東方蜘蛛記   作:ヒトゲノム

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第七話 二柱の神

巨大な柱が空をおおいつくし、大地に向かって一斉に降り注ぐ。

更に数少ない柱の隙間からは、鉄製の輪が手裏剣のように襲いかかってきており、逃げ場を狭めている。

 

(厄介だな)

 

柱に比べれば威力の低い鉄の輪を妖力弾で弾いて、なんとか回避を続けながら、俺はこの状況を打破しようと頭を悩ませていた。

 

(段々攻撃が激しくなってる。直撃するのも時間の問題だな。ミツバとマギリは……)

 

時たま訪れる攻撃が止む瞬間を見計らってミツバとマギリの方を見る。

ミツバは自慢の機動力をいかして攻撃を大きく避けることで雨あられのように降り注ぐ攻撃をしのいでいる。

マギリはすでに回避を諦め、能力を使って柱や鉄の輪を切り裂いている。

(俺達だけじゃ逃げるのは無理か。だったら、カダンを呼ぶしかない)

 

そう判断し、思いついた簡単な作戦を伝えるため、俺は攻撃による轟音に負けないように叫ぶ。

 

「ミツバ! マギリ! 作戦を思いついた! 先ずはとにかくやつらの攻撃を止めなきゃいけない! ミツバ! カダンを連れてきてくれ! 俺とマギリで時間をかせぐ! 」

「おうよ! 任せときな! 」

 

指示を聞くとすぐにミツバは攻撃の続いている範囲を抜けて、カダンの元へと飛んでいく。

しかし、それを許すほど相手も寛大ではない。

 

「仲間がまだいるのか! 行かせないよ! 」

 

柱で攻撃していた方がミツバへと攻撃を集中させる。だが、そんなことは当然予想している。

 

「神奈子! 二匹の方を忘れてるよ! 」

 

攻撃の大部分を占めていた柱が、空中にいるミツバへと集中したことで、地上にいる俺達への攻撃がおろそかになる。

慌ててもう片方の少女が攻撃を激しくするが、柱に比べれば圧倒的に威力が小さく、範囲も狭い。

余裕が出来たおかげで、十分に妖力を溜める事が出来た。発射された妖力弾は鉄の輪を吹き飛ばしつつ神奈子と呼ばれた女性に向かう。更にマギリも鎌を大きくふるい鎌に纏わせていた妖力を飛ばす。

 

「神奈子! 危ない! 」

「ちっ! 」

 

相方の警告によって俺達の攻撃を回避するが、その隙にミツバは攻撃の届く範囲を離脱していた。

ミツバを離脱させることは成功した。後はミツバがカダンを連れてくるまで、俺とマギリであの二人を相手に耐えしのぐ。

マギリの近くに行き、これから始まるであろう猛攻撃に備える。

 

「ここが正念場だ。覚悟を決めてくれ。」

「大丈夫だ。余裕で時間稼ぎぐらいやってのけるさ。」

 

マギリとのやり取りの間に、あちらは攻撃の準備を整えたらしい。

 

「たかが虫のくせに中々やるじゃないか。」

「こっからは私達も、本気でいかせてもらおうかな。」

 

あちらの言葉から、まだまだ相手は余裕があることが分かる。

勝つことは厳しいが、負けないことならそこまででもない。ミツバがカダンを連れてくるのにはそう時間はかからないだろう。

 

「さあ! いくよ! 」

 

神奈子の声と共に、攻撃が再開される。その攻撃は柱を一本投げつけてきただけ。しかし、それは先程までとは威力が桁違いだ。

凄まじい速度でこちらに一直線に向かってきたそれに全力の妖力弾をぶつけてなんとか軌道をそらす。

柱が標的を逃し、地面と激突した瞬間、今まで以上の轟音が鳴り響く。

 

「ほらほら、敵は神奈子だけじゃないよ! 」

 

柱の威力に驚いている暇もなく、もう片方が鉄の輪を持って直接攻撃を仕掛けてくる。

 

「こっちだって、一匹だけじゃないんだぜ! 」

 

攻撃の反動で俺は動きがとれない。

それをかばうようにマギリが妖力を纏わせた鎌で応戦する。

鉄同士をぶつけさせたような音が響き両者の攻撃が激突する。一瞬の拮抗の後、明らかに質量で勝るマギリが鎌を振り切って少女を吹き飛ばす。

 

「諏訪子! 」

 

神奈子がおそらく少女のものであろう名前を叫ぶ。

諏訪子と呼ばれた少女は吹き飛ばされ、そのままいけば受け身もとれず地面に叩きつけられるだろう。しかし、諏訪子は地面に叩きつけられることはなく、地面が無いかのようにすり抜け地中に潜った。

 

「何!? 」

 

予想外のことに思わず注意が散漫になる。

 

「アシダカ! 攻撃が来てるぞ! 」

 

マギリの声に反応し神奈子の方を見る。既に神奈子は柱を投げつけてきている。しかも、こちらに向けて飛んでくる柱はもはや回避も迎撃も出来ない程接近していた。

直撃だけは避けようと、必死で体を動かす。

直撃はしなかった。だが、恐ろしい速度と質量を持ったそれは、俺の脚の一本に当たり、叩き潰した。

 

「~~っ! 」

 

痛みのあまり声にならない悲鳴をあげる。叩き潰された脚は、無惨な状態になっており、暫くは使い物にはならないだろう。

痛みのせいで思考が出来ない。このままでは次の攻撃を避けれない。

 

「アシダカ! くそ! 」

 

マギリが助けようとこちらに向かうが、復帰した諏訪子がそれを許さない。

 

「あんたの相手は私だよ! 」

 

地中から飛び出した諏訪子がマギリに、鉄の輪を投げつける。

 

「ちっ! 」

 

鎌を使い、鉄の輪を弾き飛ばすがその間に神奈子は俺に向かって追撃の柱を飛ばしてくる。

脚を一本失ったせいで上手く動けず、痛みのせいで妖力弾を作ることもままならない。

 

(ちくしょう! 直撃する! )

 

襲ってくるであろう衝撃に思わず目をつぶる。

しかし、その攻撃が俺に届くことはなかった。

衝撃が来ないことをおかしく思いそっと目をあけてみると、柱が俺の目の前で浮かんでいた。いや、浮かんでいる訳ではないようだ、何かにぶつかり、静止している。

 

「ちょいと危なかったな。でもまあ、俺様の速さでなきゃ間に合わなかったぜ」

 

聞こえてきた声に思わず振り向く。

そこには戻ってきたミツバと、待ちわびていたカダンがいた。

 

「ちっ。以外と速かったな。諏訪子! 」

「はいはーい、今いくよー。」

 

神奈子は増援を許してしまった事に苛立ち、再び一度攻撃の準備に入るために諏訪子を呼ぶ戻す。すでに体勢を立て直していた諏訪子はすぐに神奈子の元へと戻っていく。

 

「4対2だ。こっちの方が断然有利だな」

「ふん、数の差なんて些細なものさ。一匹は手負いだしね」

 

余裕を持ったマギリの言葉に、あちらも余裕を持って神奈子が答える。

 

「さて、カダンは連れてきたけど、この後はどうすんだ? 」

「後は簡単だ。カダンの能力で攻撃を防ぎつつ、少しずつ森へと後退する。森まで後退したら、一気に逃げる。以上」

「逃げるのは少々気にくわないけどしょうがねえな。余裕でやってやるよ」

「ああ、少なくともさっきまでのよりかはましだ。脚は平気か?」

「ああ、なんとか走れる。頼むぞカダン」

「まったく、中々帰ってこないと思ったら……。早く逃げるよ」

 

三匹とも、作戦を理解したのを確認して戦闘体勢に入る。

 

「何匹来ようがまとめて倒してやるよ! 」

 

先程と同じように、神奈子が柱を投げつけてくる。だけど、今はカダンがいる。投げつけられた柱は、カダンの能力によって異常なまでに強固になっている結界に阻まれ俺達に届くことなく、その恐ろしい威力を失う。

 

「さっきから、あいつ柱に何か纏わせてやがるな」

「妖力なわけないし、霊力か? 」

「なんだ、神力も知らないとはね」

 

マギリと俺の疑問に、神奈子が小馬鹿にしたように答える。

 

「神力だあ? お前、神だったのか? 」

「妙に私を恐れないと思ったら、ただ無知なだけだったとわね。教えてやるよ妖怪、私は八坂神奈子。この地を支配する神さ! 」

「そして、私が洩矢諏訪子! 神奈子と同じ神だよ! 」

「ふん! 神だろうと何だろうと、俺様はやってやるぜ! 」

「神と知ってなおも楯突くか。愚か者め! 」

 

ミツバは相手が何であろうと、やる気を削がれることはないようだ。心強いのか、単に考えていないだけかは分からないが。

「今度こそ仕留める! 」

 

声と共に神奈子は柱を投げつける。当然先程と同じように、カダンの結界に阻まれ、柱はこちらに届かない。

それを見たミツバが得意気に言う。

 

「何度やっても無駄だぜ! カダンの結界を破れるもんか!」

「それはどうかな! 」

 

神奈子が、今度は柱を連続で投げてくる。しかも、それぞれの威力は先程のとまるで変わってないようだ。

 

「何本来ようが……」

「あ、ごめん。この数は無理」

「もうちょっと頑張れよおおお!! 」

 

ミツバの応援もむなしく、結界は連続で襲ってくる衝撃に耐えきれず砕け散った。

ミツバの絶叫が響く。

 

「うおおお!!! 」

「後ろに飛べ! 」

 

とっさの判断で全員が後ろに大きく回避する。しかし、完全に避けきることはできず、柱が地面に激突した衝撃でまとめて吹き飛ばされる。

だが、これで問題ない。後ろに吹き飛ばされる事で、このまま森のなかに逃げ込む。土壇場の閃きが予想以上に上手くいった事に喜ぶが、相手はむしろそれを狙っていたようだ。

 

「もらったー! 」

 

俺の吹き飛ばされる先に、突然諏訪子が地中から飛び出してくる。しかも、その手には今までより一回り大きな鉄の輪が握られている。

このまま吹き飛べば、俺はあの鉄の輪によって切り裂かれるだろう。

いくら妖怪でも体を真っ二つにされれば死んでしまう。

(まずい、何か手は……そうだ! )

 

思いついた考えを実行するため、俺はすぐに妖力を口内に溜める。

 

「てやあああ! 」

 

諏訪子は鉄の輪を投げるために振りかぶる。

 

(間に合えー!! )

 

諏訪子が鉄の輪を投げつけるより早く、俺は前方に向かって妖力弾を打ち出す。それによって、吹き飛ばされている体はその勢いを増す。

 

「!? しまっ」

 

諏訪子は俺の手に気づいたが、もう遅い。

勢いを増した俺の体は、諏訪子を巻き込んで後方へ吹っ飛ぶ。

俺は、そのままの勢いで森の木に激突する。正直、結構な痛みだが、背にいる諏訪子は俺と木に挟まれる状態になっている。俺よりもはるかに大きく負傷したはずだ。

俺は急いで起き上がって叫ぶ。

 

「逃げろおおお!! 」

 

俺の叫びに反応した三匹も、すぐに起き上がって逃げ始める。

 

「逃がすか! 」

 

神奈子が逃がすまいと柱を投げつけてくるが、柱は不規則に生えている木々に邪魔されて俺達の所まで上手く飛んでいかない。

 

「ちっ」

 

諏訪子は気絶しているため放っておけないだろうし、柱は届かないはず。後ろを振り返るが、神奈子が追いかけてくる様子はない。

俺達は一心不乱に逃げ続けた。

 

 

 

「こ、ここまで来れば平気だろう」

「まったく、ついてなかったな」

 

ミツバの安堵の声に、マギリが返す。

カダンは疲れきって倒れ、ぐったりとしている。

俺も一息ついて、脚の負傷を確認する。

間接はあらぬ方向に曲がっていて、先の方は砕け散っている。そのうち治るだろうが、時間がかかりそうだ。だが、あれほどの相手と戦って脚一本ですんだのは幸運と思うべきだろう。

少しの休憩の後ミツバが言った。

 

「さて、そろそろ出発しようぜ」

「早すぎるだろ。いくらなんでも。なんで、お前はそんな元気なんだ」

「はっはっは! 俺様だからな! 」

「答えになってないし、カダンは暫く動けないと思うぞ」

 

マギリの言う通り、カダンは未だにぐったりとしていて、とてもすぐには動けそうにない。

 

「おいおい、だらしないぜ! あのぐらいで疲れるなんて、たるんでるな! 」

「……君と一緒にしないでよ」

 

依然としてぐったりとしたままだが、喋れるくらいにはなったようだ。

全員の無事を喜びつつ、俺は脚の調子を見てみる。

かなり、酷い状態だが俺は妖怪だ。じきに治るだろう。

 

「おーい! もう出発するぞー! 」

 

マギリの呼び声に置いていかれていることに気づく。

とにかく、今、俺は生きている。それで十分だろう。

俺は急ぎ、マギリ達の元へと走った。




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