一話を新しくした理由は、感想で指摘され、一話の出来がかなり酷いと感じたので、もう少しまともな物にしよう、と思ったからです。
少しでも良くなったと感じて貰えたら光栄です。
第一話 蜘蛛
「う……」
目に当たる光を感じて、目が覚めた。
俺は眩しさに手で光を遮ろうとする。
そこで初めて異変に気づいた。
腕が動かない。いや、腕だけではない。足や頭、更には指や間接1つまともに動かない。
唯一動く目で精一杯視界を動かす。
それなりに広い部屋だ。ただ見える範囲には扉どころか、穴1つ見当たらない。
どうやら俺はその部屋の中央にある椅子に座っているようだ。体は手錠のような物で固定されている。
その時、突然椅子が回転した。
それだけでもかなり慌てたが、椅子が半回転した時、更に驚くべき物を見た。
壁一面がガラスになっていて、隣の部屋が見える。
その部屋にそれはいた。
丸っこい体に、八本の脚、おそらく、蜘蛛だろう。しかし、こいつは明らかに巨大だ。確実に人以上の大きさがある。
その蜘蛛は、足と胴体を鎖で縛られ、吊るされていた。死んでいるのだろうか。動く気配は無い。
動かなくとも、その異質な存在は、抑えていた恐怖を溢れさせた。
「おい! これは何のつもりだ! さっさと放せ! 」
喚き散らしても、返事はない。
代わりに、部屋の電気が消えた。
暗闇で視界が埋め尽くされ、更に恐怖が増してくる。
恐怖に負け、叫ぼうとした時、天井から音がした。
目をこらして見ると、なんとか、天井が開き、何かが降りてきたのが分かった。
ほとんど見えないが、あれが良い物とは到底思えない。
なりふり構わず、必死に拘束を解こうと暴れる。しかし、拘束は全く外れる気配がない。
その間にも、何かは確実に近づいてくる。ゆっくりと近づいてくるのが余計に恐怖を感じさせる。
何かとの距離がかなり狭まってきた。改めてみると、それが何らかの機械であることは分かったが、それが俺に何をするのかは分からない。
もう余裕がない。無我夢中で叫ぶ。
「誰か! 誰か居ないのか! 助け──」
最後まで言う前に、機械が俺に突き刺さる。
激痛に叫ぶ間もなく、俺は気を失ってしまった。
「──っ! 」
目が覚めると共に、違和感を感じる。辺りを見渡しても、闇に包まれ、一寸先もまともに見えない。
(ここは……?)
目覚めた直後で、完全に覚醒していない頭を働かせ、記憶を探る。
(確か、朝起きて、飯くって、それから……どうしたっけか。)
目覚めたばかりということを含めても、妙に呆けすぎている。
記憶もかなり曖昧だ。何を思い出そうとしても、ぼんやりとして霧にかかったような感じがする。
とりあえず、基本的な事から考えていく。
(えーと、俺は……そう、妖怪だ……妖怪? 俺は人間だろう? いや、人間なわけが――)
そこで違和感の正体に気づいた。
体が、頭の後ろにある。それだけではない。手と足の間にもう一対、手足がある。
(なんだよこれ…… 。いや、いつも通りか。……いつも通り!? そんなわけが……あるか? ああ、くそっ! どうなってる!)
明らかに思考がおかしい。
2つの思考が混じっているような感じだ。
まともに考えることも出来ないなら、記憶に頼る他ない。俺が、人間か、妖怪かをはっきりさせなくてはならない。
(……そうだ! 変な椅子にくくりつけられて、それで……それで……俺を見た? そうだ。俺だ! 俺を見た! )
そこで漸く思い出した。
そうだ、椅子にくくりつけられて見たあの蜘蛛。あのおぞましい怪物こそが俺だ。間違いない。
確か、その後で妙な機械が突き刺さったはず。それで、何かをされたのだろう。
しかし、俺が妖怪だと言うならば、この人間の記憶は何なのだろうか。
それに、人間の記憶があるだけならともかく、妖怪としての思い出がない。
今度は、妖怪の記憶を探る。
先程はほとんど思い出せなかったが、今度は少しずつ思い出してきた。
(俺の名前は……アシダカ。能力は……確か……そうだ。能力の封印。それが俺の能力。使えるか? )
試そうとするが、俺の能力は発動が分かりにくい。
諦めて、人間の記憶がある事を考える。
(あの機械は何をする物だ? あれのせいで、人間の記憶が移ったのか、それとも人間だった俺が妖怪に乗り移ったか)
考えれば、考えるほど分からなくなる。
暫く、俺は悩み続ける他無かった。
あの蜘蛛が動き出した。
実験の成功を見て、ようやく黙り続けていた私は口を開いた。
「よく、成功したな。……麻酔係は誰だ? 」
「私です。申し訳ありません。なにぶん、人間に関してのデータはほとんど無く、麻酔もこれが初めてなもので」
研究員の一人が私に答える。
「では、次は頼むぞ。奴の状態はどうなってる?」
別の研究員が答えてくる。
「送られてきたデータから見ますと……魂は無事肉体に定着、一応安定しています。しかし、肉体と魂の記憶が混ざっているようです。そのせいで思考が不安定になってます。どうしましょうか。破棄しますか?」
部下の問いにためらい無く答える。
「被験者を捕らえるのはこれ以上は許可が降りん。このまま、予定通り適当な世界にあれを放して様子を見る。すぐに次を用意しろ」
私の言葉に慌ただしく研究員達が各々の仕事に取り掛かる。
こんな辺境の星までわざわざ来て捕らえた貴重な被験者だ。一匹たりとも、無駄には出来ない。
(……何だ?)
下から音が聞こえる。この狭い部屋に響き渡る、大きな音だ。
見ると、床が少しずつ開いている。
下に何があるのかは見当もつかないが、どうも嫌な予感がする。
当たってほしくない予感ほど、当たるものだ。
下には何も無かった。この部屋は上空に浮かぶ何かの一部屋だったようだ。
はるか下に地面が見える。目が眩む程の高さだ。
ここまで来れば、次に何が起こるか予想できる。出来れば外れて欲しいが。
そんな願いが聞き入れられるわけも無く、俺を拘束していた鎖は無情にも外れた。
当然、俺の体は重力を無視できず、高速で地面へと向かう。
「グオオオオオ!!」
咆哮にも聞こえる悲鳴をあげ、俺は真っ逆さまに落下していく。
地面が近づいてくる。このままでは間違いなく死ぬ。いかに強靭なこの妖怪の肉体でも、あの高さから地面に叩きつけられれば、生きていられないだろう。
もう、すぐそこに地面が迫っている。俺は恐怖で目を閉じ、そして――
そっと目を開ける。目と鼻の先には地面がある。
どうやら、俺は何かにぶら下がっているようだ。
後ろを向いてみると、俺を吊り下げる物は見当たらなかった。いや、よく目を凝らすと、透明な糸のようなものが体に巻き付いている。いつの間に結ばれていたのだろうか? とにかく、そのおかげで俺は無惨な死体になることは無かった。
糸がほどけ、脚が地面を踏みしめる。
そうして漸く出てきた余裕によって、俺は結論を出せた。
俺は元人間の妖怪だ。
疲労を感じて俺は目を閉じた。
没になる第一話は、とりあえず残しておきます。
次話は、また暫くかかってしまうと思います。