本編第1話から本格的に物語が始まります。
「…………うっ」
薄暗い通路から微かな呻き声が上がる。
良く清掃の行き届いた通路。その中央に一人の少年が倒れていた。
少年の格好は薄汚れた白の上下で髪もボサボサと場違い感が甚だしい。
少年はゆっくり身体を起こすと、辺りを見回した。
「ここ、は?」
少年には、今いる場所に心当たりが全くなかった。
それどころか、頭がまるで靄でもかかっているかのようにハッキリしない。
少年は、記憶を失っていたのだ。
「ここは何処だ?僕は一体――『ペンデュラム!ペンデュラム!』……ッ!」
自分が何者なのかも分からず、愕然とする少年の耳に、快活そうな少女のものと思われる声が届いた。
弾かれるように声のした方を見ると、そこは通路の出口。目映い光が射し込む場所だった。そして――
『レディース&ジェントルメーン!!』
少女のコールに応えたかのように、今度は活力に満ちた少年の声が木霊する。
その声は、聞くだけで気分を高揚させる。
そして、続く言葉が、少年の鼓動を一際強くした。
『さあさあ皆さんお待ちかね!私、
「デュエル……」
何も覚えていない筈なのに、少年にはその単語に覚えがあるような気がした。
導かれるように、少年は声のする方へ歩いていく。
そして、一瞬光に目を眩まされた後、視界に飛び込んできた光景に、少年は息を飲んだ。
目の前に広がっていたのは不穏な気配漂う夜の街。
その中央の崩壊した塔の前を流れる河を挟んで、二人の少年が向かい合っていた。
一人は、倉庫街をバックに3体の近未来的なモンスターを従え、金の前髪が特徴的で如何にも生意気そうな顔をしている。
対するもう一人は、ブロックでできた蜘蛛を従え、まるでトマトのような髪型とピエロのメイクを思わせるゴーグルが目を引くが、何よりもその楽しそうな表情が印象的だ。
一目見ただけで、後者の方に好印象を抱く。
そのトマト髪の少年は手札から2枚のカードを抜き出した。
「先ずはこの二人の登場です!私のエンタメデュエルに、この二人は欠かせません!」
「私はスケール1の≪星読みの魔術師≫とスケール8の≪時読みの魔術師≫で、ペンデュラムスケールをセッティング!」
2枚のカードが少年の腕から伸びる光の板の両端に置かれる。
すると、少年の両脇に青い光の柱が伸び、その中をセッティンされた二体の魔術師モンスターが昇っていった。
二体の魔術師はある高さまで達すると両手を広げる。
すると今度は、魔術師の間の丁度中央に、美しく輝く振り子のような物が出現した。
それは、トマト髪の少年の首から下がったペンダントと酷似しており、ペンダントもまた輝きを放っている。
驚きを隠せない光景。
だが、本当に驚くのはこれからだった。
「これでレベル2から7のモンスターが同時に召喚可能!揺れろ、魂のペンデュラム!天空に描け、光のアーク!」
「ペンデュラム召喚!現れろ、俺のモンスター達ッ!」
トマト髪の少年は手を天に掲げる。それに導かれるように、振り子の描いた軌道から光の穴が生じ、そこから三色の光がフィールドに舞い降りた。
光はそれぞれ、シルクハットを被ったカエル、ファンシーな見た目の蠍、そして真紅の体躯と二色の眼を持つドラゴンとなった。
一瞬にしてフィールドを席巻したその様子に、見る者全てが目を奪われていた。
当然、記憶喪失の少年もその一人。だが、少年には他の者達にはない感覚も湧き起こっていた。
(……知っている。僕はこの高揚を。これこそ、見る者全てを魅了する最高のエンターエインメント――【デュエルモンスターズ】!)
(数多のモンスターを操る
少年は微かに思い出した記憶を頼りに、右手を腰に回す。
そこにあったのは、ベルトに装着された四角いケース。少年はケースを開くと、中に格納されていたカードの束を取り出した。
手に馴染むデッキの重さ。その感覚で、少年はまた確信する。
「僕も
「さあ、お楽しみはこれからだ!」
フィールドでは、七色の光が溢れ、ペンデュラム召喚によって現れたモンスター達が、少年の号令に従い、舞台を舞うように動き出す。
二色の眼の竜の渦巻く炎を目にしながら、少年は自分の正体、その一端を思い出すのだった――。
主人公の名前は次回明らかになります。
そして、記念すべきファーストデュエルも!
対戦相手は、ARC-Vの主人公、遊矢です!
それでは、また次回お会いしましょう!
お楽しみは、これからだ!