月の観測者と人類史修復機関の人のお話   作:和多弥

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まだここの機能に慣れていないので、読みにくいかも知れませんが、おいおい改善していくつもりです。

短いですが、どうぞ。

優しい心でお読みください(涙目)


月の人の暮らしとエンカウント

トントントンと軽快な音が響く。

 

時刻は夕方、日がゆっくりと陰って辺りが段々と暗くなり始める頃。

 

お父さん達は労働から解放を願い、学生は部活動に勤しみ、子供は鐘の音を合図に帰宅する。

そして家では家族の帰りに備えてお母さん達が台所に立ち腕を振る。

そんな家族的光景が桜舞い散る木造校舎の中でも行われていた。

 

最も、俺が母親の役割なのだが。

 

ふと湧いたモノローグにくだらない突っ込みを入れつつも、調理の手は休めず続く。

 

「ん、こんなものかな。」

 

一人で使うには些か大きすぎる調理台に並んだ品々をみて、ひとまず小休止。

 

この調理室に後付けで設置された、会議室用のテーブルを二つ合わせてできた簡易的なテーブルに食器を並べ、適当な椅子に腰かけ物思いに耽る。

 

そういえば、立場上出かける事の多い『彼女』の代わりに家事全般を請け負い、既に長い期間が立つ。

 

始めの方こそ失敗したり、飯の時間に間に合わないなどの問題が多々あったが、唯一の取柄ともいえる諦めの悪さと、いつの間にか携帯端末のライブラリに登録されていた『家事必勝本』なる、どこぞのオカン系サーヴァントを彷彿とさせるノートのおかげで、今では滞りなく家事を完遂し、彼女の帰りを待てるまでに成長した。

 

見事な主夫っぷりに涙が出そうである。

 

彼女が白い方なら今の自身の立ち位置も変わっていただろうが、何分ここの世界にいるのは黒い方である。

 

きっと彼女の場合、校舎の中に一日中詰め込まれているのは無理だろうし、変な方向に思考が飛ぶ癖があるのか、一人きりになると色々と迷走しそうで怖い。某受信拒否が出来ない番組がいい例だ。

 

今思えばあの放送の分だけ想われていたという事がわかっているので、そういう電波というか雰囲気を感じ取った時は、素直に構ってあげる事にしている。

 

普段は「センパイの癖に生意気です」とかなんとかいって、過去に作り上げたキャラを貫こうとするが、その実言った事に後悔しているのが経験上こちらは把握済みである。そんな素直になれずに悩む彼女の姿や、構ってあげた時のツンデレは大変微笑ましいが、最近では軽く鬱に入った時に構ってあげるのがマイブームである。

 

いや、改めて思い返した自身の思考の下種さに軽く戦慄したが、弁明させてほしい。

 

軽く鬱思考に入ってるためか、余計な意地やらキャラが邪魔をせず、彼女の感情がダイレクトに伝わるのだ。迷走仕掛けた事や迷惑を掛けた事への不安げな視線と、構って貰えた歓喜が入り混じったあの上目使いは、こう、そそるものがあるのだ。

 

過去も含め普段から色々と支えて貰っている彼女に対して、俺も支えられるような人間になりたいと常日頃から思ってはいるが、やはり恋心を抱く相手であるからして、彼女の可愛らしくいじらしい姿を目の前にして、そういう目で見てしまう事は許してほしい。

 

つまり可愛すぎる彼女が悪いのだ、そしてギャップ萌えって至高だと思います。

 

共感はしてほしいが、体感はしてほしくない。

俺の嫁は誰にもあげません!!

 

盛大に話がズレたが、役割の話はそういった関係性の問題以上に、ココの運営能力の観点の話である。

 

新米ではなくなったにしろウィザードの能力で劣る俺よりも彼女の方が適任という、なんとも情けない話でまとまってしまうのだ。良く言って適材適所といった所で、そうなるしかなかった、ともいえるが。

 

「………ふむ」

 

今一度自身の作り上げた料理を見渡す。

 

何だろうか、栄養バランスが考え抜かれたメニューである事は既に例のノートを参考にしている時点で分かりきっているのだが、何かが足りない気がする。

 

色味的に言えば、そう赤。

どこかのエリちゃんが作ったブラッディーな濃くてドロドロした赤ではなく、どこか輝きを持ち、まろやかさを兼ね備えた赤。

 

殺人的な辛さの中に優しさを秘めた味わいと、辛いとわかっているのについつい求めてしまうあの刺激的な香り。例の物をいい笑顔で提供してくれる、妙な所で気の合うあの神父はもうこの校舎にはいない。

 

というかこの校舎に住み着いているのは自分と彼女らのみ。

 

現時点でいえば絶賛ボッチ。

古い木造校舎に一人ぼっち状態である。

 

となれば自身の力で再現するしかないのだが、今の俺の料理スキルではあの味は再現できない。

似せる事はできようが、そんな物は俺自身が許さない。こればかりは贋作は許されないのである。

 

あの味を再び現界させるにはまず素材から拘らなければならない。久々に表のダンジョンにでも潜ろうか。あの結晶体もこの味を購買部で販売していたのだ、きっと好きに違いない。ならばこの俺の想いも理解して表への渡航とダンジョンでの狩猟・採集も許可してくれる筈だ。

 

もしくは、彼の神父AIをどうにか復活させられないだろうか。彼女はいい顔をしないのはわかっているが、また彼と空くなく広がる探求心のままにダンジョンに繰り出したいものだ。

 

こうしてくだらない思考の渦に身を委ねるようになったのは最近の話である。

 

以前までは、食事ができて彼女の帰りを待つ時間は大抵図書館の蔵書を読み漁ったり、某引きこもりが残した地上で流行ったゲームをクリアしたりしていた。

 

しかし、本は興味惹かれるものはほとんど読んでしまったし、提督レベルが自身のマスターレベルを追い抜いたのではないかと思うぐらいハマったゲームも何故かアカウントを凍結されてしまいプレイできない。これについてはイベントがこなせなかったりコレクター魂的何かからそろそろ抗議しようと計画を練っている所だ。

 

昼間の内は覚束ない魔術の勉強などしているのだが、一日の終わりに差し掛かった頃にまでやろうとは思えず、結局食事を前にして一人待機する日々である。

 

初め二人きりになりたいという嬉しい申し出からスタートしたこの生活。俺も本編(なんのだかは言及しない)ではイチャイチャ要素がなかったので甘い生活を送ってやろうと、割と意気込んでこの二人きりの世界の構築をOKしたのだが、いやしかし、もうそろそろいいのではないだろうか。

 

「暇だ。暇すぎる。それに寂しい。昔もなんだかこんな事なかったかな……あぁ、あった、犬空間。なんだろう、あの子まだそういう思考抜け出せてないのかな。本人的にどちらかというと被虐体質のくせして、こう、振れ幅が広すぎる気がする…」

 

もはや独り言も珍しくない。

もしこのボッチ状態が故意ならば、再び俺のあのお仕置きスキルが火を噴く事になるのだが。

 

足をぶらぶら揺らしながら、壁に掛けられた時計をみる。

 

御飯ができてからまだ10分程度しか時間がたっていない。彼女の帰りが遅いと思って時計を見るといつも決まって時間の進みが遅い。

 

待ち遠しく思うことほど時間が長く体感するのは厄介だ。その対象が想い人であるならなおさら、自身の想いの丈を改めて思い知る機会と恥ずかしさ、そしてその大きさ程会えない時間を多く感じるジレンマがある。

 

「俺も嫌いじゃないんだけど、どうせならやっぱり早く会いたい。」

 

まったくもってどうにかならないだろうか。

どうにかならないのなら、偶にでいいから何か起きてくれないだろうか。彼女がいる時といない時の賑やかさの差を半分でもいいから埋められるような何かが。

 

『量子虚構世界にてエラーが発生しました。原因究明、修復の為、只今より10分後、プログラムを実行致します。加えて警告です。ウィザードの皆さんはプログラム起動までに校舎内部へ避難をしてください。なお、プログラム起動後に校舎外部にいるウィザードの皆さんの安全は保証できかねますので、速やかに移動して下さい。繰り返します……』

 

そんな事を俺が願ってしまっただろうか、聞こえる物は時計の針が刻む音といったこの木造校舎に、突如アラート音が鳴り響く。

 

これには驚いたが、表と裏の日々の経験が自身の中の警戒レベルを一気に引き上げ、ウィザードとしての思考に切り替わる。

 

「view_map(); 」

 

端末内の礼装から遠見の水晶玉を取り出し、コードキャストを発動させる。すると自身の視界の端にこの校舎の地図が表示される。この地図、俺の意思に応じて拡大縮小は可能だが、視界に魔術的加工を施している為、サーヴァントとの視界共有に近く、慣れないと気分が悪くなりそうな代物である。

 

表示された地図を確認し、校舎に何か問題がないか探ると、一か所地図で読み取れない場所がある事に気づく。

 

「おかしい。一度通ったことがある所なら、基本的に地図から消える事はない筈なんだけど。つまり、既に知っている筈の場所が表示されないという事は、場所が大きく変質したか、もしくはその空間ごと読み取れない何かによって上書きされたって考えた方がいいのかもしれないな。」

 

場合によっては戦闘も避けられないかもしれない。

 

マスターとして経験は積んだが、それはあくまでサーヴァントとセットでの話。俺個人でウィザードの力を行使しての戦闘は浅い、というか無いに等しいだろう。

 

問答無用で初期化に走った昔に比べれば10分の猶予が設けられているこの状況はそれほど危険度は高くないのかもしれない。

 

それでも万が一がある。

彼女から留守を預かっている身としては足止め程度には最低でも役割を果たさなくては。

 

「表示不可の場所はやっぱりというかなんというか、サクラ迷宮の入り口付近か。何か起きろとは思ったけれども、転じて大事にでもなったら意味ないぞ。」

 

距離を取って相手を拘束できる礼装の刀を片手に持ちつつ、校庭にでる下駄箱まで移動する。ここを出ればサクラ迷宮の入り口は目と鼻の先、出会いがしらの戦闘もありえる。

 

下駄箱を背にし身を隠しつつ外の様子を伺おうとする。

 

事前情報は大切だ。

これが有るのとないのとではまるで違うのは嫌なほど経験済みである。ましてや今回は時間制限付きなのだ。

 

様子を見に行って戦闘に入ってしまい、それが長引いてプログラムの処理に巻き込まれたんじゃ笑い話にもならない。

 

というか、そんな事になったら今度こそまずい。何処かのブリタニア皇帝さんも真っ青の、リアル世界壊しの幕開けとなってしまいそうだ。

 

なんだか大人しくしとけば良かったのでは、と珍しく後悔し始めたその時、ベリベリベリと何かが避けるような音が響き、遅れて目を覆う様な閃光が広がる。

 

………………。

 

「いやいやいや、これ不味いんじゃないの!?10分とか余裕見せ過ぎですよ、かつての容赦の無さはどこいったんだよぉお!!急いで、いや、マジで!!!はりぃぃぃあぁぁぁああっぷ、ムーンセルさぁぁぁああああああん!!!」

 

明らかに俺一人の手に負えないレベルのエネルギーが目の前の校庭で渦巻いている。

 

本当に何をしてるの、あの結晶体。

こんなのの中から何か出てくるとしたら、半人前のウィザードの俺じゃどうにもならんて。

サーヴァント、サーヴァントプリーズ!!

 

こんな心の中の願いも願望器には届かない。いや、おかしいだろ、所有者、所有者だよ、俺!?

 

「ええぃ!!『遠見の水晶玉』はオフ!『アトラスの悪魔』に変更!!これで1発なら何とかなるはず、あとはタイミング!!」

 

半ばやけくそ気味になりながらも、ここまで来たのも自業自得なのだから、自身の手で闘うしかない。

 

新たに装備した礼装はタイミングが命。

敵の攻撃の発動に合わせてこちらも発動しなければならない。

 

成功すれば、サーヴァントのスキルも凌げる優れものだが、ミスればおじゃん。守ってくれるサーヴァントがいない今ではダイレクトに命に関わる。

 

「信じろ……俺の幸運値の高さを信じろ、俺!ここを凌いで一緒にご飯を食べるんだ!」

 

あ、死亡フラグ。

 

そう気付いた時にはもう遅い。

あれほど鳴り響いていた音は消え、目映く輝く閃光は成りを静め、次第に視界を取り戻して来ると同時に浮かびあがる二つの影。

 

自然と唾を飲む。久々の空気に一人で相対する緊張からコードを組む腕が震える。

 

だけど、それでもしっかりと相手の一挙一動は見逃さないようにと目を見張り、震える手を抑えながらも相手に向かって構え、そしてーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『バーチャルじゃ・ない・じゃぁぁぁあああん!!!』

『本当にレイシフトしてしまいましたぁぁーー!!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜舞い散る夕暮れめがけて絶叫する男女の姿に、俺は静かに手を降ろし、ゆっくりと踵を返すのであった。




「……」
「……」

「……」

↑絶叫後の妙な沈黙。
※エンカウントのテイクツーはありません。


基本的に投稿者みたいなぼっちは、会話の間や、自己紹介後の沈黙には耐えきれないので、そもそもそういう席は不参加がデフォです。

何の事やら、では恐らく次回で。
たぶん、きっと、投稿するはず。なるはやで来ます
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