塵も積もれば山となる。
その言葉の如く、目の前に積み上げられた塵---もとい竹簡の山、山、山。
どうしてこんなになるまで放っておいたんだ!!
もちろん、決して口には出さない。
出しても山が無くなる訳でもなし、というか叫んだ振動で山が崩れる。
土砂崩れだーっ!!
逃げろー!!
げぇっ、関羽ぅ!?
じゃーん、じゃーん、じゃーん。
……。
………。
黙々とただ只管に仕事をするのです。
そう、例えるならば蟹を食べ続ける者たちのように。
今の俺は竹簡絶対処理するマン。
お腹は膨れないけどね、働かないとおぜぜが貰えないのです。
「すみません、一刀さん」
申し訳なさそうに謝ってくるのは、この軍の軍師様、最高軍司令官、参謀。
あぁそんなに謝らないで大丈夫ですから。
大体こんな状況になった原因は想像するに容易い。
どうせ御上がいつものように軍師様の献策などを無視して暴走し続けた挙句、
途中で飽きたとか言って放り出したといったところだろう。
どうだ、図星だろう!!
「流石、一刀さん。まだここに来て日も浅いというのに、よくご存知でいらっしゃる」
やった当たった、商品はなんだ!!
「では、本日の晩酌に恐縮ながら乙女が一人お供致しましょう」
おぉ……。
予想外に一等賞、というか寧ろお釣りが来るレベルでの商品であったか。
何を隠そう目の前で会話を繰り広げながらも、尋常ならざる速度で竹簡の山を捌く彼女は麗しの美少女。
新雪を思わせるような白髪に、透明度の高いコバルトブルーの色の瞳。
スラリと伸びたおみ足は黒いタイツに包まれて、一層の艶やかさを醸し出している。
そして何よりも重要なのは、その強烈なまでに男の目を釘付けるおっぱ-----。
「但し、この山を全て終わらせたら、という条件付きですが」
絶望したぁ!!
笑顔でこちらの意図を見透かした彼女の洞察力には、流石軍師と称えざるを得ない。
くそぅ。
でも頑張っちゃう。
”男の子だもの。”
---かずお---
仕方ないよね。
女の子が仕事が終わったら飲みに行こうなんて誘ってくれてるんだもの。
「ふふっ…今晩、楽しみですね」
畜生、あざとい!!
でも可愛いから許しちゃう。
よぅし、蜜月の刻を過ごすためにも、お兄さん頑張っちゃうぞー。
-----なんて、考えていた時期が僕にもありました。
父さん、母さん、僕は今、山を切り崩すというとてもやり甲斐のある仕事に就いています。
山と言っても本物の山ではありません。
竹簡という名の竹山を、それはもう千切っては投げ、千切っては投げ…。
でも、僕にも体力の限界というのはある訳で。
処理しても処理しても減らない山は、いつの間にか僕の精神も蝕んでいた訳で。
気が付いたら夜も深く、とても晩酌なんて時間じゃない訳で。
なんなら軍師様は、途中で御上の思いつきによって戦線を離脱してしまった訳で。
「さぁ、真直さん!!行きますわよ!!」
「え、ちょっと麗羽様!?行くってどこへええぇぇぇぇぇ------」
回想終了、わずか3秒くらいの出来事でした。
その後も一人寂しく竹簡の処理をしていった訳だが、流石に自分一人では判断に困る案件も多く、
自分に可能な範囲で作業を進めることにして今に至るのだ。
しかし、流石にもう限界だ。
一日中手を動かし続けたせいで腕も上がらない。
今日はこの辺にして明日また頑張るとしよう。
ふらふらと寝台まで向かうと、あとはそのままドミノのようにパタンと倒れ込んだ。
「……お邪魔しまーす」
戸を軽く叩いても反応が無かった為、少女はひっそりと滑り込むように少年の部屋に潜入した。
全くあのお姫様にも困ったものだ。
決して悪い人間ではないのだが、如何せん思いつきで行動することが多すぎる。
今日だって、彼と一緒に仕事をしたのは久しぶりだったのだ。
この軍の軍師たる自分はなかなか多忙であるため、彼といる時間を作ろうと思うとかなりの調整を必要とする。
その調整を10日以上前から行い、ようやく今日実現したのだ。
それをあの総大将は………。
「済んだことを悔いても仕方ありませんね」
冷静に、頭の中を切り替える。
眉間に寄ってしまったであろう皺を指でむにむにと解す。
いけないいけない。
いくら眠っているとはいえ、彼が目を覚まさないとも限らない。
あんな残念な表情を彼に見られた日には、もはや立ち直ることは難しかろう。
……それにしても。
なんてあどけない表情で眠るのだろう。
普段の飄々とした彼も良いが、こういう無防備な顔を晒されてしまうと、つい表情が緩んでしまう。
ちょ、ちょっとだけならばれないでしょうか。
そーっと手を伸ばし、髪の毛を撫でてみる。
「んん……」
寝返りを打つ彼に、胸がきゅんきゅんと弾んだ。
まずい。
これ以上は自制が効かなくなってしまう。
深呼吸を何度か繰り返すと、頭が多少冷静さを取り戻したような気がする。
ふと、目に入ったのは竹簡の山。
自分が居なくなった時とあまり変わらない光景だが、分かるものが見ればその違いは一目瞭然だった。
山ごとに竹簡の種類が分けられており、更に優先度の高いものには目印が付けられている。
竹簡の処理をしつつ、彼女が少しでも仕事をし易いようにと、彼が自分を気遣って目を通してくれたであろうことがすぐに分かった。
さきほど冷静にしたはずの頭は、またすぐに熱を取り戻した。
魘される様な熱で胸を一杯にさせた彼女は、気が付くと寝台にしゃがみ込み少年に身体を重ねていた。
次回、人物紹介編。