ヘタレ系悪役一家の令嬢に転生したようです。   作:eiho.k

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その44

 ちょこっとだけですが、しょぼんと肩を落としてしまった私の頭を、どなたかがポンポンと軽く叩きます。そして同時に軽くですが肩を揺すられました。ええと、誰かがお呼び、ということですね。

 ふいと横を向きますと、私の右肩には大きな手のひら。そのまま視線を上げれば、私の斜め上にお顔があります。そっくり同じ赤毛にソバカスですが、この目はフレッドくん、ですね。

 

「キャシー? そろそろいいか?」

「え? あ、はい。大丈夫、ですが……えと、フレッドくん、なんでしたでしょうか?」

「あー…うん。そっからか」

 

 フレッドくんは小さく苦笑いして、今度は私の頭をゆるりと撫でます。フレッドくん、頭を撫でるのが上手なのですよ。うちのお父様よりも、ずうっとよいお父さんになりそうです。

 

「あのな、雪遊びでなにをするかで、一応候補が出たんだよ。それでキャシーはどっちがいいか聞きたくてさ」

「雪、遊び……。そうでした。皆さんで遊ぶのでしたね」

「そうそう」

 

 ああ、そうでした。私、また周りの状況を忘れて考え込んでしまっていたのですね。……本当にもう、ダメな子です私は。次からは気をつけなくては、なんて何度目かわからない繰り言を胸の内で呟きながら、私は周囲を見回します。

 

 私のすぐ右隣にはフレッドくんが。左隣には、変わらず私の手を握るアンジェリーナさん。二歩ほど離れたところには、カメラを構えたアリシアさんとキリッとした表情で腕を組むパーシーさん。その後ろに柔らかく微笑むセドリックくんがいて、そのさらに後ろにジョージくんとリーくんが。ちなみにお2人は、お2人だけで雪玉をぶつけ合っています。とっても楽しそうですよ。

 

「キャシー、今のところね! 全員で『雪の妖精』を作って遊ぶか、半分に分かれてスノーマンを作って、どっちが先にできるか競争するかってなってるんだ! キャシーはどっちがいい?」

「『雪の妖精』ですか……」

「うん! あたしはキャシーが雪まみれになってるところかなり見たいから、『雪の妖精』推しね!」

「アンジー少し落ち着きなさい。はあ、流石に『雪の妖精』はないと思うんだけどね。でもアレ、多少冷たいだけで危険はないでしょ? だからキャシーにはいいと思ったのよ。一応全く面白くないってわけじゃないし」

 

 アンジェリーナさんの言葉にアリシアさんは苦笑いしながらおっしゃります。

 雪の妖精はアレです。新雪の積もった地面にですね、仰向けで倒れ込むんです。それもできたら大の字で。そして倒れ込んだ後にですね、両手足を大きく振るんですよ。そうしますと雪の上に妖精のような、天使のような跡が残るのです。残るのですが……はっきり言って男の子には面白い遊びではないと思うのです。もちろん女の子にも、ですが。ええ、これで喜ぶのはとっても小さな、ドラコよりも小さな子だと思います。

 そんな遊びを流石に14歳になるパーシーさんにさせるのも忍びないです。見て見たいか見てみたくないかで言えば、断然見てみたいのですけど。きっととっても雪まみれなパーシーさんが見れることでしょうし。ううん……ですが、「雪の妖精」とスノーマン。どちらもどちらな気がしますね。パーシーさんを基準にしますと。

 むんむん悩んでいますと、今度はカシャカシャと連続してシャッター音がします。ええ、アリシアさんです。フラッシュが少しばかり眩しいですね。

 

 笑った顔、困った顔、寝起きに、たぶん寝顔。私服に制服、パジャマ姿までアリシアさんはシャッターを切ります。四六時中カメラを構えていらっしゃるわけなのですが、やっぱりこれはアリシアさんの意思ではないと思うのです。だってアリシアさん、毎回毎回とっても気にしていらっしゃることがありますから。

 とってもとっても心当たりのある、その気にしていらっしゃること。……やはりお伺いした方がよい、ですよね。

 

「っわ! っぶねーだろ!」

「っ! バ、バカ!! どうして勝手に入ってくるのよ、リー!」

 

 ぽやんと考えていたその時、アリシアさんの初めて聞くような声が届きました。

 初対面のすぐ後にあった、ホグワーツ特急内でフレッドくんやジョージくん、リーくんから庇ってくださった時よりも、ずっとずっとアリシアさんは感情的になっていらっしゃるようです。普段はとっても冷静なお顔が、とっても赤くなっていて、眉も釣りあがっているような気がします。とってもとっても怒っていらっしゃるみたいです。……やっぱり予想通り、なのでしょうか。

 私のすぐ隣に、バランスを崩したらしいリーくんがいます。なんだか息が荒いです。お顔も少し赤らんでらっしゃいます。

 

「っな! 俺じゃねえよ! こ、こいつが俺の背中を押したんだっつーの!」

 

 アリシアさんは、サクッとリーくんを捕まえて折檻をしています。ええと、こめかみに拳をグリグリと押しつけるアレは折檻でよいのでしたよね?

 たぶん力一杯押しつけているでしょうに、アリシアさんは痛みに呻くリーくんをこれまたサクッと無視して、リーくんの指差した方へとお顔を向けます。そこにいらっしゃるのは、私の隣に立つフレッドくんと同じ顔の彼、です。

 

「ジョージ! あなたなに考えてるのよ! 私が、これまでずーっと、ずーーーーっとキャシー以外撮らなかったことに意味があるだろうって、あなたなら気づいてたんでしょ!」

「気づいてたというか、なんとなくは考えてたけどさ。でもそれが正解かはわからないし? それにさ、リーはこう言ってるけど、俺だってワザと背中を押したわけじゃない」

「そ、そうだよアリー。その、彼は雪で滑って、それでリーの背中にぶつかったんだよ。本当に悪気があったわけじゃないんだ」

 

 ジョージくんに食ってかかるアリシアさんを宥めるように、セドリックくんが声をかけます。……皆さんやっぱり気づいていらっしゃったのですね。アリシアさんが私しか写真に写さないことを。多分きっとその理由も思い当たっていらっしゃるのでしょうね。

 そうですよね、普通は気づきますよね。写ってもアンジェリーナさんと私か、先生方と私、くらいでしたものね。これはやはり確定、なのでしょう。うう……アリシアさん、ごめんなさいです。

 心の中でめいっぱい懺悔します──が、それだけではダメですね。困っているお友だちを助けられずして、お友だちだと胸を張って言えません。恥ずかしくないお友だち関係を続けていきたいのですから、どんなに難しくとも達成できるようにしなくては、です!

 

「そうだとしても! そうだとしても困るのは私じゃなくてリーなのよ! ジョージ、あなたこの責任を取れるの!?」

「いや、責任って言われてもさ……その、フィルムを別のにするのじゃダメなのか?」

「ダメなのよ! それでいいならとっくにやってるわよ! このフィルムはね、全て連番で製造番号が振られてて、それ通りに撮って、それ通りに送らなくちゃいけないの!」

 

 半分くらい泣き出しそうにしながら、アリシアさんが叫びます。フレッドくんも、ジョージくんも、リーくんもセドリックくんもパーサーさんも黙りこくってアリシアさんを見ています。誰もなにも言わない──言えないのは、やはり皆さん答えがわかっているから、なのでしょう。これは、その……ええと、本当の本気で確定ということですね。どうしましょうか、本当に。

 ぐるぐると心の中で悩みますが、なにもしないままではいられません。ええ、どう考えても原因は私、なのですから。私しか、アリシアさんの現状を変えることはできない、と言って過言ではないはずです。

 

「……アリー?」

 

 心の中でいっぱい、いっぱいため息をつきながら、私はアリシアさんへと声をかけます。

 こちらを向くアリシアさんは、今日までで一度も見たことないほど憔悴していらして、その瞳は涙に濡れているようにも見えます。え? これってアレですよね、アリシアさんの涙の原因も私、ということですよね? ……どうしてくれるんですか、もう!

 フツフツと憤りが私の心と言わず、身体中に芽生えています。はい私、とってもとっても、とーっても怒っているのです。ですが、そんな感情は隠します。今1番にしなくてはいけないのは、怒ることではありませんからね!

 

 そっとアリシアさんの肩に手をやり、私はできる限り優しげに笑います。ええ、隠そうとしていてもお腹の底から湧き上がるものがありますが、それでも笑うのです。今、この場で1番大事なのは私にとって大切なお友だち、ですから。ええ、お父様ではないのですよ、お父様では。

 

「アリーはなにも気にしないでいいのです。そのフィルムにリーくんが写り込んでしまったのでしたら、今日以降は全て包み隠さず撮っていきましょう? 全て私がなんとかしますから」

「でも……それじゃあみんなが……」

「大丈夫です。私、全てをなかったことにできるだろう魔法の言葉をいくつか知っていますから」

 

 にっこりと私は笑います。とっても華やかに笑えたと思うのですが、なぜだか皆さんいっそう無言になられます。顔色もあまりよくないように思われます。どうしてでしょうかね? やはり寒いところに立ち尽くしている今がいけないのでしょうか? それともお母様のあの笑顔を思い浮かべたのがいけなかったのでしょうかね?

 

 遠くで鳴いている鳥の声が、妙によく聞こえます。周囲で遊んでいらしているはずの方々のお声もあまり聴こえないような気すらします。それは全て私を含めた皆さんが無言でいらっしゃるから、でしょう。

 誰もなにも言わない──というちょっとばかりおかしな空気を壊すように、フレッドくんが頬をかきつつおっしゃいます。

 

「あー…アリー? とりあえずさ、キャシーもこう言ってるし、そろそろリーとジョージを許してやってくれないか?」

「……そう、ね。リーは冤罪だったし、キャシーもわかっていたわけだしね」

「ええ、そうですよ。アリーはなあんにも気にしないでいいのですよ。うふふふふ……私がこの後始末はつけますから」

 

 きっぱりと告げます。ええ、お母様の協力はまだ取りつけられていませんが、きっと平気です。というかですね。お友だちを困らせる方は、例えお父様と言えど私は許しませんよ? ホグワーツで私が楽しく生活を送れているのも、全てお友達がいてくださるから、なのです。もちろん快く送り出してくださったお父様やお母様、ドラコも私にとって大切ですが、それとこれとは違うのですよ!

 さて、私があの魔法の言葉を口にしたら、お父様はどんな反応をなさるのでしょうかね? あら、なんだかとっても、先ほどまでよりもクリスマス休暇が楽しみになってきましたね。うふふん。あ、第1の魔法の言葉がダメでしたら、第2の言葉を──奥の手とお母様にお教えいただいた言葉をお伝えしましょうね。きっととっても、とーっても楽しいことになる気がします。ええ。

 私は思い浮かんだ考えに、つい笑ってしまいます。が、今はそれも後回しです。もっとずっと大事なことがありますから。

 

「それにですね、私お友だちと写っている写真が欲しいです。これからクリスマス休暇が始まりますし、すぐには会えませんからね。写真があれば思い出の記憶にもなりますし、何度でも皆さんのお顔を見ることができるでしょう?」

「あ、それ俺も賛成! 俺もキャシーの……というかみんなでか。みんなで映った写真が欲しい」

「あたしもほしい! ていうか、今日までアリーが撮ったキャシーのパジャマ姿とかもほしいくらいだもん!」

 

 そうですよね。やっぱり皆さんも思い出の証として写真の1枚くらいほしいですよね。アンジェリーナさんのお言葉の後半はともかくとしてですね、思い出を風化させないためには皆さんと写真に映るのはよいこと、ですよね。

 再びにこりと笑いながら、私はアリシアさんの手からカメラをそっと借ります。ええ、まずはアリシアさんとアンジェリーナさんのお2人を写すのですよ。

 

「アリーもアンジーも、2人とも笑ってくださいな」

 

 カメラを構えて言います。が、ええとひとつ言ってよいですか? このカメラ、ものすごく重たい、のですが。……いくら性能がいいのだとしてもですね、私と同世代の女の子が持つには本当に重すぎると思うのですが……。お父様は何を考えていらっしゃるのですか、本当にもう。

 

 それからアリシアさん、アンジェリーナさんにフレッドくんジョージくん。リーくんにセドリックくんとパーシーさん。それぞれの写真を私は撮りまして、最後に近くを歩いていましたスネイプ先生に頼んで皆さんと一緒の写真を撮っていただきました。

 私からカメラを受け取るスネイプ先生は、とっても、とってもおかしな顔をしていらっしゃいましたね。それで先生が全てをご存知だったのだとも気づきました。……ウチのお父様が、大変ご迷惑をおかけしたようで、申し訳ありません。と、平謝りしたい気分でいっぱいになりましたが、できませんでした。ええ、スネイプ先生は一枚写真を撮ったその足で、さっさとその場を離れてしまわれたのです。

 でも一応ですね「父には私から伝えますから、手を出さないでくださいね」とだけは言えましたからね。きっと大丈夫でしょう。スネイプ先生からお父様へと情報が流れることは防げたと思います。

 ええ、そうですよ。お友だちに苦労をかけたお父様へは、私がきつうーいお灸をすえるのですからね。誰にも、例えスネイプ先生だとしても、その役目は譲ってあげないのですよ。

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