IS~ワンサマーの親友   作:piguzam]

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アカン、どうでも良い描写ばっかり書いてまう(´Д⊂グスン


お蔭でストーリーが進まないウワァァァァァァヽ(`Д´)ノァァァァァァン!


転入生はブロンド貴公子!?

 

 

「おーっす、ゲン。こっち空いてるぞー?」

 

「おう兄弟、オルコットもおはようさん」

 

「お早う御座います、鍋島さん。今日は少し遅いのですね?」

 

千冬さんに気持ち良くしてもらった次の日の朝。

俺は整備室からオプティマスを引き取り、何時もより少し遅れて食堂へと足を踏み入れた。

そして注文が終わって空いてる席を探していた所に一夏から声を掛けられ、その席に腰掛ける。

同じく座っていたオルコットと挨拶を交わし、一夏と同じ日替わり定食(量は2倍)に手を付けていく。

 

「そういや、何時もより遅めだな。寝坊でもしたのかよ?」

 

「ムグムグ……ちげーよ。ちっとばかし整備室に寄ってたから遅くなっちまっただけだ」

 

「え?整備室?オプティマスに何かあったのか?」

 

「いや、別に故障とかじゃねぇ。オプティマスを少し改造してたから、昨日はオプティマスを整備室に預けてたんだよ」

 

「改造……まだわたくし達はそこまでの授業はしていない筈ですが……」

 

日替わりの鮭を食べながら二人の質問に答えると、オルコットが首を傾げながらそう聞いてくる。

ここで言うISの改造とは、拡張領域に武装を追加したり装甲を変えたりスラスターのエネルギー配分を変えたりと様々だ。

しかし、まだ俺達はそんな専門的なことは習っている途中であり、そこまで高度な事をするならもう少し時間が経たないと無理なのだ。

代表候補生のオルコットは俺達より専門的な事は進んでいるから出来るだろうけど、俺がそこまで進んでるとは考えにくいんだろう。

ふむ、ちょっと言い方がまずかったか。

 

「オルコットの考えてる改造は、武器の交換とかメンテナンスだろ?俺がやってたのはそれじゃねぇ」

 

「?と、申しますと?」

 

「まぁ、ちょっとした遊び心さ。今日は実習があるし、もしかしたらお披露目出来るかもな」

 

だからその時までは内緒って事で。と締め括り、俺は飯の続きに取り掛かる。

オルコットも俺が話す気が無いと悟って特に追求はしてこなかった。

それは長い付き合いの兄弟も同じで、後で分かるならそれで良いかと話を打ち切る。

しかしまぁ、昨日と同じで周りの視線が凄い事。

特に話題の男性操縦者が食堂で固まって飯を食ってるんだから、視線の豪雨が心地悪いぜ。

まぁ気にしててもキリが無いので、俺達は普通に食事を終えて教室へと足を進める。

 

「ねぇ聞いた聞いた?」

 

「聞いた聞いたっ!!正に天からのおぼしめしだよね!!」

 

「え?何の話?」

 

「織斑君と鍋島君の話」

 

と、俺達が歩いている時に、何やら俺と一夏の話題を話しているグループがあった。

俺の先を歩いていくオルコットと一夏は聞こえていない様でドンドンと先へ歩いていってしまう。

しかしどうにも彼女達の話が気になってしまい、俺は足を止めて聞き耳を立ててみる。

俺達の話題が出るといえば、先の学園新聞の事かもしれないが……。

 

「いい話?悪い話?」

 

「ふっ……グレートに良い話よ」

 

「聞くっ!!是非お願いします!!」

 

「はい落ち着いてねぇ~。良い?これは女子だけにしか教えちゃ駄目よ?実は、今月の学年別トーナメントで……」

 

ん?何で俺達の話題が学年別トーナメントの話題になるんだ?

随分とおかしな所へ話が飛躍しているなと首を捻りつつそのまま聞き耳を立てておく。

 

「おい、ゲン。早く行こうぜ」

 

「少しゆっくり気味ですし、そこに立っていては他の方の通行の邪魔になってしまいますわよ?」

 

「ん?あ、あぁ。悪い」

 

だがしかし、ソレも俺が着いて来ないと気付いて戻ってきた一夏に邪魔されて肝心な所を聞く事が出来なかった。

二人が戻ってきちゃこれ以上の事を聞く時間も無いので、俺は二人の後ろに着いて食堂の外へ出た。

ふーむ……何で俺と一夏の話がこれから先に起こる学年別トーナメントの事に繋がるんだ?

あの噂してた子達の話しぶりだと、何か女子だけの取り決めらしいが……まっ、放置してても無害っぽいし良いだろ。

俺と一夏に対して悪意のある話し方では無かった所為か、俺は特にその話を気にしなかったのだが……。

 

 

 

『ええええっ!?そ、それってマジのマジ!?』

 

『マジでっ!?その情報信頼出来るの!?』

 

『うそーっ!?きゃーっ、どうしよーっ!!』

 

 

 

後で知る事だが、俺はこの時全力でこの話を止めるべきだった。

 

 

 

「(プシュ)お早う」

 

「うーす」

 

「あっ!!3人共お早う!!」

 

「おはよ~♪ゲンチ~、セッシ~、おりむ~」

 

「お早う御座います、皆さん」

 

俺等が教室へ入ると、既に教室に居た皆が元気に挨拶してくる。

その中には昨日部屋を移動した本音ちゃんの姿もあった。

うん、どうやら問題無く寝れたようだな。

そう考えていると、本音ちゃんはトテトテと歩いて鞄を席に置いた俺に近づいてくる。

 

「ねぇねぇゲンチ~。今日は、遊びに行っても良い~?」

 

「お?早速来るのかい?まぁ大したモンは出せねぇけど……まだ手がこんなだからな」

 

暗に「お菓子作って」と言ってくる本音ちゃんに、俺は苦笑いしながら手をプラプラさせる。

相も変わらず包帯が巻かれた俺の右手だが、包帯が完全に取れるのは明日ってトコだ。

もう傷は塞がってるけど、今日一日は様子見しておく様にと柴田先生から言われてるんだ。

昨日の放課後に傷を見せたら、神室町で右手を喧嘩に使ったのがバレて怒られたけどな。

 

「む~……」

 

しかし、俺の手を見た本音ちゃんは頬を膨らませて怒ってますとアピールを始めた。

 

「ち~が~う~。普通に遊びに行きたいの~。お菓子が出せないのぐらい、知ってるよ~」

 

「え?マジ?」

 

「何でそんなに不思議そうにするのさ~?……私だって、いっつもお菓子ばっかりじゃないんだぞ~(ポカポカ)」

 

可愛らしく頬を膨らませてポカポカと俺の頭を叩いてくる本音ちゃんの行動に、俺は少し笑ってしまう。

あぁ、何か叩かれてるのに本音ちゃんの行動を見てると癒され……別に危ない思考じゃねぇよ?

 

「くくっ。悪い悪い。まぁ夜は空いてるから遊びに来てくれて構わねぇよ。コーヒーくらいは……いや、カフェオレくらいは出してあげよう」

 

ホットミルクを注いでドリップするだけだし、それぐらいなら問題無いからな。

俺が笑いながらそう言うと、本音ちゃんは少しだけ頬の膨らみを萎ませる。

どうやらまだ納得のいかねぇ事がある様で、依然としてスマイルは見せちゃくれねぇ。

 

「ぶ~。コ~ヒ~でも大丈夫だもん~。私だって大人のオンナなんだから~」

 

ちょっと大人の女っぽく腰に手を当てたポーズを取ってくる本音ちゃんには悪いけど、それは無い。

俺が飲んでたシナモンローストのブラックを舐めただけで涙目になってたし。

まぁ本音ちゃんは遊びに来る気満々みたいだし、適当に茶受けのお菓子でも買っておきますか。

 

「ねぇねぇ本音!!本音は何処のスーツが良いの!?」

 

「あっ、鍋島君もコッチ来て話に混ざろうよ!!」

 

そんな感じで楽しく談笑していた俺と本音ちゃんだが、別の机でグループを為していた相川達に呼ばれた。

俺達はその声に導かれてそのグループへ近づくと、一夏やオルコットもそこに居る。

一夏が居るんだったら箒も呼んでやった方が良いだろ……ってあれ?

このメンバーなら箒も来いと言おうとしたのだが、俺の視線の先に居る箒は俺と目が合うと手を振ってNOを示す。

どうしたんだ?と思うが、箒は「早く向こうを向いてくれ!!」と言わんばかりの表情を見せてくるので、俺は首を傾げながら箒から視線を外す。

まぁ本人が良いってんなら構わねぇけどよ。

 

「私はやっぱりハヅキ社製のがいいなぁ。スッとしたデザインだし」

 

「えー?そう?言っちゃアレだけど、ハヅキのってデザインだけって感じしない?」

 

「そのデザインがいいのさ」

 

とりあえずグループに混ざってみれば、相川達は一冊の分厚い本を読んでキャイキャイと騒いでいる。

ハヅキ?デザイン?何のこっちゃなんだが?

俺は自分のでかい身長を駆使して、彼女達の真上からカタログを覗きこむ。

 

「んー?これって……ISスーツのカタログか?」

 

件のカタログには、色とりどりでデザインが似た様なISスーツが沢山書かれていた。

そういえば一般生徒、つまり専用機持ちじゃない子達は自分専用のISスーツを申し込むんだっけ?

 

「そうそう!!自分用のISスーツだからどれが良いか迷っちゃって」

 

「アタシはスペック的にミューレイのかなぁ。それもスムーズモデル」

 

「あー、あれねー。モノはいいけど高いじゃん。」

 

「でも、ISスーツって結構長い間使うんだし、長い目で見れば高くても性能が一番じゃない?」

 

俺の質問に相川が答えると、そこから更に話を発展させる女子軍団。

いやはや、やっぱ女子は話の移り変わりがスゲェ激しくて困る。

っていうかISスーツって別個にスペック違うんだな。

俺と一夏はデザインこそ違えど、性能なんて考えた事も無い。

 

「ふーん?……でも、俺にはどれもこれも似てるとしか思えないなぁ」

 

と、カタログを眺めていた一夏が軽くそんな事を言うが、俺も全く持って同意だぜ。

しかしそんな一夏に対して相川は片手を目元に当てたままビシッと一夏にもう片手を使って指差す。

 

「甘い!!シロップとアイス10倍増し増しにしたハニトーより甘いよ、織斑君!!」

 

そりゃ甘すぎだろ。胸焼けで死ぬわ。

 

「女の子にとっては、細かくて見にくい所にこだわる事こそ重要なんだから!!それでそういう細かい違いに気付いてこそ男子なんだよ!!」

 

「そ、そうなのか?」

 

知らん、俺も初耳だ。

ISスーツにデザインの拘りがあるのも、女子特有のオシャレなんだろうな。

それにさっきクラスの子が言った通りIS学園は18歳までの高等科だが、実は来年から22歳までの大学部も設立される。

進む進まないは個人の自由だがその期間をISスーツのお世話になるんだから、長い目で見るのも有りだろう。

 

「わたくしのスーツはブルーティアーズに合わせた色合いと、スリットラインが入っていましてよ」

 

「あー、そりゃ専用機の為に作られたISスーツだもんねぇ」

 

「セシリアとか2組の鳳さんのは、アタシ達の見てるカタログのスーツのどれよりも性能高いし」

 

オルコットの発言に皆も同意するが、なるほど。考えてみりゃ納得だ。

国の保有機体である専用機のスーツともなれば、謂わば国の代表者を包む礼服。

デザインが他の国より劣っていれば舐められるだろうし、常に最たるセンスが求められるって事か。

分かり易く言うなら……レースとかのチームメンバーが着るツナギとかか?

 

「そういえば、織斑君と鍋島君のISスーツってどこのやつなの?見たことない型だけど」

 

「あー。特注品だって。男のスーツが無いから、どっかのラボが作ったらしい。えーと……もとはイングリッド社のストレートアームモデルって聞いたな」

 

一夏はクラスメイトの質問に頭を捻りながら答える。

そういえば、一夏のISスーツってあの短パンへそ出しルックは何故?って思ってたけど、元は女子用なのか。

一夏の答えを聞いたクラスメイトがカタログを捲ると、イングリッド社のストレートアームモデルがあった。

但し一夏のスーツとは違って、下は短パンじゃなくてブルマみたいなデザインだったけど。

まぁ、一夏って千冬さんに似てるし、男なのに線はちょっと細めだからな。

元あった女物をちょいと改造するだけで事足りたって事か。

逆に言えば俺に合う女物なんて探す方が無駄ってのは決まりきってるし。

 

「ゲンチ~のは、何処が造ったの~?」

 

「俺のか?俺のは……そうだな、FRCとでも言えば良いのかね?」

 

次に本音ちゃんが俺のスーツの出所を聞いてくるが、俺はその質問に疑問文を返す。

何せ俺のスーツもオプティマスと同じ所の出身だからな。

 

「FRC?そんな会社あったか?」

 

「会社っつうか……ファニー・ラビット・カンパニーって感じ?一夏なら分かるだろ、俺の言ってる『会社』が?」

 

「ファニーラビット……あっ、成る程。そういう事なら納得だ」

 

俺と同じく悪戯好きな兎さんの姿が頭の中に浮かんだのか、一夏は手をポンと叩いて「なるほど」といった顔をする。

ファニーは無論、プラスの意味で可愛いって意味合いだ。

だって俺のオプティマスもISスーツも束さんご謹製の代物だし、俺にくれたのも束さん本人だ。

……千冬さんから聞かされた話じゃ、俺のオプティマスを提供した会社は世間にFRCと名乗ってるらしい。

それで政府にも話は通ってるとか……束さんェ……。

 

「ISスーツは肌表面の微弱な電位差を検知する事によって、操縦者の動きをダイレクトに各部位へと伝達、ISはそこで必要な動きを行います。また、このスーツは耐久性にも優れ、一般的な小口径拳銃の銃弾程度なら完全に受け止める事が出来ます。あ、衝撃は消えませんのであしからず♪」

 

と、俺達の話を聞いていたのか、真耶ちゃんが教室の入り口を潜りながらISスーツの事をスラスラと説明してくれる。

その様子は若干誇らしげに胸を張った笑顔で、見ている者に安らぎと朗らかな気持ちを与える様だ。

やっぱこのクラス、いやこの学園で本音ちゃんと双壁を為す癒しを運んでくれる存在なだけあるぜ。

真耶ちゃんの姿を見てると本当にポワッとした気持ちが溢れてくるんだもんな。

皆真耶ちゃんの姿を確認すると、口々に挨拶して席へと着く。

喋ってて気付かなかったけど、もう直ぐSHRの時間だ。

 

「山ちゃん詳しい!!」

 

「えへへ、先生ですから……って山ちゃん?」

 

「山ぴー見直した!!」

 

「え?それって今までは……山ぴー!?あ、あのー、教師をあだ名で呼ぶのはちょっと……」

 

真耶ちゃんは皆の言葉に嬉しそうに胸を張るが、あだ名で呼ばれた事に不満がある様だ。

まぁぶっちゃけ、真耶ちゃんには悪いけど教師の威厳ゼロだもんな。

 

「えー?いいじゃんいいじゃん♪」

 

「まーやんは真面目っ子だなぁ」

 

「ま、まーやんって……」

 

しかし真耶ちゃんの不満もなんのその。

皆は笑顔で口々にあだ名を呼ぶ……っていうか真耶ちゃんあだ名何個あるんだ?

ま、まぁそれだけ真耶ちゃんが生徒の皆に親しまれてるって事でもあるんだろうがな。

 

「諸君、おはよう」

 

『『『『『お、おはようございます!!』』』』』

 

そして、真耶ちゃんから少し遅れてIS学園の裏ボスである千冬さんが登場。

あれだけ騒がしかった教室が水を打ったように静まり返る。

相変わらずのカリスマを自然体で振り撒いているからこそ、皆のあいさつも緊張を孕んだモノになってしまう。

とは言え、カリスマが凄すぎるってだけで別に千冬さんが親しまれて無いって訳じゃねぇけどな。

アダ名だって、束さんしか呼ばねーけど『ちーちゃん』ってアダ名が――。

 

「(バチコォオオオンッ!!)ばぶるす!?」

 

千冬さんが嫌いなアダ名(本人談)を心の中で連想した俺の顔に、縦に突き刺さる出席簿。

心の中のプライバシーぐらいは守って欲しいぜ。

クラスの子達も慣れたのか、誰も俺に対して心配せず、千冬さんも出席簿をそのままにSHRを進める。

薄情過ぎやしねぇか皆さん?

 

「今日からは本格的な実戦訓練を開始する。訓練機ではあるがISを使用しての授業になるので各人気を引き締めるように。各人のISスーツが届くまでは学校指定の物を使うので忘れないようにな。忘れた者は代わりに学校指定の水着で訓練を受けてもらう。それも忘れたという馬鹿者は、まあ、下着で構わ――」

 

初めてISに触れての本格訓練という事で、教室の女の子達の視線がグッと真剣なモノに変わる。

俺は顔面に突き刺さった出席簿を引っこ抜きながら、その光景を眺めていた。

しかし、忘れた女生徒は下着?それは俺みてーな健全な男子に対する新手の拷問ですかな?

勿論、耐え切ればそこにはパラダイ――。

 

「――フンッ!!!」

 

「(ドゴォオオオッ!!)ごぶぇ!?何で!?」

 

「……いや、構うか。ここにはケダモノが居ることだしな。忘れたものは正直に申告しろ、良いな」

 

「ぜ、絶対に下着で来ちゃ駄目ですよ!?皆さんもそれはちゃんと守るように!!」

 

不埒な事を少しだけ思い浮かべた瞬間、千冬さんが鬼の様な目つきで俺の頭を机に叩きつける。

もう勘弁して頂けないでしょうか?っていうか誰がケダモノっすか誰が。

朝から2連続で千冬さんの制裁を頂く羽目になるとは……今日はどうもツイてないらしい。

しかも真耶ちゃんまで千冬さんの援護射撃を真剣にするモンだから、チラチラと教室から俺に視線が集まる。

 

「……一応言っておくが、不埒な真似をしたらどうなるか……良いな、鍋島?」

 

「い、痛てて……俺がやるって方向で話が煮詰まってるのかはさておき、そんな事しねぇッスよ」

 

俺の頭を押さえ付けてた手を離して頭上からそんな事を言ってくる千冬さんに、俺は体を起こしながら反論する。

寧ろ本能に負けて舐め回す様に見たら、俺は速攻でカツ丼を食う羽目になるだろう。

しかして俺を目の前で見下ろす千冬さんは余り信じて無さそうな眼つきです。信頼ねぇな、俺。

 

「……まぁ良い……山田先生、連絡事項を」

 

「あっ、はい!!……げ、元次さん!!女の子の肌を舐めまわす様に見ちゃ駄目なんですからね!?絶対ですよ!?ケダモノになっちゃメッ!!なんですからね!?」

 

「あれ?俺ってそこまで信用無ぇの!?山田先生まで俺の事ケダモノ扱い!?」

 

「あ、当たり前です!!もう!!(あ、あんなに私のむ、むむ、胸を舐めたのに!!元次さんのエッチ!!)」

 

教卓の前に立ったまま、俺に「メッ!!」と怒る様に指を突き出す真っ赤な顔色の真耶ちゃん。

何故に俺を見て顔を赤くする?そして当たり前なのか、ファッキン。

俺は驚愕と絶望の目で真耶ちゃんを見るが、真耶ちゃんは依然として怒る様な仕草を隠さない。

いや、まぁ微笑ましい怒り方ではあるんだけど……何で俺怒られてんの?

とりあえず俺に注意をした真耶ちゃんは気を取り直してコホンと咳払いすると、皆を見渡しながら笑顔を浮かべる。

 

「えっと、最後の連絡事項です。ちょっと遅くなりましたが、今日は皆さんに嬉しいお知らせがあります!!」

 

まるで花が咲いた様な朗らかな笑顔を浮かべる真耶ちゃん。

普段ならそこで「可愛いなぁ♪」とクラスの女子から茶化しの声が入るが、今は無い。

理由なんて単純明快でありますが、もう1人の担任が原因とだけ言っておこう。

 

「今日はなんと、このクラスに転校生が来ました!!」

 

『『『『『――えぇえええええええええッ!!?』』』』』

 

あ、やっぱりその話題になるのか。

真耶ちゃんが楽しそうな笑顔で言い放った言葉に一瞬の静寂があったものの、次の瞬間には絶叫が木霊した。

皆直ぐに隣同士でヒソヒソと小声で話を始める。

まぁ鈴の転校があったのは皆の記憶に新しいし、連続で来る事に疑問を持ってるんだろう。

それに女子と言えばこういう話は大好物だろうしな。

隣りの一夏も驚いた顔をしてるが、俺は昨日千冬さんから先に聞いていたので驚きは少ない。

それにこういう場面で騒ぐと……。

 

「騒ぐな静かにしろ!!」

 

『『『『『――』』』』』

 

こんな感じで千冬さんからお叱りが飛ぶからな。

正しく鶴の一声とでも言うべき透き通る声で発せられたお叱りに、クラスも一気に静まり返る。

なんだか俺の時と似た様な状況になっているので、俺は自然と苦笑いしてしまう。

きっと扉の向こうに居るであろう転校生も驚いてたり苦笑してたりだろうな。

全員が静かになったのを確認した千冬さんは、教卓前の扉に視線を向ける。

 

「さて、転校生。入ってこい」

 

『……失礼します』

 

千冬さんの呼び掛けに、扉の向こうから反応を返した転校生は開かれた扉を潜り、1組の中へと入ってきた。

……いやいや、ちょっと待て?

有り得ないだろうと思う俺の心境をさて置いて、『彼』は教卓の前に立って俺達を見渡す。

後ろで千冬さんの様に長い髪を一括りにしたハニーブロンドの風貌。

儚げな優しさを見せるアメジストの瞳。

男にしては華奢と思わせる、というか女子とほぼ変わらない『体躯』。

俺や一夏の様な男物のズボンを履いた『彼』は、正に王子様と言える様な笑顔を浮かべて俺達に言葉を紡ぐ。

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れな事が多く何かと面倒をかけると思いますが、みなさん宜しくお願いします」

 

彼――シャルル・デュノアは笑顔を浮かべながら流暢な日本語でそう言って言葉を締め括る。

一方で俺達は呆けた顔を晒して彼を見つめてしまう。

マジかよ……いや、男のIS操縦者?待て待てそれは幾ら何でも無理があるって。

 

「お……男?」

 

呆然としたクラスメイトの呟きに、彼はニコッと微笑んで口を開く。

 

「はい。ここに僕と同じ境遇の方が二人いらっしゃると聞いて、本国より転入を……」

 

「――キ」

 

「はい?」

 

やばい!?このパターンは正しくイエロー!!

ぞくっとした感覚が背筋を通った瞬間、俺は急いで耳を塞いで防御体勢を構築。

隣りの一夏と転入生が俺に疑問顔を向けてくるが、俺は何も言わない。

言ってる余裕なんざ――。

 

『『『『『――きゃああああああああああッ!!』』』』』

 

まるで皆無だからな!!

俺が耳を塞いで直ぐ後、常識知らずとも言える声量でソニックブームが発生。

まさしく黄色い悲鳴が教室中に鳴り響く。

 

「ぎゃーーッ!?」

 

哀れ耳を塞がなかった一夏はその轟音とも言える黄色い悲鳴に耳をヤラれて苦しそうに悲鳴を挙げる。

兄弟、いい加減に学習しようぜ?

転校生は男、それも極上級のイケメンとくれば女子から黄色い悲鳴が挙がるのは当然だろ?

チラリと後ろの席を窺うと、極々一部を除いた女子が目をキラキラと輝かせている。

極々一部っていうのは、箒やオルコットという既に惚れた相手が居る連中。

さゆかと本音ちゃんも余り興味が無いのか、驚いていても特に歓声を挙げたりはしてない。

普通に転校生が来て嬉しそうなのは分かるけど。

 

『男子よ!!男子!!MEN!!しかもうちのクラスに金髪ってキタコレ!!』

 

『三人目の男子!!しかも全てがウチのクラスに集まるなんて、これなんて天国!?』

 

『織斑君の熱い男って感じでも、鍋島君の様な超・肉食でも無くて美系!!しかも守ってあげたくなるプリンス系だなんて!!』

 

『時代は大排気量の肉食だけじゃない!!今はハイブリットな草食も重要なのさ!!』

 

『FUーーーHAーーー!!!』

 

とりあえず最後、落ち着け。

 

「え、え?」

 

目の前の少女達のテンションについていけないのか、デュノアは目をぱちくりさせながら驚きで声も出ないという様子だ。

俺はそんな反応をしているデュノアに視線を向けながら、心の中で考える。

うーん……やっぱ男には見えねぇんだが……幾ら華奢だっつっても、あの撫で肩とかは女子の体だろう?

声も男の物にしては高いし、喉仏も全然見えない……まぁ、胸は確かに無えけど。

でもそれぐらいなら胸を手術すれば良い事だ。

若しくは鈴の様にぺちゃぱ……何故だ?2組から激しい殺気がきやがった。

考えれば考える程、俺にはデュノアの事が男には見えなくなってくる。

……まぁ、とりあえず今は考えるのは諦めよう……もしも俺や一夏に害を及ぼすなら、その時に対処すれば良いんだからな。

今は純粋に、クラスの仲間が増えた事を喜ぶとしよう。

 

「あー、騒ぐなお前等。まだ連絡事項はあるんだ」

 

女子達の騒乱を本気で鬱陶しそうな表情を浮かべながら、千冬さんは止める。

その一言だけで騒がしかったクラスが静かになり、皆千冬さんの言葉を待つ。

 

「今日は午前中の時間を全て使って2組と合同でISの実習を行う。全員この後は着替えてグラウンドに集合するように。良いな?」

 

『『『『『はいッ!!』』』』』

 

千冬さんの聞き返しに乱れぬ返答を返す我等1組一同。

ふざけて良い時と駄目な時の事はしっかりと覚えているからな。

 

「それと鍋島、織斑」

 

「は、はい?」

 

「何スか?」

 

皆の一糸乱れぬ返答を聞いた千冬さんは、俺と一夏に視線を向けながら声を掛けてくる。

 

「デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だから都合が良いだろう」

 

成る程、そりゃ確かにそうだ。

デュノアの性別疑惑は横に避けて、今は同じ学園に住む3人目の新人に色々と教えておかなきゃな。

 

「分かりました」

 

「了解ッス」

 

「うむ。ではこれで解散!!」

 

最後に千冬さんが号令を掛けて真耶ちゃんと教室から去ると、皆は立ち上がってそれぞれ実習の用意を始める。

この後は直ぐに実習だし、急がないと間に合わない。

俺達もサッサと更衣室に逃げ込まないとな。

そう思って席から立ち上がると、デュノアが俺達に視線を向けて微笑んでいた。

 

「君達が織斑君と鍋島君?初めまして。僕は……」

 

「あぁ、挨拶は後にしようぜ。まずは急がないと」

 

「だな。さぁ行くとしようか、転校生?」

 

一夏は挨拶してきたデュノアを遮ると、手を握って外に出ようとする。

だが、一夏の行動の意図が分からないデュノアは首を傾げていた。

やれやれ、ならこの俺が一丁説明してやろう。

俺はニヤリとした笑みを浮かべながら、キョトンとしているデュノアに言葉を発する。

 

「ボヤボヤしてっと、うら若き乙女達の生着替え鑑賞会が始まっちまうぞ?」

 

「?……ッ!?そ、そうだね!!」

 

それで俺達の行動の意図を察したデュノアは慌てて一夏に引っ張られながらも教室を後にする。

しかしあの「それがどうしたの?」みたいな反応って……まぁ、まだ分からねぇか。

俺もデュノアと一夏の後を追う様に教室を飛び出し、アリーナの更衣室へと急いで走る。

この時間だけは走らないと間に合わないからって千冬さんからも特別に許可を頂いてるんだ。

 

「男子は実習になると毎回この移動だから、早めに覚えてくれよな」

 

「ったく、教室で着替えていけねぇのがこれ程面倒だと感じる事になるとは思わなかったぜ」

 

「う、うん(ソワソワ)」

 

と、今度は一夏に引っ張られてる手を見ながら少しソワソワしてるデュノア。

それを見た一夏は疑問顔を浮かべてデュノアに視線を送る。

 

「どうした?トイレか?」

 

「トイッ……違うよ!?」

 

一夏の質問を聞いて、デュノアは恥ずかしそうにしながら大声でそれを否定。

何かいよいよもって男子らしさが無い様に見えてきたぞ……もし女ならホントに隠す気あんの?

そう考えていると、ヤマオロシと戦った事で強化された俺の気配察知能力がビンビンと警報を鳴らす。

俺達に近づく……いや、待ち伏せしてる気配を多数捉えた。

危険ポイントはあの曲がり角の先だ!!

 

「一夏!!真っ直ぐ行け!!右はアンブッシュされてる!!」

 

「ッ!?了解ぃ!!」

 

「え?な、何々?待ち伏せってどういう事!?」

 

俺のナビゲートに従って、一夏は狼狽えるデュノアの手を引いたまま道順を真っ直ぐに変更。

そのまま3人揃って急ぎ曲がり角を通り過ぎる。

 

『(ガタンッ!!)嘘ぉ!?この完璧な待ち伏せがバレた!?』

 

『隠れてたのに何で!?っていうか曲がり角に来る前に気付くって、鍋島君勘が鋭すぎでしょ!?』

 

『焦る事は無い!!まだ第一ポイント!!この先にも同士達が居るわ!!私達は噂の王子様転校生を追うのよ!!』

 

『K-12ポイントへ!!ターゲットはソッチへ向かったわ!!護送者にメタルギアREX(鋼鉄の野獣)の姿を確認!!注意しなさい!!敵のソリトンレーダーは強力無比よ!!』

 

通り過ぎた後ろから聞こえてくる内容に、俺と一夏は冷や汗を掻く。

ヤベェ、IS学園の女子の行動力と結束力、そしてスニーキング能力を甘く見てたっぽい。

何だよ第一ポイントって?まだこの先に何箇所もあるのか?

そんなにまでして新しい男に飢えてんの?IS学園の女子怖い。

俺と一夏は互いに顔を見合わせて頷くと、周囲を警戒しながらスピードを上げる。

さすがに女子に捕まって実習遅刻とかなったら、千冬さんの出席簿は免れないだろう。

転校初日からデュノアをそんな目に遭わせるのもアレだし、ここは本気で急がねぇとな。

と、思ったら次は天井から妖しい気配……天井!?

 

「い、一夏!!天井に気を配っとけ!!」

 

「よっし分かっ、天井!?何で!?」

 

「知るか!!兎に角、天井から何かの気配が――」

 

バゴンッ!!!

 

「ご名答!!」

 

「そりゃあ!!」

 

「「はぁああああ!?」」

 

「ニ、ニンジャ!?ジャパニーズアサシン!?」

 

言い争いをしていた俺達の真上の天井蓋が外れ、そこから笑顔の女子がダイビングしてきた。

何格好良く言っちゃってんだデュノア君よぉ!!つうかこれって忍者にカテゴリして良いの!?

そしてテメェは何でそんなに嬉しそうな瞳してやがるんですかコンチクショウ!!

お前等ホント何!?と言いたい気持ちでいっぱいだったが、飛んできた二人はデュノアでは無く俺に向かってくる。

 

「ぬおぉお危ねぇ!?(パシッ)もひとぉつ!!(パシッ)」

 

「きゃー♪捕まっちゃった♪」

 

「いやーん♪攫われるー♪」

 

「随分楽しそうだなお前等!?」

 

俺は自分に向かって笑顔で飛んでくる二人を避ける事が出来ずにキャッチしてしまった。

いや、あの速度で床に叩き付けられたら鼻血とかじゃ済まなかったからな?下手したら骨折モンだぞ。

いきなり二人分の重さが加味されてしまうが、それでも俺はスピードを落とさない。

ここでスピード落としてたら敵の思う壺になっちまう。

 

「ゲ、ゲン!?大丈夫か!?」

 

「これぐらいなら問題ねぇ!!それより次は右だ!!食堂方面に抜け――」

 

「こちらチームアルファ!!現在ターゲットはポイントDを迂回!!食堂方面に抜けるわ!!」

 

『了解!!ブラボーチームがそっちに向かってる!!逐一報告せよ!!』

 

「おいちょっと待てぇえええええええ!?こっちの動き完全に筒抜けじゃねぇか!?」

 

俺にしがみ付いてる女子の1人が無線機でどっかに報告しやがった。

思わず抱えたまま叫ぶ俺だが、抱えられてる二人は楽しそうに笑うだけ。やりおる。

っていうか授業前の時間だってのに何処から無線機なんて持ち出したんだよ。

これじゃ俺達の動きは完全にバレる。

ここでこの二人は降ろして行くしかねぇ!!

 

「一夏!!デュノアを連れて先に行け!!俺が一緒に居たんじゃ奴等にバレる!!この二人を降ろしてから向かう!!」

 

「わ、分かった!!ちゃんと間に合えよ、兄弟!!」

 

「テメェもちゃんとデュノアを送り届けてやんな、兄弟!!」

 

「ね、ねぇどうなってるの!?何で移動だけでこんな騒ぎになってるのさ!?」

 

1人状況が把握出来てないデュノアを連れて、一夏は先を急ぐ。

俺は1人で立ち止まると、俺の肩に担がれている女子の脇に手を回して引き剥がした。

 

「さぁお二人さん、スパイごっこはここで終わりだ!!俺は急いで行かなきゃ――」

 

「今よ、動きが止まったわ!!グレーチーム掛かれ!!」

 

「はいぃぃ!?」

 

俺が二人を地面に降ろした瞬間、最初のポイントで待ち受けていた女子軍団が俺達が来た道から大量に押し寄せてくるではないか。

更に反対の道を見ると、そこからまた別のチームが現れて、進路を塞がれてしまった。

おいおい!?まさか嵌められたのか!?最初から狙いはデュノアだけじゃなくて、俺達の誰でも良かったのかよ!?

驚愕に染まった顔で俺が降ろした女子に目を向ければ、二人はこれまたドヤァな顔をしてやがった。

 

「ふっふっふ。鍋島君が女尊男卑主義じゃない女の子に手を上げないのは周知の事実」

 

「だからこそ、私達は安心して天井から飛び降りれたんだけどね♪鍋島君が受け止めてくれるのは判ってたから♪」

 

女って怖い。マジにその一言に尽きる。

こっちの性格まで利用してそれを楯にここまでするとは……っていうか短時間で良くこんな作戦思いついたな?

既に俺の周りは全て女子に囲まれ、もはや逃げ道は見当たらない。

自分達の勝ちを確信した女子軍団は、獲物を追い詰めるかの如くジリジリと近寄ってくる。

 

 

 

――だが。

 

 

 

「……獲物を前に舌舐めずりは……三流のする事だぜ!?」

 

「え?(バッ!!)あ!?」

 

俺は全員の動きがゆっくりなのを確認し、廊下の開かれた『窓』へ直行。

窓の縁に足を掛け、「まさか!?」って顔をしてる女子達に振り返ってニヤリと笑う。

 

「――無限の彼方へ!!さぁ、行こう!!」

 

その一言を最後に、俺は窓の外……大空へと飛び出した。

 

「ちょ!?ここ3階!?」

 

背後で俺の蛮行に驚く声が聞こえるが、俺は全神経を集中して窓の外にあった樹の幹へと足を叩き付ける。

そこから足を下に滑らせていく要領で地面との距離を縮め、2階ぐらいの距離からジャンプした。

このぐらいの距離なら、『猛熊の気位』を発動させておけば問題にならない。

 

「よっと!!(ダァアアアンッ!!)うし、カッ飛ばす!!」

 

着地の衝撃も何のそのってな具合に、俺は再び更衣室目掛けてスピードを上げていく。

一夏達と別れてからまだそんなに時間は経ってねぇし、これなら間に合う!!

俺は脇目もふらずに走りぬけ、遂に更衣室に到着。

自動扉を潜ると、そこには同じく着いたばかりなのか、息を整えるデュノアと一夏の姿があった。

 

「ハァ、ハァ。おお、ゲン。間に合ったらしいな」

 

「おう、お互いにな。デュノアは大丈夫か?」

 

「う、うん……何とか」

 

俺等は挨拶代わりに拳をコツンと合わせ、一夏と同じく息を整えているデュノアへと声を掛ける。

少し肩で息をしながらも、デュノアはそこまで疲れてはいない様だ。

そういえば千冬さんがフランスの代表候補生って言ってたっけ。

見かけによらず体力はあるって事か。

 

「フゥ……凄かったね。何時もああなの?」

 

「いや、今日はお前が転入してきたからだな。スペシャルデーってヤツだ」

 

「毎回こうだったら、ゲンは兎も角俺はとっくに死んでるって……いやー、しかしデュノアが来てくれて助かったよ」

 

「え?」

 

さっきから疑問顔だったデュノアだが、今は女子の群れに追っ掛けられて実感したのか、少し疲れた感じになってる。

そんなデュノアに息の整った一夏が笑顔で声を掛ける。

 

「さっきも言ったけど、男は俺とゲンだけだったからさ~。何かと気を遣うし。もう一人男がいてくれるっていうのは心強いもんだ。なあ、ゲン?」

 

「あぁ、言えてるぜ」

 

幾ら学園の女子が俺や一夏の事をウェルカム状態でも、やっぱ同性同士でしか言えない事があるからな。

俺達の言葉を聞いたデュノアは「そうなんだ……」と良く判って無いご様子。

……本当に男なんだよな?信じて良いんだよな?後で同性じゃないと語れないエロ話しても文句無いんだよな?

改めてデュノアが男らしく無いと感じるが、もしかしたら女だらけが当たり前の環境で生きてきたって可能性もあるし……分からん。

大体がだな、俺は頭脳担当じゃねぇんだよ。

 

「ま、何にしてもこれからよろしくな。俺は織斑一夏。一夏って呼んでくれ」

 

「あ、うん。よろしくね一夏。僕の事もシャルルで良いよ」

 

俺が頭を働かせてる中で、デュノアと一夏は互いに自己紹介を済ませ、二人の視線が俺に向く。

そういや俺も自己紹介しておかなくちゃな。

考えを巡らせていた脳をリセットし、俺も笑顔でデュノアに視線を向ける。

 

「鍋島元次だ。仲の良い奴にゃゲンってアダ名で呼ばれてる。好きに呼んでくれて構わねぇ」

 

「うん。僕はまだ初対面だし、元次って呼ばせて貰うよ。僕の事はシャルルで良いから」

 

「おう。よろしく頼むぜ、シャルル」

 

俺はデュノア改めシャルルと言葉を交わす。

……悪意の無い普通の笑顔だな……こんな奴が男装して俺等を騙してるなんて、思いたくもねぇぜ。

そう思いつつ更衣室に備えられてる時計を見ると……やっべ!?

 

「お前等!!喋るのは良いけど急いで着替えろ!!時間が無ぇぞ!?」

 

「え?うっわやべ!?シャルルも急げ!!千冬姉の出席簿が火を噴くぞ!!」

 

ババッ!!

 

「ッ!?わああ!?」

 

と、時間が差し迫ってる事を二人に促し、俺は速攻で制服のボタンを一気に外し、それをベンチに投げて一呼吸で黒シャツも纏めて脱ぐ。

一夏もソレに倣って上半身裸になるが、シャルルは俺達に背中を向けて手で顔を隠してしまう。

……え?……いや、マジでか?

シャルルの反応にいよいよ持っておかしいなと思う俺だが、一夏は特に疑問には思って無い様だ。

 

「どうしたんだシャルル?死にたくなかったら急いだ方が身の為だぞ?ウチの担任はそれはもう時間に厳しい人で……」

 

「う、うんっ? き、着替えるよ? でも、その、あっち向いてて……ね?」

 

「???いやまあ、別に着替えをジロジロ見る気はないが……っていうか、俺はそんな変態じゃない」

 

二人の会話を横向きに聞きながら、俺は上のISスーツを着こむ。

おかしい、おかし過ぎる……もしかして、見られたくない傷とかでもあんのか?

シャルルの言動と行動に疑念が尽きないが、今はそんな事を考えてる余裕は無いので下も一気に脱ぎ捨ててズボンを履く。

シャルルが女か男かと、千冬さんの制裁。今夜のアナタは、ドッチ?俺なら千冬さんの制裁は全力で避ける。

そうこうしてる内に、俺はフロントジッパー(社会の窓)を上げてISスーツを着終えた。

実は専用機持ちにはある特権があって、ISの展開と同時にISの拡張領域にパーソナライズされているISスーツも自動展開されるのだ。

ただし普通に展開するよりエネルギーを消耗するので、余りお勧めはされない。

そもそも実習ではISスーツを着る事も実習内容に入るので着ない事は出来ないのだが。

着替えを終えた俺は脱いだ制服をロッカーに畳んで入れてロッカーを閉めた。

 

「おい、もう俺は着替え終えたぞ?お前等はまだ――」

 

「フゥ……な、何かな?」

 

二人の方へ振り返ると、そこにはまだ上しか着ていない一夏と完璧に着替えを終えたシャルルの姿があった。

着替えるの早い……いや、もしかして中に着込んでたのか?

自分より後から、というか目を離してちょっとの間に完璧に着替えたシャルルを見て、一夏が声を漏らす。

 

「着替えるの超早いな。何かコツでもあるのか?」

 

「い、いや。別に?ハ、ハハハ……」

 

「いや、寧ろお前が遅いだけだろ?何でまだ下を履いてねぇんだよ?」

 

「仕方ねぇだろ?ゲンのゆったりしたズボンタイプじゃ無いから、引っ掛かって着辛いんだよ」

 

「ひ、引っ掛かって!?」

 

ん?何故そこに反応するのかなシャルル君よ?

まぁあんなモン俺が履いたら……止めよう、気持ち悪いだけだ。

 

「ア、アハハ……げ、元次のISスーツのズボンはゆったりしてて着やすそうだね?何で一夏と違うのかな?」

 

「ん?そりゃ製造元が違うし、俺みたいなマッチョが一夏と同じモン着たら気持ち悪いだろ?」

 

「そ、そうかな?」

 

「そうなんだよ。少なくとも見れたモンじゃねぇ……まぁ、もう1つ理由はあるんだがな」

 

「え?何だよ?製造元が違う以外の理由って?」

 

「簡単に言えばだな。俺がソレ履いたら引っ掛かる所か、俺の88ミリ砲(アハトアハト)がまろび出ちまうんだよ」

 

「ッ!!!?ア、アアアハトア……ッ!?ま、まろび……ッ!?(ボボンッ!!!)」

 

俺の下ネタに煙を吹きながら顔を真っ赤にするシャルル。

うぉい、何故に顔を赤くしやがるかね?こんな会話は男子だけなら普通だぞ?

……もし、もし、シャルルが女なら説明は付くが、そうは考えたくねぇ。

ならばソレ以外の理由としては……。

俺は真剣な表情を浮かべながら、顔を赤くするシャルルに向かって口を開く。

 

「……まさかとは思うが、シャルルってゲイなのか?ホモなのか?」

 

「ブフッ!?な、何でそうなるのさ!?僕はゲ、ゲイじゃないしホモでもないよ!!」

 

「そ、そうなのか?……良かった」

 

「一夏!?もしかして元次の言ってた事信じたの!?ちょっとでも信じちゃったの!?」

 

「い、いや!?その、だな……そ、そのISスーツって着やすそうだな!?」

 

「露骨に話題を逸らされた!?……もう……これはデュノア社製のオリジナルなんだ」

 

二人して俺の投下した爆弾に慌てふためいていたが、一夏は話題を急転換させて別の話に持ち込む。

それに怒ったのか頬を膨らませていたシャルルだったけど、話題転換自体はしたかった様で一夏の話に乗り換える。

っていうかデュノア?それってシャルルの苗字と同じだよな?

一夏も同じ事を思ったのか、シャルルにその事で質問を飛ばした。

 

「父が社長をしてるんだ……一応、フランスで一番大きなIS関連の企業だと思う」

 

父親が企業の社長……所謂ブルジョアって奴か。

 

「そっか。何つうか、シャルルって気品あるっていうか良い所の育ちって感じすると思ってたけど、納得したぜ」

 

シャルルの佇まいに何かしら感じていたであろう一夏が笑顔でそんな事を言う。

俺よりも一夏の方がそういう人の雰囲気ってヤツに敏感なんだよな。

そういう所はやっぱり、人を良く見てるっていうか、一夏の人の良さが分かる所だ。

これで乙女の気持ちに鈍感じゃ無ければ、超・超・超・優良物件なんだろうが。

 

「……良い所、か」

 

フッと。

今までシャルルを包んでいた優しい雰囲気に陰りが生じ、悲しそうな表情を見せてくる。

そんな移り変わりの酷さに、俺と一夏は顔を見合わせて首を傾げてしまう。

何だ?一夏の言葉がキーワードなんだろうけど、何でこんなに嫌そうな顔をするんだ?

少し嫌そうな雰囲気を発するシャルルを見ながら考えるが、今は情報が少なすぎる。

更に本気で時間がヤバくなってきたので、俺は二人を促して更衣室からアリーナの集合場所まで走りだした。

二人も千冬さんに叩かれるのはさすがに嫌らしく、俺に頑張って着いて来る。

 

「それに、僕なんかより一夏の方が凄いよ。織斑先生の弟で、あのISの開発者の篠之乃博士と仲が良いだなんて」

 

「いや、俺は千冬姉に迷惑掛けてばっかりだからな。早く自立したい。それに束さんと仲が良いって言うなら、ゲンの方が仲良いぞ?」

 

「え?そうなの元次?」

 

「ん?まぁどっちが仲良いかとかは考えた事は無ぇけど、俺は束さんの事を大切な人だと思ってるぜ?兄弟や千冬さんと同じでな」

 

「俺だってそうさ。兄弟が居てくれたから、俺の日常は今でも楽しいんだよ」

 

シャルルからの質問に、束さんもそうだが一夏や千冬さんも大切だと答えると、一夏が少し照れくさそうに俺にそう言ってくる。

馬鹿が、俺だってお前が兄弟で良かったと思ってるっての。

俺達の様子を見て楽しそうに笑っているシャルルに釣られて一夏と俺も笑いながら、集合場所へと急ぐのだった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

結果、急いだ甲斐もあって、俺達は宝具シュッセキボで沈められる事も無く授業に臨む事が出来た。

現在は全員そろってアリーナのグラウンドに集合、整列し、ジャージに着替えた千冬さんの号令を待っている。

っていうか、真耶ちゃんの姿が見当たらないんだが……何処に行ったんだ?

 

「本日から格闘及び射撃を含む本格的な実習を始める。全員、気を引き締めて授業に挑む様に」

 

『『『『『はい!!』』』』』

 

千冬さんが腕を組みながら注意を促すと、1組2組は全員大きな声で返事を返す。

元々倍率の高いIS学園、ここに居る女子は皆才女ばかりだからな。

射撃とか格闘、つまり危険の伴う訓練なのは良く分かってるんだろう。

この辺りの意識の仕方は俺や一夏よりもしっかりしてるかも。

 

「ふむ。まずは戦闘を実演してもらおう。ちょうど活力が溢れんばかりの十代女子もいることだしな。――凰!!オルコット!!」

 

「「は、はい!!」」

 

千冬さんは返事を返した俺達を見渡しながら授業内容を口にし、鈴とオルコットを呼び出す。

二人は授業に集中はしていたのだが、まさかいきなり呼ばれるとは思って無かった様で少し上擦った声で返事をした。

 

「専用機持ちなら、直ぐに始められるからな。前に出ろ!!」

 

成る程、確かに専用機のある俺や一夏、鈴やオルコットなら展開するだけで良いもんな。

俺も何時呼び出されても良い様に考えておこう。

そう思いつつ前に出る鈴とオルコットに視線を向けると、二人は些かやる気に欠ける表情を浮かべていた。

 

「なんでアタシが……」

 

「こういうのは、見世物にされてる様で余り嬉しくありませんわね」

 

おーいそんなんで大丈夫か?代表候補生がやる気ゼロとか止めてくれよ。

これから俺達に実演を見せようって奴等がやる気無いとかさすがに駄目じゃね?

他の皆も似た様な気持ちなのか、あからさまに不安げだったり、鈴達の気持ちが分かるって感じで苦笑してる子も居る。

千冬さんはそんな感じでやる気の無い二人を見て溜息を吐く。

 

「お前等、少しはやる気を見せろ――それとも、鍋島と生身(・・)で実践訓練したいのか?」

 

え?

 

「さぁ!!相手は誰かしら!?だだだ、誰でも相手になってやろうじゃないの!!I・S・で・!?(ガクガク)」

 

「お、お、おほほほ!!実力の違いを見せて差し上げますわ!!ア・イ・エ・ス・で!?(ブルブル)」

 

「お前等そんなに俺の相手は嫌なのか?」

 

千冬さんの脅しに近い言葉を聞いた二人はそりゃもう見事に活力を漲らせていた。

但し青い顔色で震えてなけりゃ尚の事良かったんだがな。

しかも俺の聞き返しに対してブンブンと音が鳴りそうな勢いで首を縦に振る二人。張っ倒したろかコラ。

っていうかナチュラルに俺の扱いが罰ゲーム的な立ち位置になってる件について。千冬さんェ……。

ある意味ではやる気が漲ってるが、半分以上恐怖心に狩られてる二人を見て、千冬さんはサドッ気を篭めた笑みを見せる。

まさか更にあいつ等を追い詰めるのか?

 

「それに――アイツに良い所を見せられるぞ?」

 

「やはりここはイギリス代表候補生、わたくしセシリア・オルコットの出番ですわね!!」

 

「一般生徒とは違うって所を見せる大事な、だいーじな機会よね!!専用機持ちの!!」

 

成る程、鞭と飴ってヤツか。あれ?そうなると俺が鞭扱い?解せぬ。

千冬さんの言ったアイツとは言わずもなが一夏の事だろう。

あの二人が揃って個人を差すワードに反応するとなれば間違いねぇ。

俺を引き合いに出された時とは打って変わって、二人は自信に満ちた笑みを浮かべながら闘志を滾らせている。

 

「……ねぇ?織斑先生って、二人に何を言ったの?」

 

「何ってそりゃあ……(チラッ)」

 

「ん?何だよゲン?」

 

隣に立つシャルルの質問に、俺は逆隣に立つ一夏へと視線を向ける。

その視線を受けた一夏は首を捻りながら俺に質問してくるが、俺は「いや、何でも」と言って一夏から視線を逸らす。

 

「まぁこの学園で過ごしゃ、後々嫌でも判ってくると思うぜ?」

 

「ふーん?……じゃあ、もう少し待ってみようかな」

 

「そうしとけ。まだ転入初日なんだからよ。ゆっくりと学園生活を謳歌すべしってな」

 

「プッ。何それ?」

 

シャルルの質問を適当にはぐらかしながら言った言葉がツボだったのか、シャルルは目を細めてクスクスと笑う。

まぁ、一夏と行動を共にしてればホントに嫌でも分かるんだな、これが。

最近一夏に巻き込まれて俺のSAN値が劇的に減ってる訳だから、シャルルにも少しお裾分けしてやろう。

ビバ、被害拡散による被害濃度縮小だ。

 

「それで、織斑先生。鍋島さん以外のお相手はどちらに?まぁ、わたくしは鈴さんでも構いませんが」

 

「ふふーん。コッチの台詞よ。ゲン以外なら寧ろ誰でも掛かって来いって感じね」

 

「ほほう?では私が――」

 

「「冗談です!?」」

 

馬鹿だろアイツ等?俺以外ならって、直ぐ傍に世界最強の御方がいるのに。

余りにも生意気ブッこいた発言に千冬さんのサディスティックな笑みが強さを増して、二人に誘いを掛ける。

だがしかし、そんな自殺イベントは御免被るって感じで鈴とオルコットは90度の礼をした。

段々と専用機持ちに向ける一般生徒の視線が生暖かくなってきてます。

そんな愉快過ぎるコントを見せた二人に満足したのか、千冬さんはフッとクールに微笑む。

 

「血気盛んなのは良い事だが、早るな。対戦相手は――」

 

……ヒューン。

 

「ん?何だこの音?」

 

千冬さんが二人に対戦相手の事を伝えようとしたその時――。

 

「――きゃぁあああああ!?ど、どいてくださ~~い!?」

 

「はぁ!?」

 

俺達の真上に広がる青色を凝縮した晴天の大空。

その染み一つ無い空に一点の影が見えたかと思えば、俺達に向かって回転しながら急降下するIS装備の真耶ちゃんを発見。

つうかヤベェ!?これって俺達に直撃コースじゃねぇか!?

既に上空から墜ちてくる真耶ちゃんを目視した生徒一同は散り散りに逃げ、俺もシャルルを伴って爆心地から離れるが……。

 

「い、一夏!?何してるのさ!?」

 

「ッ!?あんのバカッ!!」

 

只1人、一夏だけはボーッと上空を眺めたまま驚愕しているだけで、そこから動いていなかった。

あの野郎驚き過ぎて思考回路麻痺しやがったな!!

シャルルの声でその事に気付けた俺はそのまま元来た道を反転。

静止するシャルルの声を無視して、全速力で一夏の元へ走り寄る。

 

「ボーッと突っ立ってんじゃねぇよ一夏ぁッ!!(ガシッ!!)」

 

「え?うわぁ!?」

 

俺に腕を掴まれた事で状況を把握した一夏は今更ながらにビビるが、もう真耶ちゃんは直ぐそこまで迫っている。

 

「くそ!?おぉるぁあああ!!(ブオォオオンッ!!)」

 

「どわぁああああ!?」

 

こうなりゃ逃げてる暇は無いと判断し、俺は力の限り一夏を明後日の方向へブン投げた。

方角も見てねぇし何処に向かったのか知らねぇが、コッチもそのへんを気配る余裕は全く無い。

もう既に真耶ちゃんは俺に激突するコースに入っているからだ。

 

「オプティマス・プライムッ!!」

 

ここまできたら形振り構ってる余裕も無かった俺は初心者向けの名前を呼ぶ展開方法を使う。

何とか真耶ちゃんとブチ当たる前に展開出来たので、俺はそのままオプティマスの腕を広げて真耶ちゃんをキャッチする事にした。

兎に角どうにかして真耶ちゃんを受け止めるしかねぇ!!

 

「(ドゴォオオオッ!!)きゃぁああ!?」

 

「おぉおおおおお!!!(ボォオオオッ!!)」

 

俺は展開したオプティマスの腕で真耶ちゃんをしっかりと抱きとめ、メインブースターの出力を最大に上げていく。

幻想的な青色のメインファイヤーを輝かせ、それに似つかわしくない轟音がブースターから鳴り響いていた。

更に真耶ちゃんの突撃した勢いで崩れそうな体勢を、4基の小型ブースターも赤い炎を撒き散らしながら最大で吹かして制御を行う。

普通なら押し負ける事間違い無しだが、俺のオプティマス・プライムはパワータイプ。

それもパワータイプの中でも群を抜いた馬力とトルクだ。

ってわけで、後は操縦者の俺自身が更に『猛熊の気位』でパワーアップする。

パワー+パワー=理不尽。

それだけの力を最大出力で使いつつ、地面にフック代わりに足を突き立てれば……。

 

「――ぬん!!(ズドォオオッ!!)……何とか止まったか……あっぶねぇ」

 

「あ、あわわわわ……ッ!?」

 

両足をしっかりと大地に着いた状態で静止する事に成功し、オプティマスのブースターを停止させる。

ハイパーセンサーで周りを見渡せば、皆呆然とした表情を浮かべるも怪我は無い様だ。

 

「他の皆は大丈夫か?」

 

とりあえず見ただけじゃ判断出来ないので、俺はクラスメイトの鷹月に声を掛けた。

彼女は委員長基質でマジメなタイプの子なので、こういう騒動の時は誰か怪我してないか良く見てる子だ。

 

「う、うん。今見た感じだと大丈夫みたいだけど……あの、鍋島君?」

 

「ん?何だ?」

 

「え、えっとその……何か、オプティマスの色がちょっと違う気がするんだけど……」

 

「お?良く気付いてくれたな、鷹月。俺が昨日新しい塗装を入れたんだ」

 

早速俺の施した『塗装』に気付いてもらえたので、俺はテンションが上った。

鷹月の言うオプティマスのカラーが『違う気がする』というのは、大々的なリペイントを施したからでは無い。

俺がオプティマスに施したのは、愛車であるイントルーダーと同じファイヤーパターンの塗装だ。

腕と足の先端のメタリックレッドの部分にはゴールドのグラデーションを掛け、その上からメタリックブルーのファイヤーパターンを入れてある。

グラデーションを掛ける事で蒼い炎を強調しつつ、赤も調和させる事に成功。

単色が2つという少し物足りない色合いが、かなり渋い仕上がりになった。

更に胸部アーマーも真ん中の2つはそのままメタリックレッド単色。

しかし外側2枚のメタリックブルーのアーマーには逆にメタリックレッドでファイヤーパターンを施してある。

それと同じファイヤーパターンが二の腕と肩のアーマーにもだ。

更に全てのファイヤーパターンにメタリックシルバーで縁のラインを描いた豪華仕様。

勿論背中のメインブースターにも同じくメタリックレッドのファイヤーパターンを入れておいた。

昨日一日で全て出来たのは、偏に束さんの協力があってこそだ。

ポロッと「塗装だけでも、俺と束さんの合作にしてぇなぁ……」なんて言っちまったら、いきなり荷物が飛んできてビックリ所じゃ無かったぜ。

速乾性の塗料なんかが一式詰まってて、手紙には「束さんとゲン君の合作を世に知らしめるのじゃー!!」って書いてあったのは嬉しかったな。

今見た所、皆この塗装に関しては受けが良いみてーだ。

ハイパーセンサーに届く声は「カッコイイ」ってのが多く、俺も嬉しくなっちまう。

皆に怪我も無い様で良かったぜ……初実習で怪我とか洒落にならないからな……っと、真耶ちゃんも大丈夫か?

 

「山田先生、大丈夫っすか?」

 

「あ、ああ、あの、そのぅ……」

 

俺はしっかりと抱き留めて停止させた真耶ちゃんを見下ろしながら声を掛ける。

何やら言葉はしどろもどろだが、見た感じ何処にも怪我は無いので大丈夫だろう。

 

「あ、あのですね、元次さん……だ、抱きしめてもらえるのは大変嬉しいですけど、こういう抱きしめ方はその、バージンロードまで取っておいて欲しいなぁと……」

 

「はえ?……あ」

 

俺を見上げて真っ赤な顔色でそんな事を言ってくる真耶ちゃんに言われて初めて気づいた。

これ誰がどう見てもお姫様抱っこじゃねぇか。

お互いにIS装備してるけど、千冬さんの時の様に生身じゃ無いので、体格のシルエット的にはコッチの方が合ってる。

っていうか真耶ちゃん?バージンロード云々とは少々爆進し過ぎじゃ無いですか?

今日も真耶ちゃんの妄想っぷりは絶好調のご様子。いやいやパナイね。

え?落ち着いてるって?馬鹿言っちゃいけませんよ皆さん、俺の心臓さっきから破れそうですからね?

バックバク鳴ってる上に顔が赤くなって痛いっつの。

確かに真耶ちゃんも俺もISを装備してるから余り直接的に肌が触れ合ってる場所は少ないぞ?

でも俺はクラス代表決定戦の時に真耶ちゃんと生身で引っ付いてるから、あの生々しい乳の感触とか蘇ってくるんだぜ?

ISって匂いまで遮断したりしねーから、真耶ちゃんの甘い香りが鼻孔を刺激して大変な事になってるし。

 

「そ、それに、こんな時まで山田先生なんて他人行儀だなんて……私としては真耶って呼び捨ての方が……」

 

「い、いやちょ、真耶ちゃん?少しクールになっ――」

 

「イヤ♡真耶ちゃんだなんて……元次さん♡」

 

アカン、真耶ちゃんの暴走スイッチが入ってて手に負えません。

何かもう潤みまくった瞳と上気した顔で俺の事を見つめてるし、頬に当ててた両手を俺の首に回して固定してらっしゃる。

ど、どうしよう……こんな時の回避方法は何か無いのか!?ライフカードを誰か下さ――。

 

ダァンッ!!!

 

『頭部にレーザーの被弾確認。被害軽微』

 

「……」

 

俺がお姫様抱っこしてる妄想中の真耶ちゃんの対応をどうしようかと焦ってる最中、突如として俺のド頭にブチカマされた一発のレーザー。

オプティマスが状況を報告してくる間も、俺は傾いた首を戻し、心は静かに、静か~に燃え上がる。

周りの女子もそれを確認したのか、誰一人として近寄ろうとはしない。

懸命な判断だと思うぜ……誰だ?俺の頭に不意打ちカマしてくれちゃった命要らずは?

俺は何も喋らずにゆっくりとレーザーの飛んできた方向……下手人の居るであろう場所へ向き直る。

 

「ホホホ……残念、外してしまいましたわ♪」

 

「い、いやセシリア待て?当たってる、当たってるから」

 

俺が振り向いた方向……そこには、額に青筋を立てて地面に座り込む一夏を睨むオルコットの姿がある。

オルコットから少し離れた場所……丁度俺と対角線を結ぶ場所には、浮遊する一基のビットもあった。

下手人発見。まずは弁明があるなら聞いてやろう。

一夏の傍には箒の姿もあり、二人して滅茶苦茶青い顔色をしてるではないか。

オルコットのブルーティアーズよりも青い。

 

「一夏さん?虚言でわたくしを計ろう等とは思わないで下さいな?あんな……箒さんの上に伸し掛かって、あまつさえ胸を揉みしだくなんて……」

 

「し、仕方無かったんだ!!ゲンに放り投げられて何処に向かったか自分でも判らなかったし……っていうかあの、セシリア?直ぐにでも謝った方が――」

 

成る程、要は俺がブン投げた一夏が箒の上にダイブして箒のたわわな胸を揉んじゃった事が原因と?

ふむふむ、そっか……許 さ ん 。

ちょっと所じゃ済まねぇどぎついお仕置きが必要みてぇだな?

自分の撃ったレーザーが何処に当たったかも知らず、好きな男がやらかしたハプニングを責めるオルコットに近づく俺。

 

「(ガシィインッ!!)いぃちぃかぁあああああ!!(ブォオオンッ!!)」

 

しかし、ここにもう一人の恋する乙女が登場しやがった。

今度は甲龍を展開した鈴で、鈴は手に持つ近接格闘武器である双天牙月を連結。

そのままブーメランの様に一夏目掛けて投擲したのだ。

もしもアレが一夏に当たったら、綺麗に分割されてNICEBOATで終わるだろう。

 

「うぉおおおデンジャー!?(ヒョイッ!!)」

 

「きゃあ!?い、一夏!?」

 

所が、ここで一夏は恥も外聞も無く地面に向かって飛び込み、射線上に居た箒を押し倒して双天牙月を回避した。

標的に当たらなかった双天牙月は勢いをそのままに、更に先の方の射線上……つまり、俺に向かって飛んでくる。

ちょっとあの代表候補生とか言ってるナマモノ2つブッ潰しても良いッスか?

今になって漸く俺に被害が向かってると察知した鈴は泡食って「避けて!!」とか言ってるけど、もう避け様が無――。

 

「は!!」

 

ダァンッ!!ダァンッ!!

 

しかし、俺が諦めかけたその時、とんでもない事が起こった。

何と俺に抱えられてる真耶ちゃんが、俺の腕に抱かれた体勢のままにスナイパーライフルを展開して、双天牙月を『撃ち落とした』。

回転していた双天牙月は左右を均等に撃たれた事によって推進力を失い、地面に刺さって止まる。

周りの生徒や俺を含めて、誰もが真耶ちゃんの射撃に呆然としてしまった。

この不安定な体勢から撃って、しかも両方の刃を狙って撃つとか……真耶ちゃんの射撃能力はオルコット以上だぞ。

幾らコッチに向かってるからって言っても、回転しながら飛翔する武器をあそこまで綺麗に撃ち落せたりするのは至難の技だ。

やっぱ先生なだけはあるんだな、真耶ちゃんって……すげえ。

そんな事を考えながら真剣な表情でスコープを覗く真耶ちゃんを見ていた俺だが、真耶ちゃんは俺の視線に気付くとニコリと微笑む。

 

「元次さん、怪我はありませんか?」

 

「……あ、あぁ。全く無いけど……にしても、お見事な射撃だったぜ。真耶ちゃん」

 

「えへへ♪これでも昔は代表候補でしたから……まぁ、候補生止まりでしたけど」

 

手放しで今の射撃に賞賛を送ると、真耶ちゃんは恥ずかしそうに舌をチロリと出して笑った。

俺はそんな真耶ちゃんに笑いかけながら、視線を目の前の代表候補生に移す。

オルコットはまだ俺にレーザーを当てた事に気付いていないのか、表情はそこまで変わっていないが、鈴の表情は真っ青でした☆

 

「おうコラ。てめぇ等二人揃って俺に喧嘩売ってんのか?いきなりド頭にレーザーぶちこむわ、青龍刀ぶん投げるわ……地獄の方がマシと思える仕置が必要みてぇだなぁ?」

 

「ふえ!?……も、もしかして……」

 

俺の言葉を聞いたオルコットはギギギッと油の切れたブリキ人形の如く周りに視線を向ける。

そうすると、事態を見ていた生徒達から合掌をされて漸く顔色を青くした。

俺は一応反省してるであろう二人を見て盛大に溜息を吐く。

 

「ハァ……次からはキチンと周り見てやれよ?真耶ちゃんが居たから助かったものの……よっと」

 

「あっ……」

 

鈴とオルコットに溜息を吐きながら注意して、俺は真耶ちゃんを優しく降ろす。

何やら降ろした時に残念そうな声が聞こえたけど、深く突っ込んだら負けだと思う。

兎にも角にも真耶ちゃんが墜落してきて起こった騒動は収拾出来たな。

ったく……こんな空気にされたんじゃ千冬さんだって相当怒っ…………て?……あ。

 

「――ほう?」

 

一言。

 

たった一言、背後から聞こえただけで、俺達は一人残らず跳び上がってしまう。

あぁ、やっちまった……授業中にこんな馬鹿騒ぎしてたら、あの人が怒るのは当たり前だよな。

 

「成る程?貴様は自分の仕出かした事を棚に上げて、鳳達を処罰しようと言う訳だな、元次?」

 

おかしい、今の流れで俺が怒られる理由が皆無過ぎる。

俺って何したっけ?まず一夏を助けて、次に真耶ちゃんを助けたぐらいしかしてないよね?

何で俺オンリーで怒られる流れになってる訳?

おかしいなと背後から聞こえる声を無理やり意識から押し出しながら他の面子に助けを求めるも、皆して視線を逸らしやがりました。

 

「え、えぇっと……(オロオロ)」

 

いや、若干2名程は皆とは違う反応を見せてくれてる。

さゆかは心配そうな表情で俺を見ながら、時折視線を俺の後ろに向けていた。

恐らく俺の後ろに居るであろう千冬さんに何か申したいんだろうけど、怖くて出来ない。

そんな感じでオロオロしてる……さゆか……本当に優しいな……でも良いんだ、怖いだろうし無理すんなよ。

 

「……ぶぅ~」

 

一方で、此方は剥れっ面をご披露してる癒やしの女神こと本音ちゃん。

この子はこの子で何が言いたいのか分かる……曰く、「自業自得だよ~だ」らしいです、はい。

 

「ふむ?元次。直ぐにISを解除した後、回れ右だ……一発で済ませてやろう(私にあれだけ甘えておきながら真耶を抱くとは、良い度胸だなぁ?……ク、クハハハハ……)」

 

「……お心遣い、感謝します(パァアッ!!)」

 

もはや避ける事の出来ない現実に、俺は天を仰いだままオプティマスを解除。

後は回れ右するだけで……目覚めないとか無いよな?

一瞬自分の頭を過った怖すぎる予想を振り払い、俺はゆっくりと後へ振り返る。

だ、大丈夫……幾ら千冬さんでもそんなに酷い結末にはならねぇだろう。

ほ、ほら。一発で済ましてくれるって言ってたし?

気を楽にして、なるべく笑顔を維持したまま振り返ろ――。

 

 

 

 

 

ギュォオンッ!!!!!

 

 

 

 

 

結果的に言えば、俺は千冬さんのアッパー1発で、過去最高の15メートルに及ぶ空中浮遊を堪能した。

あぁ……冴島さんの「元次ぃいいいいい!?」って悲鳴が聞こえる……。

 

 





本当ならこの1話で次の日を掻く予定だったのに……

それと描写が分かり難いって方がいらっしゃると思いますが、元次の行なった塗装は実写版オプティマスと同じファイヤーパターンが入った物の事です。

これで完全に実写版オプティマスと同じ色合い、塗装になったとお考え下さい

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