メルル&ルイズのアトリエ~ハルケギニアの錬金術士~   作:ジェイソン@何某

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思いついたままに書きました。
状況が状況なだけに皆敬語を使ってるので違和感が出てしまいした。

駄文ではございますが、どうぞお楽しみいただけたら幸いで御座います。



メルル&ルイズのアトリエ~ハルケギニアの錬金術士~
前編


 

 

みなさんはじめまして!

わたしの名前は、メルルリンス・レーデ・アールズ。

ちょっと長い名前だから、気軽にメルルって呼んでくれると嬉しいな。

 

わたしの生まれは、アールズ王国。

アーランド共和国からとおーく離れた、北西の方にある国なんだ。

 

そう、アールズ。

わたし一応、お姫様なんだ。

 

…なんで“一応”なのかって?

それは、この国が、さっき言ったアーランド共和国と合併して、もうすぐなくなっちゃうから。

 

って言っても、別に国間のゴタゴタがあったとかじゃないよ? 

アールズ国王のデジエ…わたしのお父様と、アーランドの元国王であるジオおじさまとは旧友で、今回の合併もジオおじさまの方から共和制にしようって持ち掛けたらしいの。

 

…まぁ、難しいことはよく分かんないけど、兎に角わたしはもうすぐお姫様じゃなくなっちゃうんだ。

別にそれについて名残惜しさなんてないよ? 『姫』の肩書が無くなったとしても、わたしがやる事は変わらない。

 

 

わたしは、“錬金術”の腕をもっと磨いて、この国の発展に尽力するの!

そう、わたしはこのアールズ王国のお姫様であり、アールズ唯一の“錬金術士”。

 

アーランド共和国からやって来たトトリ先生に弟子にしてもらってから早数年。

合併の時が近付く頃には、わたしはトトリ先生にも認めてもらえるほどの腕前にまで成長してたみたい!

それでも、トトリ先生には遠く及ばないとわたしは思ってるけどね。

 

 

…それよりも、わたしにはちょっとした秘密があるの。

それは…こう…なんて言えばいいのかな、説明するのが難しいんだけど…

…前世の記憶? いや、それは違うかな…別の世界線のわたしというか…別の時間軸のわたしというか…兎に角、色々な“将来の道”を進んでいった自分自身の記憶があるの!

 

…気のせいだって、そう思う? でもね、わたしの身に着けてる装備なんかを見れば、きっとそうは思えなくなるんじゃないかな。

だって、この装備も、お金も、探索用の道具だって、全部その記憶と一緒に“引き継がれて”いるんだもの。

 

 

兎に角、その記憶の中でわたしは本当に色んな“道”を歩んでいたの。

 

お父様との約束以上に国を大きく発展させててんやわんやな日常を歩んだり。

 

火山の化身を倒し農業を発展させて、皆で栽培した作物を収穫したり。

 

国を脅かす魔物たちに対抗すべく、皆を纏めて最前線で戦ったり。

 

…ちょっと優柔不断な性格が仇になって皆がわたしを取り合うようなことになっちゃったり。

 

…まぁ、こんな感じで他にも沢山。

 

そして今、わたしが力を入れているのは…温泉設備作り!!

 

ふっふーん、これって用意する道具が凄い多いうえに日数が掛かるから、今の今まで後回しにしてたんだよね!

一番大変な『源泉パイプ』ももうじき数が揃うし、今から温泉が楽しみだなぁ。

 

 

 

 

……って、思ってたんだけど…

 

 

「う~ん…なんだろう、これ…」

 

 錬金術士として“調合”を行うのに必要な“錬金釜”の前で、メルルはうんうんと唸っている。

 錬金釜の真上…彼女の目の前には、なんといえばいいか…そう、縁のない銀色の“鏡”のようなものが浮いていた。

 

「ただの姿見…の、ワケないよね…こんなアイテムあったかなぁ…」

 

 少しばかり顔を近付けると、そこには確かに自分の顔が映っている。ただ、その鏡からは確かに強力な…魔法のような力を感じる。

 

 彼女の住むこの王国や大陸では、『魔法』と呼ばれるものは決して一般的でも何でもない。むしろ、そんなのは絵本で読むお伽噺の存在だ。…まぁ、若干一名ほど魔法陣を展開する子はいるが。

 

 ただ、そんなお伽噺に出てくる『魔法』のような効力を持ったアイテムを調合により作り出すことが出来るのが彼女を始めとする“錬金術士”であり、そんな錬金術士の“アトリエ”たるこの場所に目の前の鏡のようなものが存在すること自体は決して不思議ではない。

 

 ただ、問題は『だれ』が『何のために』このアイテムを錬金釜の…しかも、メルル専用の錬金釜の上に出現させたのかだ。

 

「うーん…トトリ先生もロロナちゃんもまだ採取からは帰ってきてないし……」

 

 仮に目の前の鏡が錬金術によって生み出されたアイテムだったとすれば、自然とこれを設置した人物は限られてくる。問題は、その候補に挙がっているうちの2名が昨日から採取に出かけ、帰って来るのは明日だという事。

 

 因みに候補に挙がった2人は、まずメルルの錬金術の師匠であるトトリ。そして、そんなトトリの師匠であるロロナなのだが…何故ロロナが“ちゃん”付けなのか。これには深い理由がある。

 

 まぁ、説明すると長くなるが、“とある人物”の策略で8歳まで肉体と精神が下がってしまったせいで、本来の姿を知らないメルルはロロナの事を“ちゃん”付けしているわけだ。

 

 当然その2人が出かけた後から今の今まで自分は目の前の釜を使っていたので、自分が少し目を離したスキにこの鏡は出現していたという事になる。

 

 …で、あれば…

 

「まさか…アストリッドさん…?」

「呼んだか?」

 

 ………え?

 

「…っ、うひゃあぁぁぁ!? ア、アストリッドさん…!?」

「はっはっは、まだまだ甘いな弟子3号よ、少しは周りに気を配る事だ」

 

 慌てて振り返ったメルルの前には、彼女の師匠(トトリ)師匠(ロロナ)の師匠である自称偉大なる天才錬金術士、“とある人物”ことアストリッドの姿があった。

 

 年齢に反して…ああいや、今のは無し。…兎に角、目上の存在でありながらも悪戯が成功した子供のように笑うアストリッドに僅かに頬を膨らませるメルルであったが、彼女はそれを無視して錬金釜の上にある鏡を心底興味深そうに見つめた。

 

 ――因みにこの鏡、本来はアストリッドには認識する事など出来ない筈なのだが…それが出来てしまうあたり、流石というべきだろうか。

 

「ふむ…弟子3号よ、これはお前が作ったのか?」

「えっ? い、いえ、違いますけど…」

 

 どうやら、アストリッドはつい今しがたやって来たばかりのようだ。メルルはこの鏡がいつの間にか存在していたこと、トトリやロロナが作った可能性が低いことなどを説明する。

 

 天上天下唯我独尊、自分が楽しければそれで良し、を地でいくアストリッドの目に錬金術士として…いや、“探究者”としての色が浮かび上がったのを見て、メルルもまた改めて鏡を見つめる。

 

「ふむ…今まで見たことが無いな…これは…精霊石と似た波動だが…いや、根本が違うな。封じ込めたモノを解放するのではなく…遠方から喚び寄せるものか…? ふふふ、実に興味深い…興味深いぞ…」

 

 ぶつぶつと呟くアストリッドだが、その隣に立つメルルは今戦慄を覚えていた。なんだかんだで隣に立つ人物が、今の自分と比べても遥か高みの錬金術士であるという事を知っているから、そんな彼女から『今まで見たことがない』という言葉が出たのが信じられないのである。

 

「ふむ…これは、そうか…良し、弟子3号よ!」

「うぇっ!? は、はいっ!」

 

 そんなわけで呆けていた間に、アストリッドは一通り分かることは調べたかメモのようなものをしまい込むとメルルに向き直る。慌てて背筋を伸ばし返事をしてみれば、装備を身に付けろと指示を出された。

 

「…? は、はい…えぇ、と……はい、大丈夫です」

 

 採取にでも付き合わされるのだろうか、と疑問を浮かべつつも大人しく指示に従い手編みのカゴ――当然ジャンボサイズ――にトラベルゲートを始めとするアイテムを入れていく。無論、秘密バッグを所持しているのでコンテナの中に入れていても問題はないが、戦闘中にコンテナの中を探る時間などないので仕方ない。

 

「うむ、良し。では此処に立て」

「は、はい」

 

 その後、アストリッドは先ほどまで自身が立っていた錬金釜――鏡の前にメルルを誘導し、その後ろに回る。

 

「うむ。弟子3号よ、少し肩の力を抜け。なに、そんなに緊張することは無いさ」

「は、はぁ…えぇっと、アストリッドさん? わたしは、何をすれば…」

「いやなに、ちょっと“現地”を見てきて貰うだけだ。心配するな」

「…?? あのー、それってどういう…」

 

 肩を揉むアストリッドの態度に不穏なものを感じるがもう遅い。メルルは今すでに、蛇に巻き付かれた蛙に等しいのだ。

 そして…

 

 

 

 

 トンッ

 

 

 

 

「―――……へっ?」

 

 それはもう、非常に優しく、しかししっかりと押された。

 右手に持つ杖――新世界の杖――が鏡に触れると、それを皮切りにどんどん体が吸い込まれていく。激しくパニックを起こしアストリッドを見るが。

 

「弟子2号達には私から上手く言っておこう! 良い旅をな! …トラベルゲートは使うなよ?」

 

 笑顔で手を振られた挙句脅された。酷い。

 

「ちょっ…!! 待っ…アストリ―――」

 

 言葉は最後まで紡がれることは無く、メルルの姿は鏡と共に完全に消え去った。

 

 

「ふむ…やはり呼び寄せる対象は1人だけだったか。まぁ念のためだ、此方から“向こう”に干渉するためのアイテムの研究もせねば……おや?」

 

 1人残されたアストリッドは、それが完全に想定通りだと言わんばかりに頷く。踵を返しアトリエを後にしようとした彼女であったが、ここで何かに気付いたか、徐にコンテナに近づくと中身を確認して。

 

「…ふふふ、弟子3号。愛い奴め、ちゃんと作っていたのか。安心しろ、お前の後は私が継いでやる」

 

 その日、アトリエからメルルと、温泉用アイテム一式が姿を消した。

 

 

……

………

…………

 

 

 ―――場所は変わりハルケギニア、『トリステイン魔法学院』にて。

 

 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、非常に焦れていた。

 

 2年生に進級するための最後の試練となる『サモン・サーヴァント』。文字通り己の命運が掛かる使い魔召喚の儀式に、彼女はすべてを賭ける意気込みで臨んだ。

 

 しかし、結果は失敗に次ぐ失敗。その度に巻き起こる爆発により、既に使い魔を召喚し終えた周囲の生徒――貴族達は絶えず罵声とブーイングを飛ばしてくる。

 

 もう何度目かになる『サモン・サーヴァント』もまた爆発という半ば以上約束されたオチが付き、彼女を傍らで見守っていた頭皮の寂しい中年男性、ジャン・コルベールも半ば諦めていた。

 

 そんな彼を説得し、今度こそ最後。泣きの一回でついに、ついに召喚の鏡が出現したのだ。

 

 私の願いが通じた。私の努力が報われた。これで私は『ゼロ』じゃない…!!

 

 そんな歓喜をぐっと飲み込み、果たして何が現れるのか、周囲の生徒たちもその瞬間だけは静かになり、固唾を飲んで見守っていたが…

 

 

 

 

「(どうして…どうして何も出てこないのよ…!!)」

 

 既に数分が経過したが、鏡からは一向にして何も現れない。コルベール曰くそれは決して珍しいことではないらしいのだが、今回に限りルイズ以外の生徒たちが行った『サモン・サーヴァント』では使い魔たちの悉くがすんなりと鏡から現れていた為、周囲の生徒たちからすれば…

 

「なんだ、『ゼロ』じゃないか!!」

「使用人にこっそり鏡運ばせたのか!?」

「もう時間の無駄でしょ? 私さっさとこの子とお話ししたいのに…」

 

 この有様である。

 ルイズはそんな野次を飛ばす周囲をギッと睨み、そしてそれに負けないくらい険しい目で鏡を睨む。

 

「(早く…早く出てきなさいよ!! この……っ!?)」

 

 ルイズの言葉は途中で遮られることとなる。鏡が一際強い光を宿し――爆発したのである。

 

 それはもう、今までの爆発の比じゃないくらいに。近くに居たルイズやコルベールは勿論、周囲に居た貴族たち、そして

 

「うわっぷ…!?」

「…」

 

その貴族達よりもまた少し離れた位置に居た赤髪と青髪の2人の少女のもとにまで、その衝撃と爆風は伝わっていた。

 

 

「なっ…あ、ぶないじゃないかー!!」

「『ゼロ』のルイズ! 君は本当に僕たちの期待を裏切らないよな!」

「今回はその期待を軽く三段越えだ!」

 

 最後の生徒の野次により周囲は嘲笑に包まれた。『静かに!』とコルベール1人が声を荒げたところで、それは何十人もの生徒たちの笑い声に掻き消される。

 俯き、肩を震わせるルイズは涙を堪えるので精一杯だった。

 

 『ゼロ』のルイズ――魔法が出来ない落ちこぼれ――座学しか能がない―――()()()()――

 

「……ッッ!!! だ、黙んなさいっ!! 大人しく聞いてれば、好き勝手「お、おい。何かいるぞ!!」……っ!?」

 

 我慢の限界に達した。己の嫌う人物の髪色に負けぬくらい顔を真っ赤にし、周囲の生徒たちと罵倒の応酬という、これまたお約束な展開に入り込もうとしたその時、ルイズの言葉を遮るように生徒の誰かが煙の中を指差した。

 

 慌てて振り返ったルイズ。コルベール含む周囲もまた、風により晴れつつある煙の中に視線を向ける。

 

 

 

 

「いたたた…もう、アストリッドさん、酷いですよぉ………あれ?」

 

 煙が晴れた時、そこに居たのは――どう見ても、人間だった。

 

 ピンクに近いピンクブロンドのルイズに対し、ブロンドに近いピンクブロンドの髪は、これまたルイズと似てふんわりとウェーブが掛かっていて、頭の両サイドで作った三つ編みをお団子にしている。

 明るい色合いの服は非常に高品質な布地で作られていることが遠目にも理解でき、所々にあしらわれた花柄が可愛らしい。

 スカートはかなり短くドロワーズが見えているが、決して下品さなどは感じられず、寧ろ彼女の天真爛漫さを表しているかのようだ。

 すらりと伸びた足は傷や出来物1つ見当たらず、健康的な血色の良い白さを保っている。

 

 そして…

 

「つ、杖だ…」

「マントもだ、マントも着けてる」

「じゃ、じゃあ…」

「貴族……?」

「可愛い…」

 

 花の付いたピンク色のマントは、一体何の素材で作られたのか裏地が虹色に輝いていて、彼女の傍らにはすこし変わった…しかし衣服と同じく非常に高品質で且つ、力の感じさせる彼女の背丈と同じくらいの長さの杖が落ちている。

 

 この世界において、その2つが意味するのは――ルイズが召喚したのは、貴族…それも、服装などから察するにかなり位の高いご令嬢だということだ。

 

 それだけで、全員の顔色が真っ青になった。なんせ、使い魔の儀式による事故とはいえ、これは間違いなく誘拐だからだ。

 その場に居合わせた全員がその“目撃者”であり、“当事者”である。そして、“責任者”であるコルベール、“実行犯”であるルイズは周囲よりもさらに顔色は悪くなっている。

 

 周囲が完全に動けなくなっていた中、ハッと先に我に返ったコルベールは慌てて貴族と思わしき少女へと駆け寄る。

 

 

「お、お怪我は御座いませんかっ!!?」

「うわわっ!? え、えぇと…は、はい…大丈夫、です……??」

 

 焦り過ぎてその剣幕により眼前の少女を驚かせてしまったことを強く失敗したと自分を責めるも、此処は努めて冷静に右手を差し出す。少女を立たせたところで一歩引いたコルベールはガバッと頭を下げた。

 

「まず、この度は本当に申し訳ございませんっ!!」

「え、えぇっ!? な、なんで急に…と、いいますか、あなたはその、えぇっと…」

 

 どうやら、まだ自分は動揺していたようだ。急に召喚されたんだ、順に説明してから謝罪するのが筋だというのに、なんたる失態。一先ずは、眼前の少女に自らの素性を明かすことにする。

 

「はい、自己紹介が遅れてしまい申し訳ございません。私はジャン・コルベールと申します。このトリステイン魔法学院で教鞭を執らせていただいております」

「あ、はい……はい? え、えっと…と、とりすていん…? それに、魔法、ですか…?」

 

 周囲が、そしてすぐ真後ろでルイズが固唾を飲んで見守る中、コルベールは少しずつだが緊張が緩んでいくのを感じていた。目の前の少女は、少なくとも癇癪持ちではなさそうだし、ある程度の教養もあるのか年上である此方に礼儀をもって接してくれる…まだ混乱しているから、そうなってる可能性もあるが。

 

 しかし、貴族でありメイジであれば誰でも知っているであろう『トリステイン魔法学院』の名前に疑問符を浮かべているその様子に、コルベールもまた疑問符を浮かべた。

 

「そうです…聞き覚えは御座いませんか? えぇと、ミス――」

「あっ、名乗るの遅れちゃってすみません…わたしはメルルリンス・レーデ・アールズです」

 

 アールズ…先ほどの爆発の影響か多少煤けてしまっているとはいえ、巧緻を極めたような衣服と杖を見る限りかなり高位なご令嬢と思っていたが、少なくともコルベールの頭にはその家名はヒットしなかった。

 

 ちら、と背後のルイズ、それから離れた場所で此方を見守っている赤髪と青髪、他国からの留学生である2人の少女にも視線を送るが、いずれも黙ってかぶりを振る。

 

「そうですか、ミス・アールズ。それで、えぇと…?」

「あ、さっきの学院名ですけど、ちょっと分からないです…えっと、ここはアールズ王国じゃないんですか?」

「…いえ、此処はトリステイン王国で御座います」

 

 ごく自然な流れだ。このまま本題に入り、改めて謝罪をすれば、少なくとも責任を取るのは自分1人で済むかもしれない。

 

 

 ………待て、“アールズ”王国、だって…?

 

 

 コルベールは、血色が戻りかけていた顔から再び血の気が引いていくのを感じた。そして、自身の観察眼の甘さを痛感する。

 

 コルベールが重大な“何か”に気付いた時、不意にリンゴほっぺな肥満体型の生徒――マリコルヌが『あっ…』と声を漏らす。

 

 生徒たち全員がマリコルヌを睨むように見るも、彼は見ちゃいけないものを見てしまったとばかりにガタガタ震える指先でメルルを――メルルの頭を指差した。

 

 

 全員の視線が“其れ”を捉えるのに時間は掛からなかった。

 

 可愛らしいピンク色で、しかし衣服や杖に負けない繊細な作りの其れ。

 

 被る物というより、ちょこんと頭に乗っている其れ。

 

 平民は勿論のこと、貴族であろうと戯れに被る事など決して許されない其れは―――

 

 

「――……お、王…冠…」

 

 

 その瞬間、完全に硬直したマリコルヌの腕を無理やり下げさせた、すぐ隣に立っていたキザな服装の少年――ギーシュの判断は間違いなく最良だろう。

 

 だが、それまでだ。全員が全員、先ほど以上に顔色を悪くさせ、佇んでいる他ない。

 

 

「も、申し訳ございません…御伺いさせて頂きたいのですが…ミス…いえ、貴方様は、もしや王族の方、でしょうか…?」

「えっ…? えぇ、はい。そうですけど…」

 

「「「「「ッッッ――――!!!」」」」」

 

 メルルが王族であることを認めた瞬間、空気が完全に凍り付いた。コルベールとルイズに至っては動いてはいるものの、真っ青を通り越して真っ白になったまま口をパクパクと動かしている。

 

 彼女の言葉が本当ならば――いや、本来はこうして疑いを持つこと自体不敬なのだろうが――これは立派な国際問題だ。

 一国の姫君を、貴族が…しかも公爵家の娘が、あろうことか使()()()()()()召喚してしまうだなど。

 

 

「それで、えぇっと…なんでわたし、こんなところに…?」

「っ…そ、れは…」

 

 ついに核心に迫る疑問をメルルは口にする。ビクン、と非常に分かりやすく肩を震わせたコルベールに幾つもの疑問符を浮かべつつも大人しく返事を待っていると。

 

「も、申し訳ございませんっ!!」

「えっ?」

 

 先ほどまでずっとコルベールの後ろで震えていたピンク寄りのピンクブロンドの髪をした少女――ルイズが、今にも土下座せん勢いで頭を下げてきた。間抜けな声を上げ目を白黒させたメルルであったが、周囲の視線は皆ルイズに注がれているのでメルルの動揺には気付かない。

 

「全部…全部私の責任です! 私が、『サモン・サーヴァント』で御身を召喚してしまったのが悪いんです!! 此処に居る皆やミスタ・コルベールは勿論、私の家族も何の関係もないんです!! 全部私個人の責任なんです!!」

「ミ、ミス・ヴァリエール…」

「えっ、いや、あの…」

 

 スカートの裾をぎゅっと掴み、頭を下げたままルイズは必死に叫んだ。この場に居る全員は勿論のこと、自らの家族にも今回の問題による火の粉が飛ぶことのないように、全てを自らの失態にして、死ぬ気なのだ。

 コルベールは、そんな彼女に対して何も言えなくなっていた。この幼い少女は、既に腹を括っている。しかし…ならば、ならばこそ、コルベールは再びメルルに向き直り、自らもまた頭を下げる。

 

「いえ、今回の使い魔召喚の儀式における監督、責任者は私です。 メルルリンス姫、どうか今回の責任は、全てこの私1人に負わせてはいただけませんでしょうか」

「ミ、ミスタ・コルベール! ダメです! これは私の責任で…!」

「いえ、ミス・ヴァリエール。貴方こそ口を噤むのです。私はもう十分生きました、心残りは無いわけではないですが…生徒の命を護る為ならば私の命だなど安いものです」

「で、でも…!」

 

「あ、あのっ…!!」

 

 メルルを尻目にルイズとコルベールはお互いに責任は自分にあると争い合う。それはぶっちゃけなによりも不敬な行いなんだろうが、2人は必死になり過ぎて気付いていない。

 しかも、そんなルイズとコルベールを見て周囲の生徒には何かに感化されたかのように泣いている者もちらほらと。

 

 らちが明かない、そう考えたメルルは、ついに叫んだ。するとその途端、ルイズとコルベールは勿論のこと、周囲の全員がビシッと背筋を伸ばす。

 

 …何だろうか、いい年こいて胸元の開いたコートを着る自称騎士のあの人が沢山いるように思える。

 

 

「えぇっと…よく分かんないですけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、もっと分かりやすく状況を教えてもらってもいいですか…?」

「なっ…!?」

 

 メルルからすれば当たり前のように放った一言に、その場の全員がざわついた。姫を拉致してしまったというのに、責任を追及する気はないなどと…無論、そんな口約束を完全に信じることはできないが、コルベールにはメルルが嘘を言うとは思えなかった。

 

「し、しかし…過程は後で勿論ご説明させていただくとはいえ、結果として我々は貴方様を誘拐してしまったことになるのですぞ…?」

「はい、それもあまり実感はないんですけど…わざとではないんですよね?」

「そ、それは勿論! 始祖ブリミルとヴァリエールの家名に誓って、わざとではありません!」

「なら、別にいいですよ」

「えっ…で、でも、あの…」

 

 あまりにもあっさりと出た赦免の言葉に、ルイズは勿論その場の誰もが困惑してしまう。

 

 …まぁ、内心で一番困惑しているのは他ならぬメルル本人なのだが。

 

 なんせ、今まで彼女は『姫』という扱いを受けたことが非常に少ないのだ。無論、国の民は自分の事をメルル“姫”と呼びはするものの、互いの関係性は非常にフランクで、友人のようなものだ。

 

 例外としてはやはり城に仕える兵士や執事…後は、さっきもちょっとだけ触れた自称騎士くらいか。

 

 無論、姫として畏まった場所での振る舞いなどに関する最低限の教養はあるとはいえ、他国であると分かった以上『姫』の肩書など無いに等しいと…このお姫様はそう考えている。

 

 

「気にしないでください。わたしは()()()()()()で怒ったりなんてしませんから」

「お、おぉ…!」

 

 邪気など一切感じられない、まさに太陽の如き笑みはその場に居る誰もを魅了した。

 

 人口僅か500人の小国を、場合によって10万人以上にする彼女のカリスマ性は伊達ではないのだ。

 

 ただ、この時点で彼女達の間にはまだ幾つものすれ違いが起こっている。それらをすべて解消せねばなるまいと、コルベールは小さく咳払いし、気を引き締め直すのだった。

 

 

「そ、それでは、メルルリンス姫、早速事情の説明をさせていただきたく存じます。尽きましては非常にお手数ではございますが、当学院の学院長であるオールド・オスマンのもとへとご案内させていただきたいのですが…」

 

「あ、はい、構いませんよ。それと、えーと…ハゲル…じゃなくって、コルベールさん? わたしの事は気軽にメルルって呼んでください」

「な、なんですとっ!?」

 

 一瞬顔馴染みの武器屋さんの名前が出てきそうになる…というか完全に口にしてしまうも慌ててそれを呑み込み、メルル的にはさも当然の流れとして略称で呼んでほしいと頼む。

 しかし、これはコルベールは勿論のこと、この場に居る全員にとって驚愕的な発言である。

 王族が貴族や平民に敬語を使う。それ自体はまだ許容が出来る。寧ろ、メルルの教養の良さを感じさせている。

 

 しかし、略称で呼ぶというのは異常だ。貴族と王族という壁を取り払うかのような行為、しかもそこに一切の下心など感じず、純粋な友好的行為であると分かると、その動揺はなおさらである。

 

「い、いえ、しかし…流石にそれは、恐れ多すぎて…教師の立場というものも御座います。申し訳ございませんが、このままの呼び方を続けさせていただくことを平にご容赦くださいますと幸いで御座います」

 

「う~ん…そうですか…わかりました、こっちこそ無理言ってごめんなさい」

「!!? い、いえそんなっ! 私如きに頭を下げるだなどっ!?」

 

 これもまたメルルにとっては当然の行動、しかし彼らからすればそのどれもこれもが驚きの連続で、無意識のうちに精神的体力をガリガリと削っている。

 

 

「…そ、それではご案内させていただきます。ミス・ヴァリエールも「は、ひゃいっ!!?」……どうぞ一緒に来てください。他の生徒諸君は、一足先に教室へ戻っている様に」

 

 ルイズはコルベールと比べるとまだガチガチに緊張しているようで、名前を呼ばれただけでかなり大きく返事をしてしまった。最早この程度、メルルリンス姫にとっては不敬に値しないのだろうと予測出来ていても心臓に悪い。

 

 寂しい頭頂部を輝かせる冷や汗を拭いながらも先導するコルベール、杖を広い興味深そうにきょろきょろと周囲を見渡しながらもその後をついていくメルル、関節部分が錆び付いた機械人形のようにギクシャクとした動きで最後尾を歩くルイズ。

 

 それらの人影が完全に消えた時、漸く取り残された生徒たちは緊張を解き、中には完全に脱力してへたり込む者も出るのであった。

 

「き、緊張したぁ…」

「うわ、もう凄い汗掻いちゃったよ…」

「『ゼロ』のルイズ、本当にやらかしたな…」

「でもあの子、私たちの事庇ってくれたわよね…」

「うん、コルベール先生もちょっとカッコよかったな…」

「可愛い…」

 

 それぞれが思い思いの感想を漏らすも、不思議とそこにはルイズに対する侮蔑や嘲笑は無かった。そんな余裕がないというのもあるのだろうが、やはりすべての責任を自分で負おうとするあの姿が印象に残っていたようだ。

 

 

「はぁ~…ガラにもなく緊張しちゃった。まったく、『ゼロ』のルイズったら本当にとんでもないことやらかすんだから…」

「…」

 

 やがて、誰ともなく教室へと戻っていく中で、それらの輪から少し離れた位置にいる2人の少女が会話をする…と言っても、基本喋るのは赤い髪の少女――キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー――なのだが。

 隣で木に寄りかかる青髪の少女――タバサ――は、膝に乗せ読み続けていた本に栞を挟んで閉じ、じっとメルルの去っていった方角を見つめる。

 

「…あら、どうしたの?」

「…さっきの子」

「“子”って…まぁ、確かに他国なんだし、本人も姫扱いはあんまされたくなかったみたいだからいいか…それで、あの子がどうかしたの?」

「…この子を見て、一瞬身構えてた」

「…きゅい?」

 

 抑揚のない声で呟くタバサは、隣でさっきから自分に頬ずりしてくる青い鱗のドラゴンに視線を向ける。

 

「ふぅん…別に普通なんじゃない? 急に召喚されて、視界にドラゴンが入れば、そりゃあ流石に驚くんじゃ…」

 

 軽く肩を竦めたキュルケであったが、タバサはそういうことではないとかぶりを振って。

 

「…隙が無かった。それに、()()()()()()()()()()カゴの中に手を入れてた。“何か”をいつでも取り出せるように」

「嘘? カゴなんて持ってた? 全然見てなかったわ…」

「私も信じられない。移動する時には杖しか持ってなかった」

 

 その言葉に一抹の不安を抱き、キュルケもまたメルル達の去っていった方角へと顔を向け、己の豊満の胸の前に置いていた右手で拳を作る。

 

「(ルイズ…アンタ一体何者を呼び出したのよ…)」

 

 己が緊張する原因を作った少女に心の中で悪態を吐き、そして同時に心配しながらも、やがて2人の少女もまた教室へと戻るのであった。

 

 




 
つまり全部アストリッドが悪い。


 ~メルルのアトリエを知らない人の為のアイテム説明~
【手編みのカゴ】
 ピンク色の下地が可愛らしい文字通りの手編みのカゴ。攻撃・回復用のアイテムや採取した素材をこの中に入れる。“ジャンボサイズ”の手編みのカゴは大きさや重さなど関係なく最大100個までアイテムを入れられる。

【トラベルゲート】
 採取地から一瞬でアトリエに戻ることの出来るとんでもアイテム。見た目は青白く発光する輪っか。地面に置いて使うようだが、どうやって回収しているのだろうか。今回はあまり役に立たない。

【秘密バッグ】
 青い猫の形をしたバッグ。おなかのチャックがアトリエにあるコンテナに繋がっている。そこが例えどれだけ離れた採取地だろうと、どれだけ離れた異世界だろうと…メルルは大きすぎて入れない。

【杖】
 正式名称・新世界の杖。錬金少女の杖は流石に自重しました。


~キャラクター説明とルイズ達との今後~
【アストリッド・ぜクセス】
 全ての元凶。かなり傍若無人でとんでもないことを次々とやらかすが、『アストリッドさんなら仕方ない』で大体済ませちゃう。
 後に異世界に居る筈のメルルに次元の壁を越えて連絡を取る為のアイテムを作り、彼女のサポート(?)をする…といいなぁ。
 レベル:?? 交友値:??
「やれやれ、弟子3号よ、お前は『縛りプレイ』というものを知らんのか? …よし、『秘密バッグ』は使用禁止だな」
「そ、そんなぁ!?」

【シエスタ】
 ケイナ枠。メルルのお世話係に任命される。当初は『ルイズが使い魔として召喚してしまった異国の姫君』ということでかなり緊張しまた怖がっていたが、メルルの庶民的で且つ常識的、そして裏表のない明るい性格に惹かれて良き友人となる。
 ただ、たまにメルルを見る目が熱っぽくなるのは、『人気者』ルートを進んだ時のケイナみたいだ。
 初期レベル:1 交友値:10
「よろしくお願いしますね、メルル様」
「もー、2人きりの時はメルルでいいってばぁ!」

【ギーシュ・ド・グラモン】
 例の『香水事件』でシエスタを責めていたところを、シエスタと同じメイド服を着て手伝っていたメルルに見咎められる。メルルだとは気付かずに決闘を申し込み、『七色の力』を始めとする特性を持ったメルルの杖で『ワルキューレ』をボコボコにされる。
 その後、メルルの王族として民を心から愛する姿勢などに惹かれ自分を恥じ、ギーシュにとってメルルは、アンリエッタに次いで敬愛する姫君となる。
 初期レベル:5 交友値:5
「うに~!」
「…く、栗…?」

【モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ】
 ギーシュを通して交流を得る。
 メルルの“調合”に深い興味を抱き、後にルイズ達と同じくしてメルルに師事する。
 『錬金術士のお茶会』にはまだ慣れない模様。『マグロの目玉パイ』が無いだけ遥かにマシである。
 初期レベル:5 交友値:0
「美味しい…美味しい、けど…この『メレンゲのパイ』、材料は何だったかしら?」
「ん? えっとー…シャリオミルク、ハチミツ、小麦粉…あと、“何かのタマゴ”だね!」

【マルトー】
 出会った当初は特別扱いされている王族として色眼鏡でメルルを見るも、すぐにその人柄に触れて、彼女を崇拝するようになる。
 曰く、『我らの姫』。老後はアールズ王国(アーランド共和国)に移り住みたいと考えている模様。

【デルフリンガー】
 まさかのあの人枠。CV.小杉十郎太
 ジョゼフ?知らない人ですね。
「おぉ…貴方様は『使い手』…しかも、もしや『姫君』であらせられますか!? このデルフリンガー、メルルリンス姫に深き忠誠を…!」
「え、えぇー…」

【ミス・ロングビル(『土くれ』のフーケ)】
 『破壊の拳』を巡る騒動でメルルと対峙。ゴーレムで圧倒しようと試みるも、生きた巨大樹から火山の化身まで倒したメルルを筆頭にルイズ達と力を合わせ、最後はリュックサックから飛び出した『破壊の拳』という名のボクシンググローブで破壊され、『破壊の拳』を奪うもあえなく捕まってしまう。
 因みに『破壊の拳』はオスマンがかつて出会った『自称・異能の天才“かがくしゃ”』の落とし物とのこと。


 あくまでも妄想です。

 
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