IS~ワンサマーの親友   作:piguzam]

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俺の兄弟は……ヤルときゃヤル男さ。

 

やあ、アパチャ、ゲフンゲフン……失礼、IS学園のビースト事、鍋島元次だ。

 

現在、俺の機嫌は非常にハイで少しばかり落ち込んでいる。

機嫌が良いのは言わずもなが、俺の大事な家族を侮辱した腐れアマを完膚無きまで叩きのめしてやれたからだ。

いや~しっかし、さっき腐れアマに使った『武器』はかなり強力だったな。

正直なトコあの1発でノックアウトできるとは思ってなかったんだが……あれか、『篠ノ之束の科学力はぁ世界一ぃぃいいいい!!』って事だなうん。

しかも俺の拳での戦いを大幅にパワーアップできる様に設計されてるんだからなぁ……束さんマジ感謝っす。

 

まぁ詰まる所、束さんからのサプライズプレゼントであるオプティマスのカッコよさ、そして腐れアマ討伐クエストを無事成功させたことが俺の機嫌をハイにしてるってことだ。

じゃあ少しばかり落ち込んでるのは何でかっつうと……。

 

「おい、聞いているのか鍋島?」

 

「聞いてます、しかと、しかと聞いてますとも織斑先生」

 

「全く、相手の出方も把握せずに特攻など仕掛けるからああなるんだ。よくもまぁあんなお粗末な戦い方をしたものだな」

 

「仰るとおりっす……反省しまっす」

 

現在進行形で千冬さんからのありがたーい駄目出しをピットの床に正座しながら受けてるからです、はい。

しかもオプティマス装着したまんま正座してるから情けねーのなんのって……でも、ちっとくらい褒めてくれたっていいじゃないっすか。

俺頑張ったよ?ちょー頑張った。

俺より長い時間ISに触れてる代表候補生相手に、一次移行(ファーストシフト)も終わってないISで対等以上に戦ったんだぜ?

オマケにしっかりと文句の付け様がねえぐらいにブチのめしたぜ?

それがピットに戻ってきた瞬間有無を言わさず正座を言い渡され駄目出しとは……ヒデエ話しだ。

 

なんせ俺を出迎えたのは不機嫌気味な千冬さんだったわけで、逃げ場も無かったしな。

ちなみに真耶ちゃんは千冬さんの横で苦笑いしてるだけで止めてはくれねえ。

一夏と箒は巻き込まれない様に我関せずを貫いてやがるし、本音ちゃんは正座させられてる俺を楽しそうな目で見てらっしゃる。

ここには俺の味方はいねえのかよ。

 

「まぁ、今回はここまでにしておくが……次に同じことをしたら私自ら稽古をつけてやる。いいな?」

 

千冬さんはそう言って毎度お馴染みになってきたサディスティック溢れる笑顔で俺に笑いかけてきた。

勘弁して下さい、俺はまだ死にたくありましぇん。

もはや言葉も返すのが怖くなってきたので、首をブンブンと縦に振って千冬さんに返事を返しておく。

俺の返事に、千冬さんは満足そうに頷いて離れた場所でウォームアップしている一夏の方へ歩いていった。

多分次の試合の注意事項とかを話すんだろうな。

 

「あはは……と、とにかくお疲れ様でした、元次さん。試合凄かったですよ?……とっても頑張りましたね♪」

 

と、俺が返事を返して話しが途切れたのを見計らって、真耶ちゃんが俺に労いの言葉を掛けてくれた。

いつもとは一味違う慈しむ様な笑顔を浮かべる真耶ちゃんに、俺は胸が暖かくなりました。

あぁ、ほんとに良い女だなぁ真耶ちゃんは、やさぐれかけてた俺の心が急速に癒されるっす。

 

「真耶ちゃん……そう言ってくれんのは真耶ちゃんだけだぜ……ありがとうな」

 

「い、いえそんな♪(そ、それに……とってもカッコよかったですよ……って言えたらなぁ)」

 

俺が感謝すると、真耶ちゃんは頬に片手を当てて、もう片方の手をブンブンと振ってきた。

手を当ててる頬が赤いトコを見ると、照れてるんだな。

もうなんかホントに真耶ちゃんって年上に見えないぐらい可愛いっす。

偶にさっきみたいな大人っぽいつうか妖艶な女に変わるけど。

 

「ぶ~ぶ~、私は私は~?私にはお礼はないの~?差別はんた~い(パタパタ)」

 

と、俺が真耶ちゃんの可愛さに和んでいると何も言われなかったのがお気に召さなかったのか、本音ちゃんが裾をパタパタさせて講義してきた。

しかも頬はリスの様に膨れているし、目も不機嫌になってる。

 

「も、モチ本音ちゃんにも感謝してるぜ?今日までずっと俺の勉強見てくれたんだからな。本当にサンキュ、本音ちゃん」

 

俺はそんな剥れっ面の本音ちゃんに慌てて笑顔でお礼を言う。

実際本音ちゃんに勉強手伝ってもらったのはかなり助かったからな。

俺が空を難なく飛べたのだって本音ちゃんのアドバイスが大きい、もし無かったら飛べなかったかも知れねえし。

 

「む~」

 

だが、俺のお礼の言葉を聞いても、本音ちゃんの頬っぺたは膨れたまんまだった。

え?な、なんでっすか?

俺がそんな本音ちゃんの態度に戸惑ってると、本音ちゃんは膨れた頬をそのままに腕を組んで俺を見てきた。

 

「む~む~、ご褒美を所望する~1週間分のご褒美が欲~し~い~よ~(パタパタ)」

 

「何と!?」

 

やがて本音ちゃんの口から出た言葉に、俺は声を挙げて驚愕してしまった。

い、一週間分だって!?た、確かにこの一週間は本音ちゃんに付きっ切りで勉強教えてもらったしなぁ。

俺は改めて俺に向かって裾を旗のように振り回しながら「欲~し~い~欲~し~い~」と駄々っ子になってる本音ちゃんを見てみる。

考えてみりゃ、本音ちゃんだって友達と遊びたかったかもなぁ……まぁ遊び盛りの年だしな俺達。

それなのに俺の勉強を親身になって見てくれたんだよな……うん、何かしら恩返ししとかねえと可哀想だ……よし。

 

「ふ~む……わかった、本音ちゃん。俺が出来る範囲で良いってんなら、何かお礼をさせてもらうぜ?」

 

俺が考えを固めてからそう言うと、本音ちゃんは裾をパタパタすんのを止めて、俺に期待の眼差しを向けてきた。

案外切り替え早いな本音ちゃん、これが噂に聞く高速切り替え(ラピッドスイッチ)なのか?

 

「ホント!?じ、じゃぁ……え、えっとぉ~……そにょ~……(モジモジ)」

 

だが、目をキラキラさせたのも束の間、今度は顔を赤くして両手を摺り合わせながらモジモジとし始めてしまった。

顔は何やらニヤニヤしてるけど、ちょっと恥ずかしそうに下を向いている。

な、なんだこの女子力ならぬ萌え力は!?

俺が本音ちゃんの萌え攻撃にダメージを受けてる間も、本音ちゃんはモジモジとしながら何かを言おうとして言いよどむという状態のままだ。

こ、これはどうしたらいいんだろうか?……思いつかないなら、俺から何か提案した方がいいのか?

 

「あ、あのね?あのぉ~……うゅぅ~~(い、言うの恥ずかしいよ~……で、でもでも、ちゃんと言わないと……ファイトだ~私~!!)」

 

「う~む、本音ちゃん?もし思いつかねえんなら、1週間俺の手作りデザート食べ放題ってのはどうだ?」

 

俺は本音ちゃんが気にいる事間違い無しのプランを笑顔で口にする。

ふっふっふ、既に本音ちゃんは俺のデザートの虜だからな。

これなら本音ちゃんも喜ぶこと間違いね……。

 

「……(ぶっっっっすぅ~~~~)(ふ~~~~~ん?ゲンチ~の中では~、私はそ・ん・な・に!!安い女の子って事なんだね~……ばか)」

 

「……あ、あれ~?」

 

だが、俺の提案を聞いた本音ちゃんの顔は何時もの15倍は不機嫌になったではないか。

本音ちゃんは腰に手を当てて、オプティマスを装着したまま正座してる俺をスッゴイ不機嫌な顔で睨んでくる。

俺は本音ちゃんの変わり様が理解できず冷や汗を流してしまう。

ハッキリ言っちまえば、怒り状態だったヤマオロシより遥かに怖いっす。

な、何故だ!?本音ちゃんは甘い物にゃ目がねえ筈!!何でこんなに不機嫌になっちまったんだ!?

 

「あ、あのぅ、元次さん?と、とりあえずですね。1度ISを待機状態にしてくれませんか?注意事項とかありますので……」

 

と、俺が本音ちゃんの変わり様が判らず焦っていると、横から真耶ちゃんがやんわりと声を掛けてきた。

よ、よし!!取り敢えず本音ちゃんの事は保留で逝こう!!さすがに何時までもオプティマスを装着したままじゃいられねえからな!!

俺は自分に言い聞かせるように心の中で考えを纏めるとそのまま真耶ちゃんに向き直る。

……後からじと~っとした怖い視線を感じるが、今は気にしちゃいけねえ。

 

「お、おう。了解だ……(パァアッ)……良しっと」

 

俺は1度正座状態から立ち上がって、オプティマスに待機状態になるよう命令を出す。

すると、俺に装着されてたオプティマスは粒子に変わり、俺の身体から離れた。

俺はダンッと音を立てながらピットの床に着地して、自分の身体を見渡す。

IS、というか専用機ってのは、待機状態では操縦者のアクセサリーとして身体の何処かに残るらしい。

そんでまぁ自分の身体の何処に待機してるか探してみたんだが……。

 

「おっ?これがオプティマスの待機状態か?……ってこれは……」

 

俺が違和感を感じたのはオデコと耳の辺りで、何かが引っかかってる様な感触だった。

試しにそれを額から外すと、最初に目に付いたのは黒色のガラスっぽい何かとシルバーのフレームだ。

これってもしかして……。

 

「あっ、元次さんのISの待機状態はサングラスなんですね」

 

「……おぉ……コイツはサイコーにクールだ」

 

俺はその余りにクールな造形に思わず溜息を吐いてしまった。

そう、つまりこれはサングラスだ。

しかも素人の俺でも質感がハンパ無く良い代物だと判る。

サイドフレームから基本フレームまで全てにクロームが施され、目を隠すサングラスの部分は外側から見ると真っ黒。

だが中から見れば薄くスモークが掛かってる程度なので、外からは目の動きが見えないが中はハッキリと見える。

ガラスの面積は横長で縦幅は細く、野暮ったい感は微塵も感じさせないスマートな創りがスゲエカッコイイ。

右側のサイドフレームには、俺のイントルーダーに施したのと同じようなフレイムスストライプが掘り込まれてる。

しかも反対側、つまりサイドフレームの左側には英語のスペルで『Optimus Prime』と輝きの強いクロームメッキで刻まれているじゃねえか。

オマケに何とスペルは浮き彫り仕様、もう全体的に滅茶苦茶クールなグラサンだ。

 

実を言うと、俺はグラサン大好きなんだが今までどのグラサンも俺には似合わないかったとゆーか、俺好みのグラサンが無かったから付けてなかったんだ。

だが、このグラサンは全部が全部俺好みに作られてる。

まるで俺の好み全てを凝縮して俺の為に作られた様な感じだ。

そういや……俺好みのグラサンが無いって、1度束さんに愚痴ったような……やっぱこれも束さんが作ってくれたのか?

ってゆーかそうでないと説明つかねえか。

何せオプティマスは束さんご謹製のワンオフカスタムISなんだし……待機状態まで俺好みにしてくれるなんて……最高っす。

 

俺は心の中で束さんに感謝して、手元でジッと見ていたグラサンを掛ける。

視界は若干暗くなるが、それでも充分外の様子は判るな。

ピットの窓に映った自分を見てみると、其処には悪な雰囲気が漂う俺の姿が映っていた。

うん、俺としてはかなりイケてるぜこのグラサン。

 

「へへっ、どうよ真耶ちゃん?このグラサン似合うか?」

 

俺は長年欲しがってた理想のサングラスが手に入って嬉しかったので、笑顔を浮かべながら真耶ちゃんに感想を求めた。

ヤッパこーゆーのは他人に似合うって言われたら一番嬉しいからな。

そして、俺の問いに真耶ちゃんは頬を赤く染めて驚いた顔を浮かべていく。

 

「そ、そそそうですね!?……と、とっても……似合ってます♡……(わ、悪っぽい元次さんも……素敵……攫われたぃ……♡)」

 

「お、おう。ありがとう」

 

何故にどもった?そして何故に瞳がとろんとしてんだ真耶ちゃん?

俺の顔を見てくる真耶ちゃんの瞳が段々と妖しくなってきたので、俺は本音ちゃんの方を向くことにした。

逃げたワケじゃないよ?ホントだよ?

 

「ほ、本音ちゃんはどう思う?俺のサングラスすが……」

 

だが、俺は最後まで言葉を続けられなかった。

何故なら。

 

「……(ぶっっっっすぅ~~~~)(私をほったらかしておいて~、自分のサングラスの事を聞いてくるんだね~~……ふぅ~~~~~ん?)」

 

「……oh」

 

未だに本音ちゃんは不機嫌15倍増しで俺の事を見ていたからだ。

うん、この状況で「俺ってグラサン似合ってる?」なんて聞いたら更に不機嫌になっちまうだろうな。

なんかそんな確信がある。

っていうか、なんで本音ちゃんはこんなに不機嫌何でせうか?

何だ?俺のデザートじゃ不満だったのか?

俺はグラサン越しに本音ちゃんに睨まれて冷や汗を流してしまう。

 

「……ゲンチ~」

 

「はい。何でしょう本音ちゃん?」

 

敬語になったのも仕方ないと思ってくれ。

こんなに機嫌悪い本音ちゃんは初めてな上に、本音ちゃんのオーラに気圧されたんだからよ。

俺が直立姿勢で返事を返すと、ふくれっ面のまま本音ちゃんは俺を睨むとそのままズイッと頭を突き出してきた。

……すいません、ぼかぁ一体どうしたらいいんでしょう?頭突きのコツでも伝授したらよろしいんでしょうか?

本音ちゃんの行動の意味が判らずそのままボケ~っとしていると、何もしない俺に焦れたのか本音ちゃんはまたもや頬っぺたを膨らまして……。

 

「……撫で撫でして」

 

「……へ?」

 

俺を睨みながらそんな素敵過ぎる事をのたまってくれやがりました。

すいません全く意味がわかりませんぜ本音ちゃん。

何がどうなったらそんな結論に達したんだっつーの。

 

「今日まで手伝ったご褒美に……頭撫でて」

 

そう言って本音ちゃんは更にズズイッと頭を差し出してくる。

ってホントにそんな事でいいのか?

明らかにデザートとかの方が本音ちゃんも喜ぶと思ったんだが……。

 

「……そ、そんなんでいいのか本音ちゃん?1週間が不満だってんなら、何なら1ヶ月ぐらいデザート進呈しても……」

 

俺は戸惑いながらも本音ちゃんに聞き返す。

すると本音ちゃんは肩を震わせながら、俯いていた顔を上げて……。

 

「……(ぐすっ)撫でてくれないと……泣いちゃう……もん(グスッ)へ、部屋でもずっとぉ……泣ぃちゃぅもん(ウルウルウル)」

 

「よぉ~しよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしホントにありがとうな本音ちゃん!!もう命一杯撫でてあげますとも!!(ナデナデナデナデ)」

 

涙腺崩壊一歩手前の悲しそうな顔を見せてくれた。

声まで悲しそうに震えてるではないか。

 

俺は本音ちゃんの潤んだ瞳を見た瞬間速攻で本音ちゃんの頭を撫でた。

ピカピカの実を食った黄猿も真っ青のスピードで撫でた。

ムツ○ロウさんもビックリするぐらいの情熱で撫でた。

っていうか考えるまでも無かったぜ。

ココで泣かれる=千冬さんにデストロイされる。

部屋で泣かれる=ジワジワチクチクと俺の良心が削られやがて自滅。

うん、考えるまでもねえや。

 

「……えへへ♪も、もっとぉして~♡(山田先生を抱っこしてた時も……織斑先生と見詰め合ってた時も……胸がチクッてしてたけど……ゲンチ~に撫でられると……ほわっとするぅ♡)」

 

俺に頭を撫でられた本音ちゃんは、この世の全てを癒してくれそうなほんわかボイスで更におねだりしてきた。

やべえ、マジ可愛いんだけどこの娘。

俺はそのまま何も言わずに行動で示す事にし、本音ちゃんの満足行くまでたっぷりと頭を撫でてあげていた。

 

「……何をしている、鍋島」

 

と、俺が本音ちゃんのお願いをしっかり叶えていると、後ろから不機嫌そうな声が聞こえてきた。

その声に首だけで振り返ってみると、そこには何やら不機嫌そうな顔をした千冬さんがいらっしゃった。

その千冬さんの後ろには、何やら呆れ顔の箒とポカンとした顔の一夏が居た。

いや、まぁ何をしてると言われましても……ねえ?

 

「いや、なんか本音ちゃんがね?この1週間勉強を手伝ったご褒美に頭を撫でて欲しいと言うもんすから」

 

「うにぅ~♪そうです~♪これは~1週間ゲンチ~の勉強を手伝った~ご褒美なので~すぅ♪(やっぱり私は~ゲンチ~の……こ、事が……だ~い好きになっちゃったのだぁ♡……へへ♪)」

 

俺が千冬さんに答えると、本音ちゃんも追従するように千冬さんに答えた。

しっかしさっきまでの悲しそうなオーラは何処へやら、顔どころか声までほわっほわですよこの娘は。

あぁ、なんか撫でてるだけの俺まで癒されてくるぜ。

段々と撫でるのが楽しくなってきた俺は、幸せいっぱいなスマイル状態の本音ちゃんと同じ様に笑顔を浮かべていく。

 

「(ピクッ)……そうか……だが其処までにしろ、以後そういう事はあまりするな。(元次……布仏を落としおったな……これで何人目だと思ってる……この女誑しが……)」

 

「え?なんでっすか?」

 

だが、俺達の答えを聞いた千冬さんは何やら綺麗な眉毛をピクピクと動かしながら俺と本音ちゃんにそう言ってきた。

本音ちゃんもさすがに止められると思ってなかったのか、目を白黒させている。

 

「ど、どうしてですか~織斑先生ぇ~!?こ、これはゲンチ~のお手伝いをしたからなんですよ~!?せ~と~な報酬なんですよ~!?」

 

さすがに納得が行かなかったのか、本音ちゃんはまたもや裾をパタパタと振りながら千冬さんに詰めよる。

だがそんな本音ちゃんを見ても千冬さんは涼しげに笑うだけだ。

 

「それは布仏が善意でやった事なのだろう?ならご褒美などを要求するのはおかしいと思っただけだが……それともまさか、最初からそれ目的でやっていた訳ではあるまい?ん?」

 

「う、うにににに~~!!」

 

「た、確かに生徒同士でそうゆう事をするのは、いけないと思います!!風紀の乱れに繋がりかねませんから!!」

 

そこへ何時の間にか復活した真耶ちゃんまでもが千冬さんの言葉を肯定してくるではないか。

教師2人から突然言い渡されたご褒美禁止令に今や本音ちゃんの頬は風船の如く膨らんでいくばかりだ。

あぁ!?折角本音ちゃんの機嫌を必死こいて治したってのによぉ!?

ってゆうか真耶ちゃんぇ……風紀の乱れって何だっつの!?

今や目の前には本音ちゃんと真耶ちゃんと千冬さんという三つ巴の構造があっと言う間に出来上がっちまった。

 

「あ、あの。織斑先生?一夏の試合はいいんすか?」

 

目の前で展開されている場の雰囲気に、my胃がキリキリしてきたので俺は話題を変えるべく千冬さんに話しかけた。

っていうかいつまでもこんな事しててアリーナの使える時間は大丈夫なのか?

 

「織斑の試合は予定では50分後に開始だ。オルコットのISの武装が全て大破状態の為、現在予備パーツへの組み換えが行われている……それにオルコット自身はまだ気絶したままだからな。もしも時間までにオルコットが目を覚まさなかった場合は、繰上げでお前達の試合となる」

 

千冬さんは本音ちゃん達と睨みあっていた目を俺に向けながらそう言ってきた。

あらら、あの腐れアマはまだ気絶してんのかよ。

まぁやりすぎたなんて微塵も思っちゃいねえがな。

 

「じゃあ、俺と一夏はその後って事っすか?」

 

「そうだ。その頃には織斑のISも一次移行(ファーストシフト)が終わってる筈だ。同じ条件でなければフェアな勝負ではない……もっとも、操縦者の条件は大分離れているが」

 

「うぐぅ……家族の言葉が胸に痛いぜ」

 

「し、仕方ないだろう一夏。さすがにコレばかりは何とも言えん」

 

「幼馴染みの言葉も辛い……世間は冷たいなぁ」

 

俺と千冬あんのやり取りを隣りで聞いていた一夏は、千冬さんの言葉に項垂れた。

更に追い討ちとばかりに一夏に掛けられる箒の言葉に、遠い目をしだす。

でもまぁ事実だしなぁ……まだ今の一夏じゃ俺を生身で仕留めるのは夢のまた夢ってヤツだ。

せめてヤマオロシに勝てるぐらいじゃねえとな。

俺は遠い目をする一夏と、そんな一夏の様子に苦笑いを浮かべている箒を見ながらそんな事を考えていた。

 

「あっ、それと元次さん?ISの注意事項についてなんですけど……」

 

と、幼馴染み2人の様子を見ていたら、横に居た真耶ちゃんから声を掛けられたので俺は意識を真耶ちゃんに向け直す。

危ねえ危ねえ、そういや話が脱線してたけどISの注意事項があるんだったよな。

そして声に釣られて視線を横に向けると、そこには何時もの優しい笑顔を浮かべた真耶ちゃんが俺を出迎えてくれて……。

 

「えっと、元次さんのオプティマスは待機状態になってますが、元次さんが呼べば直ぐに展開できます。ISの所持に関しては規則がありますので、コレをちゃんと読んでくださいね?」

 

その手に持った『電話帳』サイズのIS起動におけるルールブックと書かれた本。

と言うより鈍器と言った方がよさそうなほど厚い規則書をまるでラブレターの如く俺に差し出した。

分厚さだけならラブレター何通、いや何百通分あるんだろうか?

oh……電話帳(悪夢)再びっす……。

 

「……善処するっす」

 

「ハイ♪頑張って下さい♪」

 

俺は膝を突きたい衝動を抑えて、ニコニコ顔の真耶ちゃんから電話帳(悪夢)を受け取る。

俺は何時になったら電話帳(悪夢)から解放されるんだろうか?

僕もうこれ以上はお腹いっぱいです。

ちなみに俺が電話帳(悪夢)を受け取るのを横で見ていた一夏も顔を青くしてた。

その後、暇になった俺はオプティマスの待機状態を調べて見たんだが、なんとMP3プレイヤーが搭載されていたから心底驚いた。

ガラスの内側部分に投影された説明を読んでみると、音はフレームに内臓された小型スピーカーから出る様に作られている。

しかも最大音量が家庭用コンポ並の出力が出る上に、サラウンドシステム装備らしい。

周りに音が聞かれたく無い時は骨振動で俺の耳のみに届くようにもなってる。

 

何だこの至れり尽くせりの豪華使用は?

束さんマジでありがとうございます。

 

俺が一夏にその事を教えてやると、自分の白式にはどんな機能があるんだろうかとワクワクしていた。

今は初期化(フォーマット)最適化(フィッティング)作業をストップしてるから白式は待機状態になっていない。

ピットの片隅のハンガーに置かれたままだ。

それを疑問に思った俺は「何で今の内に初期化(フォーマット)最適化(フィッティング)を済まさねえんだ?」と聞いてみると……。

 

「ゲンだってそれが両方とも出来て無い状態でオルコットと戦っただろ?俺は少しでもお前に追いつける様に真似するだけだよ」

 

と、何とも漢らしい返事が返ってきて驚いたぜ。

オマケに腐れアマの情報は何一つ要らないとまで言いやがった。

ウォームアップを続けながらも真剣な表情でそう言い放った一夏に、箒は目を恋する乙女に変えて魅入っていた。

真耶ちゃんと本音ちゃんはニコニコ笑いながら「男の子ですね~♪」「ですね~♪」なんて楽しそうに言いあってる。

千冬さんだけは、そんな一夏も様子に溜息を吐いていたけど……目がスゲエ優しくなってるのは誤魔化せてなかったぜ。

その事を笑いながら千冬さんに『ヤッパ優しいっすね、千冬さんて』と言ったら、顔を赤くしてボディーブローをプレゼントフォーミーされますた。

あれ?今の流れで俺殴られる必要あったか?

 

まぁそんな感じでピットの中でゆったりと過ごして20分程経ったんだが、やっとあの腐れアマが目を覚ましたと別の先生から報告が来た。

更には次の試合も戦う気はちゃんとあるらしく、予定通りの時間に一夏対腐れアマの第2試合が行われる事になった。

やれやれ、アレだけブチのめされても戦意はあるってのは見上げたモンだが……一夏相手だから勝てるなんて思ってんじゃねえだろうな?

そんな風に相手を見下してばっかだから、素人に足元掬われるんだっての。

俺は時間が迫りつつあるピットの中でそんな事を考えながら、待機状態のオプティマスのウインドウを開いていた。

何をしてるのかっつーと、オプティマスに積まれている『武器』の確認だ。

あん時は腐れアマと戦ってた所為で碌に『武器』のチェックも出来なかったからな。

俺と一夏の試合まで、まだ余裕がある今の内に見ておこうと考えたわけだ。

 

ピピッ

 

お?出てきた出てきた。

さあて、何が積まれてるかなっと♪

俺は若干ウキウキしながら、全武装リストの中身をウインドウに展開した。

 

『オプティマス・プライム。全武装一覧』

 

『拳系武装リスト』

 

『IMPACT。右腕部に内蔵された炸薬を打撃の瞬間に炸裂させ、威力を爆発的に向上する。弾数は3発』

 

『GRIZZLY KNUCKLE。両拳に取り付け可能なメタル合金製のスパイクナックル』

 

『STRONG RIGHT。右腕部の肘から先を発射する特殊機構、鋼鉄チェーンで肘と連結されているので巻き戻し可能。IMPACTの併用は不可』

 

『斬撃系武装リスト』

 

『ENERGY BLADE。両手首に内蔵されたエナジーブレード、取り外し可能で手に持つ事も可能』

 

『ENERGY HOOK。両手首に内蔵されたエナジーフック、取り外し不可』

 

『ENERGY AXE。両刃の斧、サイズ、重量がかなりあるのでハンマーとしても使用可能』

 

『銃火器系武装リスト』

 

『SHOTGUN。AA-12×2。フルオート方式のショットガン。弾種はスラッグ、散弾の2種。』

 

『ELIMINATOR GUN。×1片手装備のガトリング砲、連射力に優れている』

 

『BLAST LAUNCHERS。×2両手に装備可能な大型複合重機関銃。先端にショートブレードを装備、サブウェポンにグレネード装備』

 

『PANZER MISSILE CANNON。×1片手装備の小型ミサイルキャノン』

 

『SEMI AUTO CANNON。30mmセミオートカノン2門に砲弾補給用の巨大なコンテナボックスを繋ぎ合わせた砲台。爆裂焼夷擲弾弾筒ミサイル発射可能』

 

『光学兵器系武装リスト』

 

『LON BLASTER。片手装備の大型イオンレーザーブラスター×2組み合わせる事で威力、弾速増加』

 

『ASSAULT BLASTER。片手装備の小型レーザーブラスター×1貫通力に優れる』

 

『SHOT CANNON。×1レーザーライフル。チャージショットが可能。ストックを切り詰め、取り回しを優先させたモデル』

 

『MEGA STRYKER。ASSAULT BLASTER及びELIMINATOR GUNの合体銃、ガトリングの弾速でレーザーを射撃可能』

 

『特殊装備リスト』

 

『STRYKER SHIELD。×1片手装備の大型実体シールド、光学兵器を霧散可能。変形機能にCLAW MODE KNUCKLE MODEが存在』

 

唯一仕様(ワンオフ・アビリティー)。???。稼働率不足、条件未達成により現在使用不可』

 

 

 

なぁにぃこれぇ?

 

 

 

展開されたウインドウの中身が理解できず、俺は呆けた顔を晒してしまう。

え?コレマジで武器何個あるんだ?ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ……うん、バラで数えりゃ軽く20個近くはありますね☆

 

『かなりスッゴイのが沢山詰まってるから、期待してくれたまえ~♪』

 

絶賛混乱中の俺の脳裏にさっきのメールの中で束さんに言われた言葉がよぎる。

いやいやいやいやいや!?確かに、確かに凄いけども!?束さん幾らなんでも遣り過ぎだってコレ!?

つうか唯一仕様(ワンオフ・アビリティー)って何さ!?一体どんな武器なのよ!?

そのまま何とか思考を冷静にするよう努めてウインドウをスクロールしていくと、拡張領域(パススロット)という武器を量子化して収める……要はメモリーの空き容量がまだ3割近く残っていた。

ただ、ここは運動性能や処理能力を落とさないように態と空けてある領域だとウインドウから説明が出てきやがりましたけどね。

その為にブレードや拳系の武器は拡張領域(パススロット)には入れないで、手首の中や腕の側面に収納してあるみてえだ。

全体的なステータス画面を覗いても、参考書に載ってた訓練機のカタログスペックとは比較にならねえ性能を誇ってる。

確か訓練機の第2世代型ISで一番拡張領域(パススロット)が広いっていうラファール・リヴァイブで積める武装は最大5個……だっけ?

それを差し引いても、オプティマスの武装はトンでもなく拡張領域(パススロット)を食う様な大物重火器のオンパレードだ。

 

な、なんつーブッ飛んだISなんだよコイツ……今更だけどよぉ……俺のオプティマス・プライムって確実に世界のISに喧嘩売ってるポテンシャルだろ……。

つうかこんな超絶チートなISを1ヶ月弱で……いや!?束さんのメールの内容から察するに僅か1週間足らずでコレ造ったの!?

ドンだけ技術チートなんすか束さん!?

俺好みのボディに俺の趣味を詰め込んだ待機状態、しかも音楽プレーヤー付き。

もうドンだけ感謝しても足りねえってぐらいの至れり尽くせり豪華絢爛なプレゼントだぜ。

しっかし……まさかあの束さんが俺の為にここまでしてくれるとは……初対面の時じゃ絶対考えられねえよ。

俺は子供時代の思い出を頭の中に思い描いて、束さんの変わり様に苦笑いを浮かべてしまう。

 

「ね~ゲンチ~?さっきからどうしたの~?顔が百面相してたよ~?」

 

「ん?あぁ、いや、何でもねーさ」

 

俺が苦笑いしたり驚いたりしてたのを見てたのか、本音ちゃんが?顔をしながら俺の傍に来たので俺は何でもないと言っておく。

とりあえず昔を懐かしむのはこれぐらいで……。

 

「(バシュウッ)織斑君!!オルコットさんの準備が整いましたので、白式を装備してピットゲートへ向かって下さい!!」

 

「ッ!?はい!!わかりました!!」

 

っと、いよいよ始まるってか?

俺が本音ちゃんと和んでいると、ピットの扉が開いて真剣な表情を浮かべた真耶ちゃんが入ってきた。

一夏は、真耶ちゃんの声を聞くと元気良く返事をして白式の固定されているハンガーに向かって行く。

それを見た俺と本音ちゃんも連れ添って一夏の後を追っていく。

俺と本音ちゃんが着いた頃には、一夏は既に白いIS……白式を身に纏って各部を動かしてチェックしていた。

その傍には千冬さんと真耶ちゃん、箒の姿もある。

 

「いよいよだな……しっかり頑張るんだぞ、一夏。私やゲンとの特訓を忘れるな」

 

「わかってるさ箒。むしろあんな地獄の特訓、忘れらんねえって」

 

「それならいいんだがな」

 

念を押す様に進言する箒に、一夏は軽く微笑みながら返事を返した。

まぁ身体はちゃんとウォームアップしてたし、テンションもここまで落ち着いてりゃなんとかなんだろ。

俺みたいに怒りに身を任せてミサイルに突貫しなきゃな。

どれ、俺も応援メッセージの1つぐらいは送ってやりますか。

 

「一夏、これでアイツに負けたりしてみろ?明日からテメエのあだ名は負け犬ぷー太君だ。首輪も買ってきてやるぞ?嬉しいだろ?」

 

「お前はもう少し心暖まる応援の言葉はだせねえのかよ!?それが親友にかける言葉か!?」

 

「あたりめーだろーが。俺と箒があそこまで協力したんだ。あの特訓を耐えたテメエが負ける筈なんざねえ……だろ?」

 

俺はニヤケながら一夏にそう返す。

そうさ、俺の兄弟分が、俺の親友があんなヤツに負けることなんざねえよ。

むしろ負けたら超絶な罰ゲームしてやる。

 

「ッ!?……当たり前だろ!!キチッとビシッと勝ってやるっての!!」

 

俺の言葉を受けた一夏は目を見開いて驚いたが直ぐに自信満々の顔で俺に言い返してきた。

若干顔が嬉しそうなのはこの場に居る皆丸判りだったけどな。

 

「じゃあじゃあ~私はおりむ~が負けたら~名札作ってあげる~♪女の子の手作りだよ~?」

 

お?ナイスだ本音ちゃん。

喜べ一夏、本音ちゃんからの手作りだぞ?

 

「安心してくれのほほんさん!!その名札は未来永劫絶対に必要無い!!後そんな事で女の子の手作り貰っても嬉しくねえからな!?」

 

「えぇ~?うぅ~、おりむ~に要らないって言われちゃったよぉう。ゲンチ~♪慰めて~♪(パタパタ)」

 

「おぉ、よしよし(ナデナデ)大丈夫だぜ本音ちゃん。次の試合であの野郎はコンクリ舗装したるわ。だから元気出してくれ、な?(ナデナデ)」

 

「う、うん~~♪えへへ~♪(やっぱりゲンチ~に撫でられるのは~さいこ~だ~♪)」

 

俺は笑顔で擦り寄ってきた本音ちゃんに合わせて本音ちゃんの頭を大げさに撫でる。

本音ちゃんのプレゼントがいらねえってか?随分と偉くなったもんだな一夏。

俺のオアシスをイジメやがって、地面に埋めてからコンクリで舗装してやんぜ。

 

「怖えよ!?コ、コンクリで舗装っておま、アリーナの地面に埋める気か!?さっきの俺に対する熱い想いは何処行ったんだよ!?」

 

そんなもんヤマオロシの腹の中だ。

 

「お、織斑君?時間が押してますので……出撃を~……いいかな?」

 

「へ!?す、すいません山田先生。じ、じゃあ箒、ゲン、行ってくるぜ!!」

 

「あぁ!!勝ってこい、一夏!!」

 

「行ってきな、遠慮はいらねえ。アイツのチャチなプライドなんざ派手にブッタ斬っちまえ」

 

「おう!!織斑一夏!!白式!!出る!!(ギュォオオンッ!!)」

 

俺達のコントを見ていた真耶ちゃんが遠慮気味に一夏にそう言うと、一夏は慌しくカタパルトからアリーナへ飛び出した。

箒はそんな一夏を心配そうな目で見ていたが、俺はそこまで心配してねえ。

アイツは……ここぞって時には必ずやる……そんな男だからな。

俺は飛び立った親友が必ず勝つって自信を持ちながら、ピットのモニターに映る一夏を見つめる。

 

 

 

「ところで元次さん?い・つ・ま・で、布仏さんの頭を撫でているんですか?(ニコニコ)」

 

 

 

さて、アイツが帰って来る頃まで生き残れっかな、俺。

いつもの小動物ちっくな雰囲気を全く感じさせない冷たい笑顔を浮かべる真耶ちゃんの声を聞きながら、俺は冷や汗が流れるのを感じた。

しかも駄目押しとばかりに千冬さんの視線も険を帯びていくではないか。

背中越しでも良~くわかります。

とりあえず自然を装って本音ちゃんの頭から手を離すとしよう。

 

「あっ……む~~(ぷっくぷく~)」

 

そしてそんな俺に頬を膨らませて非難の眼差しを送る本音ちゃん。

すいません、さすがに俺も命は大事なんです。

本音ちゃんの咎める視線に居た堪れなさを感じていたが、その時モニターの先にあの腐れアマがブルーティアーズを纏って現れた。

顔を見る限り、俺と戦った時の様な優雅さは全く残っておらず、只その目には悔しさが残っている。

どうやら俺との戦いを引きずってるみてえだな……油断すんなよ、一夏。

腐れアマのブルーティアーズが一夏と対面する様に空中に位置すると、それを皮切りに千冬さん達の視線も俺からモニターに移ってくれた。

 

『……これより、織斑一夏対セシリア・オルコットの試合を開始します。……試合開始!!』

 

遂に試合開始のブザーが鳴り響き、一夏のデビュー戦が幕を開けた。

その試合開始の合図と共に、腐れアマはスターライトを構えて一夏をターゲットサイトに捉える。

 

『今度は油断しません!!確実に堕とさせていただきますわ!!(ズドォッ!!ズドォッ!!ズドォッ!!)』

 

『うお!?(ヒョイ)危ねえ!?(ヒョイ、ガンッ!!)どわ!?』

 

初っ端から撃たれた3発のレーザーの内2発を身体を捻る事で回避した一夏だったが、3発目は左肩に当たっちまった。

そのまま腐れアマはスターライトで弾幕を張りつつ、空へと上昇していく。

3発目を被弾した一夏だったが、その後に雨霰と降り注ぐレーザーは全て回避に成功。

そのままバレルロールの様に回転しながらレーザーをすり抜けてアリーナの地上スレスレを滑空していく。

 

「良し!!1発当たりはしたが、まだ始まったばかりだ!!隙を見て食らい付け一夏!!」

 

「おぉ~!!頑張れおりむ~!!」

 

遂に始まった一夏対腐れアマの試合のファーストアプローチの結果が上々だったのが嬉しかったのか、箒は声を大にしてモニターに叫ぶ。

それに続いて本音ちゃんの癒しボイスが一夏を応援する。

おぉ!?アイツ飛行上手えモンだな!?今度はアリーナの外壁スレスレを飛んでるし。

意外にも上手い一夏の操縦に内心舌を巻きながら、俺はサングラスを額に掛ける。

やっぱ親友の試合はちゃんと見ねえとな。

 

『『『『『ワァアアアアアアアアアアッ!!!!』』』』』

 

一夏のIS2度目の操縦とは思えない高等飛行技術にアリーナの1年生の観客がキャーキャーと騒ぎ始める。

まぁ飛んでるイケメンは絵になるからな。

すると、一夏の右手に粒子が漂い始めて形を形成し始めた。

お?アイツの白式は初期化(フォーマット)最適化(フィッティング)が終わって無くても武器が出せるのか。

そんな事を考えながらモニターに映る一夏の様子を見ていると、一夏の右手に漂っていた粒子が完全に形になり……一振りの刀を形成した。

 

……は?なんで?

 

「な、何をやっているのだ一夏!?遠距離に居るのに刀を出しても無駄だろう!?」

 

「た、確かにおかしいですね。こういったケースならマシンガンとかを展開(コール)するのが普通ですし……」

 

俺が一夏の行動に混乱していると、同じ様に驚いた箒と真耶ちゃんが困惑した声を出す。

いや、マジでアイツどうしたんだ?等々ラリッたか?

 

「ん~~……もしかして~~」

 

「何だ?本音ちゃん何か判ったのか?」

 

そして、俺の目の前に居た本音ちゃんが顎に人差し指を当てながら何かを言おうとしていた。

未だに一夏の行動の意味が判らなかった俺は本音ちゃんに声を掛ける。

 

「うん~~……多分だけど~初期装備(プリセット)が、ブレ~ドだけしか無いんだと思う~」

 

「なっ!?」

 

「わぁ~お……ソイツぁヘビーな話しだぜ」

 

本音ちゃんの考える様な言葉に、俺は軽い調子で、箒は目を見開いて驚愕を露にした。

まぁ実際俺は武装無しだったからな。

アレを経験した後なら、本音ちゃんの言葉にも頷ける。

しかし搭載武器がポン刀一本とは……ブレオンとか浪漫あり過ぎだろ。

 

「そんな悠長な事を言ってる場合じゃないだろうゲン!?このままでは一夏が……」

 

俺の呑気な言葉が気に入らなかったのか、箒は俺に怒鳴ってからアタフタし始める。

やれやれ、恋する乙女は一直線ってのは知ってるけどよ、もう喧嘩は始まっちまったんだ。

ここまできて今更止める事ぁ出来ねえぞ。

 

「まぁ落ち着け箒、どの道一夏の武装に銃があったとしてもアイツにゃ使いこなせねえよ。それこそ銃対銃なら、あの腐れアマの独壇場だ」

 

俺は後ろ髪を掻きながら慌てふためく箒を諌める。

戦ってみて判った事だが、ムカつく事にあの腐れアマは射撃の腕は頭1つ飛び抜けている。

伊達に代表候補生まで登り詰めてねえって事だ。

 

「だ、だが……」

 

「大丈夫だって、アイツはそれこそ今日まで剣の勘を取り戻すことに専念してきたんだ。寧ろ初期装備(プリセット)されてたのが銃1丁じゃなくて幸運ってトコだぜ」

 

「……」

 

俺の言葉に冷静さを取り戻してきたのか、箒は静かにモニターへと振り返る。

 

 

『遠距離射撃型のわたくしに近接ブレードで挑もうとは……笑止ですわ!!お行きなさい、ティアーズ!!(ビュン!!キュイン!!)』

 

『く!?ゲンだって、拳だけでお前に勝ったんだ!!寧ろ剣があるだけ俺は恵まれてる方だっての!!』

 

『ならばやってみなさいな!!その剣で、このティアーズの涙を切り開いてみなさい!!お出来になるのなら!!(ピュン!!ピュンピュピュン!!)』

 

『へっ!!言われなくてもやってやらあ!!うぉおおおおおおお!!』

 

 

其処には、ティアーズの雨を潜り抜けて腐れアマに肉薄しようと空を縦横無尽に飛び交う一夏の姿が映っていた。

時にはティアーズの射線に飛び込み被弾しようとも、そのティアーズを切り落とそうと剣を振っている。

モニターに映るその目には、決して諦めの色は映ってなかった。

 

「信じろよ箒。俺の兄弟分は……お前の幼馴染は、そんなにヤワな男じゃねえ」

 

「……一夏」

 

俺の言葉が箒に届いたかどうかはわからねえが、箒はしっかりとその目でモニターを見つめ直す。

それが、箒に出来る最大の応援だからだろう。

俺はポケットに手を突っ込みながら千冬さんの横で一夏の試合を見つめる。

焦るなよ一夏、お前に教えた事はまだ1つも使っちゃいねえんだからな。

 

「……元次、一夏にどんな鍛錬を付けた?」

 

すると、俺の隣に腕を組んで立っていた千冬さんがモニターから目を離さずに問いかけてきた。

まぁヤッパリ弟の事が心配って事だろうな。

俺はそんな千冬さんの様子を横目でチラッとだけ視界に収めてから口を開く。

 

「そうっすねぇ……まずステップ1、箒と剣術の特訓……いや、リハビリってヤツっすかね」

 

コレが鍛錬の最大の目的。

一夏がかつて持っていた剣の腕前を取り戻す事で、他の女子より近接戦闘で優位なアドバンテージが築ける。

今回の白式の初期装備(プリセット)が刀だったのはかなりラッキーだ。

これなら一夏のやってきた特訓は無駄にならなくて済む。

現に今の立ち回りも、空中だってのにかなり安定したモノになっている。

俺が千冬さんと試験でガチバトルした時に感じたのは、普段の動きを意識できなきゃISは動かせ無いって事だったからな。

だから徹底して、アイツには箒との組み手をやらせた。

まぁ完全に強くなったってワケじゃなく、箒から10本中2本取れるかってレベルだけどな。

 

「ふん、それだけではないだろう?オルコットは仮にも代表候補生、しかも射撃の腕で登り詰めた者だ。そのオルコットの射撃をあそこまで凌ぐにはリハビリだけでは足りない」

 

「くは~。ご慧眼ってヤツっすね……まぁそれがステップ2、弾というか、直線的な攻撃に対する徹底的な回避訓練っす」

 

俺は千冬さんの観察眼に驚きながらも質問に答える。

ステップ2の回避訓練。

コレはちょいと毛色が違うっつーか、俺も上手くいくかわからなかったがな。

ヤル事は単純明快、超至近距離で箒の突きを避ける事だけだ。

但し箒が狙うのは防具以外の場所も含めてだから大変だったみてえだけどな。

銃の弾は弾速は速いが、真っ直ぐにしか飛ばない。

だから近距離からの全力の突きを避けさせて、直線的に飛んでくる物を避けるって感覚を一夏に叩き込んだ。

ある程度速度に慣れた段階で今度は俺の拳のラッシュを避けさせる。

更にその先の段階では相川に頼んでソフトボール部の女子に手伝ってもらい、ゴムボールを四方八方から全力で投げてもらった。

コレを避けるって段階で段々とボールに硬球を混ぜていくと、一夏も必死に避けてたからいい訓練になっただろう。

それでもあの腐れアマの射撃が当たるのは、単純に腐れアマの射撃技量の高さと、実際のレーザーがもっと速いってのが原因だ。

まぁ、このステップには隠し玉の訓練も兼ねてるんだが……そこは一夏が披露した時に聞かれたらでいいか。

 

「なるほどな……ソフトボール部が出張ったのはその為か……足りない頭で考えたものだな」

 

「えぇ、まぁアイツが一能特化型ってのが功を奏しました。教えた事をスポンジが水を吸い込むみてえにモノにしましたからね。さすがは千冬さんの弟っすよ」

 

「……まだまだ荒削りだ。及第点もやれんよ、お前と一緒でな」

 

「げっ、藪蛇だったぜ……精進しまっす」

 

「そうしろ、高が銃を持っただけの相手にお前が追い詰められる等、私には我慢ならんからな」

 

千冬さんはモニターから目を離さずにそう言って不敵に微笑む。

やれやれ、何でこの人は一々カッコイイかねぇ……千冬さんの期待に応えるためにも、頑張りますか。

俺はサングラスの位置を直して再びモニターに視線を向ける。

 

「そ、それと……だな」

 

「うい?なんすか?」

 

だが、再び横に居る千冬さんから声を掛けられたので、俺はモニターを見つめたまま返事をする。

 

「い、いや、その……なんだ……似合っているぞ……サン、グラス」

 

「え?マジっすか(ドゴォ!!)痛え!?」

 

「コ、コッチを見るな……モニターを見ていろ……馬鹿者」

 

「う、うっす……」

 

俺は思っても見なかった千冬さんからの賛辞の言葉に千冬さんの方を見ようとしたんだが、見ようとした瞬間わき腹を殴られた。

しかもモロにクリーンヒット、マジ痛えっす。

でも泣かない、我慢する。

だって横合いから聞こえる千冬さんの恥ずかしそうな声がメチャ役得だから。

何だこの可愛い千冬さんは、最高だぜ。

何やら一気に気恥ずかしい空気になってしまったので、俺と千冬さんは無言でモニターを見つめる。

 

『うぉおおおおおおおおお!!!』

 

そしてモニターに視線を移してた俺と千冬さんの目に飛び込んだのは、ティアーズの包囲網をジグザグの変則飛行で無理矢理突破した一夏の姿だった。

アイツ遂に攻めに出たか!?

すると、一夏がティアーズの包囲網を突破したのを腐れアマは驚愕の目で見ていた。

 

『ッ!?無茶苦茶しますわね!!(ダァン!!ダァン!!)』

 

だが、腐れアマは直ぐに表情を引き締めると、手元のスターライトからレーザーを2発ブッ放った。

スピードの乗った一夏にはソレを避ける時間は無く、もはや当たる寸前だ。

 

「一夏!?」

 

「あわわわ!?当たっちゃう!?」

 

その絶望的な光景がモニターに映ると、箒は悲鳴を挙げ、本音ちゃんは慌てふためいた。

このままいけば一夏に直撃するのは免れない……。

 

『だぁらっしゃぁああああああああ!!!(ズババァッ!!!)』

 

だが、一夏の取った行動は避けるでも敢えて被弾するでもなかった……アイツはレーザーを刀で『ブッタ斬りやがった』。

その時、腐れアマを含めたアリーナの時が止まった。

正しく一夏の取った『ブッ飛んだ』行動に、誰も彼もが呆けてしまったんだ。

そして、そんな盛大なチャンスをアイツが逃す筈も無く……。

 

『隙ありぃ!!』

 

『ッ!?しまっ……』

 

『おらぁああああ!!!(ズバァッ!!!)』

 

『きゃあッ!!?』

 

そのままスピードの乗った刀で、腐れアマの胴体を袈裟切りに攻撃し……。

 

『もう、いっちょお!!!(ズバァッ!!!)』

 

『あうッ!?』

 

返す刀で胴を斜め下から掬い上げる様に切り返した。

そのまま更に畳みかけようと刀を振るう一夏だが……。

 

『くうぅッ!?欲張りすぎですわ!!(ダァン!!ダァン!!)』

 

『うぉわ!?』

 

斬りつけようとした一夏に腐れアマはスターライトをゼロ距離でブチ込み、その隙を使って一夏の射程距離から離脱した。

よし、どうやらあの特訓は無駄じゃなかったみてえだな。

俺は秘密裏に一夏に施した特訓の成果が上々だったことに笑みを深めてモニターを凝視する。

モニターの先では、斬られたが無傷の胸部アーマーを抑えてる腐れアマの姿が映っていた。

 

『はぁっはぁっ。レ、レーザーを斬るだなんて、常識破りもいいとこですわ!!?』

 

『くっそー!!もう1発はイケると思ったんだけどなぁ……レーザーを斬れたのはゲンのお陰だ。さすがにアイツの特訓がなきゃ無理だったさ』

 

一方の一夏は白式の肩と左足に被弾してたが、そこまで深刻な故障は無さそうだった。

そして一夏のオープンチャネル越しに語られた理由に、ピットの中に居た本音ちゃん達の目が一斉に俺に向いた。

まぁ俺のお陰なんて言ってたが、ありゃアイツのセンスの良さが一番の原因だろうよ。

さすがに1週間でモノにするとは思わなかったっての、どこぞのジェダイかアイツは。

 

「鍋島……一体何を織斑に教えたんだ」

 

俺がそんな事を考えていると、横合いから千冬さんの声が飛んできた。

他の面子も聞きたい事は一緒なのか、俺から視線は外れない。

 

「大した事じゃねえっすよ。さっきのステップ2の特訓の時に何発か色の違うボールを投げ込んで、それだけを打ち返す、もしくは叩き落すってのをやらせたんす」

 

そう、俺がやったのは若干色の違うボールを他のボールより速い速度で投げ込んで、それを落とすって事だけだ。

飛んでくるボールにどう刀を当てれば自分とは違う方向に弾けるか、それを徹底的に仕込んだだけだ。

その感覚とイメージがISに乗った時にキチッと噛みあえば、理論上はレーザーを弾ける。

まぁ完全な付け焼刃だがな。

 

「……付け焼刃にしては、そこそこ使えるようだな」

 

「そこは一夏のセンスの良さと……まぁ織斑先生のイメージっすかね」

 

「私のイメージ?どうゆう事だ?」

 

俺が軽く一夏の訓練内容を語ると、自分の名前が出るとは思ってなかったのか、千冬さんは疑問の声で聞き返してきた。

 

「あー、あれっすよ。学園のアーカイブにあった織斑先生の現役時代の映像を見たんす。その中で織斑先生が使ってた『弾を斬り落とす』って技を参考にしたんです」

 

「は~い♪私が見つけました~♪」

 

「おっと、そうだったな。手伝ってくれてマジでサンキューだよ、本音ちゃん」

 

「にしし~♪」

 

俺は目の前で嬉しそうに手を振っていた本音ちゃんに笑顔でお礼を言う。

 

千冬さんの映像を見れたのは正直ラッキーだった。

本音ちゃんにアーカイブの存在を教えてもらわなかったら絶対気付かなかったし。

それに映像に映る千冬さんの戦い方は正直鳥肌モンだったぜ。

迫る弾丸を悉く斬り落として対戦相手に肉薄するんだからな。

千冬さんが専用機……『暮桜』を使ってたらオプティマスでも勝てる気しねえ。

やっぱりあの喧嘩は俺の負けで正解だな。

 

「……か、勝手に人の記録を覗くんじゃない、馬鹿者」

 

あれ?学園のアーカイブは基本誰でも閲覧可能な筈ですが?

何で俺が怒られてんの?

とりあえずあの映像で俺が知ったのは、現役時代の千冬さんも激可愛いかったって事。

ピッタリ張り付くISスーツ……いや、正に眼福でした。

 

「ま、まぁそーゆーワケで、一夏が最もイメージとして描き易かったのが織斑先生の技を劣化させた技……『弾はじき』ってわけです。」

 

さすがに千冬さんみたいにどんな弾でも弾き返す、までには至ってねえが10発中5、6発は落とせる筈だ。

これだけでも一夏にはデカいアドバンテージになりえるだろうよ。

一夏の訓練内容を語った俺がスクリーンに目を向けると、俺の名前を聞いて苦虫を噛み潰した顔をした腐れアマが映っていた。

 

『……また、あの男ですか』

 

『あぁ、アイツの特訓のお陰で、文字通りレーザーの雨を『切り開いて』やれたぜ』

 

その腐れアマの表情に満足したのか、一夏は好戦的な笑みを持って腐れアマを挑発しやがった。

おーおー、さっきの腐れアマの言葉から1本取ったって感じだな。

アイツも言うようになったモンだぜオイ。

一夏のしたり顔で言われた台詞に、腐れアマの顔が怒りに染まった。

 

『高々レーザーを2発斬ったぐらいで調子に乗らないことです!!ティアーズ!!』

 

『おっと!?もう一回だ!!(ギュォオオオオッ!!!)』

 

そして腐れアマの指示に従って、ティアーズ達が一夏を仕留めんと大空を縦横無尽に舞い上がる。

それを見た一夏は白式を一度急降下させ、アリーナの地面をスケートで滑るように滑空していく。

そのままティアーズの包囲を一度崩して再び空へ舞い上がった。

 

『ッ!?無駄な足掻きですわッ!!(ズダァンッ!!)』

 

段々と一夏が距離を詰めているのを感じ取ったのか、腐れアマは一度距離を取ってまた静止する。

一夏、気付けよ?あのティアーズを使ってる間は、腐れアマは一切動けねえって事を。

俺にアドバイスは要らねえって言ったんだ、中途半端に終わんなよ。

 

『それもネタは割れてるぜ!!ハァ!!!(ズバァッ!!!)』

 

そして画面の向こうで奮闘していた一夏は、ティアーズの弾幕を掻い潜って、なんとティアーズの一基を斬り落としやがった。

 

『なっ!?』

 

一夏の攻撃でティアーズが落とされたのが余程ショックだったのか、腐れアマは声を上げて驚きを露にする。

だが直ぐに表情を引き締めて次々とティアーズを連射していく。

さすがに切り替えの速さは代表候補生なだけはある。

 

『この兵器は、毎回お前が命令を送らないと動かないんだろ!?それに!!(ズバァッ!!!)』

 

一夏はティアーズの弾幕を避けながら、返す刀で更にもう一基を撃墜する。

完璧にティアーズの特性っつーか弱点に気付いたみてえだな。

 

『コイツを使ってる時に動かないのは、制御にお前の意識を集中させてるからだ!!違うか!?』

 

雨の如く降り注ぐ弾幕を避け、腐れアマと一定の距離を取った位置に一夏は浮遊する。

その目には、敢然とした強い闘志が薄れる事無く湧きあがっていた。

よし、このまま行けば一夏も勝てる……っておいおい?

一夏の有利を悦ぶ俺だったが、気になるモンがチラッと見えたのでモニターに向けていた目を良く凝らしてみる。

すると、見えたのは俺的に歓迎したくねえモンだった。

 

「織斑君も凄いですねぇ、セシリアさん相手に試合を優位に運んでいますよ。元次さんも織斑君もISの起動が2回目だとは思えません……あれ?ど、どうしたんですか?お2人共」

 

真耶ちゃんが一夏の事を褒めながら俺と千冬さんの方を向いてきたが、真耶ちゃんは俺達を見て顔の色を疑問に変える。

現在の俺が浮かべている表情は難しい顔ってヤツだ。

真耶ちゃんが俺だけに言ってこねえのは、多分千冬さんも何かしら顔を変えてるって事だろうな。

しかも真耶ちゃんの声を聞いて、箒と本音ちゃんまでもが俺達に向き直った。

 

「あの馬鹿者め、多少上手くいった程度で浮かれているな」

 

「うわ、やっぱりアレっすか?……出来れば外れてて欲しかったんすけど」

 

「アイツは直ぐ調子に乗るからな。お前ならああなる事も考えられただろう?」

 

「まぁ、ね。アイツは俺の兄弟分ですから、同じ様なトコが似てるっていうか……はぁ」

 

俺は隣に居る千冬さんの言葉に天を仰いで言葉を返す。

チックショ~、まさかこの場面でアレをやるとは……マジで大丈夫かよ一夏の奴。

 

「げ、元次さん?(ピクピク)ア、アレとは何ですか?教えてもらえますよね?(先輩とだけ以心伝心してるなんて……元次さんのばか)」

 

「む~……アレって何なのゲンチ~?教えてよ~(織斑先生とばっかり……面白くないぞ~)」

 

と、耳元に届いた声に従って視線を降ろすと其処には綺麗な眉をヒクヒクさせてる真耶ちゃんと、不機嫌そうな本音ちゃんがいますた。

あれ?俺何もしてないよね?何でそんな目を向けるのお二人さん?

只千冬さんと話し合ってただけだよ?ホントだよ?

 

「……ふっ」

 

いや千冬さん?何ですかその「勝ったぞ」みたいな得意げな表情は?

そして嬉しそうな千冬さんの表情を見て更に顔色を険しくしていく2人。

もう勘弁してくんね?胃ががががが。

 

「アレってのはまぁ……一夏の癖みたいなモンだ」

 

「ふぇ?癖?」

 

俺の少ない言葉に理解出来なかったのか、呆けた表情を見せる本音ちゃん。

そんな可愛い表情を浮かべている本音ちゃんに、俺は頷く事で本音ちゃんの言葉を肯定する。

 

「あぁ、アイツさっきから左手を閉じたり開いたりしてんだろ?」

 

俺がモニターに視線を向け直しながらそう言うと、真耶ちゃん達も目もモニターに向き直る。

そしてモニターに映っていた一夏は、俺の言った通り左手を軽く握ったり開いたりしていた。

 

「ありゃあアイツが浮かれたりテンションがハイになった時にする癖みてーなモンだ、アイツがアレをやる時は……」

 

俺が言葉を切ったのと同時に、画面の中の一夏は腐れアマに向かって飛翔する。

奴のティアーズも残り2つ、なら強行突破できると踏んだんだろう。

……だが一夏、テメエは俺の試合を見て無かったのかよ?その中途半端な距離で特攻なんざかけた日にゃあ……。

 

『愚かな!!貴方は先の試合をちゃんと見て無かった様ですわね!!(ガパァッ!!!)』

 

『げ!?しまっ……』

 

『食らいなさい!!!(ボシュウッ!!!)』

 

奴のミサイルの餌食になるだろうが。

俺は画面の向こうでティアーズの放ったミサイルに追い掛け回されている一夏を見ながら……。

 

 

 

「大抵、ヘマをやる」

 

 

 

チュドォオオオオオンッ!!!

 

そして俺の言葉を引き継いだ千冬さんの言葉が終わると同時に、ミサイルが着弾した。

俺の時と同じ様に、画面の向こうは煙幕に包まれていく。

ほぉ~?俺って傍から見たらこんな大惨事になってたのかよ?よく生きてたなぁ。

 

「一夏ぁッ!!?」

 

爆煙に包まれて安否の伺えない一夏に、箒は声を大にして表情を歪める。

それは俺の目の前に居た本音ちゃんや真耶ちゃんも一緒だった。

しかもモニターの端に映る腐れアマは、煙に向かって油断無くスターライトを構えていた。

どうやら俺の時みてえな一次移行(ファーストシフト)を警戒してんだろう。

 

「ふっ……機体に救われるとは……お前達は、どこまでいっても似た者同士だな」

 

だが、一夏のそんな惨状を見ても、千冬さんは眉1つ動かさずに微笑んでいた。

まぁ俺も同じ様に顔のニヤケが止まんねえけどな。

 

「当然っしょ?なんたってアイツは……」

 

俺は笑顔を絶やさずに千冬さんに言葉を返す。

そして、爆発で生じた煙が収まると……。

 

 

 

「世界でたった1人の、絆で繋がった『兄弟』なんすから」

 

 

 

傷1つない『白』が居た。

 

 

 

さっきまでの鈍い様な白では無く、純白と表現するのが相応しい、正に雪のように白いISが居た。

左右に浮かぶ非固定浮遊部位(アンロックユニット)は更に巨大さを増し、それはとても力強い翼を彷彿させる。

そう、一夏の専用機である白式の一次移行(ファーストシフト)が終わったんだ。

しかも一夏の手に持っていた刀が変化している。

あれはまさか……雪片か?

俺はその刀に見覚えがあった、しかも極最近に見た刀、千冬さんが乗ってた専用機『暮桜』で振るっていた刀だ。

千冬さんは現役時代、射撃武器を一切積まずに雪片って刀1本で世界の頂点に登り詰めた。

そう、言うなればアレは『世界最強の刀』だ。

なんつうか……正に一夏にはうってつけの武器じゃねえか。

 

『……貴方もやはり、初期設定状態の機体でしたか……本当に貴方達は無茶苦茶ですわね』

 

煙から現われた、2度目の驚愕的な展開に腐れアマは唇を噛んで表情を歪める。

まぁ素人2人に追い詰められた上に、2人共一次移行(ファーストシフト)すらしていないとくれば……アイツのプライドずたずただろうな。

だが、そんな風に悔しがる腐れアマを尻目に、一夏は手に現われた雪片を驚きの顔で凝視していた。

 

『……俺は世界で最高の姉さんを持ったよ』

 

そして、その雪片を眺めていた一夏は唐突に笑って語りだした。

一夏の言葉に呼応するかの様に、雪片は刀身をスライドさせて中心から青いレーザーの刀身を露にする。

そうだな一夏、テメエの姉さんは世界最高だよ……だからこそ……。

 

『でも、そろそろ……守られるだけの関係は終わりにしなくちゃな……これからは俺も、俺の家族を守る』

 

テメエも『漢』を見せなきゃいけねえぜ?

あの人を守ろうってんなら、目標は『世界最強』って事だ。

 

『はぁ?……貴方、何を言ってますの?』

 

すると、語っていた一夏の言葉に、腐れアマは表情を困惑的ななモノに変えて聞き返した。

其処には今までの見下す様な色は無く、只ワケが判らないから聞き返すだけだった。

せいぜい考えておきな腐れアマ……ソイツのシスコン振りは、度肝を抜かれるぜ?

 

『とりあえずは千冬姉の名前を守るさ。弟が不出来じゃ、格好が付かないもんな』

 

一夏はそう言って雪片を斜め後ろに構える。

そして腐れアマもティアーズのミサイル型を構えて一夏を見つめた。

 

『それに、今は無理でも……いつかはゲンに……『兄弟』に追いついてみせる……そうじゃなきゃ、こんな俺を対等な『兄弟』だって言ってくれてるアイツに示しがつかねえ』

 

一夏の言葉に、俺は嬉しさが抑えられずニヤケてしまう。

俺に追いつく……か……さっさと俺んトコまで上がってきな……『兄弟』

そして、その言葉を皮切りに腐れアマのティアーズから4発のミサイルが発射される。

 

 

 

最後の戦闘の開始だ。

 

 

 

『見える!!(ザシュッ!!ズババァッ!!)』

 

そして、そのミサイルを一夏は先程までとは比べ物にならないスピードで交わし、一瞬の交差で斬り落とした。

一夏を通り抜けたミサイルは、その少し後で爆発し、目標の撃破を失敗した。

俺はモニターの向こうで飛びまわる白式のスペックに、内心舌を巻いてしまう。

あのスピードと機動力……完全に俺のオプティマスより上だ。

それを考えると、俺は次の喧嘩が楽しみで仕方なくなってくる。

アイツがISで俺を倒すか、俺がアイツをブッ飛ばすか……こりゃあ勝負は分からなくなってきたぞ。

 

『でやぁああああああああああああああああああああああああッ!!!』

 

『ッ!!?』

 

そして、ミサイルを斬り伏せて腐れアマに肉薄した一夏が、手に持った雪片を腐れアマの喉下目掛けて振るい……。

 

 

 

 

 

 

 

プアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合終了のブザーが、アリーナに鳴り響いた。

 

 

 


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