IS~ワンサマーの親友   作:piguzam]

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最初に報告しておきます。


実は作者、この度ペンタブなるものを友人から譲り受けました。


紙にすら殆ど絵を書いた事無いのに、何故俺に?


友「これでお前の小説の絵、書いたら良いのさ☆」


だから紙にすら(以下略

そんな訳で、現在必死に絵の勉強中です。


よって更新もかーなーり遅れます(断言)(;´Д`)

いや、まぁUP出来てもド下手な絵なんですがね?

ラフの時点で「あ、こりゃ無えわ」でしたから。

一応、超絶に適当な絵は仕上げたので、もしかしたら途中で挫折してそれをUPするかも(;´Д`)

レベルで言えば「子供の落書きに劣るで賞」ですけどwww


学年別トーナメント、開催

 

 

 

 

 

「うおぉ……スゲェなこりゃ」

 

「あぁ……まさかここまでお偉いさん方が集まるたぁな」

 

6月の最後の週、その頭である月曜日。

俺と一夏は男子用に宛がわれた更衣室を広々と使いながら、会場の様子が映し出されているモニターに視線を向けていた。

着替え終えた俺達の見つめるモニターには、これから始まる『学年別トーナメント』の会場である第一アリーナの様子が中継されている。

今日はその始まりである第1日目、そして1年生の部だ。

一年生が最初に行われるのは毎年の事で、例年から一年生では特に目立つ人材も居なく、余り注目する必要が無いからササッと終わらせる為らしい。

そうして終わった一年は二年や三年の試合を見て盗める技を盗み、来年の学年別トーナメントに向けて意識を変えるのが通例。

これが事前に真耶ちゃんから聞かされてた学年別トーナメントの流れってヤツだ。

しかし、今年は珍しく例年通りにとはいかなかった。

通常、一年の試合を見るのは同じ一年ばかりで、二年や三年、企業関係者は殆ど来ないのが普通らしい。

 

「観客席は、ほぼ全生徒で満員。立ち見までしてる人達が居るよな」

 

「オマケに企業のスカウトが座る筈の椅子には、その企業の代表が居るし、政府関係者も殆ど座ってるじゃねぇか」

 

今年は今までに無い程に観客で賑わい、アリーナの席は満員御礼の状態だ。

席に座れないどころか、立ち見する余裕すら無い子達は、モニターで観戦している始末。

一体どうなってんだこりゃあ?

 

「三年にはスカウト、二年には一年間の成果の確認にそれぞれ人が来ているからね。皆、出資している生徒の活躍はチェックしておきたいんだと思うよ」

 

「え?でもシャルル。今日は一年の部の一回戦だぜ?二年と三年の一回戦は明日明後日なのに、何で今日の段階でこんなに人が集まるんだ?」

 

俺達とは離れたロッカーを使って着替えていたシャルルが着替えを終えて合流する。

彼……いや彼女の事情が分かったんだから、離れて着替える様にしたからだ。

そのまま俺達と同じ様にベンチに腰掛けながら喋った言葉に、一夏が首を傾げながら質問した。

まぁ一夏の言いたい事は判る。

二年三年の部でこんなに大盛況なら判るが、何で今回に限って、今まで見向きもしなかった一年をこんな人数が見に来るんだ?

一夏の質問を聞いたシャルルは苦笑いしながら口を開き、その答えを語り始める。

 

「簡単な話だよ。今回の一年には注目株が居るからさ……『世界中に注目された二人』の実力を生で見るチャンスに、企業や政府の代表が来ないなんてありえないでしょ?」

 

ん?『世界中が注目した二人』?……あっ、そうか。

 

「俺達を見に来てるって訳か。初の男性IS操縦者である、俺と一夏を」

 

「え?俺達を?」

 

「元次の言う通りだよ。IS史上初の男性IS操縦者が、どれぐらいのレベルなのか……世界中が注目してる」

 

「なるほど……言われてみりゃそうだよな。俺も一夏も、まだ世間一般の奴等にはどんな戦いが出来るのかなんて見せてねぇもんな」

 

「あぁー。そういえば、そうだったっけ」

 

シャルルの教えてくれた答えを聞いて、俺達はなるほどと納得する。

今まで俺や一夏がISを使って戦ったのは、クラス代表を決める代表決定戦と、クラスマッチの鈴、途中乱入してきた無人機だけ。

俺達のデータを欲しがってる政府や企業は、この前一夏が言っていたIS学園特記事項第二十一の項目があるから、データなんて取れて無いだろう。

つまり、そんな謎に包まれた俺達の戦いを生で見れるチャンスを、お偉いさん達が逃す筈も無えって訳だ。

 

「一夏や元次が活躍したら、『我が社の装備を使って下さい!!』って人達が来るかもしれないね。若しくは政府の人達から、『是非我が国に!!』とかかな?」

 

「ふーん?でも、俺の白式はもう装備詰めないし、俺もゲンも日本人だからなー」

 

「違いねぇな。まぁどっちにしても兄弟。お前は確実に各国が注目してる筈だぜ?言いたくはねぇが、ブリュンヒルデとして有名な千冬さんの弟ってのがあるからな」

 

「……それはそれで嫌だな」

 

シャルルの言葉を聞いてから頭の中で組みあがったパズルのピースの一部分を言葉にすると、一夏は嫌そうな顔をする。

まぁ、千冬さんの弟ってだけで注目されんのは嫌な筈だよな。

家族と優劣を比べられるのも辛いし、兄弟の場合は千冬さんの名前に泥を塗りたくないだろう。

ちょっと出す話題を失敗したか。

 

「まぁ良いじゃねぇか。寧ろこの試合で良い成績残せれば、お前の目標に一歩も二歩も前進出来るってなモンだろ」

 

少し気分が下がった一夏に対して、俺は軽く背中を叩きながらそう言う。

トーナメントの試合順はこれからコンピューターの抽選で決まるから、直ぐに一夏と当たるかは判らない。

が、もしかしたら直ぐに当たる事になるかもしれないし、コイツとは思いっきり喧嘩してぇんだ。

こんな気分の落ちた兄弟をブチのめしても、全然面白くねぇ。

だから俺はコイツのやる気に油を注ぐ様な言い方を、敢えて選んで口にした。

 

「……そうだな。どっちみち、今更あーだこーだって考えてもしょうがねぇ……ともかく、相手が誰でも全力で戦うだけだ」

 

「そうだぜ。俺達みてーな馬鹿が必死こいて無い頭絞るだなんて、似合わな過ぎて笑っちまうよ」

 

「テメッ。俺の事まで一括りにするなよな」

 

発破を掛けると、一夏は真っ直ぐな瞳に闘志を燃やしながら、俺の言葉に答える。

そのままジョークを織り交ぜた会話を続けると、何時の間にかさっきまでの嫌な空気は払拭され、俺達の間に笑みが零れた。

どうやら、ちっとはヤル気にさせられたみてーだな。

 

「っていうか、俺もそうだけど、ゲンはどうなんだよ?お前も色んな所から注目されてるんじゃないのか?」

 

「あ?……んー……勘の域は出ねぇが、多分お前よりは注目されてねぇと思うぜ?」

 

「そうなのか?シャルルはどう思う?」

 

「うーん。僕も元次と同意見かな。元次は一夏みたいにISの有名人が親族だったりしないから、そんな人達がかなり身近に居るなんて、世間には知られて無いみたいだしね」

 

「だな。もし俺が千冬さんと束さんと親しいって知れてりゃ、未だに世界中から俺に送られてる熱烈なラブレターも止んでるはずだしよ」

 

モテる男は辛いぜ、とおどけつつ言葉を切るが、本当にモテてる訳じゃねえ。

恋文はあくまで隠語であり、ラブレターとは勿論、女性権利団体からの殺意と悪意の籠められた手紙である。

一夏とシャルルも俺の言葉であの手紙の事を思い出したらしく、二人とも顔を嫌そうに歪めた。

コイツ等はコイツ等で心配してくれてんだよな……サンキュー。

心の中で二人にお礼を述べつつ、俺は適当に肩を竦めて言葉を発した。

 

「まぁ多分、IS開発者の妹って事で、箒の方が注目されてるんじゃね?順序で言えば、一夏、箒、俺、か、もしくは一夏、俺、箒ってとこだろ。お偉いさん達の中じゃ多分、俺の事はただISに乗れるだけの珍しい男子程度くらいしか認識してないだろうぜ。あっ、勿論束さんに直接怒られた日本政府の人達以外の話だが」

 

あの人達は多分、女性権利団体がまたうるさいから何も言わないんだろう。

一度忠告はしたのにそれを無視したから、後は好きにしろって感じで。

……考え過ぎかも知れねえが、女性権利団体が俺に手を出して、束さんの怒りを買って潰されるのを待ってる奴も居るかもな。

政府の男政治家達にとって、女性権利団体は目の上の瘤……っていうかぶっちゃけ邪魔な存在だろうし。

 

「ははっ、それじゃあこのトーナメントで、ゲンに対する印象はガラリと変わるな」

 

「そうだね。特に女性権利団体の人達は、凄くビックリすると思うよ。日本ではそういうのを、目から鱗って言うんでしょ?」

 

「おっ、良く知ってるな、シャルル。」

 

「ふふっ。一夏が良く日本の事を教えてくれたからね。自然と覚えちゃったんだ」

 

何時の間にか俺の話から遠ざかってイチャイチャし始めた二人。

いやまぁ一夏は無自覚だろうけどな?シャルルはちょっと頬を赤くしてんのに、一夏は普通に対応してる。

しかしシャルルの奴、中々の策士だよなぁ……こうやって共通の話題を増やして、話が合うと認識させてる訳か。

そうする事で男女の隔たりを消しつつ、「シャルルと話してると楽しい」と一夏に思わせれば、この女子に囲まれた学園。

自然と一夏は兄弟分の俺か、話の合うシャルルと多く話す様になるって寸法だろうな。

それを何食わぬ顔で実行してる辺り、シャルルの本気度合いが窺えるぜ。

こんな風に和気藹々と話してる俺達だが、完璧に楽しんでるって訳じゃない。

 

「それはそうと……やっぱ、鈴とセシリアは無理だったか」

 

「……うん。さすがにISの回復が間に合わなかったから、凰さんとオルコットさんは予定通り出場停止だって」

 

「そうか……まっ、そうだよな……」

 

「……」

 

少し声のオクターブを落としながらシャルルに聞くと、シャルルも顔を顰めながら頷く。

一夏は何も言わねえが、手が白く成るぐらいに握りしめられているから、やっぱやるせねえんだろう。

真耶ちゃんに忠告された通り、二人のブルー・ティアーズと甲龍は自己回復が間に合わず、トーナメントには不参加になっちまった。

こういうデカイ大会で自分の力が振るえないのは辛いだろうし、何よりあの二人は代表候補生って立場がある。

その辺りは大丈夫なのか心配だったが、どうにも専用機の取り上げとか降格まではいかないで現状維持らしい。

競争の激しい立場なのにえらく優しい対応だなと思ったが、これには勿論理由があるそうだ。

一つはボーデヴィッヒのIS……シュヴァルツェア・レーゲンの完成度が他の国の予想を遥かに超えていた事。

これは開発側の問題なので二人には関係無し。

二つ目の理由は、現段階でティアーズと甲龍を一番上手く扱えるのがこの二人だかららしい。

他に拮抗した実力の持ち主が居れば違ったんだろうが、二人は他を大きく突き放している。

だから今の段階でパイロットを変えるのは下策ととったという話だ。

そして最後の理由は……汚え話だが、俺と一夏に近い位置にいるからだとよ。

各国としては俺達のほんの些細なデータでも良いから欲しいそうで、俺達と友好を持ってる二人を離れさせるのは勿体無いという結論になった。

胸糞悪い理由だが……ダチが悪い立場にならなかった事を思えば、文句は飲み込んでおこう……『今は』、な。

 

「……くそっ」

 

「一夏、感情的になっちゃ駄目だよ?感情に身を任せたら、正常な判断が難しくなっちゃうからね」

 

「あっ……」

 

と、俺が鈴達の事を思い出していると、悪態をついた一夏の握り込まれた拳に、シャルルが自分の手を重ねていた。

そのままシャルルは心配そうな表情を浮かべながらも、怒りに身を飲み込まれそうになっていた一夏を諌める。

シャルルの心配してくれる気持ちが胸を打ったのか、一夏は少しばつの悪そうな表情を浮かべる。

 

「そう、だな……悪い、シャルル」

 

「ううん。気にしなくて良いよ。パートナーなんだから、バディ(相棒)を心配するのは当然だもん」

 

一夏の謝罪に対しても、シャルルはにこやかに微笑みながら言葉を返す。

成る程……暴走しそうになる相方を諌めるのもお手の物って訳だ。

正直、シャルルは今回の大会で戦う選手の中じゃ一番厄介な相手になりそうだな。

ボーデヴィッヒ?別に怖い所は特には無えな。

アイツとはそんなに戦った訳じゃねぇが、何処かあのAICってのに頼った戦い方が目立つ。

あれの対処は俺の威圧で何とでも出来るってのが判ってるし……何より、俺はあの時よりも格段に強くなってる。

先々週の修行で身に付けた技の数々を早く使いたくて堪んねえぜ。

こんなに喧嘩が待ち遠しいなんて、生まれて初めての経験だ。

 

「そういえば、そろそろ対戦表が決まる頃だと思うけど……あっ、もうすぐだって」

 

シャルルがモニターを指さしたのでそっちに視線を向けると、確かに枠組みだけがあり、抽選中と出ていた。

本当なら前日には対戦表が出来ている筈だったんだが、急遽試合形式をペアにした事と、今までとは違う形式にシステムが対応出来なかったらしい。

だから俺達の試合ブロックは、今朝から先生達が作っていた手作りの抽選クジで決める事になった。

ちなみにペアの抽選に関しては完全にランダムで、先生達を含めてまだ誰も知らないそうだ。

 

「ゲンはペアの子すら決まってないけど……大丈夫なのか?」

 

「さぁなぁ……まっ、言うまでもねーけどコンビネーションは初めから度外視するしかねーとして……普通に、何時も通りに戦うしかねーだろ」

 

「えっと……一応僕達って敵同士なんだけど、言っちゃって良いの?っていうか一夏も遠慮無く聞くよね……」

 

「あっ……つい何時もの癖で……ゲンは普通に味方にしか考えられねぇからなぁ……」

 

「ははっ。別に構やしねーよ。奥の手とか秘策なんて一切無えし、俺は思いっ切り暴れるだけだ。喧嘩なんてのは、土壇場でゴチャゴチャ考えるだけ無駄よ。第一、俺の性に合わねえ」

 

それで負けたらそれまで。シンプルで分かり易い。

まるで考え無しの俺に呆れたのか、シャルルは苦笑いしながらモニターに視線を戻す。

そもそも作戦だの何だのってのは、俺の性分には合わねぇからな。

何時も通り、自分の持ってる力ってのを使って戦うしかねーんだよ。

そう思いながら俺もモニターに視線を送ると、ちょうど今から一回戦Aブロックの組み合わせが発表される所だった。

朝にやった抽選くじで、俺と一夏、シャルルの3人はAブロックに振り分けされてたので、負けなければ最終的に俺達の試合は確定してる。

ここでついでに俺のペアの子が誰かも判明するんだが……出来れば女尊男卑思考の馬鹿女じゃありませんように。

 

「一年の部、Aブロック一回戦一組目なんて運がいいよな」

 

「え?どうして?」

 

「そりゃアレさ。待ち時間に色々考えなくても済むだろ?こういうのは勢いが肝心だ。出たとこ勝負、思い切りの良さでロケットスタート決めりゃ調子が出る」

 

「あっ、そういう考え方もあるんだね。僕だったら一番最初に手の内を晒すことになるから、ちょっと考えがマイナスに入っていたかも」

 

「そっちもあるけど、まぁ俺は波に乗るより、自分から波を作った方がやりやすいんだよ」

 

「それに、一の字が続くのも一繋がりで縁起が良いから。だろ?」

 

「おう。それも当たってるぜ」

 

長年連れ添った兄弟の考えを言い当てながら、俺達は画面に注目する。

一夏は何に対しても自分のリズムを刻んでいくのが一番ってタイプだから、そう言うのは判ってたしな。

逆にシャルルの考えは視野が広く、戦いを長期的な目で見ているタイプだ。

どっちも正しい言い分だから、意見が割れるかと思う奴も居るだろう……でも実はそうでも無い。

今まで見て分かったが、シャルルは相手に合わせて柔軟に動く事に長けたタイプだ。

この二人のコンビなら、激しくと緩やかにを綺麗に両立出来るだろうな。

俺は別にその辺の拘りは特に無い。

その時その時の気分で暴れるタイプだからな。

そんな事を考えていたら、モニターの表示が切り替わって、対戦表が浮かび上がる。

 

「あ、対戦相手が決まったみたいだ……ね?――え?」

 

「「――」」

 

やっと浮かび上がった対戦表と、俺のペアの名前。

それを確認した瞬間、喋っていたシャルルも、黙っていた俺と一夏も、俺達は一斉に行動を停止。

え?ちょっ、おまっ――。

 

「「「――ゑ?」」」

 

役30分後に始まる戦いの組み合わせを見て、俺達が出せた言葉はそれだけだった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「失礼します!!親父!!叔父貴が来られました!!起きて下さい!!」

 

東京にある巨大歓楽街、神室町のとある場所。

その神室町のシンボルとして8年程前に建設されたビル『ミレニアムタワー』の一室に、野太い声が響く。

部屋の間取りはとても広く、神室町を見渡せる天望をモチーフにした大きいガラスが、外と中を隔絶している。

内装に関しては……『普通』の家では余り見るものが無い。

虎の敷き物に、壁に立て掛けられた『日本刀』の数々、本皮のソファーに大きな社長椅子と机。

巨大プラズマテレビにホームシアターセット等々、一目で金が掛かっているのが分かる。

大企業の社長の部屋にも見えない事も無いが……更にその部屋の異質さを際立たせる、額に納められた『金の代紋』。

三つの矢羽根が重なった中央に堂々と描かれる『真』の文字が、この部屋の主がその筋の者である事を如実に現している。

 

 

 

現、関東最強の極道組織である東城会、その屋台骨である『真島組』の事務所がここである。

 

 

 

先ほど声を挙げた男は西田といい、この男も勿論極道であるが、愛嬌のある笑顔とポケ~っとした雰囲気がどうにも憎めない男だ。

彼は朝から自分の親父……この場合は組長を指すが、その男に言われていた客人が来た事を報告にきたのである。

 

「……??……あぁ、まだ寝てんのかな?では失礼して……ウォッホォン!!!あのぉ!!!!!親父ぃい!!!!!グッドモーニン――」

 

 

 

「――やっかましぃわボケェエエエエ!!」ビュン!!

 

 

 

「グ?(ドガァア!!)ふんげぱらっしゃあああ!?」

 

しかし部屋の主から返ってきた返事は無慈悲なものであり、それは明確な硬さを持って西田に襲い掛かる。

呆ける西田の顔面に投擲されたのは、部屋の主が真島建設を立ち上げた時から使っている、所謂『男臭いヘルメット』だった。

その一撃を受けた西田は、敢え無く地面に倒れこむ。

 

「うっさいねんお前の声!!昼間っからデカイ声出しよって!!そない大声あげんでも聞こえとるわドアホ!!ここ山ン中ちゃうねんぞ!!危うくワシの耳ん中でやまびこ起きるかと思うたっちゅうねん!!そないやまびこしたいんやったらワシがお前を山まで引き摺り回したろか!?紐無しバンジーのおまけつきやでぇええ!!」

  

理不尽。正にその極みであろう会話。

しかしこういった会話も、この組に限定するなら日常茶飯事でもある。

普通なら子分達もこの傍若無人さに見限るであろうが、この組長、普通ではない。

 

「い、痛たた……で、でも親父!!親父は昼寝するから、叔父貴が来たら出来るだけ大きな声で呼べって言ってたじゃないっすか!!」

 

「それはワシが昼寝してる時の話やんけ!!ワシが起きてる時はもっと静かに声掛けろや!!もしくは綺麗なねーちゃん連れて来て声掛けさせるんが、親父に対する気遣いっちゅうもんちゃうかい!!」

 

「ヒィイイイ!?そ、そんな無茶なぁ!?」

 

無茶苦茶な事を言ってる男だが、それは子分に対して遠慮が無い事の表れであり、一つの信頼の証しでもある。

だから彼の子分達は彼を親父と仰ぎ、慕う……その親に対する強い信頼と憧れこそが、現武闘派最強と目される真島組の強みだ。

そんな風に奇妙な形であれ、子分に信頼されているこの男、風貌も凄いものである。

細身ながらも極限まで鍛えこまれたのが、割れた腹筋や胸筋から窺える、豹の様にしなやかな肉体。

その素肌の上に直接羽織った蛇柄のジャケットと黒いレザーのズボンという、普通を大きく逸脱した出で立ち。

髪はテクノカットで切り揃えられ、その顔に……いや、片目に付けられた『蛇のマークがついた眼帯』が、明らかにヤバイ雰囲気を醸し出している。

更に前が全開にされたジャケットの素肌には、チラリと『刺青』も見えているという、生粋の極道然としたスタイル。

 

 

 

――この男こそ、東城会舎弟頭兼直系真島組組長、兼真島建設社長。

 

 

 

その昔『嶋野の狂犬』と恐れられた超武闘派の極道、『真島吾郎』その人である。

 

 

 

「ったく……あー、もうええわ。それより、兄弟が来てんねやろ?はよ通しぃ」

 

「あっ。は、はい。分かりました」

 

「あぁ。おっ、それと西田、茶ぁ。後何か適当に茶菓子でも持って来いや。せんべいくらいあるやろ」

 

「は?あ、あの、親父?茶菓子なら昨日、親父が『腹減ったから何か適当に持って来い!!』って仰ったんで、昨日お出しして無くなりましたが――」

 

「ぬぁあぁああんやっとぉおおおおおおおおお!?」

 

「ヒイィイイイイイ!?ご、ごめんなさいごめんなさいすいませんでしたーーー!!」

 

おっかなビックリといった様子で茶菓子のストックが切れている事を告げると、真島は鬼もかくやといった具合で吼える。

腹から響く怒声をあげながら、ギラついた隻眼で睨み付けられ、西田は又も悲鳴をあげた。

しかし今度は西田の予想とは違って暴力が振るわれる事も無く、真島は「しまった」という表情を浮かべる。

 

「せやったぁ……ッ!!昨日あんまりにも腹減っとったから、茶菓子全部食うてしもたんやったわ……しゃあない。おい西田ぁ!!」

 

「は、はい!?」

 

突如として名前を呼ばれた西田はシュバッと立ち上がって、真島へ起立の姿勢をみせる。

そんな西田に対して、真島は机の引き出しから財布をとりだして、中から1万円札を西田に向かって放り投げた。

 

「今からひとっぱしりして、ちょっと茶受け()うてこいや!!釣りは駄賃代わりにやるで、はよ行ってきぃ!!」

 

「は、はい!!……あの、親父?茶受けは何時もの親父の大好物、唐辛子煎餅で良いですよね?」

 

「 ア ホ か ! ? 」

 

「(ボゴッ!!)べぶ!?なんでっすか!?」

 

普通に質問しただけなのに、アホ呼ばわりと拳のオマケ。

これにはさすがの西田も涙目になってしまっていた。

しかしそんな事は知った事かと言わんばかりに、真島は言葉を続ける。

 

「飽きたわ!!昨日煎餅食ったばっかりやっちゅうねん!!その前も煎餅やし普通に飽きたわ!!ワシは今日は何か甘いモンの気分やから、専門店の高~いシュークリームとかにすんのが当たり前やろ!!」

 

「ええ!?そ、そんな女子力溢れるモン買ってこいっていうんすか!?俺このナリっすよ!?あんな女だらけの空間行ったら恥ずかしくて死にますって!!」

 

余談ではあるが昨今のデザート店というのは、女尊男卑の影響から男子には近づき難い聖域と化しつつある。

勿論カップルの場合は気兼ね無く入れるが、男一人というのは抵抗があるどころの話じゃない。

そんな所に紫のシャツに金のネックレスを付けた強面の男が「シュークリーム下さい」等とのたまえばどうなるか。

色んな意味で大惨事は免れないだろう。

 

「じゃかぁしぃわ!!子分やったら親分の為に命張るもんやろがい!!ゴチャゴチャ言うとらんと行ってこいやぁああああああ!!」

 

「ヒイィイイイイイ!?い、行ってきますぅうううううう!!!」

 

「っておいコラァ!!ドアぐらい閉めてかんかボケェ!!」

 

しかし極道に共通する掟の一つで、親の言葉は絶対。黒いカラスも白くなるというものがある。

ここ真島組でもその掟は変わり無いので、西田は涙を流しながらシュークリームを買いに奔走した。

西田が走って出て行った事で開けられたままになっている扉を、真島は面倒くさそうに睨みながら、後でその事について制裁をしようと考え――。

 

「――相変わらずやのぉ、『兄弟』……もうちょい西田に優しくしたっても、バチは当たらんのとちゃうか?」

 

その開け放たれた扉から苦笑いしながら入ってきた姿に、真島は先程とは打って変わって笑みを零す。

どうやら客人については西田が部屋の前までは案内してきたらしい。

 

「おう『兄弟』!!やっと北海道から戻って来たんかいな!!四ヶ月の出張やなんて、ホンマ長かったのう!!それと、ワシの教育方針は厳しぃ~くやから、あれぐらいがちょーどええねん!!」

 

部屋に無遠慮に入ってきた大男に、真島は言葉を掛けながら、応接用のソファに腰掛ける。

兄弟と呼ばれた大男も勝手知ったるといった具合であり、真島とは真向かいのソファに座った。

袖無しのオレンジ色のシャツにカーゴパンツという、何処か狩猟者を思わせる服装を覆う、真島とは逆のはちきれそうな野性味溢れる身体。

身長から肩幅、そして膨張した筋肉……全てのレベルが、他を大きく引き離している。

あの元次ですら、この男の前では小さく見えてしまう程の巨漢ぶりだ。

顔には深い皺が刻み込まれ、その男の歳を感じされるが、身体も、そして眼光の鋭さも昔より遥かに増している。

彼こそはこの世界に入った時、真島の唯一無二の兄弟として五分盃を交わした猛者であり――。

 

「まったく……まぁ、出張が長引いたんは、ちっとばかし間違(まちご)うて反対の方に行ってもうたからな。その分余計に時間掛かったんや」

 

今年の冬に山で遭難し、ヤマオロシに捕食されそうになっていた所を元次に救われた、あの『冴島大河』だ。

彼は北海道での用事をようやく終えて、先日戻ってきたばかりであった。

元次や元次の家族には、自分が極道であるとしか伝えていなかったが、その正体の事を知っていれば隠そうとするのも仕方無いであろう。

冴島も兄弟の真島と同じで武闘派に属する人間であり、東城会では真島組と並ぶもう一本の屋台骨と言われているのだから。

 

 

 

東城会『若頭』兼、直系冴島組組長、それが元次の助けた男、冴島大河の正体である。

 

 

 

「ヒヒ。まさか北海道行きの夜行列車に乗る筈が、お前を妬む組の妨害で近畿行きの貨物便に乗せられてまって、財布も列車から落として無くなるやなんて、最初聞いた時はえらい爆笑したで。腹捩れるかと思ったわ……まぁ、思い出話は後にして、とりあえず見よか?」

 

「おう。頼むわ」

 

冴島の言葉に怪訝な表情を浮かべた真島だが、兎に角今日冴島が訪ねてきた要件の方を先に回した。

何せもう放送時間は過ぎていて、もうすぐ『始まる』からだ。

真島はソファの向こうに位置するプラズマテレビの電源を入れて、チャンネルを回す。

そして目当てのチャンネルに調整すると、リモコンをテーブルに放り投げて、つまらなそうな表情を浮かべた。

 

「しっかし、いきなりワシに頼みたい事があるゆうから何やろ思うとったら、まさかテレビ見させてくれとは、ホンマ……組長なんやからバシッと良えテレビぐらい一括で()うたらええやんけ」

 

「しゃあないやろが。まさか仕事がこない遅なるなんて思ってもみんかったし、帰ったらテレビがぶっ壊れとったんやからな。今から買ってセットすんのも時間かかる()うし、そんならついでに兄弟の顔でも拝んだろ思って来たんや」

 

「ほー。そら災難やったのぉ……ほんで?……何で急にこないな番組見よ思たんや?」

 

冴島の言い分も右から左と言った感じに聞き流しながら、真島は探る様な視線で冴島を見た。

だが、それも仕方の無い事だろう。

今真島が回したテレビの放送内容は、二人からしたらかなり掛け離れた話題だからだ。

 

「『IS学園の学年別トーナメントの中継』やなんて……ホンマモンの命の遣り取りすら知らんお嬢ちゃん達が、あのISとかゆーんでお遊戯するだけやないか。こんなおもろ無い番組見てどうするっちゅーねん……それともまさか、そっちに目覚めたんか!?」

 

「……??……何の話や?」

 

急に真島が一人で納得しながらも驚愕の表情で自分を見てきた事に、冴島は首を傾げる。

しかしそんな冴島の様子を、真島はニヤついた笑みで見ているだけだった。

 

「とぼけんでもええがな!!ワシも良えと思うでぇ!!まだちょーっと青すぎる気ぃもするけど、やっぱ若いオネーチャンってのは見とるだけで目の保養になるでなぁ!!」

 

「ぶっ!?ア、アホ言うなや!?そっちの意味で見よう思たんちゃうわ!!大体、俺等からしたら娘ぐらいの年齢やぞ!?遥ちゃんと同い年で靖子より年下って時点でアウトやないか!!」

 

「照ぇれんでもええやんけ!!大体IS学園の番組見るのに、他にどんな理由があるんや!!ワシら男はISを動かせんのやから、おなごしかおらんやないか!!」

 

「何言うとんねん!!今年から男子が二人入ったやろが!!俺が見たかったんはそっちや!!」

 

少しばかりヒートアップしながら話していた二人だが、冴島が見る理由としてあげた言葉に、真島はキョトンとした顔を浮かべる。

そういえば、今年の初めに二人見つかったな、と少し朧げな記憶を引っ張り出しながら、真島は少し乗り出し気味だった身体をソファに降ろす。

だが、それだけでは態々足を運んでまで見ようという理由にはならない筈だと、真島はテレビに視線を向ける冴島に再び質問した。

 

「で?何でいきなりそんな事に感心持ったんや?その二人かて、偶々ISを動かせる様になったちゅうだけの坊主達やろ?それともまさか、お前の知り合いやっちゅうんか?」

 

「……あぁ。一人はな」

 

「なんやそうやったん…………はぁ!?」

 

ありえない事とは思いつつも質問すれば、冴島から返ってきたのはまさかの肯定である。

少し、いやかなり気を抜いていた真島はすっとんきょうな声をあげながら驚き、咥えていた火の点いていないタバコを床に落としてしまう。

何しろこの冴島という男は、とある事情から無実の罪で25年間も刑務所の中で暮らすという驚きの人生を送っているのである。

ほぼつい最近にムショから出て、やっと外の世界で自由になった冴島に、15,6歳の知り合いが居るなどありえない、と真島は驚きと疑問に囚われた。

その真島の驚き様を見た冴島は自分のタバコに火を点けながら、思い出した様に口を開く。

 

「お前にも、電話で少ししか話とらんかったな……兵庫に行かされて、何処か知らん駅で何とか貨物車から降りた後、俺は地理勘も無いのに無闇に動いてしもて、山で遭難したんや」

 

「……それは聞いとる。んでその後、体長6メートルはある巨大熊に襲われて喰われそうになった所を助けられたっちゅう……お、おいまさか?」

 

真島が少し前に電話で聞いていた話を思い返しながら口にしていくと、所々欠けていたパズルのピースが組み上がっていく。

欠けていたのは冴島がどうやって助けられたか?誰に助けられたか、の二つ。

その答えが真島の予想通りなら、これはある意味でとんでもない事である。

 

「そや。見ず知らずの死に掛けとった俺を、たった一人でデカイ熊と素手で殴り()うて、傷だらけになりながら命懸けで助けてくれたんが、まだ中学を卒業したばっかのゲンちゃん……二人目の男性IS操縦者、鍋島元次やったんや」

 

そして、その予想はドンピシャで当たった。

真島は兄弟の口から語られた事実に、大層な驚きを示す。

信じ難い話ではあるが、真島は自分の兄弟の冴島がこんな事でくだらない嘘を吐く男では無い事を知っている。

それはつまり、まだ成人してすらいない上に自分達の年齢から考えれば息子と言い換えてもおかしくない年齢の男が、桁外れの力を持っているという事。

自分達程では無いにしても、体長6メートル等という規格外の熊を単身で追い払ったのだから間違い無いだろう。

そんな強い、戦いがいのありそうな男がこの女尊男卑の時代でまだ生き残っていた事に、真島は口元をニイィと裂けんばかりに吊り上げる。

かつて地下闘技場で『隻眼の魔王』と呼ばれた男は、幸か不幸か元次に対して強い興味を持ってしまったのだ。

 

「……強いんか?」

 

「強いで」

 

自分のシンプルな問い掛けに対するシンプルな答え。

信頼する、自分と同じく猛者である兄弟から出た明確にして信頼の篭った答えは、真島の闘争心を大きく揺るがせる。

自分の信頼する兄弟から認められる実力……それが戦いに生き甲斐を見出す真島には堪らなく興味を持つ内容だった。

兄弟ほどの猛者が認める実力の男と、心行くまで戦ってみたいという、闘争への欲求だ。

 

「最初、ゲンちゃんに何か恩返しでも出来へんもんやろかと考えとったら、ゲンちゃんから喧嘩の修行付けてくれって頼まれてな」

 

そこまで話してから冴島はタバコを吹かし、灰を灰皿に落とす。

顔を上げた冴島の表情は、懐かしさと楽しかったという思いが入り混じった笑顔だ。

 

「二日で俺と力比べして耐え切れる様になって、しかも戦えば戦うだけ強ぉなっていきよる……お前んとこの南ぐらいやったら、間違い無く瞬殺出来る筈や」

 

「ほぉ……一応、お前と喧嘩した時よりも強くなってるんやけどな」

 

「それも含めて言うとる。実際別れる直前にやった喧嘩で、俺もなんぼか手傷負わされたしな」

 

冴島と真島が言外に指した人物は南大作といい、武闘派で知られる真島組の若衆(組の親分と直接親子盃を交わした者)の一人である。

彼もそこいらのチンピラと比べればかなりの強者ではあるが、真島や冴島からみればそこまででも無い。

実際、この二人の戦闘力は他とは違って群を抜いているのである。

圧倒的な覇気を漂わせ、その豪腕で全てを叩き潰す冴島の伝説は、神室町の語り草となっていた。

にも関わらず、未だに冴島や真島へ喧嘩を売る輩が絶えない原因は、数を揃えれば勝てるとか、自分は最強等と自惚れた連中が後を絶たないからである。

そういった輩は悉く、己自身の愚かさをその身で知ってきた訳だが。

 

「せやけど、IS学園なんて女しかおらん様なとこやで?そないなとこで女に囲まれて生活しとったら、腑抜けとんのとちゃうか?」

 

元次の人となりを知らない真島はそう言うが、それに大して冴島はフッと笑うだけだ。

 

「それを知る為に、それと元気でやっとるかを知りたいから、こうしてお前に頼んで見にきとるわけや……今はまだやらなあかん事がようさんあってお礼の挨拶に行かれへんけど、テレビからでも応援は出来る……たとえ伝わらんでも、俺はゲンちゃんを応援したいっちゅうだけやねん」

 

ここへきて真島は、漸く兄弟がこの番組を見たいと言った訳を察した。

何の事は無い、ただ自分が世話になった恩人の今を知りたいからというだけなのだと。

恩人に対しては何処までも愚直な恩義を感じ、その人の事を気に掛ける冴島に、真島は呆れ半分とそれでこそという気持ちを織り交ぜた笑みを浮かべる。

そして、さっきまでは全く期待していなかったテレビの内容が、今の真島にはワクワクする気持ちを与えている。

二人目の男性IS操縦者が表れたと聞いても毛程も興味を持たなかった過去の自分を恨む程に。

こういうワクワクする時のお供は茶では無く、もっと強い飲み物が飲みたくなるものだ。

真島は自分の気持ちに従って、酒瓶の飾られた棚からお気に入りの日本酒と二つの杯を取り出す。

 

「なんや、ワシまで歳甲斐も無くテレビでテンション上がってきたわぁ!!気分も良えし、飲みながら見ようやないか!!ほれ兄弟!!」

 

「良えけどお前、仕事は大丈夫なんか?大体、あて(つまみ)もあらへんやろ」

 

「固い事言うなや!!仕事は休みなんやし、それにつまみやったら今西田が買いに行っとるから問題あらへんがな――」

 

「(ガチャッ)はぁ、はぁ、お、親父!!ご所望の『シュークリーム』!!買ってきました!!俺、親父の為にやり遂げましたよ!!(キラキラ)」

 

「このドアホォオオオオオオウッ!!!(シュークリームの極み)」

 

「(ブシャァアアアアア!!)ぎゃぁああああああ!?シュ、シュークリームが鼻と目にぃいいいい!?」

 

余りにも良い(悪い)タイミングで帰って来た西田に、真島は掲げられた箱を蹴りあげて、西田の顔面へと叩きこんだ。

その勢いで中のシュークリームが飛び出し、西田の顔面と目、鼻の中を容赦無く蹂躪する。

これぞ、使うことすら躊躇われる程の極悪ヒートアクション、『シュークリームの極み』(シュークリームのクリームを使ったスイートな目潰し)である。

しかし手加減という言葉を理解の外に置いている真島からすれば、この手の技は使いたい放題だ。

理不尽ではあるが、口当たりの辛い日本酒に、甘いつまみはとてもじゃないが合わない。

折角の飲みたいという気分に差し掛かっていた所をブチ壊された真島が切れるのも無理は無いだろう。

ましてや、むさ苦しい男が無駄に良い汗を掻きながら「褒めて褒めて」というオーラを出しているのだから、苛つきが二乗だ。

恐らく一夏がやったとして、元次も同じ様に発動するであろう。

 

「何でシュークリームやねん!!酒のつまみになれへんやないか!!も一回行って唐辛子煎餅買うてこいやぁあああ!!さもないともいっぺんシュークリームブシャーッ!!ってすんでぇえええ!?」

 

「そ、そんなぁあああああ!!?買って来いって言ってたのに、そりゃ無いっすよぉ!?っていうかもうシュークリームブシャーッ!!は勘弁して下さい親父ぃいいい!?」

 

「せやったら早よ買いにいってこんかいぃいいいい!!」

 

ムカ着火ファイヤー状態の荒ぶる真島に、シュークリームで目と鼻をやられた西田が足蹴にされているのを見ながら、冴島はそっと溜息を吐いて、テレビへと視線を向ける。

丁度その時、テレビにはこれから行われる試合の対戦表が出てきていた。

 

 

 

一回戦Aブロック、第一試合。

 

 

 

織斑一夏、シャルル・デュノア。

 

      VS

 

鍋島元次、ラウラ・ボーデヴィッヒ。

 

 

 

――と。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「……チッ」

 

「……チッ」

 

のっけから舌打ちしててすんません。わたくし鍋島元次です。

俺は試合10分前という事で、アリーナに出るカタパルトの入り口前で待機していた。

……『ペア』の『ラウラ・ボーデヴィッヒ』と肩を並べて。

 

「……貴様、人の真似をするな。日本人は猿真似しか脳が無いのか?」

 

「あぁ゛?テメェこそ俺の真似して舌打ちしくさってんじゃねぇよコラ。それにすら気付かねぇなんて、芋食ってばっかで栄養足りてねぇんじゃねえのか?」

 

「「……」」

 

「「ブチ殺されてぇかゴラァ!?(殺されたいのか貴様ぁ!!)」」

 

ツラをカチ合わせれば、俺達は互いに相手を潰さんばかりの気迫で相手を睨みつける。

そんな俺達の傍には誰一人として近寄って来ない。

皆俺達二人から離れた位置でガクガクブルブルと震えていた。

俺はちゃんと抑えてるが、ボーデヴィッヒに合わせて同じぐらいの殺気を出している。

コイツも俺から見たら雑魚とはいえ、普通の女子には耐え難い程度の殺気は出せるらしいな。

 

「…………チッ。何故貴様とペアを組まなければならない。これでは私の目的が果たせんではないか」

 

「ンな事知った事かボケ。文句があんならこの素敵な組み合わせを決めて下さった、最先端のハイテクシステムに言いやがれ。それか異議を却下した千冬さんにな」

 

忌々しいといった表情で俺を睨むボーデヴィッヒから視線を外して、俺は虚空に視線を向けて溜息を吐く。

あの対戦表が決まった後、俺は呆ける兄弟とシャルルを放置して職員室に駆け込んだ。

職員室に入ると、これまた疲れた表情の千冬さんと、オロオロと慌てる真耶ちゃんが居た訳です。

理由は俺と同じで、ボーデヴィッヒの組み合わせの件についてだ。

さすがにこんな組み合わせをシステムが選ぶなんて思ってもいなかったらしく、3人揃って肩を落としたよ。

そんな状況の俺達の元に、俺と同じく組み合わせに不満があったボーデヴィッヒが乱入。

俺とのペア解消を、千冬さんに強く進言し始めた。

やれ邪魔だとか足手纏いだとか言われて腹も立ったが、俺とてコイツとのコンビを解消したいのは同じなので、黙って聞いていた。

しかしその我慢も空しく、千冬さんは今更決定された事を変更する事は出来ないと、俺達のペアはそのままでいくと無慈悲な決定を下しなすった。

それにすら反論しようとしたボーデヴィッヒを、千冬さんは威圧でもって黙らせてたけどな。

 

「くそっ……ッ!!このトーナメントで貴様と織斑一夏を叩きのめす事が、私の目的だったというのに……ッ!!……まぁ良い。織斑一夏は、この後直ぐに倒せるのだからな」

 

憎悪と怒りを含んだ表情で俺を見ていたボーデヴィッヒだが、それは直ぐに歓喜の表情へと変わる。

コイツが嬉しそうな理由は、俺達の一回戦の相手が一夏とシャルルだからだ。

何時何処で当たるか判らないトーナメントの中で、初戦から戦えて、しかもコイツの頭の中では楽に勝てると考えてるからなんだろう。

一夏の実力は自分からしたら取るに足らないモノでしか無いと思ってる訳だ。

 

「あー無理無理。テメェ程度じゃ俺どころか、兄弟すら倒せねえよ」

 

「ハッ。虚言だな。あの程度の男が、私に勝てるものか……貴様は試合が始まったら、口出しも手出しもするな。私が一人でやる」

 

あ?正気かコイツ?

 

「一夏だけじゃなくてシャルルも居るのにか?お前一人でどうにか出来るとでも?」

 

「フランスの第二世代(アンティーク)如きなぞ、戦力に数える必要すら無い。私だけで充分事足りる程度だ。何より貴様と共に戦う等、虫唾が奔る」

 

「……そうかよ……良いぜ。だったらテメエが負けるのが確定するまで、俺は手を出さないでいてやる」

 

「それこそありえん話だ。貴様は隅にでも寄って、邪魔にならない場所に居ろ……そしてこのトーナメントが終わった後で、貴様も倒す」

 

「へいへい。そんなに長い休憩にゃならねえけどな」

 

自信満々に……俺からしたら痛すぎる部類だが、自分の力を信じて疑わないボーデヴィッヒに適当に返事を返しながら、俺達はピットに入っていく。

コイツには何を言っても無駄だろう……自分の力が一年の中で一番飛び抜けてると自惚れてる間はな。

千冬さんの強さだけを妄信的に崇拝しているコイツには、『力以外』に大事なモノがある事が判らないんだろう。

それが判らない限り、永遠に千冬さんの真の姿は理解出来ねぇ。

だが、まぁ……兄弟に負けりゃ、その曇りも少しはマシになる筈だと思う。

となると、だ。ここは兄弟にしっかりと踏ん張ってもらはねぇといけねえって事になる。

カタパルトの上でオプティマスを展開し、もう後五分と迫った試合時間を待つ。

さぁ、兄弟……目の曇りきった馬鹿ガキの目をしっかりと覚ましてやれ……今回は喧嘩の相手を譲ってやるからよ。

オプティマスを展開したまま自然体で立ちながら、俺は時間が過ぎるのを待っていた。

 

「…………おい」

 

「あ?」

 

「……一つ、聞かせろ……貴様は何故、織斑一夏を『兄弟』と呼ぶ?」

 

「……はぁ?」

 

と、俺が適当にしながら試合時間を待っていたら、驚く事にボーデヴィッヒの方から俺に質問してきた。

まぁ質問の仕方は相変わらずの上から目線だがな。

……しかし何だってコイツはそんな質問をしてくんだ?

今までと違いすぎる行動に考えを巡らせていると、奴は勝手に独白を続ける。

 

「貴様は織斑一夏とも、教官とも血は全く繋がっていない赤の他人だろう。そんな男が何故、赤の他人である織斑一夏を兄弟と呼ぶ?」

 

「……奴とは、ガキの頃から一緒に育ってきた……一緒に居る時間も密度も、只の友人だとか、ましてや赤の他人なんて呼べる間柄じゃねぇ」

 

何故かは分からないが、この時、俺はコイツの質問に答えることにした。

本音ちゃんや俺のダチの鈴、セシリアに手ぇ出したコイツの質問に律儀に答える義理なんて無いのに。

……でも、コイツの目が、『純粋な疑問』として語っていたからかも知れねえ。

俺の隣のカタパルトでISを展開していたボーデヴィッヒは、俺の答えに対してまたも純粋な疑問の光を目に宿す。

 

「たった『それだけ』の事でか?下らん……兄弟とは同じDNA情報を持つ個体を指す。血の繋がらない貴様等では、兄弟等という関係が成立する筈も無い」

 

……あぁ、そういう事か。

 

「……テメェは何にも分かっちゃいねえ」

 

「何?」

 

こいつには、精神論ってヤツが理解出来ねえんだな。

吐き捨てる様に言ったのが感に触ったのか、奴は目尻を少し吊り上げて俺を睨む。

一方で俺はそんな怒りの感情を向けられてすら、何にも感じなかった。

ただ、『血』っていう『血統』だけに囚われているコイツに対して、少しの哀れみを感じた程度だ。

 

「同じ時間を生きて、一緒に馬鹿やって、同じ釜の飯食って……嫌な事も、楽しい事も、悲しい事も……嬉しい事も分かち合って生きる……そうやって過ごす事でしか、生まれ無えモンがある」

 

「……時間を分かち合う、だと?……そんな事で何かが生まれる?……理解に苦しむな」

 

「……テメエに言っても仕方ねえ事だろうがな……良いか。良く覚えとけ、ボーデヴィッヒ……重要なのは『血』じゃねえ」

 

『まもなく、第一試合が始まります。選手はカタパルトから発進して下さい』

 

ボーデヴィッヒに対して語っていた所でアナウンスが入り、俺はカタパルトにオプティマスを固定する。

それを見て話の途中だった事が気にかかったボーデヴィッヒが「おい」と声を上げているのに対して、俺は振り返らず――。

 

 

 

「俺と一夏は――『絆』で繋がってんだ」

 

 

 

答えだけを口にして、ボーデヴィッヒより先にアリーナへと飛び立った。

 

『『『『『ワァアアアアアアアアッ!!!』』』』』

 

俺がアリーナに飛び出して地面に高度を落としていく間に、観客席から大きな歓声が鳴り響く。

その勢いたるや、前回のクラス対抗戦やクラス代表決定戦の比じゃねえ。

今回は全学年合同の一大イベントだから、見に来ている観客もほぼ全学年だ。

そんな歓声を肌で感じつつ地面に降り立つと、ボーデヴィッヒは周りの歓声を鬱陶しそうな表情で睨み――。

 

「元次……」

 

「……」

 

「よぉ……何ともまぁ、アレな組み合わせになっちまったな」

 

俺達より少し遅れて現れた一夏とシャルルを見て、意識をそっちにのみ切り替える。

だが、当の一夏とシャルルは難しい顔をして俺を見ていた。

シャルルが複雑そうな声音を紡ぐのに対し、一夏は何も言わない。

俺はそんな二人に苦笑いするしかなかった……でも、仕方無え。

 

「まぁ、決まっちまったモンはしょうがねえわな……それに、俺は最初は手を出さねえからよ」

 

「ッ!?……どういう事だよ、ゲン」

 

俺の言葉に対して一夏が返したリアクションは、困惑が含まれている。

 

「コイツが負けんの確定するまで、俺はこの喧嘩に参加しねぇって約束なんだよ」

 

「「ッ!?」」

 

「……フン」

 

一夏の問いに肩を竦めつつ、後ろに居るボーデヴィッヒを親指でクイッと指差すと、二人は驚きに目を見開いた。

逆にボーデヴィッヒは忌々しいって感じに短く溜息を吐くだけだ。

既に俺達の会話はオープンチャネルに繋がっていたので、観客席からも俺の言葉に動揺の声があがる。

まぁ、タッグ戦で片方が負けるまで手出ししねえってのも、おかしな話だもんな。

 

「……ハンデのつもりか、兄弟?」

 

俺の言葉が気に入らなかったのか、一夏は雪片を握る手に力を込めて、鋭く俺を睨む。

やれやれ……勝手にハンデと取られても困るんだがな。

ちょっとズレた一夏の言葉に声を返そうとしたが、それより先にボーデヴィッヒが俺の前に出た。

 

「私が好き好んでコイツと戦線を張ると思うか?元より私は単体で戦う事を好む……貴様等の相手は、最初から私一人だ」

 

ボーデヴィッヒは俺に目もくれずにそんな事を言うと、一夏の視線はボーデヴィッヒへと移った。

 

「……ゲン抜きで勝てるって思ってんのか?こっちは二人だぜ?」

 

「ちょっと僕達の事を舐め過ぎじゃないかな、ボーデヴィッヒさん?」

 

「吠えるなよ、ルーキーにアンティーク如きが。貴様等が二人だろうと、私の勝利に変わりは無い……あのイギリスと中国の代表候補生と同じ様に、スクラップにして終わりだ」

 

正に売り言葉に買い言葉状態の3人を尻目に、俺は首を回して凝りを解す。

しっかしまぁ、ボーデヴィッヒの奴は本当に分かっちゃいねえんだな……1+1は、決して2じゃねぇぜ?

特に、俺等みてーな……人間っていう、『心』で力が変動する生き物はな。

忠告しても無駄なのは分かりきってるので、俺は何も言わずに3人から背を向け――。

 

 

 

「――『そうかよ』」

 

 

 

「……へぇ」

 

背後から感じ取った中々に強烈な威圧を感じ取り、振り返った。

 

「なっ!?」

 

「ッ!?……い、一夏?」

 

振り返った俺の耳に、驚愕するボーデヴィッヒの声と、困惑するシャルルの声が届く。

俺の視界の先には、雪片を正眼に構えた状態で、目から見る者を萎縮させる威圧を見せる一夏の姿があった。

千冬さんや俺にとっちゃ特に気にする程でも無えが、シャルルやボーデヴィッヒでも驚くぐらいの威圧だ。

そこいらのチンピラなら、この眼力だけで竦み上がるだろう。

 

「『精々見下してろよ、ラウラ……でも、あんまり舐めて掛かると……火傷じゃ済まねえぜ?』」

 

「ッ!?生意気な……ッ!!」

 

格上である筈のボーデヴィッヒは一夏の威圧に当てられたのが悔しいのか、歯軋りしながら一夏を睨み返す。

シャルルは一夏の変わり様に驚いてはいたが、直ぐに気を取り直して軽く半身の体勢で構える。

何時の間にか始まっていたカウントダウンは、残り15秒といったところだ。

 

「まっ、精々頑張れや、ボーデヴィッヒ……テメェが雑魚って言ってた兄弟に、足元掬われねぇようにな」

 

「……いらん世話だ!!」

 

「本当にボーデヴィッヒさんとは一緒に戦わないつもりなのかな、元次?」

 

ヤル気に満ち溢れた兄弟の様子を心底楽しいって思いながら、俺はアリーナの端へと移動する。

だが、そんな俺の行動に、シャルルが怪しむ様な声を掛けてくるではないか。

まぁ、俺の考えの先に何があるのかって考えてるんだろうな。

シャルルは俺の知ってる奴等の中でも、かなりの策士タイプだ。

多分少しでも俺の行動の先にある筈の利益が何なのか見抜こうとしてるんだろう。

つってもまぁ、本当にこの行動自体に何かがあるって訳じゃねぇんだけどなぁ……精々、一時とはいえコンビを組んだボーデヴィッヒに、兄弟が大事なモンを気付かせてくれればなって所か。

だがそんな事を言ったって分かるかは怪しいし、このままじゃシャルルは俺を攻撃してきかねない。

とすれば、だ……少しばかり忠告しといてやんねぇとな。

 

「まっ、俺もさすがにダチをボコした奴と並んでやるなんざ嫌ってぐれえだが……そうだなぁ」

 

シャルルの言葉に答えながらも、俺は歩みを止めずに居たが、途中言葉を切り、肩越しにシャルルへと視線を向ける。

ボーデヴィッヒと戦った時と同じぐらいの威圧を纏いながら、だけどな。

 

「もし、俺に攻撃が飛んできそうなモンなら……約束を破って……ちっと『暴れちまうかも』……なぁ?」

 

「……そう……良く分かったよ……一夏、今はボーデヴィッヒさんに集中しよう」

 

「癪な話だけど、それしか無えか」

 

俺が威圧を纏いながらそう答えると、シャルルは目を細めつつ、ボーデヴィッヒへと視線を向けた。

一夏もシャルルの言葉に同意して、視線を俺からボーデヴィッヒへと向け直す。

俺は全体を見渡せる様な位置に移動して、カウントダウンに目を向ける。

 

 

 

――間もなく、試合開始だ。

 

 

 

「――貴様を叩きのめして、私は貴様を否定する……その後はあの男だ」

 

残りカウント、2。

 

「生憎、こっちは否定されるつもりも無えし……兄弟との喧嘩を譲るつもりも無え」

 

1――。

 

 

 

プアーーーーーーーーーーーンッ!!!

 

 

 

「「叩きのめす!!!」」

 

 

 

そして、試合は始まった。

 

「おぉおおおおおおおおおおおお!!」

 

試合開始のブザーが鳴った瞬間、一夏は普通の加速を超えた速度で、ボーデヴィッヒへと肉薄する。

しかも雪片は通常の実体剣のままで飛び掛る所を見ると、多分エネルギーの温存が目的だ。

その分エネルギーをスラスターに回せるし、あの速度はそのお陰で出るんだろう。

元より速度特化の白式は燃費がピーキーな分、出力の割り振りをスラスターに寄せた時の加速速度は、他のISの群を抜いて速い。

ハイパーセンサーで捉えても、普通なら斬られて終わりってオチだ。

 

 

 

……だが――。

 

 

 

「――フンッ!!(ギュゥン!!)」

 

ピタッ!!

 

それは相手が代表候補生じゃ無ければの話だ。

文字通り、正に瞬時にボーデヴィッヒへと突貫した一夏だが、それは敢え無く止められてしまう。

ボーデヴィッヒの操るIS、シュヴァルツェア・レーゲンの中でトップクラスの兵器、AICによって。

 

「……開幕直後の先制攻撃……近接武器しか無い貴様なら、必ずそうするだろうな」

 

「そりゃどうも……以心伝心で何よりだ」

 

一夏の特攻を止めたボーデヴィッヒはニヤリと笑いながら挑発するが、一夏も同じ様にニヤリと笑って言葉を返す。

AICで動きを封じられて、後手に……いや、軽く詰みの状態になってるのにだ。

それが周りにはどう捉えられているだろうか?諦め?虚勢?

恐らくは一夏を知らない奴等なら、間違い無くマイナス方向に取るだろう。

それは一夏を拘束しているボーデヴィッヒも同じ様だ。

 

「では、私がどうするかも、貴様には分かるだろう?」

 

その言葉と共に奴は、俺にやった時と同じく、アンロックユニットの大型実弾砲を構える。

しっかりと顔面を狙った状態で……あの距離なら外す事は無えだろう。

 

「じゃあ、僕がどうするかも判ってるのかな?」

 

「ッ!?」

 

――誰の邪魔も入らなければ、の話だがな。

 

ドゥン!!ドゥン!!

 

「(バギィン!!)く!?」

 

一夏とボーデヴィッヒから少し遅れて参戦したシャルルは、一夏の背後から飛び出して、ボーデヴィッヒにレッドバレッドの銃弾をブチ込む。

目の前の憎き仇敵に集中し過ぎたからか、はたまたAICの作動に集中していたからか、ボーデヴィッヒは一発だけモロにその攻撃を喰らってしまう。

斜め位置から撃ち出されたレッドバレッドの銃弾はシュヴァルツェア・レーゲンの実弾砲に命中し、砲身の軌道をズラして狙いを変えさせる。

その所為で、目の前の一夏を狙った筈の砲弾は、明後日の向きへ飛翔していった。

 

「くそ!!(バシュウゥ!!)」

 

「おっと!!AICもだけど、そのワイヤーも厄介だね!!」

 

砲撃を外されたボーデヴィッヒはワイヤーブレードを展開してシャルルを牽制しつつ後退していく。

直ぐに自分の不利を悟って体勢を立て直そうとするのは立派だが……。

 

「それで離れたつもりかよ!!(ドォオオオ!!)」

 

今度はAICから解放された一夏が、ワイヤーでシャルルを牽制しているボーデヴィッヒへと肉薄する。

しかも今度は瞬時加速を使って大胆に距離を詰めるんだから、幾ら予想出来ても、ワイヤーを使ってる上にあの距離じゃAICは厳しいだろ。

だが、真っ直ぐに自分へと向かってくる一夏を見たボーデヴィッヒは、悔しそうに口元を歪めながらも、即座に対応した。

 

「舐めるな!!(ズバァ!!)」

 

「ッ!?うおぉ!!(ギィン!!)」

 

「貴様等如き、私一人で充分だと言った筈だ!!(ガキィ!!)」

 

驚いた事に、ボーデヴィッヒは両手からエネルギーブレードを展開して一夏と切り結びながら、ワイヤーでシャルルを牽制していやがる。

ニ刀対一刀の攻防を繰り返しながら、別の相手を二本のワイヤーで牽制するとは……やるじゃねぇか。

他とは飛び抜けた技量を惜しげなく披露するボーデヴィッヒに、俺は素直に感心した。

さすがに大口叩くだけの事はあるな。

本来、ああやって別々の武器を同時に扱うには、平行して別の事を考えなきゃいけねえと、授業で習った。

これをマルチタスクと言うらしいが、これは習得するのに相当な訓練と才能がいるらしい。

国家代表ともなればゴロゴロと使える奴はいるが、代表候補生ではホンの一握りといった感じだ。

その粒揃いの中の一人がボーデヴィッヒ……確かに強い。

正直、俺にはあんな芸当は出来ねえ。

そんな相手に対して、兄弟はどう戦うんだろうか?

 

「はぁ!!」

 

「ッ!?ここだぁ!!(ギャリィン!!)」

 

「何!?」

 

「おぉ……やるじゃねぇか」

 

兄弟がどんな戦いを見せてくれるのかとワクワクしていた矢先に目の前で起こった出来事を見て、俺はニヤリと笑ってしまう。

両腕のブレードを巧みに操って連撃を繰り出していたボーデヴィッヒだが、防御に徹した一夏を見て好機だと思ったらしい。

その防御を崩そうと、今までより強めに繰り出された剣戟を、一夏は見事に捉えた。

いや、多分待っていたんだろうな、ボーデヴィッヒが状況を動かす為に強い一撃を繰り出すのを。

小振りな斬撃と違って、力んだ斬撃ってのはどうしても振りが大きくなる。

当たりゃデカイが、外れりゃ多大な隙を生み出してしまう。

一夏はその大振りな一撃を防御するんじゃなくて、下へと受け流したのだ。

防御のために斜めへ構えていた雪片をの刃面を滑らせて、腕を下へ下ろせば、そのままボーデヴィッヒの身体は流れに逆らわず、前のめりに流れる。

 

「おっらぁ!!」

 

「(バゴォオ!!)が!?」

 

一夏は体勢を崩して前のめりになったボーデヴィッヒの顎を、雪片の柄で上にかち上げ、奴に多大な隙を生み出させた。

……俺が本音ちゃんと神室町に行った時に買って渡したIF演戯の本……『龍が如く維新』の技、『風見鶏』。

直接訓練を手伝えねえから渡したが、どうやらちゃんと技をモノにしてるみてえだな。

感心してる間にも事態は進み、一夏は上を向いて無防備になったボーデヴィッヒの懐に潜り込み、雪片の柄ギリギリの所の刃を、ボーデヴィッヒの腹に押し当てる。

 

「く!?させるか(ドゴォ!!)!?き、貴様ぁ……ッ!?」

 

一夏の追撃の気配を感じ取ったボーデヴィッヒがお得意のAICで一夏を束縛しようとした瞬間、ボーデヴィッヒの頭部に1発の弾丸が命中する。

それが誰の仕業か理解したボーデヴィッヒは、苦虫を百匹くらい噛み潰した様な面を浮かべた。

 

「ワイヤーの動きが止まったからね。油断大敵だよ?」

 

狙撃手……それはさっきまでワイヤーの猛攻に晒されていたシャルルだ。

一夏のカウンターを喰らって意識が緩んだ所為で、ボーデヴィッヒのワイヤーは宙を彷徨った状態だ。

それによって動く隙を確保したシャルルの援護射撃が決まったって訳だ。

 

「サンキューだ、シャルル!!ハァアアアア!!(ズバァアアア!!)」

 

「うぐぅぅ!?」

 

「(ズザァアア!!)……武剣技、『踏み込み一閃』!!何とか試合前に覚えといて良かったぜ!!」

 

「離脱のタイミングも練習しといて良かったね、一夏」

 

「あぁ……でもまだだ……アイツにもっと見せてやろうぜ……コンビの凄さってやつを」

 

「うん。任せて」

 

「こ、この……ッ!!チマチマとした攻撃ばかり……ッ!!」

 

そして、シャルルのお蔭でチャンスをゲットした一夏は、ボーデヴィッヒの腹に当てていた雪片を一気に滑らせて、斬りながら前に移動する。

交差した状態で置いてけぼりにされたボーデヴィッヒはダメージを押して振り返り、実弾砲を向けるが、それはシャルルがラピッドスイッチでレッドバレットから切り替えたガルムの絶え間ない銃弾の嵐に寄って阻止される。

攻撃と防御が上手く絡み合った、攻防一体にして二人で一人の様な動き……凄えコンビプレーだ。

シャルルの銃撃の脱出援護を受けた一夏は、両手にガルムを構えたシャルルと合流して、横並びに構えたまま笑う。

一方で良い様にあしらわれたボーデヴィッヒは怒りに顔も身体も震わせていた。

 

『『『『『ワァアアアアアアアアアアアアア!!!』』』』』

 

「おーおー……皆盛り上がってるなぁ」

 

まだ試合が始まって5分ちょっとだってーのに、観客のボルテージは物凄い事になってる。

それだけ今の一連の流れが濃密だったって事なんだけどな。

その白熱した内容に当てられて、観客も皆熱が入ってカーニバル状態になっちまった。

……まぁ、俺もその一人って訳なんだがな。

視界の先で堂々とした笑みを浮かべるシャルルと一夏を見てると、体の奥から高揚感が湯水の様に湧き上がる。

体の奥からドクドクと溢れるアドレナリンが、抑えきれない興奮となって、俺の顔に獰猛な笑みをとらせちまう。

 

「あぁ、一夏。決めるんなら早く決めろよ……じゃねえと、我慢出来なくなって、参戦しちまうからよ」

 

怒りで冷静な判断が効かなくなったボーデヴィッヒが二人に特攻する中、俺はそんな事を零していた。

 

 

 

 




早く書きたかった所終わらせてジョジョにいかないと(;´Д`)

あっ、でも絵の練習も……。


ジョジョが遠のく(;´Д`)

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