ヘタレ系悪役一家の令嬢に転生したようです。   作:eiho.k

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その38

 予鈴の後、フレッドくんとジョージくん、リーくんのお3人は他の皆様よりも遅れて教室にいらっしゃいました。3人連れだって、入り口付近にいらしたのですが、こちらを見て笑ってくださったのでホッと一安心です。

 とは言っても、フレッドくんの様子は気にはなりました。私の所為である可能性がとっても高いのですから。ですが流石に授業中にお聞きするわけにはいきません。自粛しなくてはです。先ほどよりも普段のフレッドくんに近いような気はしましたし、あまり気にかけては逆にご迷惑になりますからね。

 全ては夕食後にしましょう、と決めたのです──がそれができなくなってしまったのは偏に昼食時にいただいたお手紙故と言えるでしょう。

 

 実は私、薬草学の授業が終わってすぐお手紙に目を通したのです。急を要する手紙であったら大変ですからね、とちょっとだけ忘れていたことを自分に言い訳しながらですが。

 そしてやっぱりお手紙は予想通りにダンブルドア校長からのものだったのですが、書かれていた内容がちょっと困惑するようなものでした。1人になってから読んでよかった、と言える程度には。

 ええとですね、なんとダンブルドア校長からのお手紙には個人的なお夕食のお誘いがあったのです。それも後日ではなく、本日の。しかも場所は校長室です。はい、確かにですね、お昼の段階で読んでいればここまで困惑はしなかったでしょう。後にしてしまった私が悪いのだとわかりますが……ダンブルドア校長も、ホグワーツに戻ってすぐの夕食を大広間でとらなくて大丈夫なのですかね? ダメな気がするのですが。

 とはいえお誘いをお断りするわけにはいきません。お話ししたいことも、お聞きしたいこともたくさんありますからね。というわけで今私は1人廊下を歩いています。お夕食をとるために皆さんは大広間へと移動していらっしゃいますが、私は1人別行動なのです。

 

 通い慣れたとは言えませんが、入学して3ヶ月ほどでこれで3度目の校長室です。ええと、校長室でお夕食を食べていいのですかね? ちょっとだけ疑問は浮かびますが、そこは気にせずガーゴイル像の前に立ちます。今日も今日とて門番のはずですのにさっくりあっさりお役目を放棄しています。ダンブルドア校長のご好意なのでしょうけれど、階段丸見えですよ? これでいいのですか? と、とっても不安になってしまう私です。

 一度お伝えしたほうがいいのでしょうか、なんて考えながら螺旋状になった階段を登りまして、ダンブルドア校長が待っているであろうお部屋の前へ。こちらの扉は閉まっておりました。よかったです。

 それから入室のための声かけをして、校長室へと入ったのですが……ダンブルドア校長はなんだかとっても嬉しそうでした。そしてとっても楽しそうでもありました。なんでしょうね? なにがあったのでしょう。

 

「元気にしておったか、カサンドラ」

「はい、とっても元気です」

「そうかそうか、それはよかった」

 

 簡単なご挨拶のあと、ダンブルドア校長に勧められるまま席に着きました。が、そこはいつも通りにダンブルドア校長の執務机の正面です。色々と事務仕事ですとかに使いそうなものが並ぶそこが、どうやら今日のお夕食が並ぶ机となるようです。……え? 本当にここで食事をして平気なのですかね?

 

「急な誘いですまんかったのう」

「いえ、それは構いませんが……ですが、よろしかったのですか? 今日お戻りになったばかりなのですよね?」

「そうじゃのう。戻ったばかりではあるが、カサンドラには謝らねばならんことと、伝えねばならんことがあったからのう」

「謝らねばならんこと、と伝えねばならんこと、ですか?」

「そうじゃ」

 

 それはそれは楽しげに目尻を下げて、ダンブルドア校長は笑います。本当に人の良さそうなお爺様、という感じです。

 それにしてもお話の内容はなんなのでしょうかね? こてりと首を傾げれば、ダンブルドア校長はいっそう笑みを深めます。

 

「食事をとりながら話すとしようかのう。カサンドラも腹が空いておるじゃろう?」

「え、ええ。まあ、それなりには空いていますけれど……」

 

 ダンブルドア校長が指を鳴らすと、すぐに机の上にプレートが現れます。流石に大広間でのお食事と違い、バイキング方式ではなくワンプレートでのお夕食です。が、私のプレートとダンブルドア校長のプレートは乗っているものが違いますね。私のものはお肉も、お野菜も少なめです。普段食べているお夕飯くらいの量ですね。……屋敷しもべさんたちは、生徒一人一人の食べる量まで把握しているのでしょうかね?

 プレートの上に綺麗に盛りつけられたポークソテーやベイクドポテト、人参のグラッセですとかを食べながら、話されるダンブルドア校長の言葉を聞きます。

 

「まあ、そうやって魔法省内の過半数以上の賛成をもぎ取って、アズカバンに収監した者の処罰を決めたのじゃ」

「ええと、随分と過激な手段を選ばれたのですね」

「急務じゃったからのう。手段は選んでおれんかったのじゃよ。まあ、しっかりと説明したことで最終的には反対意見を出していた者たちも黙るしかなくなったのじゃろう」

 

 と言って、ダンブルドア校長はニヤリと笑います。私はちょっとだけ乾いた笑いでそれに答えます。深く考えたらとっても怖いことだと気づいてしまったからですね。私が内心引きつってしまったのは簡単なことが理由です。

 なんとダンブルドア校長は、魔法省の大臣さんたちが会議をしているところに単身乗り込んだのだそうです。それもアポなしで。もちろんその理由はアズカバン収監者の処罰について力説するためです。前もって会議に参加なさる方たちの数名には根回しのお手紙は送っていらしたそうですが、よくアポなしで乗り込めたな、と別の意味で感心してしまいますね。

 一歩間違えれば校長でいられなくなっていてもおかしくないことでしたでしょうに……。え、これってもしそうなっていたら私の所為ですよね?

 心底成功してよかったと思ってしまう私はダメな子でしょう。でも仕方ありませんよね、流石に子どもの私ではダンブルドア校長の今後の人生を背負うことはできませんから。本当に成功してよかったです。

 ちなみに力説の内容はですね、現行のアズガバンの危険性を主題として、如何に自分が主張する案が正当で、そして魔法界が安全に過ごせる案であるかを説いたのだそうです。しかもこれに反対する者はなにか後ろ暗いことがあるのではないか──と匂わせながらの大演説だった、と笑顔でおっしゃいますが……アレですよね? 言葉だけですよね? 肉体言語で語ったりなさってませんよね? 本当に匂わすだけでしたよね? と、ちょっとだけ不安に思ってしまった私は悪くないと思うのです。

 だって行動力と決断力とがありまくりで、協力者にも事欠かないだろうダンブルドア校長相手ですからね。

 そんな私を他所に、ひとしきり語ったダンブルドア校長はポンと手を打って眉を下げます。

 

「おお、そうじゃった! 忘れておった」

「どうかしたのですか?」

「うむ。初めに謝罪をせねばならんかったのじゃ。すまんのう、カサンドラ。実は昼に出た号外は嘘の記事なのじゃ」

「え? 嘘ですか? その、それは記事自体が、ではないですよね? 魔法省を説得はなさったのですし」

「そうじゃ。実はのう、決定したではなくもう敢行したのじゃ」

 

 そうこともなげに言ったダンブルドア校長は大きめなお肉を一口で召し上がられます。とっても美味しそうに召し上がるそのお姿を見つめながら、私は今聞いたばかりのお言葉を反芻します。

 ……『決定した』ではなく『敢行した』──ということは、悪いことではないはず、ですよね? もう収監された方たちは記憶を抜かれているということ、ですよね? え? 違うのですかね? なんだかとっても混乱しているのですが。

 

「ええと、敢行したということはですね、もう記憶を抜いていらっしゃるということですか?」

「そうじゃ。収監された死喰い人はもう全て抜き終えた。今後はそれ以外の凶悪犯罪に手を染めた者たちに移行する予定じゃな」

 

 えと、それは抜いてはマズイ方の記憶も抜いていませんか?

 私の頭に浮かんだのは、シリウス・ブラックさんです。え、ダメですよ、あの方の記憶を抜いたらハリーが悲しみます! と思ったのですが、ハリーはまだシリウス・ブラックさんのこと、ご存知ないですね。え? じゃあ平気なのでしょうか。なんて混乱しきってしまう私に、ダンブルドア校長はまたも楽しげな声のまま告げます。

 

「おお、そうじゃった。シリウス・ブラックについてはこの件からしばらく除外することになっておるからの、そこは安心してよいぞ。それにアズカバンに収監されておらぬ死喰い人もの」

 

 とパチリとウインクしながらダンブルドア校長がおっしゃいます。つまりシリウス・ブラックさんもお父様も今のところ無事である、と確定しました。が、確かこのままでいけばお父様はアズカバンに収監されてしまいます。……え? このままではうちのお父様も記憶を抜かれるということですよね?

 これから先なんとかしなくてはいけないことが増えてしまいましたが、これはまだ時間があります。なんとかできるはず、です。大分不安になりながらも話を続けます。

 

「そ、それはよかったです。ですが、その……何故号外に嘘を?」

「うむ、囮じゃな」

「それは……収監されていない死喰い人を捕らえるため、ですか?」

「それもあるが、本命は大元じゃな」

「そ、そちらなのですか……」

 

 撒き餌替わりに号外には偽りを載せたと言い切って、なおもダンブルドア校長はお肉を食べ進めます。私のものの3倍はあったお肉はもう私のものよりも少なくなっています。すごい食欲ですね。なんてちょっとだけ現実逃避してしまいます。

 そんな私に気づかないのか、ダンブルドア校長は滔々と語り出します。

 

「カサンドラが言ったようにロックハートは随分と忘却術が達者でな。こうちょっとばかり儂がお願いをしたら快く協力をしてくれたのじゃ」

「そ、そうなのですか」

 

 とってもいい笑顔でそう言い切られました。とってもとっても気になりますが、言葉の裏を探ってはいけないのだとわかります。私は曖昧な相づちをして誤魔化しました。

 

「うむ。それも自ら進んでアズカバンに来たのじゃよ」

「え? 進んで、ですか?」

「うむ、そうなんじゃよ。それはもう快く全ての者に忘却術をかけ、最奥の牢に閉じこもりおったのう」

 

 とっても楽しげにおっしゃいますが、そのお言葉は穏やかではない気がしますよ? なにがどうなっているのでしょう。

 

「ええ、と……それはどういうことなのですか?」

「いや、なに。難しいことをしたわけじゃないのじゃよ。ただ少しの、ロックハートの過去のことをこう事細かに耳打ちしてのう。彼らの身内(・・・・・)に内々に知らせてもよいかと確認してみたのじゃ」

「それは……」

「そうからの。そうなれば今後は彼らからだけでなく、日刊預言者新聞に記事が出ることで闇陣営からも狙われるじゃろうと少しのう。まあ、そうしたら──」

 

 ニヤリと笑い、後はわかるじゃろう。と問うダンブルドア校長に私が言えることは何もありませんでした。これはどう考えても司法取引的なものですからね。私が関わってよい問題ではないはずです。

 アズカバンにおこもりになることで、一応ギルデロイ・ロックハートさんは全ての記憶を失わずに済みましたし、その命も安全です。そのお心が安全であるかは私にはわかりかねますが。

 というかロックハートさんのことよりも、他の方のことが気になっているのです。そちらの方が比重が大きいです。その方が今どこにいらっしゃるのかはわかっているようなわかっていないような感じですが……これはダンブルドア校長にお伝えした方がよいですよね。

 

「その、ダンブルドア校長」

「どうした、カサンドラ」

「その……アズカバンに収監されているバーティミアス・クラウチ・Jrさんはどうなっていますか?」

「クラウチ・Jrか……」

 

 食事の手を止めて、ダンブルドア校長は眉を寄せていらっしゃいます。これは……私はなにかおかしなことを聞いてしまったのでしょうか?

 

「収監されてすぐ、病にて死んでおる──はずじゃが、カサンドラはクラウチ・Jrが生きていると言うのか?」

「はい。私の記憶には生きていると残っています……。それに彼の所為でその……生徒が1人亡くなることに、なります」

「それはまことか!」

 

 ガタリと音を立ててダンブルドア校長は席を立ちます。目の前で立ち上がられたことで、上から見下ろされています。とっても怖いお顔をしたダンブルドア校長にほんの少しだけ怯えてしまいました。ええ、ちょっとだけ怖かったのです。

 ですが怖がったままではダメですからね。私はコクリと頷き、ダンブルドア校長の言葉に返します。

 

「は、はい。そのセドリックが……」

「なんと……セドリック・ディゴリーが……」

 

 できるなら口にはしたくなかったですが、私はセドリックくんの名前を口にしました。口にすれば記憶の通りになってしまいそうで、言わないでいたかったです。

 大事なお友だちの1人がいなくなってしまうなんて、本当のことになるのだとしても信じたくないこと。ですが言わないままではいられません。変えられることがあるのなら、戸惑っていてはいけないのです。多分。

 

「それはいつじゃ? ホグワーツ内でか?」

「ハリーが4年生の時、のはずですので、今からですと6年後のはずです。場所は……ポートキーで飛ばされた先でしたので詳しくは……」

「ふむ……済まぬがカサンドラ。憂いの篩(ペンシーブ)を使っても構わぬか? これは早急に調べねばならんことじゃろうし……今から打てる手は打っておきたいのじゃ」

「それはもちろん! ダンブルドア校長が知りたいと思うことでしたらなんでも調べていただいて大丈夫です。私にできることはこのくらいしかありませんし……」

「カサンドラ、自分を卑下してはならん。お主がおらねば儂は生徒が亡くなることも知らんかった上、なにも為せんところじゃったのじゃぞ」

 

 そっと手を伸ばされ、私の頭を撫でるダンブルドア校長の目はとても優しくて、ちょっとだけ泣きたくなってしまいました。

 私にできることは本当にとっても少ないです。ですからなんでもする気はありますが、私にできることは限られています。私は無力な子供でしかありませんから。だけどダンブルドア校長が認めてくださったというだけで、それが報われる気がするのです。それがきっと、とても嬉しいことだから、なのでしょうね。

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