IS~ワンサマーの親友   作:piguzam]

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龍が如く維新をやっていたら大分遅くなりました。


だって面白いんだもん!!


いけいけおせおせ本音ちゃん

 

 

「はぁ……助かりましたわ、元次さん」

 

「ホント、正直あそこまで手も足も出ないなんて思わなかったわ。助けてくれてありがとうね、ゲン」

 

「気にすんなって……それより、随分と殊勝な言葉じゃねぇか?普段のお前等なら、『あのまま続けてたら勝ってた』ぐらいは言うと思ったんだがよ」

 

日の傾き始めた夕方。

俺の目の前でベットに座りながらも身を起こしながらお礼を言ってくる鈴とセシリアに、俺は言葉を返す。

ボーデヴィッヒの奴にやられた傷の手当ては済み、柴田先生に今は安静にと言われて、ベットに身を置いている。

俺の言葉を聞いて少し不貞腐れた表情を浮かべる二人の姿は痛々しく、所々に包帯を巻いていた。

二人の傷は結構酷いらしく、傷は残らないだろうが痛みは結構ある様だ。

 

「……本来なら、そのぐらいの気構えでいたいのですが……」

 

「アンタが助けてくれる前に、ISは強制解除になったし……あそこまで徹底的にヤラれたら、そんな事も言えないわよ」

 

二人は不貞腐れた表情から一変、結構悔しそうな顔を見せる。

まぁ3対1の状況で同じ立場の代表候補生に手も足も出なかったんだからな。

悔しいもの分かるし、寧ろここで負けん気出されたらアホかと言わざるを得ない。

 

「まっ、ちゃんと負けを受け入れるってのは大事だろ。それでこそ次こそはって気概が持てるんだからな……それはそうと……」

 

二人の言葉に笑みを浮かべながら励ましを返すが、俺はもう1人の怪我人へと視線を向ける。

視線を向けた先の怪我人は二人より傷は全く軽かったので、ベットに練る必要は無いらしいのだが……。

 

「ふ~んふ~ん♪」

 

「あ~、そのー……本音ちゃん?」

 

「ん~?なぁ~にぃ~?」

 

「いや、何っていうか……寧ろ俺が何?って聞きてぇんだけどよ……」

 

俺の肩に寄り掛かって身を預けながら首を傾げて俺を上目遣いに見てくる本音ちゃんに、俺は引き攣った笑みを浮かべてしまう。

ええい、そんなクリクリっとしたお目めで俺を見上げないでくれ、動悸が乱れて仕方ないでしょうが。

そう、彼女は二人ほど怪我が酷くなくてベットに寝る必要は無いレベルの被害で済んだ。

これも偏に使っていた訓練機の打鉄が、防御力に重きを置いた機体であった事が関係してる。

しかし本音ちゃんもワイヤーで絞められていた首に1本の赤い線が出来てしまっていて、その首には包帯が巻かれている。

しかしそこは問題じゃないのだよ、本音ちゃん。

 

「とりあえず……何故にこう……お、俺の肩に寄り掛かってるのかなぁ、と思った次第で……」

 

「ふぇ?そこにゲンチ~が居たからだけど~?」

 

「何ですかその『そこに山があるからだ(キリッ)』って登山家が言いそうなセリフは?」

 

俺は本音ちゃんにとって山扱いなのだろうか?元次山ってか?

そんな事を考えつつも、視線は俺を不思議そうに見上げてくる本音ちゃんから外せない俺。

くそ、可愛い過ぎて目が離せねぇ。

 

「もしかして~……嫌、だったかな~?だったら止めるけど~……しょぼ~ん」

 

「ぶっ!?い、いや!?別に嫌とか悪いなんて訳じゃ……ッ!?」

 

「そうだよね~。邪魔だよね~……しょぼ~ん……」

 

「ち、違うぞ本音ちゃん!?あぁ、そんなに落ち込まねぇでくれって!?」

 

俺の言葉を聞いた本音ちゃんは、そりゃもう表情を思いっきり落ち込ませて俺から目を逸らす。

自分でしょぼ~んとか言ってるが、その声音にも何時もの癒される元気はまるでない。

あぁ!?SAN値が!?俺の精神が衰弱してしまうぅ!?

依然として俺の肩に寄り掛かる本音ちゃんだが、今にも泣き出しそうな程に落ち込んだ声を出されて慌ててしまう。

しかし、今度は外野からも俺に対する非難が集まりだした。

 

「ゲン……布仏は怪我人なんだから、少しくらい良いだろう?良き男は、細かい事を気にしないんじゃ無かったのか?」

 

「元次って、見た目の割りに随分と小さい事を気にするんだね。かなり意外だなぁ」

 

「箒、シャルル!!テメェら人事だからって何言ってんだコラァ!?」

 

俺達と一緒に保健室へ来て二人の容態を心配していたシャルルと箒から降り注ぐキツイ言葉。

しかも完全に冷え切った声音だから余計に困る。

更に目の前の怪我人二人、そして相川と谷本からも降り注ぐ冷たい視線、これって俺が悪いのか?

 

「だ、大丈夫だって本音ちゃん。別に邪魔だとか思っちゃいねぇから、そんなに落ち込まねぇでくれよ……よ、よしよし」

 

周りの視線に居た堪れなくなり、俺は落ち込んでしまった本音ちゃんになるべく優しい声音で語りかけながら頭を撫でる。

束さんは昔からこうやって撫でられると安心すると言ってたし、今までの経験則からして本音ちゃんも多分これで大丈夫……な筈。

 

「(ナデナデ)ん……じゃあ、こうしてても良いの~?」

 

「あ、あぁ。特に問題ねぇぞ?」

 

「……えへへ~♪……良かったぁ~♪……」

 

別にこうやってあげるのは問題ねぇが……まぁ、その、アレですよ?羞恥心的な?

幾ら子供っぽいって言ったって、本音ちゃんも女であり、同い年な訳だし……可愛いからドギマギするんだよなぁ。

それにこの間のまだ、俺達が同じ部屋だった時にヤラかした、あの朝の事を思い出しちまいそうで……。

少し窺う様に俺を見てくる本音ちゃんに、俺は出来る限りの笑顔で答えながら、彼女の頭を優しく撫でる。

すると、本音ちゃんも嬉しそうな笑顔を浮かべて、再び上機嫌に俺の肩に寄り掛かり直した。

そうなった時点でやっと周りの冷たい視線も緩和されていく……胃がキリキリするとこだったぜ。

ただ、さゆかが本音ちゃんを羨ましそうに見てた様な気もしたが、気の所為って事にしておこう。

 

「(プシュ)ぐぁ……ッ!?し、死ぬかと思った……ッ!!」

 

と、千冬さんからのお叱りが終わったのか、一夏が疲れきった顔で保健室に戻ってきた。

お疲れ様と思う気持ちもあるが、殆ど一夏の自業自得だな。

 

『『一夏!?』』

 

「~♪およ~?おりむ~どうしたの~?リストラ宣告された~、休日のお父さんみたいな顔してるよ~?」

 

「本音ちゃん。その例えは、全国の残り少ない企業戦士のお父さん達が可哀想だから止めような?」

 

「せめて否定してくれよゲン……ッ!!」

 

「え、えっと……私のお父さんも、働いてる人だから……本音ちゃんの言葉は……切ない、かな?」

 

シャルルや箒、そして怪我をしたセシリアと鈴が一夏の登場に色めき立つも、本音ちゃんの言葉が凄く切なくて俺はそれ所じゃなかった。

そしてさゆかさん、お願いだから苦笑いしないでくれ、働くお父さん達は皆切ないんです。

今の女尊男卑の世界でも、家計を支えようと頑張ってる人達は居るのです。

上司の大した能力も無い威張るだけの女のグチグチとした嫌みに耐えながらも仕事するお父さん達を、俺は尊敬します。

とりあえず本音ちゃんの頭を撫でるのを一旦ストップし、こちらに疲れた顔で歩み寄ってくる一夏に視線を向ける。

 

「お疲れさん。罰の内容は?」

 

「始末書と反省書15枚ずつと……学年別トーナメントが終わってから、千冬姉の作った懲罰メニューを1週間……んで、先に手付けで一発もらってきたよ……痛え」

 

かなり消沈した声で今回の罰の内容を告げながら頭を下げると、そこには大きなこぶが出来てる。

結構大きいけど、今はそのこぶ1つで済ませてもらえたって事だろう。

 

「だ、大丈夫、一夏?」

 

「な、何とか大丈夫だ、シャルル」

 

一夏の少し膨らんだ頭部を見て、シャルルは心配を見せ、一夏はそれに笑顔で答える。

おーおー、何か良い雰囲気じゃねぇか。

今のシャルルは男子として皆には通っているから、鈴達もイラッとする事が無くて安心だ。

そう思っていると、箒が氷袋を一夏に苦笑いしながら手渡した。

 

「ほら、氷嚢だ。これで冷やしておくと良い。間違い無く手加減されていただろうが、それでも千冬さんの拳は強烈だからな」

 

「お、おぉ……ッ!!これは効く……マジでサンキューな、箒」

 

「き、気にする事は無い……お、幼馴染みだからな。これぐらい当然だ」

 

今度はシャルルそっちのけで箒とラブコメる我等が一夏君。

おーい?箒は顔赤らめて嬉しそうにしてっけど、隣のシャルルの表情が面白くなさそうになってんぞ?

ついでに言えばセシリアと鈴も「む~!!」とか言って嫉妬してるし。

そう思っていても一夏にそれが伝わる筈も無く、一夏は何気ない顔でベットに身を預ける二人に近寄った。

 

「大丈夫か、二人とも?結構こっぴどくやられてたけど」

 

と、一夏はかなり心配そうな表情を浮かべて二人に問う。

ここで一夏に弱った所を見せれば、それなりに話は弾む筈だ、頑張れ二人とも。

 

「フン!!アンタに心配される程ヤワじゃ無いわよ!!代表候補生舐めんじゃないっての!!」

 

「この程度、怪我の内に入りませんわ!!」

 

「お前等掛け値無しの馬鹿だろ?」

 

「「なんですってぇ!?(あんですってぇ!?)」」

 

呆れから溜息を吐いて罵倒した俺に、二人が身を乗り出して噛み付いてくる。

何でそこで片意地張るかねぇ、この馬鹿共は。

そこは素直に痛い所を言って心配させるのが定石だろJK。

本音ちゃんの頭を撫でながら、相川と谷本に「ヤレヤレだな」と首を振ると、二人も「駄目だこりゃ」と首を振る。

ツンデレってのは、鈍感には一番駄目だと思う。シャルルも苦笑いしてるし。

もうこの二人放置で良いだろうと思い、現在進行形で頭を撫でていた本音ちゃんに視線を向ける。

 

「本音ちゃん。もう痛くは無いか?」

 

そう言いつつ、俺は本音ちゃんの首元にチョーカーの様に巻かれた包帯を見つめる。

こんな優しい子にこんな痛々しい怪我作りやがって……もっと念入りにブチ殺しておけば良かったぜ。

まさか千冬さんからストップ掛かるなんて思いもしなかったから、あんまりブチのめせなかったのが心残りだ。

 

「う~ん……まだ、ちょっと痛いかな~……」

 

「そうか……」

 

俺の問いに少し眉を寄せて困った風に笑う本音ちゃんの姿が可哀想で、俺も悲しい気分になってしまう。

だから、その本音ちゃんがさっきよりも体重を掛けて、俺に寄り掛かってきたのを感じても何も言わなかった。

こういう時ぐらいは、本音ちゃんのやりたい様にさせてあげようと思っての事だ。

 

「うん~……だから、ゲンチ~」

 

「ん?どうした?」

 

「……痛い所~……さすって欲しいな~♪」

 

「え?……く、首を、か?」

 

「うんうん~♪」

 

「……」

 

ま、まぁ……こんな時ぐらいは別に良いか?

少し心に疑問が残りながらも、リクエスト通りに頭から首へと手を動かし、優しくさする。

 

「ワクワク……やん♪く、くすぐったいよぉ~♪」

 

力が少し弱すぎたのか、くすぐったそうに笑いながら身を捩る本音ちゃんテラ可愛ユス。

正直人前じゃなかったら鼻から愛が溢れてたと思う。

 

「あ、わ、悪い。こ、こんなトコさすった事無くてよ……こ、こんぐらいか?」

 

「(スリスリ)んにゅ……うん~♪これぐらいが良い~♪もっとして~♪」

 

「お、おう」

 

「(スリスリ)はふぅ……えへへ♪(怪我したのは辛かったけど~……役得、かな~♪)」

 

ゆっくりと痛くならない様にさすってあげると、本音ちゃんは目を細めて笑顔を浮かべた。

俺が撫でてるのは反対側の首なので、さっきと同じ様に身体に寄り掛かってゆったりとしている。

傍から見るとこれって、恋人同士みてぇな構図じゃねぇか?

いやまぁ、避けたら本音ちゃん頭を打っちまうだろうから動き様も無いんですけどね?

っていうかISスーツ越しに伝わる二つのスイカの感触がヤヴァイ。

……考えてみりゃ、こんな風に無防備に男に寄り掛かってくるって事は、相当心を許してねぇと無理だよな?

あれ?ひょっとして俺って、本音ちゃんに惚れら――。

 

 

 

ドドドドドドドド……ッ!!!

 

 

 

「……な、なぁゲン?気の所為かこの音って、こっちに近づいてない――」

 

ドガァアア!!

 

「かっておわぁあああ!?な、何だぁ!?」

 

べキョォオオ!!

 

『『『『『ちょっ!!?』』』』』

 

『『『『『織斑君!!デュノア君!!鍋島君!!こ……れ――』』』』』

 

いきなりだった。

急に外から地鳴りの様な音が聞こえてきて、一夏が驚いたかと思えば、保健室の扉がブッ飛ばされ、女子の軍勢が押し寄せてきたのだ。

更に続いた展開に全員が驚愕するも、それには気付かないで扉をブッ飛ばした連中は一斉に保健室に突入してきて、何かを口々に叫ぶが、それも直ぐにシンと鳴り止む。

え?何で急に皆して静かになったのかだって?そりゃ単純明快。

 

「はわわ~!?ゲ、ゲンチ~!?だ、大丈夫~!?」

 

「元次君!?と、扉が!?」

 

「ん?あぁ。これぐらいどうって事ねぇって……さて、と」

 

彼女達がブッ飛ばした扉が、俺の背中にクリーンヒットしたからだと思うよ?

さっきのべキョォオオ!!って音がそれね。

 

『『『『『――――』』』』』

 

乱入してきた誰も彼もが口を閉ざし、静けさが残る保健室。

そりゃそうだよな、ブッ飛ばした扉が床に落ちたと思ったら、扉の影から俺の背中が出てるんだもんよ。

ちなみに本音ちゃんの方は、扉に当たる前に俺の腕を割り込ませてブロックしたので無問題……さて。

俺は本音ちゃんから身体を離して椅子から立ち上がり、すっごく良い笑顔で女子の群れに振りかえる。

視界に飛び込んできた彼女達の怯える顔を見ながら、とりあえず一言。

 

「皆――保健室では静かにしようぜ……な?」

 

『『『『『は、はい!!?』』』』』

 

俺のナイススマイルで発した言葉に対して、敬礼で答える女子一同。

いや、だから静かにって……まぁ良いか。

俺は皆から目を話して固まった首をほぐし回しつつ、声を掛ける。

 

「それで?一体何があってこんな大行進が起きたんだ?」

 

「あ、あの……これなんだけど……」

 

「ん?何だその紙?……学年別トーナメント、ルール変更の知らせ?」

 

一番近くに居た女子が差し出してきた紙を受け取って流し読むと、一番上にそう書いてあった。

何だ?今更ルールが変更になったのか?

 

「え、えっと……何々……『今月開催する学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦闘を行うため、二人組での参加を必須とする。なお、ペアが出来なかった者はトーナメント当日、抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする。締め切りは』――」

 

中身を流し読みしていると、同じく女子から紙を受け取っていた一夏が声に出してそれを読み上げる。

そして、一夏が大体の概要を読み上げた瞬間に再び女子のボルテージが湧き上がっていく。

……な~るほど、そういう事か。

 

「と、とにかくそういう事で!!私と組も、織斑君!!」

 

「あーズルイ!!抜け駆け禁止だよ!!」

 

「デュノア君!!私と一緒に頑張ろう!!」

 

「私と組みなさいデュノア君!!そして訓練中の事故を装ってあんなことやこんなことを……ふひひ」

 

「ちょっと、声に出てるわよ。そういうのは心の中だけに仕舞っておきなさい。見た目は清楚に、心は獰猛にするの」

 

「>>69『ICHIKA』なら私の隣で寝てるぜ?カッコ良くてたまらねえ」

 

「妄想乙www」

 

「……織斑君と放課後に訓練した後、事故を装ってシャワー室に……ぐへへ……おっとイカン、涎がじゅるり」

 

「ちょwwwおまっwww涎どころか鼻から愛も出てる出てるぅwww」

 

カオス。もうこの学園の生徒ダメじゃね?

 

変態淑女同盟の目的は、この学園のレア生徒。

つまり、彼女達は数少ない男子である一夏とシャルルでタッグマッチのペアを争ってるって訳だ。

普段喋ってる1組女子はこれを機に更に仲を深めようと、そして1組以外の子達は少しでも一夏とお近づきになれる様にってな。

若干何名かはちょっと危ない……っていうかアウトな感じがするが……まぁ一夏だし、良いだろ。

1人を皮切りにドンドンと声の波が広がり、それが一夏とシャルルに向けられる。

目の前で起こる女子の感情の波に対処し切れないのか、一夏とシャルルはタジタジな様子だ。

 

「な、鍋島君!!私と組んで下さい!!」

 

「なぬ!?お、俺か!?」

 

「わ、私も!!お願いします!!」

 

「ハァハァハァハァハァハァ……鍋島君のマッチョな裸体……フォォオオオオオッ!!?」

 

「あの体がナマで見れる……ッ!!そしてそのまま、私は大人にされちゃうんだ……ッ!!」

 

「はぁ?あんた、自分が興奮してもらえる様な体してると思ってんの?あたしよりちょっと胸が大きいだけじゃん」

 

「あぁん?んだとコルァ?あんたこそ、私よりちょっと良いお尻してるからって調子乗んじゃないわよ」

 

「「また私/あたしの目ぇ付けた男に群がるつもり?って真似すんな!!」」

 

「げヘヘへへヘ。ええじゃないっか♪、ええじゃないっか♪」

 

あるぇー?俺のトコだけやたらと変態が多い気がするんですけどー?

そして誰だ『ええじゃないか』を口ずさんでるのは?何時の時代の人間だよ。

一夏達所か俺の所にも群がってきた女子の熱に、俺は両手をパーにして少し突き出しながら一歩ずつ下がって距離を取る。

勿論それに合わせて女子も一歩ずつ……どころか張り付かんばかりに距離を詰めるではないか。

や、やべぇ、どうしようか?……とりあえず危ない事言ってた人はNGだが。

 

「さぁ!!さぁ!!私と契約してパートナーになってよ!!勝利の暁にはご馳走()も用意してるから!!」

 

「ま、待て。少し待て。とりあえず皆落ち着こうぜ?ばあちゃんからの言い付けで、俺は危ない契約書にはサインしない性質なん(ポフッ)……ん?」

 

そして、目の前の荒ぶる女子に苦笑しながら下がっていくと、何故か後ろからポフッと何かが俺の背中にぶつかった。

なんだろうかと思って後ろを振り向くと……。

 

「にゅっふっふ~♪ゲンチ~、ゲットだぜぇ~♪」

 

「ほ、本音ちゃん?ちょ、何してんだよ、おい?」

 

「もぉ~。今言ったでしょ~?わ・た・しが、ゲンチ~をつかまえたの~♪(ギュ~)」

 

首だけ振りかえった俺の視界には、楽しそうな笑顔を浮かべる本音ちゃんの姿がフレームインした。

しかも腹にも何かの感触が感じてきたのだが、どうやら本音ちゃんの腕が回されているらしい。

あれ?もしかして俺って本当の意味で捕獲されてね?

 

「ゲンチ~。私と一緒にトーナメントに出ようよ~。お~ね~が~い~♪」

 

「ほ、本音ちゃんとタッグかぁ……ふ~む」

 

戦力になるのか、この子?

頭の中で失礼な事を考えつつ、チラッと表情を窺う。

 

「えぇ~?……ダ・メ・?(ウルウル)」

 

よっしゃ、誰か今すぐ契約書持って来い。内容見ずに拇印でサインしてやらぁ。

わがままっ子っぽく駄々を捏ねる本音ちゃんだが、その可愛さは推して知るべし。

あどけなさを含んだ可愛らしい笑顔を浮かべながらも、身体をゆらしておねだりしてくる我侭っぷり。

しかし押し付けてくる体の感触は、正に蕾が開きつつある『女』の体そのもの。

これはもう癒しの小動物系じゃねえ……これは正に、我侭な小悪魔って感じだ。

そして俺はそんな小悪魔に魅入られてしまった哀れな生贄なり、さぁ契約書を出せ。我が名を刻んでやる。

 

「そ……そうだな。それじゃ(チョン)ん?」

 

「……あ……あ、あの……元次君」

 

「さ、さゆか?……ま、まさかさゆかも――」

 

さぁいざ契約書をー、と心の中で荒ぶっていた俺の腕の裾をチョンと捕まれているのを感じて視線を向ければ、そこにはさゆかの姿があった。

遠慮気味に、ホンのちょっとだけ摘まれた裾。

しかし強い意思で離さないという決意すら伝わってきそうな、不思議な感触が伝わってくる。

俺の服を摘むさゆかは、俺に視線を合わせずに俯きながら大きく深呼吸をする。

やがて、ゆっくりと持ち上げられたその顔だが、彼女の顔はこれでもかと真っ赤に染まっていて、何時倒れてもおかしくないと感じさせる程だった。

さゆかはそんな風に真っ赤な顔で、潤んだ瞳を俺に向けていたが、やがて視線を顔ごと逸らし、横へ顔を向けてしまう。

彼女は俺に横顔を見せながら、俺の裾を掴んでない片手を軽く握って口元に寄せつつ、チラチラと俺を見たり見なかったりしてる。

やがて彼女はそれを繰り返しながらも、小さく口を開いて言葉を紡いだ。

 

「あ、あの……私じゃ、駄目……かな?(ウルウル)」

 

「――」

 

おい、誰か良く斬れるナイフかポン刀持って来い。

実印じゃ足りねえ、血判で契約書にサインをしなければ。

この心優しいお淑やかな少女を、この俺とオプティマス・プライムが全ての攻撃から守らねばばばば。

 

「え、えーっと……悪いみんな!!俺はシャルルと組むから諦めてくれ!!」

 

シーン。

 

と、何時もより押しの強い二人の少女に心乱されていた俺だが、一夏の叫びを聞いてハッと意識を正常に戻す。

今の一夏の台詞で保健室は静まり返り、俺も一夏とシャルルへ視線を向ける。

その先では、明らかに安堵した様子のシャルルが見受けられた。

そうだ、シャルルは女だったんだ、すっかり忘れてたけどシャルルは他の子と組んだら拙かったんだ。

ペア同士の特訓なんかで万が一にもバレちまう可能性があるからな。

今はまだ俺と一夏以外の奴等には知られない方が良い。

一夏はそれを見越して、シャルルとのコンビ結成を決めたんだろう。

さすが俺の兄弟だぜ、ちゃんと大事な所は決めてくれる。

 

「まぁ、それなら……」

 

「他の女の子と組まれるよりは良いし……」

 

「少なくともライバルにはならないもんね」

 

「フムフム。兄弟分の鍋島君を放置してデュノア君とのコンビ結成……一夏×シャルルの新たなネタが……ッ!!」

 

「いや、織斑君のヘタレ受けで、デュノア君の強き責めでしょ!!」

 

「くっくっく。甘い甘い……鍋島君が織斑君を取り戻しつつ、泣き叫ぶデュノア君をも、力づくで自らのモノにしてしまうのだよ!!強引かつ荒々しいテクニックにデュノア君はいつしかメロメロになり、遂には織斑君と争う様に鍋島君を求め……ッ!!」

 

『『『『『おぉおおおーーー!?』』』』』

 

「よーし。テメエ等バレーやろうぜ?テメエ等がボールで俺がサーブ役だ♪」

 

確かサーブってグーで殴って良いんだよな?しかもオーバースローで。

そう声を掛けると、眼鏡をかけてクックと低い声で笑っていた女子がハッとした表情で声を発した。

 

「ッ!?イカン!!余りの素晴らしさに対象の前でネタを披露してしまうとは!!総員、本部へ退避!!」

 

『『『『『御意!!本部へ退避後、直ぐに戦闘(執筆)に入ります!!』』』』』

 

俺が輝かしい笑顔でギリギリと音が鳴るぐらい握りこんだ拳が火を吹く前に、奴等は保健室から逃げていく。

ハナッからネタ探しの為だけに来てやがったのか……腐ってるぜ(色んな意味で)、アイツ等。

俺は溜息を吐きながら再び保健室へと視線を向ける。

今ので出て行かなかった女子はまだ腐海へとは落ちていない。

そしてその少女達の向いてる視線の全ては俺に向かっている。

一夏、シャルルのコンビが結成されたからには、残る俺に視線が向くのは仕方無いとこだが……どうしたもんか?

俺に背後から抱き付いて「ね~ね~?」とおねだりしてくる可愛らしい本音ちゃんか。

はたまた俺の裾を握りつつチラチラと期待に満ちた視線を向ける淑やかなさゆかにするのか……悩ましいぜ。

 

「す、すいませ~ん。ここに元次さんは居ませんかぁ~?って何で扉が無くなっちゃってるんですかぁ!?」

 

と、俺が誰とコンビを組もうかと悩んでいた時に、保健室の大破した入り口を見て、真耶ちゃんが悲鳴を挙げていた。

先生、下手人なら腐海へ逃亡しました。

殲滅号令と襲撃許可があれば、何時でもIS学園に巣食う変態の中核たる奴等をジェノサイド出来ます。

 

「まぁ、扉はちょっと色々あって……それより、俺に何か用ッスか、山田先生?」

 

「い、色々が気になるんですけど……え、えっとですね?元次さんはもう学年別トーナメントのタッグマッチ制については聞いてますか?」

 

さっきまで俺の裾を摘んでたり抱き付いていた本音ちゃんとさゆかに断りを入れながら離れつつ、困った表情の真耶ちゃんに質問すると、逆に質問を返された。

その事に首を捻るも、俺は頷いてその質問に答え、先を促した。

 

「はぁ。今さっき、他の子達から聞きましたけど?」

 

「そうですか……ごめんなさい、実はプリントのミスで注意事項が足りてなかったので、当事者の元次さんには一足先に、私が伝えに来ました」

 

「当事者?……それってつまり、俺に直接関係あるって事ッスよね?何でタッグマッチの話が俺に関係あるんスか?」

 

真耶ちゃんの言ってる意味が判らず、俺は首を傾げて質問を重ねる。

いや、確かにこのルール自体は出場する俺には関係ある話だけど、俺個人に関わる話があるのか?

そう思っていると、目の前の真耶ちゃんは俺の質問に頷いていた。

 

「はい。元次さんだけじゃなくて、ボーデヴィッヒさんもなんですけど……お二人はトーナメント当日の抽選のみで、タッグの相手を決めていただく事になります。つまり、元次さんは当日までタッグの相手を決める事が出来ません」

 

……え?は?マジで?

一瞬意味が判らなくて呆けるも、真耶ちゃんの表情は真剣なので嘘では無いらしい。

 

「え!?何でですか山田先生!?それじゃあゲンとラウラだけ滅茶苦茶不利じゃないですか!!」

 

「そうですよ!!確かにゲンは非常識の塊で、万が一にもゲンが負ける様な所は想像出来ませんが、それでも何故そんな対応を!?」

 

真耶ちゃんの言葉を聞いて、一夏を皮切りに箒も俺の不利について疑問と苦言を口にする。

しかし一夏の奴、俺だけじゃなくてボーデヴィッヒの心配もするとは……まぁ、多分あいつの事だ。

やるからには正々堂々と叩き潰さないと収まりがつかねえんだろ。

一夏もセシリアと鈴、本音ちゃんを痛め付けられて怒ってたけど、それでも条件がフェアじゃないのは嫌って事だ。

あと箒?誰が非常識の塊だコラ?

 

「え……?……そ、それじゃあ、元次君とのタッグは……」

 

「ダメなんですかぁ~!?ううう~~!!責任者出てこ~~い!!」

 

一方で俺をタッグに誘っていた女子やさゆか達は凄く落ち込んでいるではないか。

……これってやっぱり好かれてんのか?でも、さゆかはあの時、ハッキリと『お礼』だって言ったしなぁ。

本音ちゃんも何処か子供っぽいから、もしかしたら兄妹的な意味にも取れるし……判らん。

 

「落ち着いて下さい。これはお二人の実力を加味した上で、教師全員が決定しました。理由としては、トーナメントの公平さを引き上げる為の処置です」

 

「え?……公平さ、ですか?」

 

騒ぐ一夏や箒に対して、真耶ちゃんは真剣な表情で冷静に対応していく。

っていうか当事者そっちのけで盛り上がるなっての。

何より俺自身の話なので、俺も女子から視線を外して真耶ちゃんに視線を合わせる。

全員が静かになったのを見計らって、真耶ちゃんはゆっくりと理由を語り始めた。

 

「はい。学年別トーナメントは、1学期の中でも最大のイベントですが、諸事情によって今回はタッグマッチ形式になりましたよね?」

 

真耶ちゃんの確認の問いに全員が頷く。

 

「ですが、現時点で元次さんとボーデヴィッヒさんの実力は、代表候補生を合わせた1年の全生徒の中で遥かに抜きん出ています。これでは優勝したいが為に元次さん達とタッグを組もうとする人達も出てくる可能性が生じてしまうんです」

 

「……ん?……え?それって駄目な事なんすか?」

 

「……えっと、それって、別に普通の事なんじゃないですか、山田先生?」

 

優勝の為に最初の重要な事、つまりパートナーを決めるのは悪い事じゃない筈だ。

真耶ちゃんが真剣な表情で語った理由に、俺は首を傾げてしまう。

シャルルも納得がいかなかったのか、遠慮しながらも真耶ちゃんに質問する。

 

「普通ならそうですが、そうなると元次さんやボーデヴィッヒさんに戦闘の殆どを任せて、楽をしようとしてしまう生徒さんが居るのも現状なんです。トーナメントで各企業や国から大きな評価を貰うより、優勝という実を取れればそれで良いと」

 

……えーっと、つまり?

 

「俺やあのガキに頼り切って、自分の力を磨こうとしない奴等が出ない様に、っていう事ですか?」

 

「……概ね、その通りです。言い方は悪いですが、お二人の強さに頼り切って、自分自身を磨くチャンスを放棄してしまうのは避けなければなりませんから」

 

真耶ちゃんの言葉を頭の中で良く吟味しながら考えると、ボンヤリとだが筋が掴めてきた。

つまり、他の女子が俺達と組んで「優勝間違い無いから別に訓練しなくて良いや♪」とならない様に、俺達はペアを組めないって訳だ。

1年の中でも強さが上位にいる俺かボーデヴィッヒと組めないと知れば、他の女子は嫌でも努力して訓練しなくちゃならない。

更に当日の抽選でペアになれたとしても、それは幸運とは言い切れないのだ。

何故なら、タッグマッチを想定してコンビネーションを磨いた奴等に、即席で組んだコンビが勝てる可能性は結構低くなる。

これだけ条件が揃えば、他の女子達もかなり有利に戦える可能性が出てくるだろう。

そして逆に、俺とボーデヴィッヒにはそれだけのハンデを課せられ、『俺達も気を引き締めてトーナメントに望まなきゃな』という気持ちを持たせるって訳か。

そうやって生徒全体のヤル気を充実させる事も、先生達の狙いなんだろう。

……こういう逆境の苦しい状態から戦うのは、男として燃える展開でもあるな。

 

「なるほど……分かりました。じゃあ、俺は試合当日の抽選を待てば良いんスね?」

 

「はい。連携が望めない分、少し大変でしょうけど……先生達はそれでやっと他の生徒さんが対等に戦えると思うぐらい、元次さんは強いと考えてますから。頑張って下さい♪」

 

「いやいや、寧ろモチベーションが上がりますよ……っというわけで悪いな、二人とも。俺と組むのは無理みたいだ」

 

俺に柔らかい笑顔を見せながら、暗に期待してるといってくれた真耶ちゃんに、俺も笑みを浮かべて返す。

そこまで期待してくれてんなら、それに応えねえ訳にはいかねえよな。

そして、真耶ちゃんに返事を返して直ぐに、俺を誘ってくれてた本音ちゃんとさゆかに謝罪を述べる。

他の子達は俺が組めないと知るや、ゾロゾロと引き返しちまった。

 

「う、ううん。学園の決定じゃ仕方無いよ……でもそうなると、元次君とも戦うかもしれないんだね……その時は、お手柔らかにお願いします」

 

「む~……ゲンチ~と組めないのは残念だけど~、それをバネにして、戦っちゃうぞ~」

 

二人は最初こそ若干沈んでいたが、直ぐに気を取り直して俺に笑顔を見せてくれた。

しかもご丁寧に似合わない宣戦布告までこなしながら、だ。

そんな二人に、俺も笑顔を浮かべつつ、「お互いに頑張ろうぜ」と言葉を返しておいた。

 

「じゃあ、ゲンとは敵同士ってわけだ」

 

「ん?あぁ、そういやそうなるのか……当たったら容赦しねぇぞ?」

 

「当たり前だ。寧ろ手加減なんてしてみろよ、俺だってキレるからな」

 

と、俺が納得した事でこの件は終了し、俺達の話を聞いていた一夏も、俺に対して宣戦布告してきた。

俺は一夏の言葉に、本音ちゃん達に向けていたのとは別の笑みを送って、一夏に言葉を返す。

 

「もう、一夏。ペアの僕をほったらかして、1人だけで宣戦布告しないでよ」

 

「っとと、そうだったな。悪いシャルル」

 

俺と一夏は何時もより張り詰めた空気の中で互いに笑っていたが、そこにシャルルが割り込む。

その表情は少しだけ剥れていて、見る人が見れば嫉妬した女にしか見えない。

……まさかとは思うが、俺と一夏の関係を邪推してねーだろうな?お前も腐海の住人じゃなかろうな?

そんな疑念とは裏腹に、シャルルは謝罪した一夏に笑顔を向ける。

 

「良いよ。仲の良い二人同士だから、戦いたいって気持ちも判るからね……じゃあ一夏、今日は夕食の後から作戦会議をしよっか?」

 

ほほう?前から思ってたけど、シャルルって中々の策士だよなぁ。

今もペアである立場を十二分活用して、自分と一夏だけという二人だけの空間を確保してるし。

タッグマッチの為の作戦会議と言えば、他の女に邪魔される心配も無いって訳だ。

……一夏は一夏で全く気付いてねぇだろう、シャルルの気持ちにも、シャルルの考えの先にも。

 

「あぁ。じゃあこの後「「「ちょっと待ったぁああ!!」」」ってうお!?な、何だよお前等!?」

 

そして、シャルルの提案に何の疑いも持たず了承しようとした一夏だが、その目の前に3人の人影が!!

おのれ、何者だ!?

 

「一夏!!わ、私と組んではくれまいか!?幼馴染みであり、同門の剣術同士なら戦いやすいと思うんだが!?」

 

「何寝ぼけた事言ってんのよ箒!!一夏はアタシと組むの!!一夏には射撃武器が無いんだから、近~中距離対応のアタシの方が良いに決まってるじゃない!!」

 

「おほほほ。鈴さん?わたくしのブルーティアーズが華麗に一夏さんの攻撃を援護するというデュエットこそが、至高でしてよ?」

 

まぁ言うまでも無く一夏ラヴァーズなんですけどね?

3人して先々と話を進めていた一夏達に焦ったのか、早口で捲し立てながら、自分が如何に優れてるのかをアピールする。

俺としては別に一夏が誰と組んでも構わねーけど、今回は事情が事情だから……。

 

「えーっと……スマン、今回はシャルルとじゃないとダメなんだ」

 

こうやって、事情を話さずに断るしかねーんだよな。

さすがに言えねーよ、シャルルが実は女だなんて……この場で言ったら、一夏の血の雨が降りかねないし。

そして、一夏のすまなそうな断りを聞いて絶望する箒達だが、俺にはさっきから1つの疑問が浮かんでる。

 

「っていうかよぉ、鈴とセシリアってトーナメントに出れんのか?あのガキに、お前等のISもこっぴどくやられたんだろ?」

 

俺はアイツ等の騒動を、さゆかと本音ちゃんに相川達と共に少し離れた位置で見ながらそう口にする。

本音ちゃんの打鉄もあれだけ念入りにボコられてたんだ、二人の専用機も同じ位ボコボコなんじゃねぇのか?

 

「あっ、そうでした。凰さんとオルコットさんにもお伝えする事がありまして……お二人のISの状態をさっき確認しましたけど、、ダメージレベルがCを超えています。よって、トーナメントの参加は許可出来ません」

 

「そんな!?あたし、充分に戦えます!!」

 

「わたくしも納得できませんわ!!」

 

と、俺の質問を聞いて思い出したのか、真耶ちゃんが手元のタブレットを操作しながらそんな事を言い出した。

それを聞いて、鈴とセシリアは抗議の声を挙げる。

ダメージレベルって……確か、ISの損傷度合いのレベルだったか?

Aから始まってEまでの5段階で、その損傷度合いが決まる。

Cまではエネルギーを重心した状態で時間を掛ければ、待機状態の間にISが自己修復する。

しかしそれを下回る、つまりD,Eの2段階は、企業に渡して修理をしなけりゃならない。

 

「お二人のやる気は良いですが、当分は修理に専念させないと、あとあと重大な欠陥を生じさせますよ……ISを休ませるという意味でも、参加は許可できません」

 

「「うぐっ……」」

 

そんな事を考えている内に、真耶ちゃんは詰め寄ってきた二人に慈愛に満ちた表情を見せながら、やんわりと出場辞退を促す。

すると、二人は少したじろぎながら、表情を沈めていく。

 

「……あそこまでやられちゃ、仕方ないか……わかりました……」

 

「わたくしとしては、不本意ですが……非常に、非常にっ!!不本意ですが!!……トーナメント参加は辞退いたします……」

 

「判ってくれて嬉しいです。それでは、先生はこれから会議がありますので、これで。お大事にして下さい」

 

二人の言葉を聞いて嬉しそうに微笑みながら、真耶ちゃんは保健室を後にした。

俺達は皆で真耶ちゃんに挨拶を返してから、また向き合う。

 

「二人にしてはあっさり引いたな」

 

兄弟、それは俺も思ったが、思っても口に出しちゃいけねえ。

見ろ、皆して「コイツ何言ってんの?」みたいな目で見てきてるじゃねえか。

俺も二人がああもあっさり引いた理由は判らねえが、それを口には出さない。

同じ様な目で見られるのはゴメンだからな。

 

「……一夏、IS基礎理論の蓄積経験についての注意事項第三だよ。この前の授業で習ったでしょ?」

 

「……え?……そ、そうだったっけか……覚えてるか、兄弟?」

 

おうふ、キラーパスすぐる。

 

「あー……なんだっけか……確か、ブッ壊れた状態で動かしたら、それが悪循環の引き金になる、的な話じゃ無かったか?」

 

悪いがこれぐらいしか覚えてない。

確か3組かどっかの先生の授業だったけど、千冬さんや真耶ちゃんと違って解りづらかったんだよ。

千冬さんや真耶ちゃんは判らない俺達の為に、少し分り易く噛み砕いて説明してくれたけど、他の先生はあんまりそういう事してくれねえ。

「これぐらい出来て当然」な他の女子に合わせて説明をするから、元々頭の出来が良い方じゃ無え俺じゃ厳しい。

何せ俺より頭が良い筈の一夏ですらチンプンカンプンなんだしよ。

この辺が、俺と一夏が如何に皆から知識が遅れているかの差なんだよな。

 

「え、えっとね?つまり、ISは起動している時間を蓄積して、IS自体を強くて使いやすい方向に進化させるの。それは壊れてる時も同じで、損傷時に無理に起動しちゃうと、その不完全な上体を補う為に、特殊なエネルギーバイパスを構築しちゃうんだけど、今度はそのエネルギーバイパスが平常時に悪影響を及ぼしたりしてしまう……で、良かったと思うんだけど……」

 

「おぉ~!!さゆりんすご~い!!」

 

「うん。それで合ってるよ。夜竹さん」

 

と、俺の噛み砕き過ぎた答えにシャルル達が呆れていた中で、さゆかがスラスラと説明をしてくれた。

何とも分かり易い説明で、俺の足りない脳みそでも充分に理解出来る程だ。

皆に称賛を貰っていたさゆかは少し照れくさそうにしながらも、俺に笑顔で視線を合わせてくる。

 

「えへへ……ど、どうかな、元次君?分かりやすかったら良かったんだけど……」

 

「おう。そりゃあもう、俺の少ない脳みそでも充分に理解出来たぜ。分かり易い説明をありがとうな、さゆか」

 

「うん♪どういたしまして」

 

「な~るほど。人間も怪我してる時に無理すると、動き方に変な癖がついたりするもんな」

 

一夏もウンウンと頷きながら、さゆかの説明に納得している。

確かに、不完全な状態でも動かそうとしてくれるシステムは凄いが、そういうデメリットもあるんだな。

 

「こんだけ噛み砕いて説明されて判らなかった日には、どうしてやろうかと思ったけど……それよりあんた達、あのラウラ・ボーデヴィッヒの事だけど」

 

さゆかの説明を聞いて教養を深めていた俺達だが、鈴が振ってきた話題で、保健室の空気が少し変わる。

闘争に対する高揚と緊張が入り混じった、何とも形容し難い空気だ。

鈴もセシリアもさっきまでの悔しそうな表情は一変も残らず、今は気持ちを切り替えているらしい。

特に一夏の目には真剣な光が宿っていて、鈴の言葉を聞き逃さないという気迫が出ている。

 

「アイツの実力は、悔しいけどあたし達の中で群を抜いてるわ……ゲンを除いて」

 

「えぇ。直に戦ったからこそ言えますが、何よりあのIS、シュヴァルツェア・レーゲンはわたくし達の第三世代機の中でも遥かに高い完成度を誇っています。特にあのAICは強力無比ですわね」

 

「AIC?……そういやあのガキも言ってたけど、そりゃ一体何なんだよ?」

 

喋り始めた鈴とセシリアの説明を聞いて、俺は質問をした。

確か、あのガキが使ってた、俺の動きを止めた兵器?というか能力の事だよな?

 

「正式名称は、『アクティブ・イナーシャル・キャンセラー』と言います。通称はAIC、慣性停止能力の事ですわ」

 

「慣性停止……もちっと分り易く頼む」

 

「ハァ……要は、物体の動きを止める能力って事よ。アンタのパンチだって、体ごと止められたじゃない」

 

「呆れんなや。俺は頭の出来が良くねぇって、お前なら良く判ってんだろうが」

 

何を言ってるのかさっぱり判らなかったので素直に聞き返せば、鈴は溜息を吐きやがった。

慣性だか何だか知らねえよ。

俺に呆れるのを止めて、鈴とセシリアは再び真面目な表情を作った。

 

「コホン……一夏さん、PICは理解していますわよね?」

 

「えっと……なんだっけ?……」

 

「……ハァ」

 

はい、本日三度目の呆れ顔頂きました。

気まずそうに苦笑いしながら頬を掻く一夏に、皆して溜息を吐く。

 

「え、えと……パッシブ・イナーシャル・キャンセラー。ISを浮遊・停止・加速させてる基本システムの事で……この前の授業でその復習をしたけど……」

 

「あ、あはは……そういえば、そんな気も……」

 

この沈黙を見かねてさゆかが出してくれた助け舟に、一夏は苦笑したまま答える。

俺?俺に期待するだけ無駄だと言っておこうか。

本格的なISの各部位の話は俺には全くもって理解出来ねえよ。

 

「と、とにかく、AICはPICを更に発展させた物だと聞いていましたが……まさかあれほどの完成度とは……」

 

「第三世代の兵器の中でも群を抜いて厄介なのは間違い無いわよ。空間圧作用兵器しかない私の甲龍とじゃ相性が悪すぎる」

 

「う~ん……話だけ聞くと厄介だけどさ。ゲンはどうやってそのAICを解除出来たんだ?」

 

「ん?あぁ。単純に威圧して、奴の集中力を乱してやっただけだ。どうにもアレは、余程集中しねーと使いモンにならねーみてーだからな」

 

鈴達からAICの詳細を聞いていた一夏は、あのAICを破った張本人である俺に質問してきた。

その質問に対して普通に答えると、何故か皆して溜息を吐いたり苦笑いしてやがるではないか。

 

「まぁ……ゲンだからな」

 

「それぐらいの非常識をやってねぇと、兄弟らしくねぇか」

 

「……ISの兵器を威圧でどうにか出来るのなんて、元次くらいだよね……僕も最近、元次なら何やってもって思える様になってきてるんだよなぁ……」

 

皆して俺のやった事に諦めの境地を見せている。

んだよ、人を人類から外れてるみてーな言い方しやがって。

俺は全員の視線を受けながら、顔を顰めて頭を掻く。

 

「何度も言ってるがな。世の中にゃ俺より強い奴等なんざゴロゴロ居るぜ?千冬さんが身近な良い例だし、俺に修行付けてくれた冴島さんだって、千冬さんと同じくらい強い人なんだからよ」

 

しかも冴島さんが偶に零していたが、冴島さんには兄弟が居るらしい。

勿論兄弟ってのは血の繋がった兄弟じゃなくて、ヤクザ世界で言う所の親友ってやつだ。

その人も、冴島さんと同じくらい強いって話だし、更に同じくらい強い男がもう1人居るってんだから驚いたぜ。

まさか極道の世界に千冬さんとタメ張る様な人達が複数居るだなんてな。

 

「そりゃ判ってるけどよ……千冬姉にしたって、ゲンの言うその冴島って人も、俺等より年上じゃねぇか。同年代でそこまで飛び出た戦闘力してるから、どうしてもゲンはチートに感じられちまうんだよなぁ……」

 

「もっと視野を広く持とうぜ、兄弟。もしかしたら、世の中には俺より強い年下も居るかもしれね(prrr)っと?悪い、電話だ」

 

と、会話の途中で俺の携帯が鳴り出したので、俺は断りを入れてから保健室を出る。

さすがに保健室で電話に出る訳にもいかねえからな。

さてさて、こんな時間に誰だ?……って、この番号は……。

 

「(pi)もしもし?……えぇ、どうもお久しぶりです『  』さん。どうかしたんですか?急に電話なんて」

 

俺は通話ボタンを押して、電話の相手に挨拶を述べる。

すると、向こうは挨拶もそこそこに本題の話をし始めた。

 

『――。――?』

 

「はい、はい……えぇ、覚えてるッスけど……え?マジっすか?」

 

『――。――』

 

「……なるほど……判りました。そういう事なら行きます。今週の土曜日にでもどうッスか?……了解です。それじゃ、今度の土曜日に……」

 

電話の向こうの相手が俺に語った話の内容を聞いて、俺は自然と気合が入る。

何せ俺にとっては中々に面白い内容だったからだ。

最近煮詰まり気味だった自分自身の鍛錬……それを一歩先に進めてくれるであろう相手と会える。

しかも電話の相手の話じゃ、特に何も負担は掛からないそうだ。

また休みの日に出る事になるが、その価値は充分にあるだろう……電話相手の話じゃ間違いねえ。

 

「良し。後で外出申請を出してくるか」

 

俺はスマホをポケットに閉まって保健室へと踵を返し――。

 

「ふっふ~♪(ニコニコ)」

 

「……おや?」

 

ほぼ真後ろに居た笑顔の本音ちゃんを見て固まってしまった。

目の前の本音ちゃんはただ楽しそうにニコニコと微笑みを浮かべながら、俺をジッと見ている。

おかしいな?ヤマオロシと戦った事で気配に敏感になったこの俺が直ぐ後ろに居た本音ちゃんの気配に気付かなかっただと?

……もしかして、気が緩みすぎて能力値下がってんのか?……まさか本音ちゃんに気配を消すなんて事は出来たりしないだろうし。

 

「ね~ね~、ゲンチ~?」

 

「な、なんだ?本音ちゃん?」

 

「え~っとね~。土曜日にどこ行くの~?」

 

「……聞いてたのか?」

 

質問に対して質問で返す俺だが、本音ちゃんは嫌な顔一つせずに、笑顔で頷く。

ありゃ、聞かれてたのか……まぁ、別に後ろめたい事でも無いので、俺は白状する事にした。

 

「なに、ちょっくら鍛錬に来ないかって誘われたから、土曜日にそこへ行ってみるってだけだよ……通称『眠らない街』に、さ」

 

俺は少し微笑みながらそう言ったんだが……。

 

「……ふ~ん?(ニコニコ)」

 

……あの、本音ちゃん?何故にそんな楽しそうな微笑みを浮かべとりますか?

え?いやちょ、なんでそんな風にジリジリとにじり寄って――。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「ふへぇ~。ここが噂の神室町か~。人がいっぱいだねぇ、ゲンチ~」

 

久しぶりに訪れた神室町、その大入り口とも言うべき天下一通り前で、俺達は私服で佇んでいる。

そう、『俺達』というのは所謂ところの複数を指す言葉なのである。

その言葉が示す通り、俺の斜め前に立って俺に微笑みを浮かべる私服姿の本音ちゃんの姿が……うん、一つ言わせろ。

 

「 ど う し て こ う な っ た ? 」

 

もうそれだけの言葉が如実に俺の心の中を表してます。

うん、もうこれ以上無い程にこれが的確な言葉だ。

外出用の私服に身を包んだ俺は人目も憚らず頭を抱えていた。

そんな俺に不思議そうな視線を送ってくる本音ちゃん。

……そう、今日、俺は神室町にて、ある理由から俺に稽古を付けてくれるという人を訪ねてきたのだ。

それはこの前の電話が関係してる訳だが……その話を聞いた本音ちゃんが、どうしても着いて来ると言って聞かなかったのが、今の現状の原因である。

いや、まぁ俺としても断る理由は……神室町が危ないからってのがあったけど、それでも引いて貰えなかった。

仕方なくOKしたのだが……イントルーダーの後ろに乗せてあげた時の抱きついてくる感触で早くも後悔してますた。

夏に近づいて服も薄手になってきた頃だから、柔らかい果実の感触がダイレクトに伝わってきて……えぇ、もう最高でしたよ、ふふっ。

図らずもおっきしちゃいそうでゲフンゲフン。今のは聞き流してくれ。

 

「どうしたの~?」

 

いや、どうしたのって本音ちゃんや……。

 

「……一応言っておくけど、神室町は危ねえ町なんだぜ?それでも一緒に来るのか、本音ちゃん?」

 

とは言ったものの、ここまで来ちまったら帰る手段無いんだけど。

一応最後の確認って事で聞いてみるも、本音ちゃんはニコニコと笑うだけだった。

 

「えへへ♪……ゲンチ~と、お外に遊びに行きたかったんだもん~♪らいしゅ~からは、学年別ト~ナメントで忙しいから~」

 

「い、いや。だからって「それに~」……?」

 

「もし、わる~い人が出ても~……ゲンチ~が守ってくれるもん♪でしょ~?」

 

「ぬぐ!?」

 

手を後ろで組んだままに上目遣いでそう聞いてくる本音ちゃんに、俺はたじろいでしまう。

そりゃ勿論、本音ちゃんの事はどんな野郎からでも守りぬくつもりだ。

だからこそ、俺がちゃんと守ってくれるという全幅の信頼を置く言葉にドキッとした。

参るよなぁ……ここまで言われちゃ、「危ねえから帰れ」なんて口が裂けても言えねえよ。

お気楽に覗きこんでくる本音ちゃんに溜息を吐きながらも、俺は苦笑いしながら方を竦める。

 

「わあったよ……こっから先は、不肖この鍋島元次が、本音ちゃんのボディガードをやらせてもらいます」

 

「わ~い♪よろしくお願いしま~す♪」

 

嬉しそうに微笑みながら、本音ちゃんはおどける様に頭を下げてくる。

おれはそんな本音ちゃんに「任せとけ」と言って、指定された待ち合わせ場所に向かう事にした。

その隣を、本音ちゃんがチョコチョコと着いて来る。

にしても、アレだな……本音ちゃんが普通の服を着て町を歩くってのも……違和感パネェっす。

何時もは何かしらの着ぐるみ、もしくは学園の制服だったから、かなり新鮮だ。

白のカッターシャツに、胸より上と背中側の胸より下を露出させた黒のワンピースを重ね着してる。

これって確か……キャミソールワンピってヤツだったかな?

靴は茶のブーツで、脚を黒いストッキングが完璧にガードしている、少し大人っぽい着こなし。

……ぶっちゃけ、可愛いな。

チラチラと盗み見しながらそんな事を考えていると、不意に左手にスルリと柔らかな感触が伝わる。

そこで視線をそっちに向ければ、少しだけ頬を染めた恥ずかしそうな表情の本音ちゃんが、自分の手を俺の手に絡めていた。

 

「そ、その~……人、多いから~……迷子にならない様に……ね?(ギュッ)」

 

「お……お、おおう。そ、そうだな……ち、ちゃんと掴んでてくれよ?」

 

「う、うん……ゲ、ゲンチ~も~、離さないでね~?」

 

離さないで?既に左手は死後硬直でも起きたかの様にカッチカチやで?

返事の代わりに、ちょこっとだけ握る力を強めると、本音ちゃんは嬉しそうに微笑んでくれた。

しかし頬の赤みが抜けてない、ちょっと照れた表情だ……逆に俺の頬に赤みが伝染しちまったよ。

そのまま人混みの多い神室町の中へと脚を踏み入れる俺達だが……。

 

「……」

 

「……えへへ♡……うにゅ~♡」

 

 会 話 が な い 。 デ ジ ャ ヴ か ?

 

本音ちゃんは時々、嬉しそうに笑うだけで基本話しかけてはこなかった。

俺も俺で、何を話したら良いのか判らず、黙りこくっている。

別に辛い沈黙では無いが、逆にそれが気恥ずかしく感じられてしまう。

な、何かとっかかりやすい会話を……ッ!!

 

「え、ええと……そ、そういえばよ、本音ちゃんの私服って初めて見るよな?」

 

ま、まずは無難に服の話から行ってみよう。

 

「うん♪今日はちょっと、大人っぽいコ~ディネ~トにしたんだけど~、似合ってるかな~?」

 

「お、おう。良く似合ってると思うぞ?」

 

「ぬふふ~♪ありがと……ゲンチ~も~……か、かっこいいよ~」

 

照れた表情でそんな事言わないでくれ。

恥ずかしくて死にそうだ。

今日の俺の服装はダボついた群青色のジーパンに、無地の白いTシャツ。

ダークブルーのカラーにホワイトラインの入ったDG製のカッターシャツの裾を肘よりちょい下まで捲くり上げた出で立ちだ。

ジルコニアカスタムのゴッツイ腕時計に、ネックレスは太めのシルバー。

トップ部分は恐らく俺の持ってるトップの中でもかなりお高い買い物だった天然石のモノを付けてる。

形はガンジャ(大麻)をモチーフにして、そこに天然100%のターコイズブルーをあしらったモデルだ。

こんな出で立ちでオプティマスの待機状態であるサングラスを掛けてるもんだからもぉ……。

 

『うわ。ちょっとアレ』

 

『……ヤ、ヤクザ?』

 

『凄い体格してるなぁ……目ぇ合わせるなよ』

 

『格闘技の選手とかじゃ無いの?』

 

『そんな事より俺は横の女の子が気になるな。あの脚をペロペロした(ガンッ!!)ぶふ!?』

 

『彼女の私を差し置いて何言ってるのよ、バカ!!』

 

周りからもこんな風に見られちまうんだよなぁ。

後、最後から2番目の奴ぅ……後で便所まで面ぁ貸せ。

さすがに神室町とはいえども、ゴツい俺とほんわかな本音ちゃんの組み合わせは目立つのか、何人かの通り過ぎた奴等が振り返っている。

 

「あはは……見られちゃってるね~」

 

「……そ、そう……だな……」

 

本音ちゃんもその視線に気付いてる様で、少し困った様に微笑みながらそう言ってきた。

それでも手を離したりはせず、それどころか逆に強く手を握り直してくる。

 

「……周りから、私とゲンチ~って……どう見られてるのかな~?」

 

「え?ど、どうって……」

 

本音ちゃんの言ってる意味が判らず、そちらに視線を向ければ……。

 

 

 

「……こ……恋人に……見えちゃったり……してるのかな~って……」

 

「――」

 

 

 

若干顔を俯けながら、朱に染まった笑顔でそんな事を言ってくぁwせdrftgyふじこlp。

お、落ち着け鍋島元次、クールだ。仕事はクールにやるもんだぜ?

いや別に仕事とかしてないんだけど……と、兎に角落ち着きましょうや。

本音ちゃんは何とおっしゃった?

俺と本音ちゃんが恋人同士に見えてるのかだと?……へ、返事しなくちゃマズイよな?

 

「……あ、あの……その……そ、そうかも……しれねぇな」

 

「ッ!?そ、そっかぁ~♪や、やっぱりそう見られてるかも――」

 

 

 

「うぉ!?何だあの怖ぇ兄ちゃん!?」

 

「けど隣の女の子はメチャ可愛くね!?……『兄妹』なんだろうなー」

 

「あぁ、可愛い『妹』を守るお兄ちゃんってヤツか?……あんな兄ちゃん居たら、一生彼女にするのは無理だろ」

 

「……ほへ?」

 

……タイミング悪過ぎだぜ、野次馬の兄ちゃん達よ……。

 

 

 

お前等なんてタイミングで俺達の外から見た評価下しちゃってくれてんだよボケ。

さっきまで嬉しそうな顔してた本音ちゃんが「何を言われたか分かんない」って顔しちまってるじゃねぇか。

ポカーンと口を開けて無言のままに、今しがた通り過ぎた奴等を目で追ってる。

手を握ってるので、本音ちゃんが動かないなら俺も動けない。

……そのまま少し時間が過ぎたかと思えば……。

 

「……よいしょ~♪(ギュッ!!)」

 

「うぉ!?ちょ、ちょっと本音ちゃん!?」

 

「さぁ~♪行こ~ゲンチ~♪待ち合わせしてるんでしょ~?待たせたら悪いのだ~」

 

「そ、そりゃそうだけど……ッ!?」

 

今度は手だけじゃなくて、俺の腕に身体を絡めて密着度を高めながら俺をグイグイと引っ張ってくるではないか。

さすがにこの体格差だから、引っ張られた所で動く事は無いが、心臓がドキドキしっぱなしです。

ああ!!何かムニュムニュっとしたモノが腕に!?俺の腕で形を縦横無尽にぃ!?

しかも本音ちゃんが積極的に抱きついてくるから、余計に柔らかいモノが引っ付いてくる。

さすがにこれは止めないといけないと思い、本音ちゃんへと視線を合わせるが――。

 

「良いから良いから~♪私はこ~したいの~♪まだラウランに捕まれた首が痛いから~、ゲンチ~に寄り掛かりたいのだ~♪(これぐらい引っ付いたら、妹には見えないぞ~!!)」

 

「ぬ、むぅ……分かったよ」

 

可愛らしい笑顔で俺を見上げながら、腕にスリスリされると、もう何も言えませんでした。

俺が諦め混じりに承諾すると、本音ちゃんは本当に嬉しそうに腕に引っ付いてくる。

本音ちゃん本当に首痛いの?凄い嬉しそうな表情してますが?

もうどう言ったって止めてくれそうも無いので、俺は何も言わずに目的地を目指して歩く。

まぁ、嫌な空気とか気まずいという訳でも無く、互いに心地良く過ごせる空気だったのが幸いだな。

 

「ところでゲンチ~。今日は~、鍛錬をしに来たんだよね~?」

 

「ん?おぉ、そうだけど、どうかしたか?」

 

「う~んと……それって、ゲンチ~より強い人が、この神室町に居るって事かな~?」

 

俺が質問に答えると、本音ちゃんは俺を見上げながら首を傾げてそう質問を繰り返す。

何だ?ひょっとして想像つかねぇのかな?

 

「この前も言ったけど、俺より強いヤツなんかそこら辺にゴロゴロ居るんだぜ?特にこの神室町にはな」

 

「そうなの~?……あんまり想像出来ないかも~」

 

「そうか?」

 

「だって~、ゲンチ~の強さは、野菜人を超えたスゥ~パァ~野菜人だもん~」

 

「俺、地球を破壊出来たりしねぇけど?」

 

さすがにそれはカンストし過ぎだろうよ。

真顔で人類辞めてるよね?と半ば確信を篭めた答えに、俺は苦笑いしてしまう。

そうなると千冬さんはスーパー野菜人を4段飛ばしの位置に居るんじゃなかろうか?

 

「まぁ、事実として、俺はまだまだ弱えって事だ。今から会う人だって、俺よりは強い筈だからな」

 

「ふぇ~?……どんなマッチョさんに会うのさ~?」

 

何故に俺より強い=俺より筋肉モリモリの発想に至ったのですかな?

千冬さんとか物凄いグラマーじゃねぇか。

少し怯える様子を見せる本音ちゃんに苦笑いしながら訂正しようと口を開き――。

 

「おいおい鍋島君。俺のハードル上げないでくれよ。つか、俺そこまで強くないしさ」

 

「ほえ?」

 

話しながら歩いていた所為で気付かなかったが、どうやら俺達は既に待ち合わせの場所まで来ていたらしい。

そんな俺達に、いきなり声を掛けてきた第三者の存在に、本音ちゃんは目を丸くしてそっちに視線を向ける。

待ち合わせ場所のコンビニ、ポッポ 天下一通り店の入り口に設置された灰皿の場所でタバコを吸いながら俺達に視線を向ける、何処か飄々とした男性。

彼はタバコ片手に苦笑いしながら、俺達に手を振っていた。

 

「何言ってんですか、秋山さん。俺よりも絶対に喧嘩慣れしてるでしょ?」

 

「まぁ、結構場数は踏んでるけどね。それより久しぶり、元気にしてた?」

 

「ボチボチってトコですかね」

 

待ち合わせしていた男……この前知り合った秋山さんと会話をしながら、俺達はそっちへと歩を進めていく。

そう、この前の電話で話していた相手は何を隠そう、この秋山さんである。

この人が俺に修行を付けてくれる人……ではなく、この人はあくまで中間の紹介役だ。

ただ、俺に鍛錬をしてくれる人は特殊な事情で携帯を持っていなかったので、俺の連絡先を知っていた秋山さんに白羽の矢が立ったのである。

 

「そうかい。そりゃあ……まぁ、良いとして……ほら、君より強いかも、なんて言うのに、出てきた相手が俺みたいなダンディーだからビックリしちゃってるじゃない」

 

秋山さんの言う通り、さっきまで話していた本音ちゃんは、未だにポカンとした表情を浮かべてる。

そうは言っても俺より強いってのは間違いねえと思うんだけどなぁ……ギリギリ勝てるかどうかって感じがするし。

 

「本音ちゃん。この人は秋山さんって人で、前にこの町で取材を受けた時に知り合った人だ」

 

「ども。ご紹介に預かった秋山です。よろしくね」

 

「……あっ!!は、はい~。こんにちわ~。私はゲンチ~のともだ……」

 

……ん?何故に『友達』と言う途中で詰まってるんですか?

まさか友達と言うのが嫌とか言いませんよね?泣くよ俺。

 

「――妻の~布仏本音です~♡」

 

「 何 故 そ う な っ た ? 」

 

「あっ、奥さんでしたか。いやいやど~も」

 

「秋山さんも乗らなくて良いッスから!?」

 

二人でボケを連発されて突っ込む俺だが、秋山さんと本音ちゃんはニコニコと笑ってる。

いや、本音ちゃんは何時も通りなんだけどね?

 

「中々面白い子だね~。それに可愛いし……どう、学校卒業したらウチのお店に来ない?給料弾むよ?」

 

「う~ん……ごめんなさ~い。就職先は~……(チラリ)」

 

「……な、何だ、本音ちゃん?」

 

俺の腕に抱きついたままの体勢で秋山さんと話していた本音ちゃんが、話の途中で俺の顔をじ~っと見上げてきた。

その純真無垢な視線にたじろぎながらも質問すると、本音ちゃんは頬を赤く染めながら笑みを浮かべる。

そのまま「なんでもないよ~」と言って再び視線を秋山さんに向けた。

 

「そうなれば良いな~っていう~……希望進路があるので~」

 

「……成る程ね……そりゃ良い。是非とも頑張ってくれ、おじさんも応援してるから」

 

「えへへ♪ありがとうございま~す♪アッキ~おじちゃん」

 

「ア、アッキー?……この歳でそんなアダ名つけられるのは……おじさん、何か複雑……」

 

「おーい。俺そっちのけで何の話してるんすか?」

 

っていうか秋山さんは今ので本音ちゃんの話の意味分かったの?

俺全然判らねぇんだけど……。

俺の問いを聞いて、秋山さんは少し苦笑しながら口を開く。

 

「いやいや。まぁ、鍋島君はあんまり気にしちゃいけないよ……さて、それじゃあ時間も押してる事だし、さっそく行こうか?君に修行を付けたいって言ってる人の所へ」

 

「は、はぁ……分かりました」

 

思いっ切りはぐらかされて釈然としないが、相手を待たせているのも事実なので、俺は秋山さんの言葉に従って、彼の後に着いて行く。

IS学園じゃ、俺は一切の鍛錬を禁止されているけど、学外なら問題は無い。

迫り来る学年別トーナメントの為に、しっかりと鍛錬をする事が今日の一つ目の目的……そして――。

 

「……本音ちゃん」

 

「んにゅ?な~に~?」

 

「その……さ……こ、この後、鍛錬が終わったら、約束通り……デ、デート……しよう、ぜ?」

 

「………………ふにゃあ!?」

 

俺と一緒に遊びたいって言ってくれた本音ちゃんと……楽しい『デート』を完遂するのが、今日の最大の目的だ。

痛いぐらいに跳ね回る心臓の鼓動を感じながら誘えば、本音ちゃんは顔を真っ赤にして声にならない悲鳴を挙げてしまう。

本音ちゃんは遊びに行くとしか言わなかったが、男女で二人っきりで遊びに行く、これ即ちデートだろう。

ましてや気になってる女の子の一人なんだ……俺からこうして誘うのが筋ってもんだ。

俺の言い回しに驚いて、腕から離れそうになった本音ちゃんだが、俺は彼女の腰に手を回してそれを阻止した。

そうする事で逃げ場を失った本音ちゃんは「あわわわわ……」とか言いながら目を回すが、それも次第に落ち着いてくる。

 

「あ、あう……ちゃ、ちゃんと……エスコ~ト……してね?」

 

まるで熟れたリンゴの様に赤い顔色で恥ずかしそうにそう言葉を返してくれた本音ちゃんに、俺は笑顔を浮かべながら、腰に回した手に少し力を込めて返事とした。

 

 

 

 

 

 

――そして、時間は流れ――。

 

 

 

 

 

いよいよ、学年別トーナメントが開催された。

 

 





もうすぐ自分の書きたかった山場に突入!!

より時間を掛けて最高の出来にしたい所存です!!

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