奉仕部は少し異なる軌跡を描く   作:Mr,嶺上開花

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何も考えず投稿しました。良かったら読んでください。
あと、タイトルとあらすじは目安程度に考えてください。全く主軸が定まってなくブレブレなので()


1月 比企谷八幡は予備校に通う

穏やかな1月の空気。暖房は未だ起動したばかりだからなのかそれともポンコツだからなのか、ひんやりしたという表現では少し足らないくらいの冷たい空気を肌に刺さる。

この総武高校、略して総武高が無慈悲たる冬休みの終了を告げて2日目、ついでに昨日は午前登校だった為に本日は奉仕部としての新年度部活動初日。最初は由比ヶ浜による誰もが食いつきやすいあけおめトークで場は明るかったのだが、気付けば室内の温度は外の気温どころか氷点下にまで冷え込んでいた。

 

「………。」

 

「………。」

 

俺はマフラーの端に顔を当てて、仄かに篭った温もりを感じると同時に、温度的な冷たさではなく視線的な冷たさにどう対処しようか考える。

今ここにいる奉仕部である二人の部員、雪ノ下と由比ヶ浜は黙ってこちらを見ている。由比ヶ浜はどこかムッとした、見方を変えれば可愛いような表情だが雪ノ下は違う。芥塵を凍え殺しそうなほど能面な、まるでかめはめ波の練習をしていた兄を見てしまった妹のような目だ。ソースは俺、中2の時に小町に見られた時そんな感じだった。いやそうじゃなくて。

 

とにかく、この状況を早く脱してできるならば早く先程の空気に戻さなきゃならない。そうしないと俺の心臓やら肝やらが持ちそうにない。しかし何と言葉を掛ければいいのか…ここに来てコミュ障であることが影響してきた…いやいや俺はコミュ障じゃない、ただ人と話さないだけだ。自分で認めちゃダメだろ、俺のバカ。アホ。由比ヶ浜。

 

「比企谷君?」

 

「ひゃ、ひゃい!」

 

唐突に雪ノ下は沈黙を破りついでに俺を呼び、つい声が裏返る。そしてその言葉にはやはり温度は無い。こえーよ、いや本当に。

 

「それで、もう一回さっきの言葉聞かせてくれるかしら?」

 

「…俺、予備校入ることにしたから」

 

「その後よ」

 

「…もしかして、俺が奉仕部辞めるかもって言ったことか?別にありゃ凄い忙しくなった時の事を考えてであって、別に辞める気はねえよ」

 

「…そう、それならいいのだけれど」

 

「そもそもまだ高2の1月じゃん!受験意識するには早くない?」

 

由比ヶ浜が紅茶の入ったマグカップで暖を取りながらそんな言葉を口にする。やっぱり由比ヶ浜はアホヶ浜だ、受験を舐めすぎている。典型的な足元を掬われて浪人する現役の鏡だろう。

 

「ばっかお前、俺が志望している国立大学的には今から対策していかないと間に合わないんだよ」

 

「…えっ…比企谷君貴方…」

 

「ヒッキー国立志望なの!?」

 

「おい、何だよ。そんなに俺が国立志望なのがおかしいか?」

 

俺のその発言に雪ノ下は珍しく純粋な驚きを顔に表し、由比ヶ浜も思わず声を上げて反応した。いや別に良いじゃん国立、そもそも言っちゃ悪いが千葉には文系だとそこまで良い私立無いし、千葉県から出たくない俺の気持ちを考慮したら必然的に地元の国立大学を志望せざるおえないんだよな。それに理由はもう一つある。

 

「…だって、国立大学に行けば私立受けたフリして私立の受験費用を親から貰うことができるじゃん。親は俺が国立大学行って、俺は私立の受験費用がそのまま懐に入ってwin-winな関係だろ?」

 

「うわっ!最低だヒッキー!」

 

…心外である、このくらい全国の受験生諸君ならやってる…やってるよな?

 

そんなことを考えている間にも、何時もなら俺に罵詈雑言をぶつける雪ノ下は難しい顔をして悩み込んでいる。なんだろうか、もしかしてそれこそ珍しく俺に「が、頑張って比企谷君…!」とか応援の声でも掛けてくれるのだろうか…?…いやありえないか。

雪ノ下は紅茶を丁寧な仕草で飲み干すと、静かに口を開いた。

 

「…貴方、その成績で本当に国立大学行けると思ってるのかしら…?それにどうせ貴方のことだから大学名を地味には伏せているけれど、その大学って千葉大学のことよね?文系でも2次試験に数学があるのよ…?行けると思ってるのかしら…?」

 

雪ノ下の発言が俺にクリーンヒット!やめて雪ノ下、俺のHPはもう0よ!!

…なんて冗談はともかく、具体的根拠がある分か今日の雪ノ下の毒舌の威力は何時もより一層磨かれているように感じる。現実はもう辛いほど見てるからそこに追い打ちを掛けないでくれよまじで、それより寧ろ俺に対する声援とか無いの?同じ部員仲間が困難に立ち向かってるんだぞ?なんでフレンドリーファイヤーしちゃうの、AIM狂ってるんじゃないの?

 

「…というかその為の予備校だろうが、それにもう12月の冬季講習から入学自体は一応してるからな」

 

「そう…、因みに週何回授業あるのかしら?」

 

「2回だな。数学と英語しか受けてないからな」

 

国語は独学でも対応できる自信があるし、社会系科目はそれこそ私立は受けないので独学で十分行ける。それらを鑑みたらこの選択になるのは、まあ必然と言えただろう。

 

そんなことを考えていたら由比ヶ浜が覚悟を決めたような表情をしているのに気づく。何を言うつもりなんだののアホ娘は、そう思っていると由比ヶ浜はよしっ!と頬叩いてこう言った。

 

「じゃ、じゃあ私もヒッキーと一緒にその予備校、通う!」

 

「やめとけ」

 

「それは止めておいたほうが良いと思うわ由比ヶ浜さん」

 

「二人揃って速攻大否定!?なんで!?」

 

俺は、そして恐らく雪ノ下もロクなことは言わないだろうと由比ヶ浜の言葉に対して身構えていたがどうやらそれは正解だったようだ。第一俺のクラスは数学はともかく、英語は一番上である。そのクラスにアホの娘代表である由比ヶ浜が入れるかと言えば…まあ無理だろう。数学なら俺と同じクラスになれるだろうがそもそも由比ヶ浜は私文志望だ、態々高い授業料を払って数学を受ける必要はない。

 

「…まあ由比ヶ浜さんの事は置いておくとして、比企谷君貴方本当に本当の本気なの?千葉大はセンターよりも2次試験重視だから貴方の苦手な数学も捨てられないわよ、数弱企谷君?」

 

「えっゆきのん無視!?」

 

「まずは勉強しろ由比ヶ浜。じゃなくて雪ノ下、お前は煽るのかアドバイスしてるのかどっちなんだ?…てか妙に千葉大に関して詳しいな、もしかして浪人生?」

 

「もしそうなら今頃私は姐さんに弄られ倒されてるわ。ただ私の従兄に千葉大に進学した人がいたのよ。その人が、毎回会う度千葉大の事を自慢らしげにペチャクチャペチャクチャ…」

 

「…すまん。お前も苦労してるんだな…」

 

「ちょっと二人共私を無視しないで!?」

 

意外な雪ノ下の苦労を知り得たところで、由比ヶ浜の悲痛の叫びが室内に響く。

 

「だから由比ヶ浜、お前はもう少し勉強しろ、話はそれからだ」

 

「いやヒッキー!?何かいつもより冷たくない!?」

 

「あのね由比ヶ浜さん、予備校っていうのは既に基礎がある程度固まってる人が行く場所なのよ?まだ由比ヶ浜さんには少し早いわ」

 

「ゆきのんまで冷たい!?」

 

「…そういや、雪ノ下は予備校とか通わないのか?今はともかく、4月からとかで」

 

雪ノ下はその俺の言葉に少し顔を伏せる。

 

「…母は私に、雪ノ下家としての家柄に相応しい生き方を求めているの。その過程で予備校なんてぼったくり事業に頼ってはいけないって言われてるのよ」

 

「…本当に大変なんだな…」

 

「…ゆきのん、ごめん…」

 

「…良いのよ、分かってくれれば…」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

翌日、放課後。俺は昨日雪ノ下や由比ヶ浜に言ったとおり奉仕部の部活は欠席し予備校の授業に来ていた。

今日は年度が開けて初の授業である為か、教室に入るとまだ授業まで40分あるというのに既に半分以上席が埋まっていた。

 

俺は指定された席に着くと、周りの人たちに見倣って授業テキストを開く。まあ一応予習はもうしているので、問題を確認してもう一度解けない問題を整理するだけだが…ってよく考えたら授業テキスト今開く必要なくないか?分からない問題は分からないし、普通に汎用問題集やってた方が全然時間的に効率的な気がする。畜生俺という奴は…、ついつい新たな環境だからと言って周りと合わせてしちまった…!

 

そんな風に自習していると、ふと視界に黒いシュシュで纏められた銀髪ポニーテールがふらふらと映る。…この髪、何処かで見覚えがあるような…?

デジャブを感じる銀髪ポニテは俺の前の席に座ると、バックからテキストを出して読み始める。何なの、予備校生は一人残らず授業前はテキスト読まないと死んじゃう病にでも患わってるの?

 

そんな事を考えつつ問題を解いているといつの間に時間が過ぎたのか、電子チャイムが鳴る。それと同じタイミングでこの授業の講師だと思われる眼鏡を掛けた、中年くらいの男が教壇に登り話し始める。

 

「こんにちわ、年が明けて新しい人も増えましたね〜新入りさんは初めまして。志望校目指して一年、じゃなくてもうこの授業はあと二ヶ月ですね、まあ細かい云々は抜きにして頑張りましょう!」

 

…なんか、特徴的な講師だな。高校の教師とはまた違う雰囲気だ、何というか少しラフな感じである。

 

 

その後は淡々と、と言っても決して詰まらないと言う意味ではなく、つつがなく、しかし所々に茶番が入りつつ授業は進行した。

 

そうして小休止を2回挟み授業は進行し、始まってから3時間後に延長もなく今日の授業は終了した。

 

筆箱や教科書を閉まっている間にも感じるのは、生徒間の会話の少なさである。休憩時間でもそうだったが、やはりこの時期から予備校に通っている生徒はかなり意識が高い人が多いらしい。特にこのクラスは一番上のクラスだ、その傾向も尚更なのかもしれない。うんうん、非常に結構、ぼっちに優しい環境は大歓迎である。

 

「って、あれ?…比企谷!?」

 

はいはい比企谷ですよー、唐突に聞こえてきた声に心の中でそう返しつつその方向に顔を向けるととても見知った顔がそこにはあった。

 

「えっと…川崎?いたのか」

 

「それはこっちの台詞よ…いつの間に後ろに座ってたんだか…」

 

最初からいましたよーサキサキさん、なんて言うのも憚れたので口を噤む。というかあの銀髪ポニテ、どこか既視感があったけど川崎だったのか、どうにも微妙に、喉に小骨が引っかかるような感覚がするわけだ。

 

「というか比企谷、この予備校通ってたっけ?」

 

「まあ冬季講習からな。通常授業に出るのは今日が初めてだ」

 

「そう…因みに他に授業は?」

 

「数学が一番下から二番目のクラスだ」

 

そう言うと川崎は少し呆れたような表情を浮かべる。

 

「…寧ろあんたのその成績で良くそこで踏みとどめられたね」

 

「俺もそう思う」

 

「んまあそれはともかく…その…、折角だし…、……途中まで一緒に帰る?」

 

「…へっ?」

 

川崎は顔を赤らめ、横に逸らしながら段々自信が無くなったのか声を萎ませながらも早口でそう言う。…ナニコレ、アレ、おかしい。川崎とは確かに多少の関係性は持ってはいるが、それでもそういう、恋愛になるような事は………。

ーーーそこまで考え、俺は思い出す。これはあれだ、俺が勝手に勘違いして自爆しちゃう系の、青春期特有の例のアレだ。川崎には恐らく、いや絶対俺に対するそういう感情は全く持ち合わせていない。言ってて悲しくなってくるがまあそれは仕方ない、それはともかくそれなら話は早い。俺も普段通り接すれば解決だ。…あっぶねえ、思わず本気にしちゃうところだったぞ、恐るべしサキサキ。

 

「えと…アンタが嫌なら別にいいんだけど…」

 

「いんや良いぞ、じゃあちゃっちゃか帰るか」

 

「…何か、淡々と言い切られるとムカつく」

 

理不尽だ。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

場所は移り駅前。予備校のある場所が家の最寄り駅から数駅離れているために電車という文明の利器からなる交通手段に頼らざるおえないのだ。

 

「それで、何でアンタ予備校通い始めたの?」

 

そして隣を歩く川崎。川崎とこういうシチュエーションになるのはあまり無いので柄にも無く少し緊張してしまう…イカンイカン、それを考えるとキリがない。無駄に意識してしまうだけだ、心頭滅却煩悩退散…。

 

「まあ何だ、志望大学が明確に決まったからだな」

 

「そう…」

 

「そっちこそどうなんだ?」

 

「お陰様で順調、スカラシップも何とか今のところは貰えてる」

 

「そりゃ凄いな…ところでスカラシップって模試でどんくらい取りゃ貰えんの?」

 

「どれくらいって…まあ殆どの模試で満点近くを取り続けてれば貰えるよ」

 

「…本当に凄かったんだな、お前…」

 

「普通だよ、普通」

 

殆どの模試で満点って言ったら偏差値的には80を超えるだろうから普通は無理だろ。不良少女みたいな出で立ちしてる癖にこのサキサキ、もしかしたら雪ノ下以上の天才少女なのかもしれない…。知られざる真実を知ってしまった気分だ…。

 

「でも何で高校の成績は普通なんだ?成績表には上位に載ってないだろ?」

 

「ウチの高校って総合となると保健体育とか家庭科とか入るじゃん。あたし、そう言うのほとんど勉強してないから赤点ちょい上くらいなの」

 

「…ちょっと待て、ってことは…」

 

「…科目別ってことなら確かに数学とか英語とか国語とか、そういう一般科目は大体一桁台の順位だよ」

 

「因みに一位になったりしたことは…」

 

「殆ど無いよ。というかそもそも高校の試験とか何も対策してないからしょうがないじゃん」

 

…ってことは雪ノ下はテスト対策してないとは言えこの天才少女に大体勝ち越してるのか。やっぱり雪ノ下も半端ないな…。

つまり雪ノ下と川崎が総武高を代表する2大才女…今までの印象もあってかやっぱり違和感しかない。川崎に才女は似合わない。

 

「…今何か、凄い不愉快な気持ちになったような…」

 

「気のせいだ!気にするな!」

 

「あ…、うん…」

 

 

そんなこんなで、意外と弾んだ会話を楽しんでいると最寄り駅に着いてしまう。改札を出ると、出てすぐ手前で思わず立ち止まる。川崎の家と俺の家はどうやら逆方向のようだ。

 

「そ、それじゃあまた来週…」

 

「あ、ちょっと待て川崎」

 

そそくさと帰ろうとする川崎を俺は引き止める。川崎は、少し不思議そうな表情を浮かべながらコクリと首を傾げる。可愛い。いやそうじゃなくて。

 

「一つ、頼みがあるんだが…」

 

「何?あたしにできる事ならまあ、借りもあるし…、手伝ってあげる」

 

「んじゃあ、肩を借りたつもりで言わせてもらうぞ」

 

ーーー俺に数学を教えてくれ。

 

 

 

…どこかで紙袋が落ちたような音がした。

 

 




思うんですが…、サキサキのスカラシップって普通にとんでもなくすごいと思うんですが…そんな成績あるんなら医学部行けるんじゃないですかね…まあ予備校とか塾によるんでしょうけども。

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