ヘタレ系悪役一家の令嬢に転生したようです。   作:eiho.k

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その25

 ダンブルドア校長は私の言葉になにかを答えるでもなく、紅茶を一口飲みます。ゆっくりと、まるでその心を落ち着けるかのように。

 カチリと微かな音を立て、カップがソーサーへと戻るのを聞きながらも私はただダンブルドア校長を見つめます。なにをおっしゃるのか、微かな不安を抱きながら。とても怖いです。怖くて目を逸らしてしまいそうになります。でも、それはしてはいけないのです。

 今この場で目を逸らすことは、偽ることと同義になってしまいます。ダンブルドア校長に偽るつもりなどないのですから、私は目を逸らしてはいけないのです。

 

 まるで紅茶の余韻を楽しむかのように、そっと目を閉じたダンブルドア校長はまた強い視線を私へと向けます。それに怯まぬようにぎゅっと拳を握り、私は喉を鳴らしました。

 

「お主はこれがホークラックスであるというが……それを証明できるものはあるというのか?」

「……ある、と言えばありますが、すぐにこの場でお見せできるものではありません。その、ダンブルドア校長にご協力願わないと、私ではできません」

 

 私が証明として出せるものは、己の記憶だけです。ですがそれを私自ら人にお見せすることはできません。けれどここには、校長室には憂いの篩(ペンシーブ)があります。あれで私の記憶を見ていただくことはできるはずです。

 記憶をお見せすることに戸惑いがないわけではないです。私の為人だけでなく、恥ずかしい記憶ですとかも見られてしまうことでしょう。私がどれほどイヤな子なのかそれも知られてしまうでしょう。ですが、前世の記憶があるのだと口で言うよりもずっと信用を得られるはずです。

 ちらりと私が流した視線で気づいたのでしょう。ダンブルドア校長は深くため息をつき、また目を閉じます。それは躊躇いなのでしょうか。それとも疑いなのでしょうか。どちらだとしても、私は試される側なのです。否やは言えません。

 

「記憶を読まれることに葛藤はないのかのう……」

「葛藤は、もちろんあります。その……とても恥ずかしい記憶を見られてしまうかもしれませんし。でも、口で説明をするよりもずっとご理解いただけると思ったのです。ダメ、でしょうか」

「駄目かそうでないかで言えば良いと言えばいいのかの。しかしのう……」

 

 迷われるダンブルドア校長に、私からごり押しするのもどうなのか。迷ってしまいます。ですが悩んだままではいられません。ちょっとだけ強気で攻めてみます。

 

「お疑いがそれで晴れるのでしたら私には断る気はありません。ですからダンブルドア校長、私の中のホークラックスの記憶を読んでいただけませんか?」

「ううむ……」

 

 ダンブルドア校長は腕を組みながら唸ります。とっても悩んでらっしゃるようです。どうしたらよいでしょうか。これ以上願い出るのも違う気がしますし……。なんだか八方ふさがりな気がします。

 

「うむ、では見せてもらおう。お主がそこまで言うのだ、嘘はないのだろうが、わしも全てのホークラックスのありかを知らねばならぬしのう」

「本当ですか! ありがとうございます、ダンブルドア校長!」

「……記憶を見られることで礼を言われるとは思わなんだ。まあ、よい。それがお主なのじゃろうて」

 

 なんだか妙な納得の仕方をされているようですがいいのです。私の疑いはこれできっと晴らせると思いますし。まあ、当初の予定とは違うところで疑惑をもたれそうでしょうけれど。

 私の記憶を、それも前世のものを読み取ることで、私が前世の記憶保持者として知られることでしょう。もしかすればダンブルドア校長や、このホグワーツのことが書籍として、そして映像としてなっていることも読まれてしまうかもしれません。

 それらが怖いと思う感情ももちろんあります。ですがこれは戸惑うべきことではないのです。むしろ戸惑いはあらぬ疑いを呼んでしまうでしょう。私は、少しでもイヤな子である私をよい子の私にしたいのです。

 

 ダンブルドア校長は席を立つと、戸棚にしまわれた淡く光る水盆らしき器を取り出します。ゆらゆらと揺らめく光はとても幻想的で、私はしばしそれに魅入ってしまいます。とても綺麗です。悲しいほどに綺麗に思えるのは、それが数多の人の記憶を知っているからなのでしょうか?

 魅入る私の前、見上げるほど高い背をまるで見せつけるように立ったダンブルドア校長は杖を取り出します。あの杖をこめかみに当てることで、記憶を取り出すのです。そこまでは知っていますが、痛みを伴うのか。全ての記憶を取り出せるのかまでは知りません。私は緊張に肩を強張らせながらそっと目を閉じました。

 ほんの少しこめかみに触れた硬い存在。冷たくも、熱くもないその感覚に身を任せれば、それはすぐに離れます。

 

「もうよいぞ、カサンドラ」

「は、はい。……これで全ての記憶を取り出せたのですか?」

「いいや。全ての記憶など必要なかろう? 必要なのはホークラックスのありかや行方、そしてお主がホークラックスとは何ぞやを知っておるか、じゃろう?」

 

 歌うようにおっしゃりながら、ダンブルドア校長は杖から伸びる、銀に輝く光の筋を水盆の中に落とします。

 ゆらゆらと波紋を残して消えてゆくその光は、水盆に満ちるものと混じり合い、徐々に光を増していきます。眩く輝くそれを直視することはとても難しく、私は目を閉じてしまいます。

 

 ゆっくり、ゆっくりと光が弱まって、目を開ければダンブルドア校長がそれを覗き込んでいるのが見えます。とても真剣に見ていらっしゃいます。なんでしょう。なんだかとっても恥ずかしいですが。

 それからしばらくとても真剣に見入っていたダンブルドア校長は、ふうっと1つ息を吐くと、私を見ました。

 

「お主が本来隠されるべきはずのホークラックスを知っておること。そしてトム・リドルのホークラックスの場所を知っておること。壊し方も知っておることも分かった。どれも得難い知識じゃろう」

「そうだと思います。私の家の書庫にもホークラックスについて書かれたものは、この学校の図書館にあるものと同程度ですし……私自身、この記憶がなければホークラックス自体を調べようとは思わなかったと思います」

「……しかし壊す方法がのう」

「はい、私に思いつくのは、バジリスクの毒を覚えさせたグリフィンドールの剣だけ……なのです。その、ダンブルドア校長はなにか思いつきますか? 私、どうしてもホークラックスを壊したいのです」

 

 私は身を乗り出して、ダンブルドア校長に伺います。

 

「わしにも思いつかんが……バジリスク、のう。お主はそれがどこにおるか知っておるのか?」

「え? えと、私の記憶を見たのではないのですか?」

「見たがのう、全てではないとゆうただろう? わしが見たものはホークラックスについての全て。他のものはわしとて見る気はせんよ」

 

 明るくにこりと笑うダンブルドア校長に、私はほっと息をつきます。は、恥ずかしい記憶は見られなかったようですね。よかったです。

 そうして落ち着いたことで、私はこれから先を話し合うべく語ります。バジリスクがいる場所や、ヴォルデモートさんの配下となっている隠れている人物のこと。そして捕まっているあの人が冤罪だということ。

 

「ううむ……『サラーザール・スリザリンの秘密の部屋』に『ピーター・ペテュグリューの生存』。そして『シリウス・ブラックの冤罪』。どれも普通は知りえぬことだと思うが、お主はホークラックスを知っておったしのう……」

「全てを信じていただこうとは思いません。ですが本当のことなのです」

「じゃがのう……」

「え、ええと──マートルさん! 嘆きのマートルさんのいらっしゃるトイレに行きましょう! 女子トイレですが、あちらが秘密の部屋の入り口なのです!」

 

 と、とってもはっきりと言いましたが、私実はマートルさんのいらっしゃるトイレの場所を存じません。ダンブルドア校長はご存知でしょうかね?

 

「マートルのいるトイレのう。3階の女子トイレじゃが、そこでどうするのじゃ? 秘密の部屋へ向かうには、何か特別なことが必要なのじゃろう?」

「あ……そうでした。その、パーセルマウスでないとだめなのです。その蛇語で開けと言えないとダメだったはずです」

「パーセルマウス、のう……」

「はい。サラーザール・スリザリンその人もお話できていて、あの人も話せたようです。私は話せませんから開けませんし、バジリスクも倒せません……ダメですね」

 

 そうです。スリザリン寮の創設者であるサラーザール・スリザリンさんはとっても純血主義でらして、そんな自分の意志を継げる方を探していらっしゃったようです。サラーザール・スリザリンさんのことも、秘密の部屋があるだろうこともお父様からお聞きしたことはありますが、パーセルマウスでない私では開けられません。それにもし開けられたとしても、バジリスクなど倒せません! これは断言できますよ。

 私は非力なのですよ! 力もなけば知恵もちょっとしかありません。そしてまだ1年生なので魔法だってうまく使える自信がありません。ダメダメなのですから、やっぱり開くわけにはまいりませんよね。

 などと私が納得しかけていれば、とってもとっても弾んだ声がしました。え?

 

「ふうむ……では行くか」

「え? 行く、とはどこへ?」

「うむ。マートルのところじゃな。わしも少しならパーセルマウスができるしのう。本当に開くのか確かめねばならんじゃろう?」

「え? で、でもですね、その……もし開いてしまったら多分生徒にバジリスクの被害が出ると思います。そのたくさん」

「なぜそう言えるのじゃ?」

「その……扉が開いたことで、バジリスクは地下にある秘密の部屋から、確か水道管を伝って出てくるはずです。バジリスクは目を見たら即死してしまうのですよ?」

「なに、簡単じゃ。目を見なければ即死はせんし、ちょっと開いてみるだけじゃ」

 

 なんでしょう。どうしてダンブルドア校長はこんなにも楽しそうなのでしょうか。え、冒険が好きなのですか? 開いたらバジリスクが出てきてしまうかもなのですよ? もし物語通りに進むのなら絶対に出てきてしまうと思うのですが。

 さあ行こう、すぐ行こうとばかりに楽しげなダンブルドア校長に、私が拒否を示すことはできません。手を引かれ、校長室を出て、同じ階にあるマートルさんのいるトイレへと向かっているようです。

 なすがままの私にできることは、転ばないように必死に足を動かすことと、他力本願に叫ぶだけ、です。「ああ! もう本当にどうしましょう! もしバジリスクが出てしまったらこれって私の所為ではないですか? どうしましょう! こんな時誰に相談すればいいのですか! 教えてください、ダンブルドア校長!」という虚しい叫び。それはもちろん私の心にだけこだましていました。

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