メルル&ルイズのアトリエ~ハルケギニアの錬金術士~ 作:ジェイソン@何某
本当は後編のつもりだったんですけど、予想以上に長くなってしまったので中編に…そうすっとそれはそれで後編が短くなりそうな予感がががが
ただの談合です。何が面白いんだこれ←
多分後書きの方が面白いと思います(ぁ
2年生進級の為の使い魔召喚の儀式。
基本的には監督の教員にすべてを丸投げし、自分はその報告を受けるだけなのだが、書類仕事に追われていた為ほんの息抜きにと秘書を説得し、自らの使い魔に様子を見に行かせたのがそもそもの間違いだった。
「(……いや、この場合は幸運だったと捉えるべきじゃろうな…)」
事前に知れたんだから良い事良い事、と自分自身を慰めているのは、白い長髪と、そして同じく白く長い髭を蓄えた老人。
このトリステイン魔法学院の学院長を務めている、オールド・オスマンその人である。
専用の高級机に両肘を突き頭を抱えるその姿は、お世辞にも100年以上の時を生きていると噂される伝説のメイジの其れではない。
そして、学院長室であるこの部屋でうんうんと唸るオスマンの事をなんとも言えない表情で見守っているのは、翡翠色の髪と理知的な眼鏡が特徴の美人秘書、ミス・ロングビルである。
「オールド・オスマン…あの、大丈夫ですか…?」
オスマンは始め、遠見の鏡を使って使い魔召喚の儀式を見ようとしていたのだが、ロングビルに『それだと自分まで仕事に集中できない』と注意されてしまい、仕方なしに自らの使い魔を頼ることになった。
それ故、彼女は使い魔召喚の儀式で起こった出来事を知らないのである。
「あぁ、あぁ、大丈夫じゃよ…どうせ、もうじき君も大丈夫じゃなくなるだろうがの…」
「はっ…? え、えぇと…?」
何も知らないって気楽でいいね、でも君は道連れだよ? …なんてばかりににっこりと微笑むオールド・オスマンの迫力に呑まれ、ロングビルは
―――…そして、いよいよその時は訪れることとなる。
コンコンコン、と扉をノックする音が響き、オスマンはびくんと肩を跳ね上げた。その様子に疑問符を浮かべるロングビルも、やがてはオスマンの指示で扉を開けて。
「し、失礼いたしますっ!」
「あら、ミスタ・コルベール。まだ授業中の筈では…?」
扉の先には、背筋をピンと伸ばし、不自然すぎるほどに緊張した面持ちのコルベールの姿があった。疑問を口にしたロングビルであったが、オスマンは『いいから中に入れなさい』と妙に急かしてくる。
「(一体何なんだい…?)」
彼女の頭の中では、
しかし、中に入ったコルベールの後に続く少女を見て、その疑問は霧散した。
「(これは…)」
衣服に、杖に、何から何に至るまでもがこの学院のどの生徒よりも上質な物に包まれたその少女に、ロングビルは頭の中にあるソロバンであれらの衣服を売っぱらったら幾らになるのかを計算する。
そして、その後で漸く先程とは別の疑問が浮かんだ。この少女は一体誰だ、と。
「し、失礼します」
少女――メルルも、こういった場所ではさすがに緊張するのか少しばかり体が硬い。とはいえ、そんな彼女の緊張も、その後ろから数歩遅れてやってくる少女に比べれば遥かにマシだろう。
「し、ししし、し、しつれいししままます…」
一介の生徒ならまず訪れる機会などないであろう学院長室。そこに、『異国の姫君を使い魔として召喚してしまった』という理由で訪れることになるだなんて、誰が予想出来ただろうか。
今のルイズにとって、この学院長室は裁判所であり、場合によっては処刑場にもなり得る場所なのだ。ギクシャクとした動きになるのも無理はあるまい。
幸いにして、今のところメルルは非常に寛容な心でもって自分のした所業を責める気配はない。しかし、事情をすべて理解した時もそうとは限らない。こんなこと言ってはなんだが、ルイズは今程真剣に、そして強烈に始祖ブリミルに祈ったことは無いだろう。
「さて…」
メルルは、オールド・オスマンに促されるがままに来賓用の高級ソファーへと腰掛ける。向かい合う形でオールド・オスマンが座り、その傍らにミス・ロングビルが立つ。
コルベールとルイズは壁際に立ち、ルイズの…いや、下手をしたらこの国の将来にも関わるであろう話し合いを、固唾を飲んで見守ることになるのであった。
「まずは自己紹介をしようかの。儂…いや、わたくしの名はオスマン。このトリステイン魔法学院の、学院長を務めさせていただいております」
そう言って深々と頭を下げたオスマンを見て、隣に立つロングビルは驚いたように目を見開いた。その立場上滅多に頭を下げることなどない彼が、自己紹介として、礼儀としてとはいえ頭を下げるだなど…ますます、眼前の少女が何者なのか困惑するも、オスマンの口によりロングビルの事も紹介された為、一先ずは大人しく頭を下げる。
「あ、えぇと、わたしはメルルリンス・レーデ・アールズです。よ、よろしくお願いします…」
「うむ。よろしくお願いいたしますぞ、メルルリンス“姫”」
「っ…!?」
思わず『はぁっ!?』と叫びそうになったところを、必死に我慢する。それでもソファに座るオスマンに横目で睨まれるも、ロングビルとしては動揺してそれどころではなかった。
「(いや、待てよ…?)」
ふと、此処でロングビルは先ほどのオスマンの態度を思い返す。あんなに陰鬱な雰囲気を纏わせたのは、彼が使い魔召喚の儀式を覗き見しだしてからだ。
まさか…と一つの考えが過ぎり、ロングビルは僅かに顔色が悪くなった。
これにより、メルルを除く全員の顔色が悪くなった事となる。
「うむ。それでは、メルルリンス姫…早速ですが、此度の事情をすべてご説明させていただきますぞ」
「あ、はいっ! よろしくお願いします」
こうして、メルルはオスマンにより今回の騒動のあらゆるを知ることになる。度々メルルは『メイジ』や『魔法』という言葉に驚いたような、きょとんとしたような表情を浮かべるも、それを訝しむ前に全ての説明をすべきだろうと、後回しにして。
「な、なるほどー…使い魔召喚の儀式、ですか…」
「はい。この度は、まことに…まことにご迷惑をお掛けいたしました。頭を下げただけで済む問題でないことは重々承知しておりますじゃ…このような老いぼれの首であれば、喜んで献上いたします所存…何卒、何卒ご寛大なる処置を、お願い申し上げます」
誰もがオスマンの言葉に横槍を入れる事だなど出来なかった。ただ、その場に居る全員がオスマンと同じく――ルイズはそれ以上に――深々と頭を下げ、メルルの
「…も、もうっ。みなさん頭を上げてくださいよー! 故意じゃなくて事故なんですから、そんなに謝る必要なんてないですよー! …それに、誰が一番悪いのかも分かりましたし…」
緩みかけた緊張が再び場を支配する。一番悪いのは誰だ? 客観的に見て一番の原因であるルイズは、プリーツスカートの裾を掴んでその瞬間を待つ。
「…アストリッドさんです! 全部アストリッドさんが悪いです!」
むきー、なんて両手を上げて怒りを露わにしたのは、この場にはいない誰かに対して。恐らくは彼女のもと居た地の知人か何かなのだろうが…そのアストリッドなる人物に、彼女は怒りよりも一種の諦めに近い感情を抱いている様に見える。
まるでそのアストリッドなる人物なら仕方ない、と言わんばかりに。
なので、オスマンは敢えてアストリッドなる人物には触れないでおいた。
「…そう仰っていただけると、とてもありがたいものですのぉ。さて、それでは一通り説明し終えたところで…まことにお手数ではございますが、いくつか質問をさせていただいてもよろしいですかな?」
「はい、いいですよ」
「ほっほっほ、ありがとうございます。ではまず…アールズ王国とは、どの辺りに位置する国なのでしょうかの? このような言い方をしては大変失礼になるのは承知ですが、『アールズ』なる国を私は、寡聞にして聞かぬのです」
「オ、オールド・オスマン…!」
長い時を生きてきたオスマンを持ってもしても、『アールズ王国』という国の名前は聞いたことが無かった。しかし、それをわざわざその国の姫君に馬鹿正直に告げるだなど、田舎の国だと愚弄していると受け止められかねない。
故にこそコルベールを始めとする3人は顔を真っ青にするも、オスマンと向かい合うメルルの表情は眉尻を下げ困ったように笑うだけで。
「あはは、それは仕方ないと思います。わたしの国は大陸の隅っこにある、物によって地図にも載ってないような小さな国ですから」
「ほほう、因みに国の規模としてはどれくらいなのでしょうかの?」
「えぇと、数年前までは人口500人くらいしか居ませんでした」
成程、確かにそれはかなりの小国だと全員が納得しかけるも、メルルの言葉に引っ掛かりを覚えたオスマンは鋭くそこを指摘する。
「…
「あぁ、えっと…今はかなり国が発展して、人口は、えぇと…10万人くらいまで増えたんです」
「なんと…っ!?」
一体全体何をどうしたらそんなに発展するというのだろうか。まるで嘘のような話だが、彼女が語ると自然とそうは思えなくなってしまう。
先ほどと打って変わって全員が驚愕の表情を浮かべる中、その国の発展に大きく貢献した張本人はきょとんとした表情を浮かべるばかりだ。
「こ、こほん…まぁ、よく分かりました。では、近いうちにそちらの国に報せを送りたいのですが…」
「あ、えぇっと…アールズはアーランド共和国のずっと北西にあるんですけど…」
「…? 失礼、アーランド共和国とは…?」
「へっ? アーランドはアーランドですよ、アールズに比べればずっと大きな国の筈ですけど…」
その言葉を受け、オスマンはコルベールたちに視線を向けるがやはり首を左右に振るばかり。もしや、という考えが脳裏を過ぎり、オスマンはゆっくりと口を開いた。
「…メルルリンス姫、姫は『トリステイン』、『ゲルマニア』、『ガリア』、『ロマリア』、『アルビオン』と聞いて、ピンとくるものはございますかの?」
「えっ? えぇ~と…ごめんなさい、全部聞いたことが無いので、なんとも…」
「ほう…」
「なっ…」
やはりか、とでも言うように髭を撫でるオスマンに対し、メルルを含む4人は動揺していた。コルベール達からすればメルルは世間知らずとかいうレベルではないほどに異常で、メルルからすればアーランドを知らない彼らの方こそ異常という形になっている。
「これは…思っていた以上に厄介な問題になるかもしれませんのぉ…」
「えっと、どういう事なんでしょうか…」
「此処に居る誰もが、メルルリンス姫がお暮しになっていた『アールズ王国』は勿論、先ほど仰っていた『アーランド共和国』を知らぬのです。儂らが知らぬ以上、他の教員や生徒も恐らくは知らぬ可能性が高いでしょうな。そして、メルルリンス姫もまた『トリステイン』を始めとする大国の名前を知らない…『ロマリア』まで知らぬとなれば、自ずと導き出される答えは1つ…」
「…」
ゴクリ、と全員が唾を飲む。胸に浮かび上がった予想を、オスマンが否定してくれることを信じて。
「…メルルリンス姫は、遥か東方のロバ・アル・カイリエに存在する王国の出身なのやもしれませぬ」
「「「なっ…」」」
「ろ、ろば…?」
残念ながら、オスマンの言葉は彼らの抱いた不安を肯定する結果となった。驚愕を通り越して絶句する一同を余所に、当事者たるメルルはいまいち状況を掴み兼ねている模様。
「ロバ・アル・カイリエ…ここトリステインよりも遥か東の地に存在しておりましてな、正直に申し上げますと、もしもメルルリンス姫の王国がそちらにあるのであれば、お送りするのはおろか連絡をとる事すらも難しいやもしれませぬ」
「え…えぇっ!? そ、そんなぁ…なんとかならないんですかっ!?」
「残念ですが、現時点ではほぼ不可能ですな…」
ここにきてぶち当たった大きな壁に、メルルを含めた全員が消沈する。特にルイズに関しては、解決しそうになっていた問題にかなり大きな障害が出来たのだ、その絶望感はかなり強いだろう。
だが…
「う~ん……そっかぁ…なら、仕方ないですね」
「え…?」
「もともと、そのロバ…なんとかって場所にアールズ王国があるのかどうかも分からないですし、仮にあったとしても此処で悲観してたって何にもならないですから! ここはポジティブに考えることにします!」
なんという器の大きな少女なのだろうかと、その場に居た誰もが感嘆する。まるで
「ほっほ、そうですか。であれば、我々トリステイン魔法学院もメルルリンス姫に対する支援は惜しみませんぞ。何かご要望があれば、遠慮なく言って下され……ただ、折り入って一つお願いしたいことがあるのです」
「…? お願い、ですか?」
「っ…オールド・オスマン…まさか…」
トリステイン魔法学院として、メルルが己の故郷を探し、そして帰るための手段を探すのに全面的に協力するのは当然のことだ。
しかし、オスマンは決してそれだけで話を終わらせるつもりはなかった。そもそもここで話を終わらせてしまったら、もう1人の少女を此処に連れてきた意味が無くなってしまう。
それを察したコルベールを右手で制し、佇まいを直したオスマンは、再び深々とメルルに頭を下げた。
「メルルリンス姫…
「なっ…!?」
「オ、オールド・オスマン!? な、なんて事を…ッ!?」
「えっ? えっ?」
「………えぇぇぇぇぇぇっっっ!!!??」
告げられた言葉の意味を咀嚼するのに時間がかかり硬直するメルル。瞬時に言葉の意味を理解しオスマンに抗議の声を上げるコルベールとロングビル。そして、まさかの事態に大きく取り乱すルイズ。学院長室は、何時にない混沌とした空間へと変貌した。
「お、お、おお、オールド・オスマン!! そ、しょ、しょんにゃ…そんなことっ! お、お、畏れ多いですっ!!?」
「ミス・ヴァリエールの言う通りです! 遥か遠方といえど、一国の姫君に…貴方は“使い魔になれ”とおっしゃるおつもりなのですかっ!!?」
「へっ? 使い魔?」
「うむ、その通りです。貴女には母国へ帰るまでの期間、そこにいるミス・ヴァリエールの使い魔としてこの学園で過ごしていただきたい」
声を荒げるルイズとコルベール、ロングビルを無視して、顔を上げたオスマンはメルルの目を真っ直ぐ見つめる。『使い魔の儀式』によって自分が呼び出されてしまったことは分かっている。
とはいえまさか本当に使い魔となることを頼まれるとは思ってもおらず、メルルも目を丸くして固まってしまっている。
「え、えぇっと…それは、わたしじゃないとダメなんですか?」
「残念ですが、『使い魔召喚の儀式』は神聖なもの。一度召喚が成功してしまった以上、やり直しは認められぬのです。勿論、使い魔になるというそれは強制ではございません。ございませんが…」
「せんが…?」
「…ここで貴女に断られてしまうと、ミス・ヴァリエールは2年生に進級できずに留年となるでしょうな…」
「えっ、…う、うそっ!?」
苦々しい表情で告げられて、メルルは驚愕と共に視線をルイズへと送ると、彼女はびくりと肩を跳ね上げ縮こまる。
「(ったく…いい性格してるね、ほんと)」
そんなやり取りを見ていたロングビルは心の中で毒づいた。オスマンの言動は、完全にメルルの寛容さ、人の良さを利用しているからだ。
まぁ、ロングビル自身そういった事は少なからず…というか、かなり沢山やってきた自負はあるが、王族相手にそんな危ない橋を渡るなんて、流石に御免だ。
「う、うぅん…その“使い魔”っていうのは、一体どういうものなんですか…?」
「む…? 貴女の王国では使い魔を使役しないのですかの…? まぁ、早い話が呼び出した主人の良きパートナーであり、その背中を支える存在ですな。多くは犬、猫に始まる動物から、グリフォン、ドラゴンなどの幻獣まで様々なのですが…あぁ勿論、基本的には我が学院の賓客として扱わせていただきますが」
つまりはルイズを進級させるための肩書として“使い魔”になることをメルルに望んでいるわけで、扱いそのものは寧ろ最上級のものを約束する、と。
しかし、メルルは困ったように唸っている…寧ろ、此処で即断らない当たり人が良いにもほどがあるとロングビルは半ば呆れるが。
「(う~ん…ホムくんたちみたいなものなのかなぁ…)」
「オ、オールド・オスマン! 私の事はどうかお気になさらずに! …メルルリンス姫に“使い魔”になることを強いるだなんて、私には到底できません」
「しかし、ミス・ヴァリエールよ、分かっておるのか? お主はここトリステインの公爵家の人間じゃ。使い魔召喚の儀式に失敗して留年が確定すれば、それ即ち退学が確定したも同然なんじゃぞ?」
そんな2人のやり取りに、案の定ルイズは待ったをかける。まぁ当事者なんだから黙って聞いているわけにもいくまい。
此処でさり気無くルイズが公爵家だとアピールしたあたり、本当にいい性格をしている爺だ。
現にメルルは、公爵家の娘だと分かったルイズを見て固まってしまっている。事の大きさをやっと理解したのか。
「勿論分かっています。それでも、一国の姫君を使い魔にだなんて…」
「先ほども言ったが、それはあくまでも形式上のもの。儂らとてメルルリンス姫を本気で使い魔として扱う気などないわい。…まぁ、最後に決めるのはメルルリンス姫じゃ、頼むだけタダじゃろう?」
「(タダじゃない、タダじゃないですぞオールド・オスマン!! 国 際 問 題ィィィィ!!!)」
そこまで言って、ルイズは漸くメルルの方を見つめる。本来の彼女らしい勝気な性格も、流石にこの場所では完全に鳴りを潜めてしまっている。
ルイズに続きオスマンが、コルベール――心なしかげっそりしてる――が、ロングビルが、全員がメルルの返事を待つ。それらの視線を受け止め、やはりメルルは困ったように両手の人差し指をツンツンと突き合い
「す、すみません…少しだけ、考える時間を貰ってもいいですか…?」
頬を掻いてあはは、なんて乾いた笑みを零す。
本来ならば即座に断るべきだろうとは自分でも分かってはいるのだろう。なんせ彼女の生まれ故郷である国はもうすぐアーランドと合併して無くなってしまうのだし、何より自分が行方を眩ませたことを知っているのはアストリッドただ一人だけなのだ。
…いや待て、彼女なら錬金術で自分の身代わりなんかを当たり前みたいに用意してしまいそうだ。それはそれで怖い。
まぁ、それでも保留にしてしまったのは、やはり彼女の持つ優しさと…優柔不断さのせいか。
オスマンはこの場で断られなかっただけでも満足だと言わんばかりに柔らかな笑みを浮かべ、頷いた。
「勿論ですとも。しかし、少なくとも数日のうちにお返事をいただけるとありがたいですがの……まぁ、前向きに考えていただけたら幸いじゃ」
「は、はい」
「うむ…では、返事はさておきこれからメルルリンス姫には暫くの間この学院で過ごしてもらうことになるのじゃが…ミス・ロングビル。寮内に良い空き部屋は無いかの?」
「はい、既に候補を幾つかピックアップ済みですわ」
ロングビルは思考を優秀な秘書の其れに切り替えて、先ほどから密かに確認していた寮の空き部屋にチェックを入れた紙をオスマンに渡す。ふむ、と髭を撫で付けながらもその書類に視線を落としていたオスマンは、やがて小さく口元を綻ばせるとメルルに視線を戻す。
「これまた、御誂え向きですな…メルルリンス姫、候補は幾つか御座いますが、メルルリンス姫には是非ともこの…ミス・ヴァリエールの隣の部屋でお過ごし願いたい」
「(お、おお、オールド・オスマンんんぅぅぅ!!?)」
いくら王族相手の談合などに慣れているとはいえ、この短時間で余りにもずけずけと物事を進めていくオスマンの姿勢に、コルベールの頭皮は耐えられるだろうか…多分無理だ。
因みに、オスマンが指さしたのはキュルケとはまた反対の隣の部屋である。
「えぇっと…ちょっと実際にお部屋を見せてもらいたいんですけど、大丈夫ですか?」
メルルとしては別に部屋を宛がってもらえるというのであればそこが最上階だろうがなんだろうが関係なかった。重要なのは、そこの広さと風通しの良さだ。それと…
「あ、それからこっちは後ででもいいんですけど、“調合”に使える釜ってありませんか?」
メルルは今、『メイジ』と『錬金術士』をごっちゃにして考えている。自分の生まれ故郷とかなり離れた異国の地という事で、多分呼び方が違うんだろうな、なんて軽く見ていた。
そしてここは錬金術士の学校で、少なくとも、ちらりと見た青い髪の女の子は間違いなく錬金術士だろうとも勘違いしている。だって“杖”持ってたし。
ならばこそ、錬金釜だってある筈だとそう考えていた。
「“調合”ですかな? ふぅむ…分かりました、使用人にご用意させましょう」
「(やった! さすが錬金術の学校だね!)はい、よろしくお願いします!」
周囲がいい加減に胃痛を訴えようかと悩んでいる中で、メルルとオスマンの話は着々と進んでいく。
そして
「――…では、現時点ではこんなところですかの。また何かご用件があれば遠慮なく言って下され、学院長室はいつでも開いておりますからのぉ」
「はい、わかりました! それじゃあ、えぇっと…」
「ご案内は私が務めさせていただきますわ。 ミス・ヴァリエールも、一緒について来て下さい」
「は、はいっ!」
一通りの話し合いは終わりを迎え、席を立ったメルルとオスマンは互いに一礼をする。その後、一歩前に進み出てきたロングビルの言葉に頷くと、メルルとルイズは大人しく後をついていき学院長室を後にする。
3人分の足音が完全に聞こえなくなったのを確認し、学院長室に残った2人は一気に脱力する。小走りで綱渡りするかの如く一国の姫君相手に交渉を行っていたオスマンは当然として、それを横で見ていたコルベールなんかはもう冷や汗を拭うハンケチがビッショビショだ。
「……はぁぁぁぁぁ…もう、めっちゃ疲れた。もうヤダ儂、今日は帰って寝たい」
「それは此方の台詞です、オールド・オスマン…いくらなんでも、一国の姫君に“使い魔になってほしい”だなどと…」
ソファーにうつ伏せになり、クッションを抱えていやいやと首を振る齢300の好色爺を冷ややかな目で見降ろしていたコルベールは、『それにしても…』と視線を扉の方へ向け
「アールズ王国のメルルリンス姫、ですか…私の抱く“王族の姫君”のイメージとは、随分とかけ離れた御方でしたな…」
「うむ、同感じゃな。まぁあの若さじゃ。まだ
それこそ、絵本に出てくるような典型的な“おてんば娘”のような快活さや、こう言っては何だが…庶民的な空気すら感じられた。
しかし、少なくとも平民でないことは間違いないだろう。
流石にディテクト・マジックを使うような真似は出来なかったが、彼女の纏う衣服や杖からは、
「ロバ・アル・カイリエの国の姫君というのは、存外間違いでもないのかもしれませんね…」
「ほっほ、とはいえ、それ以外の位置に存在する小国である可能性もまだ残っておる。良いかのハゲル君、かの国の事は
「…かしこまりました。 あと、私はコルベール、です!」
万が一、ルイズの使い魔になることを承諾してくれたその時には、ポーズとしてしっかりと調べはするも、出来るだけ彼女が帰るその時を引き延ばすつもりのようだ。その意図を見抜いたコルベールは腑に落ちないながらも了承の意を示すのであった。
「(魔法成功率0、故に『ゼロ』などと呼ばれる少女が、異国の姫君を召喚、か…さて、メルルリンス姫は…そして、ミス・ヴァリエールは、果たして何者なのかのぅ…)」
長い白髭を撫で付けながら、オスマンはその目を細め思考する。その姿は、トリステイン魔法学院の最高責任者である賢者として相応しい、深い知性を漂わせていた。
―――クッションを抱いてさえいなければ、完璧だったのに。
メルルの魅力をもっと引き出したい…!!
畜生め、無理やりギーシュとの決闘でも捻じ込むか←
【こういった理不尽】
後に過去にまで飛ばされちゃうメルル姫なのでした。
~キャラクター説明とルイズ達との今後②~
【オールド・オスマン】
多分メルルが来て暫くの間は胃薬を常備するようになる。モンランシー大歓喜。
メルルを相手にかなり大胆な交渉をしてるのを見るに余裕があるようで、実は一番気が気じゃなかった。
それでも伝説クラスのメイジとしての威厳を保とうとするあたり、コルベールとロングビルの評価がほんの少しだけ上がる…が、ストレスを解消するためのセクハラが酷さを増し、結局大暴落する。
【ジャン・コルベール】
ハゲル枠。オスマン同様暫くは胃薬が手放せなくなり、毎朝起きてから枕にある抜け毛を確認するのが怖くなる。しかし、メルルの不可思議な“調合”と“マジック・アイテム”に夢中になり、結果気苦労はオスマン1人に押し付けることに。
残念ながら錬金術士としての才能は無かったが、最終的に溶鉱炉などの機材をメルルや学院に用意してもらい、工房でルイズ達の武器・防具を作る手助けをする。
初期レベル:30 交友値:0
「メ、メルルリンス姫…この、錬金術というものは、頭皮に効く薬なんかは…」
「…い、いやぁ、流石にそれは…あはは…」
【ウェールズ・テューダー】
初対面の時危うくメテオールで船ごと落とされそうになってしまった人。
ルイズとメルルを見るワルドの瞳に何かほの暗いものを感じ微かに警戒するも、裏切りの折に致命傷を負ってしまう。しかし、メルルに渡されていた『やる気マンマン』の『エリキシル剤』によって一命を取り留める。
ワルドを追い払った後に改めて亡命を持ち掛けてきたメルルとルイズを諭し、結局玉砕の意志を貫き切った。
最期まで気高い王族であろうとする生き方は、メルルをさらに一歩成長させる非常に重要な出来事となる。
【アンリエッタ・ド・トリステイン】
出会った当初は互いにおてんばな姫同士という事でお互いに仲良くなれると思っていたが、国の規模や状況、互いの境遇が違うとはいえある程度の『自由』を約束されているメルルに少しずつ嫉妬心を抱くようになってしまう。
盲目的になってしまった自らがウェールズの亡霊を追いかけそうになるのを制止し、その身とアイテムにより数的不利をものともせずに善戦する彼女に、やがて自らが抱いていた暗い感情をすべて打ち明けて謝罪し、和解を得て改めて深い友情で結ばれるようになる。
自身は錬金術は学んでいないが、メルルとルイズを交えた『錬金術士のお茶会』を一番楽しみにしている。
時折メルルを見る目が熱っぽくなる人その2。
【ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド】
不憫枠その①。当初はルイズだけを我が物にしようとしていたが、メルルの扱うアイテムの凄まじさを目の当たりにして彼女もまた手中に収めようと画策するも結局失敗に終わり敵対する。風属性の魔法で一時は有利に立つも、『ライトニング・クラウド』(雷属性)が全く効かず、動揺した隙を突かれて『神秘のアンク』と『風操り車』で完封される。
魔法が無いと剣に炎や雷を纏わせられない、自力で分身出来ない、『閃光』の速さで動けないし、月も斬れない可哀想な人。
「えぇ~? これぐらいステルクさんだってできるのに…」
「」
【シェフィールド】
不憫枠その②。レコン・キスタを利用しメルルの持つアイテムを盗むことに成功する。『神の頭脳・ミョズニトニルン』の能力によりアイテムの効果や使い方は理解するも、『錬金術士』でないためアイテムを量産することは出来ず、秘められた力の解放も出来ない。いっそメルルを消してしまえと大量のガーゴイルを仕向けるも、『ピースメーカー』で一掃され、それどころかガーゴイルを解析されて『生きてるちむドール軍団』を送り込まれてしまう。ツルハシ怖い。
メルルと邂逅したその日から、夜な夜な見知らぬ黒髪眼鏡の女性に『キャラが被っている』と嫌がらせられるという悪夢に魘されるようになる。
「『ミョズニトニルン』並みの頭脳を持った『ガンダールヴ』だなど…認められるものかァ!!?」
「やれやれ、弟子3号もこんなやつに手古摺るとは、まだまだだな」
【メンヌヴィル】
不憫枠その③。
メルルは炎耐性100。以上説明終わり。
『暗黒水』を間近で嗅がされ転げまわっているところをコルベールに見つかり、いいとこ無しのまま出番終了。
「がぁぁぁぁぁ!!!??鼻ッ!? 鼻ガァァァァァァっっっっ!!!!???」
「…メ、メンヌヴィル…これは…ど、どうしたものか…」
【マスクド・M・H】
正体不明の仮面美少女。顔が隠れてるけどきっと美少女。
民の平和を脅かす盗賊や魔物、果てには悪徳貴族まで残らず成敗する正義のヒーロー。 彼女に『めっ』された貴族や盗賊は漏れなく改心する。因みに『めっ』の第一号はジュール・ド・モット伯で、趣味が書物集めから町のボランティア活動になったらしい。
平民からは『トリステインの守護聖人』と呼ばれている。
「これにて、一件落着!」
「マスクド・M・H…一体何者なのかしら…」
~アイテム及び『特性』説明~
【エリキシル剤】
錬金術士史上最高の薬。因みにメルルはこれをさらに改良させて『メルキシル剤』と呼ばれる薬を作り出すという伝説級の偉業を成し遂げる。ネーミングセンスはご愛敬。
【神秘のアンク】
神への信仰を露わすアンク。ゼロ魔の世界じゃあまり取り出さないほうがいいかもしれない。出来によって人間を超越した素早さが得られる模様。
【風操り車】
見た目はただの風車。その実、風を自在に操る事が出来るというまさにマジック・アイテム。これにより敵に突風をけしかけその場に固定することだってできる。このアイテムと『神秘のアンク』、そこにトトリとライアスがいたらずっと俺のターンも夢じゃない。
【ピースメーカー】
全ての敵を排除し、平和を作り出すための兵器。可愛らしい見た目とは裏腹に、秘められた力を開放すると地面に大きなクレーターを作るだけの威力を誇る。それをいくつも所持するメルルェ…
【ちむドール】
武器でも何でもない、ホムンクルスの“ちむ”を象った男の子と女の子のペアで一対の人形。女の子の方のちむはものすごい良い笑顔でツルハシを持っている。メルルの師匠であるトトリは、この人形に命を吹き込んで逃がしてしまったことがある。
【暗黒水】
強力な悪臭を放つ真っ黒な液体。様々な毒物を濃縮した合成されている。人に向かって投げちゃダメ絶対。
『やる気マンマン』
本来はメルルのHPが半分以下になった時にこの特性の付いたアイテムが自動的に使用されるというもの。今回はウェールズが所持していたので、彼が死に掛けた結果飛び出してきた。
『生きている』
文字通り。生きている。
「Hi, We'er Chimu Dolls. Wanna Play?」×∞
シェフィールドのトラウマになるのも頷ける。
もう後書きが本編でいいと思うの。