焔光の夜伯と剣巫の英雄譚   作:カラムイラス

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 遅くなってすいません。前回短かった分、今回は少し長いはずです。たぶん。


十三話

 学園へと猛スピードで向かう古城と雪菜は進行方向の方から走ってくる二つの人影が来ることを認識すると、直ぐさま立ち止まり警戒体勢を取った。

「どうやらこっちにも来るみたいだな」

「・・・そうみたいですね。油断はしないでください、先輩」

 〈雪霞狼〉の穂先を走ってくる陰に向け、体の重心を下げるように構えた。古城も来ていたパーカーの袖を上げ、胸の前で掲げていた。少しの間、その人影から目を離さない状況が続いた。

「ん?・・・・・。おい、姫柊! あれって」

 そこで古城は何かに気づき、向かってくる陰に指を指した。雪菜は少し首を傾げたがもう一度よく観察して驚愕した。

「あれは、ステラさん?」

 二人の内の一人が気を失っているステラを抱えて走っていた。

「よく見ればあの二人、破軍学園の代表生徒じゃねえか!」

 焦った口ぶりで言葉にすると雪菜と一緒に走ってくる二人に駆け寄った。

「おい、何があったんだ!」

 古城が問い詰めるように大声で言い寄った。すると二人は一瞬困惑し、そのあとなぜか警戒された。

「暁くん?・・・・・・。っ!! もしかして貴方達もなの?」

 ステラを抱えている方は彼女を庇うような体勢を取り、もう一人は彼女の前に出た。

「ステラちゃんは渡さない!」

「? 待ってくれなんの事を言っているんだ! 俺たちにも状況を教えてくれ!」

 何故警戒されているのかわからない古城は彼女らに近づこうとした。しかしそれを雪菜に阻まれ、彼女が前に出た。

「私たちは南宮先生に呼ばれてここに来ました。こう言っても私たちは信用できませんか?」

 彼女の声が二人の耳に届いたのか、二人は一瞬目を見開き直ぐにその場に腰を落とした。それを確認すると雪菜は古城の顔を見やる。

「先輩、どうやらこれで話は聞けそうです」

「ああ、すまないな。姫柊。さてと・・・」

 古城は彼女らに再び近づき同じ目の高さまで腰を下ろした。

「破軍学園の状況を教えてくれ」

 古城はステラを抱えてない方、葉暮桔梗に優しく問いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は少し戻り、ステラは暁学園の黒鉄王馬と相対していた。

 

「まだ、その程度のなのか? 正直興ざめだ」

 

 王馬の一言を聞いてステラは内心憤慨した。しかし何も言い返せなかった。彼女自身が力量の差を悟ったからだ。ステラは何もできずに剣を構えたままただ彼をじっと見つめた。

 

「なら俺も少しは本気を出せば、お前も少しはマシになるかもな」

 

 彼はそういうと、彼の《固有霊装(デバイス)》、〈竜爪〉を高く掲げた。

 

「くっ!」

 

 とっさに危機を感じたステラは自分の伐刀絶技(ノウブルアーツ)を繰り出した。

 

「焼き尽くせ、《天壌焼き焦がす竜王の焰(カエサリティオ・サラマンドラ)》!」

 

 繰り出された巨大な炎の竜は一直線に王馬に襲いかかる。しかしそれでも彼は涼しい顔を崩さない。目の前に炎の竜が迫ったとき遂に彼は剣を降った。

 

「《月輪割断つ天龍の大爪(クサナギ)》」

 

 彼の暴風の伐刀絶技(ノウブルアーツ)はステラのそれとぶつかる。威力は均衡している。かに見えた。しかし

 

「な、なんで?」

 

 ステラの驚きの声が上がる。それもその筈。ステラの伐刀絶技(ノウブルアーツ)が王馬のそれに押し負け始めたのだ。

 

「今のお前ではまだ俺には届かない・・・か」

 

 その言葉を最後に炎の竜は霧散して、ステラに暴風の塊が襲いかかった。必死にその場に留まろうとしてもその威力には敵わず、敢えなく吹き飛ばされた。

 

「お前には少し期待していたのだがな」

 

 体勢を崩したステラは必死に立ち上がろうと藻掻いている。しかし、うまく体に力が入らずにいるといつの間にか目の前に王馬の姿があった。どうにか抵抗しようと手に持った〈妃竜の罪剣(レーヴァテイン)〉を見やり、ステラの顔は驚愕に包まれた。折れていたのだ。

 

(嘘でしょ?)

 

 彼女の内心は絶望に包まれた。再び王馬に顔を向けると彼は再び剣を高く掲げていた。この瞬間彼女は自分の敗北を認識した。そしてこれから彼が振る一撃を交わせないことを悟った。しかしそれでも王馬から顔は背けなかった。

 

「終わりだ」

 

 彼の言葉が妙に長く感じられる。振られた剣の軌道も認識できた。自分が負けるのだと感じたそのとき、眩い閃光が現れた。

 

「ステラさん!」

 

 呼びかけられる声で彼女は目の前で王馬の剣を防いでいるのが誰か認識した。そこに居たのは破軍学園最強、東堂刀華だった。

 

「トーカさん!」

 

 ステラの問いかけに答えるように彼女は王馬から繰り出されていた剣撃をすべて防ぎきるとステラの所まで下がり、彼女を脇に抱えて二十メートル後ろに下がった。

 

「大丈夫ですか?」

 

 刀華の問いかけにただうなずく事しかできなかったがそれをみて彼女は「良かった」と微笑む。がすぐに険しい顔に戻し王馬へ顔を向け、ステラを地面に座らして立ち上がった。

 

「トー!・・・カ?」

 

 彼女を呼び止めようと声を上げたステラの体に突然電撃が走った。

 

「どう、して?」

 

 呻くように声に出す彼女に刀華は王馬を見据えたままステラの疑問にこたえた。

 

「ごめんなさい。でも貴方を王馬さんと戦わせてはいけないの。私にすら勝てない貴方では」

 

 非情なに聞こえるがこれは真実である。合宿中、結局ステラは刀華に一撃も浴びせられないかったのだ。その事実を突きつけられステラは無念に思いながら意識が沈んだ。ステラが目を閉じるのを横目でみた刀華は深く息を吸った。

 

「牡丹さん!! 桔梗さん!!」

 

「「は、はいーーーーー!!!」」

 

 その呼びかけに焦ったように二人が返すと、彼女は言葉を続けた。

 

「彼女を連れて逃げてください! 出来る限り遠くに! 今ここで貴方たち代表は負けてはなりません。だから逃げてください!!」

 

 彼女の声が耳に届くと二人は急いでステラの元に駆け寄り、牡丹がステラを抱えて足に魔力を集めて全力の逃走を始めた。

 

「逃がすと思うのか?」

 

 しかし逃走経路を塞ぐように巨大な黒いライオンが塞がった。彼女達二人ではどうする事も出来なかった。が

 

「《マッハグリード》」

 

「《クレッシェンドアックス》」

 

 それを取り除くように二人の生徒会員、速度中毒(ランナーズハイ)兎丸恋々と破壊者(デストロイヤー)砕城雷が伐刀絶技(ノウブルアーツ)を繰り出し、巨大な黒いライオンを吹き飛ばした。

 

「追わせると思いますか?」

 

 先ほどの王馬の問いに刀華は問いで返す。いつの間にか先ほど伐刀絶技(ノウブルアーツ)を繰り出した二人に加え、残りの二人も刀華の横に着いていた。

 

「カナちゃん・・・」

 

「私は逃げませんよ、最後まで刀華ちゃん達と戦います」

 

 貴徳原カナタ。彼女も代表生徒の一人だった。刀華は彼女のも逃げて欲しかったが、当のの本人は自分も生徒会役員ということを優先した。その決意を聞き彼女は暁学園の面々に目をやった。

 

「やられっぱなしは破軍学園生徒会の名折れです。この借りは今ここで返しますよ!」

 

「「「「おお!」」」」

 

 刀華が先頭に彼らは各々の《固有霊装》を構える。戦闘は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩」

 彼女から状況を聞くと雪菜は立ち上がる。

「ああ、わかっている」

 その声に応えるように古城は立ち上がった。不思議に思った桔梗は不安げな顔で問うた。

「どこに行くつもりなの? ・・・・・まさか!」

 あそこに行くつもりと言おうとしたら古城が笑いかけた。

「別に死にに行くわけじゃ無いんだ。そんな顔すんなよ」

「先輩達は引き続きステラさんのことを抱えて逃げてください」

 二人はお互いの顔を見やり、頷くと直ぐに戦闘が行われている方向に向かって走り出した。

「なんなの、あの人達は・・・」

 二人の後ろ姿を見ながら桔梗は呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 速度中毒(ランナーズハイ)、兎丸恋々は目の前の巨大な黒いライオンを前に苦戦していた。彼女の《マッハグリード》は原則を無視して加速を累積させていく能力。人相手では無類の能力である。しかし今回の相手は魔獣。人では無い。彼女自身魔獣相手に戦った経験が無いのである。

 

「無駄だ! 惰弱な人間では我が魔獣には勝てない」

 

 声高らかに魔獣の上に乗っている風祭凛奈は宣言する。

 

「我が僕、魔獣『スフィンクス』はただの魔獣ではあらず。我が《固有霊装》によって刻まれた聖痕は魔獣の内なる力を最大限にまで高められる。お前のような人間になど敵う相手ではないのだ!」

 

「お嬢様は『私の《固有霊装》である〈隷属の首輪〉を装着した動物は自分の《固有霊装》になるの。元々人より体が強いライオンが魔力も使えるようになるから滅茶苦茶つよいんだよ』と申しております」

 

 芝居がかった分かりにくい説明を分かりやすく説明する従者によって恋々は彼女の能力の厄介なものだとわかった。

 

「さあ、滅びを受け入れろ、惰弱な人間め!」

 

「お嬢様は『殺しちゃうから動かないで』と申しております」

 

「ふざけた連中ね!」

 

 悪態を吐きながら恋々は動き出した。ただでさえ大きい相手だ。一撃でも当たったら死にかねない。なら当たらないように相手を翻弄して魔獣の体勢を崩させ、凛奈を落とさせる。そこで決めれば彼女の勝利となる。しかしその思惑は直ぐに壊れた。翻弄しようにも相手も動きがはやいのだ。それでは意味が無い。どうにか出来ないかと彼女は思考する。すると彼女の目にあるものが移った。

 

「あれだ!」

 

 恋々はそれのある方に猛スピードで走った。

 

 彼女が見つけたのは電柱。それに走り高跳びの要領で飛びある程度の高さまで行くと自分の足をバネにして魔獣の上に乗っている凛奈に向けて飛んだ。これまで蓄積したスピードも相まって猛高速で彼女に飛んでいく。しかしここで凛奈は含みのある笑みを浮かべた。

 

「聞いていなかったのか? 我が魔獣は《固有霊装》と化している。ならば伐刀絶技(ノウブルアーツ)を撃てて当然であろう」

 

 凛奈は勝利を確信したように高笑いをした。

 

「竦め! 獣王の威圧(キングスプレッシャー)

 

 魔獣は大きく咆哮を上げた。それは周りのものを破壊する咆哮である。その威力は測りしれず、恋々は敢えなく吹き飛ばされた。

 

「さて、面倒だが止めでも刺すとしよう」

 

 凛奈はそう言うと気を失っている恋々の元に『スフィンクス』を向かわせた。彼女の真上まで来ると凛奈は笑いながら「やれ」と命令する。『スフィンクス』はとどめを刺すべく前足を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兎丸さん!」

 

 叫んでも返事が無く、顔を歪ませる。助けようと動こうにも目の前の王馬が居るため迂闊に動けないで居た。

 

「もう負けを認めたらどうだ?」

 

 つまらなそうに彼は言うと他の戦場は終わったのか暁学園の生徒達が集まってきている。

 

「俺は自分より弱いものに刃を向ける趣味は無い。どうしても相手をして欲しいというのなら俺に傷を付けて見せろ。それが出来れば相手をしてやる」

 

 力量は大いに開いている。それはステラを退けたからわかっている。しかし、刀華にも意地がある。この相手を倒さなければ目の前で恋々が死ぬかもしれない。ならやるしかない。そう決意した彼女は軽やかに数歩下がり、〈鳴神〉の切っ先を王馬に向けた。すると刀華と彼の間に雷のトンネルが出来た。

 

「これが私の今の全力です!」

 

 そう吐き捨てると彼女は雷のトンネルの中に飛び込んだ。飛び込む中で突きの構えを取る。彼女の体はトンネルの中で浮き上がり、速度も上がっていった。そして最高速度で王馬にたどり着くと彼女は最速の突きを繰り出した。

 

「《建御雷神》!!!」

 

 決まった。刀華は感触でそう思い王馬を見る。しかしその予想は反した。

 

「ふん」

 

 彼は受け止めたのだ。片手だけで。しかも幻想形態では無いはずなのに彼の手からは血が見られない。そう考えている内に王馬が声を出した。

 

「この程度なんともないな。しかしかすり傷でも傷は傷か。・・・良いだろう。相手になってやる」

 

 彼は徐に着ていた和服の上を脱ぎ払い、手に持った〈竜爪〉を高く掲げた。刀華は掴まれた《固有霊装》をどうにか抜こうとしていた。そんな時ふと、王馬の上半身に目が移る。

 

「な、なん・・・なの?」

 

 彼の上半身には様々な傷が無数に存在していた。そんな光景に唖然としながら彼女は口を開いた。

 

「貴方はリトルリーグから姿を消してずっと何をやっていたの!」

 

「・・・・・・・・。お前には関係のない事だ」

 

 答えは無情。それ以外は返してくれなかった。

 

「しばらく眠れ。《月輪割り断つ天龍の大爪(クサナギ)》」

 

 彼女は咄嗟に目を瞑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『スフィンクス』が恋々に向けて前足を振るう。それが彼女に当たる寸前にそれは邪魔された。

 

疾く在れ(きやがれ)獅子の黄金(レグレス・アウルム)!」

 

 突如として現れた新たなる魔獣の攻撃によって『スフィンクス』はその場から引いた。

 

「な、何が起こっているのだ? ん、あれは? あれは!」

 

 煙の中に居る何かに目を輝かせる凛奈は見たのだ。彼女の作り出したのではない、本物の魔獣を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月輪割り断つ天龍の大爪(クサナギ)

 

 彼の声は聞こえる。しかし一向になんの衝撃が襲ってこない。刀華は恐る恐る目を開く。そこにはあり得ない光景が広がっていた。先ほどまで彼の《固有霊装》には禍々しいまでの暴風の塊があった。しかしそれが跡形も無く消え去っている。少女の持っている槍の力によって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんとか間に合ったみたいだな」

 

 戦場で聞くことの無い安心したような声がその場に響いた。

 

「そんなことを言っている場合ですか?」

 

 刀華の目の前に居る少女が苦言を呈するように声に出した。咄嗟に王馬はその場を少し離れた。

 

「なあ、あんたら。さっさと破軍学園(ここ)から出て行っちゃくんねえか?」

 

 煙の中から出てきた青年。暁古城は嫌やそうに警告した。

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