IS~ワンサマーの親友   作:piguzam]

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現れた幼馴染みと激化する我が日常

 

 

 

「り――鈴、お前だったのか!?2組の転校生って!?」

 

俺達の目の前で腕組みしながら踏ん反り返ってるツインテールの小柄な少女――鳳鈴音に、一夏は目を見開いて驚く。

その一夏の驚く様を見て、件の少女……俺達の間では鈴という愛称で親しまれている少女は、その勝気な目を嬉しそうに吊り上げていた。

かくいう俺も、思わぬダチの登場に驚きを隠せねえがな。

 

 

 

この鈴は、小学校の時に箒と入れ違いで転校して来たんだが、最初は慣れない日本語に頑張ってる様で片言な話し方をする奴だった。

しかしまぁそれが小学生ってガキの集まり、しかも違う国の人間となりゃあ、イジメのターゲットに上がるのは明白だった。

直ぐに苛めっ子グループに目を付けられた鈴は、いつもパンダだとか言われたり持ち物を隠されたりというイジメをされてたっけ。

しかし、鈴はその見た目通り、滅茶苦茶に気が強え。

だから直ぐに苛めっ子達と反発してしまい、イジメは益々苛烈な方向に向かっちまったんだ。

でも、当時から周りより背丈もガタイも良かった俺がクラスに居たって事もあって、苛めっ子達は俺が見えない所で鈴を苛めてやがった。

昔から苛めとかそーゆうのが大っ嫌いだった俺は、良くそんな現場に入っては苛めてたヤツをブン殴ってたので、苛めっ子達は俺を警戒してそんな事をする様になってた。

しかし、たまたま一夏が忘れ物をしたので一緒に教室に戻れば、そこには上の服を少しだけ破かれて泣きっ面だった鈴と笑ってる苛めっ子達が10人近く。

その光景を見て何が起こったか瞬時に理解した一夏が弾丸の如く飛び込んで、鈴の近くに居た苛めっ子を殴り飛ばした。

「男が女を囲って苛めてんじゃねぇえッ!!」って、あん時の啖呵はカッコ良かったぜホント。

そのままやられっぱなしで納まらねえ苛めっ子達は一夏に殴りかかろうとしたが、一夏の後ろで良い笑顔を浮かべて拳を握る俺を見て青ざめる。

後は俺と一夏の一方的なデストロイが残るだけだった。

まぁ要約すりゃその時の一夏の雄姿に鈴が惚れたってダケなんだがな。

 

 

 

「そ、更に昨日づけで2組のクラス代表になったってワケ。……ところでさぁ……」

 

と、俺が目の前に居る幼馴染みのプロフィールを思い出していると、一夏の驚愕した声に返事を返した鈴が恐る恐るといった感じで話題を変えてきた。

しかも鈴の視線は何故か俺に向いてるし。

 

「えっと、1組のクラス代表って……やっぱり……ゲン?」

 

そして、何やら自分の言葉がそうでないで欲しいと言わんばかりの表情で、鈴は俺を見ながら尋ねてきた。

何だ何だ?もしかしてココのクラス代表知らないで宣戦布告にきたのかよ?相変わらず無鉄砲というか無計画というか……変わってねぇな。

約1年ぶりになるが昔とあんま変わってない幼馴染みの行動に、俺は苦笑いを浮かべて口を開いた。

 

「いや、ウチ等の代表は一夏だぜ?」

 

「――――よっしゃあッ!!!コレで勝つるッ!!!」

 

「いや、大袈裟過ぎるから落ち着けって鈴。何かキャラもブレてるから」

 

しかし、俺の答えを聞いた瞬間、鈴は大きくガッツポーズを取って叫び声を挙げるではないか。

その女がやるにはあんまりなリアクションに一夏が抗議するが、その抗議を聞いた鈴は目をマジにさせて一夏と視線を合わせた。

 

「何言ってんのよ一夏ッ!!!大袈裟なワケ無いでしょーが!!!ゲンと戦うなんて冗談じゃ無いっての!!!アタシなんか1発でザクロよ!?色々パーンって飛び散っちゃうのよ!?」

 

「いや、それは……間違い無えな。人が生身で戦うには無謀が過ぎるってヤツだぜ」

 

「当たり前よ!!ゲンに喧嘩売るぐらいならまだ他の国の代表候補生纏めて10人に喧嘩売る方が百倍マシだわ!!」

 

「オーケー。テメー等が普段から俺の事どんな風に認識してるかよーく分かったぜ……ちと俺らの親睦と相互理解を深め直すとしようや、表出ろ♪」

 

「「勘弁して下さい!!?」」

 

俺の素敵すぎるスマイルで放った言葉は、何故か誠心誠意90度の謝罪で返された。解せん。

見ればクラスの連中の殆どが怯えてらっしゃるではないか。何故だ?

オルコットなんか特に怯えていて、顔を青くしたまま「ザクロ……飛び散るわたくし」とか呟いてるし。

まぁ俺の拳でザクロとか言われたらクラス代表を決める日にキレた俺の拳を浴びたらってビジョンが浮かび上がるんだろう。

例外は俺を見て顔を真っ赤にしながらブンと風を切る音と共に目を背けた夜竹。

そして何故か俺を見ながらイヤンイヤンと体を左右にくねらせる我が癒しの女神(ちょっと壊れ気味)、本音ちゃんの2人だけだ。

おかしい、まだSHR前だってーのに教室のカオス度が上がってねえか?

 

「ったく……しかしまぁ、久しぶりじゃねぇか鈴。一夏もそうだが、俺もビックリしたぜ。まさか話題の転校生がオメエとはなぁ……元気だったかよ?」

 

周りを見渡し終えてから、目の前で頭を下げてる鈴にそう声を掛けると、鈴は顔を起こして嬉しそうな笑顔を見せてくれた。

 

「当ったり前じゃない!!元気も元気よ!!アンタも元気そう……っていうか、何かトンデモなくデカクなってない?身長とか、筋肉とか威圧感とかその他諸々……」

 

しかし、俺の体を見渡した鈴は、その嬉しそうな顔を少しだけ引き攣らせてそう聞いてくる。

まぁ確かに中学の頃と比べたら大分デカクなってる自覚はある。

しかも中学を卒業してから受けた冴島さんの修行のお陰で更にUPUPしてるしな。

俺はそんな事を思い出しながら、目の前で顔を引き攣らせてる鈴に肩を竦めて口を開いた。

 

「まぁ、あれからもっと鍛えてきたからな。ってかよぉ、それを言うならそう言う鈴こそ……ん?」

 

俺はそこで言葉を切って鈴の体に視線を送ったんだが……あれ?

少しおかしな所を見つけてしまったので、何やら笑顔で踏ん反り返ってる鈴に言葉を返すのを少し戸惑ってしまう。

えぇっと……い、言わなきゃ駄目だよな、コレ?ちょっと残酷かも知れんが……仕方ねえ。

 

「ふふーん♪どうよ?アタシも結構背が伸び――」

 

「えと、その――――何か縮んでねぇかオメエ?昔より身長低くなってる気が――」

 

「縮んどるかぁああああッ!?逆だ逆!!アンタが馬鹿みたいにデッカクなり過ぎてんのよこのマッチョ馬鹿ぁああッ!!(ドグシャアッ!!)」

 

『『『『『シャイニングウィザードッ!?しかも顎にモロッ!?』』』』』

 

しかし、俺の指摘はどうやら鈴の琴線に触れてしまったらしく、鈴は果敢に叫び声を挙げながら俺に飛び膝蹴りをカマしてきやがった。

おおう!?何時の間にそんなアクロバティックな技を覚えた!?昔より遥かに威力が増してやがる!?

本場中国仕込み……かは分からねえが、ともかく鈴は昔より遥かに冴え渡った蹴りを俺の顎にお見舞いしてからシュタッと華麗に着地を決めた。

ただまぁ息がゼーハーと上がってるのはマイナス点だけどな?

 

「へー。昔より蹴りの威力が随分と冴えてるじゃねぇか?オメエも中国で鍛えてたみてーだな?」

 

「そう思うなら少しはグラつくとかしなさいよ!!何で微動だにしないワケ!?っていうか蹴ったアタシの足の方が尋常じゃない痛みが来てるんですけどぉおおッ!?」

 

「鈴……ゲンに挑むなんて無茶にも程があるって……」

 

思いもよらなかったダチの格闘術の進歩に、俺は嬉しさから笑顔を浮かべて鈴を褒めたが、鈴は一頻り俺に喚き散らした後で俺の顎を蹴った膝を擦りながら蹲ってしまう。

そんな自爆した鈴を、横で事態を見守っていた一夏が呆れた表情でやんわりと注意していた。

まったくよぉ……こうしてっと何か昔に戻ったみてえだぜ。

俺が一夏にボケて、一夏が突っ込んで弾がまたボケて鈴が俺と弾に突っ込みを入れる。

そんで何時も俺に突っ込みを入れては足の痛みを訴えてくる……懐かしいな。

目の前で昔のノリを披露してくれた鈴と久しぶりに親睦を深めたい気持ちはあるが、どうやらソレはもう少し先にお預けになりそうだ。

 

「まぁ鈴、そろそろSHRの予鈴が鳴っからよ。担任の先生に怒られる前に帰んな。久しぶりに親睦を深めんのは昼休みにでもしようや?」

 

「い、痛たた……な、何優等生ぶってんのよ?SHRっていうか教師が怖くて代表候補生なんてやってられ――」

 

「1組の担任は千冬さんだが?」

 

「また昼休みに来るからね!!逃げるんじゃないわよ!!特に一夏!!」

 

「何で俺!?この流れは普通ゲンだろうオイィィィイイ!?」

 

「おーおー、逃げ足の速さも俊敏になってんじゃねえか?さすが猫っぽい奴だぜ」

 

このクラスの担任が千冬さんだと聞いた瞬間、鈴は足の痛みも何のそのってな具合にピューッと教室から退散していった。

アイツ未だに千冬さんの事が怖いんだな……猫っぽいアイツの本能なのかねぇ?

何故か去り際に俺ではなく一夏を指名して逃げていく辺り、どれだけ一夏と会えるのかを楽しみにしてたかが伺える。

まぁ別れ際も結構泣きそうになってたしな、久しぶりに惚れた男に会えるってのがスゲエ嬉しいんだろうよ。

そんな寂しがり屋な幼馴染に久しぶりに会った懐かしさから笑みを浮かべるが、俺も千冬さんと真耶ちゃんが来る前に席に着く為に戻ろうとしたら……。

 

『……山田君。早く教室に入るんだ。生徒が待っているのに、これではSHRが始められんぞ?』

 

『お、織斑先生がお先にどうぞ!?わ、わわ私は副担任ですし、ヤッパリ担任の先生が先に入るべきで……』

 

『なに、これも山田先生が早く担任の勤めに慣れる様にという私の先輩心だ。さ、遠慮は要らんから入れ』

 

『ズ、ズルイですよぉ!?そう言って先輩が入りたくないだけじゃないですかぁ!?私だって元次さんに会うのがどれだけ恥ずかしいか……』

 

何やら扉の向こうから途切れ途切れに聞こえてくるヒソヒソ話しが、机に向かおうとした俺の足を停止させた。

何だ?このヒソヒソ話は?……というか、さっきから話しの端々に俺の名前が聞こえてくるんだが?

 

『わ、私はそんな事は全くもってないぞ?ただ山田先生が先に入らないと、今日の私の運勢は最悪なのでな。今朝そうやって占いに出ていた』

 

『何でそんなピンポイントな事を占いで言ってるんですかぁあ!?っていうか先輩って占いなんか見ないじゃないですか!?いっつも迷信だって言って信じない癖に、都合が良すぎですぅう!!』

 

振り向いた俺の視界、それは教室の入り口辺りから聞こえてくる声の方向に向いていた。

教室の扉は、さっき鈴が開けっ放しで出て行ったまま誰も閉めなかったので開きっぱなしで、声はそのすぐ近くから聞こえている。

その声の言い争い?の様な言葉の応酬に、クラスメイトも俺と同じように入り口に視線を向けていた。

つっても、声がくぐもっててあんまり聞こえねえから何を言い合ってるのかが判別出来ない。

その時間を気にしていない勇者的なやりとりに、傍に居た一夏も眉を訝しく曲げていた。

 

「……何か、おかしくねぇか?もうすぐSHRだし、千冬姉が来る前に入るよう言っといた方が良いかも」

 

「そうだな。とりあえず俺が注意してくるとすっか。一夏は先に座ってろよ」

 

「わ、分かった」

 

とりあえずSHRの予鈴は鳴ってしまったので、俺は一夏に声を掛けてから教室の入口に歩を進めた。

まぁさすがにコレで千冬さんに怒られるのが自業自得にしても、コッチから一度くらい注意しといてやるべきだろう。

何にもしないまま見捨てたりしたら、それこそ後味が悪くなるしな。

 

 

 

――――そんな事を考えつつ、教室の入口近くまで歩を進めたら。

 

 

 

『えぇい仕方無い……許せ、真耶』

 

「ちょ!?せんぱ(ドンッ!!)キャアッ!?」

 

「うぉお!?な、何だぁ!?」

 

「(ぼふっ!!)あう!?」

 

教室の入口から、真耶ちゃんが俺の胸に飛び込んできた――え?何これ?

余りにも行き成り起こった出来事に目を白黒させながらも、俺は咄嗟に飛んでくる真耶ちゃんを受け止めてしまった。

何やら受け止めた際に、俺の胸元にゴージャスにやわらかーな物体のもにゅんもにゅんとした感触が跳ね回っております。

おぅふ、何て筆舌に尽くしがたい柔らかさ!?しかも2つもあるとは!?ええい、真耶ちゃんは化け物か!?

朝っぱらから健全な青少年には毒過ぎる感触だぜ!!

胸元に感じる真耶ちゃんの双丘のデカさに戦慄していると、真耶ちゃんは呻き声を挙げながら身動いた。

 

「あいたたた……突き飛ばすなんて酷いですよぉう、先輩……?…………え?」

 

そして身動いだ真耶ちゃんは、恐らく突き飛ばしたであろう人物に抗議の声を挙げながら目を開くが、自分の格好を認識した瞬間止まってしまったではないか。

多分真耶ちゃんの言ってる先輩ってのは千冬さんなんだろうと思う。

そうじゃねえとこの時間に他のクラスの担任の先生とあんなやりとりはしねえだろうし、やったら千冬さんに怒られる筈だ。

と、この状況について行けてない脳みそが冷静に別の事を考えるが、それで別に状況が変わるなんて事は無い。

要はただの現実逃避でござい(笑)って笑えるか!?

胸元に感じる真耶ちゃんのおっぱいの感触がどうしても俺の、いや男の眠れる本性を剥き出しにしようと刺激してきやがる。

オマケとばかりに、現状を全く理解出来ていないであろう真耶ちゃんのあどけないポケッとした顔が、そんな邪な事を考えてる俺の背徳感をソソらせるのです。

 

「え……えっと……お、お早う真耶ちゃん」

 

とりあえず朝の挨拶を言うべきだと思ったので、何時に無く柔らかい笑顔を浮かべて優しい声で胸元の真耶ちゃんに挨拶をした。

しかし、真耶ちゃんは俺の声を聞いても返事は返してくれず、不意に周りをキョロキョロと見渡してから、再び俺を上目遣いに見てくる。

 

「…………ぁ」

 

「ま、真耶ちゃん?どうしたん――」

 

そして、真耶ちゃんの行動の意図が分からなかった俺の問いかけが届く寸前―――。

 

「~~~~~~~~~~~ッ!?(ボボボンッ!!)……はふっ(くてん)」

 

「へ?……ってちょ!?真耶ちゃーーーーーーん!?」

 

凄い音を出しながら、爆発した――って何でぇえええ!!?

何故か俺の胸元で顔を沸騰したヤカン並に赤くしたかと思えば、真耶ちゃんはそのまま目を回して気絶してしまった。

体から力が抜けて倒れそうになる真耶ちゃんを慌てて支えながら、俺は真耶ちゃんを少しだけ揺すって声を掛ける。

 

「真耶ちゃん!?真耶ちゃん!?しっかりしろよオイ!!(ユサユサ)」

 

くそう!!今の一瞬で一体何が起こった何が!?

た、確かに抱きとめられたのは恥ずかしかったかも知れねえが、別に気絶する程の事でもねぇだろーに!?

そう考えながら懸命に声を掛けるも、真耶ちゃんは全くもって再起動する気配が無い。

しかも天元突破したかの如き赤色に染まっている真耶ちゃんの両耳からは、モクモクとスモークが湧き上がる始末。

一体どんな構造してらっしゃるんでしょーか真耶ちゃんの身体は?ちと隅々まで調べてみたげふんげふん!!今のは幻聴だ!!

 

「はぁぅ……もう……ダメ……」

 

「いやいや駄目じゃなくてしっかりしてくれって真耶ちゃん!?ど、どうすれば……そ、そうだ!!?」

 

さっきから一向に復活する気配を見せない真耶ちゃんをどうしたもんかと悩んだ時、俺は扉の向こうに居るであろう千冬さんの存在を思いだした。

あの人ならこのワケ分からん症状を見せてる真耶ちゃんを治してくれる筈だ!!……宝具SYUSEKIBOで。

さすがにそれは可哀想かなと思ったんだが、この状況を打開するためには四の五の言ってられる状況じゃねえ。

スマン真耶ちゃん、後でほっぺが落ちる程に美味しいフルコースを御馳走すっからよ。

俺は断腸の思いで、気絶してしまった真耶ちゃんを優しく自分の席に座らせてから、呆然としてる一夏達を尻目に自動ドア目掛けて駆け寄った。

 

「(プシュン)ち、千冬さん!!大変っす!!」

 

「うぁあああッ!!?げ!?げげげげ元次!?う、ぁ…なぁ……ッ!?(真っ赤)」

 

何かコッチも大変なぐらいお顔が真っ赤になってるんですが!?皆さん事件です!!千冬さんが可愛すぎて生きるのが辛い!?

行き成り登場して大声で名前を呼ばれた事に驚いたのか、千冬さんは何時ものクールな表情をアワアワと慌てるモノにチェンジさせて、俺の事を目を見開いて見ていた。

何時もの出来る大人の女性を彷彿させる黒のスーツをバシッと着こなし、黒いストッキングにその足を包んだ千冬さんの慌てふためく姿なぞ、普通は考えられないぐらいにレアだ。

……そのちょっと隙が出来た姿に、少しばかりキュンとキタのは内緒です。

 

「ま、真耶ちゃんが大変なんす!!ちょっと来て下さ――」

 

しかしそのまま千冬さんが落ち着くのを待ってられなかった俺は、慌てふためく千冬さんに声を掛けた。

とりあえず現状が理解して貰えやすくなる様に教室の中を見てもらった方が速いと思って、千冬さんの細い手を握って中に―――。

 

「(ギュッ)ひぅ!?わ―――わぁああああああッ!?(バッ!!)」

 

入ろうとしたら、千冬さんは更に顔を真っ赤にして普段なら絶対に出さないであろう悲鳴に近い声音で叫びながら―――。

 

 

 

キーーーー―ン☆

 

 

 

()の勲章を、思いっ切りKICK UP!!(蹴り上げ)なされますた。

この時、俺の身体が少しだけフワッと浮き上がったのは、多分勘違いじゃねぇだろう。

丸々と大きな林檎が、生っていた木の枝からポロッと落ちたビジョンが脳裏に過ぎったのも間違いじゃない筈。

そしてそのまま、俺が千冬さんに何をされたのかを頭で理解する前に――。

 

「――――ぱぉおおおおおおおおおおんッ!?」

 

蹴られた箇所から奔る激痛で理解した俺は、妙ちくりんな奇声を上げて、両手で大事な部分を抑えながら蹲った。

痛でででででででででッ!!?つ、潰れたわいなーーーッ!!?

下腹部を襲う今までに体験した事の無い激痛から、俺は大事な所を抑えて頭を地面に擦り付けた情けない体勢を披露してしまう。

い、いくら身体を鍛えてもココは鍛えられねぇんだよぉおおッ!!?っていうか何で蹴られたんだよ今ぁあああ!?

 

「ぎ、ぎぐががががが……ッ!?な、何て事すんスか千冬さぁん……ッ!?お、俺の寅次郎が瀕死の重症にぃぃ……ッ!?」

 

俺は歯を食い縛った口から唸り声を上げて頭上に居るであろう千冬さんに抗議の声を飛ばす。

マジで気を失った方がマシだってこの痛みは。あっダメだ、涙出そう。

 

「う、うぁ……ッ!?う、ううううるさい黙れッ!?い、いきなりお前が、て、手を握ってくるからッ!?」

 

(グ、グニュって!?今足先にグニュっとしたデカイナニカがッ!?)

 

「だ、だからって……俺の宝モン蹴り飛ばす事はねえでしょうぅぅ……ッ!?」

 

しかし俺の震えた声で飛ばした抗議は受け入れてもらえず、返ってきたのは俺が悪いという辛酸なお返事だった。

だがこの仕打ちはあんまりだと言おうと、少々内股の体勢で土下座の様になってる俺は、その体勢から頭だけを起こして千冬さんに視線を合わせようとし――――。

 

 

 

「――――あ」

 

 

 

床に這いつくばった姿勢から顔を起こした俺が見たのは、半透明な黒いストッキングに包まれたパステルピンクのフリル付き逆三角形、そして――――。

 

「……?……ッ!?(バッ!!)――~~~~~~~~~~~~~~~ッ!?」

 

カァアアッ!!!

 

俺にスカートの中身を見られたと気付いて、スカートを抑えながら目尻に大粒の涙を溜めた、真っ赤に萌えた千冬さんのお顔だった。

口元なんか声を出さないようにか、キュッと下唇を持ち上げた形でプルプルと震えてるじゃないですか。

そんな絶対に見れないであろう恥じらいと萌えを含んだ体勢と表情、そしてウルルと涙が零れそうな弱々しい瞳で、俺を見つめる千冬さん。

ヤバイ、千冬さんの泣きそうな顔とか恥ずかしそうにスカート抑える仕草とか滅茶苦茶可愛い過ぎなんですけ――。

 

「な、なあぁ……ッ!?(ウルウル)――――忘れろぉおおッ!!バカーーーーーーーーーーーーーーッ!!」

 

ドグシャァアアッ!!

 

「ぼぶちゅあんッ!?」

 

羞恥心が亜高速の速さでブチ切れた千冬さんの、スカートを抑えた体勢のままに繰り出された踏みつけで、俺は床と熱いベーゼをカマした。

っていうか最後の「バカーーッ!!」って……馬鹿者の”者”って字が抜けただけで可愛く感じた俺は病気なんだろうか?

朝っぱらから下腹部に伝わる激痛とクール系美人お姉さまから、何か可愛い生き物系にジョブチェンした千冬さんを思考にこびりつかせて、俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「あぁ~……頭痛え……オマケに顔とか色んな所が盛大に悲鳴を上げてやがるっての……」

 

時間は跳びに跳んで昼休みなう。

現在俺は一夏達と昼食を取る為に食堂へと歩いてる最中なんだが、千冬さんから頂いたダメージが半端無さすぎて体中が軋む様に痛い。

あの後、俺は教室の床と廊下の間に倒れた格好のまま放置されていたらしく、ついさっき目を覚ましたばかりだ。

俺が起きた時には既に千冬さんと真耶ちゃんは消えていてそのまま一夏達に引っ張られる形で食堂に向かう事になり、今に至る。

 

「ゲン、あれはお前の自業自得だ。さすがにアレは弁護出来んし、するつもりも無い」

 

「箒さんの言う通りですわ。ましてやご自分が何をやったのか忘れていらっしゃるなんて……命があっただけ幸運と思って下さいな」

 

「最悪俺の命はチョン切られてたってか?マジに何やらかしたんだよ昨日の俺はぁ……一夏」

 

しかし俺の身体の深刻なダメージを訴える呟きも、箒とオルコットの2人に冷たく駄目出しされて終わる始末。

この2人も千冬さんがああなった事情は知ってるらしいが、どうにも俺のやった所業が気に入らないらしく……とゆうか俺が覚えて無いのが気に入らないそうだ。

取り付く島も無い2人は教えてくれねえだろうと判断し、俺は隣を歩く一夏に声を掛けたが……。

 

「千冬姉に口止めされてるから言わねえぞ……もし俺が喋ったのがバレたら、今度は俺が同じ目に遭わされちまう」

 

俺の滅多に言わないであろう懇願する様な声も、事前に脅されているらしい一夏は顔を青くして俺の要求を突っぱねてしまう。

まぁ確かにあの惨状を見てた、しかも男である身としてはあんな拷問レベルの苦行は受けたくねえよなぁ。

 

「そ、その……げ、元気出して?元次君(は、恥ずかしいけど、昨日の事を覚えてないのは良かった様な……良くなかった様な……複雑だよぉ)」

 

「……おう、サンキューな、夜竹」

 

「はぅ……ど、どういたしまして」

 

そして、今回も同じ様に弁当持参で一緒に食堂に向かってる夜竹に励ましの言葉を頂き、俺は笑顔で夜竹に礼を述べる。

何故か俺と一定の距離を保った状態を維持したまま着いて来るんだが……そういや朝のアレも、もしかせんでも俺が何かしたからって事か。

その証拠に、夜竹は俺と目を合わせるのを恥ずかしそうにしてるし、ほっぺたは真っ赤に染まった状態から全く変わらないでいる。

ホント何やらかした昨日の俺ぇ……ちなみに本音ちゃんは何やら所用があるらしく、今日は一緒に食べれないと悲しそうな顔で俺に告げてきたっけ。

ぽてぽてと、やたら遅い足取りで教室の扉に向かった本音ちゃんはようやく入り口に到達したと思ったら―――。

 

『……夜ごはんは、一緒に食べよぉね~~♪(ヘロヘロ~)』

 

出て行く前に、もう一度こちらを振り返り赤みの挿したほにゃっとスマイルでヘロヘロ~っと手を振る姿に、俺の胸中が吹き飛ぶ程の衝撃が走ったぜ。

ば、馬鹿な!?一体本音ちゃんてば、どこまで男心を擽る萌えのポイントをおさえているんだよ!?

何せあの鈍感王と呼ばれた一夏ですら、本音ちゃんのその仕草に頬を赤くしてたし。

まぁその後で箒とオルコットに背中の肉を5分ほど抓られちまってたけどな。

他にも数名俺達の後をぞろぞろとついてくる為、現在俺達の後ろはちょっとした行進になっている。

流石は一夏ってな……望む望まず選ばず、女の子が寄って来るな。

そして遂に食堂についた俺達は――――。

 

「待ってたわよ一夏!!後ゲン!!」

 

受け取り口付近で既に注文した鈴が、俺達の前にドンと仁王立ちして立ち塞がる事で進路を塞がれてしまった。

っていうかそこに陣取っちゃ駄目だろうに?しかも俺は一夏のついでかよ。

 

「コラコラ鈴、テメエが其処に居ちゃ食券買えねえだろーが?人様の通行邪魔してねえでどきやがれっての」

 

俺は1年振りに会う幼馴染み第2号の行動に苦笑しながらも、其処に居たら他の人の邪魔になる事を注意する。

現に他の女の子達も鈴がド真ん中に居て通り辛そうにしてたしな。

 

「うっ、わ、わかってるわよ。っていうかアンタ達を待ってたんだからね?もっと早く来なさいよ」

 

「ん?なら1組に来てくれりゃ良かったじゃねえか?先に待ってるなんてせずにさ」

 

「アタシは先に行きたい気分だったの!!」

 

鈴の言葉に一夏は疑問顔で問い掛けるが、それは鈴の傍若無人な返答で返される形となった。

まぁ鈴のそういった理不尽な切り返しはこれが初めてってワケじゃねえので、俺も一夏も顔を見合わせて苦笑するだけで終わる。

っていうか俺の予想じゃ、1年振りに一夏と話しをするのが待ちきれなくて1人でサッサと来ちまったんじゃねえかと思う。

良くも悪くも、俺等のダチである鳳鈴音ってヤツは昔っから超直情型だからな。

 

「わーったわーったって、とりあえずここで騒いでねーで先に席確保して座っとけや。オメエのラーメンも伸び切っちまうだろ?」

 

とにかく、このままじゃ何時まで経っても飯が食えねえので、俺は一夏から視線をズラして少しばかりむくれてる鈴の手元を見ながら言葉を掛けた。

鈴が持ってるトレーには、熱々の湯気を放つラーメンが乗っていて、早く食べないと麺がスープを吸って伸び切ってしまうだろう。

さすがにいつまでもそんなモン持って歩いてちゃ、誰かとぶつかったりした時に大惨事になる。

 

「仕方無いわねぇ……じゃあ先に席とっとくから、早く来なさいよ?」

 

「あいあい、夜竹も鈴に着いてって一緒に席で待っといてくれ。俺等も食事貰ったらソッチ行くからよ」

 

「う、うん。じゃあ、先に行ってるね?」

 

更に俺の3歩後ろで事の成り行きを見守っていた夜竹に声を掛けて、俺等食券組の席の確保をお願いする。

夜竹は俺のお願いをまだ赤みの抜け切っていない顔で了承してくれると、そのまま鈴と一緒に生徒の波に消えていった。

さあて、あいつ等を待たせるのも悪いし、サッサと飯を決めますかね。

 

「……ゲン、少し良いか?」

 

「ん?何だよ?」

 

と、俺が食券販売機の列に並んで何にするか決めていると、俺の後ろに並んでいた箒が難しそうな顔で声を掛けてきた。

しかも俺達4人ぐらい間を挟んで並んでる一夏に聞こえない様にか、少し小声でだ。

良く見れば、その後ろに居るオルコットも何か聞きたそうな顔で俺を見てる。

 

「彼女……リンと言ったか?彼女はお前と一夏の知り合いなのか?随分、親しそうに話していたが……」

 

「わ、わたくしも箒さんと同じでそれが聞きたかったのですが……」

 

箒の質問に便乗して、オルコットも少し身を乗り出して聞いてくる。

あぁ成る程?要は自分たち以外に一夏と親しく話してる鈴の登場に気が気じゃねえって事か。

全く、こいつ等もかなり必死っていうか……相変わらず一夏の周りは賑やかなこったぜ。

 

「まぁそれも含めて後で話すからよ。今は何を食うか選ばせてくれ」

 

「むぅ……まぁ、後でしっかりと話してくれるなら、それで構わんが……」

 

「しっかりとお話して下さいね?」

 

「分かったって。ったく、必死なのは結構だが時と場合を考えろっての」

 

しかし残念な事に、俺の中の優先順位が今は食欲の方が勝ってるのさマイフレン。

そのまま俺は苦笑を浮かべつつ2人から視線を逸らし、選んだ食券を買って受け渡し口のマダムに魔法の言葉を囁いてから受け取り口に並んだ。

俺に続いて箒、セシリア、一夏も食券を買い終えて並びだす。

一夏は日替わり定食、箒はキツネうどん、オルコットはカルボナーラとサラダのセットと、バラエティ豊かな物だ。

ちなみに俺は、ハンバーガーを3つ(和風カツ、ダブルチーズ、フィレサンド)とナゲット、コーラにした。

ふっふっふ。冬休みとか夏休みに爺ちゃんの会社のバイトで貯蓄した金に、婆ちゃんとお袋の仕送りのお陰でかなり裕福なんです、俺の財布事情♪

まぁそんな感じで思い思いの食事を手にし、鈴と夜竹が確保してくれた窓際の席に向かったんだが――――。

 

『……そうなんだ……やっぱり、元次君って中学でもその……凄かったの?鳳さん』

 

『あーうん。ほら、アイツって歌とか半端無く上手いし、ルックスは悪くないっていうかワイルド系で良い方だし、喧嘩なんか滅茶苦茶強い上に料理もプロ級じゃん?それに喧嘩の理由っていうのが、大抵は困ってたりイジメられてる人の為にするからさ……一夏程じゃないにしても、ね?それと、アタシの事は鈴で良いわよ?』

 

『あっ、それじゃあ私もさゆかって呼んで欲しいな。……うぅ、IS学園でも本音ちゃんとか、山田先生とか織斑先生が本気だから、もしかして他にもって思ってたけど……』

 

『うわっ嘘?千冬さんはそうじゃないかって薄々思ってたけど、まさか他の先生までとは……一夏の事言えないっての。アイツも』

 

『兄弟だって二人共言ってるし、やっぱりそういう所は似てるんだね……ハァ、ライバル多いなぁ』

 

『ホント、似なくていい所が似ちゃってるんだもん。あの2人は……まぁ、お互い苦労してるけど、頑張ろ』

 

『そうだね……鈴さんも頑張って。応援してるから』

 

『ありがと、さゆか。っていうかアタシにさんは要らないわよ。呼ばれ慣れてないし、何かムズムズするからさ』

 

ソコには、何やらお互いにどんよりとした空気を纏ってたり、楽しそうに笑い合ってる夜竹と鈴の姿があった。

何だ?鈴は人懐っこい所があるから打ち解けるまでそう時間はかからねえと踏んでたが……随分と打ち解け過ぎじゃね?

予想よりも随分速い段階で打ち解けた2人の姿に、俺はおろか一夏までもが驚いている。

 

「あっ。アンタ達こっちよ!!サッサと来なさいって!!……ほら、さゆかも!!」

 

「ふえ!?え、えと……その……げ、元次君!!よ、よよ、良かったら!!…………ぁの……ッ!!と、隣!!どうぞ!?」

 

しかし驚いてるのも束の間、俺達に気付いた鈴がちょいと大きめの声で俺達に声を掛けてくる。

更に鈴と1席間を開けて座っていた夜竹も顔を赤くさせてモジモジしながら、鈴と同じ様に大きめの声で着席を促してきた。

 

「へ?あ、おう。じゃあゲン。俺達も座ろうぜ」

 

「あ?あ、あぁ……じ、じゃあ夜竹?隣、お邪魔させてもらうわ」

 

「は、はははい!?ど、どうぞ!!」

 

とりあえずそうしていても仕方ねえと考えたのか、一夏の言葉に従って、俺も夜竹の隣に座る形を取った。

しかし俺が座ったのは良いんだが、何故か隣に座ってる夜竹はかなり恥ずかしそうに顔を赤くさせていて、少しこの場の空気が気恥ずかしく感じちまう。

駄目だ、夜竹って本音ちゃんとか真耶ちゃんとは違ってこう……落ち着いた美少女って印象があるから余計どうしたら良いかわかんねえよ。

ぐっ、夜竹がここまで恥ずかしがるとか……マジで何やらかした昨日の俺?まさかたぁ思うがエロい事したんじゃねーだろうな?その記憶が無いのが悔やまれる。

そんな変な空気というか空間を味わってる俺と夜竹を他所に、一夏はサッサと鈴の隣に座って飯を食べ始めてしまう。

箒とオルコットは俺達の対面側に座って、一夏と鈴の2人をジッと見つめていた。

鈴も鈴で、一夏と同じ様に周りを気にせず目の前に置かれていたラーメンを食べ始めてしまったではないか。

ええい仕方ない、気にしてても始まらねえし、ここは鈴と一夏を見習って早く食事にありつこう。

 

「「いただきます……えっ!?」」

 

だがしかし、神様ってのはマジに意地悪らしい。

事もあろうに俺がさっきから気になってる夜竹が、俺と同じタイミングで手を合わせて食事の挨拶をしてしまったのだ。

それに驚いて互いに視線を向けて、そこでハッとした表情で俺から視線を逸らす夜竹。

彼女の表情は長い黒髪に隠れて見難いが、耳の辺りは真っ赤に染まっていた。

もうどうしたらいいんでしょーか俺っちは?……とりあえず、目の前のバーガーを食べようそうしよう。

秘技・現実逃避を敢行しながら、俺は目の前に置かれた和風カツバーガーを片手で持って一口で平らげる。

ただし気恥ずかしさが勝っちまって味なんかまるでわかんねえけどな。

 

「しかし、本当に久しぶりだな鈴。いつ日本に帰って来たんだ? おばさん元気か? いつ代表候補生になったんだ?」

 

「質問ばっかしないでよ。アンタ達こそ、なにIS動かしてるのよ?ニュースで見た時びっくりしたじゃない。一夏が入試の時にISを動かしちゃったって出た時は、目が飛び出るかと思ったんだから」

 

と、俺がこの甘酸っぱ過ぎる空間からの逃避をカマしてる横で、一夏と鈴は和やかに話を再開していた。

ビックリした?それは動かしちまった俺も一緒だっての。

 

「まぁ、俺だってまさかISを動かしちまうとは思わなかったよ……でもまっそのお陰でゲンとも再会出来たし、こうして鈴とも会えたんだから良しとするさ」

 

「なっ!?な、何気取った事言っちゃってるのよバカ!?……っていうか、ゲンとも再会出来たってどう言う事?アンタ達ずっと一緒だったんじゃないの?」

 

一夏の女殺しスマイルを受けた鈴は少しだけ顔を赤くして一夏を睨んだ後、一夏の言葉の意味が分からなかったのか、俺に視線を向けてきた。

話題が俺に切り替わった事で、俺達のテーブルの視線と、俺等の両隣に配置されたテーブル席に座ってる興味津々なグループの視線が俺に集まってくる。

 

「あぁ。俺は中学の卒業を機に、爺ちゃんの住んでる兵庫県に引っ越したんだよ……爺ちゃんの会社を継ぐ修行も兼ねてな」

 

「ふぅ~ん?じゃあ、何でアンタ達2人がISを動かせるって分かったのよ?ニュースじゃその辺の話しは出てなかったけど、一緒に入試の会場に居たワケじゃ無いんでしょ?」

 

「それはなぁ……このバカタレの所為だ」

 

鈴の何気ない一言で、俺の中に燻っていた一夏への怒りが再燃焼し始めたので、その気持ちに従って一夏の頭を鷲掴む。

その動作に一夏は顔色を青くさせるが、それに気づいていない鈴は首を傾げて疑問顔で俺を見ている。

 

「コイツがISを動かしました。他にも探せば男でIS動かせる奴居るんじゃね?って事で行われた全国の適性検査で俺は見事合格。死ぬ気で勉強して受かった高校は入学式すら参加せずにドロップアウトさせられちまったんだよ」

 

ギリギリギリッ!!

 

「あだだだだだ!!?わ、悪かったって!?でも仕方無かったんだよ!?あの状況じゃ言い逃れなんて出来なかったんだぞ!?」

 

「ほぉ?一体どんな状況に陥ったら入試の受験会場でISを起動させちまったんだコラ?俺に分かる様説明プリーズ」

 

俺は笑顔で米神に青筋浮かべたまま一夏の頭をホールドしつつ、優しい声で一夏に問いかける。

まぁ本当にやむを得ずな状況だったなら許してやるか、俺ってば何て心の広い男なんだろう。

 

「あ、あぁ。実は…………」

 

そして、一夏は俺に頭を掴まれた状態のままISを起動させた経緯を話し始め、それに比例して俺の青筋も一本ずつ増えだした。

何とも馬鹿らしい話で、一夏は受験会場の多目的ホールの入り組んだ構造で迷子になってしまったらしい。

仕方なく彷徨い歩いたは良いものの、宛てもなく彷徨った挙句に辿り着いたのはIS学園の入試試験用に待機させられていたISの置かれた倉庫。

そしてこのアホは何を考えて生きてるのか、何の気無しにISに触れたら起動しちまって、更に起動した瞬間職員に見つかったって話しだ。

つまりそれを全部纏めて考えたなら――――。

 

「どう考えても純100%テメエの所為じゃねぇかボケッ!?弁明の余地が皆無過ぎんぞコラァッ!!(ギリギリギリッ!!!)」

 

「あだだだだだだだだだ!?か、かんべあだだだだぁ!?」

 

一夏は無罪?そんなワケねえよ。前提有罪とにかく有罪白黒ハッキリつけ断罪じゃあ!!!

もはや他の要素があったとしても覆り様がねえ一夏の罪に、俺は握力を更に増して一夏の頭を締め上げて、上向きに吊し上げていく。

何か一夏の頭からヤバイ音が鳴り響いてる気がせんでもないが止めるつもりはねえ。

 

「何だIS学園と藍越学園を間違ったってお馬鹿ハプニングはよ!?ギャグか?それとも韻を踏んだつもりかこの3流ラッパー!!ニアミスってレベルじゃねえぞ!?ボギーどころかOBモンだぞこのナチュラルボーンフラグメーカー野郎がぁああ!!(ギリギリギリッ!!!)」

 

「ギャピーーーーーッ!?」

 

「あーその……ゲ、ゲン?もうそろそろ止めてあげなさいって。一夏の頭取れちゃうから」

 

「……ちっ、仕方ねえな(ぽいっ)」

 

「(どすん)ぐぉぉおぉ……ッ!?あ、頭がオープンするかと思った……ッ!?」

 

暫くそうして俺をこの学園に放り込んだ元凶を折檻してたんだが、それは鈴の静止の声で終わりを迎えてしまう。

ちっ、まぁさすがに首が取れちゃコイツも終わっちまうか……とりあえずコレでチャラにしてやんよ。

俺が大きく溜息を吐きながら手を離してやると、一夏は身体をピクピクさせながら椅子にもたれ掛かってしまった。

とりあえず馬鹿はそのまま放置して、俺は眼の前に有るキングサイズのダブルチーズバーガーをムシャムシャと咀嚼していく。

全く持って、コイツのフラグ建築っぷりには呆れるぜ。

 

「それにしてもさぁ……アンタ一体どんな鍛え方したらそんな理不尽な強さになるワケ?まだアタシが居た時は、あの100キロ級の馬鹿女を5メートルぐらい空をブッ飛ばしながら、顎骨を粉末状にするのが精々だったじゃない?」

 

『『『『『それで精々ッ!?』』』』』

 

「今年の冬休みに熊とタイマンはったり、千冬さん級の強い人に師事してたらこうなったんだよ」

 

『『『『『熊ぁッ!?』』』』』

 

俺の何気なく答えた強さの秘密に、俺等の近場のテーブルに居た生徒の叫び声が響き、俺は堪らず耳を片手で塞いだ。

しかも叫んだのは他のテーブルの生徒達だけじゃなく、俺等の席に座ってる鈴や箒、オルコットも含めてだ。

夜竹なんかポカンと口を開けて箸を弁当箱の上に落としてるし。

 

「は!?ちょ!?ア、アンタ熊と殴り合ってたの!?素手で!!?」

 

「ってちょっと待て!?ち、千冬姉レベルの強い人だって!?そんな人いんのかよ!?」

 

俺の放った言葉が衝撃的過ぎたのか、鈴と一夏は即座に復活して目を見開いたまま俺に詰め寄ってくる。

しかし待て一夏、その台詞が千冬さんに聞かれたらお前一発であの世行き決定だぞ?

 

「あーもー質問を一遍にするんじゃねえよ……まずは鈴の質問からだが……(ごそごそ)……コイツとタイマンしたりしてたんだよ」

 

とりあえず俺が手をパーの形にして周りを押し留めると、生徒達は全員静かになってくれた。

その隙に、俺はケツのポケットからスマホを取り出してデータフォルダを開き、ヤマオロシと撮った写真を夜竹達に見える様に差し出す。

皆がこぞって覗き込んだ写真は、雪景色を背景にジャケットとカーゴパンツに身を包んだ俺と、仲良くなったヤマオロシが一緒に写ってる写真だ。

まぁヤマオロシが立ち上がってる所為で、俺はかなりちっちゃく見えるけどな。

 

「……ゲンがちっちゃく見えるんですけどー?」

 

「いやいやいやいやいや!?幾ら何でも対比率がおかしすぎるだろコレ!?熊ってレベルじゃねぇよこの大きさ!?」

 

「……良くこの巨大熊と立ち会う気になったなゲン……私なら、いや普通の人間なら絶対気絶してるぞ?」

 

「……(ぽかん)」

 

「し、しかし、こんなに大きい熊など、猟師の方々が放っておかないのではないのですか?人を襲う可能性もありますし……」

 

俺が見せた写真が余程衝撃的だったのか、見た生徒達はそれぞれ目を点にして硬直しちまった。

しかし俺と付き合いがそこそこある奴等(一夏や夜竹等)は、まだリアクションを返す余裕があるのか、各々この写真を見た感想を言ってる。

俺はそんなダチ連中に肩を竦めてコーラのジョッキを持ち上げた体勢で笑顔を見せた。

 

「ソイツの名前はヤマオロシって言ってな……体毛が硬すぎて、猟銃の弾丸じゃ傷すらつかねえモンスターさ。体長はゆうに6メートルはあるしよぉ……タイマン武器無しルールで倒すのは、中々骨が折れたぜ?」

 

「倒したのかよ!?しかも素手で!?お前もう人間止めてんじゃねえのか!?」

 

「失敬な。千冬さんならヤマオロシを指先1つでダウン出来るぞ。なんてったってあの人は俺より全然強えんだからな」

 

「やばい、俺なんか千冬姉がホントに人類なのか心配になってきた……」

 

だからお前今の台詞が千冬さんの耳に入ったら俺より恐ろしい目に遭うってのに……ある意味度胸の塊だよ。

目の前で肩を落としながら危険度MAXな台詞を呟く一夏のクソ度胸に戰きつつも、俺はそれを注意してやらない。

ちゃんとこーいう事も経験しとかねーと、コイツの為にならねーからな(巻き込まれ回避)

 

「(ゴクゴクゴクッ)……プハァ……まぁつまりだ。お前が千冬さんを守るってんなら、このヤマオロシぐれえは睨みで威圧出来る様にならなきゃいけねえって事だぜ?」

 

「先の長さに果てしない絶望感が漂ってきちまう……ッ!?」

 

ジョッキに波々と注がれたコーラを飲んで喉を潤した俺の言葉に、一夏は更に肩を落として項垂れてしまう。

まぁ俺の見立てじゃ向こう10年は無理な気もするが……頑張れ一夏。

ヤマオロシと戦いてぇんなら俺がアポ取っといてやるよ。

しかしコレで冴島さんの事話したらコイツ更に気落ちっつうかトドメになっちまう気が……今は止めておくか。

目の前で落ち込む兄弟分を眺めながら、俺は皿に盛られた衣サクサクのナゲットを口に放り込む。

 

「ま、まぁアレね。ゲンの強さの秘密が知れた事だし……それで一夏、アンタが一組のクラス代表なのよね?」

 

「え?ま、まぁ一応はな。けど、それがどうかs「「一夏(さん)!!(バァンッ!!)」」な、何だよ二人共?」

 

そして、俺の話しから一夏の話しに切り替わった瞬間、箒とオルコットが机を叩いて身を乗り出してきた。

2人の表情は何やら不満がアリアリと出ていて、その表情を見た一夏は顔を怪訝な表情に変えていく。

あ~らら、どうやら俺達が2人を蚊帳の外にして話し込んでたせいで我慢出来なくなっちまった様だな。

 

「一夏!!そろそろ彼女とはどういった関係か教えてくれないか?」

 

「そうですわ!!ま、まさかとは思いますが、ソチラの方とつ、つつ付き合ってらっしゃるの!?」

 

「にゃ゛!?べ、別にアタシ達はそんなんじゃゴニョゴニョ……」

 

オルコットの爆弾発言を聞いた鈴は猫の様な悲鳴をあげて、手に箸を持ったままワタワタと振り回しキョドり始めた。

顔もバッチリと赤くなってる上に、視線も何処を見たものかと色んな方向に彷徨ってる。

恐らくそうだったら嬉しいなって気持ちと事実じゃないから否定しなきゃいけない、でも否定したくないって気持ちがMIXされてんだろうな。

 

「何でそうなるんだよ?『只普通の』幼馴染みなだけ(ピッピッ)ってあっつ!? 熱ッ!?な、何でラーメンのスープ飛ばしてくるんだよ鈴!?」

 

「黙れ馬鹿!!熱々のスープと麺を鼻から直に流し込んでやろうかしら!?」

 

「理不尽過ぎるだろ!?」

 

駄菓子菓子!!そんな鈴の、いや乙女の甘酸っぱい気持ちに容赦なくトドメを刺す安定の一夏君。

うわぁ、1人で舞い上がってた鈴が隣に居るのに一切合切の躊躇無くブッタ斬るとか一夏君マジ女のエネミー。

 

「幼馴染み?……ど、どういう事だゲン!?」

 

そして、箒は一夏の説明じゃ判らなかった部分の補足を静かにバーガー食ってた俺に求めてきた。

まぁ鈴と会ったのは箒が転校しちまった後の事だからな。

箒が知らなくても無理はねえし、俺も前に会った時には鈴の事は教えて無かったっけ。

 

「オメエには話して無かったな……鈴はオメエが小4の終わりに転校した後、小5の始めに転校してきたんだ。そっからコイツが中国に帰る中2の終わり頃までツルんでた」

 

「そうそう、ちょうど箒とは入れ違いになったんだっけ……謂わば、箒がファースト幼馴染みで、鈴はセカンド幼馴染みってトコだな」

 

俺の説明に、さっきまで鈴からスープ攻撃を食らってた一夏が便乗して会話に入り込んできた。

っていうか何だよそのファーストとかセカンドって名称は?その内俺の知らないサード幼馴染みとか出てくるんじゃねえだろーな?

ある意味じゃ嫌な予想を立てていた俺だが、視界に収まっている箒はファースト=初めてと言われて嬉しそうにしてるし、鈴はそんな箒を観察する様な目で見ている。

 

「それと、ゲンはゼロ幼馴染だな。一番付き合いが長いし」

 

「お前ホント黙れ」

 

「痛て!?な、何で氷をぶつけてくんだよ!?」

 

あんまりにも得意げな顔で胸を張りながらバットタイミングな台詞をのたまう一夏に、ジョッキから氷を摘んで指で弾き飛ばす。

何だよゼロ幼馴染って?数にカウントしてんのかそれ?

始まりは1ではない、始まりは0だってか?やかましいわ。

見ろよファーストって呼ばれて喜んでた箒が肩落としてショゲてんじゃねえか。

鈴も何か嫉妬の目付きで俺を見てくるしよぉ。

額に氷を当てられた一夏はブツクサ文句を言いながら額を拭う。

 

「ったく、制服が濡れちまうじゃねぇか……んで、前に話したろ?篠ノ之箒。ウチの近くの神社の娘さんで、俺とゲンのファースト幼馴染みだ」

 

「ふぅーん?そうなんだ……初めまして……これからよろしくね?」

 

「あぁ……こちらこそ」

 

バチチッ!!!

 

表面上はニコやかな挨拶をしてる筈の鈴と箒だが、その裏ではヤーさんも真っ青なレベルで火花が飛び散ってる。

どうやら互いに一夏を巡る恋敵と認識した様だな……ドンだけ激化していくんだよ、一夏の周りの女達は?

 

「ン、ンン!!わたくしを忘れてもらっては困りますわ!!」

 

と、箒と鈴が火花を散らしながら裏で睨み合っていると、そこに乗り遅れまいとオルコットも乱入してきた。

だが、その声に意識を引き戻された鈴は、箒の時とは違って良く分からないって顔を見せる。

 

「えっと……誰?」

 

「なっ!?わたくしはイギリス代表候補生のセシリア・オルコットですわ!!知らないんですの!?」

 

「あ~、ゴメン。私他国の人とか全くもって眼中に無いから」

 

「っ!?……言ってくれますわね?」

 

「何なら戦ってみる?言っとくけどアタシ勝つよ?強いもん」

 

そして鈴のアウトオブ眼中発言に、オルコットは目尻を釣り上げて怒りを表現していた。

だがそんなオルコットの表情を見ても、鈴は依然として余裕……というか、馬鹿にする様な顔を崩さずにいる。

その所為で、俺達のテーブルの周りは険悪なムードが生まれ始めていた。

それは一夏も感じ取れたみてえだが、アイツは何でこの2人が争ってるか検討が付いてないんだろう、オロオロしてるだけだ。

ッチ……また鈴の悪い癖が出やがったか……っていうかその辺はまだ治ってないのかよ。

1年振りに再会した幼馴染みの悪癖とも言える部分を垣間見てしまった俺は、心中で溜息を吐きつつも、表情が段々と不機嫌なものに変貌してしまう。

鈴は見た目通りに向こうっ気がかなり強く、長い物には巻かれろ主義の正反対に位置する奴だ。

ただ悪いのは、その我が強すぎて周りと反発するし、それを自分で感じても自分が正しいという一本気を中々曲げようとしねえ所がある。

だから合う奴とはトコトン噛み合うが、合わない奴とはトコトン反発してしまう。

良くも悪くも、鈴は自分に素直で正直過ぎるんだよなぁ。

 

「あ、あの、その……ふ、二人共、少し落ち着こう?(オロオロ)」

 

「夜竹さん、これは代表候補生としての面子の問題なのです。こればかりは引けませんわ」

 

「ゴメンねーさゆか。私ってば強いから他の人からこういう喧嘩売られ易いのよ。まっ全員返り討ちにしてやったけど……アンタもその内の1人に加えてあげようか?」

 

「あまり戦う前から大口を叩き過ぎると、惨めに負けた後が大変ですわよ?」

 

「へー、それは知らなかったわ。経験者の忠告ってヤツ?」

 

「オ、オルコットさんも鈴も、もう止めようよ!?(ポロッ)あっ!?」

 

ヒートアップし過ぎてるオルコットと鈴を諌めようとした夜竹だったがオロオロと慌てていた所為で、自分の箸で掴んだままだった卵焼きをポロリと落としてしまった。

それはゆっくりとした速度で、夜竹の制服に落ちていき―――。

 

「おっと(ポトッ)危ねえ危ねえ」

 

「げ、元次君!?」

 

夜竹の制服に落っこちる寸前で、俺の手の上に落下地点を変えた。

とゆうか、卵焼きが落ちていくのに気付いた俺が夜竹の服に落ちる前に手を差し入れただけなんだが。

俺は驚く夜竹にニコリと笑い掛けてから視線を外し、さっきから売り言葉と買い言葉を続けてる馬鹿共に険しい顔を向ける。

 

「そんなに喧嘩がしてえんだったら今から俺と喧嘩してみるかよテメエ等?あぁ?」

 

「ハァッ!?ちょ、ちょっと待ってよゲン!?何でアンタが出しゃばるワケ!?アンタは関係無いんだからすっ込んでなさいよ!!」

 

「そ、そうですわ!!これはわたくし達、代表候補生同士の問題で……」

 

俺の怒りに染まった声を聞いた2人は肩を震わせて驚き、2人して必死な表情で俺に言葉を返してきた。

鈴は言わずもなが、俺が怒った時の怖さは付き合いの長さで判ってるだろうし、オルコットも忘れられてねえんだろうな。

 

「黙れや」

 

「「ッ!!?」」

 

だが、俺はそんな2人に怒りと威圧を篭めた声でもってプレッシャーを掛けて黙らせる。

全くよぉ……黙って見てりゃさっきから好き勝手し過ぎなんだよテメエ等。

 

「別にテメエ等が何かの話しで罵り合おうが貶し合おうがそれはテメエ等の勝手だ。だがな?テメエ等が言いあってる場所は食堂で、テメエ等以外の他の皆だって今ココで飯食ってんだよ。こんなトコで騒いだらコッチの気分が悪くなるだろーが……喧嘩すんなら他所でやれ。それが出来ねえってんなら叩き出すぞゴラ?」

 

俺はそう言って言葉を切り、更に威圧感をオルコットと鈴の2人に向けて高めていく。

教室でブチ切れた俺が言えた義理じゃねえがな、譲れない想いってのがまるで見えねえ事で喧嘩すんなってんだ。

 

「わ、わかったわよ!?も、もうしないからその顔止めてって!?」

 

「軽率な行動は謝罪します!!で、ですからもう怒らないで下さいまし!!」

 

俺の威圧感と怒りのボルテージが段々と上がっていくのを感じ取ったのか、2人はさっきよりマジな表情で俺に懇願してくる。

そこにはさっきまでの勝気な表情も怒った表情も無く、本気で反省してる表情があった。

ったく、怯えるぐらいなら最初っからやるんじゃねえってんだよ。

それを確認した俺は威圧感を消し去り、オルコット達に掛けていたプレッシャーを消し去った。

こういうのは恐怖政治みてえであんまし好きじゃねえんだが、この方が手っ取り早いのも事実なんだよなぁ。

ままならない現状に溜息を吐きたい気持ちを抑えながら、俺は手の上に落ちた卵焼きを口に放り込む。

 

「え!?あ、あの元次君!?そ、それ……(げ、元次君が私の作った卵焼きを……!?ど、どどどうしよう!?美味しくなかったら……美味しいワケ無いよね……元次君の方が料理上手だし……)」

 

と、俺が卵焼きを口に含んだのを見た夜竹は、何やら顔を慌てふためかせた……かと思えば何やら憂いを含んだ表情に変わっていく。

あっ……そういやこの卵焼きって夜竹のだっけ、悪いことしちまったな。

目の前で落ち込んでる夜竹に謝罪をしようにも、今は口の中に卵焼きを含んでる状態なので、とりあえず俺は口の中を咀嚼し始めた。

……ん?……この味付けは……程よく甘くて美味えし、卵もふっくら柔らかだ。

 

「モグモグ……ゴクンッ。美味えなこの卵焼き。やっぱ夜竹って料理上手なんだな」

 

「ご、ごめんなさ……へ?」

 

……あれ?俺何か変な事言ったか?なぜ謝ろうとしたんでしょうか夜竹さん?

俺が今しがた食べた玉子焼きの感想を言うと、夜竹は何故か顔をポカンとさせてしまった。

まぁとりあえずそのまま見つめ合ってても仕方無え……というか恥ずいので、俺は呆然としてる夜竹に更に言葉を畳み掛ける事にした。

 

「この卵焼き、作ってから結構時間経ってる筈だってのにふっくらして柔らかかったが……これって多分、酢を入れてんじゃねぇか?」

 

「……あっ。う、うん。お酢を小さじ1杯だけ混ぜて焼いたら、卵がふんわりするってお母さんから教えてもらったの」

 

「そうそう。だけどよ、小さじ1杯つってもキチッと混ぜなきゃ酢の味が出ちまうだろ?……でも、この卵焼きって酢の味は全く出てねえし、甘さもちょうど良くて美味かったからよ。夜竹もやっぱ料理上手なんだなぁってな」

 

たかが卵焼きと侮る無かれ、この味付けを全体に均一にするのは中々難しいモンなんだよ。

しかし夜竹の卵焼きは味もキチンとしている上に、全体的に綺麗な色をしている。

これは相当な経験を踏まないと出来ない芸当だ。

 

「そ、そんな事無いよ!?元次君の方が、私よりずっと上手だと思うし!!わ、私なんか本格的にしてるワケじゃ……」

 

「ん?俺だってそうだぜ?でも、ドッチが上手いかとかじゃなくて夜竹の卵焼き食って思ったのは……なんつうか、家庭的な味だって感じたな」

 

「か、かか、家庭的って!?あ、あああのそのえと!?(か、家庭的……私の料理が、家庭的……元次君に家庭で私の料理を食べてもらうって……あれ?それじゃまるで私が奥、さん?……えぇぇ!?)」

 

「おう。こうなんていうか、家で食べる安心感がある味っつうか……疲れた体を柔らかく包み込んでくれる優しい味っつうか……上手く表現出来ねえけど、ともかく美味かった」

 

自分で感じた事を上手く表現出来なかったが、何とか伝えたい感想を伝えた俺は笑顔で夜竹に視線を送った……のですが。

 

「は、はぁぅぅ……ッ!?(真っ赤)」

 

何故か俺の言葉を聞いた夜竹は声にならない悲鳴を小さく挙げながら、真っ赤に染まった顔で俺を凝視してるではないか。

って何でそんな顔になるんでしょーか?俺は只夜竹の料理が家庭的で素晴らしいと伝えただけの筈……あっれえ?

ちょっと待とうか俺?……ひょ~っとして、俺は今盛大に恥ずかしい事をくっちゃべってたんじゃなかろーか?

うん、一度順を追って整理してみましょう。

 

Q,1 俺は誰の料理を食べた? A, 夜竹っていうか女の子の手料理。

 

Q,2 俺は夜竹の、いや女の子の料理をどう評価した? A, 家庭的。

 

Q,3 女の子に家庭的と言う意味は? A, 将来の有望さ、母性の有無、褒め言葉、口説き文句。

 

結論、何やらかしてんだ俺は。

 

恥ずい、コレは恥ずい。

今やっと自分の言ってた言葉の意味が理解出来た所為で、俺まで夜竹に引きづられる形で顔が赤くなってしまう。

その恥ずかしさから顔を逸らしたかったが、何か妙な引力が俺達の間で働いているのか、俺と夜竹は互いに視線を逸らせずにいた。

オイ、普通に仕事しやがれ引力組合、何でこんな青春甘酸っぱさ満点の展開になってやがるんですYO?

暫しの間、この空間で俺達に割り込む者もおらず、俺達は真っ赤な顔で見つめ合い続けていたが……。

 

『『『『『……じ~~~っ』』』』』

 

「「ハッ!!?」」

 

段々と周りの視線が俺達に集中しているのを感じ取り、俺と夜竹はバッと首が取れそうな勢いで視線を外した。

ヤ、ヤバかった!?今の夜竹は、何かわからねえが無性に引き込まれる程に可愛くて仕方無かったんですけど!?

良く分からない夜竹の魅力に引きこまれそうになった意識を何とか現実に戻し、俺は大仰に咳払いをする。

 

「ン゛!!ンッンゥ゛!!ま、まぁそのよ?ホントに今の卵焼きは美味かったってのが俺の感想で…………ご、ご馳走さんだ、夜竹」

 

「あぅ…………え……えっと……お、お粗末様……です」

 

俺の言葉に、夜竹は小さく呟いて返事を返すと、そのまま視線をテーブルに落として食事の続きを始めた。

但し、さっきと比べて耳は真っ赤だわ食べてる量はちょびちょびと少ないわで何とも微妙な雰囲気なのは変わらなかったけどな。

 

「ゲン……アンタもやっぱ……いや、やめとくわ……話を大分戻すけど、一夏がアンタ達1組のクラス代表ってことで良いんでしょ?」

 

何やら俺に対して微妙というか呆れた感じの視線を送ってくる鈴や箒などの幼馴染みズ、テメエ等纏めてしばくぞ?

っていうかホントにバッサリと戻しましたね鈴さんや?その話題はもはや遠い過去にすら感じるぞ。

そして話しを振られた一夏は、さっきまでの陰険な雰囲気が消えて大きく息を吐いて安堵していた体を起こして鈴に向き直った。

 

「あ、あぁ。半分は成り行きだけど、そうだな」

 

「成り行きって何が……ま、まぁそれより、さ?アタシがISの操縦見てあげよっか?」

 

一夏の言葉を聞いた鈴は、少しだけ顔に赤みを刺したかと思えば、ラーメンを食べていた箸をどんぶりに置いてそんな事を言い出した。

な~るほどな……代表候補生ってアドバンテージを有効利用して一夏と2人っきりの時間を作りつつこの1年の空白期間を埋めようってワケだ。

授業で聞いた内容、そしてオルコットと同じ代表候補生なら、鈴のIS稼動時間も300時間は越えてる筈だし、これは一夏にとってもメリットの無い話しじゃねえ。

でもまぁ一夏にメリットはあっても……。

 

「マジか?それは助か――」

 

ダンッ!!

 

「一夏に教えるのは私の役目だ……私が、幼馴染みの、ゲンと、他ならぬ一夏に、直接頼まれたのだからな」

 

「あなたは2組でしょう?クラス対抗戦では敵に当たる人間から1組のクラス代表が教えを乞う等あってはなりませんわ」

 

この2人にゃ欠片もメリットが存在してねぇからなぁ。

鈴の渡りに船的な申し出を聞いた一夏は笑顔で鈴の提案を承諾しようとしたが、それを阻むは同じ男に恋する乙女達。

即ち箒とオルコットは怖いツラでテーブルにバンと手を叩き付けて身を乗り出し、鈴が一夏に提案した話しをバッサリと切り落とした。

しかも俺を巻き込む事が既にデフォで何故か話しの主役である筈の一夏を差し置いて。

何で毎回毎回一夏の周りは暴走状態に容易く突入しちまうんですかねえ。

 

「……アタシは幼馴染みの一夏と話してんの。関係無い人は引っ込んでてくんない?」

 

勿論、そんな暴挙が許せる程に鈴の沸点は高くなく、眉を顰めてまたもや売り言葉に買い言葉状態だ。

もうホンット面倒くせえなアンタ達は!?何で毎回俺が渦中にいる中でおっ始めんだよ!?馬鹿じゃねえのか!?

普段の俺ならこの事態に遭遇した段階で別のテーブルに逃げる所だが、今は俺だけじゃなくて夜竹も巻き込まれてるから逃げるに逃げれなかった。

さすがに夜竹を見捨てて自分だけ逃げる程落ちぶれちゃいねえよ。

 

「いいえ。先程も申し上げた通り、一夏さんは1組の代表です。ですから1組の人間が教えるのが当然ですわ。あなたこそ後から出てきて何を図々しい事を」

 

「後からじゃないしね。あたしの方が付き合いは『断然』長いんだし?」

 

「むむむ……!!?ああ言えばこう言う……!?」

 

そんな感じで俺の心の疲労が溜まり始めたのを意に介さず、3人の話しは益々ヒートアップしていく。

オルコットの『敵に教わる事はねえ!!後から現れた癖にしゃしゃり出てくんなやクラア!!』発言も、鈴は笑顔で言葉を返す。

曰く『ハッ!!こっちの方がコイツとの付き合いは遥かに長いんじゃけえ黙っとれキサン!!』という事らしい。

何せ断然って部分を果てしなく強調してたからな。

 

「そ、それを言うなら私の方が早いぞ!!それに一夏は何度もうちで食事している間柄だ。付き合いはそれなりに深い」

 

そしてここで立場的には鈴と同じく幼馴染みの箒が参戦し、『一番初めに目を付けたのはコッチじゃあ!!人の獲物に群がるなやボケが!!』と鈴に言葉を返す。

っていうかココまで自分の事で盛り上がってるのにまるでワケわかめな顔してんじゃねえよ一夏。

しかし、鈴はそんな箒の強気な発言を聞いても余裕の表情を崩さずに口を開いた。

 

「うちで食事? それならあたしもそうだけど?」

 

「なん……だと……!?ど、どう言う事だ一夏!?」

 

「納得の行く説明をして頂きますわ!!まさか泊まりこここ……!?」

 

鈴の衝撃発言に目を見開いて驚愕し、当事者の一夏に詰め寄る箒とオルコット。

というか待てやオルコット、お前は一体何を考えて頬を赤くしてやがるんだ?

そんな2人の只ならぬ様子にたじろぎつつも、一夏は2人の質問に答える為に口を開いた。

 

「え?いやどうって……幼馴染で、よく鈴の実家の中華料理屋に行ってたって事だけど……ゲンもよく一緒に行ったよな?」

 

「ン?……あぁ、まあな」

 

ボケッと事態を眺めてたら、何時の間にかナチュラルに地雷地帯に放り込まれたでごわす。

相変わらず一夏はその辺の事を考えずに俺に話題を振りやがって……何でこの話題の答え、しかもその最終確認を俺に振りやがる。

俺の言葉を聞いた箒とオルコットはその表情に安堵の色を見せたが、逆に鈴は俺を不機嫌なツラで睨んでらっしゃった。

仕方ねえだろ、この状況でどう誤魔化せってんだよお前は?

 

「……な、何だ。店だったのか……フゥ」

 

「お、お店なら、別に不思議な事はありませんものね……ホッ」

 

まだ自分の獲物が誰の手にも落ちてない事を知って安堵する二人を眺めながら、俺は鈴の両親が経営してた中華料理屋の事を思い出す。

これがまた味が上手くて安いっていう学生の味方的な店だったから、俺も一夏もよく世話になったモンだ。

それに親父さんは気さくで良い人だったし、良く中華のコツとかを伝授してもらったっけな。

お袋さんも明るくて器量良しな上に鈴の母親だけあって気が強い人だった……確か親父さん、自分で「我が家は何時もカカア天下さ」って笑ってたっけ……妙に儚い笑顔で。

ヤベッ、思い出したらなんか泣けてきちまう。

 

「そういえば、親父さんは元気にしてるか? 久し振りに会いたいな」

 

と、鈴の家族の昔の思い出を思い返していると、一夏が鈴に親父さんの事を質問していた。

お?確かにそりゃあ俺も気になるな……あの親父さんがカカア天下という戦国時代から下克上したのかが(笑)

今しがた同じ事を考えていた俺も今の一夏が聞いた質問は純粋に気になったので言葉尻に乗っかろうと――――。

 

 

 

 

 

「あ……。うん、元気―――――――――だと思う」

 

 

 

 

 

したが、鈴の只ならぬ雰囲気に俺は声を出せなかった。

急に鈴の表情に陰りが差して、妙な違和感を感じたっつうか……何か、今は触れて欲しくねえ様な雰囲気だった。

だからこそ、俺は言葉を出す事を止めて口を噤んで黙る。

一夏の奴も今の鈴の雰囲気に何かを感じ取ったのか、困惑の表情で鈴を見つめていた。

ったく、恋愛方面にはとんと疎い癖しやがって、こーゆう所だきゃあ鋭いんだからなぁ。

 

「そ、それよりさ、ゲンと一夏。今日の放課後って時間ある?あるよね。久し振りに会ったんだし、どこか行こうよ?駅前のファミレスとかさ」

 

そして、行き成り雰囲気を無理矢理変えた鈴は、笑顔を取り繕って俺と一夏に違う話題を振ってきた。

しかしその言葉に、俺と一夏は揃って微妙な表情を浮かべてしまう。

いや、別に鈴が話題を逸らした事が気に障ったとか一緒に行くのが嫌ってワケじゃねえんだが……。

 

「あー……あそこは……」

 

「去年潰したぞ(・・・・)

 

「えっ……そ、そうなんだ。アソコ潰れちゃったん……ん?ち、ちょっと待ちなさいゲン。あたしの聞き間違いかしら?今、潰したって聞こえたんだけど?」

 

「だから、あそこなら去年潰したぞ?俺が」

 

「「「ちょっと待て(ちなさい)!?どういうこと(ですの)だ!?」」」

 

俺の言葉に鈴だけでなく箒やオルコットまで食い付いてきて、目を見開いて俺に詰め寄ってきた。

そんな3人の態度に面倒くさいって表情をアリアリと見せて俺は後ろ髪をポリポリと掻く。

しかも良く見れば3人以外にも、すぐ横のテーブル席に座ってるクラスメイトとか俺の隣に居る夜竹、更には耳を澄ませてた他の生徒達まで俺を見てる。

もうここまで聞いてる奴が増えたら話さなきゃいけねえか。

 

「あー、実はよ?鈴が中国に帰った後で、あの店のオーナーが変わったんだが……コイツがまた最低なヤローでな」

 

「後から聞いた話じゃ、店に来た女性客の中で綺麗な人を見つけては、その客の皿にワザと髪の毛とかを入れて出してたらしい」

 

俺が語り始めたファミレスをブッ潰す迄の経緯を、一夏が補足しながら話を進めていく。

今思い返しても虫唾が走るぜ、あのクソヤローは。

 

「ハァ?ちょっと待ちなさいよ。この時代にそんな事したら、店が潰れる前にそのオーナーが首にさせられるんじゃないの?それか賠償金をたんまり請求されるとかさ」

 

しかし俺達が話し始めた内容がおかしいと感じた鈴が声を挙げて俺達の話を中断させる。

まぁ確かにここだけ離したんじゃ普通はそう思うよな。

 

「まぁそうなんだがよ……それがオーナーの狙いっていうか罠だったんだ」

 

「罠だと?一体どういう事なんだ?もう少し分かりやすく説明してくれ」

 

俺の話の意図が掴めずに痺れを切らしたのか、箒は早く事の真相を教える様に求めてきた。

 

「つまりよ……オーナーはワザと女の客の食い物に髪の毛とかを入れてクレームを出させて、賠償金の相談をしたいって客に持ちかけてスタッフルームに呼び込んでたんだが……そこには他の男性スタッフが10人近く待機してるって事さ」

 

「え?……そ、それって……」

 

ここまで話すと段々と理解してきた人がポロポロと出現し、皆一様に顔を青ざめさせてしまう。

事それは箒たちも同じ様にその先を理解したのか、3人とも冷や汗を掻いていく。

 

「まぁこんなトコで話す内容じゃねえから省くが……そうやって何時もの様に稼ごうとしてた時に、偶々女の人の悲鳴が聞こえた俺がスタッフルームに乗り込んだんだよ」

 

俺は当時の事を思い出しながら、なるべく刺激の強くならない様に言葉を濁して語り部を続ける。

その日、俺は一夏と弾、そして数馬と一緒に例のファミレスに入ったんだが、俺は注文をする前にトイレに行ったんだ。

そんで用を足してトイレから出た時に、トイレのある廊下の一番奥にあるスタッフルームの中から「誰か助けてぇ!!」って切羽詰まった女の人の悲鳴が微かに聞こえてきた。

さすがにコレは只事じゃねえと思った俺はスタッフルームに近づいてドアを開けようとしたが、鍵が掛かって入れなかった。

もしかしたら何かの事故かトラブルで出られないと考えて、俺は後で弁償する覚悟でスタッフルームの扉を蹴破ったんだが、中に入って見たら目を疑ったぜ。

何せソコには男達に抑え付けられて半裸で涙を流す女の人と、ズボンのベルトを外そうとしてた男が居たんだからな。

ご丁寧にビデオカメラまで回してたし。

 

「そっからは何時も通りにブチ切れた俺が暴れて、その場のスタッフ全員病院送りにしてやった。まぁその後で全員刑務所に送られたみてえだがな」

 

確かに悪事は明るみに出なけりゃ問題ねえが、一度でも明るみに出ちまったら終わりだ。

オマケに奴等がやってたのはこの女尊男卑の世界でやっちまったら最後、この先の就職すらもままならねえような罪だったからな。

まぁ今までヤンチャしてた分のツケが纏めて来たって事だろうよ。

とりあえずあの店が潰れた経緯を話してから、どっか別の場所で話をしようぜって事を進言したんだが、そこは箒とオルコットに邪魔された。

何でも一夏は放課後に2人とみっちり特訓をする予定になってるらしく、放課後は空いていないとの事だ。

その事に「俺は1ミリたりとも聞いてないんですが!?」という一夏の叫びがあったが全員スルー。

とりあえずそれが終わってから話をしようって事で落ち着いて、鈴は何時の間にか食べ終えていたラーメンの食器を持って食堂から出て行った。

一夏はオルコットと箒に鍛錬をキツくすると言われて項垂れていたが、俺は鈴のさっきの態度が引っ掛かっていた。

親父さんの話を出した時のあの雰囲気、そして影を落とした表情……どうにも、鈴が日本を旅立った時からすればおかしすぎる。

アイツに一体何があったのか?俺はその謎に思考を巡らせながら、残りのハンバーガーを食べて昼食を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何てシリアスっぽい事考えてたんですが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぁうぅ……(元次さんに抱っこされた元次さんに抱っこされた元次さんに抱っこされた元次さんに抱っこされた元次さんに抱っこされた元次さんに抱っこされた元次さんに抱っこされた元次さんに抱っこされた元次さんに抱っこされた元次さんに抱っこされた元次さんに抱っこされた元次さんに抱っこされた)」

 

「くうぅ……!?わ、私を見るな元次!?(見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた)」

 

何かもうコレ以上無いってぐらいに赤い顔で俺をチラチラ見てくる真耶ちゃんと、同じく赤い顔で憎々しげに俺にメンチ切ってらっしゃる千冬さんの対処で、鈴の事は頭からスッポ抜けてしまいました。

ちなみにこれから昼食後の時間は、お二人によるISの座学……俺、生きて部屋に帰れっかな?

 


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