活してきた一夏は俺にさっきの言葉の意味を問いかけてきた。

今は頭も冷えたみてえで、普段通りの口調で話しかけてきてるな。

周りの女子もわかんねえのか、一夏と同じ様な視線を俺に送っている。

よし、全員正気に戻った所で、教えてやりますか。

 

「簡単な話だ。一夏、そこの腐れアマは日本の事を『文化として後進的な国』とか俺達日本人を『極東の猿』って言っただろ?」

 

「あ、あぁ」

 

俺の問い返しに一夏はとりあえず頷いたので、俺は更に話しを進めていく。

 

「おかしなモンじゃねーか。コイツは『文化として後進的な国に住む極東の猿が造ったモン』に乗って、その功績を自慢してんだぜ?とんだお笑い草だろ?」

 

「ッ!?」

 

「え?……あ、あぁ!?そうだった!?ISは束さんが造ったモンだもんな!?確かにそれは可笑しい話しだぜ」

 

「だろーが」

 

俺の言葉に一夏は今思い出したみたいな顔をし、腐れアマは衝撃を受けたような表情を浮かべた。

クラスの女子も俺の言葉に『そうだよね、何もオルコットさんが造ったってワケじゃないし』等の言葉が飛び交い始めている。

そう、コイツが自慢してるISは束さん、つまり日本人が造ったモンだ。

それに乗ってその功績を自慢しつつ、造った国と人を馬鹿にするなんて滑稽の極みだろ。

つうか、こんなモン序の口、まだまだあるぞ。

 

「それに、この国にIS学園を作るのがおかしいって、日本はIS発祥の地だぞ?むしろ其処以外に適任な地があんのかねえ?あるってんなら是非にともご教授願いてえもんだぜ」

 

「うッ!?……くぅうッ!!?」

 

俺の第2攻撃、いや口撃か?に対しても、腐れアマは俺を睨みながら唸るだけで適切な答えを返せずにいる。

当たり前だ。造られたモンの発祥の地、所謂メッカ以外に適切な場所なんてどこにも存在しねえんだからな。

 

「それに、さっきテメエは俺の事をモラルがねえだとかどうだとか抜かしてたが、そいつぁテメエが言えた義理じゃねえぞ?」

 

「な、何故ですのッ!?人をゴミ呼ばわりするアナタの様なロクでもない人間に、わたくしの様な高貴な人間が何も言えない立場だなんて有り得ませんわッ!!」

 

腐れアマは俺の言葉に食って掛かり、その顔に怒りを露にし始めた。

おいおい?テメエはさっきまでの自分の発言を思い返して見ろってんだよボケ。

俺は直ぐ傍で言い返そうとしている一夏を手で制して止める。

まったく、俺の事で怒ってくれんのは嬉しいけどよ兄弟、この程度の返しに一々怒ってたらキリがねぇぞ?

俺は余裕綽々の笑みを持って腐れアマに言い返す。

 

「だってそうじゃね?俺はテメエ個人を馬鹿にしてるが、テメエは『日本に住む日本人全員』を猿呼ばわりしたんだぜ?堂々と人種差別発言をカマしたテメエの方こそモラルが欠けてんだろ?」

 

「なッ!?」

 

俺のニヤつきながらの指摘に、腐れアマはハッとした声を上げてクラスを見渡す。

すると腐れアマに返ってくる視線は敵意や厳しい視線の2種類しかなかった。

まぁコイツの言った事はそんだけモラルの欠けた上に馬鹿な言葉だったってわけだがな。

完全な自業自得だ。

普通ならここまで言った辺りでもう止めてやる所だが……この腐れアマは俺の兄弟を侮辱したんだ。

後でもっとやっときゃ良かったと後悔しねえ様にトコトンやらせてもらうぜ?

 

「しかもテメエがさっきから自慢してるISの世界最強、つまりブリュンヒルデは千冬さん。さっきからテメエが馬鹿にしてる俺等と同じ日本人で、テメエが猿呼ばわりした一夏の姉さんだぞ?これでテメエが『織斑先生は猿じゃありませぇん』なんて一夏の家族なのに贔屓してんだったら、それこそモラルがねえクソ以下の人間だと思うが?」

 

ここで俺が放った言葉にクラスの目が千冬さんに向く。

教卓に立ってる千冬さんは腕を組んだ姿勢でかなりイラついた表情を浮かべていたので、腐れアマは今度こそ顔色をサーッと青色に変えてしまった。

まぁ千冬さんが不機嫌なのは、俺が言ったブリュンヒルデって名称にだがな(笑)千冬さんそのアダ名嫌いだし。

でも、俺が言ったアダ名に不機嫌半分、腐れアマの発言に不機嫌半分ってトコだろう。

それこそISの世界で頂点に立っている人の人種を猿だと目の前で暴言吐いたんだ。

例え千冬さんが愛国心に薄い人間だったとしても、言われて平気かって言われたら全然平気じゃねえだろう。

ホント根性あんぜこのクソアマ、あの天然チートな千冬さんに真っ向から喧嘩売るなんてな。

俺でも絶対にしたくねえ事を平然とこなしたソコんトコだけは評価してあげよう(笑)

 

「オマケにテメエが日本人を馬鹿にしてるって事は、テメエが自慢してるISの開発者である束さんの事も馬鹿にしてんだぜ?これでイギリスのISが全部止められてみろ?テメエはどうケジメをつけるつもりなんだ?」

 

「そ、それは!?」

 

俺は更に追い討ちを掛けていく。

まさかIS開発者の束さんを猿と馬鹿にしといて、その可能性を考えなかったのかよ?

あの人外国人嫌いだし、日本人で良かったと言ってるぐらい日本の文化を好んでる。

箒と一緒で和が好きなんだよな。

束さんが人嫌いなのは全世界でも知られてる程に有名な事だし、その束さんが大事に思ってる俺や一夏、千冬さんに箒をいっぺんに馬鹿にするって……多分、あの人怒り狂ってんじゃねえか?

 

「更に更にだ。テメエは確かイギリスの代表候補生だったよなぁ?」

 

「そ……それが何ですの?」

 

そして俺が繰り出すは次なる議題。

この腐れアマが『代表候補生』って立場に居る人間だってのに、あんな軽はずみな発言をした事の馬鹿さ加減を指摘してやるぜ。

さっきまでのはあくまでこの腐れアマが『個人』として言ってはならねえ事であって、コイツの立場を加えりゃ、それはかなり最悪なモンになる。

ま、コイツが口から吐いた言葉は無かった事にゃできねえし、今更後悔した所でもう遅えんだがな。

 

「参考書で読んだけどよ。代表候補生ってのぁ、それこそ国家代表になるかもしれねえ立場の人間。つまりはその国の代表って意味合いがあるらしいじゃねえか?」

 

俺が言い出した言葉に、クラスの人間の視線は千冬さんから俺に注目を変える。

腐れアマはまだ何かあるのかと俺の言葉に身構えているが、もうこの爆弾は止める事も避ける事もできねえぞ?

 

「ならよぉ……国を代表してるモンが、『日本は文化として後進的な極東の猿の島国』だなんて発言カマすって……これってよ、イギリスの代表者が日本って『国』に喧嘩売ってるのと変わらねえだろ?」

 

「なッ!?」

 

俺のニヤけた笑みで繰り出した言葉に、腐れアマは青かった顔色を白く変えていく。

どうやら俺の言ってる言葉が理解できたみてえだな。

 

「代表候補生は国が選出する人間……つまりはその国の意思と変わんねえ。つまりテメエの言葉は、それこそイギリスって国の言葉だと取られるんだぜ?テメエのさっきの発言は謂わば『イギリス』の発言になる。これがここじゃなく公な場所だったりしてみろ?それこそ一発で外交問題に発展だろーよ」

 

「あ……あ……」

 

腐れアマは等々言葉にならねえ単語を呟きながら身体を震わせだした。

自分の発言がどんな事態に繋がるかも考えずにあんな事のたまったんだ、その震えは自業自得だぞ。

 

「テメエは自分の立場も考えずにあんなアホ丸出しの発言をカマしたんだ。今更震えてんじゃねえよボケ」

 

俺はそこで言葉を切って震える腐れアマから視線を外し、今度は一夏に視線を合わせる。

 

「そんでもって一夏」

 

「お、おう」

 

俺の問いかけに、一夏はオドオドしながら返事を返してくる。

その表情は何かバツが悪そうな顔だった。

別に今からお前を怒ろうってわけじゃねえんだからそんな顔すんなっての。

俺はバツが悪い表情を浮かべている一夏に苦笑いを浮かべながら言葉を紡ぐ。

 

「と、まぁそういうわけだ。お前があそこでこの馬鹿の口車に乗って言い返したら、オメエは『イギリスを馬鹿にした男のIS操縦者』として、イギリスに何か要求されたかも知れねえんだぜ?」

 

そう言われた一夏は自分の発言がどう取られるか理解したのか、かなり後悔した表情に変わっていく。

まぁ一夏の場合はまだ何も言ってねえんだからそこまで問題にゃなんねえだろ。

 

「そうなると、オメエもアイツと同じ穴のムジナになっちまう。俺はな一夏?自分の親友だと思ってる男にそうなって欲しくねえと思ったから止めたんだ」

 

「……あぁ、サンキューな。ゲン……しっかし、普通あそこまでボロクソに言うか?もう少し手加減してやっても良かったんじゃねえか?」

 

お?あんだけ言われても相手の心配をするってか?本当に優しいモンだなオメエはよ。

一夏はそう言いながら、腐れアマを心配するような目で見る。

 

「これでも手加減した方だぜ?大体、何かの代表に立つって事ぁその分デケエ責任がついてくるモンだ。そんなもんガキでも判る常識だろ……違うか?代表候補生さんよ?」

 

俺は一夏から視線を腐れアマに移しながら言葉を掛ける。

腐れアマはもはや言い返す言葉もねえのか、ただ俯いて聞いてるだけだ。

つうか、俺が言ってる事なんざ参考書の3ページ目に載ってた、謂わば基本中の基本なんだぞ?

それを代表候補生が理解してねえ時点でダメだろ。

 

「……」

 

「なんだだんまりか?そりゃそうだ、言い返す事なんざ出来ねえ事だからな。テメエが何言おうがそれでどうなろうが知ったこっちゃねえが、テメエの吐いた言葉の責任(ケツ)取れねぇ(拭けねぇ)ガキが粋がるんじゃねえよ、アホンダラが」

 

俺は締め括りにそれだけ言って腐れアマから視線を外し、前教卓に視線を向ける。

するとそこにいらっしゃる千冬さんは、中々にイイ笑顔っつーか、スッキリした笑顔って感じだ。

でもまぁ、この空気に終止符を打たなきゃいけねえのは千冬さんなんだよな。

俺は大分スッキリしたが、それで終わりじゃねえもんな……すんません、場をかき乱しちまって。

こりゃ一夏に言えた義理じゃねえか、反省しねえと。

 

「……ませんわ」

 

「え?」

 

ん?お次は何だ?

何やらボソッと小さく呟く様な声が聞こえたかと思ったら一夏の聞き返す様な声が続いて聞こえたので、俺はもう1度後へ振り返る。

すると……。

 

「……高が男の分際で……言うに事欠いてわたくしをゴミ屑ですって?……許せませんわ!!」

 

そこに居たのは、何やら俺を睨みつけながら激しく怒りを露にした馬鹿だった。

つうか、高が男って……まだ自分の言ってる事の意味が判ってねえのかこの馬鹿は?

もうアレだな……こりゃブチのめした方が手っ取り早いわ。

中1ん時に鈴をイジめてたあのゴリラ並にアホだ。

俺は呆れを多分に含んだ視線で目の前のアホを見ていると、アホは俺に指を突きつけて……。

 

「そこの二人!!決闘ですわ!!!二度と生意気な口が聞けない様に調教してさしあげてよ!!」

 

高らかに俺と一夏に喧嘩を売ってきた。

結局は自分の思い通りにいかなきゃ力でねじ伏せるってわけか……良いじゃねえか。

チラッと一夏に視線を向けて見ると、一夏もノリ気な様でその目に燃えるような闘志を滾らせていた。

俺もかなり喧嘩っ早いが、コイツも大概だな。

 

「あぁ、いいぜ。四の五の言うより判りやすい。ゲンだってフラストレーション溜まってんだろ?」

 

一夏は自信満々に馬鹿に言い返して俺に視線を向け直してきた。

なんだよ一夏、テメエ良く判ってんじゃねえか、さすが俺の兄弟分だぜ。

 

「まぁお前の言う通りだぜ一夏。それにさっきの説教も、昨日の説教も、どっちも全っ然俺らしくねえ。ムカつきゃさっさとブチのめしちまえば早え話しだってのによ。まったく、俺はいつからこんな丸くなっちまったんだか」

 

俺は一夏の言葉に笑顔で答えると、一夏も同じように笑顔で返してきたので今度は馬鹿に視線を向け直す。

そうだよな、コイツが鬱陶しいならあのゴリラみてえにブチのめしゃいいんだよな。

 

「決闘だとかご大層なセリフほざいてるが、要は俺らと喧嘩がしてえだけなんだろ?良いぜ、力で向かってくるってんなら、力でねじ伏せてやるだけだ」

 

「フン、言っておきますけど、態と負けたりしたらわたくしの小間使い……いえ、奴隷にしてさしあげてよ」

 

腐れアマはそう言って俺と一夏を物でも見るような目で見てきやがる。

だから自分の立場考えろっつうに。

俺がまたもや説教しなきゃなんねえのか、とか思ってると、俺より先に一夏が前に乗り出した。

 

「侮るなよ、真剣勝負で手を抜く程腐っちゃいない」

 

そして一夏は腐れアマを真っ直ぐに睨みつけて堂々と言葉を返す。

その一夏の堂々とした姿勢に、一夏に恋焦がれてる箒は頬を赤く染めて魅入っていた。

良いねえ、こりゃあ一夏もイイ感じに火が滾ってるってわけだ。

 

「はっ、言い返せない事実を突き付けられてシカト決めるしか能がねえガキがチョーシに乗っちゃいけねえぜ」

 

「くッ!?……コホン。まあ、良いでしょう。イギリスの代表候補生でありこのIS学園の試験官を新入生で唯一倒した実績のある、入試主席のこのわたくしが格の違いというものをお見せしてあげますわ!!」

 

腐れアマは一夏の視線を受け流すと、高らかにそう宣言しポーズを取る。

だが、俺は少なからずこの腐れアマの言葉に驚いていた。

入試で試験管を倒した?

俺が受けた試験内容は、皆と同じで千冬さんとのガチバトルだ。

一夏は千冬さんがいねえ時に試験を受けたらしいから、一夏は除外するとしても特例でもねえ限り他の子は変わんねえだろう。

そりゃつまり……この腐れアマに、あの『千冬さん』が負けたってことか!!?

コイツ性根は腐りきってるが、腕は確かって事か……こりゃ油断できねえな。

 

「……ん?入試ってあれか?ISを動かして戦うってやつ?」

 

「それ以外に入試などありませんわ」

 

と、俺が腐れアマに対して警戒心を高めていると、急にきょとんとした一夏が腐れアマに質問していた。

 

「あれ?俺も倒したぞ、教官」

 

「は……?」

 

ここで出た爆弾発言に、腐れアマは顔を呆けた物に変えて呆然とする。

かくいう俺も驚きを隠せないが。

つうか一夏、オメエ相手が千冬さんじゃねえにしてもIS初搭乗で試験官に勝ったのかよ?スゲエな。

 

「わ、わたくしだけと聞きましたが……」

 

……いや、それってつまり……ねぇ?

俺は初めてこの腐れアマに同情したが、一夏は持ち前の図太さで遠慮なく斬り込む。

 

「女子では、ってオチじゃないのか?」

 

その瞬間、一夏が発した犬も食わねえような下らねえオチに辺りは沈黙に包まれ、腐れアマはさっきまで舞い上がっていた自分を思い返したのか白い肌が段々と赤く染まっていく。

一夏……ある意味、お前の方がヒデエと思うぞ。

この人数が聞いてる中で『あなたはド盛大にド恥ずかしい勘違いをしてやがりました。ザマァ(笑)』ってド直球で宣告するとは……ヒデエ。

俺が腐れアマに爪の甘皮ほど同情していると、羞恥を誤魔化す為にかは分からないが、腐れアマは俺にキッと視線を向けてきた。

 

「あ、あなたはどうなんですの!?」

 

「俺如きが勝ったんだ。ゲンならさくっと勝てただろ?」

 

一夏も腐れアマに続いて俺に視線を向け、その行動によってクラス全体の目が俺に向いてきた。

つうか一夏よ、オメエ試験官が千冬さんだったらそんなセリフ吐けねえぞ。

信頼されてんのは嬉しいがその信頼は裏切る事になるぜ。

 

「期待してるトコ悪いが、俺は負けたぞ?」

 

「へ?……なん……だと?」

 

千冬さんは俺の勝ちだって言ってたが、俺はアレを勝ちだなんて思っちゃいねえからな。

俺は苦笑い混じりにそう告げるとその事実が信じられないと言うように、今度は一夏の顔が驚愕の色を浮かべ、それに反比例するように腐れアマの表情は喜色を帯びていく。

 

「おーっほっほっほ!!、あれだけ大層な事をおっしゃるからどれ程の者かと思えば……大きな事を言ってもあなたは所詮その程度!!口だけの男という事ですわね!!た・か・が試験官にすら勝てないのですから!!おーっほっほっほ!!」

 

おし決めた、この腐れアマはぜってーにブッ倒す。

言うに事欠いて試験官……千冬さんを高がだとか抜かしやがって……ゼッテーにブッ倒す。

俺の大切な人達を馬鹿にし続ける腐れアマに対して怒りのボルテージがドンドン上がっていくが、俺は静かに耐える。

今ここでこの腐れアマを殴っても何の解決にもなりゃしねえ……正々堂々、コイツの自慢してるISの試合で片を付けてやる。

そんな決意を胸に俺は静かに耐え忍ぶが、一夏は俺に気まずそうな、それでいて悔しそうな視線を向けていた。

多分、大勢の前で恥じ掻かせて申し訳ないとか思ってんだろうが……気にしなくていいのによ。

この空気は、俺が千冬さんに負けたからだしな。

俺は俺に対して腐れアマが出してるウザくて耳障りな笑い声を耐え忍んでいると……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほぅ……成る程な……つまり……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いきなり聞こえた、静かで、それでいて圧倒的存在感を感じさせる声に、全員が声の発生源である『教卓』に視線を向ける。

それは悔しそうに俯いていた一夏や箒も、耳障りに笑っていた腐れアマも、その笑い声を耐えていた俺も例外なく、だ。

その圧倒的存在感の主……つまり……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貴様にとって、『私』は『高が』程度の『存在』……と……そう言ってる訳だな?……小娘

 

『世界最強』の名を欲しいままにする御方……千冬さんはその名に恥じない威圧感を持って、腐れアマに視線を送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『『『……え?』』』』』

 

ここで1度、クラスの全員が目を点にして呆然とした声を出した。

一夏と箒なんか、顎が外れんばかりに驚いて俺を凝視してくる。

な、なんだ?一夏は確かに千冬さんが相手じゃなかったし、知らなくても仕方ねえが箒がなんであんな顔すんだ?

女子は皆千冬さんが相手したんじゃねえのか?……一体どうなってんだよ?

っつうか、なんであの腐れアマまで同じ顔してんだ?

 

「……え?……ど、どういう意味でしょうか?織斑先生……恥ずかしながらわたくし、織斑先生のおっしゃってる言葉の意味が……」

 

俺が周りの様子を把握できずにいると、呆然とした感じの腐れアマの声が聞こえた。

その腐れアマの言葉を皮切りに、一夏や箒なんかの俺を見ていた視線が千冬さんに移り変わる。

俺も同じように千冬さんに視線を向けると、千冬さんはすっげえイイ笑顔で俺に視線を向けてきなすった。

え?なんですかそのイイ笑顔は?

 

「言葉通りの意味だ。鍋島の入学試験を担当したのは『私』だからな」

 

いやだから他の子と一緒で……ん?……んん?……『俺の試験を担当したのは千冬さん』?……あっれえ?

俺は千冬さんの言葉を聞いて、何か引っかかるトコが出てきた。

その事について頭を捻り、思考をブン回していると……。

 

『『『『『えぇぇぇぇえええええええええええええええッ!!?』』』』』

 

「うおぉおッ!?な、何だ!!?」

 

教室から爆音が鳴り響いた。

もうなんかトンでもなくデカイ声で悲鳴を挙げているのは、我が1組生徒一同だ。

俺が振り向いた先に居るのは、もう滅茶苦茶驚きまくっている子ばかりだった。

こ、この女子の反応!?……そしてさっきの千冬さんの笑顔!?……ってちょっと待て!?ま、まま、まさか!?

俺は勢い良く千冬さんに振り返り、今だにイイ笑顔を浮かべている千冬さんに向かって手を勢い良く挙げる。

 

「千冬さぁん!?ガッツリと聞きたい事が出来ちめーました!!クラスの子へクエスチョンしやがっちゃってもよろしいでしょうか!?」

 

「クククッ……あぁ、いいぞ(あぁ……焦る元次もまたイイものだな……いつもアイツの言葉に振り回されている分、尚更に心地いい)」

 

ちょ!?何すかそのSッ気たっぷりの笑みは!?ってそれどころじゃねえよ!?

俺はもう1度後ろのクラスメイト達に視線を向け直し、今朝知り合ったクラスメイトを探す。

 

「え、えーーっと!?なぁ相川、夜竹!!」

 

「「は、はい!?」」

 

俺の叫ぶ様な声による呼びかけで、相川と夜竹は飛び上がるように起立し、俺と目を合わせた。

大声になってスマンけど今は勘弁してくれよ!?

千冬さんの言葉でもうなんかいっぱいっぱいな俺は2人の様子に構わずに質問を始める。

 

「お、お前等も試験官は千冬さんだったんだろ!?」

 

できればそうであって欲しいんだけど!?

 

「ち、違うよ!?私は別の先生だったよ!?」

 

「う、うん!!私も違う!!」

 

「んな!?」

 

だが、無常にも返ってきた返事は試験官が千冬さんでは無いという真実。

じ、じゃあ次の質問は!?

俺はクラスをもう1度見渡し。

 

「本音ちゃん!!君に決めたぁ!!」

 

「ふぇえ!?な、なになに~!!?」

 

IS学園の癒しNo,1ガール、本音ちゃんをセレクトする。

口調がどこぞの赤帽少年に変わったのは気にすんな!!

本音ちゃんがあの電気ネズミっぽいのが原因だ!!

 

「し、試験の内容は、お互いシールドエネルギーが1000の状態からのガチバトルで間違いないよな!?なぁ!?」

 

次は試験内容の確認だ!!こ、これはさすがに合ってんだろ!?

いやむしろ間違っていませんように!!

そんな感じで神に祈りながら、俺は本音ちゃんに質問を投げかけて答えを待つ。

 

「ち、違うよ~~!?『生徒がシ~ルドエネルギ~1000で、試験官の先生は500』だよ~~!?」

 

「What!?マ、マジかよ!?」

 

俺の問いかけに本音ちゃんはトレードマークの長い裾をパタパタと振りながらトンでもねえ真実をご教授くだすったぜ。

っていうか!?こ、ここも違うのか!?

なんかドンドン俺の試験内容だけレベル上がってる気がすんだけど!?

 

「マジだよぉ!?そ、それに、試験官の先生との実技内容は『先生のエネルギ~を400まで減らすか、武器を1つ壊す事』だったもん~~!!」

 

「ブルァァアアアアアアアアアッ!?」

 

本音ちゃんの口から出た余りにも衝撃的な答えに俺は驚愕の叫びをブチ撒けてしまった。

ちょ!?おま、何だよそのイージーレベル!?

え!?本音ちゃん達ってそんな楽なモードだったの!?

じ、じゃあ次は……ええい面倒だ!!

俺はクラスを見渡すのを止めて、全員を視界に納める。

 

「こ、この中の誰でもいい!!誰か俺と同じ試験内容だったって奴か、千冬さんとバトッた奴はいねえか!?居たら手ぇ挙げてくれ!!!」

 

『『『『『……(シーン)』』』』』

 

誰も、誰一人として俺の言葉に手を挙げる子はいなかったです、ぷぎゃー。

え?つまりこのクラスで千冬さんとバトッたの俺だけ?

俺はクラスを見渡していた姿勢からゆぅっくりと教卓に向き直る。

 

「……フッ」

 

そこにおわすわ、何やらとてもイイ笑顔を浮かべて俺に視線を送る千冬さん。

うん、今日も今日とて美人だ……じゃねえよ!!?

 

「ど、どどどどーゆう事っすか千冬さぁぁあああああん!?(ガァアシィイイイッ!!!)」

 

俺は机から身を乗り出して教卓に近づき、千冬さんの両腕をギュッと握り締めて顔をズズイッと近づける。

傍から見りゃキスしそうに見えるぐれえ近く、だ。

 

「な!?なななな何をしてるんですか元次さぁぁああああんッ!?(そ、そんな距離で見詰め合うなんて!!するなら私にすればいいじゃないですかぁ!!?元次さんの馬鹿ぁああああ!!)」

 

横で真耶ちゃんが体全体を使って俺を叱ってくるが、すまねえ真耶ちゃん!!

今の俺は真耶ちゃんに構ってる余裕なんざ皆無なんです!?

 

「んあッ!?な、何をするんだ、げ、げげげ元次!?は……は、は離れ、離れ……ろぉ!?(ち、近い近い近い近い近い近い近い!?いきなり近すぎだ馬鹿者ぉおおおッ!?)」

 

「いーや離しませんよ千冬さん!!この鍋島元次!!キッチリカッチリと全部話してもらうまでは何があろうと千冬さんから離れませんぜ!?」

 

俺が近づいた瞬間、千冬さんの顔色は茹蛸の如く赤くなり、千冬さんは身を捩って逃げようとするが、俺は千冬さんの腕を傷つけない様に、かつしっかりと握って離さない。

普段の俺なら絶対に力負けするだろうが、今は『猛熊の気位』プラス火事場の馬鹿力でパワーアップしてる。

いきなり近づいたのはワリイと思ってるが、今はそれどころじゃないっす!!

何で俺の試験内容が皆と全然違う上にハードだったのか、しっかり説明してもらわんといけねえ!!

 

「ひぅッ!?……あ、な…なぁ……ッ!?(は、離れない……だと!?……な、なな、何が、あ、あって……も?……ぁぅ……ハッ!?く、くぅぅッ!?ま……また、性懲りも無く……一々女を、期待させるな!!……馬鹿者ぉ)」

 

「む、むむむむぅぅうううう~~~~~~~~!!!(ゲンチ~の~……ゲンチ~のぉ~……ぶぁかぁ~~~~~!!)」

 

色々と必死な俺は千冬さんを鬼気迫る程に真剣な表情で見つめ続ける。

そうして数秒程今の姿勢を維持していると、千冬さんはおずおずと俺に逸らしていた顔を向け直してくれた。

さぁ、色々と説明してもらいますぜ!?

 

「まぁず1ぉつ!!なんで俺以外に、このクラスに千冬さんが担当した子がいねーんすか!?」

 

「そ、それは、私が担当した実技試験は、お前だけだからだ(くぅ……こうなったら早く質問に答えていくしかあるまい)」

 

千冬さんのおずおずとした言葉に、俺は少しづつ情報って名前のパズルを組み合わせていく。

まだまだパズルのピースが足りねえからドンドン聞かねえと!!

 

「じ、じゃあ2つ、なんで千冬さんが俺の担当を!?」

 

「……お前の身体能力、力量等を加味した上で、私が決めた……お前の実力では、他の教員を瞬時に倒しかねん。データ収集が目的の実技試験でそれは困る。そう判断した上で私が担当したのだ」

 

「んな殺生な」

 

千冬さんの言葉にそう呟いてしまった俺は悪くないと思う。

俺と千冬さんとの実力差がドンだけ開いてると思ってんですかい?

いくら俺がレベル50くらいと仮定した先生方を倒せる位置に居たとしても、レベル不明の千冬さんに勝てるわきゃあ無いでしょうに。

要は中途半端な強さってわけね、俺。

扱いにくい位置に居たから、どうせならレベル不明と闘わせようってか?泣けてくる。

 

「……さ、最後の質問っす。なんで俺だけ試験内容があんなにハードだったんですか?」

 

これが最大の疑問だ。

いくら俺が強いと千冬さんに思われてたとしても、あそこまでハードな内容じゃなくて良かったと思うんだが。

 

「そ、それは!?……だな……その……(い、いい、言えるわけあるかぁぁああああああ!?たった1ヶ月会えなかっただけでさ、寂しかった等と!!『成長したお前と心ゆくまで楽しみたかった』等と!?恥ずかしくて言えるかぁ!?)」

 

だが、俺が聞いた最後の質問に千冬さんは言いよどんで、視線を明後日の方向に向けてしまった。

あの……千冬さん?今の質問俺が一番聞きてえ事なんすけど?

そのままの姿勢でジーッと待っていたが、千冬さんは一向に目を合わせてはくれない。

なんだ?そんなに話しにくい事なのか?

 

「だ、だから……その……くッ!?えぇいッ!!それは機密事項……だぁッ!!(ズドォッ!!!)」

 

「あっ痛でぇええッ!?」

 

俺が言いにくそうにしている千冬さんをずっと覗き込んでいると、いきなり足の甲に鋭い痛みが奔り、俺はその痛みで千冬さんの腕を離してしまう。

しかも俺の拘束が緩んだ瞬間に千冬さんは縮地並のスピードで俺から距離を取って、荒く息を吐いていた。

い、今ぜってーあのヒールで踏んだでしょ千冬さん!?滅茶苦茶痛えんだから加減して欲しいっす!!

俺は余りの痛みに顔を顰め、足の甲を抑えてしゃがみこむ。

 

「はぁ、はぁ、……と、とにかくだ!!お前の試験内容が他の者と比べて難易度が高かったのは、全てお前の所為だ!!少しは反省しろ!!」

 

「い、いやちょ!?そりゃいくらなんでも理不尽すぎでしょうに!?俺の所為って何すか!?一体俺の何を反省しろってんです!?」

 

「知るか!!お前の存在でも反省しておけ!!大馬鹿者!!(い、いきなりあんな事をしおって!!あ、あんな……あんな……事を……ぶつぶつ)」

 

「遂に存在を怒られた!?ひでえ!?」

 

千冬さんは荒く吐いていた息を整えると、痛みに悶える俺に理不尽な叱責を飛ばしてそっぽを向いてしまわれた。

ちくしょうちくしょうちくしょう!!?酷すぎるぜ千冬さん!!?

幾ら何でも俺の存在を否定するこたぁねえでしょうに!?

俺が千冬さんの心暖まるお言葉に項垂れていると、千冬さんと入れ替わりで俺の目の前に真耶ちゃんと本音ちゃんが詰め寄ってきた。

しかも2人のお顔はふっくらとしてらっしゃるではないか。

え?このクソ忙しい時に今度は何なんですお二人さん?

 

「げ、元次さん!!じ、女性にみだりに近づいたりしちゃダメです!!節度を弁えて下さい!!(私なら、い、いつでもいいのにぃ!!なんで先輩とばっかりなんですか!?)」

 

「そ~だ~!!ゲンチ~は女の子との接し方を~~!!もっとちゃんと考えなきゃダメ~~~!!(ぶぅ~~~!!ゲンチ~のばかばかばかばかぁ!!)」

 

「……は?あ、いや!?別に俺は……」

 

真耶ちゃんと本音ちゃんは揃いも揃ってしゃがみ込んでる俺を上から見下ろしながら怒ってきた。

腰に手を当てていかにも「怒ってるんですよ!?」って雰囲気をプンプンさせてだ。

2人が怒ってるのは、千冬さんとの距離が近すぎたって事らしいが。

た、確かに女性に対して失礼なぐらい近すぎたかもしれねえが、あん時は仕方無かっただろ!?

っていうか真耶ちゃん!?アンタ昨日と言ってる事が真逆だかんな!?

焦った俺はそんなつもりで千冬さんに近づいたわけじゃねえと弁解しようとしたが……。

 

「「俺は~~!?な~~に~~!?(俺は!?何ですか!?)」」

 

「……何でもありません。すんません」

 

「「む~~~~!!!(ぷく~)」」

 

ダメでした。

この2人の顔見てたらもうなんか反論する気も起きねえよ。

とりあえず謝ったし、今はさっきの問題を片付けなけりゃな。

俺は立ち上がって睨んでくる2人から視線を外し、離れた場所で腕を組む千冬さんに視線を向ける。

 

「あ~、つまりなんですか?俺が中途半端に強えから、俺の試験レベルを上げたって解釈でいいんすか?」

 

「……概ね、そんな所だ」

 

「だからって、他の子がイージーモードで俺がEXハードってのは酷えっすよ。俺はIS初搭乗なのに、世界最強とガチバトルだなんて……」

 

俺はそう言って大げさに肩を落とす仕草をする。

なんか納得がいかねえっての。

俺がそう言うと、周りの女子が何やら話し始めた。

 

『ねぇ?今の話が本当なら、鍋島君って弱いってわけじゃ無いのよね?』

 

『う~ん……でもさぁ、幾ら相手が千冬様だったとしても、鍋島君がどれぐらい戦えたかじゃない?』

 

『あっ、確かに。鍋島君は負けたって言ってたけど、それがどんな負け方かによるよね?』

 

『もしかして、瞬殺されちゃったんじゃない?』

 

俺が耳を澄ませて聞いてみると、皆俺と千冬さんの試合が気になってるって感じだった。

まぁ確かに試合内容は気になるか……話すつもりはねえけどな。

と、俺がそんな事を考えていると……。

 

「……鍋島はああ言ってたが、試験はコイツの『負け』ではない」

 

『『『『『……え?』』』』』

 

女の子達の騒ぐ声が聞こえていたのか、千冬さんは不機嫌そうに俺を睨みながらそう言うとクラスの女子に視線を向け直した。

っていうか千冬さん?一体何をおっしゃるつもりですか?

 

「……ど、どういう事だよ、ちふ、……ど、どういう事ですか?織斑先生」

 

千冬さんの言葉に一夏がワケが判らないといった顔で質問するが、千冬さんと言い掛けた時に千冬さんに睨まれて言い直しながら質問を続けた。

その一夏の質問はクラスの総意だったのか、クラスの女子も聞きたそうな顔で千冬さんに注目する。

千冬さんはその無数の視線を鬱陶しそうにしながら……。

 

「言葉通りの意味だ。織斑……鍋島は私に『負けた』んじゃない。寧ろその逆、『勝った』んだ。なのに、それをコイツが受け取ろうとしないだけだ。」

 

クラスターボムを投下した。

 

「ちょ!?千冬さん!!?それは言わないやくそ……」

 

『『『『『えぇぇぇぇえええええええええぇえええぇえッ!?』』』』』

 

「ぎゃああああああ!?耳がぁああああああ!?」

 

千冬さんの爆弾発言に、正しく教室が揺れた。

しかもさっきの比じゃねえ、マジで鼓膜がイカれると思うほどの轟音だった。

オマケに、その轟音が鳴り止んだ時のクラスの女子の顔は凄いとしか言いようがねえ。

皆『信じられない』って表情のオンパレードだ。

まぁそれもそうだろう。

今の話題の真ん中にいるのは『世界最強』の位置に立ってるあの千冬さんなんだ。

その千冬さんが、ISに初めて乗った素人に負けたなんて夢にも思わねえだろう。

もっとも、あれは俺の勝ちなんかじゃねえんだがなぁ……。

俺がそんなクラスの様子に苦笑いしていると、妙に真剣な表情を浮かべて、千冬さんが俺に向き合ってきた。

 

「鍋島……いや、元次。正直に答えろ……何故お前は『負けた』等と言った?」

 

そう俺に問いかけてくる千冬さんは「嘘は許さない」といった雰囲気を纏わせて、俺を見てくる。

 

「あの時の試験……お前は私の乗ったISのシールドエネルギーを400以下に減らし、その上で私の武器も破壊した……試験内容からすれば、完全にお前の勝利なんだぞ?……なぜ受け取らない?」

 

俺はあの入試の時に、千冬さんに言わなかった『理由』の説明を求められた。

おいおい……ここで俺の名前を呼ぶって事は、『教師』としてじゃなく『家族』として聞いてるって事かよ。

周りを見渡すとクラスの全ての目が俺と千冬さんに集中していた。

しかも一夏や箒までもだ。

ここまできたら答えるしかねえじゃねえか……ハァ。

俺は心中で溜息を吐きながら、後ろ髪をガリガリと掻いて千冬さんに向き直る。

 

「……俺にとっての『喧嘩』って奴ぁ『相手をブチのめすか、コッチがブッ倒れる』か……それまで喧嘩は終わりじゃねえって考えてます」

 

「……」

 

俺の言葉を、千冬さんは何も言わずにただ黙って聞いている。

特に何も言われなかった事から、俺は更に話しを続ける事にした。

 

「あん時の試験……最後の俺のエネルギー残量は11で、千冬さんは120あった……千冬さんの武器を破壊したっつっても、それは1本だけで、もう1本あったじゃないすか?あん時、最後にもう1本の刀を呼び出して斬れば、間違いなく千冬さんの勝ちでした」

 

「……それで?」

 

「だからっすよ。勝利条件がどうとか、判定だからとか、そんなモン俺は認められなかったんす」

 

俺は千冬さんの真剣な表情に苦笑いしながら答えた。

そう、俺にとっちゃあの試験だって、言っちまえば『喧嘩』の延長だ。

俺は真剣に、全力で千冬さんと真っ向から『喧嘩』をしてその結果は俺の負け。

ただ、試験って事で判定があったからこその勝利だ……俺はそんなモン、認められなかった。

 

「喧嘩は倒れた奴が負け……あん時、判定とかが無けりゃ俺は間違い無く千冬さんにゃ勝てなかった……だから俺はあの試験は俺の『負け』だって言ってるんです……試験だからとか、ISに乗るのが初めてとか、相手が世界最強とか、判定がどうとかそんなモンは関係ねえ……俺が、『鍋島元次』本人が、あの『喧嘩』は『負け』だって思ってる以上、あれを『勝った』なんて言いたくねえってだけっす」

 

俺は真剣な表情でそう締めくくり、目を瞑って一息つく。

結構長々と語ったが、結局は俺自身の『意地』ってだけなんだがな。

って良く考えたら、俺は大勢の女子の前で何を熱く語ってんだよ……うっ!?そう考えると恥ずかしくなってきた。

余りの恥ずかしさに、俺が目を開けるのを戸惑っていると……。

 

「……判った」

 

と、静寂に包まれたクラスから、一言だけ俺の耳に飛び込んできた。

俺がその声に目を開けると、視界に飛び込んできたのは苦笑いしてる千冬さんだ。

ん?判ったって……何が?

 

「お前がアレを勝利と受け取りたく無いというなら、それでいい。理由が知りたかっただけだからな。……話が脱線し過ぎたが、今はクラス代表を決める時間だ。鍋島、席に戻れ」

 

千冬さんはそう言って出席簿で俺を席に促す。

どうやら試験の事は納得してもらえたみてえだな……良かったぜ。

俺は安堵しながら千冬さんから視線を外し席に戻ろうとクラスの皆へ向き直った。

すると……。

 

『『『『『(キラキラキラッ!!!)』』』』』

 

「うげっ……」

 

向き直った俺を迎えたのは、何やら目をキラキラと輝かせて俺を見てるクラスメイトの視線の嵐だった、一夏や箒まで交じってやがる。

もうなんか目からスターの大放出状態で見てるこっちの目がチカチカしてくるっす。

やめて、本気で穴空いちゃうから。

しかもその視線の中には、何やら面白く無さそうな本音ちゃんの視線まで交じってるし。

俺もうどうしたらいいのさ?

色々と心中穏やかでなくなってきたのでせめてクラスメイトと視線を合わさないようにと、さっさと席に着く。

 

「さて……話しを戻すが、候補者は織斑、鍋島、オルコットの3人だ。投票制にするつもりだったが、お前等はそれでは納得できんだろう?」

 

俺が席に着いたのを見計らって、千冬さんはクラス全体を見渡しながら授業を開始する。

その声によって現実に引き戻されたクラスメイトは、もう一度視線を千冬さんに向け直した。

つうか、あのキラキラ状態のクラス全員をたった一言で元に戻すって……千冬さん、マジぱねえよ。

 

「あぁ。男が喧嘩売られたんだ。ここまで来て引っ込むつもりはない」

 

「……あ、当たり前ですわ!!例え相手が誰でも、一度決闘を宣言した以上、投票に身を任せる等という選択肢はありません!!」

 

千冬さんの確認する言葉に、一夏は真剣な表情で、さっきまで放心していた腐れアマは必要以上に声を大きくして各々返事をした。

 

「ふむ、なら話しは早い。勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。織斑、鍋島、オルコットの三名は用意しておくように。」

 

一夏と腐れアマのヤル気満々な台詞を確認した千冬さんは俺達の喧嘩場所を指定して言葉を締め括る。

ま、ここまで来たらイモ引くわけにゃいかねえよな。

っていうか一夏と腐れアマには確認しておいて俺に何の確認も無しとはどーゆう事?差別酷いよ千冬さん。

いや俺も充分乗り気だけどさ。

 

「もう喧嘩売った買ったは成立してるしな。もちろん俺も暴れる気だぜ?」

 

俺は闘志みなぎる対照的な2人を見ながら笑顔で返す。

 

一夏はそんな俺に挑戦的な笑みをもって俺と視線を交わしてくる。

大方、俺が千冬さんに勝ったって言われてたのがアイツの闘志って名の火にガソリン注いだんだろう。

アイツの目標は千冬さんを、家族を守るって事だったしな。

 

一方で腐れアマは、俺に対して怒りを隠そうともしない表情で睨んでいた。

まぁあんだけボロクソに言われりゃそんなツラにもなるか。

オマケに馬鹿にしていた俺が、実は自分なんかよりずっとハードな試験をクリアしてたってのがトドメだろうよ。

あんだけ自信満々に言ってた試験官を倒したって事実は、実は全然たいした事無かったんだ。

クラスでそれを公言されりゃ大恥掻くのは当たり前。

しかもアイツの成績がトップでしたってのは自称だったのに比べて、俺の成績は世界最強の千冬さんからのお墨付きとくれば女尊男卑の志向に染まりきったアホには面白くないだろう。

 

俺がそんな事を考えていると、腐れアマは俺を指差して……。

 

「織斑先生が貴方の様な下劣極まる品性の欠片も無い人間に負けた等と、わたくしは認めません!!わたくしが貴方を完膚なきまで叩きのめして差し上げますわ!!逃げるなら今の内でしてよ?」

 

途轍もなく馬鹿な台詞をプレゼントしてくれやがった。

おいおい……周りを見てみろよ?もうなんかクラスの視線が「呆れて何も言えません」ってなってんぞ?

挙句にゃ千冬さんまで同じ顔してるし……やっぱり馬鹿なのか?

いやまぁ俺は普通に言い返すだけだがな(笑)。

 

「ぴーぴー喚くんじゃねえよゴミアマ。テメエは喚くしか能がねえのか?あぁ、後シカト決め込むのがあったか?いやぁ悪い悪い!!」

 

「ごッ!?あ、貴方は暴言のバリエーションだけは豊富なようですね……!?そこだけは褒めて差し上げますわ!!」

 

「テメエに褒められたってこれっぽちも嬉しくねえよ。いい加減そのベラベラ喋る口閉じとけ、授業の邪魔だろうに」

 

「ぐぐぐ……ッ!?」

 

さすがに俺も腐れアマに構うのが面倒くさくなってきたので、適当にあしらって視線を外した

いい加減本気で鬱陶しいぜ。

これ以上アイツを視界に収めるのすら嫌んなってきたし。

一夏もこれ以上は言うつもりは無いみてえで、俺と同じ様に席に着いて教卓の方を向いていた。

とゆうか、もうクラスの誰もが授業の続きを始める体勢に入ってる。

教卓に居る千冬さんも、そんなクラスの様子に同意なのか、腐れアマ以外の全員が授業の続きが始まるのを待っている。

 

 

まぁ、つまりはもうこの議題は終了したって事だったわけで、俺はもうアイツの事なんてどうでも良かったんだ。

 

 

 

 

なのに…………。

 

 

 

 

 

「……フンッ!!!人に罵詈雑言を言うだけ言っておきながら勝手に会話を終了させるとは、『親』の教育がなってませんわね!!……全く」

 

 

 

 

 

この腐れアマは…………。

 

 

 

 

 

「貴方の『家族』は、どうやら貴方同様に『下種な人間の集まり』の様で――

 

(ドガァァァアアアアアアアアンッ!!!!!)

 

――ヒィッ!!!??」

 

 

 

『『『『『きゃぁあああぁあぁぁあッ!?』』』』』

 

 

 

事もあろうに……。

 

 

 

 

「今ッ!!何つったゴラァッ!!!!!」

 

俺の『怒り』に触れやがった。

 

 

 

俺はこれ以上はねえってぐらいの怒声を、ヤマオロシに使った時より強い威圧を込めて叫ぶ。

体中に湧きあがる怒りの勢いで自分の机を思いっ切りブン殴り、粉々に破壊して立ち上がる。

俺はそのまま後ろに振り返って、腐れアマを射殺すつもりで睨みつけてやる。

 

「ヒ、ヒィィイイイイイッ!?」

 

すると、俺と目があった腐れアマは顔色を青くして地面に座り込んでいく。

俺はそんな引け腰の腐れアマを見下ろしながら只怒りのままに声を大にして叫ぶ。

 

「この俺のッ!!俺の『家族』を侮辱しやがったのかッ!!?あぁッ!!?」

 

(ガシィッ!!!)

 

「かはッ!?あっ!?い、嫌ぁ……」

 

さっきまで平和だったクラスを、俺の怒りと俺の怒りによる恐怖が染め上げていく。

俺の声に腐れアマだけでなく、周りのクラスメイトも涙を流して震えていた。

だが、俺はそれに構っていられるほど冷静じゃなかった。

 

コイツは!!この腐れ金髪は今何てほざきやがった!!??

俺の『家族』を!!あんなに優しい婆ちゃんやお袋を!!

ガキの頃からずっと俺を見守ってくれてた親父や爺ちゃんを!!

事もあろうに『下種な人間の集まり』だとかほざいて侮辱しやがったのか!!?

許さねえ!!コイツだきゃあ何があっても許さねえ!!!

 

俺はズンズンと大股に歩いて腐れアマに近づき、胸倉を掴んで足が浮く位置まで持ち上げ、鼻がぶつかりそうな位置で自分の怒り全てを浴びせる。

もう既に涙と鼻水でグチャグチャになっている腐れアマに殺意の視線を浴びせながら罵声を咆哮した。

 

「優しくしてりゃ頭に乗りやがってッ!!ブチ殺がすぞこんガキャアッ!!」

 

「あ、あぁ……あぁあぁぁ」

 

腐れアマは俺の叫びに只震え、言葉にならない声をあげるだけだ。

もういい、ISでの正々堂々とした喧嘩なんか知ったこっちゃねえ。

今この場でブチ殺してやる。

俺は体中に湧きあがる怒りのままに拳を握りこんで、腐れアマの顔面をグチャグチャにしようとした。

 

「落ち着け、元次(ヒュボッ!!)」

 

「あぁッ!?」

 

だが、今まさに握りこんだ拳を腐れアマの顔面に叩き込もうとした時、教卓の方面から出席簿が俺目掛けて飛んできた。

俺はそれを叩き落すために、握りこんだ拳を出席簿に向けて振り放つ。

その時に腐れアマを掴んでいた胸倉から手を離した。

 

「(ドサッ)きゃッ!!?あ、あぁぁ……」

 

俺は出席簿叩き落して、それを投げてきた人間に振り向く。

すると腐れアマは短い悲鳴を上げながら後ずさって俺から離れていく。

俺は腐れアマには一切構わずに教卓を睨んだ。

 

「千冬さんッ!!!アンタ邪魔すんのかよッ!?」

 

教卓に立っていた人間……千冬さんにも、俺は威圧感を込めた声で叫ぶ。

だが、俺の威圧を込めた叫びに対して、千冬さんも同じ様な……いや、俺以上の威圧感を纏って俺を正面から見返してくる。

 

「お前が怒る気持ちは痛いほど判る……だが私は教師だ。生徒が生徒をなぶり殺す現場を見過ごすワケにはいかない……さっきも言った様に、この騒動の決着は1週間後のクラス代表決定戦でやれ。それで満足しろ」

 

「……」

 

俺はグツグツと煮え滾る怒りを少しだけ抑えながら考える。

千冬さんは今この場は怒りを収めて来週のISを使った戦いでこの腐れアマを叩きのめせって言ってるんだ。

今ここで俺が暴力を振るうなら、千冬さんはそれを止めないといけないと。

教卓に立っている千冬さんを良く見てみると、千冬さんも拳が真っ赤になるまで握りこんでいた。

俺と同じで、腐れアマの言葉にキレてんだろう。

机から立ち上がって俺に視線を向けてる一夏もそうだ。

千冬さんも一夏も俺の家族とは昔から縁があるし、何より2人とも俺の家族は良い人達だって言ってくれていたからな。

 

ここが潮時か……これ以上暴れたら、俺は2人の信頼を裏切る事になっちまう。

 

俺は一夏と千冬さんの真剣な目を見て、怒りを落ち着かせていく。

落ち着かせるというよりも、怒りに蓋をして抑え込むようにだ。

この怒りは……1週間後にぶつけてやりゃあいい。

俺が気持ちを抑え込んでいくと、俺の怒りに呼応してオートで発動していた『猛熊の気位』も解けていった。

 

フゥー……ッ!!フゥー……ッ!!…………すんませんでした、織斑先生」

 

昂ぶっていた気持ちと精神を大きく息を吐く事で鎮め、普段通りになった俺は千冬さんにしっかりと頭を下げる。

俺が切れた所為で迷惑かけたしな。

金髪?アイツに下げる頭なんざねえよ。

 

「……落ち着いたか?」

 

俺が下げていた頭を上げて目にしたのは、俺に優しい声音で問いかけてくる千冬さんの姿だった。

表情はいつもと変わらねえが、優しい眼差しで俺を見てくれていた。

 

「もう大丈夫っす。それと、机すんませんでした」

 

俺の視界の先には、俺のパンチでブッ潰れてグチャグチャのアートに変貌した電子机だったモノが鎮座している。

あれ、かなり高そうだったが……請求されませんよね?

 

「まったく……鉄製の上に、厚さ5センチもある電子机を拳1発で叩き壊す奴があるか、150キロまで耐えられる代物だぞ?」

 

千冬さんは俺の言葉に、机を一目見てから溜息を吐いて俺に小言を贈ってきた。

いやマジすんません。

本気の本気でブッ叩きましたから(汗)

 

「今からその残骸を持って備品庫に向かえ。それと入れ替えで新しいのを貰って来い。職員には連絡しておく」

 

千冬さんはそう言って教室のドアを指す。

まぁブッ壊したのは俺だもんな。

責任持って片付けておかねえと。

 

「で、でも織斑先生?その電子机、100キロはありますよ?元次さん1人では、大変なのでは?」

 

と、俺が自分の机に戻っていくと、真耶ちゃんが千冬さんにそう質問していた。

俺が真耶ちゃんに目を向けると、なんと真耶ちゃんは俺を見てウインクしてくれるではないか。

その真耶ちゃんのウインクを見て俺はかなり驚いた。

今さっきの俺の怒り状態っつーか、ブチキレ状態を見ても変わらず接してくれんのかよ……真耶ちゃんって本当に優しいんだな。

やべ……滅茶苦茶嬉しいぜ。

俺はなんか暖かい気持ちになりながら真耶ちゃんに笑い返して声を掛ける。

 

「大丈夫だぜ真耶ちゃん。よっこいせっと(グォオ)」

 

俺は真耶ちゃんに笑い掛けてから、苦も無く机を担いで肩に乗せる。

100キロなんてなんのその、超パワータイプ舐めんなよ?

 

「わぁ……本当に力持ちなんですね。元次さん」

 

そう言って微笑んでくれる真耶ちゃんとその様子を見て満足そうにしている千冬さんに、俺は感謝の意味を込めてウインクを1つ返す。

 

「ッ!?……は、早く行って来い(全く……いつでも油断ならないな、お前は)」

 

「は……はうぅ(ウ、ウインク返しされちゃった……もぉ、卑怯です)」

 

俺がウインクを返すと、千冬さんは顔を赤くしてそっぽを向いてしまい、真耶ちゃんは何やら唸り声をあげてしまった。

うん、2人とも可愛い……声に出しゃしませんがね?恥ずかしいにも程があるっての。

 

「へ~い、んじゃ行ってきますわ」

 

俺はそのまま教室の扉に向かい、途中で心配そうな顔をしている一夏と箒に笑顔を見せておいた。

アイコンタクトで「もう大丈夫だから心配するな」と伝えて。

それがちゃんと伝わったのか、二人はちゃんと頷いてくれた。

ホント……良い奴等だぜ。

そのまま扉を開けて外に出ようとしたが、俺はもう1つの用を思い出して足を止める。

 

「あ~、そうそう。皆」

 

『『『『『ひッ!?(ビクゥッ!!!)』』』』』

 

俺が教室に振り返りながらそう言うと、クラスメイトの子達は皆俺を怖がってる顔をしていた。

まぁあんなモン見ちまったらそう見られても仕方ねえよな。

これは完全に俺の自業自得だ。

俺はそんなクラスメイト達に苦笑いしながら声を掛ける。

 

「悪かったな、急に怒鳴っちまって……怖がらせてスマネェ……そんじゃ」

 

俺はそれだけ言って教室から廊下に出て、備品庫を目指す。

 

……1週間後の喧嘩……何が何でもぜってーに勝つ!!!

 

俺は絶対に負けられない喧嘩に覚悟を決めて、備品庫までの道のりをゆっくりと歩いていく事にした。

 

 


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