メダロット2 ~クワガタVersion~   作:鞍馬山のカブトムシ

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26.スカートめくりとドタバタ文化祭

 夜のニュース。

≪最近世間を賑わせている怪盗レトルトとロボロボ団ですが、怪盗レトルトに関して新たな情報が入手できました。怪盗レトルトには、メダロット以外の相方がいるとの情報です。目撃者の証言によると、赤いマントと赤いレオタードのようなスーツを着たダイナマイトボディのマスクを付けた女性が怪盗レトルトと共に行動していたとのこと。警察やセレクト隊では、密かに彼女のことを『魅惑の怪盗レトルトレディ』と呼んでいるとか。

 証言をしてくれた一人のメダロット社勤務のKさんは、『私は彼女のことをコマチと呼んでいます。えっ!? 何となくですよなんとなく。だって、顔は見てないですけど、綺麗な感じな人でしたもの』と語っていた≫

 

 イッキたちは怪盗レトルトやロボロボ団の動向も気になったが、次のニュースはもっと気になった。ところで、Kさんって誰だろう? 何だか、知っている人のような気がした。

 

≪メダロット界の権威の一人。ヘベレケ博士が新開発した石とは!?

 博士によると、この石を使って巨大な浮遊移動物体を開発し、贈り物を持ってアメリカに渡航するとのこと。今年の冬には完成を見込んでいて、一般人の方を数名ほど招待する予定のようです。抽選応募予約はこちらから。博士所属の研究団体のHPからでも受付はできるそうです≫

 

 ニュースは三十秒間応募予約の記載を表示した。

「ロクショウ! ちゃんと記録したか!?」

 ロクショウは一つ頷いてみせた。こういうとき、メダロットの記憶機能は便利だ。イッキは早速手書きの応募予約を書くことにした。

 

        *——————————————————*

 

 御神籤町の小学生が口に出せば上る話題といえば、二つ。一つはなんといっても文化祭だ。今年の三年一組はたこ焼き屋と演劇の二つに決まった。

 演劇はオトコヤマが四組の畠田先生に対抗意識を燃やしたため。たこ焼き屋は、演劇のついでに何かもう一つやってみようと提案され、飲食店が多くを占めた。何故たこ焼き屋になったかといえば、イッキが率先してたこ焼き屋を推したのだ。

 どちらかといえば隅っこでじっとするタイプであるいつものイッキらしからぬ気迫に生徒は気圧され、オトコヤマはお前の熱意に感動したと筋力トレーニングしながら賛同したので、演劇のついでにたこ焼き屋をやることになった。

 イッキの一番好きな食べ物はカツカレー、次いでたこ焼きとくる。またまたどうして豚カツではなくたこ焼きにしかと聞けば、ママの豚カツを再現するのはまだ不可能だからだ、と。

 

「なーんていえばいいのかな? イッキのお母さんの豚カツはお惣菜の類はもちろん、美味いと噂されている豚カツ屋さんのカツより美味しいからというしかないわね」と幼馴染であるアリカはクラスメイトにこう語る。

 

 ロクショウ、光太郎、トモエは驚いた。以前、たこ焼きは地球を表していると言っていたが。あの大人しいタイプのイッキがこうも変わるとは、彼のたこ焼きに対する拘りはどこから来ているのだろう。

 飲食店担当と飲食店と演劇を兼ねたイッキを含む十名の生徒は、文化祭当日までイッキのたこ焼き製法を教えられた。嫌がる者はいなかった。イッキのたこ焼きへのメダロット並の情熱と教え方が真面目だったからだ。

 かくして、一組は飲食店と演劇を一手にすることになった。このことに、校長とナンテツは喜んでいた。

 

「ふむ、校長。三年生は根性がある生徒たちが多いようですな」

 

 ナンテツは飛車の駒を摘まみ、将棋盤に置いた。校長はナンテツの指し手を見て苦渋に満ちた顔をした。

 

「うむ、そうじゃな。十年前の当時、三年生だった彼を思い出すよ……。ナンテツ、少し待っとくれ」

「いつでもどうぞ」

 

 ナンテツは悠然とした態度で、校長の次なる一手を待った。

 

 

 

 第二の話題は町全体共有である。それは、スカートめくり。九月中旬頃、中学生のスカートがめくられたのをきっかけに、十月に入るまで老若男女併せて八名が被害に遭った。男も入っている訳は、男なのに女性キャラクターのコスプレをしたり、オカマの方も入っているため。被害の半分以上は男性であった。

 犯人はメダロット。そのメダロットはスカートをめくった後、「俺は怪盗様方の相方だぞぉ!」と叫んでいたらしい。メダロットが叫んだ言葉からして、犯人は怪盗レトルトと例のレトルトレディの犯行ではないかと推測された。

 ネットでは、怪盗痴漢やレトルト痴女(れで)ィなんて書き込みまで現れた。

 怪盗レトルトにあまり良い印象はないが、少なくともロボロボ団とは関わりがないと信じていただけに、こんなロボロボ紛いの犯行が真実だとしたら、残念だ。

 アリカはそう考えなかった。アリカは怪盗という単語とその存在にジャーナリストとして強く惹かれ、怪盗レトルトが関係した事件は詳しかった。アリカはこの犯行には何か大きな裏があるちに違いないとイッキを連れて町内を駆け回り、怪盗レトルトに関する証言を集めた。

 アリカとブラスたちが集めたデータによると、怪盗レトルトの犯行は犯罪者のゴールデンタイム、夜の八時から一二時の間に行われるが殆どであるが、今回の犯行は場所・時間帯を拘らずに行われている。

 アリカの見立てでは、しょうもない事件を連続で起こした隙を見計らい、裏でもっとでかいヤマを狙っているに違いないとのたまってくれた。

 

「怪盗関連の犯行とは限らないだろ? ひょっとしたら、どうせロボロボ団がしょうもないことをしているんじゃないの?」

 

 そう言ってみたものの、アリカはイッキのこの言葉には耳を傾けた様子はなかった。しかし、誰も予想しえなかった。まさか、このスカートめくりが後に騒動の火種になるとは。ただし、騒動といっても、花園学園の時のように下手したら命に関わる程のことではない。

 主に、イッキや一部の者にとって、恥ずかしくて語りたくない黒歴史に入る程度の騒ぎである。

 

 

 

 十一月文化祭前日。ロクショウとトモエは演劇、イッキと光太郎はたこ焼き屋に専念。であるが、イッキは嫌がった。たこ焼き屋をやること自体が嫌なのではない、恰好が嫌なのである。

 イッキにたこ焼きの製法で厳しくしごかれたクラスメイトは、ちょっとした復讐に、イッキにある物を着させようと計画した。その計画とは、イッキを女装させようという計画だ。

 どんな女装がよいか? 普通な感じ? メイド? セーラー服? スカートだけを履かせる? 提議した結果、メイド服かスカートを履かせるかのどちらかになった。文化祭前日、クラスメイトはさあどれか選べと彼に迫った。

 

「ちょちょちょちょ、ちょっと待ってよ! 僕一人だけが仮装するの?」

「いや、俺たちもするから安心しろ」

 

 彼らもそこまで鬼ではなかった。幾らなんでも一人では可哀想だと、彼らも仮装はすることにした。だが、男子生徒は男子生徒らしい仮装をして、女子生徒は女子生徒が好む仮装服を着る中、男子であるイッキ一人が逆な性別の服を着るのはさぞかし目立つだろう。

 これを話すと、ママやパパは笑って答えた。パパに至っては、カメラを引っ張り出してきた。

 

「そりゃいいや! 女の子の気持ちを知る良いチャンスじゃないか。将来の良い想い出と話のネタになるじゃないか。よし! イッキのその姿をちゃんとカメラに収めてやろう。それとも、今撮るか?」

「着るにしても明日だよ!」

 

 それは残念と、パパはカメラを置いた。他人事のように思ったが、他人事といえば他人事だな。だが、あそこまで教えたのに今更、後には引けない。翌日、イッキは暗い思いで文化祭に挑んだ。

 

「では、少しの間お暇させてもらう」

「暇を見つけたら、手伝いに行きます」

 

 教室で、ロクショウとトモエは演劇担当組に同行した。光太郎がたこ焼き担当に選ばれたのは、彼が年長者であるから(イッキら三年生生徒とそのメダロットより年上)。

 また、彼の前の保持者はガソリンなど危険物を扱う仕事に就いていたので、光太郎自身がそういう扱いはそれなりに心得ている。保護者から火を扱うのは大丈夫かといわれたりもしたが、オトコヤマや校長は大丈夫ですと判を押した。

 今日は絶好の快晴な文化祭日和である。朝の挨拶は手短に、三年一組とオトコヤマは機材を外の野営テントに運んだ。飲食店は意外に少ない。小学生には火の扱いが難しいだろうという理由で、グランドの飲食店は全学年で三組。校内で二組。残る学年や組は、工作やら観察日記の類を展示、簡単な製作物の販売が比重を占めていた。

 いよいよ、腹を括るときがきた。夏休みで関わったしまった二つの事件とはまた違う覚悟が要りそうだ。他の生徒は仮面ライダーやウルトラマンのパジャマ、お姫様や魔法使い的な恰好の者もいれば、アリカのように渓流釣りのおっさんみたいな恰好など、おおよそ小学生らしからぬコスプレをする者もいた。

 文化祭の開会式は九時、文化祭のスタートは十時、三年一組のたこ焼き屋は昼時の十一時からスタート。文化祭の終了は三時十分を予定としている。

 演目のプログラムは七組。十時は一年生一、二組によるピーター・パン。十分の休憩が入り、十時四十分は二年二組のロバの王様。十一時は四年三組の桃太郎で、十一時半は三年四組の白雪姫。姫役は、やはりキクヒメであった。そこで休憩を一旦挿み、十二時五十分から三年一組の劇が開幕。演目は異世界に紛れ込んだ少年が海賊たちと出会い、その豪放磊落な海賊たちに拾われて旅をする、ある絵本を元にした演劇だ。

 演技もそうだが、舞台セットの制作も大変だった。背景は木やダンボールに絵具を描いただけのものだが、算数が得意な先生に配色を設定してもらい、その配色通りに塗って張り合わせるのは苦労した。

 部屋や海は、ダンボールでそれっぽく造ったり、教室の椅子やら適当な絵で誤魔化すことにした。メダロット達にも協力させて、文化祭十日前には舞台セットは完成した。

 五年二組はスーホの白い馬ときて、肝心の六年生であるが、今年も六年生たちの優勝で決まりかもしれない。

 

「確か。六年生は卒業を記念に、総がかりで夏休み前から映像作品を作っておるのやな」

 

 二脚タイプの足を着けた光太郎が機材の入念なチェックとセットを行いながら聞いた。

 

「うん。毎年、文化祭最優秀賞ってのが送られるんだけど、いつも六年生で決まることが多いんだ。例外もあるけどね。でも、結構本格的にやっていたし、今年もどう考えても、六年生たちが賞を貰うんだろうな」

「まあ、出来レースだろうとなんやろうと。わいらはあんたが懸命に、同級生に一から作り方を叩きこんだたこ焼き作りに専念するだけや」

 

 学校の鐘が十時を知らせた。文化祭の開園だ。そして、いよいよ本当に覚悟しなければいけないときが来た。パパはカメラを持ってくるんだろうな。

 

 

 

 十一時、一組によるたこ焼き屋の開始。ジョウゾウはとんとんとチドリの肩を突き、グランドにある飲食店販売コーナーを見るよう促した。チドリは手を口に当てて笑いを堪えた。

 

「あらあら。随分と可愛らしい使用人さんだこと」

 

 コスプレ集団の三年生たちの中に、女性使用人姿のチョンマゲ頭の男の子が見られた。恥ずかしさもなんのその、彼はメダロットと共にたこ焼き作りに懸命に励んでいた。

 渓流釣りみたいな恰好をしたアリカがシャッターを切った。アリカは新聞部員として学内の文化祭の光景を撮りまくっていた。

 

「似合ってるわよ、イッキちゃん」

 アリカは悪戯っぽく笑って、もう一度シャッターを切った。

「うるさいなあ、邪魔するならほっといてくれ」

 

 半ばやけっぱちにメイド姿のイッキは語気を荒げ、たこ焼きを作り続けた。パパとママが来て、たこ焼きを買い、一枚いいかと言うと、クラスメイトと一緒に撮影された。

 今日、この日の姿が一生残るのか。イッキはめげずに手を動かした。開始数分でたこ焼きの売れ行きは上々だ。

 食べた人が口コミで意外と美味いと伝わり、この分だと、同クラスの演目が始まる前には完売するかもしれない。

 十一時半過ぎ、ロクショウがトモエを伴い戻ってきた。ロクショウの頭には海賊ハットを模したダンボールが被せられていた。ロクショウは少々呆れた感じに、くくと苦笑を漏らしていた。

 

「四組の演劇は中々見物だった。特にスクリューズのキクヒメという子の演技はな。やや過剰というか浮いていた。もう少し自然体に演じられればなあ。四組全体は喜劇感覚で白雪姫を公演しているようだしな」

 

 やけに体育館が騒がしかったのはそういうわけだったのか。ロクショウとトモエは最終調節とやらが済ませて、手持無沙汰な様子だ。二人に手伝いを頼もうとしたとき、光太郎が「あれを」と袖を引いた。

 校門を見ると、血相を変えたコウジがアーチェを連れてやってくるではないか! これは不味い。こんなコスプレ、見られたくない。更に、カリンちゃんも後を追ってきた。最悪だ。カリンちゃんにも見られてしまう。こっそり抜け出そうにも、この人数の目がある中では難しい。だが、どうしてコウジとカリンちゃんはこの学校の文化祭に訪れたのだ。そこを知りたい気もした。

 

「ロクショウ頼む。二人がどうして来たか聞いてくれないか? あと、僕が今ここでこうしてしていることは伏せてくれ」

「受けたまわろう」

 

 ロクショウは淡々とした調子で応じて、三人がいる校門付近に向かい、少し気を抜いた感じに挨拶した。

 

「こんにちわ。コウジとアーチェ、カリン殿は今日どうしてここに来られたのだ?」

「お前か」

 

 コウジはロクショウをちらと見た。心ここにあらずといった感じで、コウジはグラウンドをきょろきょろと見回した。その眼は怒りで燃えていた。

 

「どうしたのだ? そのように眼を怒気で充たして?」

「うるさい! 今それどころじゃないんだ。奴をとっちめてカリンに謝らせなきゃ気がすまねぇ! イッキはどこだ? あいつにも協力してもらいたい」

「う、うむ? イッキなら、今はたこ焼き屋で忙しく手を動か……」

 

 ロクショウはコウジの並ならぬ剣幕に押され、ついたこ焼き屋をやっていると口を滑らしてしまった。コウジは一直線にアーチェと共にたこ焼き屋に向かってダッシュした。ロクショウはそっと、何があったのだと俯きがちなカリンに聞いてみた。

 

「実は。イッキさんたちの学校で文化祭が行われているとお聞きしましたので、ここから歩いて三分先にある駐車場に車を停めたときのこと……あの…」

 

 カリンはもじもじして、物がつっかえたような重い口調で事情を話した。

 

「女性に対してその行為は確かに許し難い!」

 

 ロクショウはうむと頷き、ロクショウとカリンもたこ焼き屋に行くと。さっきの怒りはどこへ消えたのやら、コウジと何故かスクリューズもイッキを笑い物にしていた。

 

「笑うなってば! これも立派なし、仕事なんだから」

「あはははは。わ、悪い。怒りに任せて、あまり何も考えてない状態で見ちまったから」とコウジ。

 

 イッキは恨みがましくロクショウを見た。ロクショウは決まり悪そうに下を向いた。

 

「そうだよ。結構似合うわよイッキちゃん」

 

 純白のドレスに身を包み、紫の羽飾りで作られた扇で上品な感じに口を隠して笑うのはキクヒメと妖精の羽を付けたセリーニャ。その両横で、髭を生やしたまるでサンタクロースのような恰好をしたドワーフ小人役のイワノイ、カガミヤマも高々と笑っていた。

 

「そうそう、案外そういうのが似合っていてほんとびっくらこいたぜイッキちゃん」

 

 腹を抱えて笑うイワノイ。

 

「うんうん! きちんとした選択ができたようだね」

 

 上手い具合に洗濯と選択を例えられたカガミヤマ。追い打ちかけるように、暗い顔のカリンちゃんもくすりと笑い「イッキさん。お似合いですよ」と言ってくれた。

 オトコヤマが邪魔だぞと注意するまで、スクリューズはその場から去ろうとしなかった。コウジは一息つくと、イッキの姿を気にしないよう心を改めて向き直り、小声でイッキに用件を伝えた。

 

「手を空けられるなら来てくれ。カリンのすかー……」

「何!」

 

 イッキは手を忙しなく動かしながら聞いた。

 

「だから! ついさっき、カリンのスカートをめくった犯人がここに入るのを見たんだよ。その犯人捜しを手伝ってくれないか?」

「手伝いたいのは山々だけど」

 

 三年一組のたこ焼き屋台は想像以上に繁盛した。そのため生徒やオトコヤマ、光太郎のように屋台を手伝うメダロットたちは目まぐるしく手と体を動かし、休もうにも休める暇がなかった。イッキは右肩を示すようにくいと持ち上げて、有様を物語った。

 

「そうか。これじゃあ無理だな。いきなり押しかけて済まない。したかねぇ、アーチェ以外も転送して探すか」

 

 コウジは場所を他の人に譲り、ある程度スペースがあるグラウンドの隅で転送をしようとしたとき、子供の悲鳴が上がった。あの声の主は、キクヒメらスクリューズの三人だ。

 

「こぉんらぁーー!! どっこのどいつだ! 乙女のスカートもとい、ドレスをめくる不届きな野郎はぁ!?」

 

 瞬間的に怒りが有頂天に達したキクヒメは当たり構わず怒鳴り散らした。子分のイワノイ、カガミヤマは親分であるキクヒメのとばっちりをくらうのを恐れ、ただ手をこまねいていた。

 

「イッキ、ロクショウ。ここは私が替わろう。だから、気になるのならば少しを様子を見てきたらどうだ? カリンさんはこの近くでお待ちを」

 

 フレイムティサラことフレイヤがグラウンド上空を飛んでいた。アリカがトラブルの臭いでも嗅ぎつけたのかもしれない。

 イッキはオトコヤマとクラスメイトに一言断り、一先ずトモエに現場を任せて、キクヒメが叫んだ五年生販売コーナーの裏手へ回ろうとしたら、白と黒の布が眼前に広がった。何やら、きらりとカメラアイと思しき物が目に映った。

 周囲の人が自分を見つめる。何が起こったか判らず硬直した。本当は判っている。ロクショウがわざとらしく咳払いした。

 

「ごほん! まあその、誰もそこまで気に留めてはいないと思うぞ」

「いうな!」

 

 頭を抱えて、キクヒメのように当たり構わず叫びたくなった。

 恥ずかしさのあまり赤面しているのが自分でもわかる。よりにもよって、自棄糞でこんな服を着た日に。こんな忙しい時間帯で、人がいるときに限ってめくられてしまうとは。何たる恥辱!

 ロクショウの行くぞとか。何を立ち尽くしておると急かされても耳に届かない。が、ぷつんと糸が切れた。緊張の糸ではない。大人しいタイプのイッキの理性の糸がぷつりとだ。

 

 

 

「俺は怪盗様方の相方だぞぉ! 今日も世界平和のためにスカートをめくらせてもらいうけたぞ」

 

 イッキ、コウジ、スクリューズは着の身着のまま、声を頼りに犯人を追いかけた。今のコウジ。それ以上に、イッキとキクヒメの頭には自分達がどんな恰好をして町中を走っているなど蚊帳の外。犯人のメダロットは角を曲がると、廃工場の壁を越えた。相手のほうが早くて、追跡者たちは犯人が角を曲がったところで見失った。

 

「どこにいきやがった!」とコウジ。

「こっちだ」

 

 イッキとキクヒメ。この日ほど二人の息と勘がぴったりと会う日はあったであろうか。

 二人の勘は的中し、小学生とそのメダロットたちは廃工場の壁を乗り越えた。廃工場の壁を乗り越えた途端、衝撃的な対面にイッキとコウジ、キクヒメとイワノイにカガミヤマは怒りも全て吹き飛んだ。

 廃工場の壁先には、ロボロボ団たちと怪盗レトルトともう一人。ピンクがかったマントと赤いレオタードを身に着け、赤いマスクを付けたくびれた体型の女性がいた。

 

「だ、誰?」

 

 イッキのその言葉を待ってましたといわんばかりに、女性は自己紹介を始めた。

 

「咲かせましょう、お米の花。散らしましょう、悪の花。天から舞い降りた美少女メダロッター……怪盗レトルトレディ只今参上!」

「同文。怪盗レトルトも参上!」

 

 レトルトレディはノリノリな自己紹介をしたが、怪盗レトルトは乗り気ではないようだ。

 

「前置きは言わないの?」

 

 イッキは怪盗レトルトにそっと聞いてみた。「少年よ。物事はいつも自分の思い通りに動くとは限らない。この私のようにな」

 

 どういう意味があるのだろう。それにしても、白昼堂々怪盗二人が現れるのはショッキングだが、どうも怖さというか、それらしい雰囲気がなかった。レトルトレディが割り込んだ。

 

「お話中すみませんことお二方。で、どこに行く気なのロボロボ団の皆さん」

 

 金魚鉢ヘルメットを被ったチャック付き白タイツを着た三人と一体のメダロットはこそこそと、逃げ出そうとしていた。

 

「逃がしはしない。人を痴女と書いて、レトルト痴女(れで)ィとネットで広まる原因を作った奴らは絶対」

 

 レディの声の端々には怒りがこもっていた。レトルトレディも、ロボロボの今回のしょうもない事件には迷惑していた。

 

「れ、レディ」

 

 イッキは怪盗レトルトがとても小さく見えた。あの怪盗レトルトが、恐ろしそうな様子でレディに呼びかけている。この二人のやり取りは、身近な光景とどこか重なって見えた。

 

「観念しなさい! やった理由はなんなのよ!」

「白状するから勘弁してロボー!」

 

 一人がレディの威圧感に押されて口を開き、事件の事情を暴露した。その事情があまりにも馬鹿馬鹿しすぎて、イッキとコウジは、この前の凶悪な花園学園占拠事件を起こした同一組織の犯行とはにわかに信じがたかった。

 

「女の子のスカートをめくり、もてない男子に夢と希望を与えて、同時に組織の恐ろしさをアピールするためにしたロボ。ボスの命令ロボよ」

 

 空気が抜けた風船のように怒りが抜けていく。裏もなにもない。今回のロボロボ団は、いつもの悪戯お間抜け集団らしいロボロボ団にしか過ぎなかったのだ。とはいえ、このまま見逃すわけにもいかない。

 小学生たちが行動するよりも早く、レトルトレディが前に出た。レディの腕はぷるぷると震えていた。レディはキッと面を上げた。あのときの怪盗レトルトとロボロボ団の狼狽ぶり、一体、レディはどんな表情を見せたのであろう。

 

「全く。まだ裏になにかあるというほうがよかったわ。ほんとーに! たんなるスカートめくりが目的だとはね。わざわざ休日返上してきたのにそれだけとはね……あんたらのせいで、あんたらのせいで私の華麗なイメージが台無しよ! 変な加工画像も流れているし」

「あっ! それは俺が暇だからやったロボ」ロボロボの一人が手を挙げた。

「馬鹿!」

 

 と、片方のロボロボがそいつの頭をどついたが、手遅れだった。レディはぞっとする笑みを浮かべた。

 

「君たち、ここは危ないから逃げたまえ。ロボロボ団ではなく、レディのほうがだ」

 

 小学生とそのメダロットたちは言われるがまま、壁を乗り越えた途端、ロボロボ団とそのメダロットたちは一様に恐怖の悲鳴を上げていた。どさりと、誰かが壁から落ちた。アリカだ、いつの間に後を着けてきたのだろう。

 

「アリカぁ。一体何が起きているの?」

 

 アリカはイッキの質問には答えず、短く二言「一瞬見たけど……世の中知らないほうがあってもいいわよね」と返した。

 しばらくして、レトルトとレディが壁を乗り越えた。レディはくるりと振り返ると、投げキッスをして立ち去った。レトルトもくるりと振り返ってかっこよくのはずが、マントの裾を踏んで素っ転んだ。アリカはすかさずその瞬間をカメラに捉えた。

 

「あいたた。ごほん! では、さらばだ子供たちよ。また近いうちに会うこともあろう」

 

 イワノイとカガミヤマは壁の様子を窺うと、言葉を失くした。廃工場の面積の一部はナイフで削いだような状態になっており、そこで気絶していたロボロボ団とメダロットたちはセレクト隊に逮捕された。

 二人の怪盗が去ったあとを、全員ぼけっとした顔で見つめていた。

 

「結局なんだったのこれ?」

「俺が聞きたいよ」

 

 隣の同じく呆けた顔のコウジが言った。セレクト隊のサイレンが聞こえたので、急ぎここから離れることにした。非協力的だといわれようと構わない。いちいち証言するのも面倒臭く、何がどう起きたのかイッキたち自身も訳が分からなかった。ただ一つの一点を除いて。

 イッキやスクリューズは、今更自分たちがどんな格好をして追いかけてきたかを思い出すと赤面した。コウジが苦笑交じりの笑顔で慰めた。

 

「ま、そんなに落ち込むことはねぇよ。少し経ったら、皆忘れるだろう」

 

 あんまり慰めにならない言葉だった。イッキとスクリューズは固まって歩いたが、それは逆効果であり、学校へ戻る道のほうがより目立つ形になってしまった。

 後日。イッキとスクリューズの顛末は文化祭に替わる話の種となり、向こう一カ月は話題の対象になった。たまにはこんな日もあろう。

 

「そう恥ずがしがるな。私は、その、そんなに変とは思ってはおらん」

「じゃあ、なんで離れているの?」

 

 ロクショウとコウジたちは、自然とイッキたちに距離を置いて歩いていた。

 

「済まん。私は演劇の用件があるので失礼する」

 

 学校に着くやロクショウは申し訳なさそうにさっさと一行から離れて行き、トモエも連れて三年一組が居る体育館裏の演劇組の方に向かった。気の毒であるが、まずは舞台に集中しよう。すまなんだ、イッキよ。

 こうして、スカートめくり事件は平穏無事(?)に解決した。

 




*相違点
・スカートめくり事件は本来、原作ゲームの序盤に起きる事件。その事件で、コウジとカリンの二人に巡り合う。
・キララとの出会いが遅い。
・文化祭がある(文化祭などの行事はあるはずなのだが、どのメディアでも、それを題材にした話は一度として描かれることはなかった。せっかくなので、この機会を利用して、メダロットに関する普通な学校行事の話を作った)。

なお、イッキの女装ネタは、ゲームでは頻繁によくあるネタですが、この中では今回の話に限られたことであり、二度はありません。
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