短編集   作:源さん

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ずちゅぐむぉん

 ああ、今でもあの気持ち悪い声は憶えている。ほら、君も憶えているだろう?

 僕たちが中学生の頃にいた、あの気味の悪いやつを。なぜかあいつはいつも校門の前に居て、下校する誰かの後ろについて行ってたっけ。

 まるでヘドロの悪臭を何倍も強くしたような臭いを漂わせて、タールのような色のどろどろした体を持ったあいつさ。しかもそのどろどろの体の割に結構素早く動くんだから、たまんなかったよな。それだけでも嫌だったけど、一番嫌だったのはあいつの鳴き声さ。「ずちゅぐむぉん」ああ、今思いだしだけでも身の毛がよだつ!

 あいつに聴覚があったら自分の鳴き声を聞きすぎて、狂っていただろうな。いや、もう狂っていたのかもしれない。

 あいつについてこられると皆、半泣きになるか、無視を決め込むかだったよな。

 え?いや、別に何かしてくるわけでもないんだ。ただついてくるだけなんだけど、気持ち悪いじゃないか、そんなやつがついてくるなんてさ。

 そうだ、確か僕も一度あいつについてこられたことがあるな。いつ頃だったかな⋯。今と同じ秋ごろだったと思うけど⋯。

 ああ、思い出した。確か美術の授業があった日だ。

 油絵を描く授業で、僕があんまりにもとんでもない絵を描いたもんだから、先生にすっごく怒られたんだった。当時の僕としては今まで描いたことないような力作を描いたつもりだったからとても落ち込んだんだ。

 まあ、今思い出すとなんであんな絵を描いたのか自分でも疑問に思うほどひどかったから、ちょっとした笑い話みたいなもんだね、これは。

 ま、それでその頃の僕はあんまりにも落ち込んで、イライラしてたもんだから、その日は僕一人で帰ったんだ。

 そうしたらあいつがついてきたんだから、まさに踏んだり蹴ったりさ。

 そいつは僕の帰り道をその体をくねらせながら、僕にぴったりとついてきたんだ。

 あの耳障りな「ずちゅぐむぉん」って鳴き声をあげながらね。

 全く、本当に嫌だったよ、あれは!

 人が嫌だと思いすぎて死ねるなら、あの時僕は死んでいただろうと断言できるね。

 しかも、あいつは普段なら五分くらいしたら離れて校門の前に戻っていくくせに、その日だけはずっと僕にどこまでもついてきたんだからな。

 僕の元の家が中学校からとても遠いのは君も覚えているだろう?あいつはその道をずっとついてきたんだよ。

 僕があいつにどっかに行ってくれと何度思ったことか!あいつを視覚に入れるのも、ましてや触ることも嫌だったから、追っ払うなんてとてもできなかったしね。大声くらいじゃあいつはひるみもしないし。

 他にも周りに子どもはいるんだから、そのうちの誰かに狙いを変えてくれとさえ思ったさ。

 信号に引っかかった時なんかもう最悪さ!

 なにせ、あいつの粘液が地面にボタリ、ボタリと滴り落ちる音まで聞こえてくるんだぞ!その上、あいつのひどい臭いで吐きそうになったし、絶え間なくあの「ずちゅぐむぉん」っていう鳴き声が耳元で聞こえるせいで、思わず失神するかと思ったよ!

 僕も何とかあいつをまこうと思って、全力で走ったり、わざと遠回りの道を通ったりしたけど、あいつはまるで僕に恨みでもあるかのように、ずっと追い回してきたんだ。

 ああ、本当に嫌だった。

 それで結局あいつは僕の家までついてきちゃって、僕は—。

 ん、どうしたんだ?そんな怪物は知らない?おいおい、冗談を言うなよ、お前だって追いかけられたことがあったじゃないか。それに今言ったように僕だって追いかけられたんだし。

 え?その日は僕は一人で帰ってない?絵を怒られて、すねてた僕を慰めながら一緒に帰った?

 嘘を言うなよ。なんでそんな目で僕を見るんだ。僕は—。

 あれ、今はいつだ?ここはどこだ?家についてそれで⋯。僕は誰?あいつが家まで来たんだ。ああなんだっけ思い出せない思い出せない

 僕は僕は—

 僕は叫んだ。けれど声は出なかった、かわりに出たのは—

 

 ずちゅぐむぉん

 

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