IS~ワンサマーの親友   作:piguzam]

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ウサギ時々第2の幼馴染み

 

「うわぁーーーん!!う、羨ましい悔しい妬ましいぃ!!羨まし過ぎるぞちーーちゃーーん!!こんなのってないよ!!これはもう横暴だ!!詐欺だ!!裁判だ!!NTRだーーー!!」

 

ここは世界の何処かに存在しているかもしれないラボ。

部屋中に散乱するケーブルや大型のパーツ、そして大きさに比例して稼動音が一切しない超高性能スパコンが多数存在している。

この部屋にある装備だけで、恐らく世界3大強国を相手に電子戦で余裕の勝利を収める事が可能だろう。

その部屋の中心に浮かび上がるソリッドビジョンモニターに映る映像を見ていた部屋の主は、モニターに映る光景に悔し涙を流して喚いていた。

 

「あ、あんな……あんっっっなに優しく抱きしめてもらえて、頭まで撫でてもらって、その上……お・で・こ・♪にチュウ♡とか羨ましいにも程があるわーー!?何さ何さ幸せそうな顔で気絶しやがってーー!!可愛いぞコンニャローー!!」

 

女性から羨望の眼差しを受けるであろうナイスバディな身体を青色のエプロンドレスで包み、頭にウサギを模したカチューシャを着けた女性、篠ノ之束はプンプンと擬音が出る勢いで憤慨していた。

彼女がハンカチを口元に咥えて「きーーーー!!」とか叫び出しそうになっている原因は、モニターに映る彼女の親友の姿にある。

其処に映っていたのは、このラボから遠く離れた地にそびえるIS学園、その食堂の中の様子が鮮明に映し出されていた。

彼女、束が見ているのはその食堂の一角で行われている催しの様子だ。

それは愛する妹である篠ノ之箒の想い人にして、自分の無二の親友である千冬の弟の一夏のクラス代表決定戦の勝利を祝うパーティーだった。

だが、其処に映し出されているのは愛する妹でも、親友の弟である興味対象の一夏でも無い。

 

「大体ゲンくんもゲンくんだよ!!た、たた束さんの事がい、いい……ィィ女、だとか惚れる、とか言ってた癖にぃーー!!ちーちゃんだけじゃ飽き足らず3人もあんなことするとかどーゆうことなのさ浮気者ーー!?訴えてやる!!弁護士を出せーー!!」

 

少し恥ずかしそうにしながらも、束は涙目で身の内に燻る想いの丈をモニターの先に映る男に向けてブチ撒けながら怒りを露にする。

束が憤慨しているのは、自分の興味対象の1人にして自分の想い人の元次の行いに対してであった。

モニターの先に映る元次は、真っ赤な顔で羞恥心の限界を突破して気絶している千冬を抱きしめながらカラカラと楽しそうに笑っている。

 

 

 

実の所、束はあのクラス代表決定戦で聞こえてしまった元次の呟きを聞いてから今日に至るまで、IS学園の様子を見る事はしていなかった。

 

 

 

IS学園に映像を繋げようとする度に、元次のあの呟きが脳内で再生されて、恥ずかしさから赤面し悶えてしまうのだ。

それでも、今日は自分の親友の弟である一夏が祝われる日という事は事前にキャッチしていたので、束は恥ずかしさを我慢してIS学園に映像を繋げた。

最初はそれこそ元次の姿を見る度に身体をクネクネさせて身悶えていたが、元次や一夏の楽しそうな笑顔や、箒の幸せそうな顔を見ている内に自分まで笑顔になっていた。

映像の先に映る元次の手料理を羨ましく思いつつも、束はその映像を見るだけで幸福感に包まれていたのだ。

 

 

 

だが、それはパーティの〆というデザートが出た辺りから雲行きが妖しくなってしまう。

 

 

 

画面に映る生徒達……束からすれば有象無象のどうでもいい奴等がデザートに舌鼓を打ち笑顔を見せている中で、1箇所だけおかしな空気を醸し出している席があった。

普段の束なら有象無象の連中の事などどうでもいいのだが、彼女の視覚がそのおかしな空気の中心人物を認識した瞬間、その光景に目をひん剥いた。

そう、それは自分の意中の男性が、全く知らない女生徒の顎を指で持ち上げて、超至近距離で見詰め合っている現場だった。

画面の向こうにいる元次は、近距離で見つめられて顔を赤くしながら慌てふためく女生徒を面白そうに笑顔で見つめ、何かを小さく呟いた。

その呟きが終わった瞬間、件の女生徒は目をナルトの様にグルグルと回しながら気絶してしまう。

元次はその気絶した生徒を椅子に座らせた後、何事も無かったかのように席に座って茶色いボトルに入った飲み物をグビグビと飲みだしてしまう。

最初はその光景にあんぐりと口を開けて驚愕していた束だが、少ししてから、世界最高と謳われた天災たる頭脳をフル回転させる。

それと同時にさっきまでま付けていなかったサウンド機能を起動させて、食堂の音も拾って状況を把握しやすくした。

 

(おかしい、ゲンくんはあんな事は冗談でもしないぐらい恥かしがりやさんの筈なのに何で?束さんがいっくんや箒ちゃんを見てる間に一体何があったの!?)

 

考えを巡らしながらも、束はもう1度モニターに映る元次の様子を見ようと視線と意識をモニターに向け直すと……。

 

『あうぅ……恥ずかしいよぉ♡……も、もぉやめてぇ~♡』

 

『あ?何言ってんだ。そんな蕩けたツラで嬉しそうな声出してる癖しやがって……おら、もっと可愛がってやるからこっち来な』

 

『んあぁ♡……だ、だめなの、にぃ……けだものぉ♡』

 

「って何やってるのさーーーーーー!?そ、そこは束さんの特等席&指定席なんだぞーー!!勝手に座るなんて許すまじぃ!!」

 

視界に飛び込んだ光景を目の当たりにして反射的に声を荒げてしまう。

束の目の前に広がる光景、それは彼女の知らない少女が自分の愛しい男の膝の上でたっぷりと可愛がられているという光景だった。

元次の膝の上に座る少女……布仏本音はこれ以上無いといった幸福感を弾ける様な笑顔と表情全体でアピールしている。

元次の太い丸太の様な膝の上に腰を降ろし、身体全体を元次のマッスルボディにしなだれる様に預け、その鍛え上げられた大胸筋に顔をスリスリと擦りつける様は、主人に甘える猫さながらだ。

それだけに留まらず、甘えられている元次は、本音の華奢な腰に手を廻し、空いた手で本音の頭を優しく繊細に撫でているではないか。

可愛がられている本音は口ではいやいやと拒否しながらも、身体と表情は一切の拒否を見せずに順応している。

勿論、そんな光景をまざまざと見せ付けられる束としては面白い事は1つとして無い。

だが、幾ら束が喚こうとも、所詮は映像の向こうの出来事。

その向こう側に位置する元次や本音が束の様子や機嫌に気づく筈も無く、行為は更にエスカレートしていく。

元次はおもむろに本音の頭を撫でていた手を離したかと思えば、本音の顎に指を添えてクイッと持ち上げると……。

 

 

 

『そんなに俺に甘えてぇならいっその事、俺が『飼ってやろうか?』……そうすりゃ『一生可愛がってやるぜ?』』

 

「ふざけんなバッキャローーーーーーーー!!!(ガッシャァアアアンッ!!)」

 

 

 

聞く人が聞けば最悪な元次の台詞に、遂に束は何故か自分の後ろに置いてあった古風なちゃぶ台を引っくり返して吼えた。

ご丁寧にちゃぶ台の上には何故か、何故かは判らないが飲食店の店頭などで使われる蝋で出来た偽物の食事が置いてあったが、それも全て吹き飛ぶ。

 

「俺が飼うぅ!?一・生・!?一生可愛がるぅ!?何でそれを束さんに言ってくれないんだー!?束さんなら既に躾け完璧!!首輪とリードがセットで、血統書まで付くのにぃ!!とってもお買い得なんだぞーー!?」

 

目の前のモニターに映る元次に、束は手を振り回して怒りを露にする。

その先に映る元次はというと、先程の言葉で気絶した本音を抱えて優しく椅子の上に寝かしつけていた。

その光景に、束は目尻に涙を溜めながら頬をリスの如く膨らましていて、頭にあるウサ耳もピコーンと逆立っていた。

彼女の心情は正しく顔やウサ耳に現われているように不機嫌一色だ。

だが先程も述べた様に、これは画面の向こうの出来事。

故に、束の望む望まないに関わらず、食堂の事態は進み……。

 

 

『ん~~(じゅるるるるっ)』

 

『ぁああんっ!?ん、ら、らめっ!?こんらろらめらめぇ!!?』

 

「ダメダメとか言っときながらゲンくんをおっぱいに埋もれさせるなこのおっぱい妖怪ーー!!デカけりゃ良いってもんじゃないんだぞホルスタインめ、牧場に出荷したろかーー!?」

 

 

またもや束からすれば知らない相手の、規格外な爆乳を舌で舐り尽くすという元次の行いに、滅茶苦茶な言語でブチ切れ……。

 

 

 

『(チュッ)……こうやって、可愛がってあげたくなるんだよ……『千冬ちゃん』』

 

「ぐ、ぐぬぬぬぬ!!ズルイズルイズルイズルイーーー!!た、束さんだってゲンくんにキスなんてしてもらった事ないのにぃーー!!年上か!?年上だったら誰でもいいのかクルァッ!!こ、この寝取られ感、暗黒面に目覚めそうだぜぇ……!!」

 

 

 

自分の親友だけが、自分よりも遥かに美味しい目に遭っている事に憤慨していく。

そして冒頭に戻り、 束はモニターに映る元次の楽しそうな笑顔を見て身体をフルフルと震わせていた。

まるで覗き見をしていた事に対する天罰が如く、目の前で繰り広げられる羨ましい光景の数々。

そんなモノをさめざめと見せ付けられた束が我慢等出来る筈も無い。

気に入った対象、つまり特定の人間以外の事などまるで路傍の石ころ程度にしか考えない束には、我慢という概念すらあるのか怪しい所ではあるが。

 

「こ、こんな羨まCモノ見せつけられて……我慢なんて出来るかぁーー!!えぇい、出陣!!いざ鎌倉ぁでござるぅ!!」

 

と、遂に我慢が限界に達した束は咆哮し、近くの机に置いてあった携帯をむんずと掴むと、ギャル顔負けの速度でキーをタイピングして携帯を閉じる。

そのまま束はモニターや機械の電源を切る事もせず、ラボの隅っこまで軽快な足取りで駆け出していく。

そして束が駆け出した先には、スポットライトの光を浴びている巨大な人参型移動式ロケットラボ『我輩は猫である』がハッチを開いて主を待ち構えていた。

 

「とぉう!!目標、IS学園にロックオーン!!束さんの行く手を邪魔する奴はぁ衛星だろーがどっかの国だろーが片っ端からO☆HA☆NA☆SHI☆&ブッ血KILLだじぇー!!」

 

『了解しました。目標IS学園、各国の邪魔は手早くサーチ&ジェノサイド方針に固定』

 

そして、束は人参ロケットにアクション俳優の如き動きで飛び乗り、ロケットに物騒極まりない命令を下すと、ロケットは彼女の言葉を最優先事項に設定した。

もしこの言葉を他の誰かが言っていたとしても、妄言や妄想という言葉で片付けられるだろう。

だが、この言葉を呟いているのは、世界中が血眼になって探している稀代の大天災、篠ノ之束なのだ。

彼女が本気なら、それこそどんな国だろうと瞬く間に乗っ取られるか、経済を滅茶苦茶にされて滅ぼされてしまう。

そんな束が呟いた言葉は、洒落や冗談では済ませられない。

もしも今の束のセリフを各国のお偉方が聞いていたなら、彼等は胃痛を感じながら卒倒していたに違いない。

 

「今週の束さんは、もう誰にも止められないぃ!!待ってろよゲンくーーーん!!たっっっっっっっっぷりと甘えさせてもらうから覚悟しやがれーー!!」

 

『進路オールグリーン。『我輩は猫である』、発進します。覚悟しやがっちゃってください(シュゴォオオオオオオオッ!!!)』

 

そして遂にロケットのエンジンに火が点り、世界を飛び回るウサギは星の輝く夜空へと旅立った。

ロケットが撒き散らす煙の後には静寂が辺りを支配していく。

彼女の居なくなったラボには、只機械達が動く微かな稼動音と、モニターの向こうで携帯を見ながら笑顔を浮かべている元次の姿が映し出されていた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「千冬ちゃん?千冬さ~ん?お~い?」

 

「……(チーン)」

 

「あ~ぁあ……駄目だこりゃ、かんっぜんに気絶してんぜ」

 

所変わってコチラはIS学園食堂の一角。

そのカオスの中心たる鍋島元次は、先の額にキス攻撃を受けて撃沈している千冬を揺らしながら声を掛けていた。

だが、意識が完全にヴァルハラ温泉に向かってしまっている千冬が反応するワケもなく、元次の腕の中でぐったりとして動かない。

そんな千冬に溜息を吐きながら、元次は自分の座っていた場所から立ち上がって、千冬を其処へ優しく座らせる。

世界に名立たるブリュンヒルデの思わぬ乙女な一面に、食堂の生徒は顎が外れんばかりに驚愕していた。

そもそも他人から見た織斑千冬のイメージは、冷静沈着にして如何なる場面でも動じないクールな女性となっている。

だが、それはあくまで千冬を『ブリュンヒルデ』という色眼鏡でしか見ていないから沸いたイメージであり、彼女とて立派な恋する乙女。

好意を持つ男性からいきなりキスなどされれば、気絶してしまっても仕方が無いのである。

 

「お、おいセシリア、箒。そろそろマジで離してくれ!!これじゃ何がなんだかわかんねえ、よ!!(バッ!!)」

 

「ちょ!?ま、待て一夏!?」

 

「だ、だだだ駄目ですわ一夏さん!?」

 

と、ここで遂に我慢出来なくなったのか、先ほどまで箒とセシリアに耳と目を塞がれていた一夏が、無理矢理2人の手を振り解いて立ち上がったのである。

一方で突然動き出した一夏に驚いて手を離してしまった箒とセシリアは、目の前の光景を見られる前にどうにかしなくてはと焦り、一夏を声で制止しようとしていた。

だがそれも無駄に終わり、数分振りに視界と聴覚を戻す事に成功した一夏は、後ろに振り向いてテーブルに背を向け、左右に居る箒とセシリアを恨みがましく見つめた。

 

「ったく、行き成り何すんだよ?あれじゃデザートが全然食えねえじゃねえか。一体何の嫌がらせだっての」

 

「ち、違う!?決して嫌がらせなんかじゃないんだ!!只お前に……」

 

「そうですわ!!わたくし達は一夏さんに、あんな光景は見せられないと思っ……」

 

ここで一夏から恨みの篭った視線で見つめられた箒とセシリアはワタワタと慌てながら弁明の言葉を述べていく。

彼女達からすれば元次の起こしたイベントの所為で自分達の印象が一夏に悪くなるなど堪ったモノではない。

それ故に、箒もセシリアもかなり必死に一夏に弁明の言葉を述べていく。

だが、2人の言葉を聞いた一夏は、2人が何を言っているのか分からずに首を傾げた。

 

「あんな光景?何だよその光景って……(クルッ)」

 

「あぁ!?振り向いては駄目だ一夏!!」

 

「お、お待ちになって下さい一夏さ……」

 

そして、一夏は箒達の言葉を聞いて反対、つまり元次達の居る方へ視線を向けようと振り返る。

その行動にギョッと目を見開いて一夏の行動を止めようとしたセシリアと箒だが、それは一歩及ばず……。

 

「別に何もな、って何じゃこりゃぁあああああああああああああああああああっ!!?」

 

振り向いてしまった一夏は、目の前に広がる死屍累々の光景に、顎が外れんばかりに口を開き、目を飛び出させた。

余りにもオーバーなリアクションで叫ぶ一夏に、箒は手の平で顔を覆い、セシリアは額を手で抑えて溜息を吐いた。

一夏の視界に飛び込んだ光景とは、まず目をグルグルとナルトの様に廻して真っ赤な顔色で気絶する夜竹の姿。

気絶しているにも関わらず「だめぇ……そんなのだめだよぉ……はうぅ」と何やらうわ言の様に口を動かしていた。

更にその隣には、これまた真っ赤なトマト色に染まっている本音が居る。

ただ夜竹と違って、その顔は溢れんばかりの幸福感に包まれた笑顔を見せており「にゃぁん♡……にゃぁ~ん♡」と猫の様な鳴き声を出していた。

そしてその隣には自分達1組の副担任である真耶の姿まであった。

彼女は何故か途轍もなく妖艶な雰囲気を滲ませていて、そのあどけない寝顔すら、男を奮い立たせる雌のソレだ。

しかもそのIS学園NO、1の爆乳を呼吸と共に大きく動かしながら「そんなに吸わなぃでぇ♡……揉んじゃらめれすぅ♡」と呟いている。

トドメに、何かに耐える様にクネクネと身体を艶かしくクネらせるその動きは、青少年に対して余りにも毒過ぎる。

余りにも扇情的なその艶姿に、無意識に一夏の喉は大きくゴクリッと鳴ってしまう。

 

「……い・ち・か・?(ニコニコ)」

 

「お、おほほほ……一夏さん?(ニコニコ)」

 

「はっ!?」

 

しかしその大きな喉の鳴った音に、一夏自身がハッと意識を取り戻してブンブンと頭を振るう。

決して、後ろの幼馴染みと金髪お嬢様の射殺す様な視線と目の笑ってないスマイルの所為では無い……と思う。

兎に角、真耶から滲み出るアダルティックで妖艶なる雰囲気から辛くも脱出した一夏は、更に真耶の隣に視線を巡らせ……。

 

「……(ちーん)」

 

「千冬姉ーーーーーーーーーーーーーーッ!!?」

 

普段なら絶対に見せないであろう安らかな寝顔で気絶する姉の姿を見て絶叫した。

ついでにその千冬の隣で大きく首を廻して伸びをしている兄弟の姿も。

その姿を発見した瞬間、一夏は他のクラスメイトの座る椅子を一足飛びに飛び越えて、自分の姉へと駆け寄り抱き起こした。

 

「ち、千冬姉ッ!?千冬姉ぇぇッ!?い、一体何があったんだ!?しっかりしてくれ!!(ユサユサ)っていうかゲン、これ何もかも全部テメエが原因だろ!?お前一体全体何しやがったんだ!?」

 

そして千冬を抱き起こしながら彼女を揺する一夏だったが、千冬はウンともスンとも言わずに只安らかに気絶している。

普段の様子とはかけ離れた姉の姿に動揺が隠せない一夏だったが、直ぐ傍に居る元次が間違い無く元凶だろうと即断し、元次に向かって叫び声を挙げる。

その声を受けた元次は、「ん?」と小さな声をだして伸びの体勢を正し、下から自分を睨んでいる一夏と視線を合わせた。

 

「おぉ一夏?居たのか?」

 

「パーティーの初めっから存在したわ!?っていうか最初思いっ切り俺に声掛けましたよねぇ!?」

 

「そうだっけか?どうにもココ最近過去の事が思い出しにくくてよ」

 

「ほんの数十分前の事だボケェ!?それよりお前、千冬姉やのほほんさん達に何したんだよ!?事と次第によっちゃ容赦しね……」

 

「それよりっておまっ……自分の存在をそれよりって……ぷぷっ」

 

「 張 り 倒 す ぞ テ メ エ ! ? こんな状況じゃ仕方ねえだろーが!?俺の台詞遮って笑ってねぇで早く何したか言えぇえええッ!?」

 

何故かボケとツッコミの押収に発展する2人、ホントどうしてこうなったと一夏は心の中で思った。

自分で言った事に声を押し殺して笑う元次の姿に、怒りのボルテージが沸々と沸き上がる一夏だったが、ソコはグッと堪えて元次の言葉を待つ事にした。

何だかんだで仲の良い2人なのである。

そのまま少しの間笑っていた元次だったが、ある程度笑うと落ち着いたのか、一夏に笑顔を向けて向き直った。

 

「何をしたって言われてもなぁ……えぇ~っと……まず最初に夜竹に注意して……」

 

「一体何をどう注意したらあーなるのかが不思議でしょーがないんですけど!?」

 

軽く答えていく元次に、一夏は声を張り上げねがら依然気絶している夜竹を指差す。

一夏が指差した先の夜竹は相変わらず目をグルグルと廻しながら「ふへぇ……これは夢だよぉ……」等と訳の分からない事を呟いていた。

本当に何を注意したらああなるのか、一夏には皆目検討が付かなかった。

 

「んでもって次に本音ちゃんを可愛がって……」

 

「何を!?何をどう可愛がった!?何を!?もうなんか寝言が言語になってねえぞ!?動物になっちまってるじゃねえか!?」

 

一夏の鋭い切り返しにも動じず呟いた元次の言葉に更に突っ込みを返す一夏。

目がグルってる夜竹の隣に寝転ぶ本音の寝言は「にゃぁん♡……わんわん♡……くぅ~ん♡きゅう♡」等と、動物性すら一貫していない有様だ。

ホント自分が目を塞がれてる間に何があった?いやコイツ何した?と頭を抱えたくなってきた一夏だが、元次の独白はまだ続く。

 

「そん次は、真耶ちゃんを味見したが……」

 

「判らない!?言ってる事がサッパリ判らない!?山田先生を味見って何だ!?俺には全く持って理解できねえ!!」

 

「ボウヤだからさ(キリッ)」

 

「やかましいわ!?っていうかボウヤだからとかそんなモン関係ねえだろ!!」

 

更に予想の斜め上どころか真上を突き抜ける発言に、一夏は等々千冬から手を離して頭を抱えてしまう。

少しばかりカオスになってきた空間の中でも、真耶の雰囲気と表情はアダルトな色気に包まれたままだった。

そして彼女の呟く寝言すらも「ら、らめれすぅ元次しゃん♡……そんなに舐めひゃ……らめ♡」と、依然アダルトさを増していく。

しかも時折艶かしくクネクネと身動ぎする度にポヨヨンッと擬音が付きそうな勢いで動く『兵器』に、クラスの女子は膝を突いて悔しがる。

「まだ……!!まだ、成長の余地はあるわ……!!」等と悔し涙を流す生徒も居れば「あぁ……これが超えられない壁ってヤツ?……ふ、ふふ」と真っ白になる生徒も居た。

 

「……大きくても良い事などそう無いんだが(ぼそっ)」

 

『『『『『ブッ殺すぞ我ぇッ!!!』』』』』

 

「うわっ!?な、何だ一体!?どうしたというのだ!?」

 

『篠ノ之さん!!今のセリフは言っちゃいけねえ!!言っちゃいけねえよぉ!!』

 

『今の発言は、持つ者だからこそ言える戯言!!持たざる者には殺意すら抱かせる禁・言だぁあ!!』

 

『これ見よがしにブラ下げやがって!! 捥 ぎ 取 っ ち ま う ぞ ! ? 』

 

『そのたっぷんたっぷんな水風船で男を誘うんだな!?そうなんだな!?やっぱり男は皆おっぱいかチクショォーーー!!!』

 

『今、驚いた時に揺れた……ぶるるんって……ふ、ふふふっあーーっはっはっはっはっはっはっはっ!!!』

 

「ひい!?ま、まま待て!?皆落ち着け!?目が危ない輝きを放ってるぞ!?た、助けてくれセシリア!!」

 

「ちょ!?わたくしを巻き込まないで下さいぃ!?」

 

何やら言ってはならない言葉を言ってしまった箒に、食堂の生徒は目をギラギラと光らせながら詰めよっていく。

手は肘を軽く曲げて胸の前に突き出すようにし、なぜか指は忙しなくワキワキと高速で握ったり開いたりを繰り返している。

その危なげな雰囲気に、箒は自身の胸を抱きかかえて後ずさり、涙目でセシリアに助けを求めた。

箒自身、同年代の女子と比べると破壊的に胸が大きいので発言の危険度は倍プッシュ。

一方で巻き込まれたセシリアも箒と同様に胸を自分の手で隠しながら離れていく。

セシリアは外国人だけあって、胸の大きさは普通よりも良いほうだ。

従って狩猟者達の目は、セシリアをもターゲットに指定する。

完全に箒のとばっちりに巻き込まれたセシリアからすれば冗談では無いだろう。

 

「ホ、ホントに良い事ばかりでは無いんだ!!運動すると『揺れて』痛いし、『重いから』肩も凄く凝……」

 

『『『『『(ブチッ!!!)凝ってみたいわぁあああああッ!!!(ドドドドドドッ!!!)』』』』』

 

「うわぁああああああ!!?や、止めてぇえええええ!!?」

 

「わ、わたくしは無関係で、きゃぁああああああああああ!!?箒さんのおバカぁああああああ!!?」

 

「お前等はそっちで何やってんだよぉお!?話を、いや場をややこしくしないでくれませんか!?お願いだから!?」

 

そして遂に分水嶺をブチ壊す勢いで放った箒の禁句により、飢えた亡者と化した一団が箒とセシリアに襲い掛かった。

セシリアに至っては完全にとばっちりだったが、飢える亡者の群れにはそんな事は全く関係ない。

大きい者はコレ全て敵であり、敵は見敵必殺、Cより上は殲滅の心構えを胸に抱いた超過激思想的な一団だからだ。

あれよあれよと何十本という腕によりしっちゃかめっちゃかと揉みしだかれるセシリアと箒は、もはや恥じも外聞も無く叫ぶ。

一夏の渾身の突っ込みすら意に介さず、恵まれない女子達は只ひたすらに怨敵を滅ぼさんがために闊歩していく。

尚、箒と同じく恵まれた女子軍団は、箒の1発目のNG発言時に既に巻き込まれないように退避するという無駄に錬度の高い動きを見せていた。

 

「まぁなんやかんやあったが、最後に千冬さんのリクエストに答えて……(~♪)おっ?メールか?ちょいと失礼(ピッ)」

 

「テメエはほんっとマイペースだなオイ!?そんでもってなんやかんやって何だよ!?一番重要な部分省くな!!千冬姉は何をリクエストしたんだぁああ!!?」

 

アッチもコッチも阿鼻叫喚のカオス絵図となってきた現実に、一夏は等々匙を投げたくなってきた。

セシリアと箒は何かアホな出来事に巻き込まれてしまっているし、この現場を引き起こしたであろう犯人は超絶マイペース。

ついに我慢のボルテージが限界を超えてしまいそうになった一夏は、呑気に携帯を見ている元次に制裁を下そうとするが……。

 

「……ほぉ~?これはこれは……くっく、俺とした事が……そうだよな、仲間外れってのは可哀想だよなぁ……全く耳が良いモンだぜ」

 

「は?……ゲン、お前何言ってんだよ?」

 

怒れる一夏の視界に飛び込んできた元次は、何やら携帯の画面を見ながら心底面白そうにくっくと薄く笑っているではないか。

一夏はその真意が判らず、目の前で楽しそうに笑う兄弟分に戸惑いを含めた声音で問いかけた。

だが、元次は一夏の質問には答えずに携帯をポケットに仕舞うと、テーブルに置いてある一口タルトが複数乗った皿を手に持って食堂の入り口まで歩き始めた。

 

「お、おい!?何処に行くんだよ!?」

 

勿論、このカオスな現場から何の気無しに離れていく元次を呼び止めようと、一夏は元次の背中に声を掛ける。

そして、一夏の呼び声に反応した元次は足を止め、背中越しに振り返って、一夏にニヤリとした顔を向けた。

 

「知ってっか一夏?ウサギは一人ぼっちじゃ寂しくて死んじまうんだぜ?」

 

「は?……な、何だよいきなり?……ウサギ?」

 

一体何の事か分からないといった表情を浮かべる一夏だったが、元次はそんな一夏の心情なんて知らないとばかりに笑っている。

 

「さっきのメールはなぁ……一人ぼっちじゃ寂しくて堪らない、甘えん坊なウサギちゃんが俺宛に送ってきたラヴコールなのさ。だからちょっくら、そのウサギちゃんと逢引してくんだよ」

 

元次は呆けた表情の一夏にそれだけ言うと、再び食堂の入り口に向かって歩き出していく。

話しに着いていけず、それを呆然と見送る一夏だったが、「あっ」と元次は小さく声を挙げて首だけで振り向き……。

 

「そうそう一夏、そこにあるフルーツタルトは千冬さんのだからよ、ちゃんと取っといてあげてくれ。それと片付けは食堂のお姉様方がやってくれっからよ。じゃぁな~」

 

最後にそれだけ言って、元次は混沌極まる食堂から姿を消してしまった。

後に残るは呆然とした一夏、胸を蹂躙される箒とセシリアの悲鳴、そしてソファーの上に寝転んで気絶している乙女達の姿だけだった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「うむむむむむ!!まだ来ないのかゲンくんはーー!?束さんもう待ちくたびれたってのーー!!」

 

時間は夜、曇り1つ無い夜空に浮かぶ星と真ん丸なお月様が良く見えるここは、IS学園にあるアリーナの観客席の一角。

そこにはちょうど真ん中辺りの列の席に座って足と手をバタバタさせて駄々を捏ねる束の姿があった。

その観客席と観客席の間の通路には、束の乗ってきた人参ロケットが綺麗に着地している。

何時も設定されている筈のアリーナの観客席を守るシールドは、束のハッキングにより束のいる一角だけ解除されている。

勿論学園側にはバレていないし、学園側から観客席に入るドアも開錠してあるので、後は元次が来るのを待つだけだ。

束があのメールを送ってからこの場所に着くまでおよそ5分だったが、そこからココで待たされるのが我慢ならないらしい。

 

「ぶーぶー!!束さんの様な美女が誘ってるんだから、ゲンくんは高速で来るべきだよプンプン!!」

 

そう言いながら腕をその豊満に育った胸の下で組み、唇をアヒルの様に尖らせる様は、年不相応ではあるが良く似合っている。

まるで不思議の国のアリスを彷彿させる水色と白色のエプロンドレス、ウサギを模した金属製のカチューシャ。

とても千冬と同い年とは思えない格好だが、束の持つ変わった雰囲気と相まって、その姿はとても魅力的であった。

束がこうまで不機嫌なのは、自分を待たせて元次がまだここに来ていないのが理由だ。

というかちゃんとメールを見てコチラに来てくれているのかさえ定かではないのだが、束は元次が来る事を疑っていない。

それはひとえに元次への揺ぎ無い信頼を表しているからである。

 

「ぶー……もういいもんだ!!こうなったら直接乗り込んでゲンくんに逢いに行っちゃうもんねー!!」

 

しかし、遂に我慢の限界が訪れた束は座っていた観客席から立ち上がり元次に逢いに行こうと行動を開始した。

束としては、会いたくもない有象無象の集団に囲まれるというのが我慢ならなくてこの場所に誘ったのだが、それを忘れる位に我慢出来なくなったのだ。

そして、いざ座っていた席から立ち上がって動こうとした束だったが……

 

「それには及ばねえっすよ?た~ばねさん♪(ギュッ)」

 

突如、束の耳の『真横』から、待ち望んだ相手の声が聞こえてくる。

それに続いて、彼女の目の前を野太い腕が交差する様に通って、束の動きを封じた。

更に束の背中に、とても固く、しかし生き物の温かさと柔らかさを併せ持った大きな『壁』が引っ付く。

 

「……ふへ?」

 

ここで、束の意識は少しだけ呆けてしまった。

だが、直ぐに意識を持ち直した彼女は、自分の胸元にゆっくりと視線を向けてみる。

するとその先には、自分のお腹の部分を交差する様に回された腕があり、その逞しい腕は自分の良く知っている者だと束は直感した。

だが、それは良いとして、聞こえた声は彼女の直ぐ『真横』だった事に対して心臓が激しい高鳴りを刻む。

もしかしてと過ぎった予想に従って、束はゆっくり、ゆっくりと声の聞こえた方向に振り返って……。

 

「……にゃっ!?ゲゲゲゲゲ、ゲンくんっ!?(ち、近すぎるよぉおおっ!?っていうかハグされてるっ!?ゲ、ゲンくんが束さんにくぁwせdrftgyふじこlp;@:「」!!?)」

 

「へへへっ、不肖、鍋島元次。可愛い可愛いウサギさんの御呼びにより参上しました♪俺が居なくて淋しかったかなぁ?束さん♪(パチッ)」

 

「へ!?あ、いやうえっとは、はへ!?(ウ、ウインクでしゅか!?ダ、ダメダメダメそんなにキュンとくる仕草しないでぇええ!?心臓が破裂するほどヒートしちゃうぅうう!!?)」

 

後ろから束を抱きすくめながら、とても良い笑顔を浮かべる元次のドアップフェイスに顔が沸騰してしまう。

その束の絶叫に近い声を間近で聞いているにも拘らず、元次は顔色1つ変えることなく、束に向かってウインクを一つ送りながら言葉を続ける。

一方、不意打ちにも近い形で元次の顔を拝んで、しかも可愛い等と連呼された束はまともな言葉が出てこなかった。

顔はトマトの如く赤く染まり、先程の不機嫌な思いはダストシュートされてしまう。

何時もなら逆に元次に対して自身の身体を押し付ける等、過剰なスキンシップを取る事に余念が無い束だったが、やはり彼女も恋する乙女。

普段は受身の元次にこういった不意打ちをされると、対処の仕様が全く無かったりする。

 

「うぅ~ん(スリスリ)ビューティフォーに柔らけえし、スベスベだぁ……やっぱ束さんの身体はサイコーだぜ(スリスリ)」

 

「うにゃにゃにゃにゃにゃーーー!?ゲ、ゲンくんア、アアアアアアアン、アンタなんばしよっとね!?」

 

だが、それだけでこの野獣が満足する筈も道理も無く、元次はテンパッている束の声を無視して、次の行動を起こす。

何とこの男は驚く束を無視して、彼女の傷や染みが見受けられない頬の柔肌に、自身の頬を擦りつけ始めたのだ。

それはもう満面の笑顔で束の体を固定しながらするので、束は更に体の自由を奪われてしまった。

行き成り過ぎる、且つ何時もの元次なら絶対にしない行動に、束は顔の赤みを隠す為になるべく元次を視界に入れない様にしながら吼えた。

 

「何って……マーキングっすよ? マ ー キ ン グ ♪ 」

 

「ま!?まままっままままま!?……マーキングぅ!?(ま、マーキングってアレだよね!?自分のテリトリーを他者に対して示すって事だよね!?に、人間なら……こ、ここここの人は……じ、自分の……『モノ』だって主張するあの……)」

 

そして、吼える束に自身の頬を摺り寄せる行動を中断せずに、元次は当たり前だと言わんばかりに答える。

その答えに対して、束はこれ以上無いと言うほどに頬を、いや顔全体を赤く染めあげられ、体に甘い痺れが通っていく。

元次の言うマーキングとは、束の考えた通り、他者に自分の所有物だと言う証を刻み付ける事であり、人間であるなら『オレの嫁』宣言に等しい。

勿論、聡明な束がその答えを理解出来ない筈も無く、逆に理解してしまった束は羞恥と幸福感で倒れそうになった。

だが、今の束は元次の逞しい肉体によって全身を包み込まれている。

多少束がフラついた所で、元次が全身を支えている今は、全く動くことは無い。

その事実がスパイスとなって、束の心に『全身を包まれて、元次に支配されている』という悦びを、雌の本能が深く刻み付ける。

先程まで元次に言うつもりだった文句等は消え去り、今束の心を満たすのは『征服されている』という女の悦びだけだった。

 

「そう、このムチムチとしたエロい身体も、陶磁器みてえに白い柔肌も、桃の様に甘い香りも、吸い込まれる様な真紅の瞳も……全部『オレのモン』だって証しを付けてるんす……嫌っすか?」

 

「ふあぁっ……ゲンくぅん♡」

 

と、先程までこれでもかと頬を擦り付けていた元次は唐突に顔を離して束を正面に振り向かせて体勢を入れ替えた。

そのまま向かい合う形になった束と元次だが、ここで元次は自分自身を観客席に座らせ、束を自身の下腹部の上に対面の形で座らせる。

つまり、俗に言う対面座○の形で向かい合ったのだ。

行き成り体勢を入れ替えられた束だったが、もはや元次に逆らう思いは微塵も沸かずそのままされるがままに体を動かす。

彼女の瞳には元次の顔しか写っておらず、心の中も元次の事だけを考えている。

同年代の女性からしても平均より高めの声は、今や蕩ける様な甘さを含み、聴くものが聴けば即座に襲い掛かってしまうであろう。

そんな魔性の声を持って、束は元次の問いかけに口を開く。

 

「嫌なワケ、ないよぉ♡……いっぱい……いっぱぃ、束さんに……まーきんぐしてぇ♡」

 

恋する乙女たる束にとって、それは生き物が呼吸を必要とするのと同じ様に決まりきった答えである。

夜空に輝く満天の星と満月を背にして元次の下腹部へ圧し掛かる束の姿は、とても幻想的であり、とても魅惑的でもあった。

元次の太い腰を跨ぐ格好で座った所為でたくし上げられたロングスカートから、健康的ではなく、普段から日の元に晒さない足が見えてしまう。

だが、それは病的な色ではなく、日の元に晒さなかったからこその、陶磁器を超える美しい白い肌だった。

束の様な人嫌いで引き籠っていたからこそ成った白い肌、それなのにムチムチとした肉付きをしているのだから驚きであろう。

その白き足を守っていた最後の砦であるスカートが上がり、世の男がかぶりつきたくなる太ももがギリギリまで元次に晒されようとも、束は気にしない。

いや寧ろもっと見て欲しいと心が、本能が願うのだ。

更に彼女の平均より遥かに大きな胸も、自身のエプロンドレスを窮屈そうに押し上げている事が束の魅力を上乗せする。

それを下から見上げている男が元次以外なら、とっくにむしゃぶり尽いている事間違い無しだ。

だが、今の元次は只笑顔を浮かべて、そんな束の情欲に塗れた艶姿をじっくりと堪能していた。

 

「くくっ……そんな科白、間違っても他の男に言わないで下さいよ?絶対に我慢出来なくなって襲ってきますから」

 

「もぉ♡……束さんがそんな事ぉ、他のタンパク質共に言うわけないでしょぉ?……いっくんにだって言わないよぉ♡……束さんがこんな事言うのは……ううん、束さんにこんな事言わせるのは……あん♡」

 

「言わせるのは?(スリスリ)」

 

元次の余り現実味のない言葉にも、束は艶の篭った甘ったるい声でもって返事を返す。

その問いに答えている最中に、束の背中に添えられていた元次の手は滑る様に下へ降りていき、束の胸の横を撫で、キュッとくびれた腰を撫で、彼女の腰の辺りで止まった。

身体を這い回る感覚に、束は思わず嬌声をあげてしまうが、元次の手を止める様な行動はしなかった。

それどころか、自らの腰とお尻の間で止まった元次の大きく無骨な手に自分の手を添えて、もっとして欲しいとおねだりするかの如く動かす。

その手の動きに元次は笑みを深くしながら無言で束のおねだりに答え、くびれた腰と柔らかい尻を撫でる様に揉み解す動きを取る。

自分のおねだりが受け入れられた事に束は瞳を更に蕩けさせ、その与えられる刺激に呼吸を荒くしていく。

 

「あっ♡うぅん、はぁっ……はぁっ……はぁっ……ん♡……こ、こんな、えっちな事させるのはぁ♡……んぁ♡ゲ、ゲンくんだけだもん♡」

 

「そいつぁ、何とも光栄の至りで。しかし自分からケツを撫でてとおねだりしてくるたぁ……全く、本当にえっちなウサギさんだぜ」

 

「やん♡……た、束さんにそ、そうさせてるのは、ゲンくんだよぉ♡」

 

互いに責任の擦り付けあいかと思わせる様な言葉を交わす2人だが、互いに体の動きが止まる事は1度も無い。

2人の顔も、喜び以外の感情が見受けられないのが何よりの証しだろう。

先程も語ったが、今の束を見上げている者が元次以外であっても、まず間違い無く束の表情に魅了されている。

何よりも彼女の蕩けた表情だけではなく、彼女の頭に着けられているアクセサリーも、男の情欲を煽るのに一役買っているのだ。

束の頭に着けられた、彼女のウサギという代名詞を現す機械的なウサ耳を模したカチューシャ。

それは束の服装も相まって、男を夢の国に誘う。

まるで童話の中から飛び出してきたような束の青と白のエプロンドレス、そして幼さとあどけなさを演出するウサ耳。

そんな非現実的な格好をしたナイスバディな女性が満天の星と、輝く満月をバックに蕩ける様な表情で見下ろしているとしたら?

しかも自分の下腹部に跨り、男を妖しく誘う様な美しい足を惜しげも無く晒していたら?

更に束のウサ耳が、まるで物語の中に出てくる獣人を思わせる光景に、世の男達は背徳的な興奮を覚える事間違い無しだ。

 

 

 

では、この自制心が欠片とて存在しない『野獣』なら?

そんなもの、答えは決まりきっている。

 

「あぁ、ダメだ。こんなエロいうさぎが目の前に居たら、我慢なんか出来ねえよ(ごろん)」

 

「きゃ♡……ぁは♡」

 

勿論、本能の赴くままに行動を開始する。

心に浮かんだ『喰う』という欲望の命じるままに、元次は自身の上に圧し掛かっていた束を抱きすくめ、そのまま観客席へと押し倒した。

乱暴にではなく、束の頭と腰の裏に手を差し入れて、硬い作りの観客席で束に負担と痛みが掛からない様に寝かせていく。

その小さな、でも自分の為にという気遣いに、束は心が急速に満たされていくのを感じた。

先程までの様に男を見下ろす体勢ではなく、今度は元次に見下ろされる体勢、全身を覆いかぶされるという感覚。

それは正に、野生の雄が気に入った雌を強引に組み敷く光景に酷似していた。

今の自分の体は目の前の『ケダモノ』に目を付けられた、謂わば1つの『獲物』と化している事実。

その事実は束の脳髄と心臓に激しい官能的な痺れを引き起こさせ、全身が支配される悦びに撃ち震えていく。

 

「んもう♡強引なんだからぁ♡……こんな、外で女を押し倒すなんて……ゲンくんは、ケダモノだ♡」

 

そうやって口では非難する束だが、彼女の片手は自身の頭の直ぐ横に立てられている元次の腕を愛おしく撫でている。

更にもう片方の手を元次のカッターシャツの胸元に差し込み、鍛え上げられた胸筋をやらしく撫でる様が、ケダモノの情欲を掻き立てていく。

何より束の蕩けた笑顔が、元次の理性と言う名の鎖を断ち切らんと攻め立ててくるのだ。

 

「くっく、昔っから決まってるでしょ?こんな満月の夜に出歩いたりする悪いウサギちゃんは……『狼』に喰われちまうんですぜ?」

 

「ふふっ♡そのウサギちゃんはぁ……狼さんに、美味しく食べてもらいたいから出歩いたんだよ?……どうぞ♡」

 

 

 

 

 

 召 し 上 が れ ♡ 

 

 

 

 

 

束の様な麗しの美女に、その様な事を言われて奮い立たない雄はいないだろう。

その言葉が出た瞬間、元次は理性という鎖を引き千切り、目の前の雌との距離をゼロにした。

 

じゅるっ!!じゅるるるるるるるるっるるッ!!!

 

「んぁぁああああああああッ!!?は、ひぃううぅっ!?ふあぁあああああああっ!!?」

 

そして、元次は堪まらず束の服の隙間の胸元をチラリと覗く色っぽい鎖骨に舌を伸ばし、その柔肌を蹂躙し始めた。

そのまま更に一度胸元に降りて、白いエプロンをはちきらんばかりに膨らんだ胸をも舐め上げていく。

それは真耶にした行為以上であり、エプロンに包まれている赤い蕾にすら強引に舌を挿し伸ばして、舌先でコロコロと弄んでいた。

 

ちゅるる、ちゅぱッ!!じゅるるるるるッ!!

 

「あぁあんッ!!?ふああぁいひぃッ!?」

 

その強すぎる刺激に、束は人間のソレでは無く、『雌』の嬌声をあげてしまう。

暫くそうして束の服の中に隠された蕾を味わい尽くすと、元次は服の中から舌を取り出して再び鎖骨に標的を戻す。

生暖かいざらざらした舌が身体を這いまわるという未知の感覚に、束は声を大きく挙げながら元次の鍛え上げられた背中に手を這わせてしがみつく。

鎖骨付近を舐められるという刺激は、耐え難い快感を生み出し、それは下腹部へと妙にくすぐったい刺激となって伝わっていく。

束はその感覚に対して身を捩り、それでも収まらないもどかしさに身体をクネクネと動かしてしまう。

まるで何処かへ飛んでしまいそうな感覚に、束は飛ばされまいと元次の背中に廻した手に力を篭めて精一杯抱きついた。

 

じゅるっ!!……べろぉお~~。

 

「は、はぁあうっ!?ゲ、ゲンくんっ!!ゲンくぅんッ!!(ぎゅ~~)」

 

そして、そんな束の行動ではまるで動じない元次は、鎖骨を舐めていた舌を這わせたまま、今度は首に標的を変えた。

個人差はあるが首筋とは息を吹き掛けられただけで身震いしてしまうほどに多感な場所でもある。

そこを暖かい舌が舐めあげながら、息が掛かるというのは、筆舌に尽くしがたい感覚を生み出す。

その頭が真っ白になりそうな刺激を受けた束は、元次のシャツを皺になるほど思いっ切り握り締めてしがみ付き、意識を保とうとする。

吸い込まれる様な深紅の瞳をキュッと閉じて、目尻に涙を溜めた束の、『女』の表情が、夜空に輝く満月に晒される。

 

かぷッ!!ちゅ~~~~~ッ!!!

 

「うあぁッ!?ふぁぇいぅううううッ!!?」

 

そして、首筋の味を堪能し尽くした元次は、お次とばかりに束の首筋をついばむ様に甘噛みした。

今までの柔らかい舌の感触ではなく、硬い歯に印を付けられていると理解した束は、嬌声を抑えられないでいた。

更に首筋に噛み付いたままに、今度は口をすぼめて吸引してくる。

もうそれだけで束は天にも昇る様な夢心地に誘われてしまった。

そのまま首筋を吸われてどれぐらい経ったであろうか?束の感覚的には1分にも、1時間にも感じられた行為も終わりを迎えた。

突如として、甘噛みしていた歯も、吸い付いていた唇も離れて、元次は一旦動きを止めてしまう。

 

「は、はひぃ♡……ふあぁ♡……」

 

何故突然動きが止まったのか?束にはそんな事を考える余裕は全く残っていなかった。

只、先程の行為で与えられた刺激から開放された余韻に浸り、呼吸を整えようとする事で精一杯なのだ。

だが、ケダモノは容赦という概念を何処かに忘れている。

最早息も絶え絶えという様子の束を気遣う事もせず、元次は更に束を強く抱き寄せ、己が口を更に上へと向ける。

 

「……ふぅ~~」

 

「んにゅ!?はぁん!!?」

 

そして、その熱に染まった息を、束の耳に吹き掻けた。

それだけで先程の刺激で熱に浮かされた束の身体は飛び上がる様に反応してしまう。

びくんっびくんっと大げさな反応を取ってしまう束の身体を、その鍛え上げた体躯と野太い腕で抑えつけ……。

 

 

 

 

 

じゅるっ!!ちゅばばばばばばッずりゅうううううううっ!!!

 

「ッ!?んやぁああああああああああああああああああああああああッ!!?」

 

束の小さな耳の中に、その生暖かい舌を『挿し入れた』のだ。

その未知なる快感と刺激、そして鼓膜を震わせる水音と湿り気に、束は絶叫する。

耳の穴という自分にとっては汚い部分を舌でこれでもかと蹂躙される羞恥。

そして今までとは比べ物にならない様な、脳髄に直接伝わってくる刺激。

その感覚は、束の思考を犯し、身体を大きく反応させる。

背中は折れるのでは無いかと言う程に反り返って、足は爪先だけで支える形だ。

元次に抱きしめられているにも拘らず、その身体を少しだけ押し上げる程に、束は身体を敏感に反応させたのだ。

 

「はっ、あっ♡……あ、つ……あぃ……んぅっ♡……」

 

言葉にならず、呂律も回らない痴態を晒す束だが、それを気にする余裕は皆無であり、そこまで思考が回って居ない。

彼女の赤いロングヘアーは、今や乱雑に振り乱れてしまっているが、それがそこはかとない色気を醸し出していた。

汗でしっとりと湿った顔に、口に一筋だけ髪の毛が咥えられているのが、更に情欲を誘う。

 

「んっ……ぷはっ……ふぅ」

 

そんな風に、有体に言えば『乱れて』しまっている束の耳の中から舌を取り出した元次は、その体勢のままに口を開き……。

 

 

 

 

 

「最高にいやらしくて可愛いぜ……『束』」

 

耳元で、トンでもなく気障なセリフと、彼女の名前を呼び捨てで甘く囁いた。

それを束が脳で認識した瞬間、ブツリッとナニカが焼き切れる音と共に……。

 

「…………はへぇ♡(くてっ)」

 

 

 

篠ノ之束は、全てを放棄(シャットダウン)した。

 

 

 

篠ノ之束、メルトダウン。

 

 

 

 

「……ん?……ありゃ?束さ~ん?」

 

そして、束の耳元で甘く囁いた元次は、束から何のリアクションも返ってこないのを不思議に思い、顔をあげた。

 

「……ふぇ♡……ふへへへへ♡」

 

「あららららら。束さんまで寝ちまったのか……せっかくココからピッチ上げていこうと思ったのによぉ」

 

すると、目の前の束がだらしない顔をしながら何かを呟いているのを見て、束が寝てしまった事を理解した。

まず間違い無く寝たわけではなく気絶したのだが、今の元次にはさして問題では無かったのだ。

 

「やれやれ、さすがに束さんをこのままにしとく訳にゃいかねえし……よっこいせっと」

 

口では面倒くさそうに言いつつも、元次は束をお姫様抱っこで抱き上げ、束の乗ってきたロケットの中に優しく座らせる。

そのままもう一度さっき座っていた場所に戻り、直ぐ傍に置いてあった一口タルトの乗った皿を持って、再びロケットに近づく。

 

「さて、と……どうやって動かすんだ?コレ」

 

束をもたれかかる様に座らせたロケットの内部を見渡し、発射方法を探し始めると、それを境にロケットのコンソールが輝き始めた。

 

『マイスター以外の人物を発見、照明開始。平行して警戒モードへ移行』

 

「お?おぉ?」

 

と、何やらロケットの中から女性の様な声が響いたかと思うと、元次の身体に向かって無数のレーザーを浴びせていく。

その光景に面食らって驚く元次だったが、レーザーが無害なモノだと判ると、特に暴れずにそれを受け止める。

そして、そのレーザー照射が1分程続いたかと思えば、レーザーは全て消えて、コンソールの画面が再び動き始めた。

 

『照明完了、マイスター作、『オプティマス・プライム』操縦者、並びにマイスターの身内対象である鍋島元次本人と確定。警戒モードを解除します……こんばんは、鍋島様』

 

「あん?なんだオメエ?」

 

行き成り友好的に話しかけてきた音声に、元次は怪訝な声を持って返してしまう。

確かにロケットから行き成り友好的な音声が流れても、どう返せば良いか混乱してしまうだろう。

 

『自己紹介が遅れて申し訳ありません。私はマイスター束に製作された、この移動式ラボロケット『我輩は猫である』の管制AIです。以後、お見知りおきを』

 

「は?このロケットのAI?……まぁ、束さんの造ったモンだから深く突っ込んだら負けか」

 

『英断かと思われます。マイスターの事を深くご理解頂けてる様で、私も鼻が高いです。私ロケットだから鼻はありませんが』

 

「何気に人間くせえなテメエ」

 

『恐縮です』

 

「褒めてねえよ……まぁ、何でもいいけどな。束さんが気絶しちまったんだ。テメエの判断でこのロケット飛ばせねぇか?」

 

傍から見れば、人参の形を模した巨大なロケット?の様なものと会話をする男が1人。

誰が見ても間違い無く可笑しな、そして途轍もなくシュールな光景である。

しかも束のロケットが妙に人間味を帯びているので、余計に可笑しな光景に見えてしまう。

 

『余裕です。朝飯前です。マイスターに何か遭った時の処置として、ロケットの行動は私が全て独断で行う事が可能ですので。ぶっちゃけ勝手に何処かへ散歩も余裕綽々です』

 

「傍迷惑な人参だなオイ」

 

勝手に歩き回る巨大な人参、オマケにその中身は世界中の科学者が涎を垂らす程の技術の塊。

元次の言う傍迷惑とは、あながち間違ってはいないであろう。

ましてや世界最高峰の頭脳が手掛けた自衛機能まで搭載されているのだから堪ったモノではない。

 

『鍋島様、訂正を要求します。マイスターの趣味で人参の様な格好をしておりますが、私はロケットです。キャロットではありません。激しく訂正を要求します』

 

「だから人間くせえってか人参くせえよテメエ。とりあえずこのタルト保冷して、さっさとキャロケット打ち上げちまえ」

 

『ついには合体させられましたか。酷いお人ですね……まぁ、判りました。では其方のタルトは保冷し、続いて10秒後に発進致します。それではお休みなさいませ、良い夢を』

 

「あぁ、ちゃんと束さんを連れて帰ってくれ」

 

そして、心を通わせた?AIに元次が別れを告げて離れると、ロケットは入り口を閉めてブースターを噴射し始めた。

ロケットの噴射音は中々大きな音だったが、不思議とこの場には誰も近づいて来ない。

これも恐らく、束のハッキングによって人払いがなされているのだろう。

意中の男性に逢う為とはいえ、かなり大掛かりな仕掛けである。

 

『それでは、失礼致します(シュゴォオオオオオオオッ!!!)』

 

そして、ロケットの発進を見守っていた元次に、AIは最後の別れを告げて大空へと旅立った。

後に残るのは、静寂と満月、そして夜空に輝く星だけになる。

ロケットが旅立って暫くは夜空を眺めていた元次だが、それから5分ほどして、元次もアリーナの観客席を後にする。

 

「さぁて……今からパーティーに戻るって気分でもねぇし……帰って寝ますか」

 

そう呟く元次の顔は、酒による赤みをそのままにして眠気で瞼が落ちそうになっている。

尤も、既にパーティーはお開きになっていて、1組で起きているのは元次だけなのだが、それを元次が知る由も無い。

現在の時刻は11時前、消灯時間を軽くオーバーしているが、元次は特に気にせず、自分の部屋を目指していく。

 

 

 

 

 

こうして、織斑一夏クラス代表就任パーティー並びにIS学園の伝説、野獣の宴は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

ジリリリリリリリリリリリッ!!!バガンッ!!

 

「……う、うぅん?……」

 

けたたましい目覚ましの鳴り響く音に身を捩りながら、俺の意識が覚醒し始めてきた。

そして薄っすらと目を開けていくと、ぼんやりとした天井の風景が視界に入ってくる。

……朝、か……眠てえ……。

 

「……ん?」

 

起き抜けで少しばかりぼんやりと天井を眺めていると、ふと右手に違和感を感じる。

気だるい頭を動かして其方を見てみると、俺の右手の下で潰れてるMY目覚まし君がお亡くなりになってた。

あちゃ~、起き抜けで手加減できずにブッ壊しちまったか。

仕方ねぇ……とりあえず、起きて顔を洗いま(ズキンズキンッ!!!)んぎぃ!?

 

「い、痛ええええええええええええええええええええッ!!!?」

 

行き成り頭に奔った猛烈な痛みに、俺は飛び起きて叫び声を上げながら頭を抱えてしまう。

い、痛え痛え痛え!?あ、頭が割れちまいそうな痛みがぁああああ!!?

俺の頭を突如襲った痛みは、脳を直接ガンガンとハンマーで殴られる様な痛みで、とてもじゃねえが耐えられる代物じゃねえ。

そのまま暫く頭を抱えた体勢のまま頭痛が治まるのを待っていたんだが……。

 

「い、いぢぢぢぢぢ……!?な、何なんだよ一体……!?って……あれ?何で俺、裸で寝てんだ?」

 

少しばかり頭痛が治まると、今度は違う違和感を感じてしまった。

そう、ベットで寝ていた俺の服装は、上半身裸でズボンはジーパンという如何にもなアメリカスタイルだった。

何時もの俺ならじないであろう格好に、俺は自分の事ながら戸惑ってしまう。

 

「っていやちょっと待て?確か昨日、俺は……あれ?……自分で寝た記憶がねえ……あっれえ?」

 

更に頭を捻ると、今度は別の謎が出てくる始末、一体全体どうなってやがんだ?

確かに俺はここで着替えて寝ている。

だというのに、ソコに至るまでの過程が全く思いだせねえ。

幾ら記憶をほじくり返そうとも、覚えている最後の光景は、一夏のクラス代表就任パーティーまで。

その最後に、クラスの女子に〆のデザートを振舞った所までは覚えているんだが……その先が全く記憶にねえ。

何だってんだよコリャ……はっ!?ま、まさかコレが噂に聞くあの……!?

 

「キング・クリムゾンってヤツか!?(ズキンッ!!)って痛ぁ!?さ、叫ぶと余計に痛みが……!?」

 

…………シーン。

 

思い出せないのでヤケクソにボケてみたは良いものの、誰も何も返してくれない。

……止めよう、虚しくなるだけだぜ……痛い思いまでして馬鹿か俺ぁ?

ってあれ?そう言えば……こんだけ騒がしくしてるってのに、本音ちゃん起きてこねえな?

俺は寂しくなった胸中に静止を掛けると、ココまで騒いでも起きねえ同居人の事が気になった。

そう、皆さんの癒し系アイドル、本音ちゃんその人だ。

俺は痛む頭を抑えながら本音ちゃんが寝ているであろう隣のベットに目を移すが、そこは既にもぬけの殻だった。

 

「ありゃ?……先に起きて行ったのか?珍しいな……」

 

本音ちゃんはあのほんわかとした雰囲気の通り、朝は中々弱かったりする。

だから何時も俺が起こして一緒に朝食を摂ってたんだが、今日は俺より早く行ったみてえだ。

まぁ考えていても仕方ねえので、俺は痛む頭を我慢しながら顔を洗って着替えを済まし、朝食を摂るために食堂を目指した。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

さて、今は食堂に来て食事を摂ろうとカウンターの前で注文した食事を待っているんだが……。

 

「……」

 

『『『『『……(チラッチラッ)』』』』』

 

何やら、食堂に入った瞬間、あっちこっちから沢山の視線の嵐を受けています。

うん、なんでさ?しかも食堂に俺が入った瞬間だぜ?

何時もより視線の数は多いわ注目されるわでグロッキーなり。

さすがに気になって食堂のテーブル側に振り向いて見れば……。

 

「……(チラッ)」

 

『『『『『ッ!!?(バババッ!!!)』』』』』

 

今度は一斉に視線をそらす始末、どうしてこうなった?

しかも俺が視線を外すとここぞとばかりに又視線が俺にロックオンしてきやがる。

本当に何がどうなってんですか?

まるで思い当たる節が無い視線の嵐に、俺はデッカイ溜息を吐いてしまう。

 

「はい、おまちどお」

 

そんな風にアンニュイな気分になっていると、何時の間にか目の前に鎮座している注文した品。

ホカホカと美味しそうな湯気を立ち上らせる……お粥。

……うん、お粥だ。まごう事無きお粥さんだ。

真っ白で何処までも飾り気の無い、いやその白こどが至高と言わんばかりの白さを持った……お 粥 さ ん だ 。

いやまぁ注文したのは確かに俺なんですけどね?

何せ頭痛がまだ治まらねえから、朝はなるべく軽いものにした結果がこれなんだよ。

まぁここにずっと居ても仕方ねえので、出されたお粥を持って席を探す。

 

「……はぁ」

 

と、席を探して辺りを見渡せば、窓際のテーブル席に1人で座って溜息を吐いてる夜竹を発見。

何故か彼女の座ってる席には他に誰も座っておらず、夜竹は頬を赤く染めてテーブルの上に置かれたコーヒーを眺めている。

しかし黒髪のロングヘアーな女子が窓際の席で溜息を吐くって……いい絵になってるな。

だがまぁちょうどいい、他に知り合いもいねえし、夜竹に相席させてもらうか。

俺は朝からぼけーっとしている夜竹の元に、ゆっくりと歩いていく。

だが、俺が傍まで近寄っても、夜竹はテーブルに置かれたコーヒーに視線を注いでて気付いていない様だ。

 

「ぁぅ……き、昨日は……元次君に……うぅ……どんな顔したらいいのぉ?」

 

何故か頬が赤い夜竹は、そう呟きながら更に顔全体に赤みを増していく。

え?俺?

 

「俺がどうしたって?」

 

「きゃぁああああああああああああああああああああッ!!!??」

 

「うおあっ!!?な、なんだなんだぁ!?」

 

夜竹の呟きの中に俺の名前が出てきたので、何の気無しに声を掛けたら滅茶苦茶ビビられた。

っていうか悲鳴あげられたんだけど?

 

「げ、げげげゲン、げん、げんじゅくんにゃ!!?」

 

そして、ひとしきり悲鳴を上げた夜竹は、ババッと音が鳴りそうな勢いで振り向いてきた。

しかも身体が何かカチコチに固まってらっしゃる上に顔の赤さがさっきまでの比じゃねえ。

っていうか言葉が呂律回って無くて何言ってるかまるでわかりません。

本当どうしたってんだ夜竹さんよ?

 

「お、おう。どうしたんだ夜竹?大丈夫か?」

 

さすがにこんな反応をされたんじゃあ飯どころじゃなくなったので、お粥片手に夜竹に近づいてみると……。

 

「ッ!?(ガタンッ!!!)」

 

何故か直立不動の姿勢で立ち上がり、カチンコチンに固まったでごわす。

……えっと?いやどうすりゃいいのこの状況?

暫しお粥を持ったままの体勢で見詰めあう俺とフリーズ状態の夜竹。

 

「………………ごっ」

 

「……?……ご?」

 

何すか夜竹さん「ご」って?

そんな事を考えていたら、何故か夜竹は目尻に涙を溜めて身体をクルッと反転させ……。

 

「ごめんなさいぃいいいいいっ!!?(ダダダダダダダダダダッ!!!)」

 

「何がっ!?」

 

謝罪の言葉を叫びながら砂塵が出る勢いで食堂から出ていきましたとさ。

っていうか何に対しての謝罪ですか夜竹さん?

あまりの事態に突っ込みを入れつつもポカーンと見送る事しか出来なかったぜ。

そして今の寸劇を目撃して、興味津々と言った視線を浴びせてくる食堂の乙女達。

もしも視線に威力があるなら、俺の身体はボロボロになっちまってんだろう。

 

「……食うか」

 

とりあえずこのままぼーっとしてても仕方ねえと判断し、夜竹が座っていた席に座って、俺は遅めの朝食を摂る。

俺がお粥を食べている間にも雨霰といった具合に降り注ぐ数多の視線、マジで俺が何したよ?

さすがに不愉快な事してくるわけじゃねえし、怒るにも怒れねえ。

そのまま俺がお粥を食べ終えて食堂から出るまで、俺に降り注ぐ視線の雨は止む事は無かった。

食ったのがお粥ってのもあって、飯食った気がマジでしなかったよちくしょう。

 

 

 

 

 

そんでまぁ、飯を食い終えて我等が1組の教室に向かっている所なんだが、俺の頭の中には1つ引っかかっている事がある。

それは、食堂での夜竹の態度は一体何だ?って事だ。

微妙に聞こえた小言からして、夜竹がああなった事は俺が原因……だと思う。

だが、俺にはその理由が皆目検討つかないってのが現状だったりする。

いやマジで昨日の記憶がごっそり抜けてるからよ……本当に何があったんだ?

と、そんな事を考えながら黙々と歩いていると、遂に1組の教室に到達してしまった。

もう既に食堂を出た夜竹も教室の中に居るだろう、そう考えるとちょっと入りづらくなっちまう。

だが、ここで無駄な時間を過ごして遅刻、なんてなったら目も当てられねえ。

それこそ千冬さんにグラウンド何週させられるかわかんねえよ。

……仕方ねえ、入るか。

無理矢理意を決した俺は、教卓側の扉を潜って、中に入り……。

 

 

 

 

 

『『『『『……(じ~っ)』』』』』

 

「……oh」

 

食堂の時と同じ様に、視線の嵐に苛まれる事となった。

しかも誰一人として話しかけては来ない。

ちくしょう、俺に言いてえ事があんなら普通に声掛けてくれりゃあ良いのに。

何で皆して視線で訴えてくるんだっての。

 

「あ!?おいゲン!!お前やっと来やがったのか!?昨日はお前の所為でマジ大変だったんだぞ!?後始末全部俺に押し付けやがって!!」

 

と、俺が視線の嵐でガリガリと精神を削られている所に、先に来ていた我が兄弟である一夏が登場。

何故か少々怒り気味だが、数ある視線をものともせずに俺に近寄ってくるではないか。

普段はコイツの図太さに呆れるトコだが、今日みてえな日はホント感謝だぜ。

 

「おう、一夏。っていうか昨日何があったんだ?」

 

俺は挨拶をすると同時に、昨日の出来事について一夏に尋ねてみた。

コイツの今の口ぶりからして、昨日のパーティで何があったのか知ってるんだろう。

だが、俺の言葉を聞いた一夏はまるで信じられないって表情をそのイケメンフェイスにアリアリと出してきやがった。

え?マジで昨日何があったんだよ?

 

「お、おまっ……!?昨日の事覚えて「あ~♡ゲンチ~だ~♡」ってのほほんさん!?」

 

「む?おぉ、本音ちゃん、おはよう」

 

「えへへ~♡ぐっとも~にんぐだよ~♡」

 

俺の朝の挨拶に嬉しそうに頬を緩ませながら返事を返してくれる本音ちゃん、あぁ~癒されるぜ。

俺の言葉に返事を返そうとした一夏だったが、途中で乱入してきた我がアイドル本音ちゃんに言葉を遮られていた。

そのまま流れで俺も挨拶を返してしまったので、一夏は涙目になりながら他の女子に話しを振られてそれに答えていた。

うん、なんていうかスマン、一夏乙。

しかし……今日の本音ちゃんは、何時にも増してご機嫌だなぁ。

少しばかり首を上に向けて俺を見上げる本音ちゃんの顔はこれまた嬉しそうなニコニコ顔だ。

多分、尻尾と耳があったらフリフリと左右に振られてるだろう。

心なしか頬にも朱の赤みが挿していて、夢心地って感じだ。

 

「あ、あのね~?き、昨日の事なんだけどぉ~♡」

 

と、朝から可愛らしい雰囲気を見せてくれる本音ちゃんに萌えていると、その本音ちゃんが恥ずかしそうに声を掛けてきた。

なにやら手を前向きに組んで、モジモジと指同士を擦り合わせながら俯いている。

その恥らう様は猛烈に可愛いんだが、昨日の事ってなんぞ?

 

 

 

『……その情報古いよ』

 

ん?何か廊下から聞いた事ある様な声が……?い、いやそれより本音ちゃんの言ってる昨日の事の方が重要だな。

本音ちゃんの言ってる「昨日の事」ってのが良く判らなかったので、俺は聞いてみようと声を……。

 

 

 

 

 

「わ、私ぃ♡首輪は黄色が良いなぁ~って思うんだけど~♡ゲンチ~は何色が好きなの~?そ、それに~ゲンチ~が望むならぁ……リ、リードも着けちゃうけどぉ……きゃ♡」

 

「ちょっと何言ってるかわかんないですね」

 

掛けようとしたが本音ちゃんの意味不な発言で違う言葉が出てきた。

うん、わかんない。ホントにわかんない。

おかしいな?俺の耳が悪くなったのか?そうだそうに違いない間違いない。

だって本音ちゃんがそんなおかしな事言う筈なんざねえよ。

目の前で頬に手を当てて恥ずかしそうに、でも笑顔でイヤンイヤンとクネクネしてる本音ちゃんなんて見えない。

見えねえったら見えねえんだよブッ殺すぞ?

そ、そうだ、これは夢だそうに違いねえ、絶対に良いゆゲフンゲフンッ!!わ、悪い夢なんだ!!

あぁ焦ったぜ。一瞬自分が一夏並の馬鹿にクラスチェンジしちまったのかと思っ……。

 

 

 

『2組も専用機持ちがクラス代表になったの。油断してバカ面してると、優勝なんかできないからね』

 

 

 

ブチッッッッ!!

 

「誰がバカ面だゴルァッ!!ミンチにして梱包してスーパーの特売品に並べてやんぞヴォケェエッ!?」

 

『『『『『ひいぃっ!!??』』』』』

 

背中越しに聞こえてきたナイスタイミングな罵倒に、理不尽にブチ切れた俺はドスを滲ませた声で凄みつつ、後ろに振り返った。

おい誰だ今俺をパーフェクトなタイミングで馬鹿にした奴ぁ!?良い度胸してんじゃねぇかよアァン!?

 

 

 

「ひぃっちょ!?ちょっと待ってゲン!!アンタ中学の時より迫力有り過ぎるわよ!?わ、私が悪かったからその顔止めてホントゴメンなさい調子ブッこいてすいませんでしたぁあ!?」

 

 

 

…………は?

俺を馬鹿にしたアホンダラに、俺は悪魔ですら目を背けたくなるレベルの面構えで振り返ったんだが……目の前で震えてる女子は、些か見覚えがあった。

とゆうか見覚えがありすぎてマヌケな顔と共に怒りが霧散していく。

教室の出入り口にもたれ掛って不適な笑みを見せていた女子は、俺の怒声にビビッたのか、俺を見ながらブルブルと震えている。

背丈はかなり低く、出ていなきゃいけねえ筈の女性の象徴すら淋しい。

だが、そのスレンダー?な体つきにツインテールの髪型と鈴の髪飾りはとても良く似合っており、勝気な吊り目が自由奔放な猫を想像させる。

ってコイツは!?

 

「り、鈴……お前、鈴なのか!?」

 

呆然とする俺の傍に居た一夏が、件の女子生徒を指差して驚愕の声を上げる。

その声に反応して、女子生徒はコホンと咳払いをしながら、またもや薄い胸を自慢げに張って勝気な表情をする。

あぁ間違いねぇ!!この勝気な目!!静粛なんて言葉が見当たらない元気活発女は……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうよ!!!中国代表候補生、凰鈴音(ファン・リンイン)。今日は宣戦布告に来たってわけ……だからゲン、あんまり怒らないでくれると嬉しいんだけど……」

 

 

 

 

 

俺と一夏の中学時代の幼馴染みにして一夏に恋する乙女の1人、凰鈴音だった。

……っていうか一夏、お前ホントーにギャルゲーの主人公じゃね?

また今日から一夏の周りが騒がしくなるのは確定だな。

……それに巻き込まれて俺の周りも騒がしくなるんだろうけど。

 

 

 

 

 

「それでねそれでね?これからゲンチ~を呼ぶ時はぁ……『ご・主・人・様・♡』の方がいいかなぁ~?でへへ~~♡」

 

とりあえず本音ちゃん、お願いだからコッチ(現世)に戻って来て下さい。


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