ヘタレ系悪役一家の令嬢に転生したようです。 作:eiho.k
あの雪の日から1週間経ちまして、今日はクリスマス休暇が始まる日。クリスマス・イヴです。今週は普段以上に忙しなく過ごしていた所為か、飛ぶように時間が経ちましたね。師走という言葉の意味を実感いたしました。
私がとても忙しくしていた理由。それはとある計画をしたことが主な理由です。もちろんお勉強もしっかりしていましたが、計画も大事ですからね、寸暇を惜しんで勤しんだのですよ。
お父様には内緒でお母様と何度となくお手紙を交わしまして、極秘に進めました。お母様というとっても強力な協力者を得られましたからね。負けるわけなんてないのですよ。うふふん。緻密にして綿密な計画──とは言えませんが、お父様に負けないで私の意見を通せるだろう言葉のピックアップはお母様監修の元終わりましたからね。途中で少しだけびっくりするようなことも知りましたが、多分それは瑣末なことのはずです。ええ、多分。……スネイプ先生には、研究費として幾ばくか差し上げねばならないと深く痛感しましたが、その多分きっと大丈夫なはずなのです。
深く考えると、よりお父様と膝突き合わせてお話ししなければならないとは思うのですが、そこはそれです。今、1番大事なのはアリシアさんのことについて、ですからね。ちょこっとだけ後回しにすることにします。ごめんなさい、スネイプ先生。
なんて考えている私は今、ホグワーツ特急に揺られています。ええ、もうしばらく乗っていれば、9と4分の3番線に辿り着くのです。ちなみにお父様も、お母様もドラコもお迎えに来てくださるそうです。嬉しい限りですね。前哨戦ですよ、お父様!
「あー…キャシーすっごい楽しそうだけど、どうかしたのか?」
どこか呆れを滲ませた雰囲気で、フレッドくんが問いかけていらっしゃいます。
いけませんね。考えていることが顔に出てしまっていたら、お父様に勝てません。気を引き締めなくてはなのです。ペチペチと頬をはたきながら、私はフレッドくんに向き直ります。
「ええと、その……大したことではないのですよ? ただちょっとお母様やドラコにお会いできるのがとっても楽しみなだけですから」
「家族に会えるのは嬉しいよね! キャシーはさ、お父さんとお母さんに会ったら、まず1番最初になにするつもり?」
「そうですね……。参考までにアンジーとフレッドくん、アリーはなにかなさるご予定か伺ってもよいですか?」
言葉を濁すかわりに、私はそう問いかけます。質問に質問で返すのはいけないことですが、正直に言ってしまってもいいのかわかりませんからね。ある意味予防策なのです。
なんと言ってもこのコンパートメントの中には、アリシアさんもいらっしゃいますからね。心の傷になっていらっしゃるだろうお父様の話題はできるなら避けたいのです。
ええ、だって言えませんもの。駅のホームで再会の挨拶が済んだらすぐに、お父様ににっこり笑ってフィルムを差し出すつもりなのですよ、なんて。もちろんアリシアさんやアンジェリーナさんと別れた後できちんと実行に移しますけれどね。
「ううーん。普通にただいまと会いたかったー! って言ってハグ、かなあ?」
「まあ、アンジーも家族ととっても仲が良いのですね」
「普通だよ、普通。でも久しぶりだし……ね」
照れていらっしゃるのか、ほんのり頬を赤らめるアンジェリーナさんは大変可愛らしいです。はい。ちょっと胸がキュンとしてしまいます。
アンジェリーナさんの言葉にふんわり癒されておりますと、後を継ぐようにフレッドくんが口を開きます。どのようなことをなさるのですかね? 少しだけ予想はつきますが。
「俺は多分、弟をからかって、母さんが俺とジョージを見分けられていないフリをスル──くらいか?」
「なによそれ。家族にもイタズラしてるの、あなた? いい加減にしないと弟に嫌われるわよ?」
「いいんだよ、それが俺たち家族のコミニュケーションなんだから。ていうかさ、そういうアリーはなにをするつもりなんだよ」
「そうね、別に普通に再会の挨拶をするくらいかしらね。私はアンジーほど家族が大好き、とは言い切れないし」
「え? アリーはご家族と仲が良くないのですか?」
「あー…そんなことないのよ? ただ、そのなんていうの? 意見の食い違いがあるだけってこと」
ヒラヒラと手を振り、苦笑いするアリシアさん。ええと、その……アリシアさんがご家族と食い違う意見というのは、その……私のことではないですか? とは面と向かっては聞けません。ええ、聞いてそうだと言われてしまったら、多分とっても立ち直れないですから。
「そんな顔しなくてもいいのよ、キャシーのことが直接関係してるわけじゃないんだから」
「で、でも……」
「本当に違うのよ。だって私、手紙にきちんとあなたと友人になったのだと書いてるし、あなたがマルフォイなのだとしてもグリフィンドールなのだからなにも心配いらないってしっかり書いてるわ」
「ですが……」
「もちろん全てを信用しているわけじゃないでしょうけど、両親もキャシーと私が友人だってことは納得してくれているのよ?」
「……でも意見は食い違っていらっしゃるのですよね?」
「そうね、食い違ってるわ。でも本当にあなたじゃないのよ」
諭すようにそうおっしゃるアリシアさんを、私はただ見つめてしまいます。疑いたいわけではないのですよ? ですが素直に信じられるほど、我が家の評判はよろしくないですから。
そうして見つめていると、アリシアさんは困ったように笑います。ああ、困らせているのは私ですよね。どうしましょう……。
「……あなたのお父様のことよ」
「え? お、お父様……ですか?」
囁くようにアリシアさんはおっしゃいました。私のお父様、ですか?
「そう。私が知ってるあなたのお父様と、父や母の知る『ルシウス・マルフォイ』があまりにもかけ離れているから、父も母も信じてくれなくて」
私の思っていることが透けたのでしょうか、肩をすくめてアリシアさんは軽くおっしゃいました。
ええと、アリシアさんはお父様とお母様とのお手紙で私のことだけでなくウチのお父様のことも話題として出している──という解釈でよいのでしょうか。え? なんでしょう……なんだかっとっても肩身が狭い気がするのですが。
というかですね。どうしてアンジェリーナさんも、フレッドくんもこちらを生温かい目で見ているのですか? と聞きたいですがわかっているのです。ええ、わかっているのですよ。なんと言ってもアリシアさんがスネイプ先生のお部屋で聞いたという
私だって初めは信じられませんでした。だってお父様はいつだってとっても難しい顔をしていらっしゃいましたし……。ハグどころか、頭を撫でていただいた経験も片手で数えられるほどしかありません。まあ、これはお母様も同じなのですけれど。
たぶんですが、私とお父様の距離感は親子というには遠いものだったように思うのです。もちろん家族愛を感じなかったなんて言いません。言いませんが、アリシアさんがおっしゃったようなおおっぴらな愛の言葉など、私は伺ったことはありませんでした。ですから、にわかには信じ難いのです。が、このようなことでアリシアさんが嘘をつかれる意味もないですし、本当に本当のことなのでしょう。
闇の陣営の旗印的立ち位置の我が家、マルフォイ家。現在その筆頭であるお父様の対外的な印象といえば、狡猾であるとか、例のあの人に心酔しているだとかだと思います。それが……娘への愛を叫ぶ男だった──なんて聞いても、お父様を知らない方ではお父様とは結びつかないでしょう。知っているはずの私ですら無理なのですから。
「まあ、単純にこれは私と家の家族との意見の相違だからキャシーは気にしなくていいの。別に喧嘩してるわけじゃないし……だからそんな顔しないで」
「え、えと……」
「どうしょうってすぐわかる顔。なんかキャシー、迷子になった子どもみたいな顔してる」
「ま、迷子……」
「んー…でもしょうがないよね。ずうっと信じてたことが違うんだ、なんてそんな簡単に信じられないよね。実際に見てみないとさ」
アンジェリーナさんも苦笑いしながらおっしゃいます通り、確かに一度その目にしなければ信じることは難しいでしょう。私だってアリシアさん以外の方がおっしゃったのならすぐには信じなかったかもしれませんし。ええ、私もですね。流石に誰でも信用するわけではないのです。──私を信用してくださらない方のことを無条件で信頼できるほど、世間知らずではないですし、無知でもないのですから。
つらつらと考えれば考えるほど深みにハマりそうですが、違いますね。今考えるべきは1つ。周囲の方が信じる、信じないではなく、如何にしてお父様から望む言葉を引き出すことができるか、です。
果てしなく壮大なおねだりをする予定ですからね。今ここでそれ以外のことを拘っているわけにはいかないのです。そう、どんなに気になっているのだとしても、最大の目標以外は今は気にしてはいけないのです!
「あー…なんか納得できた感じ、か?」
「多分ね。拳握ってるし、目にも力がこもってるし……キャシーは可愛いわね、本当に」
「キャシーはいつでも可愛いよ!」
「それは当たり前よ」
「アリーもアンジーのこと、言えないんじゃないか?」
「あら、あらあら。フレッドには負けるわよ?」
「そうでもないんじゃないか? ……まあ、1番キャシーバカなのは、多分あの人──だろ?」
「……そう、ね。それは間違いないでしょうね」
うふふん! お父様がどれほどお慌てになるか、今から楽しみで仕方ありませんね! ああ、早く駅に着きませんでしょうか!
初めてお父様に逆らう──はずですのに、私はとってもそのことが楽しみで、とっても親不孝な娘ですね。なんて少しだけ思ってしまいますがいいのです。だって今は、本当にお父様よりもお友達であるアリシアさんの方が──いえ、お父様からこれから得られるであろう交換条件の方がずっと大事、なのです。
ごめんなさい、お父様。