此花シリーズの主人公、桃井君が少女義経伝の世界に紛れ込んだら。そんなお話が始まらない。

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此花だと始まらない少女義経伝

 新道系学校の此花学園に通う僕、桃井恵は二年生。

 かなり強引すぎる女子、橘さんに巻き込まれ、非公認新聞部で奴隷扱いをされている。

 僕にとって慰めと言えば、親友の桜田忍やクラスメートの大見さんが理解してくれている事だ。

 彼女達のフォローが無ければ勘違い女の橘さんの事だ。つき合ってるなんて根も葉もない噂を流し既成事実にしてしまう恐ろしさがあった。

「桃井君も嫌なら嫌ってはっきり言わないから、橘さんが付け上がるのよ」

 忍の言う事は分かるけど、相手は橘さんだ。眉間に皺が寄ってしまう。

「そう言うけど、橘さんは人の話を聞かないから」

 本当、うんざりで疲れていた。

 今回、僕達は修学旅行で京都に来ていた。

 引率の先生の中で、化学の椎名先生はナイスバディで引き立っている。いつもの白衣を着ていない姿は新鮮で、男子生徒の目を奪っていた。

 不意に制服を引っ張られた。

「ねぇ恵君、ここが五条大橋何だって。新聞部としては記事が欲しいわね。部長命令よ、橋から川に飛び込みなさい」

「えっ!? 嫌だよ、何言ってるんだよ」

 本当、こいつは強引すぎる。何考えて生きてるんだろうか。

「部長命令に逆らうって言うの!」

 学校非公認で部費も部室も無いのに何が部長だ。ふざけやがって。

「いや、だから新聞部とか関係無いだろう。常識で考えようよ」

 いつもの様に馬鹿女の相手をするのはうんざりだ。もう嫌だった。

「行こう、忍」

 忍の手を握り馬鹿を無視して行く事にした。

「ちょっと、恵君!」

 馬鹿女が気分を害したのか、怒りの色を浮かべて体当たりして来た。

「美亜子、止めなよ。桃井君も迷惑してるよ」

 大見さんが馬鹿女に注意をしてくれたが聞く耳を持っていない。

「うるさいわよ優子。これは恵君と私の問題よ」

「問題なのは橘さんの頭じゃないかしら」

 冷静にそう突っ込みを入れたのは忍。僕も前からそう思っていたんだ。

「何ですって!」

「うわ、止めろよ。危ないだろう」

 馬鹿女に突き飛ばされた僕は、橋から落ちた。

 学園は全寮制である為に外界と隔絶した空気が漂っていた。だからここまで馬鹿な女が増長しても放置されたのだろう。純粋培養と言っても限度がある。帰ったら学校の責任を追及してやる。

 そんな事を考えていると、僕は水の中に沈んだ。

「桃井君!」

 忍の叫び声が最後に聴こえた。

 

 

 

「ぷはぁ!」

 水面から顔を出した僕は咳き込みながら息を整えた。

「ななななな」

「な?」

 変な声に振り向くと胸を隠した裸の女の子が居た。綺麗だ。

「え……」

 だけど分からない。僕の着ている服も濡れている。

 どうやらここは露天風呂らしい。

 そんな馬鹿な。

 鴨川からどうやったら露天風呂に流されるって言うんだ。それに、いつの間にか夜に成っている。

「きゃあああああああ!」

 女の子は叫んだ。

 此方に卑猥な気持ちは無い。しかし無礼は許される分けではない。

「ちょっと待って、僕は痴漢じゃない! 事故なんだ」

「うるさい、出て行け!」

 可愛いのに、女の子は叫びながらそこらにあった桶を投げてくる。

「痛っ!」

 いつまでも問答は出来ないし、警察が来る前にここは逃げるか。

 僕は露天風呂から濡れ鼠のまま外に飛び出した。無我夢中だった。

 何故なら、女の子が太刀を抜いたからだ。

 あれは本物だ。模造刀なんかとは違う輝きを見せていた。

 

 

 

 逃げる僕は甲冑を身に纏ったコスプレの男性二人組に遭遇した。

「こいつか、廉也?」

「多分、そうですよ。教経様」

 携帯電話は無くしたし連絡手段は無いし最悪だ。ここはどこの田舎だろう?

「お前、俺達に着いてこい」

「はぃ?」

 かつあげされそう成った所を弁慶のコスプレした男性に助けられてしまった。だけどこの男性、キャラに自己投影し過ぎで、正直な所はかかわり合いに成りたく無かった。

「九羅香様を頼む……」

 それが女の子の名前だった。

 そして僕は武蔵坊弁慶の役柄を押し付けられそうに成った。

「嫌だよ」

「何ですって!」

 自称源義経の九羅香は僕に掴みかかってくるが合気道で投げ飛ばした。

「僕は桃井恵と言う名前がある。他人に人生を押し付けられるのは真っ平だ」

 橘さんの気違いっぷりを見ていれば、変な女の子に付き合うのはトラブルの元だと教えてくれている。

「じゃ、僕は行くよ」

「薄情者!」

 九羅香の戯言は聞き流して僕はその場を去った。

 とりあえず今日は野宿だ。夜が明けたから近くの警察に行こう。

 

 

 

「桃井君、桃井君!」

「忍?」

 目を開けると忍や椎名先生の顔があった。

「救急車を呼んでるから動かないで」

 そうだ、橘さんの馬鹿に突き落とされたんだ。

「大丈夫だよ」

 体に異常は無い。濡れていた制服も乾いている。

 乾いてる?

 川に落ちた直後ならまだ濡れているはずだ。

 と言う事は、僕は……いや、あの場所はどこだったんだ?

「なぁ、忍。僕、不思議な体験をしたんだ」

 いつもと変わらない僕に忍は呆れた表情を浮かべている。

「三途の川で手招きされたとでも言うの?」

 似たような体験だった。

 襲いかかって来た二人組、平家とか言って居たな。

 その後、救急車に乗せられ精密検査を受けた僕は異常なしと言う事で修学旅行に復帰できた。残りの日数は大見さんと忍と楽しく過ごせた。

 そうそう、橘さんは目撃した観光客の通報で警察に連れて行かれ、学園を除籍退学処分に成ったらしい。

 災い転じて福と成す。恋愛の機微は分からないけど、これから楽しく成りそうだ。


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