IS~ワンサマーの親友   作:piguzam]

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とりあえず今後の予定は金銀来襲まで書いていきます。


サブストーリー、親の心

 

 

 

『さぁー。ここまで白熱した試合が展開されてきましたが、この神室町地下闘技場マキシマムGP!!いよいよ決勝戦です!!』

 

司会の興奮した叫びによる実況が伝染し、観客達のボルテージも一気に振り上がる。

いよいよだ……この試合に勝てば、花屋さんにウェイの親っさんの居場所を教えて貰える。

なら、後は目の前の敵をブチのめして終わらせるだけだ。

自分のテンションが勝手に上がり、心拍数が強くなっていくのを感じながら、俺はリングへと足を伸ばす。

 

『おぉーっと現れました!!この闘技場に彗星の如くデビューし、対戦者を2撃以内で仕留め尽くした野獣の如き漢!!その堂々たる佇まいは往年の名誉王者の風格を思わせ、昨今の女尊男卑に真っ向から立ち向かう鋼鉄の意志を体現した者!!鍋島元次だぁああ!!』

 

リングの端に上がりきった俺の紹介に、観客のボルテージはとんでもない声量で現された。

俺はその歓声に特に反応する事もせずに、対戦相手の出て来るゲートに視線を向ける。

さあて、俺の相手は誰だ?

 

『闘技場を荒らしまわる野獣に対するは……驚きです!!なんとあの男が帰って来ました!!』

 

対戦相手を待っていた俺や観客は、皆揃って頭に「?」を浮かべる。

あの男?……この地下闘技場の有名人か?

そう思っていた時に、反対側のゲートが開き、中から1人の男が現れた。

その堂々とした歩き方は、まるで今からの試合に対して気負うという事をしていない。

……っておい……まさか……?

 

『5年前まで、闘技場でこの男の事を知らない人間は居なかった。名誉王者、そして隻眼の魔王に敗れた過去を持つも、その強さは未だ決して衰えず……野獣の進撃を止められるのは、もはやこの『鋼鉄の男』しか居ません!!』

 

司会の熱が篭った紹介を聞いてる間にも、対戦相手の男は歩み、遂にリングに入って俺と相対する。

男は俺に対して笑みを浮かべたままにサイドチェストのポーズを取り、鍛え込まれた筋肉を魅せつけてきた。

その膨張率、そして密度は見た目では俺と同等か……俺より少し上かもしれない。

俺に対しての明らかな挑発。

そんな分かりやすい挑発を見せられた俺も、分り易く笑みを浮かべてその男に声を掛けた。

 

「よう――『また会った』ッスね?」

 

『ここに来る前に会った男』……身長2メートルは軽く超えた大男にそう声を掛ける少し後、司会が彼の事を紹介する。

どうやら、ここで少しは有名だった男の様だ。

 

『過去302戦300勝2敗!!元ベガスの地下リングチャンピオン!!――――ゲェェェエイリィィイイッ!!バスタァ、ホォオオムズッ!!』

 

302戦300勝2敗という異常な戦績を持つ大男……ゲイリー・バスター・ホームズは、俺の言葉に笑顔を浮かべたまま口を開く。

今も笑顔を浮かべて余裕な俺の挑発に対して、ゲイリーは挑発を更に盛ってこようって訳だ。

 

「奇遇デスネ。鍋島サン……即死ト、腹上死……オ好ミハ?」

 

「オイオイ……その日本語。意味分かって使ってんのか?」

 

死の意味合いだけしか噛み合ってない似非日本語を聞いて笑ってしまうが、それでも俺は威圧する事を止めない。

一方でゲイリーも俺の威圧すら涼しいとでも言わんばかりの笑顔を浮かべたまま、構えを取る。

やっぱ、今までの相手とは『格』が違うって訳か……コイツ、かなり強い。

冴島さんや千冬さん程じゃねぇが、それでも一般人から遠く離れた強さだろう。

多分花屋さんの差金だろうな……観客席ですっごく良い笑顔浮かべてらっしゃる。

まぁ、それだけ俺の本気度合いを確かめようとしてるって事だろう……上等じゃねぇか。

 

『出会ってはいけない2人が出会ってしまった……この男達が引き起こす化学反応!!それは我々を中毒にしてしまうのか!?今、ゴングです!!』

 

ドワァアアアンッ!!!

 

俺とゲイリーが構えを取った瞬間、待つのも苦だと言わんばかりにゴングが鳴らされる。

さぁ、いっちょいったろうじゃねぇか!!

前の試合と同じ様にダッシュで距離を詰めた俺に、ゲイリーも距離を詰めて両腕を伸ばしてきた。

俺も真っ向から同じ様に腕を伸ばし、互いの手と手がガッチリと組み合わされる。

まずはド正面からのパワー比べだ!!

 

「うおぉおおおおッ!!!」

 

「フンヌゥゥウウウウウッ!!!」

 

ギリギリギリッ!!

 

互いに組み合った手に力を込めながら、俺達は一歩も後ろへ譲らない。

力を篭めた手から聞こえる筋肉を握りしめた音に、俺もゲイリーも表情を歪めるが、それでも拮抗は崩れなかった。

ぐっ!?どうやら『今のまま』じゃ押しっ比べはほぼ互角みてぇだな……それならッ!!

 

「スゥ――ガァアアアアアアアアッ!!」

 

「ッ!?グゥウウウッ!?」

 

さっきまで一度も崩れなかった拮抗状態が、俺の本気で動き出した力によって傾いていく。

俺が力を籠めていたのは腕と足腰。

更にそこから、相手の手を握りこむ力、即ち握力を更に上げてゲイリーの手を思いっ切り握り潰す。

その力は完全にゲイリーを超えていた様で、ゲイリーの体は上から力を込めている俺によって足が下へ下がっていく。

体格差では俺を超えていたゲイリーだが、俺の方が筋肉の力は上回っていたらしい。

まぁ、ヤマオロシを押さえ込めるまで進化した俺の体は、まだ余力を残している。

今のはさっきまで掛けていたリミッターの様なモンを一つ外したからこそ、俺の力が奴を上回っているって訳だ。

全力で殴っちゃ相手が死ぬかもしれないって理由で動いてる感覚のリミッターを外せば、俺は冴島さん以外に力負けする事は無いと思ってる。

リミッターを一つ外した領域に居るゲイリーも大概なモンだがな。

俺が力を上げた今では、ゲイリーの片足がリングの地面に着きそうな位置まで下がってきてる。

このまま押し潰して、追撃で終わらせてや――。

 

「――ッ!!ハァッ!!」ズガンッ!!

 

「んぐッ!?」

 

しかしさすがはベガスの地下リングチャンピオン。

自分が力負けしている事に気付く咄嗟の判断力は、俺より熟したその年季の違いとして如実に出ていた。

ゲイリー野郎は仰け反って俺より体が沈んだその場から頭を後ろに引き、頭突きをお見舞いしてきやがった。

その頭突きを頭では無く鼻っ柱にモロで受けてしまい、ダメージは無くとも驚いた事で俺の体から一瞬だけ力が抜ける。

 

「オォオオオオッ!!」

 

「ぐあっ!?ンなろぉッ!!」

 

その一瞬だけでゲイリーには充分だったらしく、奴は押さえ込まれかけてた体を起こし、俺と再び拮抗状態に入った。

立ち上がった奴の顔は笑顔になっていて、若干見下された俺への挑発には十分だ。

野郎……これみよがしに「余裕デス」ってか?

 

「舐めんじゃねぇぞ――ゴルァッ!!」ズガンッ!!

 

「アウッ!?」

 

お返しの意味も籠めてゲイリーの顔に頭突きを見舞ってやると、今度は押しっ比べの状態そのものが解かれる。

その一瞬、ゲイリーと目が合えば、奴の目も諦めは一切無い。

まるで示し合わしたかの様に、俺とゲーリーは互いの肩を掴んで、体勢を維持する。

手は使えず、蹴りも効果の余り無い距離……なら、使う武器は一つしかねぇよな。

 

「……アノ人達ニ負ケタ私ニモ、元王者ノ意地ガアリマス……ッ!!OKデスカ!?鍋島サン!!」

 

「あからさまに誘いやがって……上等だ!!来いや!!オッサン!!」

 

互いに至近距離で睨み合っていた頭を、勢いを付けて離してから再度近づける。

その衝突は、さっきまでの比じゃなかった。

 

「――アァアアアアアアアアッ!!」

 

「ダァアアアアアアアアアッ!!」

 

 

 

ダガァアアアアアンッ!!!

 

 

 

まるで、鉄と鉄がぶつかった様な鈍い音が、俺達の額から鳴り響く。

そう、俺とゲイリーは互いのドタマをぶつけあって頭突きをカマしたのだ。

当然、そんな音の出る勢いでぶつかり合った俺達が無事で済む筈も無く互いに後ろへ仰け反るが、俺達はそこからまた勢いを付けて頭を戻す。

喧嘩ってのは意地と意地のツッパリ合いだ……俺の意地とアンタの意地、どっちが硬ぇか――。

 

 

 

「ヴァアアアアアアアアッ!!」

 

「オオオラァアアアアアアアアッ!!」

 

 

 

派手にド突き合いといこうじゃねぇかッ!!?

 

 

 

ズゴォオオオオンンッ!!!

 

 

 

『そ、壮絶!!壮絶過ぎてもはや言葉がありません!!頭部という硬い箇所をひたすらぶつけあう愚直な攻撃!!一歩も引かない面子とプライド!!これだ!!これこそが地下闘技場の、IS生誕以前の男の戦いだぁあああ!!』

 

司会のアナウンスに乗って、観客の声ももはや一種の咆哮の様な声量で鳴り響く。

外野も俺達の喧嘩を見てかなりハイテンションになってるみてぇだ。

 

 

 

またもや鈍い音を互いの額から鳴らし、また激突。

頭が後ろへ投げ出されよう共、互いに組んだ肩の手は絶対に離さない。

引いたら最後、この意地のツッパリ合いは終わりを告げる。

絶対に引けない意地と意志、そして覚悟ってのを……見せつけねぇとな。

ズガンッ!!ズガンッ!!と何度も何度も連続で狂った様に頭を叩き付け合う俺達。

互いにどっちも引きたくないこの戦い……勝ちは、俺だった。

 

「ッ!?グッ!?」

 

あれだけ速度を乗せて額をぶつけていたから当然っちゃ当然なんだが、額へのダメージはかなりのモノになる。

『猛熊の気位』が発動している俺からすればダメージは微々たるモンだが、ゲイリーの方はそうはいかない。

既に奴の額からは結構な量の血が流れ始めている。

ここが好機と見た俺はすかさず頭をめいいっぱい後ろに反らし、さっきまでよりも速度の乗った頭突きを繰り出す。

 

「だるぁああッ!!!」

 

ズガァアアアンッ!!

 

「ゴブッ!?」

 

俺が放った渾身の頭突きは今までと違って、ゲイリーの鼻っ柱に叩きこまれた。

奴はその頭突きでもらった衝撃に耐え切れず、たたらを踏んで後ろへと下がっていく。

 

「(ザッ!!)ハァ!?ハァ……マ、マダマダ……コンナモノジャ、終ワリマセンヨ?」

 

「あれに耐えるのかよ……つくづくタフな男だよな、アンタも」

 

しかし、ゲイリーは額を抑えながらもその場に留まり、再びファイティングポースを取る。

頑丈さも今までの相手と違ってかなりのモノだ。

さすがに300勝してきたってのは伊達じゃねぇか……仕方ねぇ。

ここで時間を食う訳にもいかねぇし、久しぶりにいっちょ『解禁』しますか。

俺は一度ファイティングポーズを解いて、両手を解す様にフルフルと揺らす。

 

「アンタ強いから、そろそろマジでいくよ。ゲイリーさん……俺流の喧嘩の仕方……ってぇヤツで、さ(ゴキゴキッ)」

 

疑問顔で俺を見つめるゲイリーにそう返しながら首の骨を鳴らして体の力を少し緩める。

『コイツ』を使うのはかなり久しぶりだが……度肝抜かれんなよ?

 

 

 

 

 

俺が冴島さんと会う前に生み出した喧嘩術――『鍋島流喧嘩殺法』の極み。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「さぁ~さぁ~?ほ~しゅ~は払ったんだから、早く話してよ~リンリ~ン?」

 

「わ、私も聞きたいので、お願い出来ますか?鳳さん」

 

「ゴ、ゴメンね鈴?で、でもその……私も、元次君の事が知りたいから……あうぅ」

 

「わ、分かったからちょっと待って……いきなりデザート3つも食べたから、ちょっとヤバイ……うぷ」

 

「欲張るからだぞ、鈴」

 

所変わってコチラは毎度お馴染みIS学園の食堂。

そこは休日とはいえ寮制のIS学園の生徒達が365日使用するので、休みの日でも稼働している。

勿論帰宅していたり外出している生徒達も多いので普段よりは空いているが、そこに鈴達は居た。

最初は話を聞きたいという本音と話す側の鈴だけだったのだが、何処から聞きつけたのかさゆかと真耶も登場。

それに釣られてなのか、相川と谷本、箒にセシリアという大所帯が8人席を占領して座っている。

ちなみに最後に注意をしたのは箒である。

既に箒と鈴、そしてセシリアは一夏を巡るライバル関係として、互いに名前を呼び合う事で好敵手と認めた関係になっていた。

 

「し、仕方無いじゃないの。普段は食べれないちょっと割高なデザートだったからつい……」

 

「鈴さん。それが、その『つい』というのが油断大敵ですわよ?」

 

「分かってるって言ってるでしょぉ……ハァ。暫くは甘い物抜かなきゃ」

 

give&Takeという形でデザートをせしめた鈴だが、それが予想よりもお腹にキテいるらしい。

お腹を抑えながら水を飲む姿は、ちょっと頑張りすぎたと如実に物語っていた。

一夏を巡る事以外では、普通に仲の良い関係なのである。

疲れた表情で今後の食事制限を考えながら、鈴は水を飲んで口の中を潤す。

 

「ふぅ……で?ゲンの何について話したら良いのよ?大体の事なら話せるけどさ」

 

「じ、じゃあ、まずは私から……元次君って、その……どういう女性が好み……かな?」

 

そして、遂に始まった元次の情報公開タイムのトップバッターはさゆかだった。

彼女的には元次に渡すつもりでいるお弁当はあくまであの所属不明機から助けてもらったお礼であり、作戦等では無いのだ。

本命は、元次の好みを把握しつつ、自分なりに元次に好いてもらおうという考えである。

いきなりの核心、というか本命的な質問に、全員が「おぉ~!?」と驚きの声を上げる。

ここまで積極的かつ大胆に聞くとは思わなかったのであろう。

そんな全員の反応にさゆかは顔を赤く染めて萎縮してしまうが、聞く姿勢だけは維持していた。

 

「ゲンの女の好みかぁ……そうね。外見とかはあんまり問題に思って無いわよ?寧ろアイツは中身、つまり性格を気にする方だわ」

 

「えー?でもさ、そういう事言ってても、結局外見で惚れる人って多くないかな?」

 

最初の答えが予想外というか信じられないのか、さゆかの隣に座っていた相川が異を唱える。

谷本とセシリアも同意なのか、皆揃って首を縦に降っていた。

 

「いや。鈴の言う通り、ゲンは昔から女を外見で差別する事は無かったぞ?少し、その……ふくよかな子でも、性格が普通なら普通に接していたしな」

 

話に挙げた女の子の為にオブラートに包んで言葉を選ぶ箒だが、この場合は全員理解出来たらしい。

敢えて名前は伏せていたが、同じく幼馴染みの鈴には誰の事か分かった様だ。

 

「あー、あの子の事ってやっぱ箒も知ってたんだ?」

 

「その様子だと、鈴もあの子と面識がある様だが……その、なんだ……」

 

「言い辛いでしょうけど、中学に入るまでずっと……同じだったわ。でも、ゲンと一夏は普通に接してたわよ」

 

「すまない。何分小学生の低学年までだったからな」

 

「良いって別に……それに、外見が美人でも性格が最悪なら、アイツ普通に嫌悪感丸出しで対応するもん。それは朝の件で良く分かってるでしょう?」

 

鈴の言葉の信憑性を裏付ける出来事、それは朝の上級生が起こした騒ぎである。

確かにあの上級生もかなりの美人だったが、怒る元次にはまるで関係無いかの如く扱った事件。

ここであの一件を思い出した者の反応は様々だ。

相川、谷本、セシリアはあの本能的な恐怖を思い出して身震いし、真耶はその場に居なかったが元次の性格ならそうするだろうと予測している。

箒と鈴は若干疲れの入り混じった顔で溜息を吐いていた。

「昔からアレには慣れない」という箒と「アレに慣れてるのは千冬さんくらいでしょ?」と言う鈴。

二人共ゲンとは長い付き合いだが、あの怒りによる威圧がパワーアップしていく一方なので困り果てている様だ。

 

「た、確かに……」

 

「鍋島君って、女尊男卑とか知った事じゃ無いって感じだもんね」

 

「……わたくし、鍋島さんを怒らせてしまった時は、本気で殺されると思いましたわ」

 

「は?何セシリア。あんたゲンの事怒らせたの?」

 

まだ鈴が転校してくる前の話をポロッと零したセシリアに、鈴は呆れ果てた感じに言葉を返す。

昔からゲンの事を知ってる鈴からすれば、生身でISに喧嘩を売る様な行為だ。

何て無茶な事を、と思いながらテーブルに置いていた水をグイッと煽る。

 

「え、えぇ……まだわたくしが女尊男卑の思考に染まりきっていた時に……い、言い訳になってしまいますが、頭に血が昇って……鍋島さんのご家族の事を侮辱してしまいまして」

 

「ぶーーーーーーーーーーーーーーッ!!?」

 

「うわ!?き、汚いぞ鈴!?」

 

「おぉ~~!?虹が出てる~~!?」

 

「げ、げっほげっほ!!だ、だってあん、げっほ!?」

 

鈴の質問に対して律儀に答えたセシリアだが、その答えを聞いた鈴は口に含んだ水を思いっ切り吹き出してしまう。

その様子を見たセシリア達は首を捻って頭に疑問符を浮かべていた。

何か嫌な事でも思い出したのか、鈴は噎せながらも顔を真っ青に染めているからだ。

暫くそうして咽ていた鈴が落ち着きを取り戻すと、鈴は戦慄した表情でセシリアに視線を向ける。

 

「ア、アンタ……良く生きてたわね?」

 

「……もし、あの場に織斑先生が居なかったら、恐らくこうして優雅になどしていられなかったかと……」

 

「それどころの話じゃないわよ……下手したら誇張も無く本気で殺されてたかもしれないのよ?もうあんなスプラッタな現場なんか見たく無いっての」

 

「……え?」

 

ゲホゲホと軽く咽返る鈴の言葉に、セシリア達は呆然とした言葉を返してしまう。

今しがた鈴の言った『スプラッタな現場』というのはどういう事なのだ?

冗談にしては余りにも不吉過ぎるだろうと。

そういった視線が自身に集まってくるのを感じたのか、鈴は今までにない真剣な表情を浮かべる。

 

「……昔、アタシが知ってる中じゃ、1人だけアイツの家族の事を馬鹿にした男が居たのよ……ちょっと不良で有名だったからって、路上でゲンを顎で使おうとして馬鹿にされてキレた男が、ね」

 

中学1年の時だったかな、と呟く鈴に耳を傾けながら、セシリアはゴクリと生唾を飲み込む。

何故なら、自分が元次の家族を侮辱した時と状況が酷似しているからだ。

只違うのは、相手が男である事とその場に元次のストッパーとなる千冬の存在が無い事である。

 

「……アイツはさ、中学に入った時からあんな感じでデカイ図体してたから、周りから良く喧嘩売られててね。でも、その事件が起きた時には周囲でアイツに喧嘩を売るヤツは居なくなってたのよ」

 

「な、何で?不良って、そんなに諦めが良く無いでしょ?私の居た中学でも不良って結構居たから知ってるんだけど……」

 

「簡単な話――喧嘩売った奴等が一人残らず病院送りにされてたから。しかも全員骨折なんてデフォだったし」

 

真剣な表情で答えを言う鈴の言葉に、言葉を返した相川は口を噤んでしまう。

病院送り……口で言うのは簡単だが、実際にやろうとすればそう単純な事では無い。

少なくとも自分達には出来ないという事は、この場に居る全員が理解している。

特に相手を骨折させるなど、非力な女性では難しい話だ。

 

「周囲から喧嘩も売られる事は無くなって、でも一番荒れてた頃のゲンに付いた通り名――「霊長目・ティラノ科・シバキ属、ハリテ種、」――その名もケンカサピエンス」

 

「ケ、ケンカサピエンスって!?」

 

「その名前知ってる!!ウチの中学でも不良の人達が、絶対に手を出したら駄目な相手って言ってた人だよ!?な、鍋島君の事だったの!?」

 

「やっぱ他の中学でも噂になってたんだ……まっ、ここで大事なのはアダ名云々より、『ハリテ種』って呼ばれた由縁よ」

 

妙な所で有名だった元次のネームバリューに驚きながらも興奮した様子の相川と谷本を鈴は諭す。

何故なら、セシリア達に話す『スプラッタな現場』の話にはこれから語る『ハリテ種』と呼ばれたルーツが必要不可欠なのだから。

ティラノ科は元次の恐竜の様な怖さと最強のTーREXの事を掛けた由縁なのは判る。

シバキ属も相手を殴り倒すその喧嘩を見た者が付けたモノだからだ。

しかしここで意味合いを測りかねる『ハリテ種』とは何だろうとセシリア達は首を捻る。

 

「……アイツね?本気の本気で人を殴る時は、『拳じゃ無い』のよ――『コレ』を使うの」

 

そう言って鈴がみんなに見える様に翳したのは――『手の平』だった。

その行動に首を傾げる者が大多数の中、大きな熊のぬいぐるみを抱きしめた本音が手を上げる。

 

「もしかして~?『張り手』って事~?お相撲さんの『どすこ~い』みたいな~?」

 

「そう。正解よ本音」

 

『『あっ!?』』

 

「えへへ~♪当たった~♪」

 

1人正解に辿り着いた本音に続き、他の皆も鈴の出した手の平の意味を理解した様だ。

「やった~♪」と喜ぶ本音に笑った後、鈴は全員を見渡して再び口を開く。

 

「ゲンの話じゃ、張り手は拳と違ってリーチが短くなっちゃうんだけど、『絶対に潰れない』んだって。どれだけ体重を掛けても、骨じゃないから砕ける事も無い……力自慢の自分にはピッタリな上に、横に振るう『ビンタ』の力も半端じゃ無いってね……自分で、『鍋島流喧嘩殺法』なんて呼んでたけど……その技をその馬鹿な男相手に使ったのよ」

 

「……ど、どうなったの?……その男の人」

 

恐る恐る、と言った具合で鈴に続きを促す相川。

好奇心からその男の末路を聞きたがっている様だが、近くに座っているセシリア等もはや青を通り越して白い顔色になっている。

セシリアの様子を見た鈴は少し気の毒な気持ちになりながらも、相手の末路を語る事にした。

ここまで話してもうお終い、というのは空気が読めていないだろうし、これはセシリアの為でもあった。

元次の家族を侮辱する事がどれだけ危険な事なのかを、ちゃんと把握してもらう為に、鈴は心を鬼にする。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

俺は昔良く使っていた技を解禁し、目の前のゲイリーを見据える。

最近使ってなかったけど、問題無い……普通に殴るのとの違いは、リーチぐらいだしな。

そう考えつつも、俺は構えたままの体勢で少しづつ鉄柵の際まで後退していた。

ゲイリーは俺の後退に少し不審な表情を浮かべながらも、大股で間合いを詰めてくる……この距離ならいけるな。

 

「……オウリャァアアアアアッ!!!」

 

何もしないで待っていた俺に、ゲイリーが突っかけてくる。

しっかりと握りこんだ拳で、俺の体を狙ったブロー。

 

 

 

――普段の俺なら真っ向から受け止めてカウンターを狙うであろう一撃を。

 

 

 

「――フッ!!」

 

俺は冴島さんに習った構えた体勢のままの回避術、スウェイバックを使って『避けた』。

今までの試合で一度も使用しなかった回避。

恐らく俺が受け止めると思っていたであろうゲイリーの表情は驚愕に満ちていた。

だが、今から使う技は、何時もの戦い方よりも回避した方がやりやすい。

俺はスウェイバックで回避した事で、ゲイリーの横に回る事になる……おし、ココだ!!

その体勢から、足に力を入れて踏ん張り、腰と肩を回転させて、『パー』にした手を横向きに振るう。

 

「――おっしゃぁああああああッ!!!」ブオォオンッ!!

 

 

 

 

 

属に言う『ビンタ』という技とも言えない技が、ゲイリーの無防備な横っ面に吸い込まれ――。

 

 

 

 

 

――いやもうヤバかったわよ?ゲンのビンタが当たったら、こう……風船が割れた時と同じ音がしたもん。

 

 

 

 

 

――『パーン』って。

 

 

 

 

 

バァアアアアアアアンッ!!!

 

「――」

 

風船、いや爆竹が弾けた様な快音――クリティカルで入ったな。

俺の必殺技とも言えるビンタを食らったゲイリーの反応は今までの比では無かった。

なんせ殴ったビンタの軌道に沿ってそのままダンスの様に一回転してしまったからな。

目も白目を向いていて、軽く意識が飛んでるってのが良く分かる。

そのままゲイリーは体をよろめかせて、直ぐ傍のリングを囲う鉄柵に顔から激突してしまう。

 

「(ガシャンッ!!)――ハッ!?」

 

だが、ゲイリーはそのぶつかった衝撃で意識を取り戻した。

まぁ軽く飛んでた程度だし、そもそもゲイリーレベルの強さなら一撃じゃ簡単に沈まないのは分かりきってる。

だからこそ……追撃しやすい様に、鉄柵まで下がったんだからな。

俺のビンタでダメージが足に来てるのか、ゲイリーは足を子鹿の様に震わせながら鉄柵にしがみつくだけで振り向いてこない。

それを最大の勝機と見た俺は、腰を捻って半身になり、その体勢から手を後ろにしっかりと引く。

相撲なんかでも滅多に見る事が無い大振りからの張り手攻撃……何故見ないかと言えば隙が多すぎるからだ。

だが、喧嘩ならこういう場面で使う事が出来る。

後ろ向いて無防備だからな……行くぜ?くたばるんじゃねぇぞ。

鉄柵に顔を預ける形で何とか振り返ろうとしているゲイリーの頭に、俺は体の力を乗せた『ハリテ』を見舞った。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「……そ、それで?ゲンのビンタを食らった相手はどうなったのだ?」

 

再び場所が戻りIS学園。

鈴が語った元次のブチ切れ事件の内容を聞いていた中で、箒が代表して鈴に尋ねる。

セシリアはブルブル震えて正常では無いし、相川達も聞くのが恐ろしい。と顔に出していたからだ。

他の面々の心情を読んだ箒は、自分も聞くのは恐ろしいというのに我慢して鈴に聞いてみた。

一方で語り手の鈴も少し身震いしながら、事の顛末を語るべく口を開く。

 

「……ビンタされた側の歯が全部へし折れてたわ……しかもその後、店のガラスに顔からぶつかって止まったんだけど……ゲンは後ろから、ハリテを撃ち込んだのよ。怒りで暴走してね」

 

歯がへし折れる。

それだけで人間としては致命的だというのに、元次は更に追撃を入れたと言う。

 

「ハリテを食らった男は、ガラスを突き破って顔中血まみれ。しかもガラスの砕けた粉が突き刺さって……顔がキラキラしてた……太陽の反射でよ?」

 

『『『ヒィッ!?』』』

 

「……昔から思ってたが、アイツは男だろうと女だろうと容赦し無さ過ぎだろう」

 

「分かり易いのよね。嫌いなモノはトコトン嫌いだって言うのが……まぁ、その時はすぐにアタシ達でゲンを正気に戻して逃げれたけど」

 

「後ちょっと遅かったら警察の世話になってたでしょうね」と軽く呟く鈴だが、他の面々はそんなに軽くなかった。

その光景を想像してしまったであろう相川と谷本、セシリアは揃って悲鳴を挙げてしまう。

真耶とさゆか、本音もそこまでしたのかと顔色を青くして怯えている。

しかして元次が拳を振るって人を懸命に助けていたのは記憶に新しい出来事でもある。

だからこそ、全員が元次の拳を振る姿にどこか納得してしまうのだ。

箒は箒で幼少期を思い出しながら渋面をして無茶苦茶過ぎる元次に苦言を漏らしていた。

鈴はその空気の中で、恐怖に怯えるセシリアに気の毒な表情をしながら「それにしても」と声を掛ける。

 

「千冬さんが居たっていうのも大きいけど、アンタ良く無事だったわね?アイツなら一度嫌ったらトコトン嫌うと思ってたけど、今は普通に話せてるじゃない?」

 

「そ、それはその……鍋島さんのお祖母様のお陰ですわ」

 

セシリアの答えに本音以外に知らない話が出てきて、要領を得ない他の面々は首を傾げてしまう。

そこでセシリアは、元次に謝罪した日の事を事細かに話した。

鈴の知る以外にも元次の家族を侮辱した者が居た事。

その人間にブチ切れた元次の頬を叩き、真正面から叱り、諭した元次の祖母の話。

深く愛する家族だからこそ、誠心誠意謝罪した相手を許す度量を見せろと言われ、それを愚直に守る元次。

 

「お祖母様の信頼を裏切らないと誓った……だから、鍋島さんはわたくしの謝罪を受け入れて、許してくださいましたわ」

 

「それで、アンタは今も五体満足で学園生活を送れてる訳だ……本気でゲンのおばあちゃんに感謝しときなさいよ?アタシも昔会った事があるけど、本当に良いおばあちゃんなんだから」

 

「えぇ、承知しています。一度はお会いして、謝罪をさせて頂くつもりですから」

 

「そうしときなさい……話が大分脱線しちゃったけど、さゆかの聞きたかった事は聞けたかしら?ゲンは見た目で女の良し悪しを決めたりしないから、好みも特定じゃ無いってのが結論なんだけど」

 

「う、うん。ありがとうね、鈴(見た目で決めない……髪の長さとかも、好みは無いのかな?)」

 

「おっけ。じゃあ、次の質問は?」

 

3人の内、1人の質問が終わると、鈴は次の質問を促す。

そうすると、次に手を挙げたのはこの場で唯一の成人女性である真耶だった。

 

「じ、じゃあ次は先生から良いですか?」

 

「はい。山田先生はゲンの何が聞きたいんですか?」

 

見た目は同年代なので自然とこの場に溶け込んでいるが、年上であり先生でもあるので、鈴は敬語で応対する。

この場にいる誰もが真耶の存在を黙認しているが、教育者が堂々と生徒に恋慕するのを止めなくて良いのだろうか?

だがそんな初歩的な問題も、同じ恋する乙女としては些細な問題らしい。

事実、誰もが彼女を先生と判っていてもこの場から追い出す様な無粋極まる真似はしないのだから。

鈴の質問返しに、真耶は照れくさそうに笑いながら両手を足の上で組んでモジモジとする。

その際に彼女の腕に挟まれた豊満過ぎる胸を見て、鈴、相川、谷本の視線が一瞬鬼女になったのは幻覚だろう。

 

「げ、元次さんってその……年上の女性でも、興味あるのかなーって思いまして……キャ。わ、私ったら教師なのに何てイケナイ事を……」

 

「と、年上ですか?そ、そうですねぇ(言えない……年上に見えてないのにソレ聞くのかよ、なんて言えない)」

 

一瞬喉元を着いて出そうになった言葉を必死で飲み込みながら、鈴は少し考えこむ。

報酬を貰ったからには、中途半端に終わらせるつもりは無いのが鈴のポリシーなので、ちゃんとした答えを模索しているのだ。

1年前までほぼ毎日の様に過ごしていた仲間達との日々を思い返しながら、鈴は考える。

 

「うーん……あっ。そういえば前に言ってましたけど、年の差があっても惚れたら関係無いって……」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「はい。まぁさすがに30歳も歳の差があったら無理だって言ってましたけど」

 

『結局歳の差関係あんのかよ!?』って弾に突っ込まれてたっけ。と鈴は昔の馬鹿話を思い返しながら薄く笑う。

ともあれ、真耶は全然問題無い領域にいるのは確かだ。

成人と言っても、今年成人式を迎えたばかりのなりたてホヤホヤな20代。

千冬と束も真耶とは1歳差しか無いのだから、この話に参加していない束と千冬も安泰だろう。

納得のいく答えが貰えた真耶は「そ、そうですか」と呟きながら頬に両手を当てて顔を赤らめる。

表現しにくいが、口元も大きく丸を描き、「うわ~うわ~」と呟きつつ嬉しそうな笑顔を見せている。

これで二人目の質問も難なくクリア、残るは最後の1人。

 

「よ~し!!最後は私の番だよリンリ~ン♪」

 

「はいはい。アンタは何が聞きたいのよ、本音?」

 

今回の情報公開兼お茶会の発起人である本音を残す所となった。

やっと出番が回ってきた事が嬉しい様で、本音は笑顔を浮かべたまま身を乗り出している。

まぁ最初に考案したのは自分なのに、密かにじゃんけんで順番が最後になってしまった事に落ち込んでいたが、順番がくればそんなモノ関係無くなっていた。

とりあえず本音ならそんなに難しい質問はしないだろうと予測した鈴は、苦笑しながら本音に質問を促す。

そして、本音は可愛らしく「う~んとね~」と呟きながら人差し指を顎に当てて思案し――。

 

 

 

 

 

「ん~と~……じゃあ、ゲンチ~の~……せ、せ~へきは~?」

 

「あー性癖ね?ゲンの性癖はって言えるかぁああああああああッ!!?」

 

全然簡単ではなかった。

 

 

 

 

 

寧ろ思春期の少女としては最大級に答えづらい質問である。

というか答えたのが自分だとバレたら元次に殺される事は間違い無い。

 

「えぇ~!?なんで~!?ヤマヤンとさゆりんのは答えたのにぃ~!!何で駄目なのぉ~!?」

 

「だ、だだだ駄目に決まってんでしょうがぁあああッ!?寧ろ何で答えて貰えると思ってんのよアンタは!?」

 

「ぶ~~!!ほ~しゅ~だって払ったのにぃ~~!!詐欺だぁ~~!!」

 

「寧ろその報酬じゃ全っ然足らんわぁあああッ!?超絶にトップシークレットものの情報じゃないのッ!!」

 

「ほ、本音ちゃん!?だ、駄目だよ!!そんなえ、ええ、エッチな質問はあわわわ!?」

 

「ちょ!?さ、さゆかも落ち着きなさいって!?」

 

「の、のの布仏さん!?お、女の子がそんなふしだらな質問しちゃ駄目ですよ!!」

 

本音の一言で会議は紛糾。

納得の行かない本音は頬をハムスターの如く膨らまして抗議し、さゆかは本音を諌めてる様に見えるが目がグルングルンと回って混乱している。

真耶も口では本音を注意してるが、視線はチラチラと鈴を窺っている。

オイ教師、あんたその目は何だ?と小一時間問い詰めたかった鈴だが、それより問題は本音の質問だ。

この子自分で何言ってるのか分かってるのか?と本音にも言いたい気持ちで鈴はいっぱいいっぱいだった。

 

「ぶ~……ゲンチ~が、好きな格好とか聞きたかったのにぃ~」

 

しかし皆から反対を食らった事で落ち着いたのか、本音は頬を膨らましながら鈴に恨みがましい視線を送るも、一応質問を取り下げる。

その様子に、鈴は自分の命が生き永らえたと心の中で感激していた。

もし本音に要らん知識吹き込んだのが自分だとバレれば、速効でハリテの餌食になっていただろうから。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

それは、一瞬の出来事だった。

 

「――」

 

俺の繰り出した必殺技、ハリテ……それをゲイリーの後頭部に叩きこんだ一瞬。

響いたのは鉄にぶつかる派手な音……ではなく、鉄が『ひしゃげる』音。

 

「――」

 

メシャァアアッ!!という甲高くも形容し難い音を響かせながら、ゲイリーの頭は金網のフェンスを『突き破った』んだ。

俺が手を引いて戻しても、ゲイリーは小さく呻くだけで起き上がろうとはしない。

体からは力が抜けて地面に膝を付き、首はダランと破かれたフェンスにもたれたまま動かないゲイリー。

まぁ死んではいねぇし、頭部からの出血も酷くは無いから大丈夫だ。

元々封印、というか禁じ手として使わなかったハリテ……久しぶりに使ったが、俺の基礎能力が上がったお陰でパワーアップしてやがる。

リミッターを一つ上げて、力を増したにしても金網のフェンスを突き破るとはな。

 

『け――決着ぅぅううッ!?な、何という怒涛の展開でしょう!!最初は観客の皆様に舐められていた、16歳という若すぎる青年が、今!!強き男達に土をつけ、地下闘技場の優勝をもぎ取ったのです!!第4000回神室町地下闘技場マキシマムGP!!栄えある優勝者は!!鍋島ぁあああッ!!元次ぃぃいいいッ!!』

 

『『ワァアアアアアアアッ!!!』』

 

ゲイリーの体を優しく抱えてフェンスからどかせてやると同時に銅鑼が鳴り響き、俺達を囲っていた鉄柵が持ち上がっていく。

優勝……これで、ウェイの親っさんの居所が判るって訳だ。

嵐の様な歓声の中でチラリと花屋さん達に視線を送ると、伊達さんと秋山さんは苦笑を浮かべていた。

花屋さんだけは俺の視線の意味が分かった様で、ニヤリと笑みを向けてくる。

さぁ……次はアンタが仕事する番だぜ?

花屋さんの笑みに俺も笑みを返しながら、俺はリングから降りて闘技場を後にする。

 

『リングから去る一匹の獣!!今日、最強、いや最恐の野獣が誕生した喜びを分ち合いましょう!!我々は何時でも君の帰りを待っている!!何時かまた、我々を奮い立たせるファイトが見れるその時まで!!』

 

冗談じゃねぇ、もうコレっきりにしたい所だっての。

背後から聞こえてくるアナウンスを聞き流しながら控室に戻ると、ソコにはあの美女2人が笑顔で待ち構えていた。

やれやれ、負けなかったからこれで襲われる事はねぇだろう。

 

「お疲れ様!!凄かったよお兄さぁん♡……もう、体が疼いちゃって♡」

 

あれ?

 

「ウフフ♡君も、戦いで体が荒ぶってるでしょ?……私達が2人で鎮めてあげる♡」

 

あれれ!?

 

「「さぁ、コッチに来て♡」」

 

どっちに転んでも俺のピンチは続行中かよ!?

何やら頬を赤く染めつつ自分の体を掻き抱く美女が迫り来る中、俺は自分の危機が過ぎ去っていない事を理解した。

しかも金髪のお姉さんが言う通り、俺の体ヒートしてまんねん。

その所為かさっきよりお二人が魅力的プラス魅惑的に映って……イ、イカンイカンッ!?

今ここで流れに身を任せたら後々後悔する気がするし……ここはッ!!

 

「戦略的撤退!!」

 

まるで群がるゾンビの如く手を伸ばしてゆっくりと近づいてくる美女の傍を通り抜けて、俺は自分の服を走りながら着た。

ハンガーに掛けてあったTシャツと薄手のシャツを着直しながら、シャツの胸ポケットからオプティマスを取り出して目に掛ける。

こ、このまま花屋さんの所まで直行して、サッサとここからおさらばしよう!!うんそれがいい!!

 

「お、お姉さん達!!お誘いはスゲエ嬉しかったですけど、今回はご遠慮します!!そ、それではさいならーッス!!」

 

「え~!?……しょうがないなぁ、もう……また来てねー!!お兄さーん♪!!」

 

「あらあら♪恥ずかしがっちゃって♪……何時でも来てね。待ってるから♪」

 

走るのは止めず言うだけ言って、俺は闘技場を後にする。

すっごく……すっっっっっっごくッ!!!勿体無い事をしたけど……良かったんだ、これで。

少し熱くなってきた目を上に向けて、花屋さんの屋敷の中へ入り、最初に花屋さんと会った場所に戻った。

するとそこには既に伊達さんと秋山さんも一緒に居るではないか。

伊達さんは笑顔で、秋山さんは少し興奮した感じのハイテンションになってる。

 

「よう。お疲れさん……スゲエ試合だったぜ」

 

「いやも、ホントにビックリし通しだったよ……って……どうしたの?上向いちゃって?」

 

「いえ……少しばかり、身を引き裂かれる様な苦渋の選択をしてきまして」

 

熱い汗が瞳から零れない様に、上を向いてるとです。

俺の変な行動にいぶかしむお二人に言葉を返しつつ、俺は目元から零れそうな汗を必死で我慢する。

そうして落ち着いた所で、俺は視線をデスクに座っている花屋さんへと向けた。

 

「約束通り、仕事は完遂しましたんで……次は花屋さんの番っすよ?」

 

「分かってる。安心しな、俺はフェアだからな……それとこれも何かの縁だ。この賽の河原は本来、選ばれた人間の中でも更に厳選された人間しか遊べねぇ場所だが、お前さんもここで遊べる様にしといてやるよ。これで筆下ろしはあの二人に頼めるんじゃねぇか?」

 

「い、いや……ふ、筆下ろしうんぬんは置いといて、ここで遊べるのは普通にありがたいッスけど、良いんスか?」

 

絶対詳しい事まで知っててからかってくる花屋さんに苦い顔をしながら、俺は花屋さんが付けてくれたサービスに疑問を持つ。

色々な審査を通した上で遊べる場所だってのに、花屋さんがここのボスでもそんな簡単に決めちまって良いんだろうか?

その疑問をぶつけてみると、花屋さんは普通に頷いて口を開く。

 

「まぁ勿論賭博も風俗も金は掛かるが、お前さんならまた闘技場に出れば稼げるだろう。今回のマキシマムGPはお前さんが派手にやってくれたお陰で大盛況なんだ。最近落ち込み気味だった空気を払拭してくれた礼だと思ってくれて構わねぇ」

 

どうやら+αのサービスって事なので気にしなくて良いらしい。

そういう事ならと、俺も遠慮無くサービスを受ける事にした……ふ、風俗は行かない方が良いだろう。

主に俺の生命維持の為には。

 

「さて……それじゃあ本題に入るとしよう。お前さんが探してる鳳維勳の居場所だが、俺の掴んだ情報によればバックは居ねぇ」

 

「ん?つまり、ヤクザに金を払って隠れ家を用意したとかじゃないって事ですか?」

 

そして遂に切り出された俺の目的に対する情報を公開していく花屋さん。

だが、ウェイの親っさんは隠れ家を用意してなかったという事実に秋山さんが眉を顰める。

 

「あぁ。鳳の経済状況はお世辞にも良いとは言えねぇ。だから最初から隠れ家を用意する金も無い上に、そもそも路上でギャングの女と揉めた事すら、奴には想定外だったろうよ」

 

「……つまり、ウェイの親っさんは……」

 

俺の言葉を引き継ぐ、というか答えを示す為に花屋さんは1つ頷いて言葉を紡ぐ。

 

「奴はホームレス達の住んでいる場所を隠れ蓑にして、転々と場所を変えていたって訳だ。今もさっきまでの宿を離れて別の場所に向かってると情報が入った」

 

「確かにこの街のホームレス達の中に紛れ込めば、かなりの数が居るホームレス達の住居を転々としてギャング達から目を欺けるって事か」

 

「奴さんとしてはほとぼりが冷めるまで隠れるつもりだろうが、レッドカーニバルの奴等は中々見つからない事で逆にムキになっちまってる。このまま隠れても終わらな(prrrrr)――どうした?」

 

話の途中で花屋さんのデスクにある電話が鳴り、花屋さんは電話を取って応対する。

俺はその様子を見ながら親っさんの事を考えていた。

ホームレス達に紛れて逃げる……たかが路上で馬鹿女に絡まれただけでそうまでしなきゃいけねぇのかよ。

やっぱり解決策は1つだな……しかも、俺が何時もやってる遣り方でヤルしかねぇ。

 

「そうか……分かった(pi)鳳の居所が掴めたぞ」

 

「ッ!?何処に居るんスか?」

 

と、考え事をしていた俺の耳に、花屋さんから親っさんの場所が判明したと飛び込んできた。

俺は直ぐに場所を聞き返すと、花屋さんは「デスクの傍に来い」と言う。

何だ?と思いつつも従って傍に行けば、伊達さんと秋山さんもデスクの傍に来る。

 

「今から『見に行く』ぞ。足元気を付けろ」

 

ん?『見に行く』って――。

 

ガゴンッ!!

 

「な!?」

 

花屋さんの良く分からない一言に首を捻っていると、突然足元が激しく揺れ始めた。

もしかして地震でも起きたのかと思ったが、秋山さん達含め花屋さんも表情を変えていない。

一体どうなってるんだと考えた頃には――。

 

ズズズズ……ッ!!

 

地面が真下へと『沈んで』いくではないか。

いや、正確には俺達の立っていたデスクの周りが陥没して、モーターの駆動音を鳴らしながら下がっている。

おいおい今度は何なんだよ……ッ!?

またも訳の分からない場所へと連れて行かれてパニックに成りかけた俺だったが――。

 

 

 

「――何だよ…………コレ?」

 

 

 

本日何度目になるかも判らない呆然とした声を出してしまう。

驚きの余り間抜け面を晒す俺を見ながら、花屋さんが誇らしげに口を開く。

 

「驚いたか?……これが賽の河原の『本当の姿』だ」

 

花屋さんの呟きを聞きながら、俺は降りて現れた目の前の光景を呆然と眺める。

そこにはおびただしい量のモニターがあり、真ん中には超大型のスクリーンも完備されている。

どれも全て電源が入れられているのだが、映っているのはテレビとか映画なんて代物じゃない。

 

 

 

それは全て、『路上の情景』が映し出されていた。

 

 

 

俺達が通って来た神室町の天下一通り。

何処かの外れにあるであろう公園で女が男に財布を出させてる光景。

昼間から酒を飲んで上機嫌なサラリーマンのおっさん達。

更には裏路地で昼間から盛っているのか、服を乱れさせて情熱的なキスをする男女。

ありとあらゆる神室町の景色が映し出されている。

 

「俺の情報収集は部下を使った調査と、この神室町に設置した『1万台』のカメラで行ってる。だから俺の情報は正確なんだ」

 

1万って……そりゃ神室町で知らない事はねぇって言われてる訳だよ。

リアルタイムでこの街の全てを見て情報を扱ってるんだからな。

これは流石に驚くって……いや、束さんだってやろうと思えばもっと凄い事するんだろうけど。

でもあの人の場合は昔から知ってる上に『天災』だから、って言葉で済んじまう。

だからこそ、他の人間でこういう事してるってのには驚いちまうんだよな。

 

「オイ。例の男をメインモニターに映せ」

 

「はい!!ライブ映像で回します!!」

 

俺がこの部屋の存在に驚いていると、花屋さんの部下らしき人がキーボードを操作していく。

すると、一番大きいスクリーンにビルの外れから出てくるホームレス風の格好をした男が映し出された。

ボサボサに伸びた髪、少し痩せこけた頬をしてるが……間違いねぇ。

 

「ウェイの親っさん……」

 

俺が良く知ってる鳳維勳だ。

外見は変わっても昔の面影の残った顔つき。

……一先ずは無事に生きてるって事が分かってホッとしたが、まだ終わりじゃない。

これから親っさんに会って鈴の事を話さなきゃいけねえからな。

俺はモニターから視線を外し、花屋さんにこの場所が何処なのかと聞こうとして――。

 

「ッ!?ボス!!トラブルです!!」

 

「何だ!?」

 

「レッドカーニバルの奴等です!!今、例の男と鉢合わせました!!」

 

「はぁ!?」

 

花屋さんの部下が知らせてくれた緊急トラブルに、俺は声を挙げて驚いてしまう。

慌ててモニターに視線を戻せば、ウェイの親っさんはあの趣味の悪い赤色の軍団に囲まれているではないか。

ちょ!?ふざけんなよ!!赤色の馬鹿ギャング野郎共!!?

こっちは闘技場で必死こいて戦ってやっと居所掴めたってのに、向こうは偶然鉢合わせでラッキーかよ!?

 

「何ともまぁ……鍋島君も運が無いというか」

 

「……これに関しては何とも言えねえ」

 

余りにもふざけ倒した展開に口をパクパクさせてしまう俺に、秋山さんと花屋さんの同情的な声が掛かる。

そうこうしてる内に、ウェイの親っさんはギャング共に囲まれて何処かの路地に連れ込まれてしまう。

ってそんな事考えてる場合じゃねぇ!!

 

「おい花屋さん!!これは何処の映像なんだ!?」

 

「……これは千両通り北だな。そこからチャンピオン街に入っていったんだろう」

 

「千両通り北だな!?情報ありがとうよ!!」

 

「あ、おい!?」

 

俺は花屋さん達が静止を掛けるのも聞く耳持たず、急いで地上へと走り出す。

このままじゃ鳳の親っさんが何されるか分からねぇし、急がねぇと!!

俺は屋敷から飛び出して元来たマンホールの蓋を抉じ開けると、そこからダッシュで西公園の上まで戻った。

適当にマンホールの蓋を戻して道に飛び出し、神室町の地図を思い出す。

確か千両通り北は……今居る場所が七福通り西で、千両通りに向かうにはこのまま七福通りを突っ切って七福通り東に抜ければ良い筈だ!!

行き先を頭の中で思い出しながら、俺は道を思いっ切り飛ばしてひた走る。

 

「おおい!!何調子乗って我が者顔で走ってんだコ「ウゼェッ!!」(ボガァアアッ!!)はぴゅこ!?」

 

途中絡んできた雑魚は走る勢いそのままに『猛熊の気位』状態でタックルをカマして吹き飛ばす。

こっちはガチで急いでんだよ!!俺の邪魔すんじゃねぇよクソ雑魚が!!

邪魔する者には一切の容赦無く走り続け、七福通りを抜けた瞬間――。

 

ピピーーッ!!!

 

ピンク通りの方から一台のセダンがクラクションを鳴らしながら俺の前に飛び出してきた。

 

危ねッ!!回避ッ!!

 

咄嗟の判断で前に転がる様に飛び込み、セダンのボンネットの上を転がって地面に足を付き、そのまま爆走する。

後ろから「おぉー!?」という歓声が複数と「バカヤロー!!」という怒声が聞こえてくる。

多分今の車の運転手だろうが、コッチはマジで急いでるんだ!!勘弁してもらうぜ!!

走り続けた俺は七福パーキングという駐車場の所のT字路を曲がって千両通り北に入る。

まだ5分くらいしか経ってねぇがそれでも5分だ。

奴等大勢で囲ってたし、腐ってもギャングだ。何をするか分かったモンじゃねぇ。

そう考えつつ、左手に見えてきた『チャンピオン街』という看板の路地に入り、辺りを見渡す。

だが、周りには親っさん所か赤い服の連中も1人たりと見えない。

クソッ!!まさか他の場所に移動しやがったのか!?

 

pirrrrrr!!

 

辺りに奴等が居ないと焦る俺だったが、突如俺の携帯が鳴り始めた。

この緊急事態に誰だよと思いつつ表示を見ると、通知は非通知。

だから誰なんだよこんな時に!!

 

「(pi)もしもし!!誰か知らねぇが今急ぎ――」

 

『俺だ。鍋島、切るんじゃねぇ』

 

「ッ!?あんた……花屋さんか!?」

 

一度電話を取ってから切ろうとした俺の耳に、花屋さんの声が聞こえてくる。

何で俺の番号知ってんだよ?

 

『必要だったから調べさせて貰ったが、悪く思うなよ。奴等は鳳を連れてその先のブロックにある開けた空き地に居る。リンチにされかかってるから急げ』

 

「ッ!?サンキュー花屋さん!!(pi)」

 

そうやら俺が現場に向かってる間に移動した場所を調べてくれてた様だ。

俺は感謝を述べて携帯を切り、言われた場所へと向かう。

その場所に入る狭い入り口には、見張りであろう男が1人退屈そうに突っ立っていた。

 

「ふぁ~あ……あん?何だテメ(ガシイッ!!)あごごごご!?」

 

何か言おうとした奴の顔面を握り締めて口を塞ぎ、ソイツを引き摺りながら狭い路地を進む。

少し長い路地を進んで、空き地の向こうが見えると――。

 

 

 

「おらおらおらぁ!!」バキッドスッ!!

 

「あげ!?うぐぅ!?」

 

「キャハハハハ!!やっちゃえユージー!!」

 

「ほんとマジムカツクし!!早く殺しちゃいなよ!!」

 

「おう祐司!!俺の可愛い彼女の命令だ。もっとそのオッサン痛めつけてやれ!!」

 

「へへ、うーっす!!ほら食らえや!!この小汚えオッサンが!!」ドゴォッ!!

 

「ぐはぁ!?」

 

其処には、俺の神経をブチ切るには充分な光景が広がっていた。

30人近い赤服の連中が壁際に寄り掛かってタバコを吸ったりしている中央の開けた場所で、1人の男がウェイの親っさんを殴る蹴るの暴行を加えている。

更に正面にはソファーが置かれていて、そのソファーに寄り掛かりながら目の前の暴行を見て笑う男が1人、女が2人。

1人が額に小さいガーゼを付けてるのを見るに、あれが親っさんと揉めた女なんだろう。

……あんな小さい怪我1つで、親っさんを痛めつけてるのか?

たかがそんだけの怪我で、マスターとメイファちゃんを危険に晒したのかよ……オーケー。

 

 

 

「おーらぁ!!死ねよオッサ――」

 

 

 

テメエ等全員『拷問』だ。

 

 

 

俺は手に持っていた男をブン回し――。

 

 

 

ドグオォオオオオンッ!!!

 

「ぼげう!?」

 

「うぎゃぁああああ!?」

 

親っさんに暴行を加えていた男に力の限り叩き付けてやった。

膨大な力と速度、そして投げた物の重量を加味した一撃は、二人を壁際に吹き飛ばし、壁にぶつかる事で止まる。

 

『――――』

 

いきなりの乱入、そして人が飛ぶ事象に奴等が呆けてる中、俺は威圧感を剥き出しの状態で悠然と歩く。

俺の存在に気付いた奴等から順番に、俺の威圧感を浴びて動けずにガタガタと震え出した。

どいつもこいつも真っ白い顔で俺に恐怖しているが……もう遅えぞ?

 

「う、うぅ……だ、誰だ?」

 

俺が傍に近づいた事で少し驚きながら、親っさんは誰かと尋ねてくる。

頭部を酷くやられた様で、血が目に入って見えないんだろう。

 

「お久しぶりッスね。ウェイの親っさん……大丈夫ですか?」

 

「う……そ、その声……ッ!?ま、まさか、元次なのか……ッ!?」

 

「えぇ。親っさんの娘、鈴のダチやってる元次っす。……よっこいせ」

 

どうやら親っさんは俺の事を覚えていてくれた様で、声を聞いて直ぐに俺だと感づいてくれた。

俺は親っさんに返事しつつ、親っさんの身体を抱えて路地の出口まで戻ろうと身体を反転させる。

あそこに置いておいたら危ねぇからな……巻き込んじまうだろうし。

しかし、出口まで行こうとした俺の目の前をでかい影が塞いでしまう。

 

「オ助ケニ来マシタヨ、鍋島サン」

 

「……ゲイリーさん……助けってのは、どういう事っすか?」

 

そう、先ほど戦ったゲイリー・バスター・ホームズが包帯を巻いた姿で現れたのだ。

しかも背後には幾人かのガタイの良い連中まで居る。

どういう事だ?あの程度のゴミ処理、俺1人で充分なんだが……。

 

pirrrrrrrr

 

そう考えていると、又もや俺の携帯が鳴り響き着信を知らせてくる。

普通ならこれだけ悠長にしてたら後ろから襲われてもおかしくねぇが、今はゲイリーさんの連れてきたコワモテの連中が俺と奴等の間に立ち塞がっている。

俺が携帯を片手にゲイリーさんを見ると、ゲイリーさんは笑顔で「ドウゾ」と言ってきたので、通話を取る。

 

「(pi)……もしもし?」

 

『度々スマンな、鍋島』

 

「花屋さんですか……何か、ゲイリーさん達が手伝うって言ってるんですけど、どういう事で?」

 

このタイミングで連絡してきたって事は間違い無く花屋さんの差し金だろう。

ならこの大所帯はどういう事なのか説明もしてくれる筈だ。

 

『あぁ。まずは謝罪させてくれ。今回のトラブルは情報収集が遅れた俺の責任だ。俺がお前さんに時間の掛かる仕事をやらせた所為で、鳳維勳は怪我をしちまったからな……』

 

「いえ……本来受けてくれる筈の無い、俺みたいなガキの依頼を受けてもらえただけで充分ですよ」

 

これは間違い無く本心だ。

本来なら入る事すら許されないであろう賽の河原の繁華街への許可。

更に今回の依頼に対しての報酬だって、結局は花屋さんの懐から貰い受けた様なモンだしな。

 

『だが、鳳維勳が怪我をしたのは事実だ……そこで、俺なりのアフターサービスをさせて貰う。そこに居る奴の1人に鳳維勳を引き渡せ。診療所に運びこませておく』

 

花屋さんの申し出は願っても無い事だった。

見た感じと触った感じでは骨は折れて無いが、極端に身体が軽い。

多分碌な飯も食ってねぇんだろう。

こいつ等が……追い詰めた所為で……ッ!!

携帯を握る手に力が入るも、直ぐに頭を冷やして力を抜き、コワモテの男に親っさんを引き渡す。

男は親っさんを受け取ると俺に一礼してそのまま路地から駆け出して行った。

 

『それともう1つ。そこに居る奴等を好きに倒せ。例え警察が来たとしてもそいつ等が引き止めるし、ゲイリーに路地の出口を塞がせる。思う存分に暴れて構わねぇ』

 

「そいつは、とても有難い話っすね……なら、存分に暴れさせてもらいますんで」

 

後の事を考える心配が無ぇなら、好きにやらせて貰おう。

こんなに居る奴等を残らず叩きのめしても、誰も咎めねぇだなんて最高過ぎるぜ。

 

『コッチの要件が終わったら連絡する。まだお前さんから貰った報酬分には届かねぇからな。さっさと終わらせろよ』

 

「了解ッす(pi)……ゲイリーさん。事情は分かったんでそっちお願いします」

 

「ハッハッハ。オ任セデスヨ」

 

俺が携帯を切ってゲイリーさんにそう言うと、コワモテ達は一斉に路地から出て外を固め、ゲイリーさんが出口に仁王立ちした。

さぁ……始めるか……廃棄処理ってヤツを。

俺はオプティマスを胸ポケットに仕舞ってから、クソの集まりに振り返る。

奴等は怒涛の展開に何が何やらって感じで慌てふためいていたが、ソファに座っていたリーダー格の男が震えながら俺を指差してくる。

 

「テ、テメエ等何なんだよ!?俺等レッドカーニバルに喧嘩売りに来たのか!?」

 

「……俺に喧嘩売ったのはテメエ等だろうが」

 

震えながら喚くリーダーに、俺は努めて冷静に言葉を返す。

 

「し、知らねぇよ!?あんたみたいな男に喧嘩売った覚えなんて、こっちは全くな――」

 

「リ、リーダー!?こいつですよ!!俺達があのオッサン探して故郷って店に乗り込んだ時に邪魔してきやがったのは!!」

 

「ん?……あぁ、てめえかぁ?」

 

「ヒッ!?」

 

リーダーが俺に弁明していた所で横槍を入れた男は、俺が無傷で返してやった男だった。

全く……ちゃんと大人しくしとけば見逃してやったってのに。

とりあえずブッ殺してから関節逆曲げにしてやるか。

 

「喧嘩売る相手には気ぃ付けておかねぇとなぁ?……時に、お前等カラーギャングってのは何でもありの集団らしいじゃねぇか?」

 

手を組んで骨を盛大に鳴らしつつ、俺は再び怒りから湧き上がる威圧感を無差別にぶつける。

それだけで腰を抜かす輩も大勢居るが、今回ばかりは1人として逃がすつもりはねぇ。

俺は威圧感を全面に押し出しつつ、歯を見せながら獰猛な満面の笑みを浮かべて、奴等を見据えた。

そんな怯えた面すんなよ、俺はお前等が大好きなんだぜ?

 

 

 

 

 

何故って――。

 

 

 

 

 

「何でもありのお前等にゃ相当な無茶しても――正当防衛通りそうだなぁ?(ゴキゴキッ!!)」

 

 

 

 

 

ゴミ処理に加減する必要は、全く無えだろ?

 

 

 

 

 

――この日、神室町チャンピオン街で起きた乱闘事件。

 

 

 

 

 

被害者はレッドカーニバルと呼ばれる30人前後の不良少年グループの全員に及び、全員一様に重症を負っていた。

顎が砕けた者、腕の骨が折られた者、歯が残っていない者、足関節を捻られた者等、被害は様々だ。

中でも特に異質だったのは、四角いコンクリートに囲まれた空き地の壁。

その四方全てに被害者達の血痕が入り混じって付着し、所々の壁が罅割れていた。

状況から察するに、被害者達の中で特に顔面への負傷が酷い者達がかなりの速度で叩き付けられたのだろう。

更に、被害者達の中には女性も混じっており、彼女等もかなりの重症を負っている。

殴る事で出来る打撲痕では無く、何か鞭の様にしなる物で叩いた様な傷跡が刻まれて、顔は3倍にまで膨れ上がっていた。

全員が聴取出来る様な状態では無いので直ぐに病院へ搬送されたが、皆「ごめんなさい、もうしません」とうわ言の様に繰り返しているという。

今まで好き勝手してきた分の報いと言えばそれまでだが、神室町ではギャンググループが壊滅して喜ばれている。

あれだけ手酷く執拗な攻撃から、警察では怨恨の可能性有りとして調査を進める方針である。

しかしながら神室町の住人達に煙たがられていた彼等を排除した謎の犯人に対し、街の住民達は感謝している節が見受けられる。

その事から調査は難航を極める可能性が非常に高いであろう。

 

『警視庁生活安全課の調書から抜粋』

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「(ガチャッ!!)親っさん!!」

 

「ん?……あぁ、元次か」

 

「おい、やかましいぞ。診療所で大声を出すんじゃない」

 

「す、すいません先生……ウェイの親っさん、大丈夫ですか?」

 

俺はゴミ処理を終えた足でゲイリーさんに搬送先の診療所を訪ね、そこに向かった。

柄本医院と貼り出された診療所の扉を開けて親っさんに呼び掛けるも、白衣を着た男に鋭く注意されてしまう。

既にそこには秋山さんと伊達さんも居てので、2人にも頭を下げる。

俺は直ぐに白衣の男、ここの医者さんにも頭を下げてベットに寝転ぶ親っさんに目を向けた。

 

「大丈夫だ。お前が直ぐに助けてくれたからな……久しぶりだな、元次」

 

ウェイの親っさんは頭に包帯を巻いているが、それを気にせず俺に笑顔を見せてくれた。

俺もソレに倣って頭を下げて、「お久しぶりです」と返す。

治療されて身奇麗になったウェイの親っさんは、前より増えた白髪と無精髭の顔付きで笑ってる。

 

「それにしても、まさか偶然にもお前が助けてくれるとはな……迷惑を掛けたな、本当に」

 

「いやいやそんな。俺も鈴が転校するまでの間、親っさんには料理の作り方を教えてもらいましたし」

 

「ふっ……それは、お前が鈴音を苛めから助けてくれたお礼でした事だぞ?……娘だけでなく俺まで世話かけちまったな」

 

鈴が苛められてた件を思い出して再度頭を下げてくる親っさんを、俺は慌てて止める。

もうその件にはしっかり礼もしてもらったし、問題なんか無えからな。

1年振りに出会った俺達の間に穏やかな空気が流れるが、それも長くは続かなかった。

 

「……聞かないんだな?俺が日本に居る理由……気にならないのか?」

 

「あぁ、いえその……それなんですが」

 

「維勳!!大丈夫か!?」

 

「維勳おじさん!!」

 

と、俺が親っさんに理由を聞かない事の理由を説明しようとした時に、新たな来訪者が現れた。

現れたのはマスターとメイファちゃんだった。

何故か先生は2人には注意せずにタバコを吸ってる、おい先生。アンタそれで良いのかよ?

っていうかマスターとメイファちゃんは何故ここに?

 

「俺が電話して知らせておいたんだ。今回の事件に巻き込まれちゃってるしね」

 

俺の表情で俺が何を思ったのか読み取ってくれたのか、秋山さんがそう説明してくれる。

この人は何というか、こういう心遣いがにくいってモンを感じさせてくれるよな。

 

「趙、メイファ……そうか。2人から聞いたんだな……俺が日本に戻ってる理由を」

 

「それだけじゃねぇぜ。鳳さんよ」

 

「……?アンタは?」

 

ここにマスターとメイファちゃんが来た事で、俺が2人から事情を聞いたんだと勘付いた親っさんは自虐的な笑みを浮かべる。

だがそんな親っさんに対して、伊達さんが異を唱えながら進み出てきた。

 

「俺は京浜新聞社の伊達ってモンだ……今日は鍋島に取材を受けてもらう為に、神室町に出向いてもらってたのさ」

 

「取材……あぁ。そういえば元次と一夏は、2人だけの男性IS操縦者だっけ?取材とは人気者じゃねぇか……で、それだけじゃねぇってのはどういう事だい。伊達さんとやら?」

 

伊達さんの職業を聞いた親っさんは俺に笑顔を見せながらそう言い、伊達さんに説明の続きを促す。

 

「鍋島がアンタを見つけたのは偶然じゃねぇ……コイツはあんたがギャング共に狙われてると知って、神室町の情報屋に出された仕事こなして、大金払ってアンタを探してたんだ」

 

「ッ!?……本当なのか、元次?」

 

「……はい」

 

親っさんは伊達さんの言葉に目を見開き、ベットから身を乗り出して俺に真実を問う。

俺はその問いにYESと答えながら、親っさんに視線を向ける。

それで伊達さんの言ってる事が信じられたのか、親っさんは疲れた表情で窓の外を見た。

 

「情けねぇなぁ……あんな奴等に狙われた挙句、趙にまで迷惑かけちまう。それだけじゃなくて、まさか娘の友達に助けられてたとは……こんなんじゃ、国に居る鈴音に笑われちまうぜ」

 

まるで自棄でも起こしたかの様な表情で呟く親っさん。

そうか……鈴がこっちに帰ってきてる事を知らねえのかよ……。

 

「いや、もう新しい父親見つけて楽しく暮らしてるんだろうな……こんな駄目な親父の事なんかサッサと忘れてよ」

 

…………は?

 

「……親っさん……アンタ今なんつったよ?」

 

「え?(ガシッ!!)うぐ!?」

 

「お、おい鍋島!?」

 

「ちょ!?ちょっと鍋島君、落ち着きなって!!」

 

親っさんの放った無神経過ぎる言葉が感に障り、俺は立ち上がって語気を荒らげてしまう。

いきなり表情と雰囲気が変わった俺に戸惑う親っさんだが、俺は構わず親っさんの胸倉を掴んで持ち上げた。

巫山戯んじゃねぇよ……鈴がどれだけ悲しんでると思ってんだ。

伊達さんや秋山さんが止めてくるが、俺はそれに構わず親っさんを至近距離で睨みつける。

 

「アンタどれだけ無神経な事抜かしてんだよ……ッ!!鈴がアンタに会えなくて、どれだけ悲しんでたと思ってんだ!?探したくても何処に居るかすら判らないで泣いてた、アイツの気持ちが分かんのかよッ!!あ゛ぁ゛!?」

 

「ぐ……あ……ッ!?」

 

「お、お兄ちゃん止めて!?おじちゃんが死んじゃうよ!!」

 

「……ッ!!!(バッ!!)」

 

「ぐっ!?ハァ、ハァ、ハァッ!?げほっ!!」

 

メイファちゃんに縋り付かれて幾分か頭が冷えた俺は、乱暴に親っさんをベットへと降ろす。

クソがッ……知らねえとは言え、張本人からこんな事言われると無性に腹が立つ。

 

「ぐふっ…………フゥ……元次……お前、鈴の事何か知ってるのか?」

 

「……鈴は今、中国の代表候補生としてIS学園に居ます」

 

「なッ!?……鈴が、IS学園に?しかも中国の代表候補生?」

 

「そうです……必死に向こうで訓練して、日本のIS学園に入って俺や一夏ってダチ連中に会いたいってのもあったらしいですけど……」

 

俺はそこで言葉を切って、親っさんを真剣な表情で真っ直ぐ射抜く。

 

「一番は……親っさんに会いたいって言ってました」

 

「……」

 

「中国を出る時にお袋さんを問い詰めて……でも、判るのは東京に向かったって事だけで……昨日、俺達の前で大泣きしてたんですよ」

 

なるべく泣き顔を見られたくないだろうって配慮して、俺はサッサと鈴と一夏から離れたけど……あの顔だけはハッキリと見ちまった。

一夏のシャツを皺になるまで握りしめて、目から大粒の涙をボロボロ流しながら、子供ん時みてーに泣きじゃくる鈴の顔を。

あんなに恥も外聞も気にせず鈴が泣く事なんて、鈴が中国に帰る直前ぐらいだ。

それだけ大好きな父親に会いてえって気持ちを我慢してた鈴の姿を見た後であんなセリフ吐かれちゃ、キレたくもなる。

 

「マスターから聞きました……昔やってた店の時の様に、しっかり自分の生活の基盤を建ててからじゃないと、娘に会っても馬鹿にされちまうって言ってたらしいじゃないッスか?……本当にそんな事で鈴が親っさんを馬鹿にすると思ってんのかよ?」

 

「……思っちゃいねぇさ……俺も、鈴音に会いてえと何度も思った」

 

「だったら……ッ!!アイツに会ってやって下さい……親っさんがちゃんと元気に生きてて、鈴の事も大事に思ってるって事を、アイツに教えてやって下さい!!お願いします!!」

 

俺は立った姿勢のままで、親っさんに思いっ切り頭を下げる。

俺じゃアイツの笑顔を戻す事なんて出来ねえ……一夏だって、完全に鈴の笑顔を取り戻せる訳じゃねぇんだ。

アイツが心の底から会いたいって願ってる親っさんじゃなきゃ、鈴の影はキッチリ取れない。

そう思いながら頭を下げ続け、沈黙が部屋を支配する。

 

「――すまねぇ……今は駄目なんだ」

 

「ッ!?……何でっすか?」

 

親っさんの申し訳無さそうな声での拒否に体が動きそうになるのを何とか踏み止まらせる。

 

「確かに、鈴音は俺がこんな情けねえ姿でも馬鹿にしたりなんかしねえだろう……でも駄目なんだ……それじゃあ、俺は胸張ってアイツに『親父は元気にやってる』なんて言えねぇ……ッ!!」

 

悔しさからか、ベットのシーツを握りしめて男泣きする親っさんの姿を見て、俺は何も言えなくなった。

娘には、いや大事な娘だからこそ自分のカッコ悪い姿は見せたくないって事か。

溢れる涙を拭いもせずに嗚咽する親っさんは……本当に辛そうだった。

 

「会えるなら直ぐにでも会って抱きしめてぇ……ッ!!でもそれじゃあ駄目なんだ……それは只の甘えであって、鈴音にもっと負担を掛けちまう……離婚してても、せめて身なりぐらいはキチンと整えてアイツを迎えてやれるぐらいの『親父』にならなきゃあ、アイツに会わせる顔が無えんだよ……ッ!!」

 

「……維勳」

 

「おじさん……」

 

「ぐずっ……元次……頼みがある」

 

親っさんはグシグシと目元を拭うと居住まいを正して真剣な表情でベットに正座する。

俺も真剣な親っさんの力強い意志の宿った目を真っ直ぐに見つめ返した。

 

「今日、俺と会った事は……鈴音には内緒にしてくれ……頼む!!」

 

親っさんはベットの上で正座した体勢から、俺に対して土下座して懇願してくる。

娘と同い年のガキに土下座をする……それが親っさんの本気度合いを示していた。

俺はそんな親っさんに掛ける言葉が見つからず、只ジッと親っさんを見る事しか出来ない。

 

「今直ぐは無理でも、今年の夏まで!!夏までには鈴音に会っても恥ずかしくねぇ大人になる!!だからそれまで、俺に少し時間をくれ!!」

 

親っさんは土下座の体勢から頭を起こして、俺に真剣な目を向けてそう言い放つ。

……そうだよな……親っさんがここに居るって分かってんだから、急ぐ必要は無えよな?

 

「……判りました。今日の事は俺の胸の中に閉まっておきます」

 

「ッ!?ほ、本当か!?「但し!!」ッ!?」

 

俺の答えに目を輝かせる親っさんだが、俺は親っさんの台詞を大きめの声で封殺。

 

「今年の夏休みが終わるまでに、鈴に会ってやって下さい。もし破れば……そん時は、俺の拳が襲いかかるって事を理解しといて下さいよ?」

 

脅しでも何でも無く、俺が本当に拳を振るっていうのを理解しているんだろう。

親っさんは怯えも見せずに真剣な表情で力強く頷いてくれた。

これ以上は俺の踏み込む所じゃねぇ……後は親っさんと鈴の問題だな。

その後は体を休めて下さいと親っさんに言って、マスターとメイファちゃんに親っさんの事を頼んでおいた。

まぁ二人共一年の付き合いなので快く承諾してくれたのは嬉しかったな。

最後に柄本医院の先生によろしくお願いしますと伝え、俺は伊達さんと秋山さんと共に柄本医院を後にした。

昼から来て今は夜の7時……そろそろ帰るとしますか。

もうそろそろ良い時間なので帰ると伝えると、伊達さんは「そうか」と言い、秋山さんは「え~?」と不満そうな声を出す。

 

「まだまだこれからが神室町の良い所スポット巡りの時間なのに、勿体無いなぁ」

 

「おい秋山。お前が言ってる良い所ってのは年齢的に鍋島は入れねぇじゃねぇか」

 

「大丈夫大丈夫、鍋島君なら見た目的にバレないですって」

 

いや、そりゃ確かにバレないだろうけど……行ってみたい気もするな。

 

pirrrrr

 

ん?何か今日は携帯の良く鳴る日だな――。

 

『送信者。ラヴリー束ちゃん』

 

『件名:何時も見てるよ?|●3●)ジー』

 

止めておこう、俺はまだ死にたくない。

背筋が寒いどころか凍ってしまいそうな本能の鳴らす警報に従い、秋山さんのお誘いは丁重にお断りしましたとも。

っていうか顔文字の目が果てしなく怖えよ。

そして束さん、プライベートくらいは守って下さいお願いだから。

結局、夜は時間があるというお二人と一緒にイントルーダーを止めた駐車場まで歩いてお終いとする事になった。

 

「しっかし、今日は色々遭ったなぁ」

 

「そうですよね。ホームレスのゴンさんを助けた事から始まって、伊達さんの取材。そして友達の父親を助ける為に花屋に依頼をして試合、最後はギャング掃除に親父さんとご対面……かなり濃い一日でしたね」

 

「最初のと伊達さんの取材は良いとして、残りは完全に予想外な出来事ばっかだったスよ」

 

ホント、秋山さんの言う通り滅茶苦茶ハードな一日だった……明日は家でゆっくり寝よう。

 

「まぁでも、今日はホント楽しかった。貴重なIS学園の話も聞けたし、君の人となりも色々知る事が出来たからね。実に有意義な一日だったよ、鍋島君」

 

秋山さんはそう言って俺の肩をポンと叩いてくる。

まぁ俺も大変ばっかりじゃなくて、色んな人達と知り合って、巡り会えたのは良い事だったな。

何時かまた神室町に来よう……約束も果たしてもらわなきゃいけねえしよ。

そうこうしている内に俺達は駐車場に辿り着き、昼と変わらぬ姿で堂々と鎮座しているイントルーダーの前に到着した。

 

「うお!?これが鍋島君のバイク!?はー……随分イカしてるねぇ」

 

「俺も若い頃はこういうバイクに憧れたもんだったな」

 

どうやら俺のイントルーダーは年上の2人から見てもかなり良い線行ってる様だ。

自分の手間暇掛けて仕上げたバイクは褒められるのはやっぱ嬉しいぜ。

 

「へー……これだけイジってあると、結構金掛かってるんじゃない?」

 

「確かに、バイク本体だけでも相当高いんじゃないか?」

 

「へへっ。褒めて貰って光栄ですけど、コイツは俺が廃車から見つけて、小学5年生の頃からコツコツと仕上げたバイクなんスよ」

 

「何!?お前さんがこのバイクを仕上げたのか!?しかも廃車からだと!?」

 

「うわー……予想外だったけど、君が本気でお爺さんの工場を継ごうとしてる努力の集大成って訳だ……成る程、そりゃイカしてる筈だよ。『夢』が形を持って走ってるんだからね」

 

2人から賞賛のコメントを貰った俺は照れ臭くなりながらも「有難う御座います」と返す。

やっぱ自分のバイクが褒められるのは気持ち良いぜ……大事な相棒だからな。

俺はバイクの駐車料金を受付に払い、バイクを受け取ってからエンジンに火を灯す。

吹け上がりと始動は一発で掛かり、太いエンジンサウンドがばら撒かれる。

いよいよ神室町ともお別れだな。

 

「今日はわざわざ来てくれてありがとうよ。また機会があったら会おう」

 

「はい。伊達さんも次の職場で頑張って下さい。それとママさんにもよろしく伝えて下さい」

 

「あぁ。ちゃんと伝えておく」

 

俺の今回の記事を最後に前の仕事に復職する伊達さんにエールを送って握手を交わす。

続いて笑顔を浮かべる秋山さんとも握手した。

 

「俺、本気で鍋島君が気に入ったよ。また神室町に来る事があったら、是非ウチの店に寄ってくれ」

 

「はい。そん時は、また飯を食いにいきましょう」

 

「あぁ。次に会う時までに、色々話のタネを増やしておいてくれよ?」

 

「ははっ。頑張ります。それじゃあ、今日はありがとうございました!!」

 

笑顔で手を振る伊達さんと秋山さんに挨拶しながら、俺は道路の流れに乗って神室町を後にする。

後2日休んだらまたIS学園の寮に戻るんだし……偶には腐れ縁のダチの家に遊びに行きますか。

残りの休みの予定を頭の中で組みつつ、俺は夜の町を優雅にクルージングしていく。

 

 

 

 

 

「――所で秋山?お前秘書の子に韓来の特選焼肉弁当買って帰るんじゃなかったのか?」

 

「――あ」

 

俺が去った後にそんな遣り取りがあった事は、全然知らなかった。

 

 

 






龍が如くは名作( ー`дー´)キリッ

だが作者は生かしきれてない(´・ω・`)

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