ヘタレ系悪役一家の令嬢に転生したようです。   作:eiho.k

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 俺がキャシーを知った日は、後から考えると俺たち2人が今までと同じ双子じゃなくなった日になったんだろう。

 

 

 何度も兄貴たちから聞いてきた、ホグワーツ魔法魔術学校への入学。駅までは家族全員で行って、だけどホグワーツ特急の中では俺とフレッドだけになった。

 でもそれはいつものこと。俺とフレッドは双子だったから、いつだって2人で1つであることが多かった。もちろんそれが嫌だって思ったこともあるけど、それ以上に2人でいることが当たり前でもあった。

 

 そうして乗り込んだ中で、リーという友だちもできた。乗り込んでから少しの間は3人でいたけど、フレッドは特急の中が気になったみたいで、1人でふらっと散歩に出た。それ自体はいつものことだって気にしてなかった。でも、そんなフレッドと入れ替わるようにして、1匹の猫がコンパートメントの中に入っていたんだ。

 

 艶々した毛並みの綺麗な黒猫で、目の色と同じ艶のある青いリボンをしてた。なんていうんだろう。美猫ってやつなのかな。とても可愛い顔をした猫だったんだ。

 

 そいつが「にゃー」って鳴いて、リーが指をひらひらさせて時間をかけて呼び寄せて、ようやくそばに寄ってきたところですかさず抱き上げようとして起きた、軽い事件。うん。正直腹が痛かった。なんだあれ。なんであんなちっちゃい猫にリーは負けてるんだって考えたら、笑いが止まらなくなった。

 

 だってリーってば不器用でさ。抱き上げようとして、嬉しかったのかなんなのか知らないけど、リボンに指を引っ掛けて、そしたらリボンはあっさり外れて床に落ちた。しかもだ、そのリボンは慌ててたリーの足の下になった。

 

 その瞬間その猫は毛を逆立てて、リーに襲いかかったんだ。ん? 止めなかったのかって? やだな、そんなことしないよ。だってリーが悪いのに。猫が怒って当然だろ? リボンを外しちゃった上に踏んでるんだから。

 

 で、まあそれを笑って苦しんでる時に、突然コンパートメントのドアが開いて、中にちっちゃい女の子が入ってきた。フレッドと一緒に。

 窓側にいた猫を、リーを挟んで格闘して、なんとか猫を抱きしめたけど──あれ多分(とど)めだったと思う。あの瞬間、1番リーの悲鳴が大きくなったからね。

 

 それで俺から事情を説明して、それでまあ、それなりに話をして、そのちっちゃい女の子がキャシーだと知った。

 

 キャシーはとても小さい。俺たちの妹のジニーくらいしかないと思う。ジニーは少し平均より大きめな子だしね、年が離れててもまあ、それはあり得るくらいの誤差だと思う。

 で、そんなキャシーは俺たちも知るマルフォイ家の子だった。

 

 カサンドラ・マルフォイ。ちょっとひどい名前じゃないかって思ったのは、俺だけだったのかな。でもまあ、カサンドラって呼ぶより、キャシーって呼ぶ方が似合うから意味はきっと言わなくて正解なんだろうな。だってカサンドラが、多分ギリシャ神話の『カッサンドラー』からじゃないか、なんて思っても軽々しく言えないよ。

 

 あの神話の中で、アポローンに愛されて、アポローンの恋人になる代わりに予言能力を授かったのに、その予言が元で愛を拒絶する人。しかもその泣く泣く拒絶した愛する人から呪いまでかけられてた。授けられた予言を誰も信じないように、だなんてひどい仕打ちだと思う。それから先の未来は全く明るいものじゃなかったし、色々考えると名付けに向く名前じゃないとしか思えない。

 だからかな、ちょっとだけマルフォイさんのことが信じられなかった。そんな名前を子供につけるだなんてちょっと趣味が悪いって思えて。神話を知らなかったのかもしれないけどさ。

 

 そんなことを思ってたからかな。俺のキャシーへの第一印象は悪くなかった。少しだけ不安はあったけど。

 

 俺の感じてた不安。それはどんなにキャシーがいい子でも、キャシーはマルフォイ家の子で、彼女の父親は俺たちの父さんとは犬猿の仲で、俺たちだって好きにはなれない人だった。それで簡単にキャシーを信じていいのか決められなかったんだ。

 実際キャシーの行動を見ても、ああマルフォイの子なんだなって思うところは多分勉強が得意なところと、スリザリン贔屓のスネイプに慣れてるところくらい。ぽやんとしてるところが大半だから、大丈夫なのかって思いもし出した。だけどやっぱり気になることもあった。

 

 俺たち双子は楽しいことが好きで、人によく悪戯をするけど、それは自分が楽しむためが1番であって、人を困らせたいと思っているわけじゃなかった。

 

 だけどキャシーは、俺たちが悪戯をすると、ちょっと困った顔をするんだ。もちろんキャシーにするのは他愛ない悪戯だよ。キャシーがノートを開いたらペラペラとページがめくれ続けたり、椅子に座ったら変な音がしたりするような、そんな感じ。特に変なアイテムを使うこともなくできるようなことをしてただけ。

 他のやつらとかは、そういうのをされるとたいてい笑って楽しんでる。まあ、怒るやつもいるけど、俺たちがやったんだって知ると諦めるのがほとんど。それだけ俺たちが悪戯ばっかりしてるってことなんだけど。

 

 そんな悪戯で、キャシーは困った顔をする。なんていうんだろう。怒ればいいのか、楽しめばいいのかわからない。そんなことを考えてるんじゃないかって顔だ。

 

 いっそ怒ればいいのにって思う。

 

 キャシーは、ホグワーツに入学してから、あの特急の中でのようには笑わなくなった気がする。どこか人の目を気にして、遠慮してるような気がする。なんとなく、それに気づいて俺とは全然違うのに、俺とどこか似ているような気がしたんだ。

 俺はちょっとだけ、心配をしてしまうきらいがある。それは俺の欠点で、長所なんだろうと思う。慎重であることはある意味で重要だろうから。

 

 俺たちの家は裕福とは言えない。兄貴たちも、弟も妹もいるちょうど真ん中の俺たちは、いつだって兄貴たちのお古を着てるけど、でもそれはあんまり裕福じゃないから。だけど母さんは毎年セーターを編んでくれるし、叱るけど愛されてると思う。

 そう、俺たち家族は人に自慢できるくらいに仲がいい。まあ、自慢はしないよ。だって仲がいいことは俺たちにとっては当たり前のことでも、人にとっては違うかもしれないから。

 

 でもそんな風に大家族だからこそ、俺は心配するんだ。お金のことだったり、弟や妹のこと、父さんのこと、母さんのこと。兄貴たちには頼ってばかりになるけど、俺だって色々考えてしまう。だから、できるだけ早く金を稼げるようになりたいって思うんだろうな。

 

 キャシーはそんな俺たちとは違い、マルフォイっていう金持ち一家の娘だ。つまりキャシーの父親はルシウス・マルフォイで、彼は俺たちの父さんと犬猿の仲だ。俺たちもキャシーとそうなるんじゃないかって思うのは普通だよな。

 

 だから俺は、多分キャシーと仲良くしようとしながら、少しだけ心は距離を置いていた。

 

 もちろんキャシーを可愛いとは思う。素直だし、頭もいいけどそれを鼻にはかけない。それでいて嫌味ったらしく見えないのは、俺にできる簡単だと思うことがキャシーにできないから、なんだろうな。

 うん、飛行訓練の時のキャシーはすっごく、それはもうすっごく可愛いよ。なんだろ……木に登って降りられなくなった猫みたいに箒にしがみついてるんだよ? あんなの見たら可愛いとしか思えないよね。

 

 そう、俺の中でいつの間にかキャシーは心配していた相手から、愛玩する相手になっていたんだ。

 

 そうなるまでにチャーリーに相談したりしてたよ。俺たちも、父さんとマルフォイさんのようになったりするのかなって。そしたらチャーリーはキャシーをからかうようにして見定め始めた。その所為で余計に寮内からキャシーの居場所が減ったような気がする。……あー…俺の所為、だよね。ごめんキャシー。

 

 でも愛玩するべき存在だって気づいてからは、俺はチャーリーに相談するのをやめた。同時にちょっとした罪の意識からキャシーのそばにチャーリーが寄らないようにしたりもしてた。でもチャーリーも実はキャシーの事、気に入ったみたいで隙あらば頭を撫でて抱き上げようとしてた。いや、それはきっとキャシーがジニーくらいの大きさしかないのがいけないんだと思うけどね。

 そういう意味では、いい変化なのかな? とにかく本当に俺たちにとってはキャシーは妹みたいなんだと感じるようになって、小さい子は可愛いと思ってた。なのにキャシーの方が誕生日が早いって知った時……衝撃だったよね。

 でもそんなところもなんだかキャシーらしいとも思うし、同じ学年なんだから年上も年下もないだろうし気にすることでもないよね。なんて俺は思ってたけど、なんかフレッドはちょっとショックを受けてた。

 

 この辺りから、俺とフレッドは今まで通りじゃなくなったんじゃないかと思ってる。

 

 夜に抜け出したフレッドが、ちょっとおかしな感じで部屋に戻ってきた翌日。フレッドはキャシーに無視されてた。同じように俺も無視されてたから、やっぱりってな思った。ていうのは、二人一緒にいないと、キャシーは俺たちの名前を呼ばないんだ。だからキャシーは俺とフレッドを見分けられてないんだなってなんとなく思ってた。まあ、母さんですらちゃんと見分けられないんだからそれも当たり前だけど。

 そんな確信を俺が得た頃、まあ翌日の夜なんだけど。キャシーと2人で消えたフレッドが、前日よりもおかしくなって戻ってきた。声をかけても生返事で、随分ベッドの上で唸ってた。あ、たまに小さくだけど叫んだりもしてた。ていうか暴れてたって言うべきかな。

 

 だけど朝になったら普段通り──よりも随分張り切ってた。ああ、なにかに気づいたんだな。俺とは違う目線でキャシーのことを見てるんだなって思えた。

 

 これからもただ見てるだけにするけど、できたらキャシーを一生近くで愛玩できるようになればいいって俺は思ってるよ。ま、フレッド頑張れって、エールだけなら惜しみなく贈るから。努力、してみるといんじゃないかな?

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