IS~ワンサマーの親友   作:piguzam]

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暫くは更新できないのでその間に少し違う物語をば


超番外編(世界観IF~龍が如く維新)

 

 

 

 

 

――チュンチュン。

 

「ん、う……?」

 

朝の爽やかな空気に誘われて小鳥達がさえずり、人に朝を知らせる音色を奏でる。

ボンヤリとした起き抜けの頭でを振り、寝ぼけた身体を覚醒させていく。

今日という1日の始まりだ。

 

「……あれ?」

 

ふと、隣にあった筈の温もりが無い事に気付く。

俺と産まれたままの姿を同じ布団に納め、互いを包みこんでくれる大切な温もり。

それが無い事に疑問を持つも、それは直ぐに瓦解した。

 

グツグツグツ……。

 

トントントン。

 

自然の音とは違う、人の文明が奏でる音楽。

切り出された板の上を、俺達の力の源となってくれる作物が形を変える音。

そして、より豊かに俺達に食べる楽しみを与える鍋の中で煮込まれる音。

 

――あぁ……朝餉の支度か。

 

まだ寝ぼけ気味の頭でそんな事を考え、俺の為に早起きしてくれる大切な存在の暖かさに、口元が笑みを形作る。

布団から身体を起こし、此方に背を向けて台所に立っている彼女の後姿を堪能していると、視線に気付いた彼女が此方へ振り返った。

黒羽の様に上質な潤いを持つ長い黒髪と、天女の如く美しい笑顔。

この世の男達を魅了してやまない誘惑に満ちた身体つきを、薄い青色の着物で包み、袖をたすきで捲り上げている。

儚げな月を思わせる微笑みを浮かべる彼女は、数少ないご近所や……美しい花魁の多い京の町でも美女と評判の高い女であり……。

 

「あっ、起きられました?……おはようございます――あなた♪」

 

「あぁ……お早う、『おさと』」

 

この俺、『島田魁』の大切な女房の『おさと』だ。

 

 

 

――俺とおさと……江戸から離れた俺達は、京の街から少し離れた山奥で静かに暮らしてた。

 

 

 

「いただきます」

 

「はいっ。どうぞ、召し上がれ♪」

 

自分達の自宅で野菜を作り、山の動物を狩り、釣った魚や料理を売る、自給自足の生活。

決して裕福とは言えない生活……だが、おさとはそれを一度も苦言した事は無かった。

女として生まれたからには雅な着物も着てみたいだろうに、彼女はそんな事を一度たりとも口にしない……。

 

「私は魁様に心奪われ、身分不相応な恋をしていまいました……その想いを貫き、家からも反対され、勘当された私を、魁様はずっとお守り下さってます……武士の魂である、大切な……お義父様の形見の刀を売り払ってまで、私と共に生きる道を示していただきました……そこまで私を大事にして下さってるのに、愛しい貴方様と共に生きられる事に、これ以上何の不満がありましょうか」

 

俺が今より楽な生活をさせてやりたいと言えば、おさとは決まってこう返す。

そこまで言って貰えるのは、男としてこの上無い幸せだという事は理解してるが……俺は只、おさとにもっと色んな事をしてやりたかった。

昔、裕福な家に生まれ、何不自由ない生活をしていたおさとをこんな生活に納めてしまったのは俺の責任だ。

確かに、俺の様な下級武士……郷士に、上士の娘が嫁ぐ等、この身分社会ではあってはならない。

そう言って彼女に別れを切り出した事もあったが……彼女が家と縁を切ってまで現れた時は、もう覚悟を決めた。

俺は彼女を連れて、身分という鳥篭から解き放ち……名を隠して生きるという業を背負わせてしまった。

世の中は……特に帝のおわす御所があるこの京は異国の黒船が来航して以来、攘夷だ倒幕だと騒がしいが、俺には1つたりとも興味は無い。

天下人たる帝や、三百年の歴史を誇る徳川幕府の存在なんて、俺にとってはどうでもいい事ばかり。

 

 

 

……俺は、おさとを幸せに出来れば、それで良かったんだ――。

 

 

 

だが、天下……いや、幕末の動乱という時代のうねりは、俺達を静かに過ごさせてはくれなかった。

コツコツと貯めていたへそくりで、おさとの為に新しい上物の着物を買い付けに行った時の事を、俺は一生忘れない。

伏見の町で、勤王――帝に忠を尽くし、幕府を敵とする志士達が暴れていた時に、奴等の1人から剣を奪って、剣を振るってしまった事を。

 

「君の剣の腕、そしてその剛力……それを野に捨て置くのは実に惜しい……どうでしょう、島田君……その剣の腕、私達の組織で振るってみる気はありませんか?」

 

「……お断りします……俺は、自分とあいつの為以外に……剣を振るう気は無え」

 

「ほう?……では何故、あの場で自分から剣を振るったので?」

 

「……分かってて聞いてんだろ?……俺があそこで出なきゃ、あの異人……マヤは斬られていた……異人でも、女だぞ?……女が斬られるのを黙って見る程、腐っちゃいねぇ」

 

遠い異国から、地球儀の見方や勉学を教えるために来日した、幕府お抱えの講師であるマヤという緑髪の女を思い出しながら、俺は目の前の男に言葉を返す。

アイツは、日本の伝統文化を尊重し、伝えられる知識として異国の効率的な……もっと、日本人が飢える事の無い食物を作れる様にって想いを持っていた。

そんな真っ直ぐな思いを持つ女をただ異国の人間だからって斬る様な神経自体が、俺には理解出来なかったから助けた。

何より、それを見捨てたら、俺はおさとに一生顔向け出来なくなる。

 

「……なるほど……つまり、自分が正しいと思った通りにしか剣は振るわないと……では話を変えますが、聞く所によれば……君は、今の生活に不満を持っているとか?」

 

「ッ!?」

 

その男……鋭い眼光を持った、美形と言われる顔つきの男に自分の思いを見抜かれ、俺は目を見開く。

 

「君は、自分の大事な人に楽をさせてあげたいと……もっと良い生活をさせてあげたいと、日頃から愚痴ってるらしいじゃないですか?……それに、君の大切な人はとても見目麗しく、下衆な目を向けられる事も多いと聞きます」

 

「……だったらなんだってんだよ」

 

「……良い生活がしたい……そして大事な女性の安全を守りたい……ならば――」

 

やけくそ気味に言い返した俺の目を真っ直ぐに見つめながら、『浅葱色の羽織』を翻し、背中を向ける。

その背には、大きく白い染め抜きで描かれた――誠忠を貫く『誠』の文字が背負われている。

男は俺に背を向けたままに、口を開く。

 

「君の守りたい大切な人を脅かすかもしれない不逞浪士達を……君自身の類稀な剣の腕を駆使して斬り、京の町から排除する事こそ、彼女を守る事に繋がるのではないかと……私は思うがね……もし来てくれるなら、それ相応の生活を送れる事は、保証しますよ……では」

 

言いたい事を言って……俺を誘惑する甘言を残して、男……『土方歳三』は、去って行った。

俺はその背中を黙って見つめて見送り、その後は記憶が曖昧だった。

どうやって帰ったのかも、足取りも覚束ない……いや、判ってはいたんだ。

俺にある取り得なんか、精々が剣の腕や、尋常じゃない腕力ぐらいなもの……それ以外に誇れる事なんてそう無い。

……俺の剣の腕が高く買われて、それが――。

 

「……どうされたんです、あなた?……そんなに難しい顔をされて……」

 

――おさとを、この生活から抜け出させてやれるなら――。

 

「……おさと」

 

「??なんでしょう?」

 

 

 

「俺は――『新撰組』に入隊する」

 

 

 

――俺は、その為に剣を振るおう。

 

 

 

――その日から、俺はおさとにわんわんと泣かれた。

 

 

 

そんな事しなくてもいい、壬生狼の仲間になんて入らないで欲しいと。

この生活を変える為だと言えば、彼女は益々泣き喚いた。

入隊試験を受けに行こうとすれば、おさとは地面に土下座して俺の道を阻んだ。

 

「どうか、どうか思い直し下さいませ。私は本当に今の生活だけでよろしいのです。あなたが血で血を洗う様な事をなさってまで生活を変えられる必要は皆無にございます。今一度、今一度お考え直し下さい」

 

「……すまん、おさと……もう決めた事なんだ……お前の為なんかじゃねえ……俺は、金の為に人を斬る……俺は今よりもっと、良い生活がしてぇんだ」

 

「あぁ、そのような嘘をおっしゃらないで下さい。あ、あなたが日頃から、私に負い目を感じてらっしゃるのは重々承知しております……あなたは……私の為に、人をお斬りになるおつもりなのでしょう……どうかお止め下さいませ……」

 

「……」

 

「お願いします、魁様。私の為にとおっしゃるなら、どうか私の我侭を叶えて下さい。私の傍に居て下さい。壬生狼の仲間になどならずに、私を……今までの様に、愛して……あなたが傍に居てくれるこの生活は、私にとって何物にも変えがたい幸福なのです……どうか、お願いします」

 

「……すまねぇ」

 

「ッ!?……う、ううぅっ!!」

 

どれだけ懇願されても、俺はおさとの願いを聞く事は出来ない。

確かに、自分の為として人を斬る等、それは当人からすれば耐え難い苦痛だろう。

自分の生活が、名前さえ知らぬ他の人間の血で支えられているなんて……心優しいおさとには耐えられない筈だ。

でも、俺はこの考えを改めるつもりは無い。

 

「おさと……正直に言う……俺が新撰組に入るのは、お前の為だけじゃねぇ……俺の為でもあるんだ」

 

「……」

 

おさとは泣いているのだろう、土下座したまま声を漏らす様は、見るに耐えなかった。

俺は地面に膝を付き、彼女の身体を起こしてしっかりと抱きしめる。

おさとの顔が、丁度俺の肩の上に乗り、泣き声がより鮮明に聞こえてきた。

 

「……この村に来て……京の町に世話になって、長いよな……」

 

「……」

 

「おさと……今、京の町は荒れてる……勤王の志士なんて奴等が町で幕府の役人を斬り殺し、勤王の為だとほざいて店から金を徴収し、慰安だとか言って娘を攫い、挙句には野盗までもが勤王の志士を謳って悪さをしやがる」

 

「……はい」

 

「俺はな……あの街が……お前と過ごした思い出のある京の町が汚されていくのが、耐えられねえ……それに、あんな奴等をのさばらせておいたら、お前まで奴等の慰み物にされちまうかもしれねえ」

 

一つ一つ、俺の心の中で燻っていた想いを乗せて、俺はしっかりと自分の言いたい事を言葉にする。

今まで、おさとがそういった不逞浪士達に絡まれた事は何度もあった。

奴等のおさとを見る目は1つの例外も無く下卑ていて、己の欲望を満たそうと考える獣ばかり。

おさとの美貌、そして整った身体に豊満な胸、それを自らの黒い欲望を処理する道具としか見てない屑共。

俺はおさとを決して1人では町に行かせなかった。

そんな屑共に俺の知らない所で穢させるなんて、天が許しても俺は許せない。

だから、おさとに汚い目を向けた奴等は一人の例外も無く、骨を折り、内臓を潰し、二度と立てない身体にしてきた。

でも、二人で街を出歩くたびにそんな事が起きては、おさととゆっくり過ごすのも難しい。

実際、誰にも絡まれずに町で過ごせた事など、両手で数えられる程しか無かった。

……それでも……俺とおさとにとっては、大事な思い出の詰まった町なんだ。

 

「俺は学も教養も無え男だ……勤王が正しいか、幕府が正しいかなんて分かんねぇ……でも、一個だけ分かる事がある」

 

「……何でしょうか?」

 

ゆっくりと落ち着かせる為に彼女の頭を撫でていたお陰か、おさとはさっきまでと違ってゆるやかな声音で俺に問う。

 

「どっちにしても、大きなモノに巻き込まれて涙を流すのは、力の無い今の俺達や……町に住む人達なんだよ」

 

「……」

 

「俺が剣を振るう事で、少しでも京の治安が良くなるなら……お前をもっと色んな所へ連れて行ってやれる……もっと、楽しい思い出が沢山作れる……その為に俺が剣を振るうのは……納得出来ねぇか?」

 

「……でき……ません」

 

俺が彼女を包みこむ様に抱いていた所を、彼女は手を伸ばして俺を抱きしめ返す。

肩に乗せられていた顔は胸元へ降り、俺の胸に顔を押し付けてくる。

 

「ごめんなさい……私は欲深い、我侭な女です……どのような理由があろうと……あなた様に傍に居て欲しい……あなた様と少しでも長く共に居る事が……私の幸せなのです……う、うぅぅぅ……ッ!!!」

 

「……おさと……」

 

「い、嫌です……行かないで……あなたぁ……ッ!!」

 

彼女は震える身体で俺をしっかりと抱きしめながら、胸に顔を押し付けたままにくぐもった声で俺に訴えかけてくる。

必死に、今まで言った事も無い我侭を捏ねて、例え俺を困らせようとも、一生懸命に俺を止めようとしていた。

……そんな必死なおさとの様子に心が痛まない訳が無い。

静かな家の中で響くおさとの嗚咽が、俺の胸に深く突き刺さり、それを誤魔化すかの様に俺は彼女を抱く手に力を込める。

 

「ぐすっ…………でも……」

 

長い長い嗚咽と、悲しみに彩られた声……それがどれだけ続いたか分からない程の時間が経った時、おさとは涙を堪える様に震えた声を出した。

 

「……私だって……あなた様の想いを無視する事など、したくありません……ですから」

 

おさとは胸元から顔を離し、涙で濡れた瞳を俺に向けて、震える口を開いた。

 

「どうか、どうか、お約束下さい……必ず、毎日生きて戻ると……今までと、変わらず……私を、愛して下さいませ……ッ!!」

 

「……あぁ。約束するさ……必ず生きて帰るって……俺も、まだまだずっと、お前を愛したいからな」

 

何処までも変わらない愛を向けてくれるおさとの想いを胸に抱きながら、俺はおさとと熱い口付けを交わす。

そのまま愛しい女の身体に手を回し、着物を肌蹴させ……布団に連れて行って、彼女を押し倒し、俺は彼女を抱いた。

……こいつを守る為なら、俺は誰であろうと斬り、必ず生きてみせるという覚悟を決めて……。

 

 

 

「……来たか……待っていたよ、島田君」

 

「……入隊試験を希望します」

 

 

 

俺は、新撰組の屯所へ足を踏み入れた。

剣を売り払ってしまった俺の得物は、大太刀を鍛え直して仕上げた特注の戦斧。

剣を手離してから今日この時まで、山の熊や野盗共を何度も屠ってきた、俺の大事な武器だ。

それを手に入隊試験に臨んだ俺だが、先に試験を受けている人間を見て驚いた。

何故なら試験を受ける野良武士だというのに、太刀筋は鋭く、打ち込みは激烈……途轍も無く強い男だったからだ。

その男……『斉藤一』は難なく試験を合格し、その後に現れた、血の羽織を背負った一番隊隊長である『沖田総司』とも息を呑む攻防を披露した。

斉藤さんの強さ、そして沖田さんの動きに自信を無くした入隊希望の浪士達は逃げる様に屯所を後にし、残ったのは俺だけだった。

 

「……自分は逃げへんのか?」

 

試験官である二番隊隊長の『永倉新八』さんは、俺に視線を送りながらそう声を掛けてきた。

何故かさっきの斉藤さんと沖田さん、そして俺を推挙した土方さんも残って俺に視線を注いでいる状況。

……でも、引くつもりは無え。

 

「……俺には、京の町で暴れる不逞浪士を何とかしなきゃいけねえ理由があるんで……逃げるなんて出来ないですね」

 

俺を真っ直ぐに見てくる永倉さんにそう返しつつ、俺は戦斧を構えた。

それを見て、永倉さんも刀の柄尻に手の平を押し当てるといった変わった構えを取る。

……一瞬でも気ぃ抜いたら斬られるな。

 

「そうか……今は理由は聞かん。せやけど、試験は厳しめにさせてもらうで?……思いは立派でも、弱かったらお前の為にならんさかいな」

 

「ご遠慮なく。俺も一切手は抜きませんので……精々死なねえようにしなすってください」

 

「……ほぉ」

 

「く、くくく……あの兄ちゃん、腕によっぽど自信があるんか?それとも只のアホなんか?新八っちゃん相手によう言うでぇ」

 

「……あいつの目を見れば分かる……あれは、大事な者の為なら、自分の全てを賭ける男の目だ……あんな奴がまだ京に居たんだな……」

 

そうして始まるかと思った入隊試験だが、それに待ったを掛けた存在が居た。

新選組七番隊隊長の谷三十郎……この男は、永倉さんに俺との試験の相手の変更を申し出たのだ。

 

「どういうつもりや、谷。金と女にしか興味の無いお前が、何でこいつと戦おうとする?」

 

「あぁ?そりゃ決まってんだろ。アンタの言う通り、『女』が絡んでるのさ」

 

「……何やと?」

 

俺の目の前で話すこの二人の言葉に、俺は言い様の無い不信感を感じた。

金と女?……まさか?

 

「おい。島田とか言ったな、お前」

 

「……なんでしょうか?」

 

俺が敬語で話し返すと、谷は見るのも嫌になる様な下品な笑みを浮かべた。

それを見た他の平隊士達も同じ様な笑みを浮かべて「始まったぜ」とか言い出している。

 

「お前の女……確かおさと、とか言ったか?あの男に抱かれる為に生まれた様な女の旦那ってのは、さぞかし良いんだろうなぁ?どんな抱き心地か、スゲェ興味あるぜ」

 

「……」

 

「ありゃあ良い女だよなぁ……昔町でお前と歩いてるのを見かけたのを、今でも良ーく覚えてるぜ……色気が凄すぎて、町中だってのに興奮しっぱなしだったからな。俺だけじゃなくて俺のトコの隊士もよ。なぁお前等?」

 

谷がある一団の奴等に声を掛けると、その一団も「犯したくてたまんねぇ女だったぜ」とか口々に言い出す。

永倉さんや斉藤さんは、そんな奴等に厳しい目を向けている。

沖田さんはニヤニヤしながら「なんや、おもろい事になってきたなぁ」と、事態を楽しんでる様だ。

俺はそんな周りの空気とは違って……只静かにしていた。

 

「あんな良い女、お前みてえな奴には勿体ねぇからな。この俺がお前をぶっ殺して貰い受けて、俺がお前の代わりに守ってやるよ。その代わり夜はたっぷり可愛がってやるけどなぁ♪」

 

「……」

 

「つう訳で、今から俺がお前の試験の相手だ。永倉さんは邪魔だからどきな」

 

「アホ抜かせや、この下衆が。そないな理由で変わるなんぞ「永倉さん、良いですよ。変わって下さい」……坊主?お前何言うとんねん?」

 

谷の勝手な言い分を聞いて、永倉さんは反発しようとするが、誰でも無い俺自身が待ったを掛ける。

そんな俺の言葉に谷は更に醜悪な笑みを浮かべ、永倉さんは怪訝な表情を受かべるが、俺はそれに構わず土方さんに視線を送る。

 

「土方さん。1つ聞きたいんですけど」

 

「……何だね?」

 

俺の質問に眉一つ動かさず、土方さんは問い返す。

 

「コイツをここで殺したら、試験は失格ですか?」

 

あっけらかんと、まるで気負う事無くそう言い放った俺に対して、他の反応は様々だ。

大半はポカンと呆け、沖田さんだけが俺の物言いに大爆笑していた。

少ない面子は表情を真剣なものに変える中で、殺します宣言された谷は――。

 

「……ち……調子に乗ってんじゃねぇぞ!!この糞餓鬼ぃいいいいいいいいい!!!」

 

額に青筋を浮かべ、抜刀しながら斬りかかって来た。

しかし俺はそれに反応せずに、土方さんの方をずっと見続けている。

 

「ッ!?坊主!!何処見とるんやぁああ!!」

 

斬りかかって来る相手が居るのに見当違いの方を見てる俺に、永倉さんの叫びが届く。

そして、相手が刀を振るって俺に届くまで、あと3歩という所で――。

 

 

 

「――構わんよ」

 

「そうですか――」

 

 

 

ブジュウウウウウウッ!!!

 

 

 

「――なっ」

 

誰の声だろうか。

事の成り行きを見ていた隊士や隊長かもしれないし、もしかしたら谷かもしれない。

小さく呟かれた声らしきものは、直ぐに虚空へと染み渡り、霧散していく。

 

「ほほぉ……言うだけの事あるやないかぁ兄ちゃん。ひゃはははははは!!!」

 

「――」

 

静寂の中で、沖田さんの歓喜する声と、俺に向ける剣呑な視線だけが、この中で唯一動く存在。

戦斧を振り降ろした状態で佇む俺の目の前……刀を振り上げた体勢のまま固まる谷の、股間の下に、俺の戦斧は振り降ろされている。

地面に着いた戦斧は、その重量を加味した振り降ろしで、大地に亀裂を刻み―――その上を、『真っ赤な鮮血』が流れた。

 

「――」

 

バクチュッ……。

 

何とも形容し難い肉の『ずれる』音と共に、目の前に居た人物――谷三十郎の身体は、『真っ二つ』に割れていく。

その割れた身体は扇の様に左右に開いて地面に倒れ、脳みそや胃なんかの内臓を一通り地面に落とす。

上に掲げられていた刀も半ばから力で斬り取られ、折れた先は地面に刺さっている。

誰もその光景を見て喋ることが出来ない中で、俺は肉と内臓の山から己の戦斧を引っこ抜く。

さっきまで太陽の光を受けて鈍色の耀きを発していた戦斧は、今や血に濡れた赤色でしかない。

それを振って血飛沫を飛ばした後、肩に担ぎながら、俺はさっき目の前の生ごみと一緒になって俺の女に邪な思いを吐き出していた下衆共に視線を向ける。

 

 

 

「……次に俺の女を汚ねえ目で見てみろ……足の先から順に……なます斬りにしてやるぞ?」

 

 

 

――この日から、おさとの事を話す奴は、新撰組から居なくなったという。

 

 

 

そして次の日、俺は土方さんから七番隊隊長になる気は無いかと聞かれ、最初はそれを辞退した。

俺の女房を汚い目で見てた奴等の面倒なんか見れない、と。

――しかし、土方さんはこう返してきたのだ。

 

「安心したまえ。先の谷三十郎の部下達は、君を恐れて隊を脱走しようとした所を全員捕縛し、切腹に処した」

 

「――なに?」

 

切腹?隊を脱走しようとしただけでか?

話をしたいと呼ばれた新撰組の屯所の一室で、俺は驚愕に目を見開く。

……これが、俺が後に知った『鬼の副長』と呼ばれた土方さんの顔だった。

 

「奴等は元々素行が悪く、強姦事件も多数起こしている。こっちにばれない様にしてるつもりだったんだろうが、観察から話はきていた……新撰組に溜まる膿を吐き出せて良かったよ」

 

仲間であろうとも、新撰組という『名』に泥を塗れば誰であろうと粛清する。

……これが……新撰組、か。

 

「つまり、君には事実上、空になってしまった七番隊を作り直してもらいたい。これは谷を殺した責任と言い変えても良いだろう……引き受けてくれるね?」

 

「……分かりました」

 

そうして、俺は七番隊の隊長となり、時を同じくして三番隊隊長になった斉藤さんと共に新しい新撰組の隊長を担う事になる。

その日の帰りに土方さんから新しい七番隊の隊長羽織を受け取って、俺は帰宅し、おさとに今日の報告をした。

俺が入隊したと同時に七番隊の隊長になったと言うと、おさとは自分の事の様に喜んで、夕食を豪華にしてくれた。

やはりまだ納得はいってない様子だったが、必ず約束を果たすから、少し辛抱してくれと言うと、直ぐに笑顔を見せて頷く。

夕食の後は、おさとが俺の隊長羽織の裾直しをしてくれて、明日着ても大丈夫な様になっていた。

……本当に、俺には勿体無いぐらい出来た女房だよ……ありがとうな、おさと。

 

 

 

「――じゃあ、行ってくる」

 

「はい……どうか、お気を付けて」

 

「……あぁ」

 

 

 

翌朝、隊長のみが着用を許された浅葱色の羽織を着て、俺は玄関前でおさとと話していた。

彼女の顔色は余り優れず、俺の事が心配で堪らないというのが見て取れる。

俺は、ここまでひたむきに愛を向けてくれる彼女の存在が愛しくて……そっと、彼女の唇に口を落とした。

 

「あっ、ん……んぅ……」

 

「……ふぅ」

 

「はぁう……あ、あなた……?」

 

「……ちょっとは元気、出たか?」

 

「……はい♡……あなたの元気、分けて貰いました♡」

 

最初は驚いたように口元に手を当てていた彼女だが、直ぐに口付けの意味に気付いて、微笑みを浮かべてくれた。

俺も同じ様に微笑みを浮かべ、彼女の頬に手を伸ばすと、おさともその手に自分の手を重ねる。

……俺が守るべき確かな暖かさが……ちゃんとここにある……この暖かさが、俺が剣を振るう唯一の理由だ。

 

「じゃあ、行ってくる……飯と風呂、頼むな?」

 

「はい……」

 

俺は最後にちゃんと帰る事を伝え、戸を開いて外へ出る。

そのまま庭を真っ直ぐに抜けて、小さな門を潜ると――。

 

「――あなた!!」

 

後ろから、おさとの声が聞こえたので振り返り……火打石を両手に持つ彼女の姿が飛び込んできた。

そのまま彼女は火打石を二回、カチン、カチンと打ち鳴らす。

毎日出かける前に一日の安全祈願として、帰宅時に外の厄を家に持ち込まないために鳴らす、「切り火」だ。

 

 

 

「――行ってらっしゃいませ!!――ご武運を!!」

 

 

 

今まで出会ったどんな女よりも美しく……暖かな笑顔を浮かべて、彼女は俺を送り出してくれた。

 

 

 

――今日は何があっても、大丈夫な気がするな。

 

 

 

晴天の中で輝く太陽に目を向けながら、俺は京の町へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ――龍が如く維新、外伝紀。

 

 

 

     我、七番隊隊長、島田魁、推参。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           ――CAST――

 

 

 

         島田 魁…………鍋島元次

 

 

         おさと …………夜竹さゆか

 

 

         マヤ  …………山田真耶

 

 

         沖田総司…………真島吾朗

 

 

         永倉新八…………冴島大河

 

 

         斉藤 一…………桐生一馬

 

 

         土方歳三…………峯 義孝

 

 

         谷三十郎…………八幡 

 

 

 

           ――STAFF――

 

 

 

         総合監督…………IS学園生徒会長

 

 

         総合演出…………篠ノ之束

 

 

         提供会社…………東城会

 

 

         道具提供…………真島建設

 

 

         総合出資…………堂島大吾

 

 

         挿入歌 …………「Numb」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――っていう内容の映画を今度の学園祭でやろうって考えてるんだけど、どう?」

 

「アホか(バチコン!!)」

 

「痛い!?」

 

長々と自作のプロモーションを見せられて疲れたので、軽いデコピンを生徒会長に見舞っておく。

あぁ疲れた……なんでこの学園の生徒会長はこうもチャランポランなんだ。元からか、クソ。

 

「い、痛いなぁーもう!!女の子には優しくしなきゃいけないのよ!?」

 

「そうか、なら手加減の必要はねえな」

 

「あ、あれ?私一応女の子なんだけどなー?」

 

「っていうか本編ですら絡んでねぇのに番外でしゃしゃり出てくんじゃねぇよ」

 

「良いじゃないのさー!!本編じゃまだ出番大分先なんだし、こういう時ぐらいはチョーシ乗っちゃうんだからー!!」

 

「ほぅ?誰の前でチョーシにのるだと?」

 

「え?く、食いつくのそこ?っていうかキャラが違うと思うんだけど?」

 

「ったく……つうか、島田魁っていえば、永倉新八が隊長を務める二番隊の伍長じゃねぇか。何で七番隊の隊長になってんだよ」

 

「そんなの、普通と同じじゃつまんないからに決まってるでしょ?」

 

「普通に謝れ。っていうかどう考えたって他の面子を呼ぶの無理だろコレ」

 

何だよこの錚々たる豪華過ぎるメンバーの数々は?

俳優費どんだけいんの?

っていうか一人は時間軸的に死んじゃってるし。

大体、勝手にヒロインにされてるさゆかも、俺と夫婦役なんて嫌に決まって――。

 

「ぐすっ、すんっ……おさとさん……健気過ぎるよぉ」

 

「」

 

感情移入し過ぎて泣いてらっしゃる。

し、しかしまぁ、この調子なら映画なんてやる気にはならないだろう(フラグ構築)

 

「ねーねーさゆかちゃん。実はこのおさと役って、濡れ場があるんだけど……(フラグ強化)」

 

「え、えぇぇぇえええ!!?ぬ、ぬぬ、ぬっ、ぬれっ!?濡れ場!?」

 

「そそっ♪島田魁役、つまり鍋島君とベットであーんな事とかぁ……あっ、こーんな事まで♪」

 

「あ、あんな事や、ここ、こんな事!?」

 

「そうなのよぉ……だから、さゆかちゃんがどうしても嫌なら……他の子に――」(フラグ要塞化)

 

「ッ!?や、やります!!!私が!!元次君のお嫁さんの!!お、おさとの役、やります!!!」(フラグ回収)

 

「そっかぁー!!良かったね鍋島君♪こんな可愛い子に濡れ場OK出してもらえ「どらぁあああ!!」って危なぁ!?」

 

オプティマスの腕を部分展開して殴り掛かるも、寸での所で避けられてしまう。

ちっ!!外したか!!なら次は百倍の力でブチ込んでやる!!

直ぐ様ファイティングポーズを取る俺と、両手を挙げて降伏を表わす生徒会長。

 

「ちょ、ちょっと待った!!ギブ!!ギブアップよ!!」

 

「この死合はネバーネバーサレンダー(決して決して諦められない)方式ぃいいいいいいい!!」

 

「いやぁああああ!?降伏は普通有りでしょぉおおおおお!?」

 

っていうか試合の字が違う!?というツッコミはスルーして拳を振りまくる俺と、その拳を避けまくる会長の鬼ごっこ。

そんな俺達の中に別の第三者が乱入。

 

「うわ~ん!!何で私の出番が無いのぉ~!?私も映画に出たい~!!ゲンチ~のお嫁さんがしたいよぉ~!!」

 

「何で私は異人設定なんですか!?もしかして髪の色!?やり直しを要求しますぅーーー!!私だって元次さんのお嫁さん役が欲しいです!!」

 

「おい○○。何故私の役柄が無いんだ?ちょっと顔を貸せ」

 

「本音ちゃん!?ほ、本音ちゃんはちょっと子供っぽいからこの役柄は無理よ!?それと山田先生は出れるだけ良いじゃないですか!?あと織斑先生は完全に私をシメる気ですよね!?その血のついたメリケンサックはなんですか!?っていうか本編で名前が出てないからって○○って表記は酷すぎるぅううう!!」

 

「うぉおおお!!ブッ殺してやるぅうううう!!」

 

「そして鍋島君は何でそんなに殺意漲ってるのかしらぁああああ!?」

 

「ちょ~っと待ったぁああ!!これどういう事かな束さんが協力した暁には束さんがゲン君のお嫁さん役だった筈だろオイ何で束さんの名前はクレジット表記だけなんだよ馬鹿なのバカでしょ馬鹿なんだよねうん間違い無いねそんな馬鹿は地球上に居る必要は皆無だから細胞レベルで分解してこの世から完全に抹消してやらなくちゃ待っててねゲン君今束さんがこのミトコンドリア並に邪魔な存在を消し飛ばしちゃうから――」

 

「篠ノ之博士もすいませんでした!!」

 

 

……これは、もしかしたら行われていたのかもしれない、学園祭前のIS学園の一日の記録である(大嘘)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






まだ発売されて日が浅いので、完全なプロローグ形式でさせていただきました

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