リボーンの世界に呼ばれてしまいました ~小話~   作:ちびっこ

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少し時間はたっていますが、一応前回の続きです
雲雀さんの誕生日記念という意味も少しだけあります。


第91話

 普段寝起きの悪い優だが、今日は布団の誘惑とは戦わず、すぐに起き上がることが出来た。

 

「おはよう」

 

 声をかけられ、自然と頬が緩まる。

 

「おはようございます。恭弥さんはもう少しゆっくりしててくださいね」

 

 まだ起き上がる時間には早いというのもあるが、今日は声をかけてきた男――雲雀の誕生日でもある。いつもより休んでほしいと優は考えているのだ。

 

「わかった」

「はい。……きゃっ!?」

 

 雲雀の返事を聞き、立ち上がろうとした優だったが、腕をとられ再び寝転ぶ形になる。ただし、先程と違い、布団の中ではなく男の腕の中に居た。

 

「恭弥さんっ」

 

 軽く口を尖らせながら怒る優の姿は全く怖くなく、雲雀の笑みを深めるだけで終わる。しかしいつまでたっても離そうとしなければ、本当に機嫌が悪くなると雲雀は知っている。名残惜しいが、雲雀は手を緩めた。ただし軽く口付けをしてからだが。

 

 真っ赤になった優を見て、雲雀は声を押し殺すように笑った。今まで何度もしたことがあるのに、優は全く慣れないからだ。

 

「もう! からかわないでくださいよ!」

 

 からかってるのではなく、愛おしいと思ってやってるのが、雲雀はそれを口には出さず、手で優の髪をすき、話題をそらす。

 

「伸ばさないの?」

「んー、やっぱり動きにくいんですよね。それに出来るだけ証拠は残したくないですし」

 

 普段からマフィアから狙われてる優は、髪の毛一本でも手掛かりになるので伸ばそうとしない。たとえ髪を残したとしても神の力ですり替えられるので問題はない。が、神と過ごした記憶がない優は雲雀からそのことを説明されても、素直に伸ばせないのだ。

 

「すみません、恭弥さん」

「いいよ。髪を伸ばして優が気疲れしてしまうなら意味がない」

「ありがとうございます」

 

 優はホッとしたように笑った。

 

「では、恭弥さんはゆっくりしてくださいね!」

「慌てる必要はないから」

 

 張り切ってる優に、苦笑いしながら教える。今日は学校の屋上でご飯を食べるため、弁当に気合が入ってそうだ。

 

「はい! 楽しみに待っててくださいね」

「怪我しないでよ」

 

 久しぶりというだけじゃなく、結婚して初めての雲雀の誕生日というのもあるのだろう。いつもと比べて朝から優のテンションが高すぎる。雲雀は少し心配になった。

 

「大丈夫ですよー」

 

 そういったが、起き上がった時に優が少しふらついたのを雲雀は見逃さなかった。

 

「優!」

「……ちょっと空回りしたみたいです」

 

 気まずそうに話す優の額に手を伸ばす。少しだけ、熱が高い。

 

「今日は中止しよう」

「ダメです! 今日は恭弥さんの誕生日なんですよ!」

「僕は気にしない。また体調が戻った時にすればいい」

「でも!」

「優」

 

 低い声で名を呼ばれ、優は押し黙る。もう雲雀は決めてしまった。今から優が何を言っても、雲雀は行かないだろう。

 

「優だってわかってるよね?」

 

 先程と違い、雲雀は優しく声をかける。身体の丈夫な優は、簡単に熱が上がることはない。微熱と言って放置することは出来ない。何か問題が起きていると考えたほうがいい。

 

「……はい。すみません」

「気にしなくていいんだ。僕は優と過ごせれば、それでいいから」

 

 雲雀の言葉に優は完全に大人しくなったのだった。

 

 

 

 

 

 特に何かするわけでもなく、2人で布団の上でゆっくりと過ごしていると、ノックの音が響いた。いつもの癖で起き上がろうとした優だが、雲雀に止められる。熱があるといっても微熱なので、忘れてしまうのだ。

 

 雲雀に任せてる間、優は寝転び、自身の手を見つめる。どうもおかしい。いつもより風がうまく集まらない。優のイメージ通りには風は集まるが、優の身体を守ろうとする力の方が強い。

 

「うーん……」

 

 普通に考えれば、原因は熱だ。今までも無茶した時に、優を守るように風が集まることがあった。

 

 だが、どこか納得出来ない。咄嗟の時や、無意識での行動ならわかる。しかし今はイメージをし、意識ははっきりしている。おかしいとしか思えなかった。

 

「優!」

 

 雲雀の焦るような声が聞こえ、優は顔をあげた。が、雲雀の姿は見えなかった。目に入る光景がいつもと違ったのだ。それもそのはず、優は浮いていたのだ。

 

「……へ?」

 

 一瞬、慌てた優だったが、原因はすぐにわかった。風が優の身体を覆っていたため、自然と身体が浮いただけだ。

 

「恭弥さん……」

 

 説明するよりも前に雲雀が優の手を握る。離れていかないように。

 

「大丈夫ですよ」

 

 その言葉を裏付けるように、ゆっくりと優の身体はベッドの上に戻っていく。それでもまだ心配そうな顔をしている雲雀に向かい、もう1度「大丈夫です」と声をかけた。

 

「お前が心配なのはわかったから、さっさと離れろ。診察できねぇだろ」

 

 第三者の声が聞こえたので、優はドアの方へ顔を向ける。そこには珍しい人物がいた。Drシャマルである。

 

「どうかしたんですか?」

「……腕はいいみたいだからね」

 

 嫌そうに、心底嫌そうに雲雀は優の疑問に答えた。これには優は苦笑いするしかない。もう1度「大丈夫ですから」といい、Drシャマルの診察を受けることになった。

 

 

 Drシャマルは優に質問しながら、手際よく診察が進んでいく。裏社会に住んでるのもあり、雲雀の殺気を完全に無視できるのもサクサク進む要員だ。

 

 全ての診察が終えると、Drシャマルは頭をかきながら言った。

 

「……恐らく、だ。今はまだ絶対とは言えねぇ」

 

 ただの体調不良と思っていた優はDrシャマルの言葉に不安になった。それに気付いたのか、雲雀はそっと優の手を握る。

 

「恭弥さん……。すみません、大丈夫です。恐らくでいいので教えてもらえませんか?」

「あー……その、なんだ。深刻な病気っていうわけじゃねぇから」

 

 ホッと息を吐き、優は肩の力を抜くことが出来た。一方、雲雀はDrシャマルへの威圧を強めた。対照的な2人の反応に苦笑いしながら、Drシャマルは言った。

 

「オレの診断結果は、妊娠の初期症状じゃねーのかってところだ。市販の妊娠検査薬じゃまだ反応しねぇし、もう少し様子見だな。だけど、風が無意識に身体を守ってるところを見ると、可能性は高いと思うぞ。今まで微熱でそんなことはなかったんだろ?」

 

 Drシャマルの問いに2人とも答えることが出来なかった。優はまだしも、雲雀が人前で無防備になるのは滅多にないことである。それでも雲雀は優よりも早く復活した。

 

「優、安静にしてね。勝手に起き上がらないこと。僕の許可なく、外に出ないこと。それから……――」

 

 Drシャマルは笑うしかない。普段と違う雲雀の態度を今日1日で何度見れたことか。

 

「さっさと出て行きなよ。優の身体に障る」

「へぃへぃ」

 

 面白いものを見れたため、雲雀の言葉も軽く流すことが出来た。ただ出て行く前に、声をかける。

 

「優ちゃん」

「え、あ、はい」

「言うのは早いかもしれねぇが、おめでとさん」

「……はい!」

 

 これだけ嬉しそうに返事をすれば、大丈夫だろう。そう判断して、Drシャマルは帰っていったのだった。


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