IS~ワンサマーの親友   作:piguzam]

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気になるクラス代表はアノ子!?え?予想通り?サーセン

YO,リスナー諸君ハッピーかい?今回MCを務めさせてもらうDJ、GENだ。

 

本日はあの大決闘から2日経った月曜日の朝、そして学校で朝に必ず行われるSHRの真っ最中、IS学園一年一組の教室内からお送りするぜ。

 

 

この学園に二人しかいない男子生徒の片割れにして俺の唯一無二の兄弟分、織斑一夏は現在とんでもない顔をしていた。

一夏の視線は黒板に書かれた信じられない文字を目にして開いた口が塞がらない所か、もう少し開いたら顎が外れるのではないかって具合になってる。

ちなみに、その隣りに座ってる俺は一夏のそんな表情を見ながらクックッと笑いを堪えるのに必死だったりする。

まぁ何で一夏がこんな事になっているのかっていう理由は黒板だけじゃなくて、教卓に立ってる真耶ちゃんも原因の一つなんだろう。

他の女子の皆様方も非常に盛り上がりを見せていた。

 

「はい、一年一組クラス代表は織斑一夏君に決定しましたー、あ、一繋がりでいい感じですね♪」

 

おめでとう、織斑君と書かれた黒板を背に、一年一組副担任である真耶ちゃんはニコニコと笑顔で、その理由を発表していた。

うむ、真耶ちゃんの笑顔とのんびりした小動物オーラは本音ちゃんと同じでとても癒されます。

その事実に一夏はよろよろとした手つきでゆっくりと手を上げた。

一夏の顔はさっきまでの顎が外れたマヌケ面では無く、目の前の事実が夢か何かだと思いたいって感じの顔だ。

 

「はい? 何ですか? 織斑君」

 

「あ、あの山田先生……な、何で俺がクラス代表なんですか?確か俺の戦績は1勝1敗で、ゲンが2勝0敗だったから、クラス代表はゲンの筈じゃあ……」

 

一夏はそう言ってワケの判らないって表情で俺に視線を向けてくる。

しかもクラスメイト達も聞きたい事は同じなのか、全員分の視線が俺に向けられた。

何だ?真耶ちゃんじゃなくて俺に聞きたいってのか?

俺はその大人数の視線を受けつつ教卓の傍に控えていた千冬さんに視線を向けてみる。

すると俺の視線の意味を感じ取ってくれたのか、千冬さんは俺を見ながら一つ頷いてOKのサインを出してくれた。

俺は千冬さんからのOKサインを受取ったので、皆に、いや一夏に説明するために真剣な表情で一夏に振り向いた。

俺が真剣な表情で見てくると思ってなかったのか、一夏はゴクリッと生唾を飲み込んで緊張した面持ちになっていく。

 

「あぁ、実はな…………面倒だったから降りた」

 

「真剣なツラで何ふざけ倒した事のたまってんだお前は!?」

 

「んで体よく身代わ、ン、ゥン゛ッ!!ゴホンッ……生贄(一夏)が居たから差し出したんだ」

 

「言い直した意味が微塵も感じられんわ!?しかもより酷くなってるじゃねぇかこの暴れん坊ブラザーがッ!!?っつうかマジで何て事してくれやがってんだぁーー!?(ガクガクガクッ!!!)」

 

俺の簡潔で判りやすい理由が気に食わなかったのか、一夏は席から立ち上がって俺の両肩をガクガクと揺すってくる。

だが、俺の身体はピクリともせず、完全に一夏の1人相撲状態だった。

おいおい?鍛え抜かれた俺のマッスルボディを揺するにゃ、お前じゃちっとばかしパワー不足だぜ?

そんな風に必死な表情で俺の両肩を揺する一夏に笑顔を浮かべながら、俺は指を1本立てる仕草を見せた。

 

「まぁまぁ、落ち着けや兄弟?これはまだ理由の8割程度だぜ?」

 

「もう既にその理由だけで半分以上締めてるじゃねえか!?」

 

「あーうるせえなったく、少し落ち着けってのコラ(ズバンッ!!)」

 

「ろぶすっ!?」

 

俺は若干鬱陶しいって仕草で立てた指をデコピンの形にして、詰め寄ってくる一夏の額を撃ち抜いてやった。

すると俺のデコピンをモロに喰らった一夏は変な奇声を挙げながら自分の席に倒れ込んだ。

 

「焦らんでも説明してやっから黙っとけやブラザー」

 

「う、うごご……!!ぜ、絶対に碌な理由じゃねえ気がするんだが……っていうか、銃声と同じ音出すデコピンを平然と撃つなっての……!?」

 

「そんでまぁ、更に1割の理由だけどよぉ……」

 

「聞いてねえし……」

 

俺は再び指を1本立てて説明を続け、そんな俺の様子に一夏は額を抑えながら納得いかねえってツラを浮かべていた。

実は俺が二日前に作ったティラミスは千冬さんを買しゅ、おおっと間違えた……千冬さんと円滑な話し合いをするためのお土産だったワケだ。

俺の誠意が篭ったお土産に気を良くした千冬さんは、俺の提案を快く受けてくだすった。

そんな裏事情の末に、俺はクラス代表という面倒事から逃れて、一夏が犠牲になったってダケの話です。

まぁ俺が一夏を推した理由は何も面倒事を押し付けるためだけじゃねえんだよ。

俺は一夏に向けていた表情をニヤリとしたものに崩しながら、一夏を推薦した理由を述べていく。

 

「お前、オルコットとの試合中に言ってたじゃねえか?『これからは俺も家族を、千冬姉を守る』ってよ?」

 

「痛てて……あぁ、言ったけど、それが何で俺を代表にする理由になるんだよ?」

 

「簡単な話だ。お前今のまんまの実力で千冬さんを守れんのか?」

 

「それは……」

 

俺の言葉に一夏は二の句を告げずに口篭ってしまう。

そう、俺が代わりに一夏を推した理由の1つに、一夏の思いを汲んだってのもある。

俺と一夏はまだIS初心者、2日前の試合は何とか勝つ事は出来たが、それでも相手は代表候補生。

一夏が守るって言ってる家族……千冬さんは、そのIS乗りの中で世界最強と言われてる。

まぁIS無しでもほぼ最強種なお人なんだがな。

つまり、一夏がISで千冬さんを守るにしても、それなら最低で国家代表クラスに上り詰めなきゃならねえ。

そしてモンド・グロッソで優勝できる実力がついて初めて、千冬さんと肩を並べる事が出来る。

 

「クラス代表になっちまったら他のクラスに居る代表候補生や強豪と嫌でも喧嘩しなくちゃなんねえし、面倒も多いだろうさ。だが……」

 

ここで俺は一旦言葉を切って、2本目の指を立てる。

 

「生身での喧嘩にしろ、ISでの戦いにしろ、速く成長するのに一番必要なのは『実戦経験』だ。俺がお前を推した理由の1割は、クラス代表になると喧嘩にゃ事欠かねえからさ。その分ドンドンと実戦経験を積めば、お前の言う『家族を守れる男』になる一番の近道だと思ったからだ」

 

「ゲン……お前……!?」

 

俺の思いが伝わったのか、一夏は目を歪ませながら俺に熱い視線を送ってきた。

俺はそんな今にも感動で泣きそうな一夏に苦笑いしてしまう。

 

「鍋島君てヤッパ男……いや、漢らしい!!」

 

「うんうん!!暖かく見守る兄貴分って感じ!!」

 

「でも少し強引かな……ううん、強引に迫られたらもう何でもしてって気も……」

 

「私たちは貴重な体験を積めるし、他のクラスの子に情報が売れる。一粒で二度おいしいよ!!」

 

おぉう?つまり俺がクラス代表だった場合は俺の情報が売られてしまったワケだ……一夏よ、頑張れ(笑)

何か周りも影響されたのか、一夏と同じように目を潤わせて感動してる子が多々いる。

『熱い友情だぁ!!』とか言いながら感動した笑顔を浮かべている子が大勢……っていうか真耶ちゃんも居たっス。

『迸る熱いパッションが弾け飛ぶ時、2人の距離はゼロになる……!!』と言いながらメモにペンを走らせてる子もいた。

とりあえず最後の子は入念なOHANASHIが必要みてえだな。

あんまり相互理解が出来ねえようなら、最後はオプティマスを使う事も辞さないよ俺?

 

「くぅッ!!目から汗が出そうだぜ……!!判った。お前が作ってくれたこのチャンス、しっかりモノにさせてもらう!!」

 

と、俺がクラスの子との相互理解の深め方について思考を巡らせていると、一夏は目に闘志を滾らせてしっかりと返事をしてきた。

おうおう、ヤル気が漲ってるのは良い事だぜ、いや~乗せやすくてちょろゲフンゲフンッ。

俺は一夏の様子に笑みを浮かべながらチラリと千冬さんを盗み見てみる。

すると、教卓の端に立っている千冬さんはやれやれって顔をしながらも、耳の端っこが少しだけ赤くなってた。

まぁクラスのド真ん中で堂々と守る宣言されてちゃ恥ずかしいってのも仕方ねえか。

後は嬉しいってのもあるだろ、あの人ブラコ……。

 

ギロッ!!!

 

……ンじゃねえよな、うん。俺の勘違いだわ。

何故か心中で考えていたのに見透かされたのか、千冬さんに凄い眼つきで睨まれちまったぜ。

やっぱ天然チート過ぎるって千冬さん。

 

「あれ?でも、ゲン。後残りの1割の理由って何だ?」

 

俺が千冬さんのドチート振りに慄いていると、さっき納得した一夏が疑問顔で俺に声を掛けてきた。

 

「ん?あぁ、オルコットも同意したからだ」

 

『『『『『……』』』』』

 

俺の何でも無いような言葉に、周囲の時がザ・ワールドし殆どのクラスメイトは気マズいって顔で喋らずに困っていた。

あっやっべ、俺まだオルコットと和解した事言ってねえんだったっけ。

俺は思わずしまったって表情になりながら後ろに視線を向けると、本音ちゃんも「マズイよ~(汗)」って表情になってた。

さてこの状況を速く打開しねえといけねえぞこりゃ。

 

「あ~、皆が何でそんなツラするかはわかっちゃいるから言っておくけどよ?俺はもうオルコットとは和解してっからな?」

 

俺がなるべく判り易い様に言うと、クラスメイトの顔は驚いた表情に変わっていった。

その様子に、離れた席に座っているオルコットは苦笑いを浮かべている。

まぁそれも仕方ねえけどな。

あんだけ怒ってたってのに、いつの間にか和解してるワケだし。

ちなみにオルコットは日曜日にクラスメイトの寮部屋に行って、1人1人に頭を下げて回っていたそうだ。

これは今日の朝食の時に夜竹と相川達から聞いたから間違いない。

2人共かなり驚いた表情で言ってたしな。

 

「まぁ、オルコットはキチンと俺に詫び入れてケジメをつけたからよ。もう陰険な仲じゃねえから安心してくれ」

 

俺が笑いながらそう言うと、クラスの皆はほっとした様な表情を浮かべた。

これで俺がオルコットと陰険な仲のまんまだった日にゃ、下手するとクラスを割る可能性もあったかもな。

 

「そ、そうか。良かった……で、でもオルコットさん?俺が代表でもいいのかよ?」

 

俺の言葉を聞いた一夏はあからさまに安堵の息を吐くと、今度は俺に合わせていた視線をオルコットに向け直した。

その一夏の問いを聞いたオルコットは席から立ち上がって一夏に視線を向けた。

 

「一夏さん、こ、これからはセシリアと呼んで下さい。一夏さんともその……な、仲良くしたいですから」

 

そしてオルコットが一夏の質問に返したのは、自分の呼称の訂正だった。

オルコットの顔は少しばかりの赤みを帯びて、その顔は恋する乙女そのものだ。

お~お~、中々に攻めていくじゃねえか?

だがまぁこの朴念神と呼ばれた一夏にとっては……。

 

「お?そうか?わかった。よろしくなセシリア……で、改めて聞くけど俺がクラス代表でも良いのか?」

 

これだもんなぁ。

一夏はセシリアの要求に対して何事も無く会話を進めていく。

しかも笑顔のオマケ付きでだ。

一夏の笑顔、通称『女殺しスマイル』を受けたクラスの女の子達は、目にハートマークをこれでもかと浮かべていた。

そのスマイルを向けられた張本人であるオルコットも頬を更に赤く染めるが、オルコットは咳払いをして自分を落ち着かせている。

俺はクラスのそんな光景に自然と溜息が出そうになっていた。

やれやれ、この無自覚天然女キラーが、一体何人の女を落とすと気が済むんだよ兄弟。

 

「え、えぇ、勿論ですわ。恥ずかしながらわたくし、あれだけ威勢のいい事を言っておきながら全敗ですから」

 

「まぁ、そうだけどよ」

 

「そ、それに、二日前の戦いで鍋島さんに負けて、わたくしもかなり反省しまして」

 

まだ納得しかねている一夏に対して、オルコットは語気を強めながら話を進めていく。

おいおいオルコットよ、頼むからそういった事で俺を引き合いに出さないでくれや。

俺はテメエ等の恋愛に関して口を出したくないんだから。

 

「お詫びとしまして、一夏さんにはわたくしがIS操縦をお教え致しますわ。先の試合で見せて頂いた操縦はお見事でしたが、まだ専門的な技術の理解はなさっておられないのではありませんか?」

 

「あー、それは確かに……俺ってあん時、無我夢中だったし、また同じ様な動きが出来るかって言われたら自身無いなぁ」

 

「で、ですので、わたくしにISを使った模擬戦で専門的な技術面をコーチさせていただきたいんです。わたくしのように優秀かつエレガント、華麗にしてパーフェクトな者がコーチをすればみるみるうちに成長を遂げ」

 

おーおー、何かオルコットの奴必死だな。

まぁ、この間までの生活で一夏に出来ちまったマイナスイメージを払拭したいんだろうけど。

 

 

バンッ!!!

 

 

あん?今度は何だってんだ?

オルコットが何やら言ってる最中に、前の席の近くから何かを叩く音が鳴りだした。

俺やクラスメイトが音の発生源に目を向けて見ると、そこには両手で机を叩いたポーズのままの箒がいた。

箒は机を叩くと俺達の視線も気にせずに、すぐさま立ち上がった。

 

「……オルコットには生憎だが、一夏の教官は足りているぞ?私が、ゲンに、直接頼まれたからな」

 

『私が』を特別強調した箒は物凄く殺気立っている瞳でオルコットを睨んでいる。

一夏はそんな箒の様子に驚いてどうしたらいいかわからんって顔をしてた。

うぁちゃあ~……これってつまり、オルコットと一夏が仲良くなってそのままゴールインって可能性を危惧してるって事か?

っていうか箒、テメエまで俺を巻き込むんじゃねえっつの。

しかしオルコットは箒の睨みを物ともせずに正面から受け止めて、視線を返している。それも誇らしげにだ。

 

「あら、あなたはISランク、Cの篠ノ之さん。Aのわたくしに何かご用かしら?」

 

「ぐっ!?ラ、ランクなどどうでもいいだろう。ちなみに一夏?お前はどのくらいだ?」

 

箒さん?頑張ってにこやかにしてるけど、眉毛がピクピクしてますぜ?

 

「お、おう。俺はBだけど」

 

「ぐッ!?で、ではゲン!!お前はどうなんだ!?」

 

そして一夏のランクを聞いた箒は一夏のランクが予想外だったのか、今度は俺に矛先を向けてきやがった。

大方、一夏のランクの低さを出汁に自分でもコーチが出来るって言いたかったんだろう。

しっかし、一夏を盗られまいって必死な思いは結構だが、そこに俺を巻き込まんで下さい。

ヤッパ一夏関連のその辺りの事になると、形振り構ってらんねえって事か。

大体オルコットも恋は戦争だからって箒を煽るなやチクショウ。

俺は溜息を吐きたくなるのを我慢して、箒たちの方へと向き直る。

 

「俺か?俺のランクは……っそーいや聞いてなかったな?織斑先生、俺のランクって何なんすか?」

 

俺は箒の質問に答えようとしたんだが、今になって俺のISランクが何か聞いてなかったのを思い出した。

だってあの時の思い出っつったら、真っ赤な顔の可愛い千冬さんか、地獄突きの痛みだけだったし。

俺の質問でクラスの視線を一手に受けた千冬さんは腕を組んだまま、質問した俺に視線を向けてきた。

 

「お前のISランクはS、私と同じだ」

 

「あっ、そうっすか。だってよ箒、俺のランクはS……S?」

 

俺は千冬さんの言葉をそのまま反復して箒に伝えたが、その途中で喉に骨が引っかかる様な違和感を感じた。

え?ちぃと待てよ……今オルコットはランクAだっつってたよな?対して俺はS?……千冬さんと一緒?……は!?

今の奇妙な違和感の正体を感じ取ったのは俺だけじゃなかったらしく、クラスメイトは皆呆然とした顔を浮かべていた。

 

「何を驚く事がある?何度も言うが試験の判定とはいえ、お前は私に勝ったんだ。そのお前のランクが私より低い等あってたまるか」

 

千冬さんの呆れた様な補足の言葉にクラスメイトの顔は納得する様なソレに変わった。

俺も一応ではあるが、千冬さんの言葉に納得する。

っていうかISランクって初期の試験で決めるなら、暫定的なモンだから意味はねえのか?

 

「それと、朝から見苦しいぞ。座れ、馬鹿ども」

 

俺がISランクの必要性について考えていると、千冬さんはメンドクさそうな顔をしながらすたすたと歩いて睨みあっている箒とオルコットに近づき……。

 

バシンッ!!バシンッ!!

 

「痛ぅ……!?」

 

「あぅっ!?」

 

容赦の無い出席簿攻撃を2人にお見舞いしていた。

箒もオルコットもその威力に頭を抱えながら蹲ってしまう。

でも俺に対してはもっと苛烈なんだぜ?いっぺんカウ・ロイとか喰らってみ?軽く死ねるから。

相変わらず女子に対しても容赦の無い攻撃だなとか思っていると……。

 

バシンッ!!

 

「その得意げな顔はなんだ。やめろ」

 

いつの間にか移動して、何やら考え込んでいた一夏を出席簿で叩く千冬さんの姿発見。

一夏が得意気な顔していたって事は下らない駄洒落でも考えていたんだろうな。

一頻り問題を起こしてた人間をブッ叩いて気が済んだのか、千冬さんは腰に手を当ててクラスに視線を向け直す。

 

「お前たちのランクなどゴミだ。私からしたらどれも平等にひよっこだ。まだ殻も破れていない段階で優劣を付けようとするな」

 

何時もより声を低くして、反論させない雰囲気を携えながら、千冬さんは堂々と宣言した。

千冬さんの台詞にオルコットや箒は一切反論しなかった。

特にオルコットは何か言いたそうな顔をしていたが、相手が相手なので逆らわずに言葉を飲み込んでる。

うんうん、いくら恋は戦争でも咬み付いたらダメな相手ってのは弁えておかなきゃならねえ、逆に咬み殺される事になるからな。

 

「代表候補生でも一から勉強してもらうと前に言っただろう。くだらん揉め事は十代の特権だが、あいにく今は私の管轄時間だ。自重しろ」

 

千冬さんは威厳に満ちた声音でそう言うと、話しは終わったとばかりに教卓へと戻っていく。

まぁ規則に厳しい千冬さんならではの発言だな、しかも説得力がハンパじゃね……。

 

バシンッ!!

 

「……お前、今何か無礼なことを考えていただろう」

 

何故かまたもや一夏の前に戻ってその頭をシバいた千冬さん。

一体今度は何を考えたってんだよ一夏ぇ……。

すると、千冬さんに叩かれた一夏は起立して敬礼の構えをしだした。

 

「そんなことはまったくありません」

 

「ほう……」

 

一夏の言葉に千冬さんは目を細くしてSYUSSEKIBOを振りかぶり……。

 

バシンッ!!バシンッ!!バシンッ!!

 

「す……すみませんでした……」

 

「わかればいい」

 

どうやら一夏が千冬さんに対してまた何か失礼な事を考えていたのは確定のご様子。

返事をした一夏の頭を連続で叩くというボーナスに発展していた。

偶には飴を与えたらどうですか千冬さん? 

っつうか今さっき思ったんだが、千冬さんのISランクSって……サディストのSじゃね? 

 

バキィッ!!!

 

「げぶらッ!?」

 

あ、ダメだこれアウト過ぎる考えだったわ。

何故か俺に見舞われるのは出席簿ではなく、廻し蹴りだった。

しかもヒールの先っちょではなく踵が俺の頬にメリ込む特別タイプ。

 

「……鍋島、貴様無礼にも程があることを考えていただろう、ん?」

 

「め、滅相もねえっすよ!?」

 

「……はぁっ!!!(ビュオッ!!!)」

 

蹴られた頬を抑えながら千冬さんに言葉を返す俺だったが、出迎えてくだすったのは額に十字の怒りマークを刻んだ笑顔の千冬さんでした。

更に俺の言葉が御気に召さなかったのか、千冬さんは出席簿を大上段に振りかぶって、俺の脳天目掛けて振り下ろしてきた。

 

「って危なッ!?(パシッ!!)」

 

俺はギリギリのタイミングで出席簿を白刃取りする事に成功したが、千冬さんは更に両手で力を掛けて俺の防御を突破しようとしてらっしゃる。

俺も防御を突破されまいと、腕と身体に力を入れて踏ん張るので、俺と千冬さんは鍔迫り合いの体勢で見詰めあっていた。

 

「お、おぉぉ……!?ち、千冬さ~ん?こ、こんな事してる暇はないと思うんすけ、ど……!!(ギリギリギリッ!!!)」

 

「ぬ……くぅ……!!な、なに、女性に対して失礼な事を考える不届きな輩は……!!しっかりと躾けておかねばならんから、なぁ……!!(ギリギリギリッ!!!)」

 

「千冬さんみたいな……び、美人なお姉さまに躾けられるのが良いって奴、がぁ……!!いるか、もしれねえっす……けど!!お、俺は勘弁っすよぉ……!!(ギリギリギリッ!!!)」

 

「そう遠慮……する事はない、ぞ……!!(ギリギリギリッ!!!)」

 

俺達は表面上はにこやかに笑いながら会話しつつも、お互いに手に篭める力は一切緩めない。

っていうか緩めたら目の前で鈍く輝く出席簿の鉄の部分で穿たれちまうっての。

俺もかなり全力で力入れてるってのに、女である千冬さんも俺と同じぐらいの力で拮抗できるってどういう事!?

いくら俺の体勢が着席状態で力入れづらいっていっても、ドンだけパワフルなんすかこの人は!?

もうクラスの皆ドン引きしてますぜ千冬さんよ!?

 

「はぁあ……!!ふん!!!(ドスゥッ!!!)」

 

そんな事を考えていると、千冬さんは出席簿を抑えていた両手の内、片手だけを後ろに振り被って平手の形で突いてきた。

その突きは出席簿の縦の面を正確に捉えて、衝撃を伝えてくる。

すると、俺の抑えていた場所より、更にその衝撃の分だけ出席簿が俺に迫って……。

 

「(ズゴシャッ!!!)ん゛むぉッ!!?」

 

それはもう見事に俺の顔面に突き刺さった。

ガ、ガードの上から無理矢理衝撃を与えて突破してきやがった!?

何だよこの防御をモノともしない強引な必殺技は!?どんな力技ですか……ん?『力技』?……これはッ!?

俺は顔面にかかる痛みに悶えながら頭に浮かんだビジョンに驚愕していると、千冬さんは俺に一撃与えた事に満足したのか、やたらと良い笑顔を浮かべていた。

 

「ふぅ♪……クラス代表は織斑一夏。異存は無いな、お前等?」

 

『『『『『イエッサーッ!!!』』』』』

 

千冬さんの良い笑顔のままに放たれた言葉にクラスメイトは声を一丸にして元気良く答える。

ちなみにその中には痛みから復活した俺も混じってる。

何故なら、今の千冬さんの攻撃で俺の頭に1つの『天啓』が来たからだ。

 

相手がガードの構えを取って油断している所を、ガードを抉じ開けて無理矢理キツイ一撃をお見舞いする技……『天啓』が……来たぁぁああああッ!!!

 

やっべえこの技はかなり使えるぞ!?早く一夏で試してみてえ!!

 

「うっ!?な、なんだ?今、何か身の危険を感じた……!?」

 

横で何やら顔を青くして呟いてる一夏が居たが、俺にはそんな事どうでも良かった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

さて、所変わって現在俺達1年1組の生徒は、ISの実習の為にグラウンドにいる。

目の前にはいつものスーツ姿じゃなくて、白いジャージに着替えた千冬さんと紺系のジャージに着替えた真耶ちゃんが立っていた。

俺達生徒陣はというと、勿論ISの実習なワケだからISスーツを着ている。

しかしまぁその……ISスーツって肌の露出が凄いワケで……現在、俺の視界いっぱいに目の毒な風景が広がっている。

なんせスクール水着みたいな形だから、脚はモロ出し状態な上にボディラインがクッキリハッキリキッチリと浮かんでしまう。

わかるかマイフレン?小さかろーが大きかろーが、そのプレスラインが絶対に目につくんだよ。

大きい娘は特に刺激が強い……しかも……。

俺はチラリと横目で、さっきから俺に視線を送ってくる本音ちゃんを見てみるが……。

 

「う、あうぅ~(モジモジ)」

 

本音ちゃんは俺に見られてるのが判ると、顔を赤くして胸やお尻を隠そうとしてしまう。

正直その仕草だけで俺の中の色んなモノが弾けてしまいそーです……!!

しかし制服や着ぐるみとは違って、本音ちゃんの隠されたボディは手では全く隠せるものでは無かった。

そう、本音ちゃんのスタイルは、箒と並んでかなりその……わがままなバディだった。

最初見た時、本音ちゃんのふわっふわとした柔らかい癒しの中に隠された、とても自己主張の激しいボディに面食らったっての。

 

「では、これよりISの基本的操縦の一つである飛行操縦を実践してもらう。オルコット、鍋島、織斑等3名は、ISを展開後飛んで見せろ」

 

「「はいッ!!」」

 

「うぃっす」

 

っとと、やべえやべえ、集中しねえとな。まぁた出席簿のお世話になっちまう。

千冬さんの言葉に従って俺と一夏とオルコットはそれぞれ周りの生徒から少しばかり距離をとる。

まぁISってのはかなりデカイからな。

皆と同じ位置に居た状態で展開したら、誰かに怪我をさせかねないって事だ。

そして俺達の中で一番最初にISを展開したのは、やっぱりっていうかオルコットだった。

オルコットが目を瞑ると同時にオルコットのイヤーカフスが粒子化して、中世騎士の甲冑の様なIS、ブルー・ティアーズがその姿を現した。

ヤッパ代表候補生って事だけはあるじゃねえか、俺もさっさと展開しますか。

俺は授業中は額に掛けている相棒……オプティマス・プライムを指でズラしてちゃんと目の位置に掛ける。

そして次は自分の体の上に上着とかを纏うイメージを頭の中に思い浮かべる。

すると一瞬だけオプティマスが光り、次の瞬間には屈強にして無骨なアーマーとウイングが俺の身体を覆った。

オルコットより展開速度は遅えが、そこは何度も練習するしかねえか。

千冬さんから聞いた話しじゃ本来、専用機ってのはそのパイロットの身体に合う造りになっているので、俺のオプティマスは既存のISの中で一番デカイらしい。

一夏の白式と比べても、その差は一目瞭然だ。

ちなみに俺のヘッドギアはサングラス、待機状態と一緒なんだが、外側からは真っ黒なグラサンに丸い青点が光ってる様に見えた。

内側、つまり俺の視点ではいつもと同じ様に見えてたから全く気付かなかったけどな。

 

「あ、あれ?」

 

と、俺とオルコットがISを展開して待っていると、最後の一夏だけはまだ白式を呼べていなかった。

どうやらイメージが固まらないみてえだ。

一夏がISを展開できずに悪戦苦闘していると、段々と千冬さんの表情が苛っとしたものに変わっていく。

 

「何をやっている織斑。熟練した操縦者になれば展開に1秒もかからんのだぞ。集中しろ」

 

あぁ、ありゃ間違い無くモタついてる一夏にイライラしているな。

一夏もそれを感じたらしく、目を瞑って精神を集中させながら、待機状態の白式に片手を添えるポーズをとった。

すると一秒としない内に、一夏の身体に洗練された白の鎧、白式が装備された。

俺のオプティマスとは何処までも正反対な、シャープで鋭いラインを描くどこぞの主人公にありそうな機体だ。

武装がブレードオンリーって要素も、主人公らしさがMAXだぜ。

 

「良し、では3人とも飛べ」

 

そして、千冬さんの合図と共に、俺達は其々飛行体勢に入る。

先陣切ってスタートダッシュ決めたのはオルコットだ。

最初の体勢から身体のバランスを崩さずに、優雅に空へ飛翔していく。

 

「やるねえ、んじゃ俺も行きますか(バァアアアッ!!!)」

 

一方の俺は少し膝を曲げて身体を屈める体勢から、ブースターを吹かして飛び上がった。

メインブースターからは青い炎を吹かし、サブブースターからは赤い炎を散らして、俺はオルコットに続く。

 

「どわぁあああああッ!!?」

 

ん?何だ今の悲鳴は?

オープンチャネルから聞こえてきた悲鳴が気になった俺は、ハイパーセンサーを使って後ろの映像を廻した。

そこに映っていたのは、一夏が何故か一度後ろ向きに飛んでからフラフラとした不安定な飛行で俺の後ろに着いてきてる映像だった。

まぁったくアイツは……あの試合で見せた華麗な飛行技術は何処にお出かけしたんだっての。

俺は情けなさ前回の兄弟分に溜息を吐いて、そのまま飛行スピードを上げてオルコットを追い抜く。

さすがに一夏の白式程のスピードは出ねえが、オプティマス・プライムは既存のISよりかは速いからな。

 

「さすがにお速いですわね、鍋島さん」

 

「まぁ、オプティマスの性能にモノ言わせてるだけだけどな」

 

俺がある程度上昇した位置でスピードを落としながら飛行していると、隣に並んだオルコットが話しかけてきたので、そう返しておく。

 

『何をやっている。カタログ上のスペックでは白式はオプティマス・プライムとブルーティアーズより上だぞ』

 

どうやら一夏のヘロヘロ軌道が我慢ならなかったのか、オープンチャネルから千冬さんの厳しいお言葉が一夏へと投げ掛けられた。

そのおしかりを受けて一夏はどよ~んとした表情でうなだれてる。

何やら俺の後ろを飛んでいたオルコットは一夏のそんな表情に頬を染めていた。

多分、女からすれば一夏のあの雰囲気は保護欲をそそられるんだろう、耳と尻尾が垂れた子犬みたいに思えてな。

そんな事を考えていると、やっと俺達に追いついて平行飛行を開始した一夏が不意に俺に視線を向けてきた。

 

「はあ……そんな事言われたってわかんないんだよな、『自分の前方に角錐を展開するイメージ』って何だよ?頭の上にピラミッドでも思い浮かべりゃいいのか?」

 

「試しにやってみろよ?間違い無く地面と熱烈なキスが出来るぜ?(シュインッ)」

 

俺は隣を飛行する一夏にヘッドギアのサングラスを額に掛ける様に動かしながらそう答える。

むしろどう考えたらその答えに辿り着いたか謎なんだが?

 

「うげっ……じゃあどうすりゃいいんだ?」

 

「一夏さん、イメージは所詮イメージ、参考書通りに考えるより自分に合った方法を模索した方が建設的でしてよ?」

 

と、ここでオルコットが俺の横から上を通る様に飛行して一夏の隣に並び、微笑みながら一夏にアドバイスを送った。

なるほどなるほど、こういったトコで自分の存在をアピールするか。

代表候補生ってアドバンテージの見せ所ってワケだ。

だが、オルコットの言葉を聞いても、一夏は未だに顔を気難しくしたまんまだった。

 

「ンな事言われてもなぁ……大体空を飛ぶ感覚自体があやふやなんだよ、これどうやって浮いてるんだ?」

 

「説明しても構いませんが長いですわよ?反重力力翼と流動波干渉の話になりますので」

 

オルコットの口から続けて出たのは何やら意味不明な単語だった。

これってカンッペキに俺と一夏じゃわかんねえよ。

何すかその単語?宇宙語か何かっすか?

俺の横で聞いていた一夏もオルコットの言葉に顔を疲れた表情に変えていた。

 

「い、いや説明はいい……ゲ、ゲンは今の単語理解できたか?」

 

「オメエなぁ……俺が習得してんのは日本語と肉体言語(ボディーランゲージ)だけだぞ?理解なんぞ出来るワケねえじゃねえか」

 

「うん、2つ目は言語違いだからな?それじゃあゲンはどんなイメージで空飛んでるんだよ?」

 

「あ?俺か?俺の場合は、自分を『ミレニアム・ファルコン号』に置き換えたイメージで飛んでるぜ?」

 

俺の言葉に一夏は顔をポカンとした物に変えてしまった。

何だ?俺が反重力なんちゃらとか流動波うんちゃらとかの小難しい事を言うと思ったのかよ?

ンなもんこの俺が判るかってんだボケ。

 

「は?……ミ、ミレニアム・ファルコン号って確か……」

 

「確か、アメリカ制作映画のスターウォーズ。その旧3部作に出てきた、あの大きな戦闘機の事ですわよね?」

 

「お?やけに詳しいじゃねえかオルコット。あの映画は俺達が生まれる前に放映された旧作だってのによ?」

 

「え、えぇ。両親はあの映画が大変好きでして、その影響でわたくしも一緒になって観た事があります」

 

オルコットはそう言いながら、昔を懐かしむ様な表情を見せてきた。

まぁイギリスの方でも人気だったってわけか。

あの映画が放映されたのって、女尊男卑の前なワケだし不思議じゃねえか。

 

「まぁつまりだ一夏、俺はあのスクリーンの向こうで縦横無尽に宇宙を駆け回るファルコン号の飛ぶ様を、自分に重ねる様にイメージしてんだよ。俺はあのファルコン号が大好きだったから、イメージし易かったんだ」

 

「な、なるほど……俺も同じ様にすれば、ちゃんと飛べるか?」

 

俺の説明に一夏はうんうんと頷きながら、聞き返してきた。

だが、俺はその問いに微妙な顔をみせる。

さっきオルコットが言った様に、イメージは自分に合うモノが一番良いからな。

 

「あの機体にイメージが重なるならそれでも良いと思うけどよ……それよりお前確か、エーコンはやり込んでたよな?」

 

「ん?あぁ、あの戦闘機ゲームはかなりハマッたけど、それがどうかしたのか?」

 

俺の問いに、一夏は得意げな顔で返事を返してきた。

エーコンというのは昔の戦闘機を操って戦うシューティングゲームの事だ。

一夏は家庭用のエーコンで弾と共にかなりハマッていたのは良く覚えている。

 

「だったらあのゲームの中で、自分が一番使いやすかった機体をイメージに乗せりゃいいだろ?その方がイメージが沸きやすいからな」

 

「あ、そっか!?確かにその方がイメージしやすいな!!サンキュー、ゲン!!かなり参考になったぜ!!」

 

「おう。まぁ頑張んな」

 

俺の言葉に光明を見た一夏は弾けんばかりの笑顔で俺に返事をしてきた。

とりあえず一夏に言葉を返した俺だったが、その横ではオルコットが少ししょんぼりした顔をしていた。

あ~そういえばオルコットの見せ場を奪っちまった気もするな……仕方ねえ。

 

「とりあえず、飛ぶイメージが固まったなら今度の練習でオルコットに専門的な飛行軌道を教えてもらえや」

 

「え?セシリアに?」

 

「え!?」

 

一夏は俺の言葉に普通に疑問系で返すが、オルコットは俺の提案に驚愕の声を上げていた。

まぁ無理もねえか。

あんだけ怒り狂ってた俺が、オルコットをフォローする言い方をしたんだからな。

それはオルコットからすれば、絶対に無いモンだろうし。

だが婆ちゃんの言う通り、いつまでも引きずるのは女々しいってなモンよ。

オルコットはちゃんと俺に詫び入れたんだし……恋する乙女の応援は、出来る分にゃしてやるさ。

 

「あぁ、オルコットは代表候補生。そしてISの稼働時間は300時間はあるって話しだし、教えてもらえばかなり上達するんじゃねえか?そうだろ、オルコット?」

 

俺は一夏に答えつつ、オルコットに同意するように声を掛ける。

すると俺の意思を感じ取ったのか、オルコットは顔をパアァッっと輝かせて一夏に向き直った。

 

「はい!!ISは稼働時間が物を言いますので、わたくしにコーチさせて頂ければIS操縦技術の向上はお約束致しますわ!!」

 

「そっか……確かに、セシリアは俺達より多くISに触れているから、操縦が上手いもんな……良し、じゃあセシリア、今度から放課後の訓練頼めるか?」

 

「ッ!?は、はい!!一緒に頑張りましょう!!」

 

少し考える素振りを見せていたが、俺の提案に一夏は賛成してオルコットに放課後のトレーニングを頼んだ。

それを聞いて嬉しそうに返事を返すオルコットを見ながら、俺はニヤニヤとした笑みを浮かべる。

ふと、俺のニヤニヤ笑いに気付いたのか、オルコットは顔を赤くして恥ずかしそうにしてしまう。

全く、恋する乙女と恋される男程、野次馬してて面白いモンはねえな、巻き込まれるのはゴメンだが。

 

『三人共、今度は急降下と完全停止をやってもらう。目標は地表10cmだ』

 

と、俺達がある程度まで上昇すると、オープンチャネルから千冬さんの声が聞こえてきた。

その声に従って下を見てみると、オプティマスのハイパーセンサーが下の様子を拡大して見せてくれた。

下に居るクラスメイトの中の箒は、何やら焦ってる様な表情を浮かべているではないか。

あぁ、一夏とオルコットが仲良さげに話すからやきもきしてるってことか。

 

「ホントISのハイパーセンサーって凄いよな。こんなに遠くからでも箒のまつ毛までちゃんと見えるなんて」

 

「当然ですわ。元々ISは宇宙空間での使用を想定していますし、何万キロと離れた星の光で自分の位置を把握するんですから。この状態でも機能制限だってかかっていますのよ?」

 

「……確かにこの機能は便利だよな……バイクの見えにくいボルト部分とか作業しやすそうだ」

 

俺は素直にそう思う。

この精密拡大機能があれば、見えにくい場所の作業のレベルが一気に下がるし。

今度イントルーダーを整備する時にでも使ってみるか。

 

「ではお2人とも、お先に」

 

オルコットはそう言うとブースターを吹かしながら体勢を逆さまにして地面に向かって急降下していき、地面の近くで体勢を入れ替えて完全停止した。

さすが代表候補生だけあって上手いモンだな、あんなモン見せられちゃ俺も自然と気合が入ってくるぜ。

目標は地表10センチ……かなりギリギリだな。

俺は目標を再確認しながら、心を目の前の課題に集中させる。

 

「そんじゃ、次は俺が行くぜ?」

 

「げっ、俺が最後かよ」

 

俺の言葉に一夏は嫌そうな顔を浮かべるが、俺はソレに取りあわず、額に掛けていたサングラスを元通りに掛け直す。

どっちにしろ全員見られるんだから諦めろっての。

それに、一夏を先に行かせるのは……何か嫌な予感がするからパス。

俺は集中しながらオルコットがやったのと同じ様に体勢を逆さまにしながらブースターを7割ぐらいの出力で動かす。

正直、100パーの速度出してやるのは自信ねえしな。

オルコットだって試合で見せたスピードよりかは遅かったし、別にいいだろ。

そんな事を考えていると、地面が近づいてきたので、オルコットより少し速めに急制動を掛けてみる。

だが、俺の相棒は現存のISの機能を遥かに凌ぐ理不尽の塊、オプティマス・プライム。

俺はそのポテンシャルってのを侮っていたらしい。

速めに掛けたブレーキは俺の身体をピタッっと止めてしまい、停止した位置はオルコットより少し高い。

 

「停止位置は14センチ……まぁ、初めてならこんな所か。次はもっと精進しろ」

 

「了解っす」

 

千冬さんは俺の目の前まで来て目測で俺の停止位置を測って俺に声を掛けてきた。

それに返事を返しながら、俺はゆっくりと地面に着地する。

っていうか、初めての急停止で目標から4センチしかズレてないってのは結構凄い方なんじゃね?

 

「凄いワケがあるか。お前なら、この程度楽にこなして当たり前なんだぞ?むしろ出来て無いのがおかしい」

 

「ナチュラルに心読まんで下さい」

 

「ふん、お前が顔に出しやすいだけだ」

 

千冬さんはそう言って腕を組みながらやれやれって感じに頭を振る。

しかし読心術は勘弁していただきたいぜホント。

っていうか、俺なら出来て当たり前って……信用されてるみてえだがあんまり嬉しくねえ。

 

『警告、自機上空に急速で接近する機体発見、このままでは激突します。至急回避行動を』

 

「うぉわぁああああああああああッ!!?」

 

オプティマスが警告を発したのと、頭上から良く聞く兄弟分の声が響いたのは、ほぼ同時だった。

ハイパーセンサーが自動で展開した映像を見ると、其処には叫び声を上げながら俺に向かって墜落してくる一夏の姿が……っておい!?

そのモニターに映った光景に、俺は心臓が爆発しそうなぐらい驚いた。

クラスメイトや真耶ちゃんは俺より離れた所にいるが、俺の目の前には千冬さんが居る。

このまま一夏が俺に激突すれば、オプティマスを装備している俺は無事でも、千冬さんは間違い無く大怪我を負ってしまう。

それを理解した瞬間、俺は身体が勝手に動いていた。

 

「こなくそぉッ!!(バッ!!)」

 

「なッ!?元……」

 

俺は千冬さんに踊りかかるように身体を動かして、千冬さんを両手に抱える。

そのまま千冬さんに飛びかかって半身になった身体を思いっ切りジャンプさせ、空中で身体を反対方向に回転させる。

すると、俺の視界は後ろに回り、俺に向かって落ちてくる一夏の顔が目に入った。

一夏は俺が行き成り自分に向き直ってきた事に驚愕していたが、俺は回転の勢いのままに片足を振るい、前に突き出す。

荒っぽいやり方ですまねえが我慢しろよ一夏!!?

 

「どぅおらぁあああッ!!!(ズバァアンッ!!!)」

 

「ぶぎゃおッ!!?」

 

俺のフライング廻し蹴りを顔面に喰らった一夏は、奇妙な悲鳴を挙げながらそのまま俺達と反対方向に飛んで行って、地面に激突した。

そのまま俺は地面に着地して、一夏の様子を伺おうとしたが、激突で起こった土煙の所為で何も見えなかった。

 

『敵機の撃墜を確認、警告を解除』

 

ってそういえば千冬さんは!?

 

「(シュインッ)千冬さん!?大丈夫っすか!?どこも怪我してねえっすか!?」

 

「ぇ……あ…ぅ」

 

俺はヘッドギアのサングラスを額に上げて、千冬さんに声を掛ける。

だが、俺の腕の中に居る千冬さんは、何やら呻くだけで返事を返してくれなかった。

ヤベエ!?もしかして今の動きの中で千冬さんに負担かけちまったのか!?

俺は焦りながらも真剣に千冬さんの全体を見ていく。

 

足、俺が膝裏で支えている以外に汚れた所は無し、つまり石の破片とかは当たってねえな、次。

 

上半身、俺が背中に手を廻して支えている以外に、胸のアーマーとかに挟まれたとかも無い、次。

 

腕、千冬さんの両腕は千冬さんの胸元に両方とも置いてあるので腕も怪我は皆無、修道女のお祈りの様な腕の組み方になってるだけだ、次。

 

顔、特に顔の汚れは無し、今日も綺麗だし、髪の毛を巻き込んでる事もない、顔色はトマト並に真っ赤なこと以外は特におかしくはねえ、つ……ぎ?…………ん?

 

あれ?ちょいと待とうか俺?今の状況を確認し直してみよう。

俺は地味に感じてきた違和感を整理しつつ、自分と千冬さんの状況を考えてみる。

まず、俺が支えているのは膝裏と背中、そして千冬さんは俺の腕の中にスッポリと納まっている。

 

 

つまり俺と千冬さんの今の状況は、どう見てもお姫様抱っこ状態です本当にありがとうございます。

 

 

ソレを確認、理解した瞬間に、俺の背中から嫌な汗がダラダラと出てくる。

ヤバイ、殺されるってマジで。

 

『警告警告警告!!!、後方より敵影を2機確認、至急迎撃の用意を』

 

と、俺が現状に汗ダラッダラ状態でいると、オプティマスから新たな警告が発令され、ハイパーセンサーが後ろの映像を捉える。

え?何ソレ?敵影って何?敵って何なのよ?

半ば混乱状態に陥りながらも、ハイパーセンサーの映像を確認してみる。

 

「……ふふ♪(ニコニコ)……(ビキッ!!!)」

 

其処には、笑顔なのに額に青筋を浮かばせながら、手に持ったインカムを握りこんで亀裂を刻み込んでる真耶ちゃんと……。

 

「……♪(ニッコニコー)」

 

手を後ろに廻しながら、輝くようなスマイルを浮かべている本音ちゃんが居ますた。

何故か2人の顔は笑顔なのにちっとも癒されません、あれ?おっかしいなぁ?

思わず腰を抜かしそうになる自分を叱咤するが本音ちゃんの右手は背中に隠されていて、全く窺えないことが更に恐怖を煽ってくる。

うん、オプティマスの警告は間違いじゃねえな、確かに敵影だわありゃ。

でも撃墜はしねえからな?っていうかむしろ俺の方が撃墜されそうな気配が微レ存。

 

「ゲンチ~?いつまで織斑先生を抱っこしてるのかな~?(ニコニコ)」

 

「そうですよ元次さん?織斑先生に失礼ですから、早く降ろしましょうね?(ニコニコ)」

 

「ラージャッ!!」

 

後ろから音も無く忍び寄ってきた本音ちゃんと真耶ちゃんに恐怖しながら、俺は千冬さんをゆっくりと降ろす。

無理、逆らえませんってこの二人にゃ。

 

『敵機接近、急ぎ殲滅行動を』

 

うるせえよオプティマス!?テメエはどうあっても俺にラスボス相手に特攻しろってのか!?

こんな若い身空で死にたくねえっての!!せめて可愛い彼女作ってチューして抱いてから死にたいわ!?

 

「……だ、抱かれた……元次に……抱かれた……ぶつぶつ」

 

しかし俺が千冬さんを降ろしても、千冬さんの顔の赤みは取れず、何やらブツブツと呟いてらっしゃるではないか。

それが面白く無いのか、真耶ちゃんと本音ちゃんの表情は厳しくなってる。

目の前に広がる光景に現実逃避したくなった俺は……。

 

「……一夏の奴……無事だといいな」

 

現実から目を逸らした。

 

「おぃフザけんなぁあああ!!?(ガバァッ!!!)人の顔面盛大に蹴り抜いておいてそりゃねえだろうがぁ!?」

 

「い、一夏!?大丈夫か!?」

 

「お、お怪我はありませんか!?」

 

俺がオープンチャネル越しに呟いた言葉に、一夏は鼻を摩りながら立ち上がって猛抗議してくる。

あ、何だ無事だったのか?良かった良かった。

更に一夏の声を聞いてハッとしたオルコットと箒の声が響き、二人は一夏の元へと走って行った。

 

「む……一夏の事は私が見ておくから心配いらんぞ、オルコット」

 

「あ、あら?クラスメイトを心配するのは常識でしてよ篠ノ之さん?其処に人数は関係ありませんわ」

 

「……猫被りが上手いようだな、オルコットは」

 

「いえいえ、鬼の皮を被るよりはマシでしょう?おほほほ……」

 

「「……(バチバチバチッ!!!)」」

 

『ヒィッ!?ゲ、ゲン!!ヘルプッ!!』

 

『ゴメ、むり』

 

そして朝のSHRの如く互いに睨み合うオルコットと箒。

もう一生やっちまえ、但し俺にだけは迷惑かかんねえようにな。

更にオープンチャネルで助けを求めてきた一夏を容赦なく切り捨てる。

しかしこのままじゃ授業になんねえなぁ……仕方ねえ、こんな時こそ、頼れるあの人にお願いしますか。

  

「……はっ!?こ、この馬鹿娘共がッ!!世界の端っこでやっていろッ!!!」

 

世界!?

 

バゴバゴォッ!!!

 

「「みぎゃッ!!?」」

 

だが、俺がこの状況を収めてもらおうと千冬さんに声を掛けようとしたら、タッチの差で千冬さんは現実に戻って来た。

でもやっぱり恥ずかしかったのか、かなりの勢いで出席簿を振るって箒とオルコットの頭をド突いてる。

その余りの威力に箒とオルコットは頭を抑えたまま蹲ってしまった。

うわぁ~……ありゃかなり痛えだろうな……ドンマイ。

そのまま肩ではーっはーっと息をする千冬さんは、正面に居る一夏を睨みつけた。

 

「全く……織斑。あのまま元次がお前を止めなかったら、生徒に怪我をさせていたかも知れんぞ?」

 

「うっ……すいません」

 

千冬さんの言葉にしょげる一夏。

まぁあのままだったら千冬さんが怪我してたのは一夏も気付いてるんだろう。

アイツにとっては、それが余計凹むんだろうな。

 

「……まぁ、いい。それより授業を再開するぞ。織斑、武装を展開してみろ。それくらいは自在にできるようになっただろう」

 

「は、はい……ふぅ」

 

一夏は千冬さんの言葉に返事をして両手で刀の柄を握るようなポーズを取る。

光が掌から溢れ、線を結んで形を作り、光が収まれば雪片弍型が握られていた。

これに関しては白式を展開する時よりも遥かにスムーズだ。

やっぱ剣道をやっていた事が上手く働いているのかも知れねえな。

今ので1秒とちょっとってトコか?

 

「遅い、0,5秒で出せる様になれ」

 

しかし其処は厳しさに定評がある我等が千冬さん。

簡単に褒める事はせずに、更に精進しろとの仰せが下った。

まぁ一夏の場合は武器があれっきゃねえもんな、展開が遅かったらそれこそ命取りだ。

次に千冬さんは痛みで頭を抑えているオルコットに視線を向けた。

 

「次はオルコットだ」

 

「は、はい」

 

オルコットはもう一度ブルーティアーズを身に纏って立ち上がり、精神を集中させていく。

しかし、何故か左手を肩の高さまで上げて真横に腕を突き出した。

その瞬間、爆発的な光が一瞬放たれるがそこには既にマガジンまで接続された狙撃レーザーライフル、スターライトmkⅢが握られていた。

オルコットが視線を向けるだけでセーフティが解除される。

1秒も掛からずに展開、射撃可能状態が可能になっていた。

おおぉ!?こりゃスゲエ!!スゲエ……けどよ。

 

「さすがだな、代表候補生。だがそのポーズはやめろ。真横に銃を向けて誰を撃つつもりだ。正面に展開出来るようにしろ」

 

「ちょ!?テメエ俺の頭をミートパイにするつもりか!?」

 

「え!?あっ!?も、申し訳ありません!!」

 

俺は千冬さんの言葉に続いて、オルコットに声を掛けた。

そう、オルコットが手を突き出した先にいるのは俺、そして銃口の先には俺の頭部がある。

行き成り目の前に銃口が展開されてマジビビッたっての。

俺の慌てた声が聞こえたオルコットは、ワタワタとしながらも俺に謝罪して、千冬さんに向き直った。

 

「で、ですが、これはわたくしのイメージを固めるのに必要な……」

 

「直せ……いいな?」

 

「はい……」

 

反論したそうな顔のオルコットだったが、千冬さんの一睨みで何も言い返せなくなった。

この御方に対して下手に逆らったら命は無いからな。

 

「オルコット、近接用の武装を展開しろ」

 

「えっ。はっ、はいっ」

 

千冬さんにいきなり振られた指示に吃驚して反応が鈍っているオルコットだった。

まぁそれでもさすがは代表候補生、すぐに意識を切り替えて手を前に構える。

オルコットはまず展開していたスターライトを光の粒子に変換……この場合は『収納(クローズ)』だったな……。

そして新たに近接用の武装を『展開(オープン)』する。

 

「くっ……」

 

だが、オルコットの手には光の粒子が漂うだけで、お目当ての近接武器が中々出て来ない。

何だ?オルコットの奴どうしたんだ一体?銃はあんだけスムーズだったってのに。

その光景に一夏と2人で首を捻ってしまうが、当のオルコットは何やら苦い顔をしている。

 

「……まだか?」

 

「す、すぐです。……ああ、もうっ!『インターセプター』!!」

 

千冬さんの呆れた声を聞いて少しすると、武器の名前をヤケクソになって叫ぶオルコット。

それによりイメージがまとまり、光はアーミーナイフの様な形状の近接武器として構成される。

だがそれは優秀なオルコットにとって良くない行動だ。

何故ならさっきオルコットがやったのは教科書の頭に書かれている『初心者用』の方法。

アイツがあんな初歩的な事をすると言うことは……コイツ銃ばっかで近接武器は疎かにしてたみてえだな。

 

「……何秒かかっている。お前は、実戦でも相手に待ってもらうのか?」

 

「じ、実戦では近接の間合いに入らせません!!ですから、問題ありませんわ!!」

 

千冬さんの的を居た言葉にオルコットは必死な声で返すが、それぐらいじゃあ千冬さんは止まりませんわ。

 

「ほう……先の試合では元次にあっさりと懐を許して、武器ではなく拳や蹴りを数発、オマケに強烈な一撃を、それも二度も喰らったんじゃなかったか?」

 

「あ、あれは、その……」

 

「更には織斑との対戦ですら初心者に簡単に懐を許していたように見えたが?」

 

「………………」

 

俺を出すとオルコットは完全に痛いところを突かれたかのように、ぐぅの音も出なくなった。

まぁぶっちゃけタコ殴りとまではいかねえが、それでもかなりの回数殴ったしな。

おまけに最初と最後の『ストロングハンマー』はカンッペキなクリティカルヒット、文句の付けようがねえ。

そんな風に言われているオルコットを俺と一夏が眺めていると、いきなりキッと睨まれた。

その瞬間、個人間秘匿通信(プライベート・チャネル)が送られてくるではないか。

しかも目の前に居るオルコットからだ。

 

『あなたたちのせいですわよ!』

 

何故か俺達の責任にされる始末。

んなもん知るか。

ってかお前は俺の時は必死に立ち向かっていただろうが。

 

『あ、あなたたちが、わたくしに飛び込んでくるから……』

 

そりゃ俺と一夏のISは接近戦用の武装しか無かったから仕方ないだろうに。

 

『そう言われても、俺の武装は雪片だけだからなぁ……そう言えば、ゲンは何で最初に武器を使わなかったんだ?もしかしてあのロケットパンチだけなのか?』

 

と、ここでオルコットの言葉にバカ正直に答えた一夏が、俺に質問してきた。

ってそういや、あん時何で武器を使わなかったのかは言ってなかったな。

 

『違えよ、一次移行(ファーストシフト)してなかった間は、武器が全部ロックされてたんだよ。オメエだって、最初は零落白夜を使えなかっただろうが』

 

『あっ、そうか……ん?全部?って事はアレ以外にも武器あるのか?』

 

『ソイツはこれから出すからお楽しみにしてな、ベイビーボーイ』

 

『何だそれ……まぁ楽しみにしておく』

 

『あのぉ!!わたくしのお話し聞いていただけてますかしら!?』

 

聞いてねえ。

何やらプライベートチャネルで喚くオルコットの相手は一夏に任せて、俺はプライベートチャネルを閉じた。

そんでまぁ、千冬さんから掛かるであろうお言葉を待っている。

 

「さ、さて、最後は……げ、元次、やってみろ」

 

「了解っす……っていうか、呼び方がプライベートに戻ってますぜ?織斑先生?」

 

「ッ!?う、うるさい!!さっさとやれ!!(くうぅ!?生意気な事を!!)」

 

俺が軽く笑いながら言った言葉に千冬さんはハッとした様なリアクションをみせてくれた。

しかもそれが御気に召さなかったのか、更に顔を赤くして怒鳴ってくる。

おっとっと、これ以上はやめとこう、引き際は大事です。

俺は腕を軽く下向きに曲げて、オプティマスに命令を発信する。

まず最初は腕に収納されてる近接武器にしとくか。

 

「へいへい……まずは近接武器その1……(シャキンッ)エナジーソードっす」

 

そして、俺がオプティマスに合図を出すと、一夏達みたいな光の粒子は展開されなかった。

そのかわり、シャキンッという金属が擦れる音を奏でながら、拳の上の面状に位置するアーマーの隙間から、片刃のエナジーソードが展開された。

現われたソードの造りは、刃の先端が大きく膨らんでいる造りで、雪片とかの様な日本刀をモチーフにした剣とは全然違う。

俺のソードは日本刀の『斬る』ではなく、重量で叩き切るといった、トップヘビー型のソードだ。

しかもこのソード、エネルギーを微妙に消費しながら、ソード全体を熱している。

その証拠に、刃の部分は打ち立ての鉄の様に真っ赤な色合いを見せていた。

こりゃ重量だけじゃなく、熱でも斬るって感じだな。

 

「ん?おい鍋島」

 

「へ?なんすか?」

 

俺がエナジーソードに魅入っていると、千冬さんが怪訝そうな声で話しかけてきた。

はて?何だろうか?

 

「今の武器、粒子化していなかったが……もしや、拡張領域(パススロット)の外に装備されているのか?」

 

千冬さんは俺の腕から伸びているエナジーソードを見ながら質問してきた。

さすが世界最強の御方、鋭いモンですな。

 

「はい、何か処理能力を確保するために、近接武器は1つを除いて全部外に付けてあるみたいっす」

 

「ふむ……では、拡張領域(パススロット)に入っている近接武装を展開しろ」

 

「あいあいさー」

 

俺は千冬さんの言葉に返事をしながら、エナジーソードをアームの中に収納して、手を構え直す。

その構えは自分の目線の前に、コップを握る様な形になってる。

そして、頭の中で爺ちゃんの家の納屋にあった斧を思い浮かべてイメージを固める。

 

「(パァアッ)うし、これが近接の中で唯一拡張領域(パススロット)に入っているエナジーアックスです」

 

手に現われたエナジーアックスをしっかりと握りながら、俺は千冬さんに声を掛ける。

展開速度は大体0.7秒ってとこか。

これぞ貴重な日曜日を訓練でめいっぱい消費した成果なり。

 

「……なるほどな……その大きさでは、拡張領域(パススロット)に格納しなければ持ち運べんか」

 

「まぁ、そうっすよねぇ……」

 

千冬さんは考える様な声を出しながらエナジーアックスを『見上げている』

かく言う俺も千冬さんに従ってエナジーアックスを『見上げていた』

俺達が見上げた先は俺の頭1つ上ぐらいの位置で、そこにはエナジーアックスの刃の部分が悠然と聳えていた。

刃は滅茶苦茶デッカイ上に、コイツは両刃の斧だ。

オマケにエナジーソードと同じ様にエネルギーを微量ながら消費して、刃の部分を赤々と燃やしている。

さすがにこんなデカブツは腕に入りきらなかったってか。

 

「ふむ、展開速度も姿勢も悪くは無いが、お前も織斑と同じ様に0,5秒を目指せ」

 

「わかりました」

 

千冬さんの言葉に肯定の意を返しながら、俺はエナジーアックスを拡張領域(パススロット)に収める。

まぁ妥当っちゃ妥当なお言葉だな。

幾らコレ以外の武器は瞬時に展開できても、コレを使う場面でモタついてちゃ話しになんねえ。

 

「では次、射撃武器を展開」

 

「はいな。どれを展開します?」

 

っと、いけねえいけねえ、まだ俺の番は終わってなかったな。

俺は千冬さんに返事をしつつ、どの武器を出すか聞いてみたんだが、何やら千冬さんは難しい顔をしてしまった。

え?何?

 

「……まさかとは思うが……射撃武器も複数インストールされてる等と言わんだろうな?」

 

すいません、バッチリインストールされてます。

 

「……数にすりゃあ、11個はインストールされてます、はい」

 

『『『『『……』』』』』

 

俺が放った一言は、このグラウンドにいる人間にはかなり衝撃的だったのか、全員言葉も無いって顔をしている。

俺の横に立っている一夏とオルコットなんか、顎が外れたってぐらいに口開けてるし。

先の試合で拳と蹴りばっかり使ってた俺が、実はトンデモない武器庫だったのが信じられないんだろう。

千冬さんなんか額を押さえて溜息吐いてるし。

 

「はぁ……どれでもいい、1つだけ展開しろ(束の奴め、どれだけ高性能に輪を掛けたISを送ってきたんだ……まぁ元次なら心配いらんだろうが……ハニートラップに引っかかったら私が元次の目を醒ませばいいだろう、刀で)」

 

ぞくう!!

 

な、何だ今の悪寒は!?何か俺の身体が分割される様な悪寒だったぞ……き、気の所為、だよな?

俺は行き成り奔った正体不明の悪寒に襲われつつも、射撃武器リストを展開した。

1つでいいとは言われたものの、どの武装を出そうか迷っているからだ。

出来ればクラスメイトがビックリするようなド派手なのがいいんだが……おっ?コレならいいか。

そして、俺は『展開(オープン)』する武器が決まったので、頭の中にイメージを呼び起こす。

日曜日の特訓でオルコットがやった様に、名前を呼びながら『展開(オープン)』した武器の全体像を思い出しながら、両手を軽く上に突き出す。

すると、さっきのエナジーアックスより更に0,2秒程遅いが、俺の手元に長大な銃身が二つ現われた。

 

「(ガシャッ)ふぅ……長距離砲台、セミオートカノン。展開完了っす」

 

俺は千冬さんにそう言いながら、手元の銃に目を向ける。

オプティマスの手に収まっているのは30mmというごんぶとな砲弾を撒き散らすモンスターガン、セミオートカノンだ、それも2門。

しかもこのセミオートカノンのマガジンはベルト給弾式になっていて、背中に取り付けられた砲弾補給用の巨大なコンテナボックスに繋がっている。

それだけじゃなく、コイツの一番凶悪なトコは、コンテナに取り付けられたバカでかい爆裂焼夷擲弾弾筒ミサイルを撃てるってトコだ。

俺の頭なんか余裕で飲み込んじまう程にデカイミサイルをブチかます……やられた方は悲惨だろうなぁ。

 

「……どれだけ凶悪な武装を積んでるんだ、お前は」

 

『『『『『うんうんっ』』』』』

 

と、俺のキャノン砲を見ながらボソッと呟いた箒の一言に、クラスメイトは全員揃って頷いていた。

失礼な、この武装を積んだのはお前の姉貴だっつーの。

俺はそんな感じでユニゾンしているクラスメイトを放置して、隣に居る一夏に極上のスマイルを送った。

その極上スマイルを見て、何故か顔を青くする一夏。

 

「まぁ一夏よ?次からテメエと喧嘩やる時は、遠慮なく武器を使わせてもらうから覚悟しとけ?」

 

「じょじょじょ冗談じゃねえよ!?もう絶対にお前とは戦らねーからな!?俺まだ死にたくねえ!?」

 

「わ、わわわたくしもご遠慮させていただきますわ!?絶対!!何があろうとも!!」

 

何故か一夏の傍に居たオルコットまで俺との模擬戦を断った。

ちっ、早くも実験台の2人に断られちまったか。

この2人なら専用機持ちだし、加減せずに撃てるチャンスだったってのによ。

 

 

 

 

その後は何のトラブルも無く授業は進み、授業終了の号令と共に、俺達は更衣室に向かった。

そんで一夏より早く着替えた俺は、「待ってくれ」という一夏を放置して1人で教室に帰っていたんだが……。

 

「(ブーッブーッ)ん?メールか?……本音ちゃんから?」

 

途中でマナーモードにしていた携帯が鳴り、取り出して差出人を見た所、差出人は我が癒しのマスコット、本音ちゃんその人だった。

一体どうしたんだ?という疑問を抱きつつも、俺はメールを開いてみた。

本音ちゃんも今時の女の子なので、絵文字や女の子文字を多用していた事から、解読に時間が掛かるだろうと踏んでいたんだが……。

 

 

 

『今日の昼休みに顔を貸してもらおうではないか』

 

 

 

何やら、簡潔かつ、激しく素っ気無い内容ですた☆

あれ?俺何かやらかしました?

 

「……(カチカチッ)」

 

少しばかり震える手で、何とか返事を打ち直す俺。

 

『どのようなご用件で?』

 

低姿勢なのは気にしてはならない。

そして程なくして返事は帰って来た。

 

『それは秘密であります』

 

『了解であります』

 

最後に必死な思いで返事を返して、俺は震える手で携帯を閉じた。

 

「……俺、マジで何したっけ?」

 

若干この後に起こる出来事にガクブルしながら、俺は教室へ足を進めていく。

教室に入った時の、本音ちゃんのニコニコな笑顔は、何故か忘れられないと思った今日この頃でした。

 


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