真・恋姫†無双 ~護国の蒼龍~(凍結)   作:むこうぶち

9 / 11
第九話『来訪』

「ようこそいらっしゃいました、私は曹操軍筆頭武官を務めさせていただいています満寵です」

「あ、えっと一応天の御使いって呼ばれてます北郷一刀です」

 

『天の御使い』である北郷一刀君が陳留を訪れました。受けた印象としては良くも悪くも凡庸、万人を威圧するような武威も、万象を掌で転がす智者の光も無い。そう、何の変哲もない好青年であると、私には見えます。紫安と久朗殿、伽耶は平常ですが栄華さんの表情には「これが天の御使いか?」とハッキリ顔に出ています。

 

「太守曹操は先刻、賊の討伐に赴かれまして不在。ですので先ずは宿泊場所へとご案内します」

 

ですが、伴ってきた者は全て一廉の人物。孫乾を除けば何れも先の乱で勇名を馳せた武将、知将、軍師。

 

「ですがまぁ、曹操は明日戻る予定。此度の歓待は私が任されましたので、今宵は歓迎の宴と致しましょう」

「あ、はい。ありがとうございます」

 

そして北郷君は本当に聞きしに勝るお人好しだ。普通、こう言った日時を定めて来訪した使者に対し太守不在などと言えば『馬鹿にされた』などと宣う大馬鹿も少なくはありません。むしろこの場合私が言い出した歓迎の宴は本来、時間稼ぎと機嫌取りを大っぴらに行うようなもの。それを素直に歓迎されていると受け取るとは・・・・

 

 

―――――――――

 

「満寵さん、ここにいたんだ」

「おや北郷君、貴方こそどうしたんですか?」

 

夜に入り宴が始まれば、急遽の討伐に随行した春蘭、秋蘭、舞歌と第三城砦へと駐屯している劉備兵に振る舞い酒を搬送していった赫と真桜(李典)を除く全ての主要人物が宴へと参加していました。趙雲と歌音は何やら互いに通じるところがあったようでまるで数十年来の友人かのように手を取り合い、桂花や流琉、凪(楽進)をからかっています。孫乾と伽耶、沙和(于禁)は互いに共通する話題があったようで話が弾んでいます。諸葛亮は旧友である灯里と旧交を温め、紫安や久朗殿、恭、詩季と廖化の比較的軍務に対し真面目な組が軍略談義をしています。

 

私は、と言えば結局あぶれてしまいました。そこで同じくあぶれていた颯と飲み直そう、と言う話になり中庭の東屋で颯を待っていたわけですが。

 

「いや、あぶれちゃって」

 

何となくですが、おかしくなってしまいました。劉備軍の長の片割れである北郷君、太守代行を務める事もあり事実上陳留の次席たる私。その二人が揃ってあぶれるとは。

 

「では私と少し話をしませんか?今部下に酒と肴を取りに行かせていますから」

「じゃあお言葉に甘えて」

 

私の差し向かいへと座る北郷君、そこへちょうど頃合をはかったように颯が戻って来る。

 

「おっと、お一人さん追加ですかぃ」

「足りないのかい?」

「いんや、二人でちょいと多いぐらいでしたんで問題ありませんでしょう」

 

酒壺を卓上に二つ、干し肉と果物の乗った皿を幾つか卓上へと置き颯は私と北郷君への中間を取って座ります。

 

「さて北郷君、ここにはこの三人しかいません。貴方の、来訪理由をお尋ねしましょうか」

 

私が単刀直入に、と問いかければ北郷君は顔色一つ変えずにこちらへと視線を向けます。ただのお人好し、と言うだけでもなく中々に胆力もあるようです。

 

「平原と陳留の同盟、それが無理なら不可侵条約」

「成る程、概ね予想通りではありますね」

「あるいは」

「?」

「陳留が平原に対し敵対しない、そう明言してくれるだけでも良い」

 

思いのほか頭も回るようですね。確かに、僅かな可能性として私たちと袁紹が共同歩調を取る可能性もありました。まぁ、華琳様と袁紹との険悪さを考えればあり得ない話ではありますが。だが知らぬ者からはあり得る可能性、だから北郷君らは最低限の成果として言質を求めた。

 

「そちらの考えは概ね理解しました。まぁ曹操様はその申し出を受諾されるでしょう」

「ホントですか!?」

「ええ、元より曹操様と袁紹は犬猿の仲。今はまだ、ですがいずれは衝突するでしょう。それに際して脇を突ける位置にいる劉備軍との同盟は願ったりです」

「そういやぁ、ご主君と袁紹が犬猿の仲たぁ聞いてましたが・・・・そこまで険悪なんですかぃ?」

 

颯の言葉に私は静かに頷きます。

 

「ただまぁ、根本的に仲が悪いわけでは無く・・・・そうですね、一種の同族嫌悪も入っているのかも知れません」

 

そう言って私は以前に酔った華琳様から聞かされた私塾時代の数々の逸話を語って聞かせました。二人で同じ同窓の女子を取り合った事、その女子が婚姻を結ぶ段になって花嫁泥棒に及んだ事、その他もろもろです。本当に、聞くだけでもやんちゃなもので。

 

「曹操が女好きって本当だったんだな」

「しかも花嫁泥棒たぁ・・・・破天荒だったんですなぁ、ご主君も袁紹も」

「その二人が揃って今では太守だと言うのだから世の中とは不思議なものだと私は思うよ」

 

幼少期より品行方正に生きてきた者、と言うのは不思議と大成せず凡庸に生き、幼少期より品行不良に生きてきた者は不思議な事に大成するものである。かの高祖劉邦などがその例でしょう、高祖は青年時代は酒浸りの女遊びばかりで不良として有名だったようです。ですがその不良青年がいつしか役人となり、上官殺しと言う大罪を経て何時しか楚の基幹を担う将となり、一度は項籍によって漢中と言う僻地に押し込められるも韓信、張良の新たな人材を迎え入れついには天下統一の偉業を成し遂げるまでに至った。『憎まれっ子世にはばかる』と言う言葉はまさしく真理だと私も考えています。

 

「不思議と言えば先生、アンタぁどういった経緯でご主君に仕える事になったんです?両夏侯と曹一族、猫軍師と狐軍師、前髪パッツンとかは何となく話は聞きますが先生の話だけは聞かねぇんですよね」

「あ、それ俺も聞いてみたいです」

「あまり面白い話でも無いのですが・・・・」

 

本来、箝口令でも敷いて然るべき経緯なのでしょう。そうでなくとも余所者とでも言うべき北郷君の前で語るべき事ではありません、ですが私は敢えて語る事にしました。異邦より訪れたと言う北郷君、恐らく彼はこの国がどこまで腐食しているのかを理解していません。だからこそ、その一部でも理解してもらえればと思うのです。

 

―――――――――

 

「以上が私が仕官するまでの経緯だよ」

「それぁ・・・・」

「・・・・」

 

颯も、北郷君も、信じられないと言った様子でした。異邦の出である北郷君は当然、また颯も荊州の出。荊州は州牧劉表による独立国家、と言っても過言ではありません。陸運、水運の要であり人も物も集まり、十常侍らと対等にやり合うだけの力もあります。その荊州出身である颯も中央の腐敗は知らなかったのでしょう。

 

「北郷君、それに颯も良く聞いて下さい」

 

実のところ、『黒騎兵』に招集した若手で私が最も期待しているのが颯なのです。『黒騎兵』に所属する者は二種類に分類されます。

 

一つはかつて賊だった者、紫安と恭、それと兵の三分の一がこれにあたります。

 

一つは軍属として上がってきた者、久朗殿を筆頭とし歌音、詩季、赫がこれにあたります。

 

そのどちらにも当て嵌らないのが颯です。元々、颯は荊州での仕官が叶わず一旗挙げるつもりで中原を目指していたようでした。ですが物の見事に行き倒れ、そこを保護したのが私でした。

 

『腕っ節はそこそこ、兵法もそれなりに学びましたよ。まぁ指揮は現場で学ぶし経験も今から積みますんで、だから俺を使っちゃくれませんかね?』

 

今まで、美辞麗句を並べ心にもないお世辞を並べ仕官を叶えようとする者は数多見てきました。ですがここまで堂々と自らに不足した部分を並べながらも、使って欲しいと頭を下げる者は初めてでした。不足した分はこれから学ぶから、だからと。

 

気が付けば快諾していたのを覚えています。妙に面倒見が良くて、それでいて学ぶ事に貪欲で、一時は兵法を学ぶために桂花や灯里、舞歌に土下座をしていた事さえありました。剣術を学べば春蘭に吹き飛ばされ、弓術を学べば秋蘭に身体の急所と言う急所を射抜かれ、内政を学べば栄華さんに言葉で凹まされ、それでも折れる事なく前へ前へと進む。かつての私を見ているようでした、だからこそ期待しているのです。

 

「朝廷の腐敗を知り官を辞し、謂れ無き罪を着せられ罪人として拷問を受ける屈辱を与えられ、それでもなお私が今ここにいるのは願いがあったからです。今現在、既に漢と言う枠組みは形骸化し事実上の群雄割拠まで僅か数歩進むだけの状況です。何か一つのきっかけがあればそうなるでしょう。だからこそ、私は中華を『どんな形であれ』統一したいのです」

「『どんな形であれ』、ですかい?」

「ええ、極論。中華が一つに纏まるならば一時的に酷い騒乱になる事も覚悟の上、その業もなにもかも一切合切我が身を以て受けましょう」

「でも!それはっ」

「北郷君、貴方は異邦の人間。貴方が何を思い、考え、劉備に手を貸しているかは分かりません。ですが、そこに貴方の思いと覚悟が無ければそれは貴方にとって苦痛でしかありません」

 

他人に言われるがままに動き、他人の思いを自らの願いと勘違いしてしまえば楽なのでしょう。ですがその事実は何れ否応にも立ちはだかります、それまで逃げてきた事の何十倍もの辛さと厳しさを伴って返ってきます。少し話をして分かりました、本当に北郷君は弩級のお人好しです。その上で聡く、鋭い。一応は同盟を結ぶ事にはなるでしょうが、その後の関係がどうなるとしても私は彼には潰れて欲しくないのです。

 

「それを良く考える事です、そして何時か聞かせて欲しいとも思います。貴方の理想と覚悟を、貴方なりの言葉で」

「・・・・はい」

「颯も、私への恩義だけで働くのは何れ限界が来ますよ」

「・・・・分かってますって」

 

颯にもそれは言える事、今までは拾ってくれた私への恩義、と言う形で付き従ってきました。ですがとうの昔にそんな恩義の分は返しきっています、今後も颯が曹操軍で采配を振るい続けるならば確固たる信念が無ければ兵も、部下も付いて来てはくれません。

 

しかし、華琳様にもそう言う節はありましたが私にも悪い癖が伝染ったんですかね?北郷君と言う敵に回れば面倒な大器の成長を促すような真似をしてしまうなんて。

 

「まぁ、それもまた良し、としておきましょう」

 




第九話でした。

実は文聘:颯も物語的に主要人物、と言うネタバレをかましてみたり。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。