ヘタレ系悪役一家の令嬢に転生したようです。 作:eiho.k
ちょっとだけ頬を膨らませながら、私は朝食の席についています。はい、まだ昨夜の件が尾を引いているのです。というかですね、余計なことを考えてしまって、余計にぷりぷりしてしまっているのです。なんだか私、いつも通りには程遠いです。睡眠不足なんですかね?
普段の私ならですね、一晩寝て起きたら前日の嫌なことなどは忘れてしまうのですよ? ですがどうにも昨夜のことは忘れられないのです。時間が経てば経つほど怒ってしまうのです。
せっかく三食の中で1番美味しい朝食の席ですのに。怒りながら食べるご飯は消化に悪いのですよ! 全くもう! 後で私のお腹が痛くなってしまったら、それもきっとフレッドくんの所為です!
今日の私はアリシアさんとアンジェリーナさんと3人だけで朝食をとっています。ちょっとだけまだ顔を合わせたくなかったので、早めに部屋を出て、確信犯的に3人分しか空いていない席に座ったのです。賑わっている時間なので、席を移動することも難しいですし朝食の間お話しすることもないでしょう。
今フレッドくんとジョージくんにお会いしたら、どちらがどちらかわからないままに当たりが強くなってしまうかもしれませんからその予防策なのです。お友達と、自分の中で渦巻く感情の所為で仲が悪くなりたくないのです。ただでさえ嫌われるに足る外的要因が私にはたくさんあるのですから、少しでもその芽は摘んでおきたいのです。
ですがそうすぐには折り合いをつけることができません。その所為でしょうね、少しだけお行儀の悪いメニューを選んでしまいます。
テーブルの上には、イングリッシュ・ブレックファストの王道メニューである、卵料理にベーコン、ソーセージ。ベイクドビーンズにマッシュルームやトマトのソテー。ポテト料理にフレークやポリッジ、シリアルにトースト。たくさんの料理が並んでいますが、私が選んだのはクランペットです。
表面にぽこぽこと穴がたくさん空いた、パンケーキの1つで朝食らしく卵料理などと一緒に食べることも好きですが、今日は違います。
怒っている時に最適なもの。そう、甘いものとして朝食をとることに決めたのです。
バターにたっぷりのハチミツをかけて、クランペットにたっぷり染み込ませます。私がお母さんだったら、子供が朝からこんなに甘いものを食べていたらきっちり叱りますが、今はお母様もお父様もいらっしゃいません。それにクランペットと共にハチミツ壺とバターが置いてあるのがいけないのです。
ちょっとだけ言い訳をしながら、私は持ち上げたならきっとハチミツが垂れるほどかかったそれを一口大よりも大きくに切り分けて、頬張るのです。……うう、怒っている時でもクランペットは美味しいです。頬が緩んでしまうのです。美味しいものを食べたら、怒っているのがちょっとだけバカらしくなってきました。美味しいも正義ですよね。
よくよく思い出してみれば、昨夜のアレはきっとフレッドくんの平常運転なのでしょう。そんな彼に振り回されて怒っているのはきっととっても損なことですよね? だって私はフレッドくんのことは息子のように思っているだけであって、男の子として見ていませんし。彼の言動に一喜一憂するなんておかしいですもの。
そうです、私が気にすることではないのです。
彼がああいったことを他の女の子におっしゃったのだとしても、それは私と関わりないこと、のはずなのですから。その結果がどうなるかも、私が関知すべき事柄ではありません。だって私には、もっと他に考えなくてはいけないことがあるのですから。
とりあえず今私がするべきは……なんでしたでしょうか?
──ああ、そうです。必要の部屋の場所を確定すること、そしてそこにある、なんとかレイブンクローさんの髪飾りを手に入れること、です。
今のところ私には壊す手段はないので、集めるだけになりますが……集めておいて問題はありませんよね? 集めておいてダンブルドア校長にお預けすればきっと大丈夫なはずですし。
追々壊すための手段にも手を出した方がいいのかもしれませんが、無理ですよね。私、蛇語を話せませんし。今ホグワーツには誰も話せる方はいらっしゃいませんよね? ……多分いらっしゃらないはずです。ということはバジリスクの毒は手に入れることができませんよね? 他にどんな方法で壊すことができるのかも少し探してみることにしましょうか。見つかるかわかりませんが、努力が大事、ですよね?
色々なことを考えなくてはいけませんが、時間は有限です。朝食ももう終わりですし、授業に行かねばなりません。本日の授業は、一、二時限目が魔法史でお昼を挟んでの三、四時限目が呪文学です。どちらも基本は座学ですね。考え事の片手間で受けられるような授業ではないので、これから先を考えるのは少しお休みしておきましょう。放課後になればできますからね。
クランペットの最後の一口を食べきり、ストレートティーを一口。ダージリンのオータムナル・フラッシュです。リクエストしてみたら出てきたのですが、びっくりですね。こんな高級茶を朝食に……いいのでしょうかね。でもとっても爽やかないい香りで、心が穏やかになります。
時間は差し迫っているとわかっておりますが、ちょっとだけまったりしながら味わって、私は席を立ちます。
ちなみにですね、アリシアさんやアンジェリーナさんが私の両サイドにいらっしゃいますが、今朝は朝の挨拶以降特にお話をしていません。……私の機嫌が悪いことに気がつかれたのでしょうか? いけませんね、周囲に影響を及ぼすような感情を抱いてしまうのは。常にニュートラルでいなけばダメ、です。
私は子供ですが、ただの子供ではないのです。少しでも周囲に良い印象を持っていただかなければいけません。でなければ、なりたい未来になれません! からね。
「アリシアさん、アンジェリーナさん。お食事が終わっておりましたら、授業に行きませんか?」
「え、ええ。そうね、終わってるから早く行かなきゃよね」
「だ、だね」
にっこりと笑いますが、アリシアさんもアンジェリーナさんもちょっとだけ強張った顔をしてらっしゃいます。……私のダメな感情はまだ出ているのでしょうか?
「その、どうかなさいましたか?」
少しだけビクビクしながら問いかけてみます。嫌われてしまったのかを聞くのは、怖いです。ですが心の準備さえしておけば、挫けないのですよ。多分とってもしょんぼりするでしょうけれども、いつでも覚悟はしているのです。
「え? あ、ああ……クランペットがね、少し気になっただけよ」
「クランペットですか?」
「そうそう! どうしてキャシーってばあんなにハチミツ漬けのクランペット全部食べられるの! ハチミツ食べてるみたいなもんだったじゃん!」
「そう、でしょうか? 心持ち少なめにしていたのですよ? ハチミツ、皆さんもお使いになると思いましたし」
「え?」
お2人の言葉にこてりと首を傾げます。テーブルの上にあったのは、私の手のひら2つ分に収まるハチミツ壺でした。多分内容量は300mlほどでしょうかね。それを全部使うのは周りの方に迷惑ですよね? ですから半分だけにしておいたのですが……。やっぱり使いすぎだったのでしょうか。
そうですよね。ハチミツは美味しいですし、他の方もたくさん使いたかったですよね。ですが私的にあの量は最大ではなかったのです。ちょっと妥協したのですが……やっぱりダメでしたかね。
「や、そうじゃなくてさ……そうじゃなくてさ」
「はい、なんでしょう」
「──もう、いいわ。行きましょう、キャシー。授業に遅れるわ。アンジェリーナも諦めなさいよ、キャシーなんだから」
「あ、ああ……そうだよね。キャシーだもんね」
「な、なんでしょう……やっぱりちょっと多かったですか?」
「ああ、もういいのよ。キャシーは気にしないで? 大丈夫、そんなキャシーも可愛いわ」
「まあ、そうだね。大丈夫可愛いから気にしないでいーって」
「そうなのですか? えと、よくわかりませんが気にしないことにしますね」
「そうそう。それでいいのよ。さ、行くわよ」
なんだかよくわからないまま、アリシアさんたちと私は大広間を出ます。結局私はお2人に嫌われていないということでよいのですかね? よいということにしておきましょう。だってアリシアさんも、アンジェリーナさんも笑って私の手を引いてくれていますから。
ちょっとだけ眠くなってしまう魔法史の授業を受け、また大広間に向かって昼食をとって、向かうのは4階にある呪文学のお教室です。ちなみに授業もアリシアさんとアンジェリーナさんの間に座りました。しかもわざわざ1番前の席を取りましたから、いつも後ろの席に座るフレッドくんやジョージくんたちからは離れた席です。インターバルってきっと大事ですよね。
杖の動かし方、呪文の発音の仕方。口頭と実演を交えて進む授業はとっても興味深いです。人が変わると、教え方も変わるというのは本当ですね。
お父様やお母様は、かなり厳しく教えてくださいましたが、少しだけ難しい呪文や杖の振り方などを教えてくださっていたので……完璧には振れないのです。もちろん呪文は覚えてはいますが。しかも杖の振り方は1度か2度ほどしか教えてくださらないのですよ? ちなみにスネイプ先生も魔法薬学の個人授業の合間に少しだけ教えてはくれました。が、上手く薬を調合できないと、教えてくれませんでした。
なんだか今思い出すと私の周りにいた大人たちは、ちょっとスパルタ過ぎるのではないかと思います。
でもですね、上手くできるととっても褒めてくださるのです。だからついつい頑張ってしまうのですよね。それ故に次々に難しいものに移行してしまったのかもしれませんが。
そんなスパルタなお父様たちとは違って、フリットウィック先生は丁寧にわかりやすく教えてくださいます。フリットウィック先生はきっと教えることがお好きで、だからこそお上手なのでしょうね。これまでできなかった杖の振り方も覚えられそうな気がします。
教卓の上の、しかも本の上にまで乗っての講義をなさるフリットウィック先生に親近感を抱きながら、二時限分の授業を受けました。
今日もとっても身になる授業を受けられましたね。まさかあの呪文の杖の振り方が、ああも簡単に出来るだなんて思いませんでした。色々な方に習うのは、そういった違いがわかってよいかもしれませんね。
とっても充実した気分でアリシアさんたちと教室を出てすぐ、私は声をかけられました。
「キャシー!」
「……はい、なんでしょうか?」
振り向きたくなかったですが、振り向かないわけにもいかず、精いっぱいの笑顔を浮かべながら答えます。ちょっとだけ私の声が固い気がしますがそこはそれです。
「その、さ……」
「はい、なんでしょう」
「あー…その」
「ご用がないのでしたら、よいですか? アリシアさんやアンジェリーナさんをお待たせしてしまっておりますし……」
にこにこと笑みながら、口ごもる彼に笑いかけます。はい、多分彼はフレッドくんでしょう。彼の少し後ろには、リーくんともうお一方がいます。こちらを心配そうに見ていらっしゃるご様子から、彼がジョージくんであるような気もしますし。
お二方、私、見世物ではないですよ? なんてことを考えながらお2人に向けて笑いかけます。あ、お二人ともそそくさとどこかに行かれました。フレッドくん、置いて行かれてますよ? よいのですか?
「キャシー、私とアンジェリーナは先に行ってるわ」
「そうそう、今はそっちを優先したほうがいいと思うよ?」
「え?」
「じゃあ、キャシーのことちゃんと連れて帰ってくるのよ?」
「……わかってるよ」
フレッドくんに少しだけきつい声音で言ったアリシアさんは、さっくり私を置いて歩いていきます。……私も置いて行かれてしまったようです。なんでしょう。アリシアさんたちはフレッドくんの味方、なのでしょうか。……なんだかとっても捨てられた猫のような気持ちになってしまいます。
でもアリシアさんはフレッドくんに私を連れて帰るようにとおっしゃいました。つまり私は捨てられた猫なわけではないはずです。きっと色々と心配をかけてしまったのですよね。反省しなかければダメ、ですね。お友だちに心配をかけるなんて。