ゼロの使い魔ー紅の契約者ー 作:紅の蓋
召喚の儀から数時間が立ち、ルイズはレッドと共に自室へと帰ってきていた。
「アンタ何ができるの?」
ルイズの問いにレッドは首を傾げる。
「ポケモンバトル……?」
「何よそれ……」
ルイズは訳も分からず呆れる。
「いい? 使い魔は目となり耳となって……って何も見えない。薬草を見つけてきたりっていうのも無理よね。主人を守るのも……」
ルイズはレッドに目をやると、大きなため息をついた。
「ダメね。……いいわこれお願い」
そう言ってルイズはレッドに服や下着を渡す。
「……何?」
「明日の朝。洗濯よろしくね。それから朝、起こすのも。今日はもう寝ていいわ。おやすみ」
レッドは何も聞けぬまま2人にとっての怒涛の1日目が終わった。
ーーーーーーーー。
朝。
レッドは藁のベッドからむくりと起き上がる。
そして洗濯物をもって外へと向かう。
そして外に向かってから気がついた。
「……洗濯ってどこで?」
洗濯ものをもって洗濯場を探し回る。
(……カメックスの水で洗った後、フシギバナのツルノムチで干してリザードンで乾かす。……完璧)
洗濯場を探すことを諦め、そんな悲しいポケモンの使い方を考えていると、レッドは1人のメイドに洗濯場の場所とやり方を教えてもらうことができた。
「……ありがと」
「いえいえ。どういたしまて。そういえばお名前を聞いていませんでした」
「……レッド。……君は?」
「シエスタといいます」
「……そう。借りは返す」
「借りだなんて。……あっ」
そう言うとレッドは行ってしまった。
ルイズを起こす時間が迫っていたのだ。
(変な人……)
シエスタはそう思った。
ルイズを起こすことに成功したあと、レッドは自由時間を与えられた。
(……お腹すいた)
そんなことを考えながら歩いていると先ほどのメイドを見つけた。
どうやら揉めているらしい。
「君のせいで2人の薔薇を怒らせてしまったじゃないか!」
「そんな私はただ……」
金髪の少年とシエスタが揉めている。
「ぷっくく。ギーシュが悪いだろうに」
「……そうそう。……ギーシュが悪い」
「うわっ!」
ギーシュと呼ばれた少年の取り巻きの1人が声をあげる。
側に見知らぬ男がいたからだ。
「誰だね。君は」
ギーシュが尋ねる。
「……レッド」
「レッド? 知らないな……ん?」
ギーシュは思い出したように声を上げた。
「お前ゼロのルイズが召喚した平民じゃないか!」
「……? ……ルイズの使い魔ならそうかも」
「平民のお前が僕を呼び捨てにしたのか?」
ギーシュがやつあたりを含めてレッドの胸ぐらを掴む。
「レッドさん、急いで謝ってください!」
シエスタが急いで止めに入る。
「……ギーシュこそ謝れば。……シエスタ可哀想」
「なにおぅ。貴様、何様のつもりだ」
「……別に、シエスタを助けにきただけ」
「ほう。平民。騎士気取りかい?」
「……借りを返しにきた」
レッドの言動はギーシュにはよく理解できなかったが愛に生きるギーシュは頭で勝手に翻訳して受け取った。
「……なるほど。君はこのメイドに惚れているのか。」
「へっ!?」
シエスタが驚いて変な声を上げた。
「いいよ。君が騎士を気取りたいなら決闘をしよう。平民と貴族の差を見せてやる。ヴェストリの広場まできたまえ」
「……ん」
ーーーーーーーー。
ギーシュとレッド。2人が決闘をするという噂はすぐに学園中の噂になった。
当然ルイズの耳にも……。
ーーその頃。レッドはシエスタに広場の場所を案内してもらっていた。
「レッドさん。いけませんわ。貴族と決闘だなんて。……それも、私のために」
「……借り返すだけ」
「……そればっかり。で、あの、本当なんでしょうか?」
シエスタは勇気を振り絞って尋ねた。
「あ、あ、あのわ、わたさわたす私のことが、す、、す好きというのは………?」
「……? 好き」
ぼふっ。
シエスタの顔から煙が上がった。
もっともレッドの好きは恋愛などではないのだが……。
レッドとシエスタがヴェストリの広場に到着したとき、ルイズも同時に広場へと着いていた。
ギーシュの待つ中心部へとレッドが歩こうとしたとき、ルイズが立ち塞がった。
「行かせない」
「……行く」
「駄目よ! ギーシュ! アンタ止めさせて! 平民を虐めて何が楽しいのよ」
「それはできない。何せ彼はただの平民ではなく騎士らしいからね」
「はぁ!? なによ、それ!」
ルイズが声を荒げると、レッドはルイズをジッと見ていた。
「……心配?」
「当たり前よ! アンタは私の使い魔なんだからね」
「……負けないから、大丈夫」
そう言ってレッドはルイズの頭にポンと手を置く。
レッドにとってそれは普段ポケモンに接するのとなんら変わらない行為だった。
だが、ルイズにとっては違ったらしい。
ルイズの顔がレッドの名前と同じ色に染まる。
それはレッドの顔が真剣だったから。
男の子の顔をしていたから。
「なに平民の癖に格好つけてんのよ。……バカ」
そう呟いてルイズはレッドを見送る。
本当は止めたかった。
怪我……それですめばいいが下手をすれば生死に関わるのだから。
それぐらいメイジと平民には差があるのだ。
平民とはいえ、自分の使い魔。
無闇に怪我をさせたくないし、人が傷つくところなど見たくない。
だが、ルイズには止められなかった。
なんとなく止めてはいけない。
そんな気がしたのだ。
「さぁ、平民。僕に無様に倒される準備はできたかね?」
「……倒してもらっても構わない。できるのなら」
「強気じゃないか」
ギーシュは心の中で笑った。
弱い奴ほどよく吠える、と。
「……ルールは?」レッドが尋ねる。
「これは決闘だ。当然一対一。そして僕はメイジだからね。魔法を使わせてもらうよ。当然君も持てる力を全て出し切りたまえ」
そう言ってギーシュは杖を振る。
土が盛り返り、戦乙女のゴーレムが6体現れる。
それを見てレッドは言った。
「……ズル」
「は?」
「……一対一って言った」
それを聞いてギーシュは吹き出した。
「失敬。失敬。少し本気を出しすぎたかな? 考えてみれば戦乙女一体で充分だったよ。引っ込めようか?」
「……別に構わない。少しだけ本気出す」
そう言ってレッドはベルトに手を掛けた。
レッドが呼び出すのは……。
ーーーーーーーー。
レッドがベルトに手を掛けたときギーシュは短剣でも取り出すのかと考えた。
(構わないよ。剣は平民が僕たちに抵抗する唯一の牙だ。……だが)
(それを抜けば僕も君を半殺しにしなければならない。わかってるんだろうね?)
だが、ギーシュの考えは裏切られる。
レッドが取り出したものは……否、呼び出したものは確かに貴族を殺さんとする牙かもしれない。だが、短剣。そんなチャチなものでなかった。それは、この世界。ハルケギニアでは火龍と呼ばれるものだったのだから。
ーーーーーーーー。
「……ゆけっ、リザードン!」
レッドに呼び出されたリザードンが吠える。
その瞬間ヴェストリの広場の温度が上がった気がした。
フェオの月。季節は春である。
にも関わらずそこには夏とは違った暑さ……熱さがある。
リザードンが吠える。それだけで大地が揺れる。そんな錯覚さえ覚えるような圧倒的な存在感。
そしてリザードンが現れたことを全員が頭で理解したとき、広場は大騒ぎとなった。
「火龍だ! あの平民、火龍を召喚しやがった!」
「嘘……」
「すげぇ! すげぇぞ!」
爆発的な歓声がレッドとリザードンに向けられる。
もし決闘に観客の応援という流れがあるのならば、これだけで勝負は決まったといっても過言ではなかった。
そして、大歓声の中ギーシュは……
「…………」
呆然としていた。
頭が理解できない。なぜ、平民が火龍を? ありえない。ありえない。ありえない。
そしてようやく現実を理解したとき、ギーシュは考えうる限り最悪の言葉を発する。
「火龍といったって小さい! まだ赤ん坊だろう! ぼくの戦乙女の敵じゃない!」
「……馬鹿っ!」
レッドの顔色が変わる。
それはレッドのリザードンにとって最も言ってはならない言葉だった。
レッドのリザードンは確かに小さい。
かの有名なリザフィックバレーでも、レッドのリザードンが一番小さかった。
だが、レッドのリザードンは誰にも負けなかった。自分よりも大きいリザードンたちを無傷で倒し、たった1日でリザフィックバレーの頂点に立った。
最強のトレーナーのリザードンは、如何に小さかろうとも最強のリザードンなのだ。
それに向かってギーシュは赤ん坊と言った。
つまり、彼は触れてしまったのだ。
竜の逆鱗に。
ーー勝負は一瞬だった。
本当に一瞬でギーシュの戦乙女は吹き飛ばされた。
そもそも逆鱗に触れようが触れまいがドットクラスのメイジが火龍に勝てるはずがないのだ。
それこそ平民とメイジと同じくらいの差がある。
だが、逆鱗に触れられた竜は止まらない。
止めようとしても止まらないのだ。
怒りに我を忘れレッドの声すら届かない。
急いで、リザードンを止めるためレッドはカメックスを呼び出そうとするも間に合わない。
ギーシュは大怪我を負う……はずだった。
「レッド! 止めさせて! ギーシュが死んじゃう 」
それを止めたのはルイズだった。
ルイズの声に反応してレッドの右手に刻まれたルーンが光る。
「……止めろ! リザードン!」
リザードンは寸前のところで攻撃を止めた。
レッドは驚きの表情を浮かべる。
逆鱗状態のポケモンには普通トレーナーの命令は通らない。
しかし、初めてリザードンは自分の意思で逆鱗を解除した。
「……お疲れ様、リザードン」
レッドはリザードンを急いでボールに戻し、先ほどのことについてルイズに尋ねようとした。
だが、それはできなかった。
何故ならルイズが半ベソで抱きついてきたからだ。
「アンタね! 火龍を召喚できるなら早くいいなさいよ! 心配して損したわ! ……でも、よかったわ。怪我がなくて」
「……うん。怪我なかった」
そう言ってレッドは再度ルイズの頭にポンと手を置いた。
平民対メイジ。
誰もがギーシュの勝利を疑わなかった。
だが、結果はレッドの圧倒的な勝利だった。
そしてそれを見つめるメイドが1人
(私、メイドなのに。憧れのお姫様みたいな……。レッドさん。私の騎士様)
……読んでくれてありがとうございました。