ルプスレギナ・ベータ、沈黙都市の孤狼との逢瀬   作:空想病

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 とりあえず最終回ですが……すごく長いです。



第四話 沈黙都市攻防戦

 

 

 

 

 

 

 

 

 クストは基本的に都市の外を出歩くことはしない。

 というよりも、出来なくなったという方が正しい。

 彼という人狼が保有するアンデッドなどへの特効封印技術と、そのスキルの恩恵を宿したアイテム作成技術によって、彼の長い寿命をこつこつと積み重ね、アイテムを十分な数だけ生産することができれば、彼がいなくてもある程度は沈黙都市の封印は無人で行うことも可能なレベルに達する。実際、十年前まで、彼は数日という期限付きではあるが、自分が封じる都市を抜け出し、物資の調達(主にアダマンタイトなどの希少鉱石や加工に必要な道具の確保)、諸国の情報収集(さらなる魔法技術の獲得による都市封印の更なる簡便化)、さらには自分の治癒魔法で人助けなどを行う為に、都市近郊を練り歩いたこともあるし、その途上でリンクのような追放された子供や、行く宛を失った狼たちを匿い養う事態もままあった。

 だが、十年ほど前を契機として、クストは都市の封印が綻ぶ事態に直面し始め、その調査と再封印の為の作業に没頭するしかなくなった。

 原因として挙げられるのはやはり、封印しているアンデッドたちが力を蓄え過ぎたことだろう。

 アンデッドは大量のアンデッドに招き寄せられるように発生する。それがこの世界において、一般的に流布されているアンデッドの発生メカニズムだ。しかも、上位のアンデッドに至っては、同族である下位アンデッドを、特殊能力などによって生産増殖することも可能だという話を、クストは幼き頃、かつて十三英雄と親交が深かった養父から聞かされたことがある。実例としては、死の騎士(デス・ナイト)は殺した生者の骸に己の偽りの生命力を注ぎ、その影響下に置かれた死骸は、騎士に従う従者の動死体(スクワイア・ゾンビ)と化し、そのゾンビが殺した生者の骸は、また新たなゾンビと化して生命を貪り襲うという。

 鼠算式に増殖されるなど、対抗策はひとつしかなくなる。

 大元になっている存在を一気呵成に取り除く。それだけだ。

 だが、その大元を取り除くことが不可能だとしたら、どうなる?

 地下聖堂の王(クリプトロード)は強大なアンデッドだ。他の強力なアンデッドを己の麾下に加え、指揮を執り、軍略に秀で、その力はまさにアンデッドの王と評して相応しい風格を備えていると認めざるを得ない。

 クストの力では、地下聖堂の王を封じることはできても、消滅させることは不可能なこと。

 故に沈黙都市には、溢れかえるほどのアンデッドの数が犇めき合い、いつか解放されるだろう日を切望しながら、王の封印が解き放たれるのを待ちわびていたわけである。

 アンデッドたちの封印が綻びを見せた理由として、ルプスレギナたちの訪問や、哀れなビーストマンの蹂躙劇よりも以前に、根底の部分で問題となっていたのが、封印の基幹部分――封印の金属板の劣化と減少が主な原因であったのだ。

 彼の封印能力を投影することが適う金属というのは、オリハルコン以上の希少金属が必須となっている。中でもアダマンタイトはとりわけ優秀な封印適応性を示してくれるため、クストはこの漆黒の金属を重宝してきたが、最近は人間の台頭や戦火の拡大に伴い、以前ほどアダマンタイトの入手は簡単なものにはならなくなっていた。クストが100年前の時点で備蓄保有していたアダマンタイトはすでに封印に使い尽され、それから先は適時において沈黙都市を離れ、国の中央市場にまで赴き、自分が制作した治癒アイテムなどを売却する形でアダマンタイトを入手してきたが、それにも限界が訪れた。

 新たなアダマンタイトがほとんど入手できなくなった以上、都市内で封印に使われているものを騙し騙しで運用していく以外の方法はなくなり、しかし日々増強されていくアンデッドたちの規模と勢力に拮抗し続けることは、理論面においてすでに破綻を迎えていた。

 だからこそ、クストは新たな都市管理者を、自分よりも強力な、殺戮を欲するアンデッドを封印し尽せる――または滅ぼせる――存在との邂逅を熱望していた。リンクなどの哀れにも追放された子供たちを引き取り育てる作業というのも、あるいは自分と伍する信仰系魔法詠唱者に育成できれば、都市の封印に役立つかもしれないという即物的な企みも含まれていた(ただし、基本的に善人な彼は、子供らの自由意思を尊重し、そのほとんどは成人と同時にクストの手から離れ、他の国で生活するようになっている。リンクのように、養い親の彼に恋心を抱く例というのは、実のところ初めてのことなのである)。その企図も、自分と同格にまで成長する個体が出現しない事例が十個ほど積み重なった時点で半ば放棄している。ビーストマンは、この世界の人狼(ワーウルフ)の力には到達できないという、確たる結論を得ながらも、クストは子供たちの救出と養育を続けてきたわけだ。

 

 そんな折に、彼の前に突如として現れた強者というのが、ルプスレギナ・ベータ。

 人間ともビーストマンとも違う――けれど、かつて何処かで嗅いだことがあるような、懐かしい香りを漂わせた、とても愛嬌のある可憐な少女――クストと同じ信仰系魔法を修め、彼に匹敵する力量を備えた不思議なメイド。

 そして、その少女が仕えているという、強大な力を持っているだろう御方というのが、あの有名な(引き籠っていたクストはまったく聞いたこともなかった)アインズ・ウール・ゴウン魔導王であったわけである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クストは深呼吸をし、握りしめた杖を建物の屋根に打ちつけた。

 地下聖堂の王(クリプトロード)に「久しい」と声をかけられても、クストとしてはあまり実感が持てない。封印状況の確認のために、数日に一度は確実に顔を突き合わせていたのだから当然と言えば当然だ。

 それでも、彼は観念を絞り切るような声をかろうじて吐き出して見せる。

 

「お久しぶりです……地下聖堂の王(クリプトロード)

『まったくだ。実に100年ぶりといったところか』

 

 赤錆びたような、耳障りにも聞こえるしわがれた声が、瘴気と共に死の王の口から吐き出される。

 時間の流れというものは封印状態でも感じ取れるようなのだなと、クストはどうでもいいことを考えてしまう。現実逃避など、あまり似合わないことをしてしまう自分が、少しだけおかしく思えた。

 

「交渉は……やはり聞き入れてはもらえませんか?」

 

 100年前とほぼ同じ遣り取りが始まる。

 かつてクストは、十万人を貪り尽くした死の軍勢に挑みかかり、あの都市中央の塔で、こうしてこのアンデッドの王者と会談の場を設けたことがあった。

 対して王は、人狼の青年の提案を愚問と評して一笑に付す。傍らに控えるエルダーリッチたちも苦笑するように肩を震わせていた。

 

『我は死の王。我は此の世界に存在した瞬間より、(あまね)く生あるものに死を与える権利者である。生者はすべて死者となり、我が軍門に下るが必定の真実』

 

 その声には、まるで使命感にでも突き動かされているかのような、信仰にも似た何かが含まれているかのように頑健だ。

 クストの思想とはまったく完全に背理していなければ、敬服していてもいいほどの意志力である。

 

「やはり、歩み寄ることはできないと?」

『歩み寄るがいいとも。我がこの手で、死の淵へと誘ってやろうではないか』

 

 交渉決裂。

 わかってはいたが、やはり話が通じなかった。

 クストは生を尊ぶ信仰者であり、王は死を誘う処刑人でしかない。

 どちらにも目指すべき理があり、どちらにも譲れない法がある以上、この結末は必然でしかないのだ。

 

「では――戦いましょう」

『来るがよい、人狼。ひとつだけ忠告しておこう。100年前のようにはいかぬぞ』

 

 言われるまでもなく承知している事実を再確認しながら、クストは杖を前方へ振るった。

力の爆裂(フォース・エクスプロージョン)

二重魔法最強化(ツインマキシマイズマジック)魔法の矢(マジックアロー)

 互いの魔法は激突することなく、二つの〈魔法の矢〉はあらぬ方向へと向けて発射され、衝撃破の圧力が地下聖堂の王のガラ空きな身体へと叩き込まれる――寸前で弾き飛ばされた。

 

「防御魔法!」

 

 結論を口にしたクストは、左右から襲い掛かる魔法の矢の気配が迫ることを知覚する。

 否、それだけではない。

 王のそばに控えていた死者の大魔法使い(エルダーリッチ)二体も、王の援護射撃を敢行する。二体から放たれた魔法は〈火球〉と〈雷撃〉の一つずつ。直撃しても大したことはないが、防御用のアイテムを無駄に消耗させていい状況でないため徹底的に回避する。魔法の矢二発と火の玉と雷の光がクストの脇をかすめた。四方八方、360度から飛んでくる魔法攻撃は非常に厄介だ。

 空中ではやはり不利。判断から行動までは一瞬の出来事。

 彼は墜落にも似たスピードで地表へと方向転換し、王に背中を向け逃げ去った。

 王は狩りを愉しむ君主のごとく泰然としながら、二体の魔法詠唱者と都市全域のアンデッドたちに思念を飛ばす。

 西日が潰え去り、世界は夜の帳に覆われていく中、

 狼狩りが、始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に、大丈夫なの。ルプス?」

「全然、だいじょうぶ♪ 私を信用してくださいっす!」

「……全然、大丈夫な気がしないんだけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜に包まれた沈黙都市は、今でも魔法の明かりが生きており、完全な暗黒に陥ることはない。都市管理者であるクストが、この100年をかけて維持してきたものだ。魔法技術の粋とも呼ばれた都市は、しかしかつての栄光など何処へやら。骸骨が走り、死体が蠢き、死の巨人が都市区画ごと攫うかのように巨腕で払いながら、地表すれすれを〈飛行〉して逃げる生者の影を追う光景というのは、この世の終わりを嫌でも想起させられるだろう。

〈飛行〉の魔法は走って逃げるよりも機動力に優れ、通りを覆いつくすアンデッドを踏み砕く労力にもならないため、比較的マシな回避行動が続けられる。魔力はなるべく温存したいところが、捕まった時点で何もかもおしまいだ。クストの目的は持久戦一択。少しでも長く息をし、少しでも長く生き続けなければ、都市の封印は彼の死と共に崩壊してしまう。そうならないためにも、これは必要な措置だと言える。

 アンデッドたちは嵩にかかった様子で、人狼の気配に殺到し、建物の屋根にまで骸骨の戦士たちが出現し始めてきた。地表を飛ぶ人狼に襲い掛かろうと己の身が砕けることも構わずに墜落してきては、地表の同族たちと激突して自滅していく。あの王の指令が下され、アンデッドたちが彼の軍略に完全に従い始めていることは、火を見るよりも明らかだ。

 クストは空をおさえていたことで、地を這うしかなかったアンデッドたちの攻撃をほぼ完全に無力化してきた。だが、その空は今や地下聖堂の王(クリプトロード)の領域である。何処からか発せられた何十本もの魔法の矢が、クストの〈飛行〉の速さに追い縋ってきた。これをクストはすべて避ける。避けきれないものは建物を盾にしてでも避けきった。

 彼は知らないだろうが。これは地下聖堂の王が発動させた魔法で、己の創造したアンデッドと視界を共有することで、あの王はクストの位置を正確に視認し続けることができるのである。

 どこからともなく、人狼の真横から奏でられるような声がクストの耳を震わせる。

 

『相も変わらず大した性能だ。目も見えていないくせに、我々の攻撃をよくぞここまで回避できるとは』

 

 空を駆けるクストは舌を打つ。感情的な行動に思えるが、実際はクストにとってこれは戦闘において必要な生態とも言えるほどに重要な役割を果たす動作であった。

 

 反響定位(エコーロケーション)

 クジラやコウモリなどが、自分の発する超音波の反射から己の位置や障害物の有無、餌となる獲物などの行動や数を正確に把握する生体機能の一種だが、クストが扱うそれは、視覚障碍者が彼らの生態を模倣して再現したものとほぼ同じシステムになっている。これは彼の養父が十三英雄から伝え聞いた技法を、幼き日のクストに教授し、クストがそれを自己流に体得していっただけのものに過ぎない。

 杖を突く音や舌を打つ音の反響で空間の広がりを認識し、そこにある物体の材質や位置を把握し、生物の鼓動や動作を知覚し得る。人狼として極めて優れた聴覚を有するクストが扱うそれは、大気の流れや非生物のオーラまで容易に察知可能なレベルだ。嗅覚によってある程度の人物特定や種族判断も併用できるため、彼は生まれた時から全盲でありながらも、並の人間や存在以上に、世界というものを感得し尽くす能力を獲得しているのである。

 今こうして乱立する障害を巧みに(かわ)し、骸骨戦士たちの津波のような突撃を難なく避けることができて、尚且つ自分の周囲に地下聖堂の王(クリプトロード)の姿がないことを感知できるのは、そういうからくりがあったわけだ。

 

『では――こういうのは、如何(いかが)かな?』

 

 響く声に合わせ、さらに大量の〈魔法の矢(マジックアロー)〉がクストの行く手を阻む。〈魔法の矢〉は高い位階に位置する魔法ではなく、人間の魔法詠唱者でも習得は比較的容易な第一位階に属している。その威力は推して知られる程度のものだが、数十本もの魔法の雨は怒濤のように押し寄せ、巨大なひとつの威力攻撃と化していた。地下聖堂の王の凶悪な魔力で錬成されたそれは、エルダーリッチらが唱えていた単発のそれとはまるで違った脅威となって人狼を追い立て追い詰めていく。

 それでも、クストは解せない。

 先ほどから一辺倒に〈魔法の矢〉を射かけてくるが、何故だろうか他の魔法が飛んでこない。

〈魔法の矢〉は第一位階ながら追尾性や誘導性を有する為、逃げる敵を狩る上では重宝して然るべき性能をもっているが、他の高位階に属する魔法で範囲攻撃を仕掛けてこない理由が見えてこない。〈魔法の矢〉と併用して市街を大火や雷雨で覆い尽せば、クストの活動領域は大幅に縮小され、狩られるまでの時間は一挙に短縮されると思考するはず。

 なのに、何故か?

 

「……(たの)しんでいる?」

 

 おそらくは正解だ。

 奴は100年もの間、クストの手によって封じられてきた。その怨嗟は計り知れない。

 いきなり首を一刀両断に()ねるのではなく、首に当てた(のこぎり)を一回一回丹念に引いて、苦痛を味合わせながら殺す方をご所望なのだろう。実に残忍な死者の王が思考しそうな復讐方法ではないか。

 野に放たれた狼の四肢を砕き、(はらわた)を割いて愉しむ貴族的な狩猟の標的となる青年は、しかし冷徹に、自分の命を長持ちさせる方法を思考し尽くす。

 反撃の目を探るための長期戦準備ではなく、まったくもって消極的な、自分の死までを確定的に計画しての耐久戦をクストは選び取っている。

 封印が破綻した時点で、こうなることは予測できていた。あれらには自分一人で対抗することは不可能。万が一、億が一の勝利も期待できない、絶対的な敗北のみが自分の未来。それだけが、クスト・スゥに待ち受ける命の終わり方なのだ。

 だからこそ、クストは決して、自暴自棄にはならない。

 一刻でも多く時を稼ぎ、一体でも多く死の軍勢を削ぎ落とす。

 世界を守るため……などという大言壮語の為では、当然ない。

 この都市外へと脱出を果たした(リンク)(カロル)たち、そして、短い間ではあったが気心が知れた(彼女本人は大して心を開いてはいなかったようだが)ルプスレギナや護衛くんたちの為に他ならない。

 世界のためなんて、そんな背負った気持ちはクストには存在したことがない。それは大義名分として語って聞かせた程度の、実の伴わないただの言葉でしかなかった。

 世界などよりも、クストは自分の知る存在が、生き永らえてくれさえすればそれでいい。

 ただその一心だけで、彼は都市の封印を100年にもわたって続けてきた。

 飽きてはいた。退屈もしていた。それでも、彼は自分の知る限りの命だけは、守りたかった。

 かつての友人は死に絶え、自分を覚えているものもいなくなり、養ってきた子供らが旅立っていった後も営々と、クストは孤独なまま、この世界で最後の人狼として、そうして今ここで死ぬ。

 ただ、それだけのことなのだ。

 とっくの昔に決していた覚悟を再確認しながら、追い縋る魔法をすべて避けきった。中央塔から南門までを通す目抜き通りは閑散としている。四門へとアンデッドが殺到したことで、一時的にアンデッドが少なくなっているのか。そう思考した。

 否、おかしい。

 クストは自分の軽薄な思索を転換する。

 中央にほど近いということは、中央地下に封じた大兵団……死の騎士(デス・ナイト)魂喰らい(ソウルイーター)と邂逅してもおかしくはないはず。だが、何故か彼らとの邂逅は現在まで確認できていない。時間的に言えば、彼らが地下から溢れ、大挙してクストに襲い掛かってきてもおかしくはない。でなければ、四門の封印破壊にでも派遣されているのか。

 クストが疑念と不安に駆りたてられた瞬間、

 彼の脚が――厳密には足底の大地が――爆ぜた。

 

「なっ!」

 

 驚愕に彩られる思考は、吹き飛ばされながらも起こった激発の意味を過たず理解し尽くす。

 

「地、雷!」

 

 クストは目が見えない。

 彼は目以外の感覚野――鼻と耳と肌に感じられる世界を手に取るように把握し、さらには魔法的な手段によって、ある程度の危険や脅威を察知することも可能な能力を備えている。だが、地下聖堂の王(クリプトロード)ほどの高位の魔法詠唱者が相手となると、魔法的なアドバンテージなど無に帰するのだ。そして、奴が魔法で周到に隠蔽した領域設置型の魔法〈爆撃地雷(エクスプロード・マイン)〉を、クストが感知することはほぼ不可能。足で踏み抜いた瞬間に回避するか、人狼の防御力を頼みに耐える以外の対処法しかなかった。実際、今しがた吹き飛ばされた左脚はクストの身体に繋がっており、獣の勘とでもいうべきもので、ある程度の危機的状況を回避することはできる。ある程度までは。

 加えて、

 

「がぁっ!」

 

 地に落ちるよりも先に、右肩が〈浮遊機雷(ドリフティング・マイン)〉に接触、起爆させてしまう。空間を抉り取るような爆裂の衝撃に全身がつんのめり、衝撃で一転、空中から大地へと叩き伏せられ、数歩たたらを踏んだ先でまたも大地が爆ぜる。それを避けようとして跳躍すればまた空間が爆ぜ、大地に体を打ちのめされる結果に終わる。

 この〈浮遊機雷〉も地雷と同じように上手く避けるか、耐え忍ぶ以外の対処は不可能だった。クストは、王があらかじめ敷設してきた地雷原と機雷群の只中に、〈魔法の矢〉とアンデッド兵団を巧みに利用され、まんまと誘導されてきてしまったのだ。〈爆撃地雷〉と〈浮遊機雷〉の悪辣なコンボによって、人狼の青年は完全に身動きを封じられる。なるほど、この場に他のアンデッドがいないのは、巻き添えを恐れたからか。

 クストは見ることの叶わぬ瞳で空を見上げ、そこに佇む死を感じる。

 上空には転移を使わずに飛行してきた王者が、悠々とした態度で人狼を見下していた。

 

『戦とは、準備だ。布石さえ万端整えてしまえば、勝敗は覆らない』

 

 王は言って、攻勢を緩めようとはしない。

二重魔法最強化(ツインマキシマイズマジック)爆撃(エクスプロード)

 放たれた二つの爆炎が空を駆け、途上に仕掛けられていた機雷群を誘爆させながらクストに堕ちる。防御不可。回避不可。瞬くより早く〈聖域(サンクチュアリ)〉の魔法を発動させる。輝く障壁の(ヴェール)が周囲を覆い、爆裂の衝撃が感知の限界を超える。

 轟音と轟音。

 耳の機能を無力化しそうなほどの大音量を伴う威力攻撃が、人狼の展開する〈聖域〉の壁を蹂躙し尽す。

〈聖域〉は一見すると無敵な防御手段に思えるが、所詮は信仰系魔法の基礎中の基礎。より上位のものだと〈力の聖域(フォース・サンクチュアリ)〉が存在するが、クストは取得できていない。

 奴ほどの高位の存在にしてみれば〈聖域〉を突破すること自体は容易であり、さらに、この魔法は瞬間的な個体防御よりも永続的な集団防衛に向いた魔法なのだ。大量の魔力を消耗するというデメリットと引き換えに、防衛戦や持久戦において多大な成果を示してくれるが、それは救援や支援が見込める状況でこそ真価を発揮し得る。奴と戦う戦力は自分(クスト)ひとり。魔力が尽きてしまえば、あとは蹂躙されるだけである以上、〈聖域〉の魔法を展開して睨めっこを続けても勝利条件は達成できない。おまけに、この魔法は純粋な防御の盾となる魔法ではなく、敵対者の敵意や悪意を否定し、その攻撃の意図をまったく無為なからしめることで攻撃を無力化する魔法であるため、敵対者の魔力や意思が強靭かつ過量に過ぎた場合は、無効化できる容量は必然的に減少する傾向にある。

 つまり、王の絶対的な力と敵意の前では、わずかな時間稼ぎにも使えず、防御力の増強程度にしか使えないというわけである。

〈聖域〉に守られている肉体を消し炭にするかのような業火の灼熱が、装備で炎対策をしている皮膚を焼く。爆炎の気配が途切れるまでの間、クストは息を殺して耐え凌ぐしかない。肺を焼かれ喉を爛れさせたら、治癒の魔法を唱えることができなくなる。治癒アイテムはここでは使用できない。負傷した腕では正確に取り出せる自信がないし、なによりも使用したくない理由があるのだ。

 そうして、爆炎が消失した。

 

「〈火傷治癒(キュア・バーント)〉」

『〈龍雷(ドラゴン・ライトニング)〉』

 

 治癒魔法を発動させた途端、王の指先から巨大な雷が鎌首をもたげ人狼の頭上に落下する。

 だが、クストはこれを、雷属性を無効化するアイテムを一回分消費してやり過ごす。わずかながら、王が怯むような驚愕を面に表す。人狼は跳躍し、王のもとへ肉薄する。

 人狼の周囲には地雷と機雷が大量にばらまかれている、この状況。

 行路と退路はともに完全に失われており、唯一の突破口となるのは、奴が爆撃魔法で焼き払ってくれた頭上以外ありえない。

 だから、跳ぶ。

 

「〈大治癒(ヒール)〉」

 

 クストは強力な治癒魔法を開放した。己にではなく、地下聖堂の王に対して。

 

『ぐぅ、あ!』

 

 アンデッドは正常かつ清浄なエネルギー――つまり治癒魔法を受けると、逆にダメージを負ってしまう。強力な治癒効果を発揮する〈大治癒〉は彼にとっては立派な攻撃手段と化し、ここへ来て初めて地下聖堂の王に痛切な打撃を与えることが叶った。

 そして、クストは攻勢を緩めない。

 

「〈大治癒(ヒール)〉!」

 

 続けざまにもう一発、王の肉体に魔法を叩き込む。浄化作用に苦悶の呻きを漏らす王。

 

「〈大治(ヒー)ッ……!」

 

 さらにもう一発の魔法を詠唱する中、身体を幾つもの鋭い衝撃が奔った。

 人狼の身体を貫く矢羽が四つ。

 クストは己の感知をすり抜けたアンデッド、紅骸骨戦士(レッド・スケルトン・ウォリアー)の存在を認識した。血にまみれたような紅い帯鎧(バンデッドアーマー)を身に着け、同じく血を滴らせたような毒液を分泌する魔法武器の剣や弓矢で武装した凶悪な不死者だ。その強さ故に、徒党を組んで現れることはほぼ皆無とされるアンデッドであるが、あの四体の紅骸骨戦士全員、地下聖堂の王(クリプトロード)に創造された従者であることは間違いない。屈強な戦士でありながら、その呪わしい色の鎧には、高度な隠蔽効果が付与されており、戦いに集中していたクストは感知の隙を突かれてしまったわけだ。

 人狼の防御を貫いた矢には毒液がたっぷりとしみ込んでいたが、幸いなことにクストは毒に対する耐性を備えていた為、問題は少ない。

 問題は、目の前で手を差し向けてきた。

 

『〈氷嵐(アイス・ストーム)〉』

 

 王のこれ以上ないほどに的確なタイミングで放たれた反撃の魔法が、クストの全身を覆いつくす。

 凍てつく風が臓腑に食い込む鏃を冷却し、幾多の鋭い氷雪が肌と肉を引き裂く。

 悲鳴さえ上げる余力すら奪うほどの極寒の暴風から逃れるように落下し、そこへ王は追撃の〈爆撃〉をお見舞いしようと魔力を込める。凍傷と低体温に追い込まれた人狼は、その様子を他人事のように見つめていた。見つめるしかなかった。

 ここまでか。

 一瞬だが、本気でそう思ってしまったほどに、彼は打ちのめされてしまった。

 自分で自分に〈大治癒(ヒール)〉をかけたとしても、勝算は限りなく無に等しい。またも蹂躙されるだけ。この一連の動作を繰り返すだけなのだ。

 自分という(くさび)が死ねば、都市の封印は崩壊し、奴らが世界を蹂躙しようと都市外へと勇躍するのは確実な未来。

 そうなれば、この先一体どうなってしまうか――

 律儀に周囲の集落を巡っているだろう妹たちは――

 あの奇妙ながらも、愛嬌と矜持に満ちたメイドは――

 思った瞬間、戦意が彼の胸の内で再燃した。

 落下してくる獲物を串刺しにしようと待ち構える骸骨戦士たちに手を差し向け、〈力の爆裂(フォース・エクスプロージョン)〉を発動する。無色透明な衝撃波が骸骨の身体を上から拉げさせ真っ平にする。

 無様に建物の屋上を転がりながら着地し、突き刺さっていた四つの矢羽を強引に引き抜きながら、頭上で輝く爆炎を、見えてない眼で睨み据える。

〈聖域〉は発動しない。さっきと同じパターンになるのは御免だ。否、先ほどは次の手に雷の魔法を撃たれたから助かっただけだ。他の魔法――無属性などの強力な魔法を唱えられたら、治癒を施した瞬間に体力を削り取られる。ただ魔力を無駄打ちする結果に終わってしまう。

 唱えた魔法は〈二重魔法最強化(ツインマキシマイズマジック)力の爆裂(フォース・エクスプロージョン)〉――爆炎ひとつを相殺するのに、これだけの魔法が必要になる事実に汗を流しつつ、クストは確実に爆炎の脅威を排除した。

 もはや、出し惜しみなど考えていい状況では、ない。

 自分の全身全霊を絞り尽くして、あの王を打ち倒す。

 それが叶わないとしても、せめてこの都市に跋扈するアンデッドたちを殺しつくす。

 それはそれで、あの王の力を削ぐ効果は生み出されるのだ。いかに強力なアンデッドでも、指揮する将兵がいなければ無冠の王者も同然だ。どうせすぐに生み出され創造されるだけだろうが、それでも、少女たちが逃げる時間くらいは稼げるだろう。

 王の下知を受けた死者の大魔法使い(エルダーリッチ)たちがかなりの速度で突貫してくる。それぞれが凶悪な魔力を掌にわだかまらせながら。

 クストは、彼女らの無事を祈念しながら、魔法を両腕に込めた、

 瞬間、

 

 

 

吹き上がる炎(ブロウアップ・フレイム)

 

 

 

 大量の炎熱が、空を落ちてきていた魔法詠唱者二体を焼き払った。おまけに、周囲の機雷群も炎にやられて誘爆していく。アンデッドは炎への脆弱性を示すとしても、その光景はあまりにも呆気なさすぎる印象を抱くほどに一瞬だった。

 

『何事だ?』

 

 王の疑念は、クストの胸中にも去来していた。しかし、獣の勘とでもいうべき直感で、彼は炎が吹き上がった方向に佇む人物を認識する。

 クストが感知した先にいたのはやはりというべきか、美しい白黒の衣服に身を包んだ赤毛の少女、仮面のように笑顔を張り付けた戦闘メイド、見たこともない聖杖を右手に携えた不思議な強者、ルプスレギナ・ベータが、そこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、何とか間に合ったすね」

 

 ルプスレギナは、クストとアンデッドの視線が自分に集約されるのを自覚した。

 自分でいうのもなんだが、かなり良いタイミングで介入できたことにほくそ笑む。

 手駒のエルダーリッチを一挙に失った敵があまりにも泰然としているのが気に喰わないが、さすがに仕方がないだろうと思考する。

 あのモンスターは、地下聖堂の王(クリプトロード)と呼ばれる指揮官系能力を保持した強力なアンデッドだ。

 ナザリックにも何体か存在しており、そのレベルは七十台に届く。

 つまり、戦闘メイド(プレアデス)内ではナーベラルに次ぐ数値のLv.59しか割り振られていないルプスレギナでは、ほとんど勝てそうにない相手ということ。十レベル以上の差というのは、それほどまでに深く遠い。

 そんな状況にもかかわらず、ルプスレギナは笑顔の仮面を脱ぎ捨てるような醜態をさらさない。

 

「リンクちゃん、早く登ってきたらどうっすか?」

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 建物の屋上を順番に飛び越えてきたのだろう銀髪の少女が、ルプスレギナの降り立つ見張り台の残骸の上にまで到達する。いくら森を走ることに慣れた野伏でも、その高低差を踏破するのは至難の業だ。

 

「二人とも、なぜ……!」

 

 クストの疑問はもっともだった。

 彼はこの二人が逃げる時間を稼ぐために、決死の戦いに挑んでいたというのに。

 ようやく彼の表情を自分好みのものに変えることができたことに予想以上の満足感を覚えつつ、戦闘メイドは彼の疑念と焦燥に歪む顔に答えを投げる。

 

「助けに来たんですよ」

「そういうことを聞いているんじゃない!」

 

 予想に違わぬ困惑と失望を込めた声が夜気を震わせる。

 

「僕は言ったはずだ! 都市(ここ)を出ろと! 脱出してくれと、そう言ったはずだ!」

 

 彼には似合わない罵声を浴びて、妹は委縮したように胸を震わせるが、傍らに立つメイドは皮肉をたっぷり利かせた暴力的な笑みを浮かべ(のたま)い始める。

 

「リンク・スゥは一度、確かに都市を出たわ。けれど、クスト――あなたは彼女に、戻ってくるなとは、一言も言っていないじゃない?」

 

 彼は言った。“都市を出てからは君の自由だ”と。

 そう、リンクはもはや自由なのだ。彼を見捨てるのも助けるのも、彼女の自由なのである。

 おまけに彼は致命的なことに、都市を出た直後すぐさま都市へと戻ることは禁じていない。

 だから、戻ってきた。

 ルプスレギナは彼の言質を逆手に取る形で、少女が都市に戻るように提案したのだ。

 これこそが、兄を救う唯一の手段たりえると説得されてしまえば、彼を愛する銀髪の少女は否も応もなかった。

 だから二人は、ここにいる。

 

「そんな、屁理屈……」

 

 絶望に顔を歪ませる青年の顔は痛ましく、しかしそこには一握の砂ほどの喜びが含まれていることを、ルプスレギナは目敏(めざと)く理解する。自分の大好きな表情だ。戦闘メイドの心の中で、彼に対する価値がワンランク昇格された瞬間であった。

 

「さぁ、反撃を開始しましょう」

 

 粛然と、メイドは聖杖をアンデッドの王に向け、構え直す。

 

『――愚かな』

 

 そんな新たな闖入者たる少女たちに対して、地下聖堂の王は不愉快気に言の葉を吐いてみせる。

 

『彼我の実力差も比べられぬほどに愚かな者が、この都市にはいまだ存在していたのか? 100年前から何も変わらぬな。人間も亜人も……そうは思わぬか、異形なる人狼よ?』

 

 同意を求める風にクストの方を見やるが、人狼は最悪な状況に顔を歪ませたままだ。

 彼の王は、そこに佇む少女二人――王は生命反応遮断のアイテムは無効なのだ――を見据える。

 

『まぁ、()い。遊んでやるとしようではないか、女神官。そして、ビーストマンの小娘』

「そうっすか? じゃあ、お言葉に甘えて!」

 

 戦闘メイドは一瞬にして姿をくらました。〈不可視化〉の魔法ではない。

 傍にいたリンクが周囲をうかがってしまう神速の躍動であったが、アンデッドの王は過たずに彼女の行方を看破する。

 満ちた月の光を背に、ありえない速度で跳躍する少女の赤毛は、血に濡れたような残光を残し接近している。

 

「しっ!」

 

 振りぬかれた聖杖は、しかし王の身体には届かない。ギィンと、硬質な何かを打ち払った時のような反響が掌を震わせる。防御魔法か、特殊技術による物理攻撃無効化と判断し、ルプスレギナは〈飛行〉を唱えて距離を離す。

 

『逃がすか』

 

 王が放った魔法の雷撃が、メイドの後を追った。人喰鬼の身体を数体ほど貫通するほどの雷撃を避けたルプスレギナは、回避から一転、攻撃に打って出た。

焼夷(ナパーム)〉の発動と同時に、王の身体を火柱が包むが、

 

「炎属性は微妙、と」

 

 王は泰然とした態度を崩さずに、ルプスレギナの攻撃から抜け出してきた。

 装備や特性で完全な対策ということは不可能なはずだが、レベル七十台のモンスターというのはルプスレギナでも強敵であることに変わりない。本来であれば、自分の安全のためには断固として戦うことを忌避せねばならない相手であるはずだ。

 にもかかわらず、ルプスレギナは王との戦いを決意し、クストが己に十分な治癒を施せる時間を供している。何故なのか?

 八本ほどの〈魔法の矢〉に追い立てられながら、ルプスレギナは再び王へと肉薄していく。

 

「じゃあ、こういうのは――どうっすかね!?」

 

 ルプスレギナが発動した〈大治癒(ヒール)〉の清らかな光が、アンデッドの身体を覆いつくす。

 

『ぐっ、き、貴様!』

 

 これには、さすがの王も驚愕を露にした。

 治癒魔法は極めて有効。そうなると神聖属性への対策も抜けていると判断していいいだろう。

 

『まさか、貴様……あの人狼に匹敵する神官だというのか!?』

「気づくのが遅すぎっす!」

 

 神聖属性と貫通特化の魔法を重ね掛けした聖杖が、王の防御を貫通して、彼の襤褸同然なローブを打ち払い、引き裂き、滅茶苦茶に吹き飛ばしていく。

 

「そっち行ったわよ、クスト!」

 

 殴打武器への防御を突破され、(したた)か肉体を吹き飛ばされた王の先には、腹の傷を癒したクストが杖を差し向けていた。唱える魔法は当然、アンデッドに致死的なダメージとなる生のエネルギーの大流入を引き起こす治癒魔法〈大治癒〉である。

 

『ぐ、おおおおおっ!?』

「はは! 相性は完全にこっちの有利っすね!」

 

 ルプスレギナが地下聖堂の王に戦いを挑んだのは、今まさに彼女が語った通り。

 いかに強力なアンデッドであろうとも、自分とクストという高位神官二人を相手取るのは非常に厳しい状況に立たされるのは想像に難くない。ルプスレギナたちはアンデッドへの特効攻撃を有しており、装備の差や扱える魔法についても違いはあるものの、神官として、信仰系魔法詠唱者として、アンデッド対策については万全の備えを持っていると言っても過言にはならない。

 無論、この戦闘はアインズの許可など取っていない。御方は、ルプスレギナが都市から脱出することを認め、都市から漏れるアンデッドたちを狩ることにのみ専念するよう命令を下していた。

 しかし、ルプスレギナはこう解釈した。

 アンデッドたちの指揮権を握る存在さえ潰してしまえば、より効率よく事態を運べるのではないかと。

 彼女の判断は、極めて妥当な判断でもあった。アンデッドたちが都市の外へ流出しようとするのは、上位アンデッドからの命令を受諾しているからの行動に過ぎない。生命を貪ったことで始まったアンデッドたちの狂騒についても、四門へ派遣された影の悪魔(シャドウデーモン)八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)部隊で刈り取られ始め、最初ほどの狂態は(なり)を潜めつつあった。アンデッドたちの興味は都市中央で戦う唯一の生体反応・クストへ集約されつつあるし、彼が生き続ける限りにおいて、アインズの命令は遂行される確率が飛躍的に上昇していくのも事実だった。

 故にこそ、ルプスレギナは彼を助力する口実が欲しかった。

 だからこそ、彼女はリンクを焚きつけるような提案を唱え、まんまと沈黙都市への帰還を果たしたわけだ。

 

『なめるなぁ、小娘が!』

 

 吠えて魔法を唱えようとした矢先に、砕けた防御の上から矢が数条、横合いから降り注いだ。

 鏃の先端を砕いて潰したことで刺突武器ではなく殴打武器に転換されている矢は大したダメージを与えることこそないが、王の意識に蠅がたかるかのごとく、思考を阻害する役割を果たしてくれる。

 

『ビーストマン風情が、我の邪魔を!』

 

 プライドを大いに損なわれる王の背後に、ルプスレギナの〈大治癒〉が叩き込まれる。

 三方向からの連携攻撃は、さしものアンデッドの王といえども驚嘆して然るべき威力を注ぎ続ける。

 勢いは完全に、ルプスレギナたちの手中にあった。

 

 

 

 

 

 地下聖堂の王は、数度目かの治癒の光に包まれながらも、いきなりの闖入者たちに対して冷静な分析を行い始める。

 赤い髪の人間の女――神官(クレリック)。脅威度は高い。人狼と同格の強者。

 ビーストマンの娘――野伏(レンジャー)。脅威度は低い。弓の遠距離支援者。

 そして、もう一人の状況を分析。

 人狼の青年――分析するまでもない強者。しかし、自分と戦闘で負った傷は完治していない。

 叩くべき相手を見定めた王は、反撃に打って出る。

 事前に準備し、封印が完全に解けてからの数秒で封じてきた魔法の幾つかを開放する――〈二重魔法最強化・魔法の矢〉の百本近い怒濤の閃光が闇夜を引き裂き、敵対者たちへと追い縋る猟犬と化す。

 次いで、王は〈骸骨の壁(ウォール・オブ・スケルトン)〉の防御で身を隠した。

 その光景にルプスレギナは疑問を覚えた。あの程度の防御で、自分たちの魔法を防げるはずもない。馬鹿なミスを犯したものだ。このミスを刈り取らない理由がないと判断し、ルプスレギナは骸骨の壁を〈力の爆裂〉で打ち砕きにかかる。

 

「ルプー、待て!」

 

 罠だとクストが告げる間もなく、骸骨の壁が内部から爆発した。衝撃と驚愕に意識を白く染められるルプスレギナ。別にこんな爆発程度でどうにかなることなどありえないが、ルプスレギナは直感的に、一人の少女の方を見やった。リンクは気づいていなかった。転移によって三人の中では完全に弱卒でしかない少女の背後に忍び寄った王は、相手の急所から責め立てるという戦においての常道を選択していた。

 

「リンク、後ろ!」

 

 同様に、クストも妹の危機を察知して声を張り上げた。

 しかし、間に合うはずもない。

 王の手に込められた魔力が、〈焼夷〉の魔法と化して少女の全身を包み込もうとした、その時。

 

「え?」

 

 リンクは自分の影が立体化する光景を直視した。

 立体を得た影は黒い総身をいっぱいに広げ、まるで盾のように少女を庇った。

 この戦闘に際し、ルプスレギナの護衛として同行していた影の悪魔(シャドウデーモン)は、事前にルプスレギナに命じられていた通り、少女の壁と化して力尽きる。彼らの指揮権はルプスレギナが握っている。ナザリックの同胞の中では重要度の薄い低レベルPOPモンスターでしかない影の悪魔たちは、喜び勇んで弱っちい少女の壁役を果たしていく。

 またも意外な闖入者に気を悪くした地下聖堂の王は、〈爆撃〉による殲滅を敢行しようとするが、八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)四体に近接戦闘を挑まれ、影の悪魔三体に連れられて離れていく少女を睨み据えることしかできない。

 苦々しげに、王は新たな魔法を唱える。

第七位階死者召喚(サモン・アンデッド・7th)

 夜の闇をゴボリと泡立てながら、紅骸骨戦士(レッド・スケルトン・ウォリアー)が七体、四匹の蜘蛛と刃を交わし、残る三体がリンクを守るよう飛行する影たちへの追撃を敢行する。

 だが、彼女たちに追いつく前に、一人の青年が三体の骸骨たちに割って入る方が早かった。

 ルプスレギナも不意を打たれたことに対して、戦者としての矜持を踏みにじられたかのような不快感を露に地下聖堂の王へと魔法を飛ばす。

 

「兄様、無事!?」

 

 アンデッドの戦士三体の攻撃を完璧にいなし、杖で頭蓋を砕いて無力化し尽くしたクストに対し、リンクはようやく言葉を交わすことが叶った。

 

「リンク、これを」

 

 対するクストは言葉少なに、治癒のポーションを幾つか手渡す。どう使うかわかるかな(・・・・・・・・・・)と問われ、少女は首を大いに頷かせる。青年は、妹を守ってくれた影たちに感謝を告げると、あっという間に王との戦闘を続けるルプスレギナのもとへ飛行していく。

 

『消えろ、女神官っ!』

「それはこっちの台詞っす!」

 

 王の言葉と〈魔法の矢〉にそう返した戦闘メイドであったが、やはりレベル差は厳然としている。

 相性的には圧倒的にこちらが優勢であるにもかかわらず、地下聖堂の王はまったくルプスレギナの攻撃に辟易した風を見せない。〈生命の精髄(ライフ・エッセンス)〉で測った体力ゲージは警戒域(イエローゲージ)にすら達していない。まったく効いていないわけでないことは確実なのだが、これではこちらの魔力切れが心配になってくる。治癒魔法というのは、当然ながら純粋な攻撃魔法に比べ魔力消費が激しい。〈大治癒〉ともなれば、その魔力運用効率は微妙だ。いくらアンデッドに対して特効作用を発揮するにしても、こうも連続使用を続けていては魔力が持つはずがない。

 何か打開策を模索すべきか。

 そう思いわずらいさえしてしまうルプスレギナの思考を、王が唱えた新たな魔法がかき消した。

部位石化(リージョン・ペトリフィケーション)

 咄嗟に身を翻した戦闘メイドの右脚が、巨石でも纏わりついたかのように重くなる。

 否、白いニーソックスの下が、完全に「石化」状態に陥ってしまったのだ。

 ルプスレギナは僅かに舌を打つ。王の扱える魔法は火・水・風属性のみならず、地属性にまで及んでいたとは。無論、ナザリックに存在する地下聖堂の王も四大属性に通暁するくらいの性能は持っているが、今までの戦闘で使ってこないことから、ナザリックのものよりも性能は劣るものと誤認していた。

 アイテムによって「拘束」に対する状態異常無効化を可能にする戦闘メイドであったが、〈石化〉の魔法は単純な拘束魔法でない。彼女の機動力を奪う「部位脱落」の状態に近い状況を彼女の右脚に施された。神官としての抵抗(レジスト)能力のおかげで片方の足首程度の範囲に収まっているが、並の人間であれば両足全域が石化してしまうだろう魔法である。

 ルプスレギナは自分の失態を自覚しつつ、笑顔の仮面だけは剝がさない。

 

「いや~、お見事お見事! まんまとしてやられちゃったっす」

『不愉快だ。貴様もあの人狼と同じく、じわじわと嬲り殺してやるとしよう』

「そっすか? まぁ、やれるもんならどうぞっす♪」

 

 やはりというべきか、ルプスレギナは王の戦術がかなり感情的なものであることを理解した。

 アンデッドは通常、精神安定化によって大概の感情は抑圧鎮静化される種族。だが、目の前の王は、100年もの間に渡って封じられてきた鬱憤を晴らすかのように、クストを徹底的に追い立て、自分の手で狩り殺す意思が強く表れていた。即座に、完全に、彼という封印者を弑すならば、己の麾下にある全アンデッドの飽和攻撃を続けていけば、殲滅は容易なはずなのに。

 クストは高位の神官であり、魂喰らい(ソウルイーター)死の騎士(デス・ナイト)などの中位アンデッドを滅ぼすことは実に容易い。今ではルプスレギナも戦闘に加わったことで、ますます彼らをここに遣わせる理由は薄れたともいえる。

 それでも、王は彼との一騎討ちにこだわる理由としては、そういった私怨が根として存在しているのだろう。

 馬鹿げた思考停止である。

 

「ルプー」

 

 妹と離れ、戦闘メイドの隣に青年が飛行してきて問いかける。

 

「右脚、解呪した方が?」

「気にしないでいいわ。そのための魔力も無駄にしたくないもの」

 

 クストもそのために、自分の治癒は必要最低限なものに留めていたのだ。その意思を尊重する。

 地下聖堂の王に対しての特効になる魔法を発動するために、魔力はなるべく温存するというのは理に適ってもいた。右脚首が石になった程度で、ルプスレギナの能力にはいささかも陰りなどないのだから。

 

「それよりも――何か決め手はあるの?」

「あると言えばある。けど、さすがに魔力が切れかかっているから、発動は一回できるかどうか」

「手を出して」

 

 短く命令すると、彼は歴戦の戦友に対する信頼と共に、少女に向って右手を差し出す。

 ルプスレギナは左手でそれを硬く握りしめると、自分の余剰魔力を彼に与えた。

 

「これで少しは余裕ができた?」

「ありがとう」

 

 感謝する彼を横目に確認しながら、長く繊細そうな男の掌を放した。

 

『本当に無駄なことばかりする。その男を見捨てて、この都市から逃げ出せばいいものを』

「あいにくっすけど、至高の御方は彼のことを気に入ってるみたいなんすよね」

 

 絶滅危惧種な人狼であること。アンデッドを封じるという異能を持つこと。100年にもわたって都市を管理してきた精神力の持ち主であること。

 すべてがアインズ・ウール・ゴウンの琴線に触れていた。

 だから、

 

「彼を殺そうとするおまえは、御方へ弓引く愚か者の誹りを免れない……ここで消えなさい」

 

 静かに宣した戦闘メイドの態度をどう思ったのか、王は再び魔力を錬成していく。

 その前に叩き潰そうとしたルプスレギナであったが、彼が唱えた魔法は予想の斜め上をいくものだった。

 唱えられた魔法は第八位階魔法〈上位絶叫(グレーター・シャウト)

 

 

『――――――――――――――――――――、!!!!』

 

 

 この世のものとも思えない大音量が音波攻撃と化し、彼の王の360度、全方位を覆い尽くす破壊の衝撃波を生む。朽ちた建物が瞬く内に塵と化し、都市は徘徊していたアンデッド諸共に更地へと変わる。第八位階魔法は高位階に属する魔法であるために、王にとっても切り札的な攻撃である。そのため、ここぞと見定めた場面でしか使うことのない魔法であり、そうして今こそが、そのタイミングとして相応しいと思考した。

 そして、この魔法はそれ以上の効果を、比較的至近に位置していた者たちにもたらすのだ。

 

「な、ぐ!」

 

 ルプスレギナはたまらず耳を塞ぎ、王への接近を諦め後退していく。

 

「が、ぁあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

 クストに至っては半ば狂乱したかのように身を振り回して、王の放った絶叫に悶絶の限りを尽くしていた。

〈上位絶叫〉がもたらす全周囲領域破壊の他に、恐ろしい追加ダメージが存在する。

「聴覚喪失」の副次効果。ルプスレギナは感覚喪失への対策を施しているから問題ない。

 しかしそれは、対策していなかったクストにとっては、世界の知覚を著しく困難にするということ。

 ルプスレギナは思わぬ反撃に面食らい、クストを肩に抱える形で、魔法効果の範囲から抜け出した。

 

「兄様! ルプス!」

 

 影たちに守られていたリンクは二人を迎え入れ、兄に対して治癒を施すが、失われた聴覚を取り戻すまではいかない。

 第八位階によってもたらされた状態異常というのは強力だ。リンクはそれ専用の治癒もかけているが、効果は察して然るべきもの。ルプスレギナでも、かなりの魔力を消耗することを覚悟せねばならないだろう。そうなれば、あの王とは戦えなくなる。

 

「がっ……ご、めん……あんな、魔法、ある、なん、て」

 

 妹の治癒で何とか危機的状況から脱したクストだったが、継戦能力はほぼ失われたとみてもいい。

 目は見えない身体で、その代わりに発達した聴覚を奪われては、もはや戦況の詳細を把握することすら困難だ。

 ルプスレギナはどうすべきか数瞬だけ悩む。

 彼へ譲渡した魔力を自分に返還させるべきか。それとも、

 

『迷う暇など与えん』

 

 少女らの心臓が跳ねた。

 王が転移で接近したと(さと)ったルプスレギナは、声のした方へ聖杖を振り回してみる。

 しかし、それは空振りに終わった。豪快の素振りの音の向こうで、王は先ほどの位置と変わらず、夜空に佇んでいる。

 声のみを飛ばす魔法だろうか? それにしては違和感が拭い切れない。

 

「リンク、今あいつ何したか判る?」

「わ、わからない……確かに、声は聞こえたけど」

 

 恐怖に引き攣る少女には目もくれず、戦闘メイドは注意深く王の挙動を見据える。

 

『さぁ、来い。愚か者どもよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルプスレギナは躊躇なく、地下聖堂の王へと挑みかかる。

 それは何のひねりもない突貫であったように見える。神聖属性を重ね掛けした聖杖を王者は注意深く防御し、彼女の唱える魔法や、繰り出される攻撃動作一つ一つを警戒する。

 実に単調な攻撃だと繰り出す本人は思っていたが、受ける相手は高レベルとはいえ魔法詠唱者でしかないので、特に疑問に思われることはない。

 疑問を覚えたのはクストだった。

 

「ルプー……何を?」

 

 彼女と同格の神官だからこそ、彼女の戦闘態勢の変化ぶりに違和感を覚えた。

 彼女は、逃げている。

 その行動は臆病や恐怖という色は一切なく、むしろ何かしらの強靭な意思が見えるほどに激しい闘争ならぬ逃走劇と化していた。

 耳が使い物にならないため、具体的な位置は朧げだが、残った嗅覚を頼りに、彼女たちが徐々にクストたちから離れていく事実を実感する。

 傍らで兄の治癒を続けているリンクも、その顕著な変化ぶりに首を傾げた時、

 

『クスト、聞こえる?』

「ル……ルプー?」

 

 何も聞こえない世界の中で、もはや聞きなれた少女の声が頭に響く。何故か心が安らぐ感慨さえ覚えながら、クストは彼女の存在を探すように首を振るが、鼻先で感じられる限り、彼女は王との戦闘にかかり切りな状況だ。

 ルプスレギナは〈伝言(メッセージ)〉の魔法で、クストと自分を繋いでいた。

伝言(メッセージ)〉の魔法は耳で聞くものではなく、脳内に直接言葉を届ける魔法である。

 ルプスレギナはナザリック以外の者と魔法でつながることに多少の抵抗感を抱いてはいたが、背に腹は代えられない。

 

『これから、私の言う通りにしなさい』

 

 戦闘中に〈伝言(メッセージ)〉を飛ばすというのは、贔屓目に見ても賢い者のすることではない。彼我の実力差が拮抗している状況では、一つの判断ミスが生死を分かち、一瞬の思考停滞が勝敗を決める。相手が己より格上ともなれば、〈伝言(メッセージ)〉の使用はほぼ自滅行為にも等しいだろう。

 それでも、ルプスレギナは〈伝言(メッセージ)〉を飛ばした。

 これは勝利への布石であり、戦闘を優位に進めるために必要な措置なのだ。

 

『これから、奴をあなたたちの方へ誘導する。あなたはそれまでに、あなたたちの最大攻撃を発動する準備を整えなさい』

 

 彼女が語る作戦は単純明快であった。しかし、だからこそ、その企図には迷いや恐れは一切ない。クストの方も、自分がこのまま足手まといで終わるなど御免であった。猶予はルプスレギナが都市を一周する間。

 

「リンク……治癒は、もういい」

 

 聴覚はいまだに回復しきっていないが、まったく聞こえない状態からは脱していた。妹の魔力は底をつきかけており、これ以上は彼女の方がもたない。

 謝るリンクをなだめたクストは、〈伝言(メッセージ)〉で伝えられた作戦を、妹に語りだす。

 

 

 

 

 

『馬鹿なことを』

 

 飛行するメイドを追走する地下聖堂の王は、憐憫を湛えた声色で前方の逃走者に語っていた。クスト追撃やルプーの不意をつくのにも使っていた魔法〈影の歩み(シャドウ・ウォーク)〉によって、奴は完全にルプスレギナの影にピタリと寄り添うことを可能にしている。任意対象を絶対追跡できる代わりに攻撃はできなくなるデメリットがあるが、このアンデッドから逃れられないと思うだけで常人ならば発狂ものだろう。

 

『末期の抵抗ほど憐れを誘うものはない。そう思わないか、女神官?』

 

 ルプスレギナが〈伝言(メッセージ)〉で語った作戦は、当然ながら彼女の口から漏れている。

 そして、聴覚器官など一切持たないはずのアンデッドの王は、明敏に過ぎる感覚野でとらえた彼女の声を、過たず聞き取っていたわけで。

 

「それには同感っす!」

 

 カルネ村が王国軍に襲われた際の光景に見せた抵抗劇は、本当にルプスレギナの憐れを誘ったものだ。自分が友誼を結ぶ者らが蹂躙される光景というのは、想像するだけで嗜虐心がくすぐられるから、そういう意味では違う感じにも思えるのだが。

 そして、今。

 ルプスレギナはかつての彼らと同じように、必死の抵抗を成就させる算段を立てている。

 うまくいく保証など何処にもない。彼の攻撃が無為に帰すれば、自分だけの抵抗は実を結ぶことなく地に落ちるだろう。

 分の悪い賭けだ。かつて洗脳されたシャルティアと戦ったあの方も、今の自分のような気持ちを抱いていたのだろうか。

 何にせよ、これが最後のチャンスだろう。

 そう思えばこそ、己を引き裂く魔法にも耐えられ、己を撃ち穿つ攻撃を払い除けられた。

 都市をぐるりと一巡りして、クストたちがいた場所へ舞い戻ってきた。

 佇む青年はボロボロな黒衣に構うことなく、毅然とした様相を面に浮かべ、合図を待っている。

 

『さぁ、どんな魔法を放つのだ?』

 

〈力の爆裂〉〈大治癒〉――決定打と言えるような魔法はクストもルプスレギナも唱えられていない。

 メイドと王が彼のみに意識を集中させる。そして、互いに気付いた。

 彼の治癒を行っていた少女の姿がいない。

 

『今更になって避難させたか?』

 

 ルプスレギナも一瞬だが同じことを思考した。しかし、直感的にそれはないと判断する。

 彼女が、愛する男を残して都市を脱出するなどあり得るだろうか?

 しかし、あの娘は王に対して無力な存在。

 留まる理由などあるはずがない。そう思った。

 故にこそ、飛来してくる矢が数条、夜気を切り裂き現れたことに驚いた。

 避難していなかったのか? だとしても、こんな攻撃に何の意味があるのか?

 疑問は二人に共有された。王はつまらなさそうに矢を払い落とそうと腕を振った――瞬間、

 

『な、があああぁぁぁあああぁああああああっ!?』

 

 瓶が割れるような音と共に、王の腕が酸を浴びたかのように焼かれていた。肩にまで降り注いだ水色の溶液が、王の朽ちるはずのない腕を根元から腐らせもぎ取ってしまった。続けざまに数本の矢が注がれ、それらが腹と胸を抉るように、再び何かの液体をこぼしてアンデッドの王を苦しめる。矢に固定された瓶が割れることで、液体は注がれていたことを理解する。

 その液体の正体を、王は悟った

 不朽の肉体を滅ぼす、生の膨大なエネルギー。

 

()……治癒薬(ポーション)、だとおおおおおっ!?』

 

 それは、クストがリンクに手渡していた、彼謹製の特別な治癒薬だ。

 これらもまた、アンデッドの肉体には致死的なダメージを与えるエネルギーが込められている。

 クストとリンクは、これを自分たちの治癒の為ではなく、王を殺戮する切り札として温存していたのだ。

 彼らの見事な隠し玉に、ルプスレギナは相好を崩す。

 クスト・スゥが、必滅の魔法を錬成する様子が眼下に飛び込んできた。

 

 

 

 

 

 もうほとんど感知不可に追い込まれた状態で、鼻先に香る大気の状態を頼りに、クストは待ちわびていた魔法を両手に込める。

 彼が扱える魔法の中で、最大級の――故にこそ、魔力消費も絶大に過ぎる――魔法を、苦悶にのたうち墜落する王へと向け、解放。

 自分の全身全霊をもっていくような魔力を錬成したことで、立ち止まることも困難に成りながらも、彼は構うことなく魔力を注ぐ。

 

二重魔法最強化(ツインマキシマイズマジック)交叉する聖炎の鎚撃(クロス・フレイム・ストライク)

 

 重なり合う双撃が、まるで十字状に交差する炎の一撃と化して、地下聖堂の王の肉体を蹂躙する。

 

『ぐおおおおおおおおおおおお、おおおっ……なめる、な……!』

 

 クストが唱えられる最高の攻撃魔法の炎の中で、アンデッドの王者は反撃の魔力を指先にともす。

氷嵐(アイス・ストーム)〉の凍てつく旋風が、もはや逃げる体力のない人狼めがけ放出された。

 殺った。

 そう確信した王の視界の端に、四つん這いになった少女の影を認めた、

 刹那、

〈疾風走破〉の武技を発動させたリンクが、クストを連れて氷雪の嵐より脱出していた。

 

『ッッッ――! 小娘ぇああああああああ!』

 

 まんまと魔法を無駄打ちさせられた王は、遮二無二になって二人を追撃する魔法を込めようとした瞬間、その懐に、ありえない距離にまで接近した女の気配を感じ取った。

〈完全不可視化〉を王の前で初めて披露したルプスレギナは、王が魔法を込める隙もない零距離で、奇しくもクストが唱えたものと同じ、自分の最大規模の攻撃魔法を唱えた。

 

「くたばりなさい――〈二重魔法最強化(ツインマキシマイズマジック)交叉する聖炎の鎚撃(クロス・フレイム・ストライク)〉」

『ぐおおおおおぉぉぉオオオオオオオオオオ――!!』

 

 これまでにないほどの至近で受けたルプスレギナの両手から解放された十字状の聖炎がダメ押しとなり、アンデッドの肉体が焼け融けていく。

 王冠やローブが襤褸以上に炭化し、不滅のはずの王者の身体が粉々に砕かれ、微塵も残さずに浄化される。断末魔の叫びは小さく細く潰えていき、猛火の轟音だけが場に残された。

 

『わ、我が……こんな……』

 

 アンデッドに特効を持つ神聖属性と炎属性の二重属性、それに二重魔法最強化の二撃目は、相性的な作用と合わさって、完全に地下聖堂の王の存在を滅ぼし尽くす。周囲一帯を、焼け砕けた骨が散乱し、一陣の風と共に清め吹かれていった。

 聖炎の輝きが完全に消失すると共に、闇夜の静寂が戻ってくる。

 息をするのも躊躇われるほどの無音の中にあって、彼らは事実を確かめた。

 

「……やっ、た、の?」

「……やった、ようだ」

 

 信じられないという思いに縛られ震えながらも、兄妹は互いを見やった後に、ルプスレギナを見やった。

 

「やったわね」

 

 朗らかに笑う少女の美貌は、まるで女神のように勝利を祝福していた。

 

「やった、やった、やったんだ――――――――ハハッ!」

 

 すごいすごいと子供がするようにはしゃぐ妹の抱擁を、クストは仕方なしに頭を撫でながら引き離す。

 感謝を述べねばならない女性に、彼は万感の思いを込めて頭を下げた。

 

「ありがとう、ルプー。まさか、あの王を討滅できる日が来るなんて」

 

 これで、この都市のアンデッドたちは司令塔を失い、一挙に鎮静化されるだろう。

 微笑む青年に、ルプスレギナもまんざらでもない笑みを返そうとした、瞬間、

 

 ヒュッ

 

 という風切る音が、人狼たちの耳にかろうじて届いた。

 唯一気づいていないリンク目掛けて走る銀色の刃が、過つことなく少女の頭部を狙い撃つ。

 その気配を寸前で覚ったクストは、妹の盾になるように身を躍らせた――その時、

 彼は目の前で、紅い二房の三つ編みが揺れる音を、確かに聞いた。

 

 

 

「ぎぃあああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 彼らのさらに前に躍り出た赤毛の少女の痛烈に過ぎる絶叫が、夜闇の底に(こだま)した。

 

「ルプー!?」

「ルプス!?」

 

 これまで飄々とした態度を崩すことのなかった少女のけたたましいまでの叫び声に、二人は愕然となりながら彼女を見つめる。

 

「あ、あああああ、あああぁぁぁぁぁぁ、ぁあああ――……っ!」

 

 叫び続けるルプスレギナは、左胸の僅か上をかすめる肩付近に、深々と刺さる凶刃の正体を知る。

 直感的に、右腕で触らなかったのは僥倖だった。

 

「ぎ……銀、武、器……?」

 

銀の短剣(シルバー・ダガー)〉という魔法で造られた純銀製の刃が、ルプスレギナの肩に近い左胸を貫いていた。肺が焼かれたように呼吸が苦しくなり、喘鳴(ぜんめい)のような音が喉の奥から漏れ出ていく。肩から先の腕の感覚は完全に途絶え、もはや十全な機能を発揮することは不可能になっていた。魔法で造られた武器は容易に破壊できるものではない。〈魔法解体(マジックディストラクション)〉を唱えることができれば、この激痛から解放されるのだろうが、あいにくクストに魔力を供与し、消耗し尽したルプスレギナの魔力量で唱えられるものではなかった。

 誰がこのような魔法を発動したのか、答えはひとつしかなかった。

 

『狙いが逸れたか? しかし、女神官。貴様のその反応……なるほどなるほど』

 

 暗く重く響く、死の先触れにも似た低音が、闇の帳の奥から奏でられる。

 三人は驚愕と驚嘆と驚懼に塗れた驚号をそれぞれ発しながら、そこに佇む死を見つめる。

 

「ぎ、ぁ――ば、か、な」

「まさか……こんな、こと、が……」

「ありえない……ありえない、ありえない、ありえない……ありえない!」

 

 討滅したはずの地下聖堂の王(クリプトロード)の姿が、彼らの目の前に現れ、一同を睥睨していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その戦いを監視、もとい観戦していた彼は、友らの残してくれた大切な少女が苦しむ姿を、

 見た。

 見てしまった。

 途端、彼は傍らで同じように戦いを見守っていた守護者たちが恐怖に震えあがるほどの咆哮をあげ、玉座の間どころか十階層すべてを震え上がらせるほどの力を周囲に滾らせて――

 たった一瞬で鎮まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ありえないを連呼していた少女――確実に兄たる人狼に庇われるだろうと予測され標的となっていた銀髪の娘は、そこに再び現れた死の気配に慄然となりながら、叫ぶ。

 

「どうして!? あれだけの魔法をくらって、どうして無事なのよ?!」

 

 リンクは問い質さずにはいられなかった。ルプスレギナとクストの連携は完璧だった。あれ以上ないほどのタイミングでダメージを集積させ、神聖属性の炎がアンデッドの骨の身体を包み焼き、その存在を完膚なきまでに消滅させたはず。あれは夢や幻術などではなかった。あの王が放った断末魔の叫びが、夢幻であるはずがない。

 彼の王に引導を渡したはずの二人にしても、少女の疑問には同感だった。幻術であるならば、二人には手ごたえの違和感などでそれと判る。特にクストに関しては、アンデッドを探知し感知するという点でいえば、幻術やそれに類する精神魔法は通じないという自負があったし、ルプスレギナもある程度の幻術対策は装備やアイテムで講じられている。この二人が幻を相手に全力戦闘を繰り広げていたはずはなく、その判断自体は極めて正しかった。

 アンデッドの王は不快そうに、銀髪の少女の問いに答えはじめる。

 

『〈複製(クローン)〉の魔法を発動させ、我は蘇った。この魔法によって、我は己の死すら超越することが可能なのだ』

 

 ただそれだけだと聞かされた。

 リンクは聞かされた事実に対して絶望を深める。

 死から蘇るなど、そんな反則があっていいものか。

 夢ならば覚めよと祈ってみても、王は厳然として、そこに佇んでいる。

 

複製(クローン)〉の魔法についてクストとリンクは知らないようだが、ルプスレギナは当然のごとく知っていた。自分と寸分たがわぬ分身を創造し、自分が死亡した際にその分身へ魂を移植することで事なきを得るという魔法。蘇生魔法というのは信仰系魔法に限定されているという印象が強いが、この魔法は数少ない魔力系魔法に分類される蘇生手段なのである。自分と寸分たがわぬ複製体というのは、言うなれば戦闘前の状態への回帰を意味している。これはある意味、〈真なる蘇生(トゥルー・リザレクション)〉に匹敵するほどの大魔法であるが、当然ながらデメリットが存在する。

 まず、この魔法は戦闘中に発動させても大した効果は期待できない。複製体は、その魔法を詠唱するものが魔法を詠唱した段階のコンディションを基準として複製されるものであり、戦闘などで体力と魔力を消耗した状態で唱えると、その消耗した状態の複製しか作られないのだ。さらに、この複製体というのは蘇生アイテムのようにボックスに収納しておくことは不可能で、分類としては傭兵NPCや召喚モンスターの類に位置づけられる。この複製体を使用するには必然的に戦場に同行させることになり、〈物体発見(ロケート・オブジェクト)〉などの探知魔法や特殊技術で発見され、破壊される=魔法をキャンセルされることもあり得る。その危険性を低下させるには、複製体には防御や隠蔽の魔法を何重にも重ね掛けする必要が生まれ、単純な信仰系蘇生魔法と比べるとはるかに扱い難いものであると言わざるを得ず、ユグドラシルにおいては蘇生アイテム切れに陥った魔法詠唱者が、戦闘前に保険として発動させておく程度の魔法でしかなかった。

 

 しかし、地下聖堂の王はこの魔法を有効的に運用し、クストとルプスレギナたちの連携によって消滅した瞬間に、戦場の片隅に待機させておいた複製体を使って蘇生を果たした。

 そうして、ほぼクストたちと争う前の、十全なコンディションに立ち戻ることができた。

 対して、ルプスレギナたちは完全に消耗し尽している。魔力は三人とも限りなくカラの状態に等しく、これでは基礎的な魔法を一度唱えるのがやっとというありさまだ。おまけに体力は、あの絶叫によってクストは危険域(レッドゲージ)に到達して久しく、治癒を受けて何とか持っている程度。唯一、無傷でいるリンクのレベルでは、たとえ満タンな状態でも王の魔法一発で絶命してもおかしくはない。

 そして、

 

「あ、ぎぃ……がっ、ああっ!」

 

 最後の頼みの綱にして、地下聖堂の王ですら未知な戦闘メイド、ルプスレギナ・ベータは、銀武器による攻撃をまともに受け、その細い女の体内を、まるで毒液が這いまわるかのような激痛に支配されてしまっていた。銀武器に抉られた患部がじくじくと痛みを拡大していく。左の首筋あたりを押さえ込んで、銀の毒が広がるのを本能的に抑え込もうとするが、

 

「かはぁ!」

 

 内臓――特に左肺に重篤なダメージを負ったのか、彼女は苦痛に悶えながら、口腔から大量の赤色を吐き出してしまう。びちびちと、異常に過ぎる水音が通りの石畳を赤黒く染め上げる。

 

「ルプス! 今すぐ抜いて治癒してあげるから!」

「やめ、な、さい」

 

 ルプスレギナのかすれた断言と制止に、リンクは思わずたじろいでしまう。

 王はつまらなさそうに、余裕綽々といった口調で、ルプスレギナの行動を説明してみせた。

 

『助かったな、ビーストマンの娘よ。その短剣は〈魔法付与(エンチャント・マジック)〉によって〈大呪詛(グレーター・カース)〉が込められている。高位の神官でもなければ、触れた瞬間に腕の一本が壊死して落ちてしまうだろうよ』

 

 事情を察したリンクはさらに顔面を白く染める。ルプスレギナという高位の神官だからこそ、この程度の苦痛で済んでいるのだと理解したからだ。

 

『いやはや、それにしても驚いたぞ』

 

 王は心底から意外そうな感情を言葉に紡ぎなおして、ルプスレギナに細い骨の指を突きつける。

 

『女神官。貴様、人狼だな?』

 

 指摘されたルプスレギナは、王の語った正答に対して、大いに顔を歪めることで反発する。

 

「なっ?」

「嘘……」

 

 知らなかったクストとリンクは、愕然の表情のまま、ルプスレギナを見つめてしまう。

 そんな二人の様子もすべて理解しながら、戦闘メイドはあっさりと白状してしまった。

 

「――だったら、どうしたって、いうのよ?」

 

 ルプスレギナは否定の言葉を持たず、王の指摘を完全に肯定しながら、それでも気高い反抗心を宿して問い返す。

 王はそんな人狼の少女の意気込みを鼻で笑った。

 

『吠えるなよ、駄犬が。人狼は銀武器に対して、圧倒的な脆弱性を露呈するのは必定の事実。銀という猛毒に侵されている貴様の容態は、まさに人狼のそれに他ならぬではないか』

 

 王が語った内容は、まさに事実だった。

 人狼(ワーウルフ)は、大概の金属には耐性を備えているものなのだが、反面“銀”というただ一種の金属に対してはありえないほどに脆弱な種族なのである。純銀という、多くの伝承や物語で知悉されている人狼の弱点は、そのままユグドラシルでも有名な攻略情報として広く知られた属性となっていた。

 故にこそ、ルプスレギナはこの短剣を、純銀で構築された魔法の武器を抜くことはできない。銀はほかの種族にとっては大したペナルティをもたらさないが、人狼は銀に触れただけでもかなりのダメージ量を被ることになる。王がこの剣を先の戦いでクストに用いなかったのは、当たる確証を持てる場面がなかったからだ。しかし、王を倒したという一時的な達成感が、ここにいる全員の意識を弛緩させた。その隙をつくように、死の王は特効兵器の発動に踏み切ったわけである。

 ルプスレギナがこれを抜き放つには、無事な右腕を使う必要があるわけだが、奴がほぼ万全な状態に蘇生した以上、これ以上の手傷を負うことは自滅行為だ。触れた瞬間、銀の毒と〈大呪詛〉のエネルギーが、強酸のごとく右手を溶かし切り刻むのは確実だろう。そうなっては聖杖が握れない。奴とはもう、戦えなくなる。

 

『それにしても――ようやく得心がいった。貴様は、この世界の人間種にしては、あまりにも強壮に過ぎる。だが、人狼であるならば納得がいくというものよ』

「それは、よかったわ、ね――ぎっ!」

 

 精一杯の皮肉を口にするのも、肉が内側から削ぎ落されるような痛みを伴ってしまう。

 もはや後先など考えられない。

 右腕をダメにしようとも、せめて銀武器の継続ダメージから逃れなくては。

 思い、震える右腕を左肩にまで伸ばそうとした、

 その時、

 

「……クス、ト?」

 

 青年が、ルプスレギナと同じ人狼の男が、足元をふらつかせながら彼女の右腕を掴んでいた。

 何を、と疑問するよりも早く、ルプスレギナは彼の方へ無理やり体を振り向かせられ、その勢いのまま顔と顔が口づけられるほどに接近した――瞬間、

 ガツッと、男は純銀の柄を握る。

 

「ぐがぁ、あああぁぁぁあああああああっ!」

 

 クストの両腕が、体力と魔力が尽きかけた半死半生の肉体に残った力を総動員させて、戦闘メイドに突き刺さる銀の凶刃を掴み、抜き放った。

 鮮血の尾を引く銀武器は、クストの足元に転がり、人狼の脚力で踏みしめられた靴底に砕かれ消失する。

 

「クスト……あな、た、何を?」

 

 そう彼女が問い質すよりも先に、クストの肉体が(くずお)れる方が早かった。

 両の掌が強酸を浴びたかのように血肉の焼ける臭気を漂わせ、靴底を貫通した銀の破片が彼の片足から力感を奪いつくす。ルプスレギナが彼を抱きとめる形になったのは、まったくの偶然が成した出来事に過ぎない。

 

「逃げ、……ルプー」

 

 耳元で囁く声は、あまりにも薄弱としていて心許ない。

 ルプスレギナは知っている。

 彼のこの声は、命の最後の灯が尽きる瞬間に挙げるそれだった。

 

『無駄な足掻きを』

「来るなぁ!」

 

〈疾風走破〉を発動させた少女が、疾風のごとく王に立ち向かい、怒濤のような打撃を浴びせかける。

 せめて、二人が逃げられる時間を稼ごうという意図があったわけではない。

 ただ、リンクは我慢ならなかったのだ。このまま二人が死ぬ様を、手をこまねいて見ているしかない自分が許せなかった。

 しかし、やはり奴の魔法防御を抜くことはできない。拳は見えざる障壁に阻まれ、ほんの一撃も与えられない。

 

『わずらわしい――〈魔法最強化・魔法の矢〉』

 

 少女に向け突きつけられた指先から、閃光のような魔法の一撃が放たれる。

 リンクは死を覚悟した瞬間、またも赤毛の女が眼前に飛び出してくるのを直視した。兄を右肩で支えた状態で行われた動作とは思えないほどの敏捷性で、ルプスレギナは少女に射かけられた魔法を、使えない左腕を盾にするようにして払い落とした。魔法の威力をもろに喰らったことで関節が増え、奇妙な方向に捩じくれてしまった左腕だが、銀の影響で感覚が麻痺しているため痛みはそれほどでもない。

 

「馬鹿な事しないで! 死ぬわよ!?」

「ッ! で、でも!!」

 

 叱咤された少女は抗弁しようとした瞬間、ルプスレギナが抱えていた青年を放り渡される。

 

「そいつを連れて逃げなさい」

「――ルプスは?」

 

 見上げた女性の横顔は、リンクにかクストにか――はたまた自分に苛立っているかのように、怜悧な視線を歪めながら少女たちを見る。

 そんな人狼の女に対して、地下聖堂の王は呵々(かか)と笑う。

 

殿軍(しんがり)のつもりか? さっさと逃げ出せばいいものを、無駄なことをする』

「貴様……私を、誰だと思っている?」

 

 超然と見下すアンデッドの様相に、気に入らないのを通り越して憎悪の炎がメイドの心の底に揺らめき始める。

 

「ナザリック地下大墳墓の最高支配者、至高の御方々のまとめ役であられるアインズ・ウール・ゴウン様に仕える、戦闘メイド(プレアデス)が一人、ルプスレギナ・ベータが、敵を前にして、おめおめと尻尾を巻いて逃げるなど、そんな不忠を働くことが――できるものかっ!」

 

 裂帛の気迫で女は吠えた。

 獰猛な殺意が王の眼窩に灯る瞳を睨み据える様は、心の弱いものでは立ち向かうどころか意識を保つことも難しい(はげ)しさを伴っている。

 王はそんなルプスレギナの咆哮を、負け犬の遠吠え、手傷を負った獣の悪足掻きと見做して嘲笑の限りを尽くした。

 

『憐れもここまでいくと感心するぞ、人狼の女』

 

 王は圧倒的な力の差を見せつけるように、巨大な爆炎を二つ錬成し始める。

 

『一人として生かしては帰さん。まもなく、我が主力部隊によって、都市の封印は根こそぎ破却される』

 

 この世界で伝説とも謳われるアンデッドの軍勢は、手負いのクストでは感知できない領域で破壊工作に使われ始めたらしく、都市の猶予はもはや風前の灯と成り果てていた。

 

『人狼の女神官、とくに貴様は、逃がしはない』

 

 死した後は自分に仕えるアンデッドに変え、嗜虐の限りを尽くしてやろうと王は決した。

 仮にも自分を殺した相手への敬意と称して、膨れ上がる業火の爆流をさらに膨らませる。

 それはひとつだけで、そこにいる三人を悉く焼却させる暴力の塊であった。

 

『我という死の王に盾突いたことを悔やみ、そして――』

 

 爆炎を掲げた両腕が、指揮者(コンダクタ)のごとく振り下ろされ、

 

『――死ね』

 

 爆炎がすべてを覆い隠した。

 三人は逃げることも隠れることも、防ぐことすら満足にできなかった。

 木っ端のように吹き飛ぶ肉片さえ焼失されたような威力だが、たとえ炭化した焼死体でも、王のスキルの前では有益な死体である。

 爆炎の帳が、夜を照らす篝火となっていたのは数秒の間。

 そうして――王は信じられないものを目にしてしまった。

 

『な……馬鹿、な……』

 

 生命感知には反応はなかった。だからこそ、あの三人の死は確定的だと認識した。

 だが、爆炎が消えた後、動く者が三つ。

 ルプスレギナ・ベータ。クスト・スゥ。リンク・スゥ。

 生きているはずのない三人は、三人ともが愕然としながら目の前に現れた死を打ち破る奇跡に身を震わせている。

 彼らを守るドーム状の障壁が王には理解できた。理解できたが、何故目の前の生命を自分は感知できないのかが判らない。人狼の男が作ったアイテムでも容易く看破できる自分の能力には狂いなどなかった。

 ありえない状況の只中で、悠然と解説を始める声が轟く。

 

「〈非生命拒否の繭(アンティノーライフ・コクーン)〉〈魔法無(ウォール・オブ・)効化の障壁(イミュニティフロムマジック)〉をかけた。非生物……死者と、魔法を一切通さない防御魔法をかけられた以上、おまえはもう、その三人には指一本触れられない」

『何者か!?』

 

 誰何(すいか)の声を挙げる王の言葉に、建物の影からそれは現れた。

 

 死の王の前に現れたのは、より完全な「死」の顕現。

 闇と同化するというより、闇をも従えるような漆黒のローブ。輝く星のように眩しい白の玉体。骸骨の眼窩に灯る焔の色は、何とも形容しがたい感情に揺れて煌いている。

 

 その姿を、その存在を、この場でただ一人知悉している少女が声をあげた。

 

「アインズ様!?」

 

 ナザリック地下大墳墓の最高支配者が、沈黙都市に降臨していた。

 

「ルプスレギナ――先ほどの口上、(しか)と聞かせてもらったぞ」

 

 アインズは人狼のメイドの覚悟を天晴見事と褒め称えた。

 後事は任せよと微笑む御方の登場に動揺しながらも、彼女は痛む体を鞭打ち平伏する。

 そんな彼女の脇で震えるビーストマンの少女と、その胸に抱かれ虫の息を吐く人狼に、アインズは視線を移した。

 

「君が、クスト・スゥだな?」

「あな、た……は?」

「この治癒薬(ポーション)を使え。とりあえず、話はそれからだ」

 

 王のことなど無視して、アインズはどこからか三人分の薬を取り出し投げ渡した。

 ルプスレギナは御方より賜った血のように赤い薬を恭しく掲げ、自分よりも先に、満身創痍そのままという彼の身体にかけてやった。

 

「君ほどのレベルの存在では、大した回復量ではないだろうが――平気か?」

「はい……あの、おかげさまで」

 

 彼は気息を整えるだけの余裕を取り戻した。未だに両腕や足は使い物にならなかったが、命の危険から脱したと見ていいだろう。

 

「あなたが、ルプーの、ルプスレギナの主ですか?」

「そうだ。私こそが、アインズ・ウール・ゴウンだ」

 

 堂々と頷く異様な骸骨の魔法使いに対し、クストは困ったような口調と表情で問いかけてしまう。

 

「失礼ながら……あなたはアンデッド、ですよね?」

「アンデッドがアンデッドと戦うのが不思議かね?」

 

 逆に問い返されたクストは何も言えない。受けた衝撃の大きさも相まって、事態をうまく呑み込めていないのだ。リンクに至っては、彼以上に混乱しているのだろう、二人のやりとりをキョトキョト見回してばかりいる。

 詳しい話はあとで確約を取り付けたアインズの背中を、三人は黙って見送るしかなかった。

 

「さて……お待たせして申し訳ない、地下聖堂の王(クリプトロード)くん」

 

 その声には真摯さがにじみ出ていた。

 アインズの口から漏れる声はよく通り、その内実にあるものを如実に対話者へと投げかけているかのよう。

 

「現地産の高レベルアンデッドは希少だが、あいにく今しがた、君の価値は無に帰した」

 

 アインズの奥底に、どす黒く渦巻くモノ。

 それは憤怒。

 アンデッドの精神安定化でも抑えきれないほどの膨大な怒りが、目の前に立つ対象へと向けられる。地下聖堂の王は、アインズの内側より溢れ出る感情のはけ口にされようとしていた。

 そして、その対象に見られている王もまた、完全にその事実を理解していた。

 

『あ……あ、ああ……』

 

 理解して、何もすることができない。

 戦うことも、逃げることも、何か意味のある言葉を紡ぐことすら忘れ果てたように、目の前に現れた自分以上の「死」に対して恐怖した。恐慌してしまっていたのだ。死の王たる己が。

 

「〈魔法三重化(トリプレットマジック)上位魔法蓄積(グレーター・マジックアキュリレイション)〉」

 

 王ですら知らない魔法が唱えられた瞬間、アインズの周囲に三つの魔法陣が浮かび上がる。

 即座に攻撃魔法を唱えられなかったことに半ば安堵、半ば焦燥を抱きつつ、王は自分が込められる最大限の魔力を両腕に結集させた。

 目の前の「死」を払おうと、死の王が懸命に全魔力を結集していく様は滑稽の極みとも言えた。

魔法抵抗突破最強化(ペネトレートマキシマイズマジック)大爆撃(グレーター・エクスプロード)

 通常の爆撃魔法よりも巨大かつ密度の高い爆炎が空間を焼き払い、かの魔法詠唱者の姿を隠すほどの業火が周囲に吹き荒れる。自分と同じアンデッドであれば、炎属性魔法の中でも――地下聖堂の王が扱える中で――最大級の位階に位置する攻撃は、過つことなく対象を撃滅する、

 ことはなかった。

 

『そん、な……』

 

 三つの魔法陣は健在だった。

 その中心に聳える「死」もまた、変わらずそこに顕現し続けている。

 地下聖堂の王は、数多くの魔法を試した。〈龍雷(ドラゴン・ライトニング)〉〈氷嵐(アイス・ストーム)〉〈魔法最強化(マキシマイズマジック)魔法の矢(マジック・アロー)〉〈部位石化(リージョン・ペトリフィケーション)〉〈死者支配(ドミネート・アンデッド)〉……いずれも大した効果を発揮することなく無効化される。王が何かひとつでも、信仰系魔法や神聖属性、悪に対する特効魔法を習得していれば、少しは違う結果を生み出せたかもしれないが、アインズにとっては何もかもがどうでもいい。

 

 ――奴は、ルプスレギナを傷付けた。

 

 その唯ひとつの事実だけで、奴を殺す万の理由に匹敵する。

 ありったけの憎悪を込めて、「死」は王の知らない魔法を紡ぐ声を奏でていく。

 

「〈魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)火球(ファイアーボール)〉」

 

 紅蓮の輝きが、一つの魔法陣を満たした。

 

「〈魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)火球(ファイアーボール)〉」

 

 さらに紅蓮が、次の魔法陣に満たされる。

 

「〈魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)火球(ファイアーボール)〉」

 

 焔色の紅蓮が、最後の魔法陣に灯り煌く。

 

「〈魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)火球(ファイアーボール)〉――そして、〈解放(リリース)〉」

 

 魔法が解放された瞬間、合計十二個の火球が夜空を照らし焼き尽くす。

 夜の中にあって太陽を従えたかのような輝きを背に、本物の死の王……否、神……は、火山噴火もかくやという熱と力の坩堝(るつぼ)を顕現させた。爆裂の破孔の中心で、地下聖堂の王(クリプトロード)はあえなく砕け燃え尽きてしまった。その虚ろな口腔の奥で、何者かの名を口にしながら。

 

「所詮はレベル七十台か。もう少し抵抗されるかと思っていたが……ルプスレギナ」

 

 特殊技術(スキル)不死の祝福で地下聖堂の王が消滅したことを認め、爆音が完全に止んだと同時に、アインズは都市に派遣していた少女に向き直った。役割を果たし終えた防御の障壁も解除する。

 

「無事だな?」

「申し訳ありません、アインズ様!」

 

 ルプスレギナは狂ったように謝罪し始める。御身の忠告にあった諸々の注意事項を犯したこともそうだが、ナザリックの最高支配者である御方に対し、あの程度の下劣なモンスターの掃滅に足を運ばせ、このアンデッドの死体で薄汚れた沈黙都市に降臨させるなど、戦闘メイドとして、恥ずべき失態に相違なかった。

 しかし、アインズは落ち着いた調子で、少女の謝罪を柔らかく受け流し、ただ一つの事実を確かめる。

 

「無事だな?」

「は……はい」

 

 よかったとかすかに呟く声があったが、恐怖に震えるルプスレギナには聞き取れなかった。

 

「すまない、ルプスレギナ。もっと早く救援に駆けつけていれば、おまえに傷を負わせることなどなかっただろうに」

「何を仰います! アインズ様は至高の御身! それほどの方をお守りする一助となれるのであれば、この身など幾度となく砕かれようとも惜しくはありません!」

「その忠義には感謝しよう……だが、やはり謝らせてくれ。もっとマシな人員配置を取るなど、対応する手段はいくらでもあったはずなのに、私はおまえに重責を担わせてしまったようだ。本当にすまない」

 

 どうあっても謝罪を取り下げる意思を御方は示そうとしない。

 御身の慈悲深さと優しさに打たれ、ルプスレギナはより一層、大地に額をこすりつけた。

 ――そうしていないと、瞼の端から漏れる熱に気付かれてしまいそうで。

 

「クスト・スゥ、そして、リンク・スゥ」

 

 平伏の姿勢を崩すことなく感動に身を震わせるメイドの横で、二人の兄妹が肩を揺らす。

 

「このたびは、我が配下であるルプスレギナが世話になった。この私から感謝を述べさせてもらいたい」

「感謝など……僕たちの方こそ、感謝です。アインズ・ウール・ゴウン様」

 

 クストは片膝をつき、ふらつく意識を鎖で縛るように敬服の姿勢を取ってみせた。妹もそんな兄の姿に倣う。

 こうして、沈黙都市の長い一夜が、終わりを告げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰るの?」

 

 当然とルプスレギナはあっさり答えた。

 現れたアインズによって、綻んでいた封印を壊して回っていた魂喰らい(ソウルイーター)死の騎士(デス・ナイト)などの主力部隊は、すべてアインズの麾下に加えられた。より正確には、アインズがナザリックより派遣させた、ナザリック産の地下聖堂の王(クリプトロード)の麾下にであったが。

 主を失って統制を失っていたアンデッドたちは、新たな主の指示に従い、都市を徘徊することもなくなっていた。すでに彼らは、アインズの号令ひとつで集団戦闘を行える軍団に再編されていたのだ。そのアインズは、護衛としてやってきていた第六階層守護者二人と共に、ナザリック地下大墳墓への帰途を果たしている。

 

「もう、沈黙都市に滞在し続ける理由はなくなったから、私はお払い箱。次の任務が下されるまで、ナザリックで休暇することになるわ」

 

 ルプスレギナは別離の時が近いことを二人に語りだした。すでにナザリック産の地下聖堂の王への引き継ぎ作業は終了し、〈伝言(メッセージ)〉を飛ばして〈転移門(ゲート)〉を開いて貰えば、それでルプスレギナたちは帰還を果たせる。

 二人とも、あの戦いから一夜が明けただけにも関わらず、ほとんど完全に回復していた。

 これは、ナザリックより派遣されたペストーニャの回復魔法のおかげである。ルプスレギナにしても銀の傷は完治している。ナザリックにおいて最高位の神官たるメイド長の力は伊達ではないのだ。

 

「そっか……」

 

 存外に寂しさを滲ませたリンクの声に、ルプスレギナは大いに微笑みを深める。

 

「そんなに私と別れるのがつらい?」

「ちょ、そんなわけ……」

 

 たった一週間ばかりではあったが、思い返してみればリンクにとってはほぼ唯一の、気心の知れた相手となっていた。兄や狼のカロルたちを家族とすれば、ルプスレギナは友達というべきだろう。

 そう実感していたからこそ、別離を惜しむ気持ちは当然あった。

 

「ないわよ」

「あらそう」

 

 否定の言葉をあっさり受け入れられたリンクは、そっぽを向いて不満を表す。

 そんな少女の裏腹な仕草を微笑ましく思いながら、ルプスレギナは最後の義務として、沈黙都市の()管理者と向き合った。

 

「お別れね、クスト」

「ルプーのおかげで命拾いしてしまったよ……ありがとう」

 

 彼は、あの沈黙都市の封印に100年という時間をかけて殉じてきた。

 そうして、都市の封印が綻び、解き放たれた後も、変わらず都市管理者としての務めを果たそうとした。

 ルプスレギナは勿論、至高の御方も彼の力と存在には一目置いているらしく、そんな彼と友好を結べた戦闘メイドの功績を讃えてくれた。身に余る光栄は、思い出しただけでルプスレギナの微笑みをより深く明るくさせてくれる。

 

「こちらこそ、ありがとう。あの最後――銀武器を抜いてくれて」

「それなら、こっちこそありがとうだ。君が庇ってくれなかったら、僕は確実に死んでいただろうからね」

 

 クストの指摘は正しい。体力の尽きた状態で、体内に銀武器のダメージを通してしまえば、素手で銀に触れた時の痛覚とは比べようもないダメージを被っていたことだろう。

 ルプスレギナは、容易に頷くことはできない。

 なぜなら、あの時の自分はどうして彼らを庇ったのか、まるで理解できていなかったからだ。

 オモチャが他人に壊されるのが嫌だった――というのとは、違う。

 なんだか、とても大事な、とてもとても大事なものを守ったのだという実感だけは、本物だった。

 だから、ルプスレギナは微笑みの色をより鮮やかに彩る。

 何が二人の琴線に触れたのか、ころころと互いに笑い合う二人の様子を、リンクは割と穏やかな表情で見つめていた。

 開いた〈転移門〉へ、残った護衛たちと共に帰路に発つ。

 最後まで笑みを崩さない愛しき二人に、ルプスレギナも笑みを振りまいて別れを告げた。

 笑顔仮面のサディストには似合わない、それは本物の微笑み。

 

「また逢いましょう、二人とも」

 

 再会を約束する言葉を残して、赤い人狼の少女は沈黙都市を去っていった。

 ルプスレギナは〈転移門〉を抜けながら、獣の勘の直感で、二人にはすぐに会えるだろうと理解してしまう。

 そう彼女が感じた通り、クストとリンクは大恩あるアインズ・ウール・ゴウンの招待に応じる形で、ナザリックの傘下に加わることになるのだが、それはまた別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                   【終】

 

 

 

 

 

 




 ここまで読んでくださったあなたに、感謝の極み。

 短編なのに。
 短編なのに、何なの、この量?
 当初は五万字程度収まるだろうとたかをくくってたのが、この始末。
 短編のくせに四話で九万字超とか、軽く連載レベルじゃないか、ええ?
 
 まぁ、それはさておき。
 一週間ごとに投稿しましたルプーの逢瀬も、とりあえずは第一幕が終わりました。
 駆け足で進めていた上、お盆で、夏コミで、最後はちょっと締まらないオチだったような……果たして。
 第二幕があるとすれば、現在連載している~『術師』の復活~の中でお披露目されるかもしれません(空想病的には、あっちが本編ですし)。

 次は誰の逢瀬と巡り合えるでしょうか。

 それでは、また次回。         By空想病




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