ヘタレ系悪役一家の令嬢に転生したようです。 作:eiho.k
キュキュッとシャンデリアのランプを磨きました。その数6個中5個です。はい、終わりが見えてきましたね。などと思っておりましたら、一向に進まない天井掃除に焦れたパーシーさんが、ハタキに突然魔法をかけました。そうしたらですね、1本しかなかったハタキが増えたのです。多分ですがジェミニオでしょうね。
そのお陰でハタキは都合6本に増えまして、浮遊呪文とゴシゴシ呪文の併用で宙に浮いたまま天井の埃を落としています。そして落とした端から、これまた増えたモップが床ではなく天井を磨いております。ある意味人海戦術というのですかね? そうですね、魔法を使えば早くできたのですね……私、気づきませんでした。
せっかく見本を見せていただいたのですから、私も実践してみましょう!
じっと汚れの残った最後のシャンデリアを見つめます。細かなところにこびりついた埃。ランプのくすみ。そのどれもが取れますように、と願いながら魔法を唱えます。
「スコージファイ!」
……なんでしょう。1時間近くかかってランプ5個を綺麗にしたということが馬鹿らしくなるくらい簡単に綺麗になっておりますよ? と言っても仕上げ磨きはした方が良いでしょうけれど、それでも手間はとっても減っております。悔しいですが、これを利用しない手はないですね。
綺麗になったシャンデリアを見つめている間に、パーシーさんが呪文をかけたハタキも、モップも天井を瞬く間に綺麗にしています。汚れているところは後ほんの少しですね。
これで天井はほぼ終わりました。では続いて壁ですが、こちらも軽くハタキをかけて水拭きをしてしまえば平気でしょう。これも増えたハタキとモップでできますよね。床も同様です。残る机の悪戯書きは『スコージファイ』を1つずつ唱えれば平気そうですし、教卓の細工も同様でしょう。……予想よりも早く終われそうな気がしてきました。
気分が上向きになったからですかね。私の掃除の手は休まることなく進みます。壁の上の方は浮遊呪文で浮かせたハタキ。下の方は自分の手で。役割分担をしながら端から端まで私がハタキをかければ、追うようにパーシーさんがモップを動かしていきます。……パーシーさん、モップはそろそろ1度洗わないと、壁が元の汚れ以外のもので汚れてしまいますよ?
私は無言でバケツに水を溜めます。……洗剤がなかった時点でアレですかね、魔法を使う前提だったのですかね? 言っていただかなければ罰掃除に魔法は使いませんよ、マクゴナガル先生。
20分もすれば壁の掃除もあらかた終わりました。なんだかですね、私とパーシーさんの息がとっても合ってきているような気がします。この罰掃除のお陰ですかね? あんまり嬉しくないですが。
ジャブジャブとモップを洗うパーシーさんを横目に、私はそんな余所事を考えながら掃除の手順を思い浮かべます。
残るは教卓と机と椅子のセット、それから黒板に床ですね。机と教卓なんですが、極論ですが小さくしてモップのようにバケツで洗えたらすぐ終わりますよね。1つずつ呪文をかけるよりも、バケツでいっぺんに洗う方が早い気がするのですよね。それに小さくしておけば床の掃除も楽でしょうし……ですが縮小呪文は、本当に縮小しますかね?
ちょこっとだけ悩みましたが、ここは試してみるべきでしょう。やらずに後悔するよりもやって後悔した方が建設的でしょうしね。試しとして1つの机と椅子のセットを見つめながら呪文を唱えます。はい、もちろん呪文は『レデュシオ』です。
「レデュシオ! あ、縮みましたね」
「君は……そんな呪文まで使いこなせるのか」
「え? 使いこなせるというか……今初めて使いましたよ?」
「は、初めて?」
「ええ、だってお家では座学しかできませんよね? そのお陰でこうして呪文は知っておりますけれど、使ったのはホグワーツに着いてからですよ? それがどうかしたのですか?」
「い、いや……」
なんだかとってもパーシーさんが驚いた顔をしています。ですがね、パーシーさん。私はまだ1年生なのですよ? つまり入学したばかりですし、お家で魔法を使ったこともありません。まあ、たくさんの呪文や杖の振り方は教わっておりますが、実践はどれも初めてのものばかりです。
ですが今はパーシーさんのご様子はどうでもよいですね。掃除の続きです。机と椅子をまとめて、それから教卓を小さくして、増やしておいたバケツに入れていきます。ひとまとめにして『スコージファイ』をかければ1回で終わりですし、床も綺麗にしやすいですからね。
さくさくと小さくしたものをバケツに入れ、部屋の中は大分広々と感じます。はい、まだ薄汚れておりますが。いえ、違いますね。汚れているからこそお掃除しなくてはいけないのですからね。早く済ませてしまいましょう。
机の入ったバケツをパーシーさんに手渡して、私は黒板と向き合います。杖をさっと一振りして呪文を唱えてサクッと綺麗にします。大物でも1度で済むというのは最高ですね。新品同様とは言えませんが、もし授業で使うのだとしても遜色はない程度に綺麗になりました。黒板面はツヤツヤのピカピカです。一部周囲は塗装が剥げているところがありますが、そこはそれです。それでは次の部分に移ることにしましょうね。
はい、次は床ですよ。私はフンフン鼻歌を歌いながら周囲にある掃除用具ですとかを宙に浮かせていきます。はい、いっぺんに『スコージファイ』をかけるのに邪魔ですからね。なんだか悲鳴みたいな声が聞こえた気がしますがそれは無視しまして、私自身も宙に浮きます。あら? 呪文を言い忘れているような気がしますが……これって、無言呪文に当たるのですかね? わかりませんが効果が出ているのなら問題ないでしょう。
床に向け、杖を一振りすれば積もりに積もった埃が全て消えてなくなりました。はい、元々床にあったものも、天井から落とした蜘蛛の巣込みの埃も全てです。ちなみに床は思った通り砂色ではなく、木目の美しい木の床でしたよ。魔法って素晴らしいですね! ちょっと楽しくなってしまいました。だからですかね、埃が消えて綺麗になった床がもっと綺麗になればいいのに、なんて思ってしまったのです。いえ、私も『スコージファイ』と『ゴシゴシ呪文』以外のお掃除魔法は知りませんが、何かあるのではないかと思ってしまったのです。それが通じたのでしょうか……気づいたらですね、床がワックスをかけたかのようにピッカピカになっておりました。なんでしょう……『ワックス呪文』なんてものもあるのでしょうかね? それはわかりませんが、理想通りに綺麗になったのですから構わないですよね。
「お、おい! いい加減僕を降ろしてくれないか!」
「え? あら、パーシーさんも浮いていたのですね」
「な! き、君が浮かせたのだろう! っそんなことはいいから、早く降ろしたまえ!」
「はあい。今降ろしますから、少し静かにしてくださいね」
にっこり笑いながらお伝えします。あんまり煩いと落としちゃいますよ? いえ、流石にそこまではしないですけどね。浮遊呪文を解除して、パーシーさんに掃除用具も降ろします。ああ、なんだかもったいないですね。せっかく綺麗にした床に足跡をつけるというのも。ですが床に立つなら足跡がつくのも仕方ない、ですし……そこは折り合いをつけましょう。
私もスタンと床に着地しまして、降り立ったパーシーさんのところに向かいます。相変わらずお顔が赤いです。アレですね、色の白い方なので、感情の上下で顔色がすぐに変わるのでしょうね。……そう考えると、パーシーさんってわかりやすいのですかね? 予想ですが、きっと今は私に怒っているのでしょう。甘んじて怒られるつもりはありませんよ? 私もお掃除は早く終わらせたいですから。
「パーシーさん、そのバケツをくださいな」
「は?」
「ですから、そのバケツの中身をお掃除してしまえば一応終了ですよ? だから早くくださいな」
ええ、そうですよ。天井にランプ。壁に黒板に床。残るは教卓と机と椅子のセットだけです。まあ、お掃除した上できちんと机などは整列させた方がよいでしょうけれど。でもそれはそこまで時間がかからないはずです。小さくしていますからね。持ち運びには困らないはずですよ! お掃除が楽なようにとしたのですけど、一石二鳥だったようですね。私冴えていたようです。
半ば呆然とした顔をしたパーシーさんはバケツをくださいません。仕方ないので、私はちょっとだけ奪うようにしてバケツをいただきます。はい、素直に渡してくださらないからいけないのですよ。バケツの半分以下に詰まった机などは、ミニチュアでとっても可愛らしいです。さて、見ていてもお掃除は終わりません。サクッとこちらにも呪文をかけましょう。
机などをしっかり綺麗にして、サクサクっと机を配置していきます。はい、もちろんミニチュアのままでです。大きくしてから位置関係を直せばよいので、今はざっくりとですが。なんだかすごい光景ですよ。お掃除して綺麗になったお部屋の中はやっぱりそう広くはないのですが、そこにですね、手のひらサイズの机と椅子、教卓が並ぶのです。まるでドールハウスの家具を実際の部屋に並べたような感じですね。まあ、この机などはきちんと本物なのですけれどね。
さて呪文をかけて、元のサイズに戻しましょうか。なんて私が杖を構えかけたところで、パーシーさんが言いました。「少し待ってくれ。元に戻す呪文なら僕がかける」と。別にその言葉に反対する理由もありませんし、私はパーシーさんに譲ることにしました。はい、決して元に戻す呪文を忘れていたわけではありませんよ? ちゃんと覚えています。多分アレのはずです……はい、多分。
などと考えている間に、パーシーさんはさっくり全てのものを元のサイズに戻されました。わあ、1発で成功ですよ。スゴイですね。というかやっぱり元に戻す呪文は肥大呪文の『エンゴージオ』だったのですね。よかったです。私の多分は合っていたようです。ちなみに私はこちらの呪文も使ったことがありません。……今少し思ったのですが、肥大呪文を私にかけたら私大きくなれますかね? 私の身長、少しは伸びますかね? え、どうしましょう。今とっても肥大呪文が使いたくて堪らなくなっているのですが!
なんて私が葛藤しておりましたら、いつの間にかパーシーさんが机を整列させていました。はい、しかもですね杖の一振りではなく、人力ですよ。なんでしょう……パーシーさんの目には定規でも備わっているのですかね? それとも角度計ですかね? とっても平行で、等間隔にきっちり並んでおりますよ。これってパーシーさんの性格故なのでしょうかね?
私が手を出す隙のないまま机は並べ終わり、一仕事やり終えた感満載でパーシーさんが額の汗を拭いております。なんですかね、とっても爽やかに見えます。スポーツをしたわけではなく、罰掃除なはずですのに。ですがアレですよね、10個の机を並べただけで汗を掻くって……パーシーさんがそれだけ神経を使ったということですよね。運動が苦手だというわけではないはずですよね。……パーシーさんが運動が苦手なのだとしたら、それはとっても面白いとは思いますが。どうなのですかね?
「よし、これで終わったな。ではマクゴナガル教授のところに行くとしよう」
「え?」
「ほら君も行くぞ。終了したことを報告しなければ終わりではないのだからな」
サクッと双子呪文の効果を消した掃除道具を抱え、パーシーさんは私に向かい手を差し伸べております。しかもですね、なんでしょうフレッドくんのような、ジョージくんのような笑顔です。わあ、やっぱり笑い顔も似ているのですね。なんて余所事を考えたくなりますがダメですよね。というかですね、一体なんなのですか。私とパーシーさんて、昨夜は犬猿の仲になりそうな感じではありませんでしたかね? これは一体どういうことなのでしょうか。
ちょっと展開についていけなくて呆然とする私を余所に、パーシーさんはサクッと私の手を取り歩き出します。ああ、そんなところはフレッドくんに似ているのですね。なんて思ってしまうのは、多分逃避なのでしょう。え、本当にこの罰掃除でパーシーさんの心境にどんな変化があったのですか? ちょっと私にはわからないのですが。