妖怪と人間の総力戦から、およそ2億年が過ぎた頃。日本のとある山で、土砂崩れが起きた。何てことのない、ただの土砂崩れ。しかし、1つだけ他と違うところがあった。その自然現象は、山の内部にある空洞と外を繋げた。結果、その空洞にあった、長きにわたる封印を解いた。2億年の時を越えて、4匹の妖怪を解き放ったのである。
「いやー。よく寝たな! 」
「寝てたっていう感覚はないけどな」
「封印が上手くいってたってことだろ。いいじゃねえか」
「……まだ眠い」
最初に外に出てきたのは、カマキリの妖怪であるマギリ。次に出てきたのは、俺。蜘蛛の妖怪、アシダカ。その後に続いてきたのは蜂の妖怪ミツバ。最後に眠たそうに出てきたのが、ダンゴムシの妖怪のカダン。
全員が無事に目覚められたことを喜びつつ、俺は眠りにはいる直前の出来事を思い出した。
核爆発を耐え抜き、見事生き残ることのできた俺達だが、それを喜んでいる余裕はなかった。
地面には草一本生えず、生き物の気配が全くない。遠くに人間の集落が見えるが、あそこも時期に放射線で滅びるだろう。
もはや、ここは俺達が生きていける場所ではない。放射線が長く残り、この一帯はしばらく汚染が続く。
マギリが呟く。
「俺達、これからどうやって生きていけばいいんだ? 」
「こんな所で生きていけるはずないな」
「じゃあ、俺様、ここで死ぬしかないっての!? 嫌だー! 死にたくなーい! 」
「騒ぐなよ! なんか手があるかもしれねーだろ! 」
「そんなのがあるわけが……」
「あるよ」
その言葉に俺達は一斉にダンゴムシの方を向く。
「まじか!?早く教えろよ!えーと」
「カダン」
「へ? 」
「カダン、僕の名前ね。慌ただしくて聞きそびれてたけど、君達は何ていうの? 」
カダンの言葉で俺達は気づいた。そういえば、まだ自己紹介もろくにしていない。カダンの問いに蜂が真っ先に答えた。
「俺様はミツバだ。かっこいいだろ? かっこいいよな!? 」
この状況でそんなことを言えるこいつは、かなりの大物なのかもしれない。それとも、ただの馬鹿か。そんなことを考えつつ、俺も答える。
「俺は、アシダカだ」
「俺はマギリ。それで手ってのは何だ? 」
「僕の能力、知ってるよね? 」
「ああ、護る程度の能力だろ? それがどうかしたのか? 」
「うん、その能力のおかげでね、結界とかそういうのは得意なんだ」
「それで!? それで!? どうするんだ!? 」
「落ち着いてよ……。それで結界を作ってその中で眠ろうって考えなんだけど」
眠る。つまり、カダンは俺達が生きていける環境になるまで眠って待とう。というつもりなのだろう。冬眠のようなものだろうが、いかんせん、眠る歳月は途方もない時間になるだろう。
「出来るのか? そんなこと? 」
「うん。僕の妖力だけじゃ無理だけど、皆から分けてもらえば」
分けるといっても、所詮俺達は妖怪としては中堅がいいところだ。少々不安が残る。だが、他に考えは浮かんでこないし、浮かぶまで考えている余裕はない。この方法にかけるしかない。
「よし、やろう。やらなきゃ死ぬだけだ」
「そうだな、このまま死ぬのを待つよりかはいい」
「ああ! 早速始めようぜ! まずどうすりゃいい!? 」
「結界だけじゃ心もとないし、洞窟がなんかの中で寝た方がいいね」
「洞窟……か」
「ならあそこなんてどうだ」
そう言ったマギリの視線の先には、それなりの大きさのある岩山があった。たしか、あそこの岩山には洞窟があったはずだ。
「あそこか、たしかに洞窟がいくつかあったはずだ」
「よし、行こう」
岩山にたどり着き、適当な大きさの洞窟を探す。いくつもある洞窟のなかからちょうど良い大きさの洞窟を見つけた頃には日が沈んでいた。
「ちょうど夜か、眠るには良いな」
「眠りというか、封印だけどね」
「え!? ちょ、そんなこと聞いてな……」
「似たような物だよ。さあ、始めよう」
カダンを中心に、寄り添うように集まり、各々がカダンへ妖力を流し込む。上手くやれるか不安だったが案外簡単に出来て助かった。
「じゃ、お休み」
カダンから半球形の結界が広がり俺達を覆う。そうすると、急に意識が遠退いていく。周りの仲間も意識を失っているのを見て、俺も眠りについた。
「いやー。本当に上手くいくとは。カダンに感謝だな」
「ああ、よくやってくれたな」
「……余裕だよ。余裕」
「だったら、いい加減ちゃんと目を覚ませ」
話しつつ、いつまでたっても丸くなったままのカダンを足で叩く。
「うう、まだ眠い……」
「よくそんな状態で、余裕と言えたな。力の使いすぎで、ちゃんと起きてもいられないのに」
「うぐぐ」
その時、先程から俺達の上空をうるさく飛び回っていたミツバが、さらにうるさく騒ぎだした。
「人間の集落があるぜ! いやっほううう! ごちそうだー! 」
「寝起きでよく食欲がわくな」
「いいだろ、別に! それに、なまった体を動かすのにはちょうどいいぜ! 」
「そうだな、俺も一暴れしたい」
「じゃあ、いくか。おい! さっさと起きろ! 出発するぞ! 」
「ううう」
いまだに動きたがらないカダンを無理やり起こし、上空を飛ぶミツバについていく。
この時代に目覚めたばかりで、状況は分からないことだらけだ。しかし、不思議と不安は感じなかった。