ヘタレ系悪役一家の令嬢に転生したようです。 作:eiho.k
その8
ホグワーツに入学して1ヶ月と少し。授業にお友達とのおしゃべりと毎日が充実している私なのですが、実は1つだけできていないことがあります。
そう、毎日毎日宿題以外でとあるお薬の作り方をスネイプ先生から学んだりですとか、マクゴナガル先生に変身術の授業後に補習をしていただいたりとかしておりますが、それではないのです。お薬を作ることも、アニメーガスになるために頑張ることも大事なのですが、それら自体はすぐにできなくて構わないのです。大事なのはカバンの奥底にしまいこんだままの
「どうしましょうかね……」
談話室のソファーに座り、クッションを抱え込んだまま悩みます。私としては早くぐるぐるに紐と布とを巻いたアレをダンブルドア校長に渡したいのですが、校長に個人的に会うことができるのでしょうか。……私ただの一年生ですし。
「キャシー? どうかしたのか?」
うんうん唸っていたからでしょうか。どこか心配した風な顔をした……多分ジョージくんが声をかけてきます。失礼に当たるので「ジョージくんですか?」とは聞きません。
多分もう少し慣れたらきっと見分けられるのではないかと思っているのですが、本当にできるかどうかはわかりません。ただ、1つだけ気づいたのは周囲をよく気にするのがジョージくんで、突然手を握ってきたりするのがフレッドくんではないかと思っています。ちなみにリーくんはお2人を識別することを諦めているそうです。どちらにしろ悪戯ばかりしているから、というのが彼の談です。
ですので、こうして心配してくれているのはジョージくんではないかという予想の元に答えます。もちろん名前は明言しません。私ズルいのです。
「いえいえ、別になんでもありませんよ」
「そうか? なんか悩んでるみたいだったから」
「その、ダンブルドア校長にお会いできる機会が少ないなあと思っていただけなのです。とっても有名な方なので、個人的にお話ししてみたいなあ、と」
当たり障りのない理由を口にします。そうなのです。『ハリポタ』の中ではあんなにもいっぱいハリーたちと関わっていたダンブルドア校長ですが、私たちとはさして関わりがありません。やっぱりまだ原作が始まっていないからですかね。
それとも私が主要人物ではないから、ですかね。わかりません。同じように私がどうしたらお会いできるのかも皆目見当がつきません。本当にどうしたらよいのでしょうかね。
相も変わらずクッションを抱きしめて考え込めば、私の隣に腰掛けた推定ジョージくんが言います。
「ふうん……校長とね。でもキャシーならできるんじゃない?」
「どうしてですか?」
あまりにもはっきり言い切られて、首を傾げます。
「だってキャシー、マクゴナガル先生とかスネイプと補習したりしてるだろ? つまり先生の2人とそれなりに交流してるわけだ」
「ええ、そうですね。とってもお世話になっていますね。お2人ともとってもお優しいのです」
「あー…それはまあ、俺にはわからないけどさ、とりあえずその2人に相談してみればいいんじゃない? ダメだったらダメって言うだろうし」
「そう、ですね。確かにダメでしたらお2人ともおっしゃってくださいますよね。……今度の補習の時に伺ってみますね」
推定ジョージくんの言葉で光明が見えて気がして、私も少し安堵しました。そうです。私が会えないのでしたら、会える方に言伝を頼めばいいのですよね。特にあの人に頼めば色々と上手くいく気がしますし。
小さく笑ってお礼代わりに頭を下げます。その頭にぽすりと推定ジョージくんの手が乗ります。なんでしょう、もしかして彼はフレッドくんだったのでしょうか。
「ま、頑張れ。でさ、キャシー」
「はい、なんですか?」
「その……いま暇ならさ」
「はい」
「俺と、その……「キャシー! 私たちと一緒に図書館に行かない!」散歩に──」
「え? え?」
言い淀んでいたジョージくんだと思われる彼の言葉を最後まで聞く前に、私の腕が引かれました。さっくりとクッションを落としてしまったのですが、それは何故かアリシアさんが拾ってくれています。ということはいま私の腕を掴んでいるのは──
「アンジェリーナさん、どうしたのですか?」
「魔法薬学のレポート! どうしてもわからないことがあるのよ! キャシー、魔法薬学得意でしょ? だから教えて欲しくて!」
「そうそう、ここでするつもりだったけど……まあ、色々と面倒がありそうだから図書館でしない? 私はレポート終わったけどちょっとキャシーに見てもらいたいし丁度いいかなって思ったのよ」
どう? と聞きながらもすでに歩き出しているアンジェリーナさんとアリシアさん。別に否やはないのですが……。私はちょっとだけ振り返って、声をかけます。
「お話の途中にごめんなさい。また話しましょうね」
「あ、ああ。またなキャシー」
「はい、また」
ちょっとだけ落ち込んでいる風のジョージくんらしき彼にヒラヒラと手を振って、引かれるままに歩く私です。なんでしょうかね。なんだかたびたびこう言ったことがあるのですが。
もちろんアリシアさんやアンジェリーナさんに誘われるのは嬉しいですよ。でもどうしてか男の子と話していると大抵こうして連れ出されるのですよね。……なんでしょう。私と話している彼らのこと、アリシアさんたちはお好きなのでしょうか。私、今12歳になりましたけれど、流石に同じ年の男の子とは恋愛できませんよ? せめて10は年上の方がいいのですが。将来的にどうなるかわかりませんが、小学生男子程度の年齢の男の子にときめくような乙女心はないのですが。可愛いとときめくことはありますが、アレは恋心ではないですしね。
とは言え、流石に恋してませんよと聞かれもしないのに言えないですし。このままでもさして問題ないですよね。
それから夕食まで図書館でアリシアさんのレポートの出来を見て、じっくりアンジェリーナさんのレポートをお手伝いをしながら本を読みました。もちろん魔法薬学の本です。できるなら禁書を読みたいところですが許可がいただけていないので仕方ありませんね。
アンジェリーナさんのレポート完成までの間に何冊かの本を読み、その内の幾つかを借りることにして、図書館を出ました。
「キャシー、本当に魔法薬学が好きなのね」
「そうそう、こんなわかりづらいのが好きとかすごいよね。私にはわかんないなあ」
「そうですか? 薬学が得意になれば、誰かが怪我をした時にその人にあった薬を処方できるようになりますし……将来に役に立つだろうなあと思いまして」
「ああ、まあそうよね。でもさ、キャシーはマルフォイ家の令嬢でしょ? わざわざ自分で作らなくても家の者が作るんじゃないの?」
「あー…それはどうでしょうかね」
さっぱりとした口調でアリシアさんが言いますが、私は口籠るしかできません。流石にですね、色々とご心配をしてくださるアリシアさんに、もしかしたら今年のクリスマスに家に戻れないかもしれないとは言えないですよね。
そうなのです。入学早々グリフィンドールに決まりましたとお手紙を送ったのですが、未だに返事は返ってきません。何度か送ったそれ以降の手紙も同様です。いえ、予想はしていたので、あまり気にはしていないのですよ? ですがどうするのが正解なのか未だに答えを決めかねているのです。とは言え今はまだ10月半ば。あと2ヶ月ほどありますので、それまでにはきっと決まるので問題ないでしょう。
「まあ、キャシーだからね。おっとりのんびりで誰かにやってもらって当然──って子じゃないからね。自分でできることは自分でしたい子、だもんね」
「ま、それもそうね。意外に頑固だし? 頭はいいけどちょっと抜けてるし? まあそこも可愛いけど」
「ホント! すっごい可愛い! 理想の妹よね!」
なんだか不名誉な言葉を聞いた気がします。が、私はもう誕生日がきているのでもう12歳です。お誕生日を教え合っていないので、アリシアさんたちがいつ生まれなのか存じませんが、多分まだお2人は11歳のはず、です。が、これもさしたる問題ではないので、私は口を噤みます。
3人──主にアリシアさんとアンジェリーナさんですが──でお話をしながら大広間に向かいます。これからすぐに夕食です。
イギリス料理すぎる食卓を想像して、ちょっとだけげんなりしながらも大人しく席に着きます。ちなみに両サイドはアリシアさんとアンジェリーナさんです。そして向かいには赤毛のお兄さんが座ってらっしゃいます。はい、フレッドくんとジョージくんのお兄様、私がお名前を思い出せなかったお兄様の1人であるチャーリーさんです。
「キャシーは今日も小さくて可愛いね」
「……ありがとうございます」
「うん。本当に可愛い。フレッドやジョージは君に迷惑をかけていないかな? なにか困ったことがあったら僕にすぐ言うんだよ?」
「……はい、ありがとうございます」
チャーリーさんはがっしりとした体格の、笑顔の素敵なお兄様です。が、推定フレッドくんのようによく私に触ってきます。まあ、大抵は頭を撫でてくるだけ、なのですが、たまに抱き上げようとしたりなさるので注意が必要です。
1度抱き上げられたその後、フレッドくん、ジョージくん、アリシアさんにそれはもう怒られました。ちなみにアンジェリーナさんからは羨ましいと言われました。
たぶんですね、チャーリーさんは私のことを妹さんであるジニーさんと同じように見ているのではないかと予想しています。はい、そこまでは小さくないと思うのですが、そう思われてしまいそうなくらいには小さいので。くう……遺憾ですが学年で1番小さい子だとよく言われますから、多分間違いではないのでしょう。
ともあれ監督生であるチャーリーさんに気にかけていただけるのは、多分よいことなのであまり深く考えないことにします。
「チャーリーさん? キャシーの髪が乱れるからあまり撫でないでくださいません?」
「そうですよ、女の子に対して配慮が足りませんよ?」
「そうかい? それは悪かったね。許してくれるかな、キャシー」
「……ええ、髪は梳かせばいいのでお気になさらず」
にこにこと笑いながらもどこか押しの強さを感じるのはどうしてなのでしょうかね。私はちょっとだけ心の中で息をついてしまいます。いえね、嫌なわけではないのですよ? ですがチャーリーさんは監督生なのです。そしてとても素敵な方なのです。お勉強もできて、物腰も穏やかでありながら男らしいところもあって、お顔だって整ってらっしゃいます。つまりですね、とてもおモテになるのです。
入学早々お姉様方から睨まれたのは軽くトラウマです。まあ、すぐにチャーリーさんの態度がただの子供扱いであるとお気づきになったようで、逆に私を子供扱いなさって牽制していらっしゃるようです。
……皆さん、恋に力を入れてらっしゃるようですね。学生の本分ってお勉強、ではなかったのですかね? これがジェネレーションギャップというものなのでしょうか。