IS~ワンサマーの親友   作:piguzam]

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中々難しいですね……早く話し進めたいのに


肉体労働=報酬

 

 

 

 

「――こんなとこですかね、俺とウェイの親っさんとの関係は」

 

マスターから飛び出した衝撃的な名前に驚き、正気を取り戻した俺は大まかに自分と親っさんの関係を話した。

勿論、親っさんが離婚した事も知ってたし、俺の幼馴染み兼IS学園の友達の父親である事も含めて。

 

「そっか……しかし、こんな偶然もあるもんなんだね。人との縁ってのは、何処でどう繋がってるものやら」

 

「あぁ。まさか取材で偶々訪れた神室町で、鍋島の探していた男の所在が分かるとはな」

 

伊達さんと秋山さんは驚いているが、俺自身もかなり驚いてる。

何せ鈴から話を聞いた昨日の今日で目当ての人物の所在の断片が掴めるとは……。

ホントに人生ってのは奇妙なモンだなと思っていた俺の視界に、マスターの悲しそうな表情が飛び込んでくる。

 

「……アイツは、この亜細亜街に来てからも、ずっと娘を心配してた……風邪ひいてないか、飯はちゃんと食ってるかって……でも、落ちぶれた自分の姿を見せたくないって言ってたよ」

 

「……」

 

マスターの言葉に、メイファちゃんも悲しそうな表情を浮かべるが、それに気付いたマスターが優しくメイファちゃんを撫でる。

 

「昔やってた店の時の様に、しっかり自分の生活の基盤を建ててからじゃないと、娘に会っても馬鹿にされちまうってな……そう言って娘には一度も連絡しなかった」

 

「……親っさん」

 

鈴がそんな事で親っさんを馬鹿にしたりする訳ねぇだろ……親父さんの事もお袋さんの事も大好きなあの鈴が。

見当違いも甚だしい事を思ってるウェイの親っさんに対してイラだちが募り、俺は考えるより先に身体が動いた。

この町の何処かに親っさんが居ると知って居ても立ってもいられず、俺は皆に背を向けて故郷の出口へと足を進める。

カラギャン潰し以外にもやらなきゃいけねえ用事が増えたからな。

 

「ちょっと待った、鍋島君」

 

「……何スか、秋山さん?俺ちっと用事が出来たんスけど?」

 

しかし、それは背中越しに掛けられた秋山さんの言葉で止められてしまう。

急いで親っさんを探したい俺は焦る気持ちから少し乱暴に言葉を返してしまうが、秋山さんはそれに苛立った様子も無い。

 

「君もしかして、友達の親父さんを探すつもりかい?居場所について何の情報も無いのに?」

 

秋山さんは俺がやろうとしてる事を知っておきながら確認する様に聞いてくる。

その馬鹿にする様な口調が気に障り、俺は振り向かずに返事を返してしまう。

 

「親っさんがこの町に居てギャングに狙われてるなら、ジッとしてる訳にもいかねぇッスよ。ギャング共をブッ潰してから、神室町の中を虱潰しに探せば――」

 

「それでその人が見つかると思ってるなら、君は神室町を舐め過ぎだ」

 

「……あ?」

 

沸騰した俺の頭に冷水をぶっかける様な言葉に、俺は背中を向けた形から振り返り、秋山さんに視線を戻す。

俺よりもこの危険な町に在住歴の長い秋山さんの一言は、俺の動きを止めて冷静にさせるには充分過ぎる程だった。

落ち着け……闇雲に動いても俺には何も出来ねぇ……落ち着いて考えろ。

振り向いた先で今までに無い真面目な表情で俺を見ている秋山さんに視線を合わせると、秋山さんはゆっくりと口を開く。

 

「この神室町は表面のホテル以外にも、君の年齢では立ち寄れないラブホテルとか廃ビル。屋上のビルを繋ぐ連絡橋の隠れた場所とか、地下のパーキングエリアからマンホール下の下水道にと、隠れる場所は幾らでもある」

 

「……」

 

「この町のホームレス達が使ってる秘密の賭博場や、ヤクザに金を払って隠れられる隠れ家とかもね……只歩いて探すだけじゃあ到底探せっこない」

 

「……じゃあ、どうすれば良いんスか?」

 

秋山さんの言う通り、神室町を俺1人の足で回ったって無理だろう。

ましてやヤクザが絡んでるとなれば、探し出すのはほぼ不可能に近い。

そこに居るヤクザをブチのめしても、その間に仲間とかに移動させられたら見失っちまうだけだ。

束さんに頼むってのも1つの手だが、あの人は俺と一夏、箒に千冬さん以外はどうでも良いと思ってる人だ。

多分親っさんを探してくれと頼んでも、あの人は誰が誰だが判別する事に嫌悪感を抱くだろう。

それに、これはあくまで俺の問題であり俺の我侭だ……束さんの手を借りるワケにいかねぇ。

これは正に八方塞がりか、と思っていた俺だが、秋山さんはふと表情を崩して俺に笑顔を向けてくる。

 

「だから、俺が紹介してあげるよ――情報屋を、ね」

 

「は?……情報屋?そんな奴が居るんスか?」

 

情報屋って……そんな映画みたいな奴等が実在すんのか?

俺の晒すマヌケ面を見た秋山さんは如何にも「その顔が見たかった」見たいな笑顔を浮かべた。

 

「そう。しかも普通の情報屋じゃない。神室町界隈の事なら現在進行形で知らない事は無いとまで言われる、凄腕にして伝説の情報屋さ」

 

「お、おい秋山!?お前まさか、鍋島に『アイツ』を紹介するつもりじゃ……」

 

「そのまさかですよ、伊達さん……その前に鍋島君。1つ確認しておくけど、良い?」

 

「確認……ですか?」

 

秋山さんの言葉に伊達さんが慌てた所を見ると、余程凄い情報屋らしい。

だが秋山さんはその情報屋の事を話す前に、俺にまたもや真剣な表情を見せてくる。

俺がオウム返しに聞き返すと、秋山さんは1つ頷く。

 

「俺の紹介しようとしてる相手は裏社会の人間。当然リスクは付き纏うし、その男は法外な報酬を吹っ掛けてくるだろう」

 

「……」

 

「そんな人間の力を借りてでも、君は友達の親父さんを探すっていう『覚悟』はある?」

 

秋山さんの真剣な問い掛けに、俺は真剣な表情を浮かべて見返す。

危険に対する覚悟?そんなモン、ISと付き合う人生になった時からちゃんとしてる。

冴島さんからも『道を外れてツッパるんやったら、覚悟を決めて夢を追いかけるんやで』って言われたんだ。

今更危険の1つや2つ増えた所で、デンジャラスな人生には変わりねぇ。

 

「……俺の傍で大事なツレが泣いてると、どうにも調子狂うんスよ……俺等は何時も楽しくやっていきたいって思ってんのに、誰か1人が泣きゃそれだけでダメになっちまう」

 

「……」

 

「俺には、ソイツを慰めてやる事は出来ねぇ……それは兄弟の役目だからな……だったら――」

 

質問した秋山さんも含めてその場に居る全員が俺に視線を向ける中、俺は堂々と顔を上げて独白する。

ガキの時から何時も1人で溜め込んで、1人で泣こうとする鈴。

何時も元気ハツラツって表情をしてるアイツが、肩を落として迷子みたいな面で泣きやがる。

それを慰めて、側に居てやるのは兄弟……一夏がやるべき事だ。

俺は不器用な俺なりに俺達仲間の輪を守る事が、俺がするべき役目。

俺には、力づくで物事を動かす事しか出来そうもねぇからな。

自分の中に誓い続けた覚悟を思い返しながら、俺は胸の前で包帯が巻かれた拳を握りこむ。

 

「俺は俺の遣り方で、あいつ等の笑顔を守りたい……その為に危ない奴に会わなきゃいけねぇってんなら、覚悟なんざ『とうの昔』に出来てます……だから秋山さん、俺にその情報屋を紹介して下さい……お願いします」

 

今更ビビるも何もねぇ。俺はガキの頃から戦闘力ならトップクラスの人と過ごしてきたんだ。

千冬さんの本気のお仕置きを受ける事に比べりゃ、この世全ての危険がマシに思えちまう。

頭のおかしい奴?そんなもん本物の『天災』と過ごしてきた俺からしたら酒に酔ってる程度だっつうの。

認識されてる俺からしたら良い人だけど、世間的には間違いなく天災だもんな、束さんて。

……あれ?何か思い出してて悲しくなってきたぞ?

 

「……そっか……ずっと前から覚悟出来てたんなら、余計な質問だったね。いやごめんね?一応聞いておかないと、後で『聞いてません!!』なんて言われても困るからさ」

 

俺の微妙に哀愁誘う回想に気付いていない秋山さんは顔を笑顔で彩って、さっきまでのおちゃらけた雰囲気を纏う。

まぁ確かに危ない事を教える身として最初に言っておきたい事なので、俺は別に問題無いと返す。

そうすると秋山さんは、手を擦り合わせながら俺に声を掛けてくる。

 

 

 

「それじゃあ、行こっか?この神室町の全ての情報が集まる場所――――『賽の河原』に」

 

 

 

……渡し賃に六文銭を用意しておくべきだろうか?

陽気に物騒というか不吉な場所の名前を告げた秋山さんは俺の肩を叩いて出口へと向かって行く。

まぁ、行ってみねぇと何にも始まらねぇし、いっちょ会ってみますか……その情報屋とやらによ。

 

「じゃあ、ごっそさんッス。マスター、メイファちゃん」

 

「あぁ……ウェイシェンの事、頼んだ」

 

「お兄ちゃん、助けてくれてありがとう!!」

 

マスターは真剣な表情でウェイの親っさんの事を頼み、メイファちゃんは笑顔で手を振ってくれた。

俺は笑みを浮かべつつメイファちゃんに手を振り返して故郷を伊達さんと秋山さんと一緒に後にする。

と、伊達さんは何時の間にか誰かと電話していた。

 

「あぁ。そういう訳だからよろしく頼むぞ……(pi)これで亜細亜街は一安心だろう」

 

「誰に電話してたんスか?」

 

電話が終わった伊達さんに質問すると、伊達さんはタバコに火を点けながら口を開く。

 

「あぁ。お前さんに最初に説明したろ?亜細亜街を贔屓にしてる警察が居るって。そいつに亜細亜街の護衛を頼んだんだ。まぁ喧嘩もそこそこ強いし、一先ず大丈夫だろう」

 

どうやら伊達さんは伊達さんでマスターとメイファちゃんの為に動いていてくれた様だ。

警察の人間で喧嘩も強いとくれば、カラギャン達が攻めてきても逮捕食らうだろうし、確かに安心だな。

ちょっと気になったんでどんな人かと質問してみると、伊達さんは苦笑を浮かべる。

 

「そうだな……警察内部の人間からは『ダニ』って呼ばれてる奴だ」

 

……俺は本当に伊達さんの人選を信じても良いんだろうか?

果てしなく不安は残るものの時間も無い事なので、俺は秋山さん達に着いて神室町の奥へと足を伸ばす。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「……ふへぇ~~……うにゅぅ……」

 

場所は再びIS学園。

親友2人のあんまり過ぎるアドバイスに夜竹が吠えて暫くした頃。

このIS学園の生徒達の中心を司る組織、生徒会の一室で聞くものが力抜けてしまいそうな鳴き(?)声が響く。

普段の楽しそうな笑顔はナリを潜め、彼女の表情は悲しそうなモノに彩られている。

 

「……本音」

 

と、そんな風にダレている彼女に凛々しくも暖かさを持った声が掛かる。

そう、生徒会室で垂れパ○ダの如く垂れている少女は、元次のルームメイトである布仏本音だった。

 

「ふにゃぁ~……ぶぅ……」

 

「……」

 

しかし余程悲しいのか、いや不貞腐れているといった方が正しい本音は呼びかける声に気付いていない。

お気に入りの垂れシリーズの中から引っ張り出してきた熊の大きなぬいぐるみを枕にして、ソファーにぐでんと倒れこんでいる。

一方で無視された彼女の頭の辺りからは小さく「ピキッ」という音が鳴り響き、音も無くスッと拳が天に掲げられ――。

 

ゴツンッ!!

 

「みぎゃっ!?」

 

ソレは勢い良く本音の頭に振り下ろされる結果となった。

ボーっとしていた所にクリティカルで拳骨を落とされた本音は猫が踏まれた様な悲鳴を挙げて頭を抑える。

その姿を見て無視された彼女も溜飲が下がったのか、フゥと一息ついてから再び本音に視線を向けていく。

 

「いったぁ~~い……何するのぉ~お姉ちゃ~~ん」

 

「……ココに来て仕事をしないのはまだ良いわ。もうそれは諦めたし、寧ろしなくても良い。けどね……」

 

「うぅ~~……じゃあ~どうして~?」

 

いきなりの痛みに涙目で抗議する本音だが、拳骨を落とした彼女はその抗議に取り合わず溜息を吐きながら言葉を続ける。

 

「見ているこっちが気落ちする様な声を出さないでちょうだい。仕事出来ないでしょう?」

 

「……だってさ~……ゲンチ~のばか~(ぽす、ぽす)」

 

彼女に怒られた本音は反論しようとするが、途中で何かを思い出したかの如く不機嫌な表情になってしまう。

そのまま抑えきれない気持ちを垂れ熊に向かって拳を突き立てる事で解消しようとする本音。

若干熊の顔に冷や汗らしきものが見えるのは幻覚であろう。

拳を落とした彼女も何気に酷い言い様だが、本音がこういった声を出すのは今が初めてではない。

実は彼女、今日の朝からこの悲しそうな声に悩まされているのだ。

もう一人の生徒会長がこの声に耐えていたならば、彼女もここまでキツめに注意はしなかっただろう。

しかし当の会長はといえば『本音ちゃんの声で集中出来ないからちょっと出てきま~す♪』という書き置きを残してドロンしてる。

朝の段階で既に居なくなっていたので、それだけが理由ではないだろう。

彼女は今日の説教の時間を3倍増しにする事を固く誓った。

 

「ハァ……一体どうしたというの?鍋島君に何かされたの?」

 

彼女は溜息を吐きながらも優しい声音で本音に質問する。

朝から何度もしたやりとりだが、本音は決して理由を語ろうとはしなかった。

だがいい加減、このままでは仕事の効率が下がる一方なので、此処らでちゃんと聞いておこうと思ったのだ。

何より口では厳しく当たっていても大事な妹なのは間違いない。

その妹がもし元次に不埒な事をされて悲しんでいるのなら、彼女は元次を許さないつもりだった。

 

「違うよ~……寧ろ~何もしてくれないのが、ちょぉ~問題なのでありま~す」

 

「じゃあ何があったの?言ってごらん」

 

なるべく優しく問いかけると、本音は熊のぬいぐるみをぎゅ~っと抱きしめながらポツポツと喋り出す。

 

「……私~一ヶ月も一緒の部屋に居たけど~」

 

「うんうん」

 

「ゲンチ~ってば、一回も~私に~……え、えっちぃ~事しないんだよ~」

 

「うんう……は?」

 

最初は頷きながら本音の話を聞いていた彼女だが、本音の口から出た有り得ない言葉に目を丸くしてしまう。

思わず素っ頓狂な言葉も出てしまったが、本音の愚痴……というか、惚気は止まらない。

 

「ちょっと巫山戯て、抱っこして~って言っても~『しょうがねぇなぁ』って笑いながら言って~笑顔で抱っこして終わりなんだもん~。私のときめき返せ~」

 

「い、いやちょ、本音?」

 

「他にも~おっぱい当ててるのに~、いっつも我慢してるし~……でも、自分に都合が悪くなると~『胸が当たってるんだけど……』って、恥ずかしい事言って逃げるし~。ばか~」

 

「だ、だからちょっと待ってくれないかしら本音?何か私では対応できない相談されてるんだけど……」

 

「う~……私は女と見られてないのか~。妹の様に見てたらタダじゃおかないんだぞ~。只の本音じゃないってトコ見せてやるぅ~」

 

姉の静止する声も何のその、本音の独白は止まらずカオスに加速していくばかりであった。

一方で姉の方は考えていた方向と斜め上にカッ飛んでいた相談内容に頭を痛めてしまう。

いつから自分の妹はこんな風な事を考える様になったんだろう?

いやそれとも自分がこの歳までそういうのが無いのがいけないのだろうか?あれ?私妹に負けてる?

何やら彼女も頭の思考回路がスパークしかけの様だ。

 

「ぶ~。ゲンチ~のばか~……おたんこなすぅ~……で、でも……大好きだぁ~ちくしょ~……えへへ♡」

 

何時までも止まらない愚痴かと思えば、本音は何かを思い出して頬を染めると、嬉しそうに笑って熊を抱きしめる。

グリグリと顔を擦り付ける程に嬉しいらしく、仕舞いには熊の口に「ん~♡チュ♡」とキスまでしだした。

それが誰を連想してのイメージトレーニングなのか、改めて口に出す必要は無いであろう。

やがてしこたま「チュッ♡チュッ♡」とキスの雨を降らせた本音は急に立ち上がり、その目に力を宿してムンと気合を入れる。

 

「よぉ~し!!今からリンリンの所に行って、昔のゲンチ~の事を色々と教えてもらうのだぁ~♪お姉ちゃん、バイバ~イ♪」

 

「ブツブツ……い、いや。大丈夫よ私。まだ焦る歳じゃないわ、うん。そもそも私に出逢いが無いのは会長が好き勝手するからその後始末に奔走して……今日の説教は5倍ね」

 

もはや言うだけ言って、本音は熊のぬいぐるみを抱えたまま生徒会室を飛び出していった。

行動不能、というかエラーコードの出ている姉を残して。

先ほどまで浮かべていた悲しみの表情は影も形も無くなり、今あるのは好きな男の事を知りたいという欲求だった。

皆が知る癒やしの体現とも言えるスマイルを浮かべたままに、本音は廊下を進んでいく。

 

「フンフンフフ~ン♪(ゲンチ~の所為で落ち込んでたのに~……ゲンチ~のお陰で、元気になっちゃった……)もぉ~♪ゲンチ~め~♡」

 

怒ってるのか喜んでるのか分かり難い事を考えながらも、本音の顔は綻んでいる。

シャイな所もあって、熱い所もあり、逞しくて……ちょっとエッチな想い人を胸いっぱいに感じていた。

 

「ふふ~ん♪あっ、リンリ~ン。昔のゲンチ~の事教えて~♪」

 

と、ちょうど反対の廊下から少し落ち込み気味の鈴が姿を表し、本音は鈴に声を掛ける。

声を掛けたアダ名が少し酷すぎるが。

 

「だ~れがワシントン条約に引っ掛かるナマモノだコラーーーーーーッ!!?」

 

「え~?パンダ可愛いでしょ~?(キラキラ)」

 

「ぐぬぬ……ッ!?善意で言ってるから怒れないのが悔しい……ッ!!」

 

本音の付けたアダ名がクリティカルで昔鈴が苛められた際の名前だった為、鈴はがーっと吠えてしまう。

只、本音が悪気があって言った訳では無いというのが判ると、鈴は歯を食い縛りながら拳を納める。

昔から怒りやすいと言われていた鈴だが、悪気無しに言われたのなら仕方ないと割り切る常識はあるのだ。

無論、拳を納めた理由はそれだけでは無く、主に自分の生命維持の為である。

 

「ハァ……もう良いわよ(この子に手を出したらゲンにミンチにされちゃうしね……悪い子じゃないから怒るのも馬鹿らしいし)」

 

鈴は溜息を吐きながら今日の朝に起きた出来事を思い出していた。

本音にちょっかいを掛けた馬鹿な女が、元次の怒りを買ってどういう目に遭わされていたかを。

何の事は無い、朝方にイントルーダーに乗り込もうとしていた元次に本音がぐずっていたのが事の発端だ。

本音としては取材を終えたら元次がIS学園に帰ってくると思っていたが為に、日曜の夜まで戻らないと言われて落ち込んでいたのだ。

出発前まで落ち込んでいた本音を慰めていた元次や箒達だったが、そこに上級生が割り込んできたのだ。

これまた鈴は知らない事だが、その上級生は一夏が代表就任するパーティーの日の昼に元次に絡んだ上級生だった。

その生徒は元次に視線だけで追い返された事を屈辱に思い、ちょうど元次が慰めていて、元次に親しいであろう本音に目を付けたのだ。

他の外出する生徒達で賑わう玄関。

しかも元次がイントルーダーに跨っていた為に余計に目立っていたので、衆人環視の中で元次の親しい人間を貶めようと考えたのだ。

 

 

 

――それが、どれだけ愚かしい事かも知らずに。

 

 

 

本音のダボダボの制服姿を見てだらしないだとか、生まれが貧相だとこうも馬鹿みたいな人間になるのかと、その上級生は本音に言った。

勿論いきなり知らない上級生にそこまで言われた本音は当初混乱したが、暴言の意味を理解すると目尻に大粒の涙を溜めてしまう。

そんな暴挙を見て、箒や鈴、セシリアは憤慨して上級生に楯突いた。

他にも谷本や相川、そして夜竹も目尻を吊り上げて怒りを露わにし、上級生をはたこうとしたのだ。

 

 

 

だが、それらは全て――。

 

 

 

『――腸ブチ撒けてぇのか?』

 

 

 

怒れる元次のたった一言で封殺された。

 

 

 

いや、正にその場に居る全てが元次の声に支配されたと言っても過言ではない。

誰もが恐怖で震える中、その恐怖の発信源である元次に直視されていた上級生はというと……。

腰を抜かして失禁していたのである。

誰もが見ている衆人環視の中で、高校2年生にもなっての失禁。

間違いなく社会的に終わった生徒だが、元次はそれを態々声に出して全体にアピールする。

 

『人を馬鹿にするしか脳がねぇ頭の緩いクソは、股の締り具合すら緩いらしいな?テメエの言う『たかが男』に睨まれただけでションベン垂らしやがって……臭えんだよ、ションベン女』

 

もはやコレ以上語る事は無いとばかりに、元次は本音を慰めてから失禁した生徒には目もくれずに学園から外出した。

更に悪い、というか自業自得は続く物で、彼女が馬鹿にした本音の姉は生徒会副会長。

更に姉妹揃って生徒会長の大事な友達であることを、彼女は知らなかったのだ。

彼女よりも立場が上の人間に喧嘩を吹っ掛けた事になる。

ちなみに、この1周間後にこの女子生徒はIS学園から自主退学するのだが、誰も気に止めなかった。

と、そういった事件が朝にあったので鈴は本音には極力喧嘩を吹っ掛けない様に気を使っている。

無論、鈴自身が人に無闇矢鱈と喧嘩を売ったりする人間では無いので然程問題では無いのだが。

気を使うとは言っても本音が理不尽な事をしたら怒るつもりだし、何よりその時は元次が本音を叱ると鈴には判っていた。

 

「(アイツは友達の為に怒っても、理不尽な事にはちゃんと向き合う奴だもんね)……で?ゲンの事が知りたいんだっけ?」

 

「うん~♪ゲンチ~が昔、どんな事をしてたのかが~私は知りたいのだ~。教えてよ~リンリ~ン♪」

 

「ち、直球ね……おっけ。そういう事なら教えてあげるわ。食堂で良い?」

 

「いいとも~♪」

 

「はいはい。全くもう……っていうかそのデッカイ熊、持ってくの?邪魔にならないワケ?」

 

何処までもマイペースな本音に鈴は苦笑いしてしまうがその後、本音が抱えてる熊の大きなぬいぐるみの事が気になって声を掛ける。

すると、本音はにへら~と笑いながら熊をギュ~っと抱きしめた。

 

「連れて行くよ~♪今日はこの『ゲンゴロ~』が、ゲンチ~の代わりに一緒なのさ~♪ん~♡ゲンゴロ~♡だぁ~いすきだぞ~♡」

 

「ゲンゴ……ぷっ!!ぷっははは!?な、何それ!?ゲンの奴滅茶苦茶可愛くなっちゃってんじゃないのよ!!アッハハハ!!あ、あのガチムチマッチョがこんなゆるキャラって……ぷっ!?ぶはははは!?お、お腹痛~い!!」

 

もし本人が居れば(以下略。

結局そのまま、2人は楽しそうに笑いながら食堂へと向かって行くのであった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

キュピーンッ!!!

 

「……何だろう?学園に帰ったら鈴をシメなきゃいけねぇ様な……」

 

「急に怖い事言い出すなよ」

 

「いや、いきなりどうしたの?」

 

「どうしたって言われても……何かそういう義務感っていうか……何かに突き動かされるというか……」

 

「衝動的に殺人なんかするんじゃねぇぞ」

 

「いや、しませんけどね」

 

するとしたら八つ裂きぐらいまでだろう、多分。

さて、時間は進んで俺達3人は神室町の中を歩き続けていた。

泰平通りから劇場前通りを抜けて、現在は七福通り西にまで足を運んでいる。

普通に歩いていればもう少し早く目的の場所へ着いていたらしいのだが……。

 

「そこのお兄さ~ん。財布置いて消えなよ。サ・イ・フ・♪」

 

「ハァ……これで何回目なんスかねぇ」

 

「大小合わせて、軽く6回目ってトコじゃないかな?」

 

普通に歩いている筈の俺達の前に、気取ったチャラい男達が立ちはだかり、俺は溜息を吐く。

見た感じだとこれは……ホストだな。

そう、秋山さんの言う通り、実はこうやって歩いていて絡まれるのは通算6回はいっている。

さっさと秋山さんの言う情報屋に会いたい俺としては、こうも足を止めさせられるとイライラしてくる訳で……。

 

「何をゴチャゴチャと言って(ドゴォオオッ!!)ばぐゅッ!?」

 

「ト、トシオーーーッ!?」

 

調子こいて向かってくるホストを無言で壁に向かって蹴り飛ばし……。

 

バゴォオオオッ!!!

 

「……(ピクピク)」

 

追撃に壁と俺の足でサンドして、何人もの女達に甘い顔をしてきたであろうイケメンな面を血だらけにしても仕方ねぇのさ。

果敢に向かった仲間が見るも無残な姿に早変わりした事で、浮き足立っているホスト連中を、俺はグラサンを外して素顔で威圧する。

 

「次にこうなりてぇ奴ぁ……前に出ろや?」

 

「ひぃいいい!?か、かか、勘弁して下さいぃいいいいい!!?」

 

リーダー格とも言える男を速効でブチのめせば、他の雑魚は一目散に逃げていった。

それを確認してからオプティマスを掛け直し、俺達は再び歩み始める。

こんな事がさっきから6回も続いてるんだ、イライラしても仕方ないだろ?

幾ら何でも相手見ずに喧嘩売ってくる馬鹿が多すぎるぜ。

頭数さえ揃えりゃ何でもかんでも勝てるなんて思ってるんじゃねぇってんだよ。

 

「やれやれ。随分と絡まれたけど……着いたよ。ここが賽の河原の入り口さ」

 

と、秋山さんが指さしながら声を掛けてきたのでその方向へ視線を向けると……。

 

「ん?……秋山さん、ここって『公園』ですよね?」

 

ソコには、何の変哲も無い児童公園があるだけだったのだ。

こんな普通の場所にその賽の河原とかいう場所へ繋がる入り口が有るなんてとても思えない。

だが、俺の質問を聞いた秋山さんは「そうだよ」と言って児童公園へと足を踏み入れる。

伊達さんも何も言わずに公園へと入っていくので、俺もソレに続く。

2人に着いていくと、秋山さん達は水飲み場の直ぐ側にある『マンホール』の前で立ち止まった。

え?まさかとは思うけど……。

 

「さて、鍋島君。悪いんだけどこのマンホールを外してくれないかな?君の力なら簡単でしょ?」

 

「は?……ま、まぁ簡単ッスけど……もしかして、ここが?」

 

信じられないといった様子でマンホールを指さす俺に、2人は頷いて肯定を返す。

 

「あぁ。信じられないだろうけど、ここが賽の河原の入り口なんだ。昔は別の場所にもあったんだが、工事の影響で封鎖されてな。今はここが唯一の出入口になってる」

 

「んな馬鹿な……」

 

伊達さんはマジメな表情でそう言ってくるが、俺にはとても信じられない。

こんな下水道の地下にそんな凄い情報屋が居るだなんて……いや、警察の目を潜るなら寧ろうってつけなのか?

しかしここで考えても仕方ねぇし……ここは伊達さん達を信じるしかない、か。

俺は無理やり自分を納得させ、マンホールの蓋を外す。

コレぐらいなら別に問題なく外せるしな。

とりあえずこの先は極秘って事なので、オプティマスのセンサーを全てOFFにして機能を停止させる。

パスワードも入力したし、これで俺以外の奴等には感知される事は無いだろう。

 

「おっし。そんじゃあサッサと入ろうか?幾ら神室町がこういった事に慣れっこの町でも、良い歳してマンホールに入るの見られるのは気分良く無いしね」

 

「同感だぜ。よっこらせっと……」

 

秋山さんの言う事も尤もなので、俺達は直ぐ様下水道の中へ入っていく。

最後に俺が入ってマンホールを閉じ、入り口を封鎖すれば終わりだ。

ハシゴを下って下に降り切ると、用水路脇の人が通る様に作られた足場へと降り立つ。

さすがこの大きな神室町の用水路だけあって、大きさもかなりのモンだ。

いや、他の用水路見た事無いんだけどな?

そして俺が降りてきたのを合図に、秋山さん達が歩を進めるが――。

 

「オ待チシテマシタ。秋山サン、伊達サン……鍋島サン」

 

俺達の行く手には多数のホームレスと黒人の大男が立っていて、俺達の名前を呼んでくるではないか。

秋山さんと伊達さんは判るが、俺の名前まで……いや、それ以前に『待っていた』だ?

おかしいなと首を捻る俺の目の前に、黒人の大男が近寄ってくる……デケエな、2Mは超えてるぞ。

 

「ボスカラ、言伝ヲ預カッテマス。『この街に来てからの行動は、全て見ていた。これで俺の存在を信じて貰えたかな?鍋島元次』トノ事デス」

 

……全て見ていた、か……つまり。

 

「ハナっから俺の身元は割れてたって事か……覗き趣味かよ」

 

「それが情報屋の本質って奴さ」

 

「相変わらずだな。花屋の奴」

 

俺の憤慨した台詞に秋山さんが宥める様な言葉を掛け、伊達さんは呆れた様に口を開く。

って花屋?何だそれ?地下のお花屋さんか?

心に思った疑問がそのまま顔に出ていたのか、歩き出した黒人に着いて動いた伊達さんが俺に視線を向けてくる。

 

「お前さんがこれから会う情報屋の事だ。通称『サイの花屋』。昔から情報を渡す時に、花束に情報のカードを入れて渡していた事からそのアダ名が付いたんだと」

 

「そりゃまた……ファンシーっつうか、的を射たアダ名っつうか……」

 

花束に愛ならぬ情報を篭めてってヤツか……まさしく映画の世界だな。

そう思いながら前を歩く黒人の大男の後ろに着いていくと、上に上がるハシゴが見えてきた。

只、さっき降りてきたハシゴの半分ぐらいしかないので、地上に出るって訳じゃなさそうだな。

ハシゴを見ていた俺に向かって、前の大男が振り返ってくる。

 

「ボスハ、コノ上ノイチバン奥デ、オ待チデス……ドウゾ」

 

そう言うと大男はホームレス達を引き連れて元来た道を引き返して行く。

どうやら本当に案内だけだったらしい。

でも、あの大男が来たのは……多分、俺への威圧だろう。

俺が勝手に暴れりゃ、あれぐらいの戦力が来るぞっていう警告……上等じゃねぇか。

 

「さて、これから上に上がるけど……多分ビックリすると思うよ?」

 

「へっ。初めてあそこを見る奴でビビらねぇ奴は相当なのんびり屋か、冷静に輪を掛けて冷静な奴ぐらいだろう」

 

「ここまで来て更にビックリ、ねぇ……まぁ、ビビらねぇ様に努力しますよ」

 

まるで悪戯を考える子供の様にニヤニヤと俺を見てくる2人に俺はそう返して、俺は先に上がっていく二人を見つめる。

へっ、今日は散々この神室町の事で驚いてきたが、もうここまでくりゃビックリする事の方が無理ってなモンだぜ。

もうこれ以上驚く事はねぇだろうと思いつつ、俺は2人が上がりきったのを確認して自分もハシゴを上がる。

 

 

 

 

 

そして、程なくしてさっきまでとは違う光が視界いっぱいに広がり――。

 

 

 

「――――な」

 

 

 

絶句した。

 

 

 

いや、確かにさっきまでは何があっても驚かないだろうとか思ってたけどさぁ――これは無いって。

 

 

 

何で、下水道から上がった神室町の地下に――。

 

 

 

『ふふ。おいでやす……』

 

『ふ、ふひひ。このエロ女め!!今日は1日、お前の時間は俺のモノだ!!たっぷり可愛がってやるぞ!!』

 

『あぁん、旦那様ぁ♡どうかお傍に……わてを好きにして欲しいでありんす』

 

 

 

こんな『遊郭』みたいな町並みが広がってんだよッ!!?

 

 

 

 

 

俺達がマンホールから這い上がった先の光景は、『現代じゃない』。

全てが木作りの古風な……いや、まるで江戸の町並みがそっくりそのまま残っているかの様な風景。

床は端から端まで赤い高級な布地の絨毯が敷かれ、それぞれの江戸屋敷の中には妖艶な着物を纏った女達が居る。

其々が柵にいやらしいポーズで寄り掛かったり、柵から手を伸ばして艶やかな笑みで男達を魅了し、誘う。

男達は鼻をだらしなく伸ばして女達に目を向け、どの女が良いかと物色しているではないか。

屋敷と俺達が立つ橋の間には水が流れ、色取り取りの光る造花が浮かび、スポットライトが世界を彩る。

正に目が皿になるというのはこの事かよ……ありえねぇだろ、こんな場所。

 

「ほーら。やっぱり驚いてる」

 

「まぁ、それが当たり前の反応だろうよ。こんな場所、人生でお目に掛かる事はそうねぇさ」

 

「……一体、ここは何なんスか?」

 

呆然とした俺の反応を満足そうに見てる秋山さんと伊達さんに、俺が絞り出せた言葉はそれだけだった。

それも普通の反応だとおもってくれたのか、伊達さんは辺りを見渡しながら口を開く。

 

「ここは賽の河原の繁華街ってヤツでな。古い封鎖された鉄道跡地に建てられた場所だ。あそこを見てみな?」

 

そう言われて伊達さんの視線を辿っていくと、本当に向こうの端の部分が鉄道のホームの名残として残っていた。

慌てて上を見上げてみれば、其処には空は無くコンクリートの壁が出来ている。

 

「最初に言ったと思うが、向こうのホーム跡地の上には昔出入り出来たんだが、今は工事で埋め立てられて出入りが出来ない。だから警察もここの事は知らねぇのさ」

 

「で、でもッスよ?そのホームの出入り口が残ってた時があったワケでしょ?何でその時に警察は捜査しなかったんスか?」

 

普通ならそんな場所、ホームレスの溜まり場になるからって警察が捜査してから封鎖すると思うんだが。

そんな昔からその場所がそのまま放置ってのがそもそもおかしいだろう。

しかし俺の疑問も想定内なのか、伊達さんは淀み無く会話を続ける。

 

「お前さんは知らないだろうが、昔あの先の入り口があった場所には公園があってな。その公園は敷地が丸々ホームレスの溜まり場になってたんだ。そこが警察も介入出来ない無法地帯だったからこそ、今もこの地下街は知られずに残ってる」

 

「そんな事が……」

 

「それだけじゃないよ?ほらっ、今あそこで女の子を囲ってる男を見てみなよ?」

 

と、伊達さんが教えてくれた真実に呆然としていた俺に、秋山さんが会話に参入しながらある男を指差す。

一体何だろうかと思いながら秋山さんの指差す方向を見ると、そこには年配の男が若い女の人を数人はべらせていた。

しかも酒に酔ってるのか顔が真っ赤で、胸元と肩が大きく開かれた着物の女の子の服の中に手を入れてまさぐっている。

入れられてる女は顔を赤くして恥ずかしそうにしてるが、寧ろその手を抱き抱えて離さない様に固定してた。

 

「あの人、どっかで見た事無いかな?」

 

「え?どっかでって……」

 

そう言われてみると、確かに何処かで見た事がある様な顔だった。

着ているスーツは恐らくブランド物で、札束を豪快に女の子達に手渡してる。

あぁーっと……あれ?ホントにどっかで見た様な……。

 

「……あっ!?あ、あれって、新政党『愛和党』党首の福見ってオッサンじゃ……ッ!?」

 

確かちょっと前からニュースか何かに出てたオッサンで、『愛と和睦を信条に』とか真面目な顔して言ってたオッサンだ!!

テレビでも真面目な生活から最愛と豪語する妻とのラブラブな生活模様が放送されてた筈の……嘘っぱちだったのかよ。

 

「そう。ここは各界のVIPも御用達の場所だから、例え警察が気付いても揉み消されちゃうだろうね」

 

「うわー……それにしたって羽目外し過ぎじゃねぇッスか?」

 

「良いんじゃない?ここは外と違ってパパラッチも入れないし、安心したらあんなもんだよ。政治家だって人間なんだから」

 

「まぁ、中には田宮みたいに芯の通ったカタブツな政治家も居るがな」

 

秋山さんが肩を竦めながら言った言葉に反論する様に、伊達さんが別の政治家の名前を出す。

田宮と言えば、あの声の渋い防衛大臣さんだったか?

確か何年か前に沖縄の基地拡大を提唱して一躍話題に上がってたが、結局ポシャったらしいけど。

しっかし、こんな場所まであるとは……甘く見てたぜ神室町、そして賽の河原。

 

「あら♪随分若いお兄さんが居るじゃない♪」

 

「うわー♪結構好みのタイプかも♪お兄さん、私達とイイ事しない♡?」

 

「へ?」

 

と、神室町の深いアングラ加減に慄いていた俺の耳元に何とも弾んだ声が聞こえてきた。

何事かと思い振り返ると、そこには何ともエロティックな女性が2人居るではないか。

何とも楽しそうな笑みを浮かべながら近づいてくるブロンドのお姉様と茶髪のセミロングのお姉さん。

2人の衣装は揃って着物……ではなく、超ミニスカで袖も一切無い改造着物……何故にッ!?

 

「えへへ♡何時も元気の無いオジサマばっかりだったから、お兄さんみたいなカッコ良くて逞しそうな人とシタいなーってずっと思ってたの♡私とどうかな?」

 

「あらあら♪近くで見ると凄い身体してるわねぇ♡……見てるだけで蕩けちゃいそう♡」

 

「……は!?え、ちょっ!?俺ぇ!?」

 

一体誰に向かって言ってんだろうなー?とのんびり構えていた俺だが、そうもいかないらしい。

何とこのきょぬーさん達の誘ってる相手は俺の様で、2人は笑顔を浮かべながら俺の腕に抱き付いてきた。

改造着物という薄い布の面積の下で激しく自己主張をしている膨らみが、俺の腕を刺激してくる。

ヤバイ!?マジで強烈過ぎる!?お願いだからこんなトコでおっきしないでマイサンよぉおおおおおッ!?

 

「うわぁ♡……凄い筋肉……私、マッチョな男の人って大好きなんだー♡きっとアッチの方も……凄いって言われない?」

 

アッチってどっちですか!?あの世!?

 

「い、いやあの!?お気持ちは有難いんッスけど、お、俺こういうの全く経験した事無いんで……ッ!?」

 

「「嘘!?君チェリーなの!?」」

 

チェリーとか言うなぁああああッ!?

どうやら俺はお二方に経験豊富と思われていた様で、自分がまだだと言うと心底驚かれた。

っていうか目を見開いて驚く様な事か!?悪いかよチェリーで!?

あ、亜細亜街のお姉さん達でもここまで積極的じゃ無かったのに、どんだけ積極的なんスか!?

 

「うわ、ヤバ……マジで欲しくなってきちゃったじゃない……先輩、ここは譲って下さいよぉう」

 

「駄目よ。こんな美味しい機会なんて滅多に無いんだから、私が隅々まで女の良さを教えて上げないと」

 

ひぃぃいいい!?何か舌舐めずりしてらっしゃるぅうう!?

食われるの!?食われちゃうの俺!?

っていうか伊達さん達は何で助けてくれないんだよ!?

何やら俺を挟んで言い合ってる着物美人さん2人を放置して振り返れば、何故か2人は楽しそうな笑みを浮かべてるじゃないか。

 

「いやはや、モテモテだね鍋島君?おじさん羨ましいな」

 

「あぁ。これも良い機会だし、社会見学の一環で気持ち良くしてもらってきたらどうだ?」

 

人事だと思って楽しんでやがる!?

 

「ねぇ、お兄さぁん♡私ぃ……ちょっと本気になっちゃいそう♡……ねぇ、お金なんて要らないから私を選んでぇ♡」

 

「私もお金なんて要らないわ。いえ寧ろ払ってあげちゃいたいぐらい♡……私と一生忘れられない夜を過ごしましょう♡……お兄さんだけのサービスもして、ア・ゲ・ル・♡」

 

「が、ぐ……ッ!?……お、お気持ちはありがたいんですが……(スッ)」

 

「「あっ……」」

 

俺のシャツの隙間から手を差し入れてのの字を書きながらしなだれてくるお姉さん達を、俺は優しく引き剥がす。

それと同時に、男をその気にさせる魅惑の甘い香りも離れていった。

い、今はお姉さん達の誘惑に乗ってる場合じゃねぇもんな……何で美女の誘い振り切ってオッサン探さなきゃいけねんだ畜生。

俺は身を切る思いで彼女達を引き剥がし、残念そうな目で見てくる彼女達に笑顔を向ける。

 

「俺がここに来たのは、大事なモンの為なんで……お姉さん達が決して嫌って訳じゃねぇんですが……し、失礼します!!」

 

「あっ、ちょっと鍋島君!?」

 

「くくっ。まぁ16のガキなんだし、あの反応が普通だろうな」

 

俺は言うだけ言って2人に背を向けると、この歓楽街で一番大きな屋敷を目指して走った。

恥ずかし過ぎてもうアレ以上あそこには居れないっての。

大男が言ってた一番奥ってのは恐らくここの筈だ。

まるで京の都にありそうな立派な架け橋を渡り、俺は屋敷の扉を開け放つ。

伊達さん達置いてきちまったけど直ぐに来るだろ。

 

 

 

 

 

『――じゃあ、俺とならどうかな。美人さん方?』

 

『え~?オジサン、軽そうなんだもん……ああいう純情っぽい人の方が良いな~』

 

『私も、ああいう可愛い人の方が好みなの♪ごめんなさいね♪』

 

『……そうです、か』

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

ガチャッ。

 

屋敷の奥へと進み、俺は一番大きな扉を開け放った。

その先に広がる光景は、これまた随分と金の掛かってそうな造りをしてる。

大理石の床に神殿にありそうな太い石柱。

石柱と大理石の床の間を通る水にブルーのライトが、水面を怪しく光らせている。

そしてフロアの壁を大きく刳り貫かれた巨大過ぎる水槽。

どうやらここが大男の言ってたボスの部屋らしいな……石柱の影に『1人分』の気配もある。

 

「……人を覗いておいて、自分は姿隠して石柱の影からコッチを窺うのが流儀なんスか?……サイの花屋さんよ?」

 

「……フッ。バレちまったか」

 

俺の言葉を聞いてフッと笑った男はゆったりとした足取りで石柱の影から現れ、水槽の前に備えられたデスクに腰掛ける。

標準よりも小柄な身長に、撫で付けてオールバックに整えられた髪。

口髭を蓄えた顔付きは、だいたい4~50代ってトコだ。

赤色のゆったりしたズボンを履き、素肌に前を開いた龍の刺繍入りのガウン。

首元と腕には金のアクセ、手に持った高級葉巻……間違いねぇ様だな。

 

「お前さんの言う通り、俺がサイの花屋だ。よろしくな、世界で2人しかいない男性IS操縦者さんよ?」

 

男……サイの花屋さんはそう言って葉巻をプカプカと吹かす。

名前で呼ばねえのは皮肉のつもりかよ。

 

「……鍋島元次だ。花屋さんに調べて貰いたい事があって来た」

 

どうせ覗き見してて知ってるだろうが、形式上の前口上を口にする。

下手にこの人の機嫌損ねたら面倒だからな。

 

「あぁ……鳳維勳の居場所が知りてぇんだろ?」

 

「そうッス……ウェイの親っさんが今何処に居るか……探してもらえるんスか?」

 

「フン。既に部下達に捜索はさせてる。後はそっちからの報酬待ちってトコだ」

 

「……幾ら掛かるんで?」

 

既に向こうの仕事は始まってるというのなら、俺は報酬を何とか成立させなきゃいけねぇ。

だがこの男は知ってる筈だ、俺がどういう経緯でこの町に来たのかを。

なら花屋さんは、その事を踏まえた上で、俺に幾らの報酬を出させようってのか。

花屋さんは勿体ぶる様に両手をデスクに付きながら、俺にジッと目を合わせてくる。

 

 

 

 

 

「――300万だ。ビタ一文まけねぇぜ」

 

 

 

 

 

……さんびゃく?

 

「……それは、俺がそんな大金を持ってねぇと知った上で言ってるんスよね?」

 

「そうだ。お前さんが300万を作ってくるまで、俺は何一つ情報を教えるつもりはねぇ……更に言うなら、秋山から金を借りるってのも無しだ。それじゃあ他の必死に金作ってきた客にフェアじゃねぇからな」

 

まるで先回りするかの様に、花屋さんは俺の金策出来る範囲を狭めていく。

その上で今日中に300万を作るなんて事、到底無理だ。

つまりそれは、俺には話す事は無いという拒絶か、それとも――。

 

「まぁたかが16の小僧に大人げない大金を要求した上で、自分の友の為にという仁義で動いてるお前さんを追い返したんじゃあ、情報屋としても大人としても俺の面子が立たねぇ――そこで、お前にチャンスをやろう」

 

「……チャンス?」

 

「そうだ……お前さんにはある『仕事』をしてもらう……見てきたお前さんなら大丈夫だろうと思うからな……着いてきな」

 

花屋さんはそう言って席を立ち、俺の入ってきた入り口へと向かう。

……どうやら、俺はこの仕事をする以外に自分の立てた誓いを通す事は出来ねえらしい。

なら……覚悟してきたんだし、いっちょやってやりますか。

改めて自分の中で覚悟を決めた俺は、花屋さんに着いて屋敷の外へと戻る。

すると、入り口の前には秋山さんと伊達さんが待っていた。

 

「よう、久しぶりだな」

 

「ご無沙汰してますね、花屋さん」

 

「ったく。アンタ等また妙な客連れてきやがって……」

 

久しぶりと挨拶をした秋山さん達に、花屋さんは面倒くさそうに言葉を返す。

だが、花屋さんの言葉を聞いた秋山さんは意外そうな顔を浮かべる。

 

「あれ?でも、知りたがり屋の花屋さんなら、絶対気に入ると思ってたんですがね」

 

「……まぁ、俺もこの坊やがどんな『喧嘩』を見せてくれるか、楽しみではあるがな」

 

「お前、こんな若いのにまで『桐生』達と同じ事させんのかよ……」

 

「前も言っただろう?俺はフェアじゃねぇ事は嫌いなんだと」

 

楽しそう、というか旧知の仲の様に3人は話を進めるが、俺は花屋さんの言った言葉が引っ掛かった。

喧嘩……?俺は誰かと戦わせられんのか?

まだ説明されていない仕事内容に若干の不安が現れるも、それをグッと飲み込んで3人に着いて行く。

すると、さっきの繁華街まで戻ってきた時に、花屋さんはある大きな扉の前に立った。

花屋さんが来たのを見た門の脇に立っている門番は一礼すると、大きな門を開く。

更にそのまま花屋さんが進んでいくので着いて行くと、これまた厳つい石造りの廊下へと辿り着く。

更に脇にはモニターの吊るされた受付の様な場所まで完備されてた。

おいおい、何か物々しい場所に連れて来られたモンだな。

 

「さて、お前さんに頼む仕事の説明に入るとするか……ここは地下闘技場だ」

 

「闘技場……そんなモンまで完備してるんスか?」

 

「あぁ。ここは娯楽の固まりみてぇな場所だからな。飲食に違法風俗、賭博にと何でも揃ってる。その中で一番人気なのがこの闘技場バトルだ」

 

花屋さんの視線がモニターに移ったので同じ様に見てみると、ちょうど戦いの中継がされていた。

12角計のリングの上で、男達が激しく拳を交わしつつ、何と金的を行ったのだ。

アレって普通に反則じゃねぇのかよ?

視線で花屋さんに問うと、花屋さんはニヤリと口元を吊り上げて俺を見返す。

 

「ここにはルールなんてモンはねぇ。公式試合で反則とされてる攻撃でも何でもOKだ……さて、もう察しは付いてるだろうが、お前さんにはこの闘技場で戦ってもらう」

 

「……それで?」

 

先を促すと、花屋さんは頷きながら口を開く。

 

「これからやるマキシマムGPという戦いで、3人勝ち抜けば優勝。その優勝賞金を報酬として貰う。ちなみにルールは武器の使用以外、一切が認められる素手のみのバトル形式だ」

 

何ともまぁ……バーリートゥード様々だぜ。

まぁここまで来て尻尾撒いて帰るだなんて、俺のプライドが許さねぇしな。

いっちょ思いっ切り暴れさせてもらうとすっか。

 

「わかりました……この仕事、受けさせてもらいます」

 

「おう……最近の闘技場のバトルはつまらないモンばっかりでな。客が皆飽き始めてる。今日は思いっ切り盛り上がる事を期待してるぜ」

 

花屋さんはそう言うと俺の肩を叩いて受付から出て行く。

だが、直ぐに「おっと。そうだった」と言って振り返り、俺に笑顔を浮かべて口を開いた。

 

「何か戦う前に欲しいモンがあったら、『後ろ』の姉ちゃん達に言いな。じゃあ伊達と秋山は着いて来い。今日は特別に観客席へ招待してやる」

 

「お?ラッキーですね伊達さん」

 

「あぁ……それじゃあ鍋島。頑張れよ?」

 

「しっかり頑張っていくんだよ。君が俺達に言った覚悟の程を見せてくれ」

 

秋山さんと伊達さんは俺にそう言って花屋さんに着いて行くが、俺は直ぐに首を捻る事になる。

ん?後ろの『姉ちゃん』達?

花屋さんの言葉に何か嫌~な物を感じ取って振り返ると――。

 

「えっへへー♪また会ったね、お兄さん♡」

 

「まさかもう再会するとはね……私達が試合までの間、お世話してあげるわ♡」

 

ソコにはさっき会った改造着物のお姉さん方が……は、花屋ぁあああああああッ!?

あんのオッサン絶対に俺がこの2人にからかわれてたの知ってんだろぉおおッ!?嫌がらせかぁああッ!?

とっても妖しい笑顔で迫ってくる美女2人に、俺は試合に出る前に負けるんじゃなろうかと戦慄してしまうのであった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「あは♡やっぱり凄い体してるぅ♡」

 

「それにこの雄の匂い……ハァ♡嗅いでるだけでクラクラきちゃう♡」

 

「ど、どうもッス」

 

さて、何とかかんとか迫る美女2人相手に理性を守り切った俺は、上半身裸でソファに座っていた。

裸なのは別にエロエロな事があったからじゃない。

ただ返り血が着いたら帰る時に面倒な事になるかも知れねえからだ。

右手の怪我も包帯を新しいのに替えて巻き直しておいたので問題はねぇだろう。

しかしこの美女2人にはお手上げです。

もうね?誘ってます感が半端じゃねぇのよこれが。

試合前に何してんだよ俺って話な訳です、はい。

 

『レディース&ジェントルメン。お待たせ致しました。記念すべき第4000回、神室町地下闘技場トーナメント。一回戦を執り行います!!』

 

おっ、遂にお呼びが掛かったか。

俺がソファから立ち上がるとお姉さん達も立ち上がって、俺に手を振ってくれた。

 

「頑張ってね!!お兄さん!!」

 

「ふふ♡負けたりしたら、私達が寝込みを襲っちゃうわよ?」

 

「あははっ……あ、ありがとうございます」

 

何で襲うって言われてんのにお礼言ってんだ俺は?馬鹿か?

最後にお姉さん達から投げキッスを頂戴した俺は気を引き締めて入り口のゲートを潜る。

そうすると眩しい位のスポットライトと、観客からの咆哮が俺の耳と目を支配した。

俺はその光と音のシャワーの中を悠然と歩いて行く。

 

『今回の一回戦、いきなり注目の新人が入場してきます!!何と歳は今年で16歳!!この地下闘技場に於いて異例の若さで入場してきたのは、今世紀尤もホットな男!!世界に2人しか存在しない男性IS操縦者の1人、鍋島~~ッ!!元次ぃいいいいいッ!!』

 

司会が繰り広げるマイクパフォーマンスの中で俺の年齢が発覚した瞬間、客からはブーイングの嵐が鳴り始めた。

大人達が戦ってる中で若さがヤバイっていうか、小僧だもんなぁ。

まぁそんな事は俺には微塵も関係無ぇんだが。

聞こえてくるブーイングを無視しながら真ん中のリングへと上がると、ブーイングの勢いは少しだけ納まった。

多分俺の体を見て問題無しと判断した人達だろう。

残りは「見掛け倒しだろどうせ!!」とか「ガキは帰ってママのおっぱい吸ってろや!!」なんてアホ染みた言葉の数々。

ブーイングが酷すぎて、司会も進行がままならない様だ……しゃーねぇ。

俺は体を揺らさずに息を大きく吸い込んで――。

 

 

 

 

 

「スゥ――――ガタガタうるせぇええええええええええッ!!!!!」

 

『『ッ!!!??』』

 

 

 

 

 

腹から思いっ切り、威圧を篭めた声を張り上げた。

その大きすぎる声量に驚く客や、俺の威圧にビビッてしまい、皆がシンと静まりかえる。

これでこの会場の流れは変えられたな。

 

「外野がギャーギャー喚くんじゃねぇよ……ココは殴りあう場所だろうが?あ?人様に文句付けてぇんなら、今直ぐここに降りて来いッ!!」

 

リングを囲う様に配置された観客席を見渡しながら、俺はリングに降りて来いと言ってやる。

つまり、俺と殴り合いしてぇって奴だけ相手してやると言ってやった訳だ。

 

『『……』』シーン

 

案の定、誰一人としてリングには降りて来ない。

まぁ所詮皆と一緒じゃねぇとブーイングも出来ねえ馬鹿共だ、相手するだけ無駄って奴だろう。

グルリと観客席を見渡していき、誰もが俺から目を背ける中で、秋山さんと伊達さん、そして花屋さんが面白そうに俺を見ていた。

 

『――さて、皆さんもご納得された所で、対戦者の入場です!!』

 

全員が静まり返り、俺が真っ直ぐに相手の出て来る場所を見た瞬間を狙ったかの如く、司会がアナウンスを再開する。

それと共に再び歓声が爆発する観客席。

さあて、俺の対戦相手は一体何処の誰なんだろうな?

薄暗闇の中から歩いてきたのは、ファイトパンツ一丁という外国人選手だ。

 

『雪辱を果たす為にリングへと舞い戻ったのは、6年前の試合で地下闘技場名誉王者に敗れてから自然の中で鍛え続けた男!!ムエタイ元ミドル級チャンピオン!!ガオワイアン!!プラムッッッックゥゥゥウッ!!!』

 

ガオワイアンはアナウンサーの紹介と共に、俺の前で軽く演舞するかの様にコンビネーションを繰り出す。

左右左と肘打ちの連続からテ・ラーン(ローキック)ときて絞めにハイキック。

まるで流れる水の様な連続技に、観客席から歓声が挙がる……現金な奴等だな、ホント。

そうこうしてる内にこのリングを覆う鉄柵が上から降りてきて、俺達を外の世界と隔絶する。

いよいよ始まるって訳だ。

 

『さあ!!元ムエタイ王者対アマチュア喧嘩屋!!勝つのはどちらか!!今、ゴングです!!』

 

ドワァアアアンッ!!!

 

ゴング、と言うよりは中国の銅鑼の様な鐘で音が奏でられ、負けられない試合が始まった。

俺が動くより先に、ガオワイアンが先に突っかけてくる。

 

「ハイィィィイヤァアアアアッ!!!」

 

まるで薩摩藩士の如く気合の篭った雄叫びを上げながら、彼の放つハイキックが俺の首もとを狙ってくる。

その鋭さと速さは、俺の蹴りとは比べるべくも無い程に綺麗な蹴りだ。

さすがに一度はムエタイの世界王者に輝いていただけの事はあるぜ……でもよ。

 

 

 

――ちと、俺とは相性が悪すぎるぜ、アンタ?

 

 

 

迫り来る鎌の様な蹴りに対し、俺は焦らず何時もの如く『猛熊の気位』を発動。

更に自分の首元の筋肉を思いっ切り絞めて防御を固める。

 

――ドゴォオオオッ!!

 

力強い音と共にガオワイアンの放った蹴りは俺の首元にブチ当たり、奴はニヤリと口元を曲げる。

まるで「勝った」と言わんばかりに油断した勝利の笑みだが……。

 

「……そんなんじゃ、俺には響かねぇぜ?(ガシッ)」

 

「ッ!?」

 

まるで効き目の無い蹴りで油断してちゃ、俺には勝てねえっての。

ニヤついた笑みを浮かべるガオワイアンに対して、俺も奴の足首を握りしめてニヤリと笑う。

それを見たガオワイアンは驚いた表情を浮かべながら足を引こうとするが、俺がしっかり握ってる所為で戻せない。

さぁ……今度はコッチの番だぜッ!!!

 

「――そぉおおおおおらぁああああああッ!!!」

 

ブォオオオオオオオオンッ!!!

 

「~~~~~~ッ!?」

 

俺はガオワイアンの掴んだ足を起点として、力を籠めて振り回す。

100キロも無いガオワイアンの体はそれだけでもう片方の足も地面から離れてしまい、奴の体は俺の力で振り回される。

俺の力プラス一回転分の遠心力プラス奴の体重、そして――。

 

バゴォオオオオオンッ!!!

 

「ッ――」

 

俺達を覆う鉄柵を天然の武器として使い、ガオワイアンを勢い良く叩き付けてやる。

鉄柵の丈夫な場所に顔面をしたたかに打ち付けたガオワイアンは白目を向き、鼻血を垂れ流しながら倒れた。

 

「ウグゥッ!?……クッ……ハァ」

 

しかしそこはさすがというべきか、ガオワイアンはダメージを押して立ち上がろうと手を付くが、俺は追撃を緩めない。

ジャンプしてからの、自分の体重を使った押し潰しでフィニッシュだ。

 

「オルァアアアッ!!」

 

ズドォオオンッ!!

 

「ゴブゥッ!?…………カッ」

 

ダメ押しとばかりに繰り出した体重の乗ったスタンプ攻撃をモロに食らったガオワイアンは地面にヘタリこみ、等々気絶した。

これぞ、遠心力を上乗せした振り回しから固い壁にぶつけて敵をブチのめす『デビルスイング』というヒートアクションだ。

開始初っ端から派手なパフォーマンスだが、これぐらいしておけば誰も俺の実力に文句を付けねぇだろう。

余りにもあっけなく一方的な試合運びに、伊達さん達を含めて誰もが唖然とするが、それも一瞬の事。

 

『『――ウォオオオオオオオオッ!!?』』

 

次の瞬間には歓声が爆発し、闘技場の雰囲気は最高潮に達した。

それと共に俺とガオワイアンを囲っていた鉄柵が持ち上がり、俺はリングを後にする。

 

『つ、強い!!正に勝負は一瞬の内に付いてしまいました!?ミドル級とはいえ元世界王者のキックをノーガードで、しかも笑いながら受けとめ、それをそのまま攻撃に利用するという豪快な戦い方!!コイツはとんでもないファイターが現れましたぁあああ!!!』

 

驚きに満ちた司会のトークを聞きつつ闘技場を後にし、俺は再びソファへと座った。

後2回勝てば良い訳だが、まだ他の試合は終わっていない。

だからこそ次に自分の出番が来るまでは休まねえとな。

そう思って気を抜いた俺だが――。

 

スルスルスル。

 

「うおぉ!?な、何だ!?」

 

「あん♡動いちゃダ・メ・♪」

 

「い!?お、お姉さん方!?」

 

後ろから俺の上半身に蛇の如く手を這い回らせて美女2人が出現。

1人はそのまま俺の肌を撫でながら注意を促し――。

 

「フフッ……汗掻いたでしょ?……私がスッキリさせてあげる♡」

 

「もぅ~。先輩にじゃんけんで負けちゃったしなぁ……そうだ。私は君の緊張してる体、ほぐしてあげるね♡」

 

「ぬあ!?い、いやちょっと待っ……ッ!?」

 

有無を言わせぬ雰囲気の2人を前にして、俺は次の試合に出れるか心配で堪らなかった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「いやー、すんごいもん見せられちゃいましたねぇ」

 

「人間をあんな簡単に振り回すなよ……冴島じゃあるまいに」

 

「ある意味、彼と同じ様な事が可能な人物を知ってる俺等も大概だとは思いますけどね……花屋さんはどう思います?」

 

所変わってコチラは地下闘技場の観客席。

時間は進み、間もなく元次の試合、その第二回戦が行われようとしてる。

その一角にある観客席に座る秋山、伊達、花屋は先程の試合の事を思い出していた。

圧倒的なパワーにモノを言わせたゴリ押しスタイル。

彼らが今まで見てきた喧嘩の中で尤も近い存在は冴島大河だと決まっていた。

まぁ彼等は知る由も無いが、元次に喧嘩の手解きと訓練をつけていたのは他ならぬ冴島本人。

従ってバトルスタイルも似通って当然なのだ。

 

「あぁ。まさか彼処まで派手にヤラかす小僧だとは思わなかったぜ……勝負は一瞬で決まったってのに、観客の眼の色を変えやがった」

 

花屋の言う通り、観客席に入る者達は最初と違って元次の登場を待ちわびていた。

司会が呼び出す彼の姿を見たいと、皆ウズウズしているのである。

花屋も映像越しに今まで見てきた元次の喧嘩との違いに目を見開いて驚き、直ぐに笑みを浮かべていた。

町の喧嘩を見た限りでは中の上といった所だと予想していた花屋だが、実際は違う。

事実、元次がこの神室町に来て本気で殴った相手は、実際の所居ない。

冴島と同じ怪力を使った元次の戦闘方法では、本気で殴れば相手を殺し兼ねない程強力なのだ。

だからこそ、冴島も元次も一定以上の強さを持たない相手には常に手心を加える様、無意識にブレーキを掛けている。

花屋はその手加減された力を見て、元次の力量を履き違えてしまったのだ。

 

「だが、次の試合。あのノーマン相手にどう戦うかな?」

 

『さぁ、いよいよ第二回戦!!第一試合は、初っ端から豪快な戦い、そして我々を圧倒する威圧感を引っ提げて登場した若き喧嘩屋!!野獣の代名詞!!鍋島元次!!』

 

花屋の呟きに同調するかの様に司会が試合を進め、入場ゲートから元次がその姿を表わす。

……何やら凄く疲れている様に見えたのは秋山達だけだったが、元次は堂々とした出で立ちを維持している。

その姿に観客から歓声が大きく張り挙がり、会場の盛り上がりも一気に上がった。

皆口々に「もう一度瞬殺してやれー!!」だの「やっちまえー!!」と、さっきとは歓声の意味すら間逆だ。

 

「あらら。皆一気に心変わりしちゃってるし」

 

「それだけあの戦いが強烈だったのか、それか鍋島に掛かって来いと言われたのが尾を引いてるんだろう」

 

「まぁ確かに、あんなに堂々と正面から威圧されちゃ、普通は喧嘩なんか売れっこ無いですよ」

 

「俺だったら勘弁被るね」

 

『対するは、恐怖の暴走機関車!!一度リングに上がれば周囲が止めるまで暴れ続ける大巨人!!ノーマン・クレイジー・ウェイドォォオオオッ!!』

 

そして元次とは反対側のゲートから出てきた対戦相手は、身長2メートル10センチ、体重136キロという日本人離れした巨人、ノーマンだった。

彼は司会が言う通り、一度暴れだしたら手が付けられない程の暴力を相手に振るう。

それはリングの外でも同じで、現役時代に数々の問題行動を起こしていた。

そして、より暴れ甲斐のある場所を求めて、この地下闘技場に現れた経緯を持つ。

幾ら元次が年齢や標準離れした体格を有すると言っても、ノーマンから見れば体格差は歴然。

花屋は密かに心の中では、元次がここで負けるだろうと思っていた。

 

『注目の一戦!!勝つのは仁義無き暴走特急か、仁義を重んじる野獣なのか?今、ゴングです!!』

 

ドワァアアアンッ!!!

 

そして、合図の銅鑼と共にノーマンが駆け出し――。

 

「え!?鍋島君も走った!?」

 

「おいおい!?まさかあの体格差で正面からやり合う気か!?」

 

何と、元次もノーマンに向かって走りだしたのだ。

これに伊達達が目を見開く中、対戦相手であるノーマンもビックリするが、ノーマンは「上等だ」と言わんばかりにスピードを上げる。

一度火が点いたら止まらないとでも言うかの如く、ノーマンは連続で殴る事を得意とする。

この衝突で元次が出鼻を挫かれれば、ノーマンの連続打撃に晒されるのは自明の理。

ノーマンはその最大のチャンスを最大限に活かすべく、得意の右ストレートを元次目掛けて放つ。

花屋がこれで元次は終わってしまうだろうと僅かに落胆を見せていたその時――。

 

 

 

「――どらあ!!」

 

ズドォオオンッ!!

 

 

 

何と、元次は加速の勢いと全体重を乗せた『頭突き』で、ノーマンの右ストレートを迎え撃ったのだ。

人体の中で尤も固いと言われる頭部を使用した打撃。

それを両者加速の乗った状態からぶつけるという行為は相当な威力とダメージを誇る。

では、そんな固い頭突きを拳で迎え撃ったノーマンはどうなったか?それは極めて単純――。

 

「――aooooooooooooo!?」

 

グローブに守られている拳を抑えて、ノーマンは悲痛な悲鳴を挙げる。

更に鮮やかな赤色のグローブの中心から、少しづつ濃い赤色が滲み出てきていた。

 

「うわぁ……あれ砕けてるでしょ?」

 

「人体で尤も固い頭突きをあの速度からブチ当てりゃ、拳なんか簡単に砕けちまうからな……これも予想外だったぜ」

 

リングの上で披露された屈強なるバトル模様に、秋山は表情を歪めていく。

自分の拳がああなってしまった時の事を想像したのか、自分の拳をさすっている。

そしてリングの上で蹲るノーマンを見て、試合は終わると思ったのか、背を向けてリングから出ようとする元次。

 

 

 

――だが。

 

 

 

「む!?ノーマンが立っただと?」

 

「おいおい。もう勝負は付いてんだろう?花屋、直ぐに止めさせろ」

 

「馬鹿言うんじゃねぇ。ここは闘技場だ。一度試合を始めちまったが最後、どっちかが参ったと言うか気絶するまで俺でも止める事は出来ねぇよ」

 

元次が背を向けて出て行こうとしてた直後、ノーマンはフラフラとしながらも自分の足で立ち上がった。

右手をダランと下げた姿勢だが、戦う者には分かるだろう……ノーマンの瞳から、戦意が途絶えていないのを。

彼の不屈の闘志を目の当たりにした元次は目を見開いて驚き、観客はノーマンのガッツに賞賛を浴びせた。

更にノーマンは左手だけでファイティングポーズを取り、元次を強く見据える。

 

「ハァ……ハァ……come on(カマン)boy(ボーイ)!!fight(ファイッ)!!」

 

「……あんた」

 

例え拳が潰れようとも、ノーマンに引く意思は無い。

その事を雄弁に物語っているのは彼の必死な言葉だけでは無い。

数秒間ノーマンと見詰め合った元次には何か感じるモノがあったのだろう。

冴島に教わったコンパクトな構えを取り、再び瞳に闘志を宿す。

そんな元次の様子を見たノーマンはニッと嬉しそうに笑って、再び元次に特攻を掛けていく。

乾坤一擲――正にその表現が正しいであろう。

この一撃に賭けると言わんばかりの後先見ない攻撃……潔いと言うべきであろうか。

 

「――かっこいいじゃん……いくぜぇッ!!ノーマンーーーッ!!」

 

それは、元次にとって好ましい男の戦い方そのものであった。

だからこそ、元次はノーマンに敬意を表して、敢えて全力でノーマンを迎え撃つ。

それこそが、全力でぶつかってくる相手に対する礼儀だから。

 

「はぁああああああああッ!!」

 

「ウオォオオオオオオオオオオッ!!」

 

正に野獣。

そう表現するのが一番しっくりくるであろう雄叫びを挙げて、両者は再び激突。

元次に右手を潰されて、左手しか残っていないノーマン。

先日の一件で右手を怪我し、100パーセント万全の状態では無い元次。

奇しくも重なった両者の同じ条件の結果は――。

 

 

 

ズドォオオオオオオンッ!!

 

 

 

骨どころか大地を穿ったんじゃないかという轟音が両者の顔から響き渡る。

 

「ク、クロスカウンター!?うわ!?俺ナマで初めて見ちゃったよ!!伊達さんは!?」

 

「俺だってこんな光景見たの初めてだっつうの!!」

 

「……観客の盛り上がりが尋常じゃねぇ……こりゃ優勝持っていっちまうかもな」

 

ボクシングの世界でも綺麗に成立する事は殆ど無いとまで言われるクロスカウンター。

それがこの地下闘技場の戦いで、余りにも綺麗に決まった事で客の盛り上がりはピークに達している。

こんなに盛り上がったのは、この闘技場の名誉王者が初出場した時や嶋野の狂犬と戦った時以来だなと花屋は思い出す。

まさかその時並みの盛り上がりを16の小僧に再現されるとは、と花屋は苦笑を浮かべた。

一方リングの上で、ノーマンと元次は拳を互いの頬に叩きこんだ体勢のままで止まっていた。

 

「……」

 

「(ニッ)――カフッ」

 

ドスンッ!!

 

しかしこの均衡も、ノーマンが笑いながらリングに沈んだ事で解消される。

立っているのは元次……勝敗は決したのだ。

 

『強い強い強ーーい!!圧倒的体格差をものともせず、ここまで50戦無敗のノーマンをあっさりとリングに沈める戦闘力!!一体どんな修練を積めば、その若さでここまでの強さを得られるのか!!鍋島元次、あっさり決勝進出ーーー!!』

 

司会の賞賛を聞きながら、元次はポケットに手を入れてリングを後にする。

その後姿に賞賛の嵐が止む事は無かった。

 

「呆れた小僧だぜ……まさかああも簡単にノーマンを倒しちまうとはな」

 

「あぁ。本当にどんな訓練したらああなるか不思議に思えてきた……その辺も取材しとけば良かったな」

 

「確かに凄いですよね、彼……フーム」

 

「ん?どうした秋山?」

 

伊達、花屋、秋山が元次の強さに其々の思いを語り合っていた最中、秋山は何かを考える様に顎へ手を当てて思案している。

その行動を見た知りたがり屋の花屋が質問すると、秋山は少し笑顔を浮かべて口を開く。

まるで何か面白い事を思い付いたとでも言わんばかりに。

 

「いえ。ちょっと考えちゃったんですよ……鍋島君って遥ちゃんと同い年だし、あの極道にも物怖じしない遥ちゃんと彼が出会ったらどうなるのかなーって」

 

「……いや、幾ら何でも遥と鍋島じゃ接点が無いだろ?」

 

まるで玩具を与えられた子供の様に弾んだ声でそう言う秋山に、花屋と伊達は苦笑を隠せなかった。

 

「そうでも無いですよ?遥ちゃんはアイドルだし、鍋島君もテレビに顔が出る有名人ですから……もしかしたらロマンスに発展するんじゃないかなと。ラブの付く」

 

「おいおい止めてくれって。考えるだけで恐ろしい」

 

「あれ?伊達さんはあんまり乗り気じゃ無いみたいですね。遥ちゃんと鍋島君が会うの?」

 

伊達は秋山の想像した未来が嫌らしく、手を振って秋山の話しを中断させようとした。

自分達の良く知っている少女が元次と会ったら如何なるか、秋山はそれに興味が尽きない様子だ。

特に花屋と伊達は秋山より前から、それこそ9歳の時から遥の事を知っている。

だからこそ、もしかしたら既知の少女が恋に走るかも……と考えるのが嫌なのかなと秋山は笑うが――。

 

「別に会うのは良いが、もし遥と鍋島がそんな事になってみろ?桐生が大人しく黙ってると思うか?……アイツがどれだけ遥を大事にしてるか、知らない訳じゃねーだろ」

 

「……」

 

伊達の疲れた感MAXの言葉に、さすがの秋山も冷や汗を流す。

確かに、遥という少女は自分達の既知であると同時に、『ある男』の娘同然でもあるのだ。

その男が普通の男なら良かったが、今は堅気でも昔から伝説として語り継がれる極道だった。

そんな男が娘同然に大事にしてきた宝物を横から掻っ攫う相手を許すだろうか?

いやまさか……幾らあの人でもそこまで大人げ無くは……。

一抹の望みを掛けてそう思いたかった秋山の耳に、花屋が遠い目をしながら口を開く。

 

「何だろうなぁ……俺には何故か、関係ねぇ筈のこの神室町が火の海に包まれるイメージしか湧いてこねぇんだが……」

 

「この話、止めましょうか」

 

薮を突付いて蛇、どころか龍が出てきちゃ洒落にならん。

と、秋山は自分が振った話題を断ち切るのであった。

そうこう話をしている間にも試合は消化され――。

 

 

 

『――お待たせ致しました……いよいよ、決勝戦を執り行いますッ!!!』

 

 

 

残す試合も後1つ、決勝戦のみとなった。

 

 

 






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