遊戯王ARC-V ~蒼炎の漂流者~   作:GGG@ハーメルン

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第一話投稿します。

時系列はARC-V第4話のラスト、素良と共に主人公が遊矢の前に現れます。

今回、オリ主と遊矢が初デュエルを行いますが、かなり短い内容になります。

では、どうぞ!


スタンダード次元編
TURN01 邂逅~記憶のないデュエリスト~


【遊矢】

「これで終わりだ!≪ブロック・スパイダー≫で、沢渡にダイレクトアタック!」

【沢渡】

「う、うわ、うわああああっ!?」

・SAWATARI LP 0

 

WINNER:YUYA

 

 デュエルの決着が着くと、暗黒の街(ダークタウン)が光となって消えていく。

 質量を持った立体幻影(リアル・ソリッド・ビジョン)によって構成された本物と見紛う仮想の街は、元のデュエルコートへと戻った。

 

【柚子】

「遊矢!」

【タツヤ】【フトシ】【アユ】

「「「遊矢兄ちゃん!!」」」

 

 華々しい逆転勝利を飾った遊矢の元に、4人の少年少女が駆けてくる。

 

【柚子】

「やったわね、遊矢!」

【遊矢】

「柚子!」

 

 先頭を切って駆けつけたのは、遊矢より僅かに背の高い赤い髪の少女、幼馴染みの柊柚子(ひいらぎ ゆず)

 ノースリーブの制服にニーソとの絶対領域が眩しいプリーツスカートと、見る者に快活な美少女という印象を与える。

 柚子は、左手首に光る特徴的なブレスレットを揺らしながら、遊矢とハイタッチを交わした。

 

【タツヤ】

「最高だったよ!遊矢兄ちゃんのペンデュラム召喚!」

【アユ】

「ホント、格好よかった!」

【フトシ】

「スゲー痺れたぜ!」

【遊矢】

「ははっ。ありがとう、皆!」

 

 柚子に少し遅れてやって来た小学生の少年少女達、育ちの良さそうな格好の山城(やましろ)タツヤ、柚子を意識したようなスポーティーな服装の少女鮎川(あゆかわ)アユ、太った身体を機敏に振り動かす原田(はらだ)フトシの三人も口々に遊矢に称賛の声を掛ける。

 自分の騒動に巻き込んでしまったことに申し訳無さを感じつつも、遊矢は素直に感謝の意を示した。

 

【遊矢】

「それじゃあ、帰ろうか。大分遅くなって塾長もきっと心配――「ちょ~~っと待ったぁ!」――えっ?」

 

 皆を促し、自分達の所属するデュエル塾へ向かおうとした時、遊矢の後ろから喧しい叫びが響き渡った。

 振り返ると、そこには柄の悪そうな取り巻き三人に支えられた対戦相手の姿があった。

 沢渡シンゴ。名門デュエルスクールであるLDSに席を置き、父親は遊矢達の住むこの≪舞網市≫の次期市長という、所謂お坊ちゃんであった。

 

【沢渡】

「お前!何勝手に帰ろうとしてんだぁ!?」

【遊矢】

「え、いや、デュエルはもう終わったし……」

【沢渡】

「そんな言い訳なんざ聞いてねぇ!卑怯な手で俺に勝っといていい気になりやがって!早く()()ペンデュラムカードを返しやがれ!」

【柚子】

「はぁ!?何言ってるのよ!遊矢は卑怯なんかじゃないし、ペンデュラムカードだって元々遊矢の物だったのをアンタが無理矢理奪い取ったんでしょ!?」

【アユ】

「そうだ、そうだ!」

【沢渡】

「う・る・せー!!俺様はスペシャル様なんだ!スペシャルな俺にこそ、スペシャルなペンデュラムカードは相応しい!だから、そいつはもう俺の物なんだよ!」

【取り巻き達】

「「「よっ!沢渡さん、サイコー!!」」」

【タツヤ】

「な、なんて勝手なんだ……」

【フトシ】

「痺れるくらい呆れるぜ……」

 

 喚き散らず沢渡の言い分に、小学生のタツヤ達でさえ呆れてしまった。

 既にお分かりのことと思うが、沢渡は親の権威を振りかざす、典型的なバカ息子であり、ジャ○アンとスネ○を掛け合わせたような性格であった。

 

 こういう手合いはまともに相手にするべきではないのだが、街中ならともかく、ここは遊矢達にとっては完全なアウェー。

 逃げようにも、相手の方に利があるのは明らかだった。

 

【沢渡】

「大人しく返す気がないってんなら、力づくで取り返すまでだ!お前達ッ!!」

【取り巻き達】

「「「ウースッ!!」」」

 

 しびれを切らした沢渡の号令に、取り巻き達は指を鳴らすなどして威嚇しながら、遊矢達を取り囲もうとする。

 子供達や柚子を危険な目に遭わせる訳にはいかない。そう思った遊矢は、内心の恐怖を押し殺し、皆の盾となるべく前に出た。

 

【柚子】

「遊矢!?」

【遊矢】

「ここは俺が何とかする!柚子は皆を連れて逃げろっ!」

【タツヤ】【アユ】【フトシ】

「「「遊矢兄ちゃん!!」」」

【柚子】

「そ、そんな!?遊矢を置いていくなんて出来るわけ……」

【沢渡】

「ああもう!ヒーローごっこに付き合う気はねぇ!とっとと奪い取れ!」

【遊矢】

「くっ!」

 

 戸惑ったまま動けない柚子の気配を背中に感じながら、遊矢は拳を振り上げて迫る取り巻き達に捨て身で向かっていこうとした。……その時、

 

【取り巻きA】

「ひっ!?」

【取り巻きB】

「デッ!?」

【取り巻きC】

「ぶっ!?」

 

 視界の端に『青い影』が写った瞬間、取り巻き達は珍妙な声を上げながらその場に崩れ落ちた。

 

【遊矢】

「えっ?」

【???】

「あ~あ。この人達格好悪いだけじゃなく、弱すぎ。ホント、やんなっちゃうよ」

 

 呆気に取られる遊矢の前で、取り巻き達を呆れた眼差しで見下ろしていたのは。水色の髪を後頭部で結わえた可愛らしい風貌の少年だった。

 背の高さから、年齢は遊矢と同じか少し下だろうか?水色の髪の少年は、興味は失せたとばかりに取り巻き達から視線を外し、後ろで口をパクパクさせていた沢渡を見据える。

 自分が視線が移ったことを感じた沢渡は、情けない声を上げながら、その場に尻餅を着いてしまった。

 

【???】

「あれあれ?人に命令しておいて、君は何もしないの?デュエルもそうだったけど、大したことないね、君」

【遊矢】

「え、えーと……」

 

 闖入者に声をかけようか迷っていると、水色の髪の少年は遊矢に向き直り、無邪気な笑みを浮かべた。

 

【???】

「ごめんごめ~ん!大丈夫だと思うけど、怪我無かった?」

【遊矢】

「あ、ああっ。助けてくれてありがとう」

【???】

「お礼なんて良いよ。寧ろ、僕がお礼を言いたいくらいなんだから」

【遊矢】

「え?」

 

 少年の真意を計れずにいた遊矢だったが、問いかけるより先に楽しげな声が答えてくれた。

 

【???】

「さっきのデュエル観てたよ!凄いね、あのペンデュラム召喚って!モンスターが一斉にバーンッて現れて!あんなの、今まで見たことないよ!」

【遊矢】

「そうだったのか。……ところで、君もLDSの生徒?」

 

 遊矢は警戒心を抱きながら訊ねる。

 遊矢のペンデュラム召喚は、先日のストロング石島とのデュエルで、舞網市の全員が知るところとなっている。

 それを、目の前の少年は「見たことがない」と言い、かつ部外者がそうそう入れ込めそうにLDS内部にいることからも、彼が『そっち側』の人間でない可能性はゼロではなかった。

 

 だが、遊矢の心配とは裏腹に、少年は隠す素振りを全く見せずに、首を横に振った。

 

【???】

「ううん、違うよ。本当は入ろうかなって考えてたんだけど、あんまり面白そうな人がいなくてガッカリしてて……。そんな時、君のデュエルを見かけたんだ」

 

 少年の口振りにも態度にも不審なところは見受けられなかったため、遊矢は密かに抱いていた警戒心を解いた。

 そんな遊矢の心情など知る由もない少年は、立て続けに遊矢へ質問を浴びせかける。

 

【???】

「ねぇねぇ!君の名前は!?」

【遊矢】

「ゆ、遊矢。榊遊矢」

【???】

「遊矢か。僕は紫雲院素良(しうんいん そら)!この街には最近来たばかりで知らないことも多いんだ。良かったら色々教えてよ!」

【遊矢】

「えっ?あ、ああ、良いよ」

【素良】

「ホント!?」

【遊矢】

「う、うんっ。ただ、ここだと落ち着いて話も出来ないし、良かったら俺達の通ってるデュエル塾に――」

【素良】

「遊矢もデュエル塾に通ってるの!?決めた!僕も遊矢と同じ塾に入るよ!ペンデュラム召喚のことももっと知りたいし!そうだ!遊矢のことを師匠って呼んでも良いかな!?」

【遊矢】

「し、師匠!?それはちょっと……」

 

 少年――素良の勢いに、遊矢は完全にペースを乱されていた。

 困り果てる遊矢のことなど気にせず、素良はグイグイと手を引いて先を急がせる。

 

【素良】

「ほらほら、師匠!早く行こう――「きゃあっ!?」――ッ!」

【遊矢】

「柚子!?」

 

 素良に引かれるまま、遊矢達がその場を後にしようとした時、不意の悲鳴が響き渡った。

 長年聞き慣れたその声に、遊矢はすぐに反応して柚子の方を向き直る。

 

 その視線の先では、遊矢達の後ろで成り行きを見守っていた筈の柚子が、素良が倒した筈の取り巻きの一人に羽交い締めにされていた。

 

【柚子】

「ゆ、ゆうや……」

【素良】

「あれ?寝てたと思ったのに、もう起きたの?弱いくせにしぶといんだね~」

【取り巻きA】

「ウルセーぞ、チビ!不意討ちなんて嘗めた真似しやがって……!」

 

 髪をオールバックにした取り巻きAの額の一部は、見るからに痛そうな赤に染まっていた。

 素良の一撃で一度は意識を持っていかれたものの、三人の中で最も体格に恵まれていたことが幸いし、いち早く目を覚ましたのだった。

 そして、遊矢と素良が暢気に話をしている隙に、同じく完全に油断していた柚子を捕まえたのである。

 

 素良は嘆息しながらもう一度眠って貰うべく腰を落とすが、取り巻きAはそうはさせじと柚子を捕まえる腕に力を込めた。

 

【柚子】

「い、痛っ」

【取り巻きA】

「動くなよ、チビ!動いたらこの女がどうなっても知らねーぞ!?」

【遊矢】

「やめろ!素良、下がってくれ!」

【素良】

「遊矢?大丈夫だって。こんなへなちょこな奴に動く暇なんて与えないから」

【取り巻きA】

「こ・い・つ~!!」

【柚子】

「ううっ……」

 

 素良の挑発に、取り巻きAは更に柚子を締め上げた。

 赤く紅潮したその顔は、完全に頭に血が昇っており、刺激すればどんな行動に出るか分からない。

 

【沢渡】

「お、おいっ!あんまりやり過ぎるなよ!」

【取り巻きA】

(……ウッセーんだよ。そもそもお前が命令したんだろうが!)

「チッ。オラッ、優しい沢渡さんもそう言ってるんだ!とっとと下がれ!」

【遊矢】

「素良!柚子の安全が最優先だ!頼む、下がってくれ!」

【素良】

「遊矢……ちぇっ、分かったよ」

 

 遊矢の必死の説得に、素良は渋々構えを解いて下がった。

 それを見た取り巻きAは、視線を遊矢へと移す。

 

【取り巻きA】

「おいっ、卑怯者!次はお前だ!ペンデュラムカードをこっちに寄越せ!」

【柚子】

「だ、ダメ、遊矢!こんな奴の言う通りにしないで!」

【取り巻きA】

「ウルセーッ!」

【柚子】

「きゃあっ!?」

【遊矢】

「柚子!」

【タツヤ】【アユ】【フトシ】

「「「柚子(お)姉ちゃん!!」」」

 

 再び柚子を苦しめる取り巻きAに恐怖から押し黙っていたタツヤ達も堪らず声を上げた。

 

【遊矢】

「やめろ、柚子に手を出すな!」

【取り巻きA】

「ならとっとと出すもん出しやがれ!」

【遊矢】

「くっ……」

 

 柚子の安否には替えられない。

 遊矢は苦渋の覚悟で、デッキから自分の象徴たるペンデュラム召喚、それを担う二枚の【魔術師】カードを抜き取った。

 

【取り巻きA】

「こっちに向かって投げろ!そうしたらこいつは解放する!」

【遊矢】

「分かった」

 

 取り巻きAの言う通りに、遊矢はカードを足許へ投げた。

 落ちたカードの絵柄を確認するや、取り巻きAは下卑た笑いを浮かべ、柚子を片手で捕らえたまま、カードへ手を伸ばした。

 

 せっかく取り戻したカード。だが、これでいい。

 柚子の笑顔を犠牲にしてまでペンデュラムに拘るなど遊矢のエンタメデュエリストとしての矜持が許さない。

 

【遊矢】

(柚子を守るためだ。すまない、≪星読み≫、≪時読み≫…………え?)

 

 心の中でカードに最後の別れを告げる遊矢。

 しかし、そんな彼の視界に、またしても『青』が写り込んだ。

 

 正確には、素良の髪より濃い『蒼』色の髪。それは、取り巻きAの後ろに急に現れるや、オールバックを束ねた後頭部の髪を引っ張った。

 

【取り巻きA】

「ぐげっ!?」

【柚子】

「あっ――」

【遊矢】

「柚子ッ!」

 

 前屈みになっていた取り巻きAは一転して海老反りのような体勢となり、悶絶した。

 それにより、柚子を捕まえていた腕が緩み、柚子の身体が僅かに離れたのを見逃さなかった遊矢が柚子を抱き寄せた。

 

【遊矢】

「大丈夫か、柚子!?」

【柚子】

「ゆうや……遊矢!」

 

 普段の勝ち気な様子が嘘のように涙目になりながら、遊矢にすがり付く柚子。

 遊矢はそんな彼女の頭を安心させるように撫でながら、取り巻きA……正確にはその髪を引っ張る新たな闖入者へと視線を戻した。

 

 新たに現れたのは、遊矢達より歳上、高校生くらいに見える蒼髪の少年。

 背の高い痩せ型の体型だが、服の上からでも身体が鍛えられていることが見て取れる。

 服や髪が汚れ、乱れていることが気になったが、そんな疑問を打ち消すように取り巻きAが怒鳴った。

 

【取り巻きA】

「痛ってーんだよ、テメー!さっさと手を放――ひっ!?」

 

 怒りのままに少年を睨み付けた取り巻きAだったが、不意にその顔が引き攣る。遊矢達も、悲鳴こそ上げないものの、背筋に寒気のようなものが走った。

 

 全員の視線の先、そこにあったのは、乱入者の少年の紅い瞳だった。

 宝石のような輝きは本来なら美しいと感じるのであろうが、今はその光の中に一切の感情を感じられず、虚無が恐怖へと変わって取り巻きAの心身を支配していた。

 

【取り巻きA】

「こ、このっ。な、何だってんだよ、お前ェ!」

 

 恐怖のあまり、取り巻きAはがむしゃらにもがいて、少年の手を脱した。そのまま振り向き、少年を殴り飛ばそうと拳を突き出す。

 だがその動きは、無理な体勢であったことを除いてもバラバラで、まるで精彩がない。

 

 それに対し、少年の動きは滑らかだった。

 流れるような動きで取り巻きAの拳を躱すや、その懐に潜り込み、発勁のように掌を打ち込む。

 すると、取り巻きAの身体は重力から解放されたかのように地を離れ、直後、後方に向けて飛んでいった。

 

【沢渡】

「へっ?」

 

 取り巻きAの飛んでいく方向には、不運にも棒立ちとなっていた沢渡の姿があった。

 間の抜けた声を上げた後、その顔が焦りに染まるも時既に遅く、取り巻きAに激突された沢渡は、そのまま床に折り重なるように叩き付けられた。

 

【沢渡】

「ぶへっ!?」

 

 のし掛かる重さに悶絶し、気を失う沢渡。その上の取り巻きAも、白目を剥いて失神していた。

 

 まるでアニメでも見ていたかのような光景に言葉も出ない遊矢達。

 そんな彼等の前で姿勢を直した少年は一つ息を吐くと、遊矢達の方へ向き直り、歩みより始めた。

 

【遊矢】

「――ッ」

 

 遊矢は反射的に、腕の中の柚子を背中に庇う。

 後ろからは柚子の息を飲む気配と、素良の緊迫した空気が伝わってきた。

 

 遊矢自身も警戒心をMAXに、少年を見据える。

 だが少年は、数歩歩んだところで足を止め、ゆっくりと腰を折る。その先にあったのは、遊矢が差し出した二枚のカード。

 少年はそれ等を優しい手付きで拾うと、僅かに付いていた埃を払いながら遊矢の前まで近付き、二枚のカードを差し出してきた。

 

【遊矢】

「えっ?」

【???】

「君の、でしょ?」

【遊矢】

「あ、ああ」

 

 遊矢は恐る恐る、差し出されたカードに手を伸ばした。

 遊矢がカードに触れても、少年は不審な動きを見せず、その手を放す。

 手元に戻ってきた大切なカード。それを確認した遊矢は、おずおずと少年に向かって感謝を述べた。

 

【遊矢】

「あ、ありがとう」

 

 遊矢のお礼に、少年は無感情だった顔に優しい笑みを浮かべると踵を返す。

 その後ろ姿に、遊矢は柚子を助けてくれたことに対してのお礼と、君は誰なのかを訊ねるべく口を開きかけた。

 しかし、言葉が出てくるよりも先に、二、三歩歩いた少年が不意に頭を押さえたかと思うと、足をふらつかせてその場に倒れてしまった。

 

【遊矢】

「お、おいっ!」

 

 慌てて駆け寄り、少年を抱き起こす遊矢。後ろからは柚子や素良達も駆け付ける。

 遊矢は少年の身体を何度か揺すったが反応はなく、まさかと思って胸に耳を当てた。

 

【柚子】

「ゆ、遊矢?」

【遊矢】

「……大丈夫。気を失っているだけみたいだ。……この人は一体……?」

 

 大事には至っていないことに安堵したのも束の間、遊矢は目の前で眠る謎の少年を見つめることしか出来なかった――。

 

………………

…………

……

 

【???】

「…………うっ」

 

 瞼を通して感じる光に、少年は目を覚ました。

 少年がいるのは、先程の広い体育館のような場所ではなく、少々手狭で年季を感じさせるスポーツクラブの一室のような場所であった。

 

【???】

「ここは……?」

(僕は一体――)

【???】

「気が付いたみたいだね?」

 

 自分に向けてかけられた声に、少年は視線を移動させた。

 その先にいたのは、金髪を後ろで束ねた見るからに肝っ玉が据わっていそうな女性。

 切れ長の目は、気の弱い者には怖い印象を与えそうで、姿勢の良さによって強調される身体のラインが、実年齢以上の若々しさを醸し出していた。

 

【???】

「貴女は?」

【洋子】

「私は榊洋子(さかき ようこ)。アンタが助けてくれた榊遊矢の母親さ」

【???】

「さかき、ゆうや……?」

 

 口にした名前に覚えはなかったが、洋子と名乗る女性の話から、倒れる前にカードを渡した少年のことであると直感した。

 

【洋子】

「そういや、まだまともに自己紹介もしてなかったんだっけ?なら、改めて紹介するよ。立てるかい?」

【???】

「あ、はい」

 

 少年は横たえられていたベッドから身体を起こし、立ち上がる。

 ふらつきもなく、目眩もない。その様子を見て大丈夫だと確信した洋子は、部屋のドアを開け、付いてくるよう促した。

 

【洋子】

「悪いね。少し前まで皆でアンタのことを看てたんだけど、もう一人の新顔の素良って子が、うちの息子とデュエルしたいって聞かなくてね。今はデュエル場で勝負の真っ最中さ」

【???】

「デュエル場?ここはデュエル関連の施設なんですか?」

【洋子】

「そうだよ。ここは【遊勝塾】。あたしの夫が始めたアクション・デュエルを教えるデュエル塾さ」

【???】

「アクション、デュエル?」

 

 それは只のデュエルとは違うのか?それを洋子に問おうとした少年だったが、それよりも先に目的地に着いたらしく、洋子は目の前の扉を勢いよく開け放った。

 

【洋子】

「やってるかい?お客さんが目を覚ましたよ!」

 

 開いたドアの先にあったのは、まるで映画館の映写室を思わせる内観だった。

 部屋の奥には何かの機械が並び、その上はガラス張りで、その奥にある広い空間が見渡せるようになっているらしい。

 

 ガラスの前では数人がガラスの奥を覗き込んでいたが、洋子の大声に弾かれたように、視線がこちらへ集まった。

 

【柚子】

「おばさん!」

【修造】

「洋子さん!……と、そっちはうちの愛娘と塾生達を助けてくれた恩人君!目が覚めたのか!」

 

 駆け寄ってきたのは、気を失う前に見た記憶のある制服姿の少女と、見るからに暑苦しそうな印象を受ける中年の男性であった。

 

【洋子】

「ついさっき目が覚めたんだ。気分も良いみたいだし、もう心配は無いと思うよ」

【柚子】

「そっか。良かった……」

 

 自分に安堵の笑みを向けてくれる少女に、少年は話しかけようとしたが、それよりも先に、少女の隣に立っていた男性が、かなりの強さで肩に手を乗せてきた。

 

【修造】

「話は柚子と遊矢から聞かせてもらった!初対面にも関わらずこの子達を守ってくれたんだって!?なんて、男気!気に入ったっ!」

【???】

「痛ッ」

 

 バシンッと背中を叩かれ、少年は思わずよろめいた。

 だが男性は気にせず背中を叩き続ける。見た目に違わぬ体育会系(それもかなり古臭いタイプ)らしく、上下に着込んだ赤いジャージがそれを更に助長していた。

 

【???】

「あ、あの、僕は別に大したことは」

【修造】

「おおっ!加えて謙虚とは正に漢の鑑!益々気に入った!」

【???】

「あぐっ」

【柚子】

「もうお父さん!いい加減にしなさい!困ってるでしょ!?」

 

 今度は勢いよく肩を組み、その拍子に息が詰まった少年の様子を見た少女は、どこからともなく巨大なハリセンを取り出し、男性の頭をスパーンと叩いた。

 

【修造】

「アイタッ!?」

【柚子】

「もうっ!ごめんなさい、大丈夫?」

【???】

「だ、大丈夫大丈夫。……それよりも、今『お父さん』って?」

 

 少年が訊ねると、少女は恥ずかしそうに笑いながら、横で頭を擦る男性を見やる。

 それだけで何となく察しはついたが、洋子がしっかり言葉で説明してくれた。

 

【洋子】

「この人は柊修造(ひいらぎ しゅうぞう)。察しの通り柚子ちゃんの父親で、ついでにアタシの旦那の後輩。そして、この遊勝塾の現塾長さ」

【???】

(……ええ~)

 

 少年は内心絶句する。

 こんなに可愛らしい少女の父親が、目の前の暑苦しい男性であることに、遺伝子の神秘というものを感じざるを得なかった。

 

【修造】

「おほんっ。改めて柊修造だ。よろしくなっ!」

【???】

「は、はぁ。よろしく、お願いします」

 

 咳払いの後に差し出された手を遠慮がちに握り返す。

 すると案の定、修造は少年の手をブンブン振り回し、少年は目が回りそうになったが、またしても柚子のハリセンツッコミが炸裂し、事なきを得た。

 

【洋子】

「そういえば、遊矢と素良とかって子のデュエルはどうなったんだい?」

 

 思い出したように洋子が訊ねると、ガラスの前で奥と室内を交互に見ていた少年少女達が、興奮した様子で答えた。

 

【タツヤ】

「もうすぐ決着だよ!」

【フトシ】

「一度やられた≪オッドアイズ≫を、エクストラデッキからまたペンデュラム召喚!遊矢兄ちゃん、チョー痺れるぜ!」

【アユ】

「お兄ちゃんも一緒に観ようよ!」

 

 三人の中でこちらに一番近かったアユが少年に駆け寄り、その手を引く。そこへハリセンを何処へやらしまった柚子も加わった。

 

【柚子】

「行きましょ?」

【???】

「あ、ああ」

 

 少女二人に手を引かれるまま少年はガラスの前に移動し、下を見下ろすと目を見開いた。

 下は本来、円形ドーム型の室内となのだが、今はお菓子で出来た家が建ち並ぶ、何ともファンタジーな世界が広がっている。

 

 その丁度中央で、二人の少年が相対していた。

 

 水色の髪の少年が従えているのは、ピンク色の熊のぬいぐるみ……から物騒な巨大鋏が飛び出た不気味なモンスター。

 対するトマト髪の少年が操るのは、先刻も見た左右で異なる色をした眼のドラゴンを始めとしたモンスター群であった。

 

 デュエルはタツヤの言った通りクライマックス。

 素良のモンスターの攻撃力を上回った遊矢の≪オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン≫が、まさに最後の攻撃に打って出る場面であった。

 

【遊矢】

「バトルだ!≪オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン≫で、≪デストーイ・シザー・ベアー≫を攻撃!」

「螺旋のストライク・バーストー!!」

 

 遊矢の命令に、≪オッドアイズ≫は赤く渦巻く炎を迸らせる。

 素良のモンスターは為す術なく炎に飲み込まれ、ダメージが素良のライフを削る。その瞬間、≪オッドアイズ≫の効果が発動しダメージが倍加。

 素良はライフを全て焼き尽くされ、フィールドに倒れ伏すのだった。

 

【タツヤ】

「やった!」

【アユ】

「遊矢お兄ちゃんが勝ったー!」

【フトシ】

「シービれる~!」

【修造】

「良いデュエルだった!熱血だぁー!!」

【柚子】

「遊矢……」

 

 遊矢の勝利を称える歓声が木霊し、遊矢はそれに応えるようにお辞儀をする。

 そして、立ち上がった素良と、互いの健闘を称え合うと、何やら言葉を交わし出した。

 その様子をじっと見ていた少年だったが、肩に手を置かれた感触に我に返って振り向く。

 

【洋子】

「デュエルも終わったようだし、皆で下に行こうか。遊矢のこと、改めて紹介したいしね」

【???】

「……はい」

 

 洋子の提案に全員が頷き、ソリッド・ビジョンが解除されたデュエル場に向けて全員で向かうこととなった。

 

 

 

【柚子】

「遊矢!」

 

 デュエル場に入るなり、柚子が遊矢に声をかける。

 振り向いた遊矢は、いつものメンバーに交じって真新しい顔があるのに気付いた。

 

【遊矢】

「君!目が覚めたんだ!」

【???】

「うん。迷惑をかけたみたいでごめんね?」

【遊矢】

「迷惑だなんて、そんな!お礼を言うのはこっちの方だよ!柚子を助けてくれてありがとう!」

【柚子】

「私からも!遅れちゃったけど、本当にありがとう!」

【???】

「お礼なんて良いよ。お互い様なんだから」

 

 助けたことを鼻にかけることのない少年に、遊矢も柚子も好感を抱いた。

 

【遊矢】

「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ。そうだ。自己紹介がまだだっけ」

「俺は榊遊矢!よろしく!」

【柚子】

「柊柚子よ。よろしくね!」

【???】

「遊矢、柚子……。こちらこそよろしく!」

 

 差し出された手を取り、固い握手を交わす三人。その様子に、他のメンバーも次々に自分の名前を口にする。

 遊勝塾メンバー全員の自己紹介が終わったところで、柚子の隣に立ったアユが声をかけた。

 

【アユ】

「ねぇ、お兄ちゃんの名前は?」

【???】

「僕の、名前?」

 

 アユの問いに、少年は一瞬返答に詰まったが、すぐに遊矢と沢渡のデュエルで思い出した自分の名前を口にした。

 

【蒼真】

蒼真(そうま)

【遊矢】

「蒼真?」

 

 繰り返した遊矢に、少年――蒼真は頷いて答えた。

 

【遊矢】

「よろしくな、蒼真!」

 

 改めて自分の名前を口にした遊矢に、蒼真は穏やかな笑顔で応える。

 

 何とも和やかな空気がデュエル場に流れていた。しかし、そこへ緊張感のない、だが決して無視のできない声が差し込まれた。

 

【素良】

「そういえばさぁ~、蒼真は何でLDSにいたの?」

【蒼真】

「え?」

【素良】

「だって、僕みたいに見学に来てたって雰囲気じゃないでしょ?その格好だって、まるで何処かから逃げてきたみたいだし」

【遊矢】

「そ、素良ッ」

【素良】

「ねぇねぇ~?蒼真は何処から来たの~?」

 

 矢継ぎ早にかけられる質問の嵐。遊矢も、蒼真の身なりは気にはなっていたものの、デリケートな部分かもしれないと思い、敢えて触れていなかった。

 

 そんな遊矢の制止を聞き流し、素良は蒼真に迫る。

 蒼真は、質問に答えようと必死に頭を働かせるが、何も思い出すことが出来なかった。

 

【蒼真】

「……わからない」

【遊矢】【素良】

「「えっ?」」

【蒼真】

「分からないんだ。自分の名前以外、全部。何故あそこにいたのか、前はどうしていたのかも」

【柚子】

「それって……」

【素良】

「記憶喪失?」

 

「「「「「「「ええ~!?」」」」」」」

 

 素良の言葉に、蒼真以外の全員が驚愕の声を上げた。

 そこからは素良だけじゃなく、修造や洋子も交えた質問大会となった。

 しかし、名字を含めて蒼真は分からないの一点張りで、最後には皆黙ってしまった。

 

【蒼真】

「すみません」

【修造】

「いやいや!蒼真が謝ることなんてないぞ!……だが、身元も含めてここまで何も分からないとなると……参ったな」

 

 名前しか分からないとなると、警察に保護してもらったとしても手詰まりだろう。そもそも修造には、愛娘の恩人を放り出すような真似をするつもりは毛頭なかった。

 自分の為に親身になってくれる遊勝塾メンバーに感謝と申し訳ない気持ちが渦巻く蒼真。

 何か他に分かることはないか。そう考えを巡らせていると、名前以外のあることを思い出した。

 

【蒼真】

「デッキ……」

【遊矢】

「えっ?」

【蒼真】

「僕のデッキは!?」

 

 蒼真は慌てて腰に手を回す。しかし、そこにあるはずのデッキケースはなく、手が虚しく空を切り、蒼真は青ざめた。

 

【洋子】

「デッキってこれのことかい?」

 

 そんな蒼真に、洋子はポケットの中から特徴的なカラーリングのケースを取り出した。

 ケースを彩る蒼と紅の二色は、蒼真の髪と瞳の色に合致する。

 

 間違いなく、それは蒼真のデッキケースであった。

 

【洋子】

「ごめんね。ベッドに寝かせるときに痛いだろうと思って預かっていたんだ。はいっ」

【蒼真】

「あ、ありがとうございます」

 

 手渡されたデッキを、蒼真は大事そうに受け取った。手に持った瞬間、まるで自分の半身が返って来たような安堵感を覚える。

 

【蒼真】

「……名前の他に覚えているのは、このデッキが僕のものだということだけなんだ」

【修造】

「そうか……。蒼真もきっとデュエリストだったんだな。それなら、過去の大会のデータを調べれば、何か分かるかも知れないぞ!」

【柚子】

「ホント、お父さん!?」

【修造】

「おおっ!そうなれば早速――「そんなことするより良い方法があるよ」――なぬっ?」

 

 先程の部屋に急いで戻ろうとした修造だったが、またしても差し込まれた素良の声に、駆け出す格好のまま立ち止まった。

 首だけを巡らせて素良を見ると、素良は懐から棒付きキャンディーを取り出し、一舐めしてから続きを口にした。

 

【素良】

「今ここでデュエルするだよ。蒼真と遊矢で」

【蒼真】【遊矢】

「「えっ?」」

【タツヤ】【アユ】【フトシ】

「「「デュエル!?」」」

【柚子】

「な、何で!?」

 

 素良の提案は斜め上を行くもので、柚子達は戸惑いを隠せなかった。

 ちなみに、遊矢の呼び方が『師匠』でなくなっているのは、遊矢がデュエルで勝った条件として、師匠呼びをやめるよう頼んだからである。

 

【素良】

「デュエリストなら、カードで語るのが一番だよ。デュエルをする内に何か思い出すことがあるかもしれないじゃん」

【修造】

「な、成る程」

【柚子】

「お父さん!?」

【洋子】

「それで納得しちゃう辺り、やっぱり修造くんもデュエルバカね。どうする?遊矢、蒼真」

【柚子】

「お、おばさんまで」

 

 あっけらかんと言い放った素良に納得した様子の父へ突っ込んだ柚子は、まさか洋子も乗ってくるとは思わず、戸惑ってしまった。

 

【洋子】

「もし蒼真が素良と同じで、この街の外の出身だとしたら、余程のデュエリストでもない限り、すぐに情報なんて分からないよ。それなら、蒼真の実力を知りつつ、親睦を深める意味でも良いと思ったの」

【柚子】

「そ、そういうことなら……。どうする、遊矢?」

 

 柚子が訊ねると、遊矢は少し考えた後、瞳にデュエリスト特有の光を宿らせた。

 

【遊矢】

「俺も蒼真とデュエルしてみたい!やろう、蒼真!」

【蒼真】

「遊矢……。そうだね。僕も君と闘ってみたい」

「この勝負、受けるよ遊矢!」

 

 遊矢の挑戦を蒼真が受けた瞬間、素良を含めた年少組は、無邪気な笑顔ではしゃぎ始める。

 だが、表向きとは裏腹に、素良の内心では黒い笑みが込み上がっていた。

 

【素良】

(利用するようで遊矢には悪いけど……君が何処の誰なのか、このデュエルで見極めさせてもらうよ)

 

 素良の思惑など知る由もない遊矢と蒼真は、デュエルをするべく構えを取る。

 しかし、デュエルディスクを装着した遊矢に対し、蒼真はデュエルディスクを出す素振りがなかった。

 

【遊矢】

「どうしたんだ、蒼真?」

【柚子】

「もしかして、デュエルディスクが無いの?」

 

 柚子の問いに、蒼真は申し訳なさそうに頷いた。

 それを受け、柚子は「そうだ」と何かに思い当たり、踵を返す。

 

【柚子】

「体験者用のデュエルディスクがあるから大丈夫!今、持ってくるね!」

【洋子】

「デュエルディスクもそうだけど、その格好でやるのはちょっとねぇ」

 

 柚子が出ていった後、洋子は蒼真のボロボロの服を見ながら呟いた。

 髪は後でも良いが、せめて服はちゃんとした物でデュエルした方が良い。そんな洋子の言葉に、娘に続くように修造が声を上げた。

 

【修造】

「なら、俺に任せろ!昔使ってた俺のジャージがある!蒼真の体格なら問題なく着れるだろう」

【蒼真】

「ええっ!?い、いや、それはちょっと、申し訳無いというか――「よぉし、善は急げだ!行くぞ、蒼真ぁ!」――って、うわああああ!?」

 

 修造の格好を改めて見た蒼真は、顔を引き攣らせながら遠慮しようとしたが、時既に遅く、修造に手を引かれ、デュエル場を後にしていく。

 残された遊矢達は蒼真の心中を思うと、大いに同情を禁じ得なかった。

 

………………

…………

……

 

 暫くして、修造と共に蒼真が戻ってきた。

 その格好は案の定、修造と同じド派手な赤のジャージ姿。

 思わず苦笑いを浮かべる遊矢達に対し、既に蒼真は諦めたのか、小さく溜め息を吐くに留まった。

 

【柚子】

「ごめんね、蒼真」

【蒼真】

「いや、服を貸してもらえたんだ。感謝しないと失礼だよ」

【柚子】

「ありがとう。優しいのね。はいっ、デュエルディスク」

 

 柚子が差し出したのは、蒼真の髪の色と良く似た深い青色のデュエルディスクだった。

 体験者用と言うからには、不特定多数の者に触られていると思われたが、デュエルは埃一つ付いていない新品の状態であった。

 

【柚子】

「それね。遊矢が初めてペンデュラム召喚を披露した時、『これで入塾希望者が大勢来るぞ!』って張り切ったお父さんが、新しく発注した物なの。……でも、結局新入生はタツヤくんだけで、もう自分のディスクを持っていたから」

【蒼真】

(陽の目を見ることなく、保管されていた、と。……何だろう?急に目頭が熱くなってきた)

 

 遊勝塾のあんまりな現状に、涙が込み上げてくる。

 説明の間、柚子も苦笑いであったが、それはすぐに真っ直ぐな笑顔へと変わった。

 

【柚子】

「でも、取っておいて良かったわ。そのデュエルディスク、蒼真に取っても似合う!道具だって、相応しい人に使われたいって思っている筈だもの!」

【蒼真】

「……そうだね。ありがとう、柚子!大事に使わせてもらうよ!」

 

 蒼真はデュエルディスクを左腕に装着すると、デッキをセットした。

 ディスクのディスプレイ画面には、『DUEL MODE』の文字とライフポイント4000が表示され、続いて側面からは、これまた蒼真の瞳の色と同じ紅色の光が出力される。

 

 その光景に、蒼真は自分の中に眠るデュエリストの血が騒ぐのを感じながら、対戦相手の遊矢が待つデュエルフィールドへと上がった。

 

【遊矢】

「準備はできたみたいだな」

【蒼真】

「ああっ。待たせて悪かったね」

【遊矢】

「全然!寧ろワクワクが大きくなったよ!さあ、最高のデュエルを始めようか!」

 

 遊矢の目に闘志が宿ったのを見た蒼真は、自分もありったけの闘志を漲らせ、デッキから手札を引こうとする。

 その時、先程の観戦スペースに戻っていた修造から、フィールドの二人へと声が掛けられた。

 

【修造】

『二人とも!アクション・フィールドはどうする?』

【蒼真】

「アクション・フィールド?」

 

 聞いたことのない単語に首を傾げると、正面の遊矢が事情を察してくれた。

 

【遊矢】

「そっか。蒼真はアクション・デュエルもどんなのか分からないよな?」

【蒼真】

「アクション・デュエル?それは普通のデュエルとは違うのかい?」

【遊矢】

「もっちろん!アクション・デュエルは最高のエンターテインメント!観る人全てを笑顔にする究極のデュエルなんだ!」

 

 究極のデュエル――。

 その言葉だけで、蒼真は気分が更に高揚する感じがした。

 

【遊矢】

「せっかくだから、アクション・デュエルがどんなものかを説明しながらデュエルしよう!塾長!フィールドは取り敢えず、≪アスレチック・サーカス≫で!」

【修造】

『成る程。遊矢の最も得意なフィールドならコーチにはもってこいだな。よし、分かった!』

『アクション・フィールド・オン!≪アスレチック・サーカス≫、発動!』

 

 修造の高らかな叫びが木霊すると、場内に設置された大型の機械が、プラネタリウムを上映するかのように光を溢れさせる。

 やがてその光は確かなシルエットを帯び、瞬く間にフィールドをサーカスのような様相に変貌させた。

 

【蒼真】

「デュエルが始まる前からフィールド魔法が?」

 

 頭に残るデュエルの知識とは逸脱した状況に戸惑いを隠せない蒼真。

 そんな彼に、近くにあった曲芸用の大玉に乗った遊矢が答える。

 

【遊矢】

「これがアクション・フィールド。フィールド魔法とは全く違うアクション・デュエル専用の舞台!何がどう違うかは、デュエルをしてのお楽しみ!」

「さぁ、お楽しみはこれからだ!」

 

 決め台詞が飛び出たところでいよいよデュエル――と思いきや、そうは問屋が卸さない。

 遊矢の声に弾かれたように、ギャラリーの柚子達が楽しげに声を上げ始めた。

 

【柚子】

『戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!』

【素良】

『モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い!』

【タツヤ】

『フィールド内を駆け巡る!』

【アユ】

『見よ!これぞ、デュエルの!』

【フトシ】

『最強進化系!』

【柚子】【素良】【タツヤ】【アユ】【フトシ】

『『『『『アクショ~ン……』』』』』

【遊矢】

「DUEL!!」

【蒼真】

「でゅ、デュエ……え?えっ?」

 

 どうやら今のが、アクション・デュエルにおけるお決まりの前口上らしい。

 全く付いていけない蒼真を残し、デュエルの幕が切って落とされた。

 

・YUYA:LP4000

    vs

・SOUMA:LP4000

 

 未だに色々飲み込めていない蒼真に追い打ちをかけるように、フィールド中央上空から花火のようにカードのような光が弾けた。

 

【遊矢】

「説明の為に先攻は俺がもらう!……一応確認だけど、先攻は最初のターン、ドローできない。これは良い?」

 

 蒼真は頷いて答える。基本的なルールについては問題ない。

 それを見た遊矢はアクション・デュエルについての説明のみを行うことにした。

 

【遊矢】

「まず、このアクション・フィールドは質量を持つ立体幻影(リアル・ソリッド・ビジョン)によって構成されている。だから、こうやってフィールドに現れた物に乗ることもできるんだ」

【蒼真】

「成る程……。限り無く現実に近いソリッド・ビジョンってことか」

【遊矢】

「まあ、そんなとこ。そして、リアルなのはフィールドだけじゃない!俺は手札から≪EM(エンタメイト)ディスカバー・ヒッポ≫を召喚!」

 

 遊矢がデュエルディスクにカードを置くと、彼の目の前にシルクハットを被ったピンク色のカバが現れた。

 

・EMディスカバー・ヒッポ(ATK800/☆3/地/獣族)

 

 ディスカバー・ヒッポはシルクハットを取って挨拶をする。

 EM(エンタメイト)――その名の通り、エンターテイナー相応しいモンスターを擁する、遊矢にピッタリのカテゴリーであった。

 

【遊矢】

「行くぞ、ヒッポ!」

 

 遊矢の号令に、ディスカバー・ヒッポはカバらしく四足歩行となると、飛び乗った遊矢を乗せて、フィールドを駆け回り始めた。

 

【蒼真】

「モンスターも質量を持つのか!」

【遊矢】

「その通り!モンスターと共に地を蹴り、宙を舞う!これがアクション・デュエルの醍醐味の一つ!……そして、もう一つの醍醐味が、これだ!」

 

 ヒッポがトランポリンを使って大きく跳躍すると、遊矢は目の前のサーカステントの主柱に手を伸ばし、表面に付いていた何かを取った。

 それは、一見するとデュエルモンスターズのカードだが、裏面には大きく『A』の文字が刻まれている。

 

【蒼真】

「それは、デュエル開始と同時にフィールドへ散った……それが二つ目の醍醐味?」

【遊矢】

「ご明察!これはアクションカード!アクション・フィールドは、フィールド魔法と違って特殊な効果は無いんだけど、デュエル開始と同時にこのアクション・カードがバラ撒かせるんだ」

「アクションカードは一度に一枚しか持てないんだけど、相手ターンでも手札から発動できる。その効果はアクション・フィールド毎に違っていて、これを使いこなすことがアクション・デュエルを制することに繋がるんだ」

 

 何が出るかは拾ってみないと分からないサプライズカード。

 運の要素は強いが、物によっては一枚で戦況を一変させる代物であることを、蒼真はすぐに理解した。

 

【蒼真】

「事前に組んだ戦術に組み込むことで、デュエルに更に幅が出る、か。面白いな、アクション・デュエル!」

【遊矢】

「気に入ってもらえて良かった!俺のターンはこれで終了!さぁ、次は蒼真の番だ!」

 

 遊矢はディスカバー・ヒッポを召喚し、手に入れたアクションカードを使わないままターンを終えた。

 元々このターンは蒼真の為の説明フェイズであったため、敢えてあっさり終わらせた部分も大きいのだろう。

 

【蒼真】

「なら、行くよ!僕のターン!」

 

ターン2

 

 後攻プレイヤーである蒼真はデッキからカードを1枚引く。そして、そのままメインフェイズに移ってカードをプレイ!……するはずだったのだが、蒼真は自分の手札を見て固まってしまった。

 

 何故ならば、蒼真の手にある6枚のカード。その内の2枚が、絵柄もテキストも分からない状態だったのだ。

 残りの4枚の中にも、一部テキストが読み取れないものがある。

 せっかく手札にあっても、正体が分からないのであれば出しようがなかった。

 

【遊矢】

「蒼真?どうかしたのか?」

【蒼真】

「あ、いや……」

 

 蒼真は迷った。

 今の状況を素直に打ち明けるか否か。だが、言ってしまえば、恐らくデュエルはここで終了となってしまうだろう。

 そんな形で終わるのは、絶対に嫌だった。

 

【蒼真】

(……こうなったら、分かるカードだけで闘うしかない!)

「僕はこのカードを召喚する!来いっ、≪蒼炎響狼(ブルー・フレイム・ウルフ)≫!」

 

 意を決して、蒼真は最初のカードを切った。

 目の前には召喚の光と共に、青い炎が燃え上がる。その中を突っ切り、青灰色の毛並みの狼が現れた。

 

・蒼炎響狼(ATK1800/☆4/炎/獣族)

 

【タツヤ】

『あれが蒼真兄ちゃんのモンスター!?』

【フトシ】

『あんなの見たことないぜ!』

【アユ】

『でも格好良いし、きれい!』

 

 現れた≪蒼炎響狼≫にただただ驚くタツヤとフトシに対して、アユはその姿にこの上ない賛辞を送った。

 ≪蒼炎響狼≫は、パット見た感じは大型の狼といった感じだが、ただ一点が現実の狼と大きく異なっている。

 その特徴こそ、頭部から生えた(たてがみ)が、熱く燃える蒼い炎であることだった。

 

【素良】

『【蒼炎(ブルー・フレイム)】。蒼い炎か……』

【洋子】

『何が来るかと思えば、予想もしないのが出てきたね』

【柚子】

『お父さん、あのモンスターのこと知ってる?』

【修造】

『い、いや、俺も初めて見るモンスターだ』

 

 素良を含め、ギャラリーの中にこのモンスターを知る者はいなかった。

 ≪蒼炎響狼≫は、相手であるヒッポと遊矢を見付けるや、牙を剥き出して唸る。

 【EM】にも、非常に似たモンスターが存在するが、ヒッポは怯えてその場で止まってしまい、遊矢も呆然していた。

 

【遊矢】

「それが蒼真のモンスター……」

【蒼真】

「ああっ!遊矢がヒッポと共にフィールドを駆けるなら、僕はこいつと共に舞う!でもその前に、≪蒼炎響狼≫の効果を発動!」

「このカードの召喚・特殊召喚に成功した場合、デッキから同名モンスターを手札に加えることが出来る!僕はデッキから残りの2体を手札に加える!」

【素良】

『へぇ、召喚と同時に仲間を呼ぶことが出来るんだ』

 

 素良が感心する中、蒼き狼が天に向かって遠吠えを上げると、デッキから2枚のカードが抜き出され、蒼真の手札に加わった。

 

【蒼真】

「せっかく来てくれたけど、このターンはもう召喚できない。ならここはバトルだ!≪蒼炎響狼≫で、≪EMディスカバー・ヒッポ≫を攻撃!」

 

 主の命令に、蒼き狼は凄い速さでフィールドを疾走し、ヒッポに向かって飛び掛かった。

 遊矢の場に伏せ(リバース)カードは無い。ヒッポは迫る狼の光る牙にただただ慌てるしかなかったが――

 

【遊矢】

「そうはさせない!アクション・マジック、≪回避≫を発動!相手モンスターからの攻撃を無効にする!ローリング・ヒッポ!」

【蒼真】

「なっ!?」

 

 今度は蒼真が驚かされる番だった。

 ≪蒼炎響狼≫の牙がヒッポを捉えようとした刹那、ヒッポは遊矢を乗せたまま勢い良くジャンプしながら回転し、攻撃を回避したのだ。

 

【蒼真】

「攻撃無効化のアクションカードだったのか」

【遊矢】

「へへっ。そう簡単にはいかないさ!」

【蒼真】

「みたいだね。なら僕はカードを一枚伏せてターンエンド!」

【遊矢】

「俺のターン!」

 

ターン3

 

・YUYA LP:4000

手札:5

モンスター:EMディスカバー・ヒッポ

魔法・罠:なし

 

・SOUMA LP:4000

手札:6

モンスター:蒼炎響狼(ブルー・フレイム・ウルフ)

魔法・罠:セット×1

 

【遊矢】

「……良し!」

 

 ドローしたカードを見た瞬間、遊矢の空気が変わった。

 何か只ならない存在が来る。蒼真のデュエリストとしての本能が警鐘を打ち鳴らしていた。

 

【遊矢】

「今度は俺から攻めさせてもらう!俺は、≪EMディスカバー・ヒッポ≫をリリース!この瞬間、ヒッポの効果が発動!このカードは、レベル7以上のモンスターをアドバンス召喚する時、1体で2体分として扱われる!」

「現れろ!世にも珍しい二色(ふたいろ)(まなこ)の竜!≪オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン≫!!」

 

 ヒッポが消えると、その場所に鮮やかな光が溢れる。その中から、真紅の身体に雄々しき角、そしてその名の由来にもなっている左右で異なる色の瞳をしたドラゴンが現れた。

 

・オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン(ATK2500/☆7/闇/ドラゴン族/ペンデュラム)

 

【蒼真】

「このドラゴンは!」

【タツヤ】

『出た!』

【フトシ】

『オッドアイズ!』

【アユ】

『遊矢お兄ちゃんのエースモンスター!』

 

 現れた神秘的な雰囲気のドラゴンには蒼真も見覚えがある。

 沢渡との一戦、そして先程の素良とのデュエルでも遊矢に勝利をもたらした、現時点における遊矢のデッキ最強のモンスターだ。

 

【蒼真】

「攻撃力2500……。このままじゃ太刀打ちできない。それなら!」

 

 蒼真はオッドアイズに向かって威嚇する≪蒼炎響狼≫を呼び、その背中に飛び乗った。

 蒼き狼は、ヒッポ以上のスピードでフィールドを駆け、しなやかな動きで宙に浮くアスレチックの上を跳んでいく。

 

【遊矢】

「アクションカードを狙う気か!オッドアイズ、俺達も行くぞ!」

 

 遊矢は高くジャンプし、オッドアイズの頭部の角の間に飛び乗る。それを確認したオッドアイズは、地響きを立てて走り始めた。

 

【蒼真】

「アクションカード、確かこの辺に――「逃がさないぞ、蒼真!」――っ!?もう来た!?」

 

 散らばったアクションカードの何枚かが落ちたと思われる場所を覚えていた蒼真は、フィールドを駆けながら辺りを見渡す。

 だが、その後ろからは遊矢が追い縋ってきていた。

 大型モンスターのオッドアイズの機動力は≪蒼炎響狼≫には劣るが、このフィールドを知り尽くしている遊矢は、どのルートを選べば最短距離かを身体で把握していた。

 

【遊矢】

「アクションカードは拾わせない!バトルだ!≪オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン≫で、≪蒼炎響狼≫を攻撃!」

【蒼真】

「くっ!」

 

 遊矢を乗せたままオッドアイズがこちらに跳躍してくるのを見た蒼真は焦った。

 その時、前方に何か光る物が落ちているのを見付ける。

 蒼真はその正体を悟ると、身を乗り出してそれを手に取り、デュエルディスクにセットした。

 

【蒼真】

「アクション・マジック≪ハイダイブ≫!このカードは、モンスター1体の攻撃力をターン終了時まで1000ポイントアップさせる!」

【柚子】

『初めてのアクション・デュエルで、アクションカードを!』

【修造】

『やるな、蒼真!』

 

 柚子と修造の親子が感心する中、≪蒼炎響狼≫はオッドアイズの攻撃を躱すと、近くにあった転落防止用のネットを使って高くジャンプした。

 

・蒼炎響狼(ATK1800→2800)

 

【蒼真】

「これでオッドアイズの攻撃力を上回った!返り討ちにさせてもらうよ、遊矢!」

【タツヤ】【アユ】【フトシ】

『『『遊矢(お)兄ちゃん!』』』

【遊矢】

「くっ!そんな簡単に、やられるかぁ!」

 

 一転して不利となった遊矢に向かって、子供達の焦った声が届く。

 遊矢も、ここでただやられてはエンタメデュエリストの名が廃ると、一瞬で周りに目を走らせ、オッドアイズの頭から飛び出した。

 

 遊矢は、宙に浮いたマットの上に前転しながら着地する。その手には、あの一瞬で見付けたアクションカードが握られていた。

 

【遊矢】

「俺もアクション・マジック≪ハイダイブ≫を発動!オッドアイズの攻撃力をターン終了時まで1000アップさせる!これでまた逆転だぁ!」

 

・オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン(ATK2500→3500)

 

 ≪蒼炎響狼≫の急降下しながらの一撃を、オッドアイズも大ジャンプで躱した。

 そして、眼下で動きを止めた蒼き獣を二色の視界に収める。

 

【遊矢】

「オッドアイズ!今度こそ攻撃だ!その二色の眼で捉えた全てを焼き払え!」

「螺旋のストライク・バースト!!」

 

 オッドアイズは空中にいる状態で、渦巻く赤き炎を放った。

 それを見た蒼真は、先程遊矢がしたように一瞬で辺りを見渡し、アクションカードを見付けてそちらへ跳ぶ。

 だがその一瞬後、オッドアイズの攻撃が炸裂した。

 

【蒼真】

「うわああああっ!?」

・SOUMA LP:4000→3300

 

 攻撃の余波に煽られ、蒼真は取ろうとしたアクションカード共々宙を舞う。

 アクションカードはそのまま何処かへ飛んでいき、蒼真は先程ジャンプに使ったネットの上に落ちた。

 

【遊矢】

「大丈夫か、蒼真!?」

【蒼真】

「だ、大丈夫!やっぱりダメージの衝撃もリアルに近いんだね」

【遊矢】

「そう。でも、だからこそスリリングで面白いんだ!」

【蒼真】

「そうだね……。今回はしてやられたけど、次のターンですぐに逆転するよ、遊矢!」

【遊矢】

「そうこなくっちゃ!俺はカードを1枚伏せて、ターンエンド!この瞬間、オッドアイズの攻撃力は元に戻る」

・オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン(ATK3500→2500)

 

【蒼真】

「僕のターン!」

 

ターン4

 

・YUYA LP:4000

手札:3

モンスター:オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン

魔法・罠:セット×1

 

・SOUMA LP:3300

手札:7

モンスター:なし

魔法・罠:セット×1

 

【蒼真】

「この手札なら……行くよ、遊矢!僕は手札から≪蒼炎白虎(ブルー・フレイム・ホワイト・タイガー)≫を特殊召喚!」

 

 蒼真のフィールドにまたしても青い炎が燃える。

 現れたのは、四肢と肩回りに蒼い炎を纏う白い虎型モンスター。

 

・蒼炎白虎(ATK2000/☆6/炎/獣族)

 

【遊矢】

「上級モンスターをリリースなしで!?」

【蒼真】

「≪蒼炎白虎≫は、自分フィールドにモンスターがおらず、相手フィールドにのみモンスターがいる場合、手札から特殊召喚できるんだ」

 

 驚く遊矢だったが、蒼真の説明ですぐに納得した。デュエルモンスターズには、このような条件で召喚できるモンスターが少なからず存在する。

 

 現れた孤高の白虎は、相対する神秘の竜に牙を剥き出しに威嚇していた。

 

【遊矢】

「やるな、蒼真。でも、攻撃力はオッドアイズの方が上だ!」

【蒼真】

「慌てない、慌てない。遊矢の言葉を借りるなら、お楽しみはこれから!ってね」

「続けて僕は魔法カード、≪死者蘇生≫を発動!僕の墓地からモンスター1体を復活させる!戻ってこい、≪蒼炎響狼≫!」

 

・蒼炎響狼(ATK1800/☆4)

 

 蒼真のフィールドに再び蒼き狼が現れる。だが、蒼真の手はこれで終わらない。

 

【蒼真】

「この瞬間、僕は伏せていた(トラップ)を発動!≪蒼炎連鎖≫!このカードは、自分フィールドに【蒼炎】モンスターが特殊召喚された時に発動できる!」

「その効果により、特殊召喚されたモンスターと同じ種族・レベルを持つ手札の【蒼炎】モンスターを、効果を無効にして2体まで特殊召喚出来る!僕が呼ぶのは、2体の≪蒼炎響狼≫!」

 

・蒼炎響狼(ATK1800/☆4/炎/獣族)

・蒼炎響狼(ATK1800/☆4/炎/獣族)

 

【柚子】

『一気にモンスターが4体!?』

【素良】

『前のターンで手札に加えたのを上手く活かしたね。やるじゃん』

【修造】

『だがモンスターを増やしても、遊矢のオッドアイズの攻撃力には敵わない。どうする、蒼真?』

【蒼真】

「確かに一対一では僕のモンスター達はオッドアイズに勝てない。でもね、例え一つ一つの炎は小さくても、合わされば全てを焼き尽くす業火となる!」

「それを証明するカードがこれだ!魔法カード≪集いし蒼炎≫!」

 

 蒼真が新たな魔法カードを発動した瞬間、蒼真のモンスター達が纏う炎の勢いが強くなった。

 特に、≪蒼炎白虎≫の炎は、一際激しく燃え上がる。

 

【遊矢】

「これは!?」

【蒼真】

「これが≪集いし蒼炎≫の効果!このカードは、自分フィールド上に表側表示の【蒼炎】モンスターが3体以上存在する時、その内の1体を対象に発動できる!今回はホワイト・タイガーを対象に発動!」

「そしてターン終了時まで、対象モンスターの攻撃力を【蒼炎】モンスターの数×500ポイントアップさせる!」

【遊矢】

「なんだって!?」

【タツヤ】

『蒼真兄ちゃんの場にはモンスターが4体。しかも、全部【蒼炎】モンスター』

【フトシ】

『てことは、4体×500だから……』

【アユ】

『2000ポイントもアップ!?』

 

・蒼炎白虎(ATK2000→4000)

 

 三頭の蒼き狼達は、その名の通り遠吠えを響かせ合い、孤高の白虎も猛き咆哮で応えた。

 

【遊矢】

「凄い……。まるで全てのモンスターが一体となっているみたいだ」

【蒼真】

「驚くのはまだ早いな!≪集いし蒼炎≫の効果はまだ続く!このターン、対象モンスター以外の攻撃が出来なくなる代わりに、対象モンスターは他の【蒼炎】モンスターの数だけ攻撃回数を増やす!」

【柚子】

『つまり、4回も攻撃できるってこと!?』

【素良】

『あははっ、凄い凄い!想像以上だよ、蒼真!』

【洋子】

『大人しそうなのに、デュエルは過激……ホント、素良とは違った意味で面白い子だね』

【修造】

『うおぉぉぉ!熱い、熱いぞ、蒼真!熱・血だぁ~!』

 

 自身も炎属性を主体とする修造は、他のメンバー達よりも興奮した様子で叫んでいた。

 その声援に後押しされたように蒼真も『熱さ』を増し、怒濤の反撃に打って出る。

 

【蒼真】

「行くよ、遊矢!≪蒼炎白虎≫で≪オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン≫を攻撃!」

【遊矢】

「くっ!」

 

 地響きを立てて疾走するホワイト・タイガーの姿に、遊矢はアクションカードを求めて辺りを見回す。

 そして、後方のジャンプすれば届くくらいの高さのポールに、求めるカードが引っ掛かっているのを見付けた。

 

【遊矢】

「あった!」

 

 遊矢は迷うことなくアクションカードをゲットし、オッドアイズを守るべく発動した。

 

【遊矢】

「アクション・マジック≪奇跡≫!モンスターのバトルでの破壊を一度だけ無効にして、ダメージも半分にする!」

 

 直後、≪蒼炎白虎≫の炎を纏った前足がオッドアイズを打ち据えた。

 オッドアイズは激しい衝撃に吹き飛ばされながらも、何とか踏み留まる。

・YUYA LP:4000→3250

 

【柚子】

『やった!何とか防いだわ!』

【素良】

『でも、≪奇跡≫で防げる破壊は一度だけ。蒼真にはまだ3回も攻撃が残ってる。その内一発でもダイレクトアタックを喰らったら遊矢の負けだよ』

【蒼真】

「その通り!奇跡は二度起きない!もう一度≪蒼炎白虎≫で攻撃!今度こそ、オッドアイズを破壊だ!」

 

 再び激突する竜虎。

 だが、流石の遊矢も連続でアクションカードは見付けられず、オッドアイズは鋭い爪牙に粉砕された。

 

【遊矢】

「うわあああっ!?」

・YUYA LP:3250→1750

 

【柚子】

『遊矢!』

【タツヤ】【アユ】【フトシ】

『『『遊矢(お)兄ちゃんっ!』』』

【素良】

(これで遊矢のモンスターはゼロ。対して蒼真にはあと二回も攻撃が残っている。……でも、仮にも僕を負かしたなら、このくらいのピンチは切り抜けられるはず。僕を失望させないでよ?遊矢!)

 

 素良の内心の激励が届いたかのように、遊矢は倒れながらも手を止めなかった。

 

【遊矢】

「ぐっ……。ペンデュラムモンスターであるオッドアイズは、破壊されると墓地に行く代わりにエクストラデッキへ行く!」

【蒼真】

「エクストラデッキへ!?……でも、倒したことには変わりない!これで終わりだ!≪蒼炎白虎≫で遊矢にダイレクトアタック!」

【遊矢】

「まだだ!(トラップ)カード発動!永続(トラップ)、≪EM(エンタメイト)ピンチヘルパー≫!」

「ダイレクトアタックを受ける時、1ターンに1度だけその攻撃を無効にして、デッキから【EM(エンタメイト)】1体を効果を無効にして特殊召喚する!来てくれ、≪EM(エンタメイト)シルバー・クロウ≫!」

 

 遊矢を襲おうとした≪蒼炎白虎≫の爪が見えない力に跳ね返される。

 その後、遊矢の場には、蒼真の場の狼達ととても良く似たモンスターが現れた。

 

・EMシルバー・クロウ(DEF700/☆4/闇/獣族/ペンデュラム)

 

【蒼真】

「躱された!?」

【アユ】

『遊矢お兄ちゃん、凄ーい!』

【タツヤ】

『≪蒼炎白虎≫にはあと一回攻撃が残ってるけど、遊矢兄ちゃんのフィールドには守備表示のシルバー・クロウがいる!』

【素良】

『守備モンスターを倒してもダメージは与えられないし、蒼真の他のモンスターはこのターン攻撃できない。……遊矢、やっぱり君は面白いよ!』

【フトシ】

『し~びれる~!』

【柚子】

『遊矢……!』

【遊矢】

「さあ!残された攻撃はあと一回!どうする、蒼真!?」

【蒼真】

「くっ……」

 

 蒼真は迷った。≪蒼炎白虎≫なら守備力700のシルバー・クロウなど楽に倒せる。

 だが、シルバー・クロウもペンデュラムモンスターの為、倒せばエクストラデッキへ行ってしまう。

 遊矢の十八番であるペンデュラム召喚が、エクストラデッキへ行ったモンスターも召喚できる場合、次のターンには万全の状態で復活することになる。

 でも、第3ターンまでで遊矢はペンデュラム召喚を仕掛けてこなかった。つまり、遊矢の手札に、ペンデュラムに必要なカードがない可能性は高い。

 ここでシルバー・クロウを残しておけば、次のターンで同じ攻撃力の≪蒼炎響狼≫1体を道連れに退場、なんてことも考えられなくはなかった。

 

 さっきまでとは一変、流れは遊矢へ戻ってしまった。このまま流れを取り戻せなければ蒼真は負ける。

 蒼真は迷った末、最後まで強気を貫くことにした。

 

【蒼真】

「ここは引かない!≪蒼炎白虎≫!4度目のバトルだ!」

 

 シルバー・クロウは瞬く間に倒させる。

 遊矢は自分を守ってくれた仲間に感謝しながら、カードをエクストラデッキへ送った。

 

【蒼真】

「ターンエンド。この瞬間、≪蒼炎白虎≫の攻撃力は元に戻る」

 

・蒼炎白虎(ATK4000→2000)

 

【遊矢】

「こんなに魅せてくれるなんて……凄いよ、蒼真!」

「俺も負けていられない!最高のエンタメを見せてやる!俺のターンッ!ドロォー!!」

 

 遊矢は全身を使ってカードを引く。その弧を描く軌跡は、まるで空にかかる虹のように輝いて見えた。

 

ターン5

 

・YUYA LP:1750

手札:4

モンスター:なし

魔法・罠:EM(エンタメイト)ピンチヘルパー

 

・SOUMA LP:3300

手札:2

モンスター:蒼炎白虎(ブルー・フレイム・ホワイト・タイガー)

      蒼炎響狼(ブルー・フレイム・ウルフ)

      蒼炎響狼(ブルー・フレイム・ウルフ)※効果無効

      蒼炎響狼(ブルー・フレイム・ウルフ)※効果無効

魔法・罠:なし

 

【遊矢】

「来た!」

 

 ドローカードを見た瞬間、遊矢は目を輝かせた。そして、ギャラリーも、対戦相手の蒼真でさえその様子に直感する。

 

 遊矢による、最高のクライマックス・ショーが始まることを――。

 

【遊矢】

「レディース&ジェントルメーン!!」

 

 何処からともなくドラムロールが響いたかと思うと、サーカスの照明全てが遊矢に向けられ、遊矢は存在をアピールするように両手を挙げた。

 

【遊矢】

「楽しい時間はすぐに過ぎるもの。新しい友人との楽しくも熱い一時も、遂に幕を下ろす時が来たようです!」

「それでも、この想いを常に胸から消さないため、最後は私の全力でお応え致しましょう!」

 

 遊矢は一度言葉を切ると、手札から2枚のカードを抜き取った。

 見なくても分かる。その2枚は、今の遊矢を象徴するカード!

 

【遊矢】

「私は、スケール1の≪星読みの魔術師≫とスケール8の≪時読みの魔術師≫で、ペンデュラムスケールをセッティング!」

 

 遊矢は、2枚のカードをデュエルディスクの両端に置く。

 すると、ディスクにPENDULUMの文字が浮かび上がり、フィールドには白と黒、相反する色の装束に身を包んだ2体の魔術師が、光の柱を昇って現れた。

 

【遊矢】

「これでレベル2から7のモンスターが同時に召喚可能!揺れろ!魂のペンデュラム!天空に描け、光のアーク!」

「ペンデュラム召喚!現れろ!俺のモンスター達!」

 

 遊矢の胸のペンダントが光り輝くと、2体の魔術師の間に巨大な振り子が出現し、大きく揺れる。

 そして、振り子が描いた軌跡から、4つの光がフィールドに降り注いだ。

 

【遊矢】

「手札から、≪EM(エンタメイト)ウィップ・バイパー≫!≪EM(エンタメイト)ドラミング・コング≫!エクストラデッキからは、≪EM(エンタメイト)シルバー・クロウ≫!そしてラストを飾るのは本日の主役、雄々しくも美しく輝く二色の眼!≪オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン≫!」

 

 光の中から現れたのは4体のモンスター。

 その1体1体が、鞭のような身体をした毒蛇、ドラムを身体に装備したようなゴリラ、鋭い爪を持つ灰色の狼、そして二色の瞳を輝かせるドラゴンという、非常に個性的な顔ぶれであった。

 

・EMウィップ・バイパー(ATK1700/☆4/地/爬虫類族)

・EMドラミング・コング(ATK1600/☆5/地/獣族/ペンデュラム)

・EMシルバー・クロウ(ATK1800/☆4/闇/獣族/ペンデュラム)

・オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン(ATK2500/☆7/闇/ドラゴン族/ペンデュラム)

 

【柚子】

『ペンデュラム召喚で遊矢もモンスターが4体!蒼真のモンスターと並んだわ!』

【素良】

『しかもオッドアイズを始めとしたこの面子。これは勝負あったね』

 

 素良の言う通り、遊矢のモンスターはフィニッシュを決めるのに最適な布陣となっていた。

 

【遊矢】

「俺はまず、≪EMウィップ・バイパー≫の効果発動!1ターンに1度、フィールドの表側表示モンスター1体の攻撃力・守備力を、ターン終了時まで入れ替える!対象にするのは、≪蒼炎白虎≫!」

 

・蒼炎白虎(ATK2000→1500)

 

 攻守逆転により、結果的に攻撃力を減少させられた≪蒼炎白虎≫。

 これで全ての準備は完了。遊矢は、前のターンの蒼真のお株を奪う連続攻撃に打って出る。

 

【遊矢】

「さあ、次はバトルだ!俺は≪EMシルバー・クロウ≫で、1体目の≪蒼炎響狼≫を攻撃!この瞬間、シルバー・クロウの効果発動!このカードが攻撃したバトルフェイズの間、俺の【EM】は攻撃力を300ポイントアップする!」

 

・EMシルバー・クロウ(ATK1800→2100)

・EMドラミング・コング(ATK1600→1900)

・EMウィップ・バイパー(ATK1700→2000)

 

 【EM】の斬り込み隊長である灰色の狼は、その鋭い爪で同じ狼モチーフのモンスターを撃破した。

・SOUMA LP:3300→3000

 

【遊矢】

「続け、ドラミング・コング!ウィップ・バイパー!残り2体の≪蒼炎響狼≫を攻撃!」

【蒼真】

「くぅっ!?」

・SOUMA LP:3000→2900→2700

 

 立て続けにモンスターを破壊され、蒼真は発生したダメージに煽られる。

 だがまだ終わりではなく、遊矢のフィールドには、彼の最強モンスターが出番を待っていた。

 

【遊矢】

「いよいよ真打ちの登場だ!≪オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン≫で、≪蒼炎白虎≫を攻撃!そしてこの瞬間、≪EMドラミング・コング≫の効果発動!1ターンに1度、自分のモンスターがバトルする時、バトルフェイズ終了時までその攻撃力を600ポイントアップする!」

【蒼真】

「なっ!?それじゃ、オッドアイズの攻撃力は……3100!? 」

【遊矢】

「ご名答!」

 

 ドラミング・コングが胸のドラムを打ち鳴らすと、鼓舞されたようにオッドアイズは雄叫びを上げた。

 

・オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン(ATK2500→3100)

 

【遊矢】

「これでフィナーレだ!行けっ、オッドアイズ!螺旋のストライク・バースト!!」

 

 オッドアイズは地響きを立てて走り、跳躍すると、口から灼熱の渦巻く炎を解き放った。

 進むにつれて拡散する炎が白き虎の逃げ道を奪い、その身体を真紅の螺旋に飲み込む。

 その瞬間、オッドアイズの角や胸に埋め込まれた宝玉が眩い光を放ち始めた。

 

【遊矢】

「オッドアイズの効果!レベル5以上のモンスターとバトルする時、相手に与える戦闘ダメージを二倍にする!」

【蒼真】

「なんだって!?このバトルで本来発生するダメージは1600。その倍ってことは……3200のダメージ!?」

【遊矢】

「その通りだ!オッドアイズ!蒼真のライフを焼き尽くせ!リアクション・フォース!!」

 

 オッドアイズの宝玉が一際瞬いた瞬間、吐き出す炎の勢いも更に強まり、遂には大きな爆発を引き起こした。

 

【蒼真】

「うあああああっ!?」

・SOUMA LP:2700→0

 

 爆発によって、蒼真の身体は大きく飛ばされる。

 衝撃によって、手札やデッキのカードをバラ撒きながら、蒼真は仮想のフィールドへ倒れ伏すのだった。

 

WINNER:YUYA

 

 

 

【遊矢】

「蒼真ッ!」

 

 勝利の喜びを感じるより先に、遊矢はソリッド・ビジョンが解除されるフィールドを走り抜けた。

 向かうは、倒れたまま起き上がらない友の元。辿り着くなり、その身体を抱き起こすと、蒼真は微かな呻き声を漏らした。

 

 どうやら無事らしい。安堵する遊矢だったが、蒼真の内面ではある変化が起きていた。

 言葉にするならば、ズレていた歯車同士が噛み合う感覚。それは目を開けた蒼真に、記憶のピースをもたらしていた。

 

【柚子】

「遊矢!蒼真は無事!?」

【遊矢】

「大丈夫!意識はあるし、問題ない!……立てるか、蒼真?」

【蒼真】

「……ああ。ありがとう」

 

 遊矢の手を借り、蒼真はその場で立ち上がる。

 観戦室にいた柚子達も、蒼真を心配して急いで駆け付けてくれていた。

 

【タツヤ】

「蒼真兄ちゃん、大丈夫?」

【蒼真】

「大丈夫だよ。心配かけてごめんね」

【アユ】

「ホント、すっごく心配したよ!……でも、何ともなくて良かった」

 

 心配そうな顔をするタツヤとアユに、蒼真は二人の頭を撫でながら謝った。

 

【フトシ】

「それはそうと、蒼真兄ちゃん強いんだな!俺、スッゲー痺れたぜ!」

【修造】

「そうだな。初めてのアクション・デュエルで、遊矢をあれだけ追い込むなんて大したもんだ!」

【蒼真】

「そんなことないですよ。……最後のターンなんて、遊矢のペンデュラム召喚に目を奪われて、アクションカードを探すのを忘れてました」

【洋子】

「まあ、そこは経験の差さ。アクション・デュエルの腕をずっと磨いてきた遊矢に、遅れを取る部分があるのはしょうがないよ」

【素良】

「――それだけじゃないと思うな」

 

 洋子の慰めの言葉に被せるように、少し離れた所から素良の声が聞こえた。

 声のした方に目を向けると、素良は散らばった蒼真のカードの1枚を拾い、じっとイラストやテキストがある筈の面を見ている。

 蒼真は内心、「気付かれたかな?」と思っていると、視線に気付いた素良がゆっくりとこちらに歩み寄り、皆に見えるようにカードを差し出した。

 

 イラストもテキストも、何も描かれていないカードを。

 

【遊矢】

「えっ?これは……」

【柚子】

「カードに、何も描かれてない?」

【タツヤ】【アユ】【フトシ】

「「「ええ~!?」」」

 

 カードを見た一同は、一斉に仰天した。それから、弾かれたように手分けして蒼真のカードを拾い集める。

 集められたカードには、ちゃんと絵柄やテキストが描かれた物もあったが、半数以上は全くのブランクか、テキストの一部が判別できないカードであった。

 

【遊矢】

「……こんな状態のデッキでデュエルしてたのか?」

【蒼真】

「ああ。言ったらデュエルが中止になると思って黙っていたんだ。遊矢とのアクション・デュエル、どうしても最後までやりたくてさ」

【遊矢】

「……そっか」

 

 遊矢は何とか笑って返したが、その心中は笑ってはいなかった。

 得意なフィールド、万全なデッキの遊矢に対し、蒼真はアクション・デュエルは今日が初めてでデッキの半分は使用不可の状態と、圧倒的に不利な条件であった。

 にも関わらず、蒼真は自分を敗北寸前まで追い込んだ。あそこで≪奇跡≫を発動できていなかったら、遊矢の敗北は濃厚だっただろう。

 

【遊矢】

(……もし、蒼真のデッキと、蒼真自身が100%の状態だったら、俺は勝つことが出来たんだろうか?)

 

 遊矢の中では、そんな疑問がずっと渦巻き続けていた。

 

【タツヤ】

「でもなんで、何も描かれていないカードがデッキに入っているのかな?」

【フトシ】

「……蒼真兄ちゃんの記憶がなくなった時に、カードの絵柄も消えちゃった……とか?」

【アユ】

「もうっ!そんなことあるわけないでしょ!」

【蒼真】

「……あながち違うとも言い切れないかも」

【柚子】

「えっ?」

 

 フトシの冗談に対しての呟きに、全員の視線が蒼真に集まった。

 

【遊矢】

「どういうことなんだ、蒼真?」

【蒼真】

「実は……ついさっき、記憶の一部を思い出したんだ。そうしたら、デュエル中は読めなかったカードの一部が今は見えるようになっているんだよ」

 

 まさかの言葉に、全員驚きを隠しきれなかった。

 だが、今大事なことは、蒼真が取り戻したという記憶。

 

【柚子】

「そ、それで?何を思い出したの?」

【蒼真】

「……相変わらず、何処から来たとか何をしてたとかは分からない。だけど、自分の名前は完全に思い出せた」

 

「僕の名前は、暁蒼真(あかつき そうま)だ」

 

【遊矢】

「暁、蒼真……」

 

 蒼真が思い出せたのは名字(ファミリーネーム)だけだったが、それでも分からないままと比べれば雲泥の差だ。

 名字も含めたフルネームで調べれば、身許に繋がる情報を得られる可能性もぐっと高まるだろう。

 

【洋子】

「それにしても本当に不思議だね。まるでデュエルをしたら記憶が戻ったみたいじゃない」

【素良】

「意外とその通りかもね~。オッドアイズの攻撃がきっかけみたいに見えたもん。もしかしたら、もっともっとデュエルすればどんどん記憶が戻るかも!ねぇ、蒼真!次は僕とデュエルしようよ!」

 

 素良はしれっとそんなことを言うと、蒼真に駆け寄りその手を引く。

 すると、そんなに強く引っ張っていないのに、蒼真の身体はぐらっと揺れ、これには素良も慌ててその身体を支えた。

 

【素良】

「わわっ!?」

【柚子】

「大丈夫、蒼真!?もう、素良!」

【素良】

「そ、そんなに強く引っ張ってないよぉ!」

【蒼真】

「ゆ、柚子、素良は悪くないよ。何だから身体から急に力が抜けてそれで……」

【修造】

「デュエルで疲れたのかもしれないな。何はともあれ無理は禁物だ。今日のデュエルはここまで!」

【素良】

「ええ~!そんな~」

【蒼真】

「ごめんね、素良。今度は必ずデュエルする。それじゃダメかな?」

【素良】

「……まぁ、万全の状態じゃないのにデュエルしてもしょうがないしね。分かった!でも、絶対だからね?」

(君のこと、もっと知る必要があるんだから。僕の任務の為にも、ね)

 

 素良の本心など知る由もない蒼真は、交わした約束に深く頷いた。

 

 これをもって、この日の遊勝塾はお開きとなり、各自は家への帰途に着く。

 この時、家のない蒼真の泊まる場所について話題となったが、洋子の「うちに来な」という提案に遊矢が賛成したことで決着。

 

 こうして、記憶喪失の少年、暁蒼真の『この世界』での最初の一日は過ぎていった――。

 




今回は以上です。思いの外、長くなってしまった……。

主人公、暁 蒼真との出会いを描いた第1話、如何だったでしょうか?

最後、大分駆け足になってしまいましたが、メインのデュエルを書ききれたので良しとしてください(笑)

アニメをベースに、台詞や展開などはオリジナルとしております。カードもヒッポやオッドアイズを始め、一部はアニメ効果を採用しました。

アニメ本編で描かれたデュエルについては省略しています。今後もオリジナルの内容となる時以外は、アニメで描かれた対戦カードはダイジェスト形式とする方針でいく予定です。

今回、主人公の名前と共に、使用するデッキも明らかになりました。
主人公の使用するデッキは【蒼炎(ブルー・フレイム)】。オリジナルのカテゴリーで、その名の通り所属するモンスター全てが炎属性で統一され、通常の炎とは異なる蒼い炎を発する特徴を持っています。
OCGでは【バーン】のイメージが強い炎属性ですが、アニメの主流に従い、ビートダウン主体のカテゴリとなっております。
しかし、劇中でも触れた通り、その大部分は現在使用不可の状態で、完全な状態とは程遠い状態となっています。

その真価が発揮されるのは、次回以降となります。今回登場した以外のオリカはその時の登場となるのでお楽しみいただけると嬉しいです。
(今回登場したオリカについて、強すぎるとか、色々ご意見があるかもしれません。一応、昨今のOCGのステータスのインフレ化を意識し、これくらいならというレベルで考えましたが、あまりにも度が過ぎていると感じた場合は、人知れずエラッタしたいと思います)

さて、後書きもこれくらいで締めたいと思います。
次回は、大分時間を飛ばし、LDS vs 遊勝塾辺りからお送りする予定です。

それでは、また次回お会いしましょう。
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。
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