那月によってビショウが連れ去られたのを見ていた雪菜は〈雪霞狼〉を消して古城のいるところに歩いて行った。近づくと、古城は雪菜に気付いて凪沙を背負い立ち上がった。
「随分、早く終わったな」
「それが私の仕事ですから」
古城が軽口を叩くと雪菜は微笑んでそれを返した。
「それで、これからどうする?」
古城は背中の凪沙に目を配らせこれからの事を尋ねた。それを雪菜は顎に手を当て、思考していた。
「とりあいず、深森さんに連絡をしてください。凪沙ちゃんが倒れてしまったわけですから。その間に私が凪沙ちゃんを見ておきますから。」
「それも、そうだな。はあ。なんでこんな事になるかね?」
雪菜の答えに古城は了承したように手を振り、落ち込んだように小言を吐いた。
「まあまあ、先輩。落ち込まないでください」
「そうは、言われてもな。はあ。・・・・とりあいず、凪沙を頼むな」
「はい、先輩」
古城は雪菜に凪沙を預けると少し離れ、携帯端末で連絡を始めた。その間雪菜は凪沙に肩を貸している状態にあった。彼女はこのままの状態では凪沙がかわいそうだと考え、近くのベンチに凪沙を寝かせた。
「ごめんね、凪沙ちゃん。巻き込んじゃって」
雪菜は誰にも聞こえない声で彼女に謝り、凪沙の手を握って古城の帰りを待っていた。
「っというわけだから。凪沙の迎えを寄越してくれ」
『ふぅーん。そんなことがあったんだ。・・・・・うん、OK! すぐに私が迎えに行くから!』
携帯端末の向こうから凪沙に似た元気な声が返ってきて、古城は呆れた。
「あんたな。少しは心配とかねぇのかよ」
そのせいか声にも呆れが出ていた。
『それは心配だよぉ。なんせ、娘が発作を出して倒れたんだから! だから私が迎えに行くんだよ』
電話の向こうで心配らしいことを言ってはいるが気の抜けた声の為、真面目に聞こえない。
「ああ、そうかよ。来るんだったらなるべく早く来るんだぞ」
『はいはーい。りょうかーい!』
そこで電話を切られ、古城はしばらく携帯端末に表示されていた名前を見た。そこには 暁 深森 と表示されていた。
「ったく。あいつは本当にもっと、真面目にできねえのかよ」
古城は呟くように小言を口にしながら雪菜たちの所に帰ってきた。すると、そこには雪菜と凪沙だけの姿ではなく、一輝たち姿もあった。
「あっ! 先輩、お帰りなさい!」
雪菜が古城に気付くと彼に近づいた。
「何があったんだ? 姫柊」
古城が首を傾げていると、雪菜は苦笑いをした。
「それが・・・ですね・・」
雪菜が言い淀みながらステラを見た。するとステラはそれに気づいたのか、文句有り気な表情で雪菜を見た。
「だから、なんで私の邪魔をしたの? 私一人で制圧して、一輝に良いところ見せようと思ったのに」
「いや、その・・・・・。それは・・・・ですね」
ステラの言うことに雪菜は困惑したように笑った。
「いえ、それが私の役目でして」
「何が、役目よ! それは私の役目だったのに」
ステラはそういうと地団駄を踏み始めた。
「いえ、そういう意味ではなく
「ステラ。もう止そう」
雪菜が困惑しているのを見て、助け船を出したのは一輝だった。ステラは一輝を睨んだ。
「邪魔しないでよ」
「いや、もう止めたほうがいい。古城君が戻ってきたし、そちらには倒れた子がいるんだ。僕たちはなるべく早く立ち去ろう」
そこで初めて、ステラはベンチで寝ている凪沙の存在に気付いた。
「・・・・・! ごめんなさいね。少し取り乱していたわ。こんなこと言われても迷惑だったわよね」
「い、いえ。迷惑だったわけでは!」
ステラが謝罪をするのを見て、一輝が声を発した。
「ごめんね、古城くん。姫柊さん。僕たちはここでお暇させてもらうよ」
一輝が古城にそういうと、ステラと他二人を連れて出口の方に去っていった。
「大変そうだな、お前も」
「そこまで大変だとは思ってません」
古城がため息交じりに雪菜に伝えると、雪菜は微笑みで返してきた。
「ねえ、一輝。聞きたいことがあるんだけど」
ステラは一輝に問い掛けた。
「なんだい? ステラ」
一輝はステラの問いかけに答えて横を見ると真剣な表情をしていることに気付いた。
「あの娘。雪菜が言ってた高神の巫女ってなんなの?」
その真剣さに一輝は息を飲んだ。
「最初に雪菜に会った時はどこかの世間知らずのお嬢さんだと思った。その時に彼女から感じたのは全く害をなさない小動物って印象だったから。だから彼女が私から学年主席を奪えるとは思えなかった。だけど」
ステラの呟く声が小さくなった。
「さっきの雪菜の姿を見て、その印象を変えざる負えなかった。戦っている雪菜の姿は小動物なんかじゃない。あれは戦いの女神が乗り移った感じが出ていた」
「ステラにも・・・そう見えたんだね」
一輝が一言返すとステラは驚愕した様に彼の顔を見た。
「ということは一輝も?」
「うん。・・・・そうだね」
ステラの問いかけに一輝はあっさりと肯定した。
「だけどね。ステラ」
一輝はそこで区切り息を飲んだ。
「悪いけどそのことは教えられない」
一輝はそれを伝えると俯いた。
「ど、どうしてよ! 理由を言って」
ステラは不満を声にした。
「ステラ。この世の中には知らないほうが幸せなことがあるんだ」
「それの何処が理由なのよ!」
ステラに諭すように一輝が言葉にしても彼女は納得せずに一輝に問い掛け続けた。しかし一輝はそれ以降ステラがいくら言ってもその件を喋らなかった。
そんな一輝たちを遠くから見ていたものが居た。
「あーあ。あの姫様に高神の巫女の事が知られちまった」
ヘッドホンを首に掛けた少年。矢瀬基樹が望遠鏡を片手に横にいたカラスに話しかけた。
『仕方がありません。これも彼女の役割の一つなのですから』
カラスは基樹の言葉に反応して、彼の問いかけに言葉を返した。
「そうかも知れないが。少しは姫柊ちゃんの役目を減らしたほうがいいんじゃねぇですか?」
『あら。貴方が彼女を心配するなんて。珍しいものが見えました」
基樹は両肘を柵に乗せ、カラスに意見をした。しかしカラスからは皮肉が返ってきた。彼はバツの悪そうな顔をするとカラスは『ですが・・・』と続けた。
『それも考えなければいけませんね。これ以上、私たちの存在が知られる前に』
カラスはそれを発言すると、基樹の肩に乗った。
『それでは、今日はお暇させていただきます。これからも
カラスはそれを告げると紙になって消えた。基樹はカラスが消えたのを感じると顔を上げた。
「前途多難だな。親友!」
それを口にした彼の表情は笑みに満ちていた。