「数は50人くらいか。戦える奴が10人いるかいないかってとこだな」
「ああ、楽勝だな。さっさとやっちまおう。腹も限界だ」
「いや、まずは作戦会議だ。ただ突っ込むだけじゃ、効率よく殺せない。四匹分の食料を狩るのは結構きついぞ。皆、中途半端に食いたくはないだろ?」
俺の提案に多少しぶりながらも納得したマギリとミツバは俺について森の奥へと引き返す。
集落から少し離れた森の中、俺達は襲撃のための、偵察を行っていた。
「で、作戦なんているのかよ。あんなの、俺達なら一捻りだぜ」
「いるさ。腹一杯人間を食いたいならな」
森をしばらく進み、開けた広場のようなところまで来ると、そこにはカダンが退屈そうに待っていた。
「よう、待たせたな。偵察終わったぜ」
「遅い」
ミツバの報告に、不満げにカダンが答える。待ちくたびれたのか、カダンは機嫌が悪そうだ。
取り敢えず、機嫌を直してもらおうと俺は口を開く。
「そう怒るなよ。これから、人間が食べられるんだしさ」
「僕はやらないよ」
「……え? 」
予想外の返答に思わずすっとんきょうな声を出す。 ミツバとマギリもこれは予想外だったらしく、二匹とも一瞬唖然としたが、すぐにはっとしてミツバがカダンに尋ねる。
「やらないって、お前人肉嫌いなのか? 」
「僕、草食だし」
カダンの返事に、それでいいのかと思うが、やる気がないなら、しょうがないだろう。無理に手伝わせて、これ以上機嫌を悪くさせる必要もない。カダンの不参加ということで、考えておいた作戦を少し変えて、提案する。
「分かった、俺達だけでやろう。カダンはその間どうする? 」
「適当に近くで見てるよ」
「よし、じゃあ、作戦を説明するぞ」
ミツバとマギリがうなずくのを確認して、作戦の説明を始める。
「作戦っていっても大して難しいことじゃない。人間が逃げないように集落を包囲する。それだけだ」
「何だ、思ってたより簡単だな」
「ああ、まずは俺が、妖力弾で見張りを殺る。そしたら、ミツバは空を飛んで集落の向こう側へ、マギリは集落の左側、俺は右側へ一気に突撃する。後は、逃げられないよう注意してくれ」
説明を聞いて、真っ先にミツバがやる気をしめす。
「よっしゃ、俺様がバッチリ活躍してやるぜ」
「俺だってしっかり働いてやるさ」
マギリも十分のやる気があるようだ。これなら、作戦は上手くいくだろう。
「よし、作戦は真夜中に始める。それまでに、配置とかを確認しといてくれ」
夜の暗闇は、妖怪に有利に働く。しかも、今夜は新月。奇襲するにはもってこいだ。
マギリとミツバの準備が完了したことを確認し、俺は口内に妖力を集め始めた。口内に形成された妖力弾が十分な大きさになるのを感じて、集落の外を見張る人間に狙いを定める。
この暗闇では見張りがこちらに気付けるはずがない。おかげで、余裕をもって狙撃の準備ができた。
八本の足で体を固定し、口内の妖力弾を勢いよく発射する。人間を殺すには少々強すぎる威力を持ったそれは、吸い込まれるように見張りに直撃した。
妖力弾が直撃した見張りは断末魔をあげることも出来ず。辺りに肉片と血液を撒き散らして爆死した。
当然、妖力弾の着弾による音はかなり大きい。深夜に響いた爆音に、集落の人間は一人残らずたたき起こされる。
開始の合図を見たマギリとミツバは、作戦通りに集落を包囲するため森から飛び出し、集落へ向かう。俺も妖力弾の発射が終わってすぐに集落へと駆け出していた。
集落の人間が突然の襲撃に混乱している間に、俺達三匹の包囲が完了する。人間は逃げ道を閉ざされ、さらに混乱が大きくなる。
獲物は追い詰めた。後は一人残らず狩り尽くすだけだ。
騒ぎによって親と引き離され、泣きじゃくる子供を容赦なく足でなぎはらい、腰が抜けて動けない老人を踏み潰す。どちらもあっけなく絶命し、俺の腹に収まった。そろそろ、動いている人間も少なくなってきた。腹はそれなりにふくれたが、見逃してやるつもりは微塵もない。全員俺達の糧にする。
俺達の狩りが始まってから、たった数十分で集落は地獄絵図と化した。道には血があふれ、地面が見えず、そこらじゅうに腕や足、内臓などが散乱している。集落の人間は例外なく恐怖で錯乱し、俺たちから逃げ回っている。
最初の方は、まだそれなりに冷静で、皆を落ち着かせようとする者もいたが、すぐに俺達に殺された。勇敢にも集落の屈強な男たちが俺達に向かってきたが、俺達に敵うほどの強さはなく、次々と殺され食われていった。皆をまとめていた者も、俺達を一応は足止めしていた男達も殺され、残った人間はただ逃げ惑うしかなかった。その人間達も、そろそろ全滅しかけていた。
無謀にもこちらに立ち向かってきた男を、そのまま食らう。
さて、あとどれ位かかるだろうか?
もう、視界に動く人間の姿は見えない。そこらに散らばっている人間の死体を食いながら、俺は生き残りが隠れていないか確認していた。ミツバとマギリは、狩りに満足したのか殺した獲物を食べる事に没頭している。
見落としがないように注意深く辺りを見回しつつ、住居を破壊して、隠れられる場所を無くしていく。最後の数件というところで、残った数少ない住居の1つから赤ん坊の泣き声が聞こえた。すぐさま泣き声の元へと向かい、そこで赤ん坊を抱えた女を見つけ出した。近づいてくる俺に向かって、母であろう女は必死で言う。
「お願い! この子だけは! 私はどうなってもいいから! 」
しかし、俺は必死の願いを聞き入れるほど、人間の精神を残していなかった。足による突きで、二人まとめて殺し、食べる。
ちょうど食べ終えた時に、マギリが近づいてきて言った。
「それで最後か? そこらに散らばってたのはもう全部食っちまったぜ」
「ああ、もう生き残りはいないはずだ。カダンのとこへ戻ろう」
満腹になり、そのまま寝ようとしていたミツバを叩き起こしてカダンの所へ向かう。
その時、いきなり巨大な柱が俺達の前に突き刺さった。
「やってくれたじゃないか、妖怪ども」
「私達の領土で暴れるなんて、いい度胸じゃん」
背後からの声に驚き、振り返る。
そこには、背に柱と注連縄を背負った女と、目玉のついた変な帽子をかぶった少女が並んで立っていた。
「覚悟しな! 全員生きて帰さないよ! 」
注連縄と柱を背負った女が言い終わるのと同時に、二人は俺達に襲いかかってきた。