IS~ワンサマーの親友   作:piguzam]

7 / 53
人助けはフラグの香り?

あの『突撃!束さんの織斑家晩御飯奇襲計画』があった夏の日の8月5日から約3ヶ月。

 

 

今日は12月9日土曜日、つまりは休日なり。

 

 

時間はまだ夕方5時にも関わらず辺りは日が落ちて暗くなってきてる。

そんな中を吹きすさぶ風の寒さにうち震えながら、現在俺は商店街の真っ只中を一人で歩いていた。

今日は特に用事も無く家でまったりゴロゴロしていた俺だったが、突如携帯が鳴り、ダチからの着信を知らせてきた。

電話は弾と一夏からで久しぶりに男だけでカラオケに行こうとの誘いがあったので現在カラオケ屋に向かっている最中だ。

なんでも、弾は家に妹の蘭ちゃんの友達が遊びに来ていて追い出されたそうだ。

電話口でそれを淡々と呟く弾の声に不覚にも涙が止まらなかったぜ。

しかも蘭ちゃんから一夏には追い出した事を気づかれないようにと口を酸っぱくして言われたらしい。

事情を知らない一夏が「弾は暇人なんだな」と笑いながら言ってたのを電話越しに聞いたが、その時の一夏に対する弾の心境は計り知れない。

さすがに弾が不憫過ぎたので今度愚痴にでも付き合ってやろうと思ってる。

 

一夏も一夏で、あの天ぷら食った日から千冬さんが帰ってこねぇからやる事無くて暇なんだとよ。

やっぱ間違いなくシスドー極めてるわ、アイツ。

本人は否定してるけどかなりムキになって顔赤くしてたら説得力は皆無だぜボーイ。

 

ちなみに束さんなんだがあの日から一向に姿を見せない。

まぁあの『天才』って呼ばれる人の事だから捕まったりはしないだろうし、心配は毛程もしてねぇが。

やっぱ出現率かなりレアなんだろあのボインボイン兎さんは。

 

ちなみに俺の方で変わった事と言えば、今年の夏休みに爺ちゃんの家に帰った時にやっとバイクを完成させた。

小学校5年生から始めて苦節5年の汗と涙の結晶。

あーでもないこーでもないと頭を捻り続けた末に出来上がった俺の大事な相棒。

爺ちゃんの職場の人に修理のヒントをもらったり裏技(カスタム的な)を伝授してもらったり溜め込んだお年玉と小遣いで俺専用の工具を買ったりと。

あのバイクには色んな思い出が詰まりまくっている。

爺ちゃんが地主の山の広場まで持って行き、職場の人達が見守ってくれてる中でエンジン始動。

5年間整備と手入れをし続けたエンジンは待ちわびていたかのようにあっさりと火が灯り、奮発して入れたハイオクガソリンを喰い散らかしながらその重厚な雄たけびを山一帯に轟かせた。

広場にいた人達も自分の事のように喜んで祝福してくれたし、軽く試走した時の爽快感はもはや言葉にゃできねえ。

マジで免許を取るのが待ち遠しくて堪らんねぇよ。

俺の誕生日は4月1日だからかなり早い段階で免許がとれるしな。

まぁ実際はまだ車検も通してねぇし、カウルからタンクから塗装がジャンクのまんまなので見た目は継ぎ接ぎだらけなんだけど。

車検は爺ちゃんが完成祝いに通しておいてくれるっつってたし、塗装も向こうに引っ越した時に本格的にやるから実際、問題はゼロだったりする。

ちなみに一夏には完成したと言ったら「見せてくれ!!」ってすっげえキラキラした目で詰め寄られたけど塗装がまだだから塗りあがったら見せると言っておいた。

ちょい不満げな表情してたが「どうせならカッコよくしてから見せたい」って言葉で納得してくれた。

 

 

 

 

以上が俺を取り巻く環境で変わったことだ。

 

 

まぁとにかく、今日のカラオケの件は急だったので現地集合ということになり、俺はこのカップル溢れる商店街を一人寂しく歩いてる。

しかしさっきから歩いている俺の心境は少々居心地が悪かったりする。

それはなぜかっていうとだ……

 

「アハハ♪それでさぁ……あっ(ササッ)」

 

「?どうしたのよ?って……(ササッ)」

 

俺の目の前を塞ぐように歩いていた女子高生が俺に道を譲って左右に別れていく。

それで俺が通り過ぎたのを確認すると、また二人並んで歩いて行った。

ちなみにこの間、俺は一度も女子高生達に視線は合わせていない。

 

(前から来る通行人が俺を見る度に慌てて道を譲ってくるのは止めて欲しいもんだな……ハァ。)

 

前にも言ったが、俺は中学3年らしからぬ身長と体格を持ってる。

その事に関しては後悔はしてねぇが、いかんせん傍から見ればかなりゴツい。

もう一つは俺の服装のせいだろう。

 

靴は茶色の革靴、止め具は銀。

 

ズボンはオリーブドライのダボついたカーゴパンツ。

 

シャツは黒一色で真ん中に白字でjokerと書かれたロゴ。

 

ネックレスはちょい太めのシルバーチェーンを装着、トップは3センチぐらいのマリファナリーフ。

 

上は茶色のナイロン生地のジャンパーで前は全開。

 

うん、自分で着ておいたなんだが完全に普通じゃねぇわな。

それなんてギャング?仕様の服装だ。

別に狙って着てるわけじゃないが俺好みのコーディネートをするといつもこうなる。

既に弾や一夏は慣れてしまったのか、こういった服装でも一々つっこんではこない。

顔はそこまでコワモテってわけじゃねぇんだが、やっぱり傍から見ると俺は威圧感がハンパないらしい。

 

まぁそんな感じで普通の人達は俺に道を譲りながら歩いてる。

 

ってあぁ!?ちょいそこの金髪のイケメン君!?何を震えながら俺を見てるのよ!?

鼻水出てる出てる!?そんな風に怯えるから隣の彼女さんが呆れてるじゃねぇか!?

このままじゃ周りのカップルにあらぬ誤解を与えちまうだろうがとっとと失せろボケェ!!

 

俺の睨む視線と目が合った金髪君は彼女の手を引いて逃げるように去って行った。

擦れ違った時に「ビビりかオメーは!?」って彼女の怒号が聞こえたのは気のせいだと思いたい。

 

フゥ、やっと行ったか、って今度は特攻服着たリーゼントマスク!?コラァ俺を見て90度のふつくしい礼をしてくんな!!

「押忍!!!」ってお前押忍じゃねぇよ押忍じゃあ!?テメェ一体誰だよ!?

周りのカップルがひそひそ話してドン引きしてんじゃねぇか畜生!?

特攻服着てるならバイク乗っとけよなんで普通に歩いてんだよテメェはぁぁぁ!!?

 

頭下げた状態からリーゼントマスクは動かないので俺はスルーして先を急ぐ。

 

 

あぁもうイヤんなるぜ。

さっさとこの居心地悪い空間から逃げようそうしよう、うんそれがいい。

いっそ音楽でも聴いておこうか。

こーゆう時はハイになれる曲で気分転換しなきゃな。

周りの視線に耐え切れなくなってきたので俺はポケットからイヤホンを取り出して耳に付けようと……

 

「や、……やめて下さい!!」

 

「ん?」

 

したところで、前方に何やら一人の女の子を取り囲んでいる3人組のチャラ男を発見。

 

「いいじゃんか、これから俺達と遊びに行こうよ」

 

「そーそー、退屈はさせないよ?俺等女の子を悦ばすのは自信あるからさ♪」

 

「そ、そんなのいいです!!結構ですから!!……ひ、人を呼びますよ!?離して下さい!!」

 

「んー?あれなんだよねぇ。俺等紳士だからさ?女の子には手を上げたくないからイイ子にしてて欲しいなぁ♪それに人を呼ぶって……皆素通りしてるけど(笑)?」

 

「だ、誰か……!!」

 

囲まれてる女の子は背は低く、緑色のショートカットの髪型で眼鏡をかけた大人しそうな印象の可愛らしい子だ。

どうやら前方の3面を男に取り囲まれ、更には腕を掴まれて逃げ場を塞がれてしまったようで街灯を背にして怯えている。

周りの通行人は巻き込まれないように視線を下に向けて素通りしてやがる。

 

まったく、せめて警察にぐらいは連絡してやれよ。

 

「うぅぅ……」

 

「まぁまぁそんな嫌そうにしないでさ。俺等と一緒に行こうぜ?」

 

「まだ後何人か友達いるからさ。君みたいな可愛い子が来るって知ったら喜ぶだろうし♪」

 

「い、嫌です!!離して!!」

 

「あ~……あんまり聞き分け悪いとさぁ、いくら紳士な俺等でも怒るよ?……黙ってついて来い(ギュッ)」

 

「い、痛ッ!?」

 

チャラ男達はニヤニヤしながら女の子との距離を縮めて詰め寄っていたんだが、女の子の態度に業を煮やしたのか、腕を掴んでいた奴が脅し始めた。

握ってる腕に力を込めたようで女の子は小さく呻きながら顔を歪める。

いい加減腹が立ってきたぞコラ。

大体紳士だってんなら女の子に暴力振るうんじゃねぇよアホンダラ。

 

沸々と腹が煮えてきた俺は周りの視線も気にせずにズンズンと歩いてアホタレ共に近づき。

 

「おら、早く歩k」

 

「おうコラ」

 

ガシッ!!

 

「へ?(メキメキメキッ!!)ギャアアアアアアアアアアアアアアッ!?」

 

「キャッ!?」

 

女の子の腕を握っているチャラ男Aの腕を掴んで強めに力を込める。

かなり痛いようで、女の子を掴んでいた手を離して叫びだしやがった。

まぁスチール缶をベキョッと軽く握りつぶせるぐらいの握力で握ってますからね。そりゃあ痛いだろう。

とそんな事を考えていたら女の子が腕を離された時の衝撃でフラついたのか、俺に向かって倒れてきた。

そのままじゃこけるのが確定コースだったので、とりあえず片手で抱き止める。

 

「(ボフンッ)あぅ!?……あれ?……痛くない?」

 

抱きとめた女の子は地面に当たって痛みがくると思ってたようだが、痛みがこなかったのが不思議だったのか瞑っていた目を開けて首を傾げてる。

そりゃあ俺が支えていますから、痛みなんぞくるワケないでしょうに。

 

「そりゃそうだろ?地面じゃねーんだから」

 

「ふぇ?……え?――えぇえええええ!?」

 

何故叫ぶし。

 

俺が声をかけると、女の子は俺に視線を向けて、そこでやっと自分の状況がわかったようで顔を真っ赤に染めて叫んだ。

何この小動物。ワタワタと慌てる姿が実に可愛いんですけど。

 

「あ、ああのあのあのののの!!?」

 

女の子は俺を見つめながら何やら理解不能な言語を捲くし立ててくる。

ドンだけ慌ててるのさYOU?もはや言葉にすらなってねぇよ。

 

「とりあえず落ち着け。そんで……立てるか?」

 

「ひ、ひゃい!!?」

 

俺の言葉を聞いてくれた女の子は飛び上がるように俺から離れて立ち上がった。

しかし顔の赤さはまったく消えていない。

そんな真っ赤な顔でモジモジせんで下さい、目のやり場に困るッス。

 

「あ~なんだ、とりあえず大丈夫か?」

 

「は、はい!大丈夫でしゅ!?……あぅ、噛んじゃった……」

 

女の子は台詞を噛んでしまったのが恥ずかしかったのか真っ赤な顔で俯いちまった。

その様は実に可愛らしいんだけどね……いや、どぉすりゃいいのこの状況?

俺は一夏みてぇにどぉすりゃ女の子が笑顔になるかなんて知らんぜよ?

あの『移動式メスホイホイ』みてぇに自然と女の子に優しくするなんて芸当は無理ですたい。

 

「いでででででで!?テ、テメェいきなり何しやがる!!離せよ!!」

 

「あ?」

 

っと、いけねえいけねえ、バカの手を握り締めてたの忘れてたぜ。

俺に腕を握られたバカは痛みに顔を歪めたまま俺に声をかけてきやがった。

その声に反応して体を震わせた女の子は俺の後ろに逃げるように隠れた。

残った二人のチャラ男は状況についていけねーのか、口を開けて呆けてるし。

ていうかこんな状態で中々強気じゃねーかこの野郎。

 

女の子をこんなに怖がらせて俺がこんなモンで済ますと思ってンのかこのアホンダラは?なら身体に判らせてやんよ。

 

俺はバカの掴んだ手を離さないでそのまま腕を上に上げてバカを持ち上げる。

そうするとバカは宙吊り状態で足が地面から離れた。

 

「あ゛あぁあああぁぁああぁあ!?う、腕がああぁああぁぁ!?」

 

持ち上げられた腕から伝わる鋭い痛みにバカは耐え切れずに顔を歪めて吼えながらジタバタと浮いた足を動かしてる。

まぁこんな野郎がどう痛がろうとも、どうでもいいがな。

 

「随分と強気なモンじゃねーか?身の程わきまえねえと、この細腕ポッキーみてえにへし折っちまうぞコラ?(ギュウウウウウッ!!)」

 

「いぎいいいい!?や、止めてくれ、いや止めて下さいいいいい!!」

 

ギリギリギリッ!!

 

「うぎゃあああああああ!!?」

 

「なら口閉じてろやボケ」

 

俺は握りこむ力を段々と上げたり、掴んでる腕をグリグリと捻るように握りこんで痛みを加えていく。

これって力加減が難しいからなぁ……加減間違えるとマジでポキッと逝っちまうし。

 

「……はっ!?テ、テメェふざけんな!!オラア!!」

 

「ッ!?危ない!!」

 

ん?なんだやっと状況が呑み込めたのかよ?

俺が声のした方に視線を向けると、さっきまで呆けてたチャラ男Bが俺の顔面に向かってなんとも弱そうなパンチを放ってるとこだった。

片手にバカを掴んでる状況で、もう既にパンチは俺の顔面の近くに迫ってたので回避は間に合わない。

チラッと横に視線を向けるとチャラ男の行動に俺より早く気づいていた女の子が切羽詰った顔でそれを見てた。

まぁこんなもん避けるまでもねぇがな。

俺の顔面に迫ってくるパンチを見ながら、俺は顔の位置を少し下にずらす。

すると顔面に当たる筈だったチャラ男Bのパンチは俺の額に着弾点を変え……。

 

バキャアアアア!!

 

「キャア!?」

 

俺の額にクリーンヒット。

そりゃもう綺麗に吸い込まれて盛大にいい音がなった。

女の子はそれを見ないように両手で顔を覆って悲鳴をあげる。

 

「へっ!!ざまぁ見――ギャアアアアアアアアアアアア!?」

 

「お、おい!?何で殴ったお前が――ひ!?」

 

「ゆ、指がああああああああ!!?」

 

「……え?」

 

チャラ男Bは俺を殴って気が良くなったのか、アホ面を笑顔に変えた……が、すぐに顔を歪めて手を抑えながら蹲り、みっともなく叫び声をあげる。

両手で顔を覆っていた女の子は殴ったバカの悲鳴が聞こえるとは思わなかったのか、不思議そうな声を出して手を顔から外す。

俺と女の子の視界の先にいるチャラ男の拳は4本の指が稼動域を超えてあらぬ方向にひん曲がっていた。

まぁそこそこ速度の乗った拳で硬すぎる額にブチ当たったんだからな、謂わば鉄の壁を殴った様なもんだ。

そうなっても仕方ねえだろ。

大体テメェ等みてえな貧弱野郎のパンチが効くわきゃねえだろうに。

俺と喧嘩するってんなら千冬さん並みの威力ないと俺に怪我なんかさせらんねぇぞ?

 

「ほいっと(ポイッ)」

 

「(ドサッ)ギャア!?い、いぃ痛えぇ……ッッ!?き、救急車ぁ……ッ!?」

 

「あ……あぁ……(ガクガク)」

 

片手で吊るし上げていたチャラ男を青ざめた顔で震えてるチャラ男Cの横に放り投げる。

ようやく俺の手から解放されたチャラ男Aは握られていた部分を抑えながら涙をぼろぼろ溢してやかましく吼えてやがる。

俺に握られた部分は赤黒く変色していて、中で内出血を起こしてるのが判る。

まぁあんだけの事仕出かしたんだ、折らなかっただけでも感謝して欲しいもんだぜ。

とりあえず最後に残ったチャラ男Cを俺は鋭く睨みつける。

 

「おい、テメェ」

 

「ひ!?」

 

俺に睨みつけられたチャラ男は鼻水を垂らしたまま情けない声を出して怯える。

すると、震えるソイツのポケットからジッポライターが落ちて俺の目の前に転がった。

 

「このバカタレ共連れてさっさと失せろ。後よ、次にこんなことしてみろや?そん時ゃ――」

 

俺はそこで一度言葉を区切って足元に転がってきたジッポライターを人差し指と親指で縦に挟んで持ち上げ、鼻水垂らしてるソイツの前に掲げる。

そのままの体勢で指に力を込める。

 

ベキベキベキャアアッ!!!

 

するとジッポは無惨に潰れていき、俺の指と指の間で原型が無くなってペチャンコになった。

それを目の前で見届けた鼻水君は歯をガチガチと鳴らして怯えまくってる。

 

「テメエ等の男の象徴がこうなるまでしこたま……蹴り食らわしてやっからよ……いいな?」

 

「ハ、ハイイイイイイイッ!!!」

 

俺のありがたーい忠告を聞いたチャラ男は他の二人に手を貸して引きずるように走っていった。

奴等が完全に見えなくなると辺りから「見た目はワルなのに……カッコイイ」とか「逞しいなぁ~」とか「あんな人に守ってもらいたい……」だとか、なんか色々聞こえてくるが放置。

とりあえずアホが消えたのを見届けて、俺は鼻息をフンと一つ鳴らしてから……。

 

 

 

 

耳にイヤホンを嵌めてプレイヤーのスイッチを入れてから目的のカラオケ屋までの移動を再開する。

 

 

……いやさ?別に後ろの女の子を忘れてるわけじゃないよ?

でもまぁ俺はあの『歩くフラグメーカー』と呼ばれる一夏みてえに女の子を安心させる言葉とかがポンポン出てくるわけじゃねえのよ。

ってわけで、鍋島元次はクールに去「ま、待って下さい!!」……オゥ、ノー……。

音楽が鳴る前に、後ろから声が聞こえた、聞こえてしまったぜ。

聞こえてしまった以上は無視するわけにもいかないので、諦めてイヤホンを外し後ろに視線を向ける。

 

「あ、あの!!助けてくれてありがとうございました!!あなたが助けてくれなかったら、私……何をされていたか……本当にありがとうございます!!」

 

視線を向けた先には、やっぱりさっき絡まれていた女の子がいて、俺にふかぶかと頭を下げていた。

正直、俺はそうやってお礼を言ってくれる女の子にすっげえ驚いた。

 

 

 

実を言うと、俺は千冬さんとか束さんとか、学校の女友達以外のあんまり知らん女ってのにはあんまりイイ印象を持ってなかった。

 

 

 

知っての通り、今の世の中は束さんの作ったISの影響で世の中は完全な女尊男卑の世界になってる。

そのせいではあるが、世の中には『ISに乗れるのは女だけ=ISに乗れるから女は偉い』というイカれた思考を持つバカな女が結構な数いる。

偶に街を歩いていると、女が当たり前のように男をパシらせるという光景がよく目に付く。

幸い、同年代で俺に盾つこうとする女は少なかったが、それでも全くいなかったってわけじゃねぇ。

中1の頃の話しだが、今はもう転校しちまっていなくなった女のダチがいたんだが、そいつが中国の出身てことで陰湿なイジメをしてるグループがあった。

当然、それを知った俺と一夏、弾の3人でその現場に乗り込んだ。

その中のボスみてえな女(という名の動物園から逃げ出してきたゴリラ)が「男は黙って女に従っておけばいいのよ!!この屑!!」とかなんとか抜かしてきやがったんだ。

最初は穏便に事を運ぼうとした俺達だったが、そのゴリラ女が言った「こんな薄汚い中国女を庇うなんてアンタ等皆バッカじゃないの!!?」って言葉で一夏がプッツン。

だが、率先して殴ろうとした一夏を押さえつけて、俺がそのゴリラ女に拳をプレゼントしてやった。

大事なダチを貶したクソゴリラに、俺が手加減無しで思いっ切り振るったアッパーはゴリラのアゴを粉々にブチ砕き長期入院を余儀なくさせた。ざまあみろって思ったね。

そして騒ぎを聞きつけた教師が来て俺は連行、3ヶ月の謹慎処分と謹慎が解けた後は少年院への護送が決定された。

この決定に一夏達は大いに反抗してくれた。

特に一夏は俺がアイツの代わりに殴ったからって罪悪感が強かったからかなり必死だったらしい。

だが、俺が人に拳を振るったことは紛れも無い事実でありそのゴリラの母親も同じようなバカ、オマケに政治家で女性の発言権が強いこの時代。

 

この決定は、一夏達がどれだけ講義しようと変わることは無かった。

 

……まぁでも、ある人が助けてくれたお陰で、俺の処分は全面的に無しになったが……そう、束さんである。

どこで聞きつけたかも知らねぇし、どうやったかも知らねぇが、いつの間にか俺の処分は取り消され、あのゴリラとバカ親は刑務所と少年院に突っ込まれてた。

後で一夏達に聞いた話ではこの決定に、なんと学校中が反対してくれたらしい。

理由としてはあのゴリラより俺の方が他の奴等には好印象だったからというのと、そのゴリラ女が驚く程学校の嫌われ者だったというのが大きかったそうだ。

そしてこの事件がニュースに流れた際、ニュース局に匿名で俺があのゴリラを殴るまでのやり取りが録画されたビデオが送られてきたらしく、それが名前や顔のボカシを入れて放送された。

更にトドメとばかりに、あのゴリラの母親がやってきた政治的汚職や汚ねえ性癖なんかが全て匿名で新聞会社にリークされ、醜い部分が白日の下に晒されたバカ親は社会的抹殺。

俺は家で謹慎してる時、このニュースを見てこんな事ができる人物は束さんしかいないって確信してた。

機械的なウサ耳を付けて楽しそうに笑っている束さんを頭に思い浮かべながら、俺は嬉しくて……感謝の涙が止まらなかったっけ。

 

 

 

……でも俺はこの後で本当の地獄を見たのさ。

 

 

 

謹慎中に束さんが俺の家に現れて「束さん頑張ったからぁ……ゲンくんからのご褒美が欲しいにゃ~♪」と俺に可愛らしい猫なで声で要求してきたのよ。

さすがに多大なご迷惑をかけた上にあわや少年院行きになる所を助けてもらった俺としては、断るつもりは一切無かったので、束さんの望むままに一日中色んな我儘を聞いていた。

やれご飯を作ってとか「あ~んして?」とか歌を歌ってとか色々頼まれたんだがそこら辺はまだ良識的でよかったんだが……。

そんで昼頃だったか?束さんが突然「お昼寝したくなってきたから、ゲンくんは束さんの抱き枕になってもらおうではないか!!」ってお言葉で俺は抱き枕化。

魅惑的なボインボインの膨らみがあるバディを惜しげなくくっ付けられて、束さんという美人にほにゃっとした柔らかい笑顔で見つめられて緊張しまくっちまって思考回路がショート。

混乱状態になった俺は何を思ったか、密着していた束さんの腰に手を回して更に強く抱き寄せた。

そん時に束さんは「あっ……ゲンくん」とか言いながら頬を桃色に染めて潤んだ瞳で俺を見つめてくるだけで、まったく抵抗しなかった。

束さんが何も抵抗しなかったので、そのまま空いていた片手を頬を撫でるように添える、するともっと瞳がとろんとしてきた。

そのまま数十秒間そうしていた俺と束さんだが、突如束さんが目を瞑ってしまう。

俺の視線は束さんのぷるんとした可愛らしい唇に釘付けになり、その魔性のような魅力と仄かに香る桃の様な甘い香りに抗わず、吸い込まれる様に顔を近づけて……。

 

 

 

 

 

 

「一夏から謹慎中で落ち込んでると聞いて心配して来てみれば、女を侍らせて優雅に昼寝とはな……随分といいご身分じゃないか?あぁ?元次?」

 

 

 

 

 

死を覚悟した。

 

 

もうね、本気で殺されるって思ったさ。

背筋が冷えるとか悪寒が奔るとかぞくぞくっとするとかそんなチャチなモンじゃねえ。

もっと恐ろしいモノの片鱗を感じたぜ。

声を聞いてるだけだってのに、まるでケツの穴に氷柱を突っ込まれた感覚が俺を支配した。

まずどうやって俺の家に入ったんですかとかどうやって一切物音を立てずに俺の部屋まで移動できたんですかとか女性が「あぁ?」とかどうなんですかとか色々疑問はあったがとても聞けません。

ギギギッと油の切れたロボットみたいな音を出しながらなんとか後ろへ振り向くと……。

 

 

 

 

 

「女の敵にはキツイ仕置きが必要だな……さて、覚悟はいいか?私はできてる」

 

 

 

 

 

そこにいたのは、光が消えた上にとんでもなく澱んだ瞳で俺を見つめ、刃引きされた日本刀を肩に担いでいらっしゃる無表情の千冬さんですた。しかも抜刀状態です、ぷぎゃー。

どっから出したそのポン刀とか俺まだ覚悟決めてませんとか考えてるうちに、俺目掛けてその刀が振り下ろされて……ちなみにその日から3日間の記憶が一切ないのはデフォ。

何故か束さんがいなくなって床に少量の血痕が残ってたり、俺の隣で千冬さんが寝てる上に3日間も時間が「跳んでいた」のは本気で訳がわからなかったぜ。

 

 

 

ま、まぁ話が逸れたが、つまり世の中には救いようのないバカ女が少数ではあるがいるわけで、全員が全員そうだとは思ってねぇがどこで猫被ってるか判らないので俺は無意識に女性を避けてたってわけだ。

とりあえず、今目の前にいる女の子はかなり常識人であったことにホッとしたぜ。これは世の中の女性に対する見方を改めなきゃな。

 

「いや、当たり前の事しただけだからよ。気にしねえでくれ」

 

むしろあそこで見捨てたりして後で千冬さんにバレたらブッ殺されちまうし。

 

「そ、そんな、気にしないなんてできません!!是非何かお礼をさせて下さい!!」

 

「え?い、いやいやいや。俺待ち合わせしてて急いでるからよ。それにそんな打算的なこと考えて動いたわけじゃねぇし」

 

「で、でも助けてもらったのに何もお礼をしないわけにはいきません!!」

 

女の子は下げていた頭を上げて必死な表情で俺に詰め寄ってくる。

結構小柄な女の子なので、必然的に上目遣いで俺を見上げてくるではないか。

近くで見るとこれまたかなりの美少女で段々と気恥ずかしくなってきた。

さてこれは困ったぞ、まさかこんな展開になろうとは。

弾と一夏もそろそろカラオケ屋についてるだろうし、ここで時間食うわけにもいかねぇんだが。

 

「え、ええっと、とりあえずどこかのお店でお話を……って、あーーー!?」

 

うぉ!?なんだ!?

俺がこの状況をどうするか頭を捻っていると女の子がいきなり叫び声を上げた。

 

「ど、どうした?」

 

「き、今日私、電車で街に来たので、終電が近いからもう帰らないと!?ど、どうしよう~~!?まだ何もお礼してないのに~~!?」

 

女の子はそう言ってあわあわとテンパッてる。

しかしこの一言は俺にとってはこの上無く都合がいいものだ。

俺も時間が無い、彼女も時間が無い。

つまり目的は一緒だ。

 

「なぁ、お嬢さん?」

 

「ふぇ?な、何ですか?」

 

「もし良かったらよ……一緒に駅まで行かねえか?」

 

「……ほえ?」

 

女の子は俺の言葉の意味が判らなかったのかポカンとした表情を浮かべた。

なんかおっとりしてたりワタワタしてたりで忙しい女の子だな。可愛いからいいけど。

 

「いやな?俺は駅前のカラオケ屋に行くんだが、道は一緒だろ?だから駅前まで送らせてくれねえか?」

 

「……あ、あの?それはいいんですけどぉ……お礼の方は」

 

「だからよ?その一緒に行くってのをお礼代わりにさせてくれって言ってんだよ」

 

「……えぇえぇ!?な、なんでそれがお礼になるんですか!?」

 

女の子は俺の言葉が意外過ぎたのか、大声をあげて俺に再び詰め寄ってくる。

その表情は「私、意味が判りません!!」ってのがアリアリと出てた。

 

「まぁあれだ、またさっきみてえな馬鹿が現れねえとも限らねえだろ?せっかく助けたのにそれが水の泡になるのは嫌だからよ、俺に駅まで送らせて欲しいってわけだ」

 

「そ、それじゃあまたアナタに迷惑がかかっちゃいますよぉ!!全然お礼になってないじゃないですか!!?」

 

そう叫びながら両手をブンブンと振り回してる様は実に可愛いらしいです。

俺としてはこの子の笑顔が守れただけで充分お礼になってるんだがなぁ。

 

「礼にはなってるぜ?俺が守ったお嬢さんの可愛らしい笑顔が曇らずに済むんだからよ」

 

言ってから思った。

俺どんだけ臭い台詞吐いてんだよって。

似合わないにも程があるお。

まさかこの俺が納豆みてえな臭いがする台詞を吐く日が来ようとはな。

 

「へ!?か、かか可愛らし!?……あ……あぅぅ……ッ!?」

 

俺の言葉を聞いた女の子は素っ頓狂な悲鳴をあげて顔を真っ赤にしたまま硬直。

おいやめろそんな顔すんな萌えちまうじゃねえか。

 

「あ……あぅ……」

 

何やら呻くようにそれだけ振り絞って女の子はモジモジと指を絡めだした。

やばいどうすりゃいいんだこの状況。

タスケテケスタ。

とりあえず強引にでも話を進めねえと間が持たん、ていうか俺が持たん。

 

「ま、まぁとりあえずよ?そーゆーワケでだ、いっちょ俺の心の満足のために駅まで送らせてくれねえか?……な?」

 

「……(コクンッ)」

 

小さく、それでいてしっかりとした頷きを返してくれた女の子だが、その仕草が破壊的に可愛いすぎて俺は言葉もかけずに歩き出す。

すると女の子は顔を伏せたまま俺の横にちょこんと並んで駅までの道のりを一緒に歩く。

伏せた顔の隙間から見える頬と耳は病気なんじゃねえかと思えるぐらいに赤くなってた。

なにこの空気?状況が理解できねえよ畜生。

 

マジで助けてマイフレン。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「……」

 

「……(チラッ)」

 

さて、あの商店街通りを抜けて、今は駅までの道中をさっき助けた女の子と歩いてるんだが……。

 

「……」

 

「……(チラッチラッ)」

 

会 話 が 無 え 。

 

いやもうとにかく気まずいぞこれ。

なんていうかこれ以上ないぐらいに空気が重いってゆーか……ねえ?

それにさっきから女の子の方は俺をチラチラと見てくるだけで話しかけてこようとはしねえし。

それが気になって視線を向ければ……。

 

「……(チラッ)」

 

「ッ!?(ボフンッ!!)……ぁぅ」

 

なんか俺と目が合うと、これ以上無いってぐれえ顔を真っ赤に染めて俯いちまう。

つまりこの気まずい雰囲気から脱出するには俺の方から話しかけなきゃいけねえわけなんだが……。

 

「……」

 

「……」

 

話 題 が 無 え 。

 

やばい。やばすぎるぞこの沈黙。

なんか話題は無えのか?考えろ、考えろ俺の滅多に使わない灰色の脳みそよ。

もはや知恵熱でも起こすんじゃねえかと思うぐらいに脳みそをブン回すと、俺の頭に4つの選択肢が浮かんできた。

 

1、押し倒す。

 

2、口説く。

 

3、歌う。

 

4、い た だ き ま す 。

 

碌な選択肢が無えんですけど?俺の脳みそが灰色ではなくピンク一色だった件について。

どうなってんだ俺の脳みそは……一度、束さんにオーバーホールしてもらった方がいいのかもしれん。

つうか1と4が意味一緒じゃねぇか。

3に至っては意味が判らん、あれか?辛い時こそ歌おうってか?この空気で歌ったら完全にアホだろ。

そんでもって2、俺は一夏じゃねえ。

駄目だ、脳内まで素敵にパニクッてやがるぜ。

 

「あ、あの……大丈夫です……か?」

 

と、俺がどうしようもない脳みそに絶望していると、今まで黙っていた女の子の方が話しかけてきてくれた。

ただ、何故か視線は俺の目線より若干上を向いてるが。

 

「う、うん?大丈夫って何が?」

 

「その、おでこです……叩かれてましたし……怪我とかは」

 

なんだ?チャラ男に殴られた額を心配してくれたのかこの子?

本当にイイ子だなぁ……そこいらのバカ女と比べるなんて失敬にも程があるぜ。

 

「なに、あんなヘナチョコパンチぐれえ何発受けたって問題ねえよ。俺はサイボーグ並にタフだからな」

 

俺は額を指で突っつきながら笑う。

あれくらいじゃ蚊ほども効かんのです。雑魚とは違うのだよ、雑魚とは!!

 

「サ、サイボーグって……もぅ、茶化さないで下さいよぉ」

 

「ははっ、悪い悪い。まぁ本当になんてこたぁねぇから気にすんなって」

 

女の子は何やら口をアヒルみたいにして、少々膨れっ面で俺を見てきた。

心配してるのにそれはないですって感じがアリアリと出てらっしゃる。

やばい、マジ可愛い。

こんな仕草を続けられたら無意識にテイクアウトしちまいそうだ。

 

「……馬鹿ですよね?あの人達」

 

「ん、んん?何がだ?」

 

「わ、私が可愛いなんて、心にもないこと言い出して……私なんかより可愛い人なんか沢山いるのに……そう思いませんか?」

 

思いません。あのチャラ男達に関しては、女を見る目だけは褒めてやってもいい。そこだけな?

っていうかドンだけ自分に自信が無いのよこの子は?

普通にあれだよ?そこいらにいる女の子ってレベル超えてるんですけど。

こんなこと他の子の前で言ったら怒られると思うぜ?

 

「……なんで自分に自信が無いのかなんて知らねえけどよ……お嬢さんはそこいらにいる女より、遥かに可愛いぜ?」

 

「はえ!?そ、そんなことありません!!わ、わわわ私なんか!!……私なんか、引っ込み思案で、ドジばっかりで……本当にダメダメなんです……ハァ」

 

いや、溜息つくぐらいなら初めから言わなきゃいいんじゃないか?

照れたり落ち込んだりと忙しいモンだな。

これ以上気まずい空気になる前にフォロー入れておこう。

 

「引っ込み思案ってのも、見方を変えりゃお淑やかだとか奥ゆかしいになると思うがなぁ……あら?」

 

「お、お淑やかだなんてそんなこと……?……ど、どうしたんですか?」

 

「いや……今更なんだけどよ」

 

「?」

 

女の子は俺が突然変な声を出したのが気になった様で、首をコテンとしながら俺を見つめてくる。

うん、やっぱり小動物みたいで可愛いじゃねえか。

 

「俺等……お互いの名前知らねえなって思ってよ」

 

「……あ」

 

俺の言葉に呆然、と言った感じで声を返してくる女の子。

そのポカンとした表情の女の子を「そうだよな?」といった表情で見つめて足を止める俺。

 

「……」

 

「……」

 

しばし見つめあう俺達。

別に恋焦がれとかそんな色っぽい雰囲気じゃないけどね?

 

「……」

 

「……」

 

「……ぷっ……く、くくく」

 

「……ふ、ふふっ」

 

そしてどちらからとも無くクスクスと笑い合う。

なんかさっきまでの空気がとんでもなく馬鹿らしく思えてきちまったぜ。

もう駅前に着いたってのに、二人ともここまでの間で自己紹介してねえんだもんな。

 

「あははっ……そ、そういえば、ちゃんと自己紹介してませんでしたね?」

 

女の子はそう言って俺に向き直り……

 

「初めまして……って言うのもおかしいですけど……ふふっ……私の名前は『山田真耶』です。今日は、私の事を助けて頂いて本当にありがとうございました」

 

女の子……真耶ちゃんは俺にふわりとした自然な笑顔を向けてくれた。

その自然な笑顔があんまりにも可愛くて……思わず見惚れちまったよ。

 

「お、おう。どういたしましてだ……しっかし……」

 

「?なんですか?」

 

「あ~、その、あれだ……今の真耶ちゃんの笑顔、スッゲー可愛かった……なんつーか……見惚れちまったぜ」

 

あぁ駄目だ。どうなっちまったんだ俺ぁ、ドンだけらしくねえ台詞吐いてんだっての。

まさか俺も一夏病が移ったのか?

だ、だとしても俺は一夏程モテたりしねえから判断基準が良くわからんぞ。

 

「ッ!!?は……はぅ……あ、ああありがとう……ございますぅ」

 

俺の言葉に真耶ちゃんは赤い顔のまま言葉を返してくれたんだが……あれ?

これってもしかしてケッコーいい雰囲気じゃね?

で、でも真耶ちゃんって明らかに俺より年下だよな?幼すぎるってわけじゃねーけど、年上には見えねえし。

駄目だ、真耶ちゃんの笑顔にあてられたかこりゃ?

 

「あ、あの!!あ、あなたのお名「おぉ~い!!ゲーン!!」……え?」

 

「ん?」

 

真耶ちゃんが俺に何かを聞こうとした時に、後ろから俺の名を呼ぶ誰かの声が重なった。

その声に従って後ろを向いてみると、一夏と弾がカラオケ屋の前で手を振っていた。

あちゃー、もうアイツ等着いてたのか。

 

「なぁにしてんだー!?早く来いよ!!こっちはお前待ちなんだぞ!?」

 

俺にそうやって声を掛けてくる赤髪のロンゲでバンダナをした妹に頭の上がらないシスコン『五反田弾』が大きく手を振ってた。

弾の横にいる一夏はなにやら呆れた視線を弾に送ってる。

あ、あのアホタレが!!空気読めよ!!っていうか公衆の面前で大声で呼ぶな!!恥ずかしいわ!!

周りの通行人がクスクス笑ってんじゃねえか!?

 

「……お、お友達です……よね?」

 

「あ、あぁ。ったく、こんな公衆の面前で大声出さんでも……ど、どうしたのよ?真耶ちゃん?」

 

「……え?な、なんですか?」

 

「い、いや今アイツ……俺のダチをすっげえ睨んでなかったか?」

 

俺が向こうで騒いでる弾から真耶ちゃんに視線を向け直したときに、真耶ちゃんの目が弾をすっげえ睨んでるように見えたんだが。

つってもなんか拗ねてますって顔で怖さは皆無だったけどな。むしろ可愛かった、いいぞもっとやれ。

 

「え!?そ、そんなことないですよ!!?」

 

「そ、そうか?ならいいんだが……」

 

「そうです!!に、睨んでなんていませんよ!?あ、あはは(ちょっとくらい睨んでも、バチは当たらないと思います!!せっかく勇気を出して聞こうとしたのにぃぃ!!)」

 

俺の言葉に真耶ちゃんはなんか必死な感じで否定の意志を見せてきた。

ま、真耶ちゃんも何か必死な感じだし、触れないでおこう。

こーゆーのは引き際が肝心なんだよな。

 

「すぅ……はぁ……よしっ、いきますっ、大丈夫できるっ、頑張れ私っ」

 

今度はなんか深呼吸して小声で気合入れ始めたんですが……どうしたんだ真耶ちゃんは?

やっぱり女の子は触れ合いが少なくて俺には良く判らんぜ。

束さんは年齢の割りに幼いとゆーか……ファンシーすぎて普通の女の子の参考にゃならん。

千冬さん?あの人が普通の女の子なら世の中はIS無しで女尊男卑になってるっての。

やれやれ、俺の周りにはどうしてこう普通の女の子がいないかねぇ……つうか殆どの女友達は一夏に惚れてるし。

結果、俺には真耶ちゃんの行動が良く判らんのです。

 

「あ、あの!?よ、よよよ良ろしかったら!!あ、あああああな、あなたのお名「ーーー学園行きの最終電車が参ります。お乗りのお客様は2番ホーム乗り場にてお待ちください」ま……ってうそ!?電車が着ちゃいましたぁぁぁ!?」

 

「え!?あ!?マ、マジだ!?」

 

真耶ちゃんの驚く声に従って駅を見れば、電車がホームに入ってきた所だった。

ってこれ逃したら真耶ちゃん帰りの足無し!?やばいって!!

 

「あ、あわわわわ!?い、行かなきゃ!!まだ聞いてないのにぃぃぃぃ!!?ご、ごめんなさい!!いつかまた、必ずお礼をしますからぁぁぁ!!」

 

「ってうお!?」

 

電車が駅に入ってくるのを理解した真耶ちゃんは急いで駅の中に走っていった。

あまりの急展開に俺はそれを見ているしか出来なかったんだが。

 

「……ま、いっか」

 

俺は特には気にせずに踵を返してカラオケ屋の前で待っている一夏と弾の元に向かう。

いつかまたお礼をしますって言ってたがまた会うかもわかんねぇしな。

それにさっきのアナウンス、途中からしか聞こえなかったが……確か「学園」って言ってた。

つまり、真耶ちゃんはその「なんちゃら学園」の生徒さんってことだ。

駅から学園行きの直行列車が出てるってことは、相当なお嬢様学校じゃねえとありえねえ。

多分、蘭ちゃんの通ってる「聖マリアンヌ女学院」みてえな超名門の学校だろう。

俺みてえな奴が会いにいける事は無えだろうし、大体来年にゃ俺はこの街には住んでねえ。

従って、もう真耶ちゃんとは会うことはねえと思う。

 

「くぉるぁぁぁ!!ゲン!!テメエ!!?なんかやたら遅えと思ったら、あんな可愛い女の子連れて何してやがった!?」

 

「まぁ落ち着けよ弾。でも意外だな?ゲンが女の子と一緒に歩いてたのは」

 

と、俺が熟考しながら歩いてたので、すぐに親友達の下に着いた。

しかしそう思ったのも束の間、弾の奴は何やら血の涙を流しながら俺の胸元を掴んできやがった。

一夏は一夏で珍しいものを見たって顔してる。

 

「よ、遅れて悪い。っつうか何やってたって言われても、別に真耶ちゃんとは何にもしてねえよ」

 

俺がそう答えると、弾は更に憤怒の表情を浮かべる。

 

「真耶ちゃんだとぉぉぉ!?既に名前で呼び合う仲か!?あぁん!!?」

 

あーもーめんどくせえなぁ。

勘ぐられなくても、そんな色っぽい仲じゃねえっての畜生。

 

「弾、テメエあんまりしつけえとハニトー一気飲みさせんぞオイ?」

 

「ちょっと待て!?ハニトーは固形物だろ!?一気飲みとかなんて恐ろしいこと考えやがる!!?胸焼けとかそんなチャチなモンじゃねえぞ!!?」

 

「ははっ大丈夫だって弾。ゲンもそこまで無茶はしないだろうし」

 

「アタリマエ、ジョウダンダヨダンクン?インディアンウソツカナイ」

 

「ならそのカタコト言葉と目の笑ってない笑顔ひっこめてもらえませんかねえ!?つかインディアンなのお前!?」

 

隣でギャーギャー言ってくる弾を受け流しながら、俺達はカラオケ屋の入り口を潜る。

やっと今日の目的であるカラオケを始めることができたぜ。

ちょい面倒な一日だったが、真耶ちゃんみたいな可愛い女の子と出会えたし、あのチャラ男君達にはほんのチョッピリ感謝しとく一日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいアーンして?つうかしろボケ弾」

 

「ちょ、おいやめろそんなもん無理矢理入れるな入らんわ止めてよして触らないでけだものぐむむむむむむむむむむむむむ!?」

 

「ゲン!?落ち着け!?だ、弾の頬がヤバイぐらい膨らんでるぞ!?鼻から少し出てるって!!?」

 

「人間の、げふんげふん。弾の限界に挑戦ってことで(笑)」

 

「ぐむぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」

 

「弾ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!?」

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。