メルル&ルイズのアトリエ~ハルケギニアの錬金術士~   作:ジェイソン@何某

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 皆様、お久しぶりで御座います。

 見切り発車で作成した『メルルイズのアトリエ』。コメントにて続編や連載化を望むお声を沢山いただいてとても嬉しかったです。

 ただ、やはり連載化はとても難しいので今のところ未定なのですが…代わりと言っては何ですが、本編作成中からちらほらと考えていたIF物語を作ってみました。

 まぁ、ルイズがメルル以外の誰かを召喚するって話なんですが…いやぁ、果たして誰が召喚されるのか、前書きまで見た時点じゃきっと想像もできないだろうなぁ~(白目

 相変わらず稚拙な文章ではございますが、楽しんでいただけたら幸いでございますosz

 


IF Story
幽霊少女 for Halkeginia ~前編~


 

 

 ――私の願いが通じた。

 

 

 泣きの一回で唱えた詠唱により浮かび上がった“召喚の鏡”を見た時、そう思った。

 

 

 ――私の努力が報われた。

 

 

 鏡が強い光を発し、周囲の視界を土煙で覆い隠すほどの爆発が起こった時、そう思った。

 

 

 

 

 ―――これで私は『ゼロ』じゃない…!!

 

 

 土煙で汚れた周囲の同級生がブーイングをする中で、鏡があった場所に何かの“影”を見た時、そう確信した。

 

 

……

………

…………

 

 

「ッ…はっ…!?」

 

 眩い光とともに、少女は目を覚まし、跳ね上がるように上体を起こした。

 

 この世界でも珍しいピンクブロンドの髪色の少女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは普段、お世辞にも寝起きが良いほうではない。今まで彼女のことを起こす係であった、この学院――『トリステイン魔法学院』で働く使用人の少女は、それはもう毎日起こすのが大変だったそうだ。

 

 そんな彼女は今日、珍しくも1人で、しかも普段よりも若干とはいえ早くに目を覚ますことになる。

 

 

「はぁ…はっ…」

 

 寝ていたはずなのに何故か荒くなっている呼吸を整え、当然二度寝などするわけにもいかないのでのそのそと起き上がる。

 

「あっ…」

 

 ふと、ベッドから降りようと放り出した足に何かが当たって、ルイズは自分がそこに置いていた物を思い出した。

 

 藁で作った簡易なベッド。それも室内で飼えるような、せいぜい中型犬程度の大きさの動物用の其れは、“昨日まで”自分を起こす係をやっていた使用人の少女に取り寄せてもらった物だ。

 別に動物を飼っているわけでもなし、何故そんなものがこの部屋にあるのか、その理由は、この学院で学ぶ者ならばすぐに分かるだろう。

 

「『サモン・サーヴァント』…は、ははっ…そっか…そっかぁ…夢じゃ、なかったのね…」

 

 この学院で、2年生に進級するために必要な、使い魔召喚の儀式。メイジのことを支える忠実なしもべであり、一生のパートナーを召喚する儀式は、自分が何かしらの勘違いなどをしていない限りは、昨日行われている。

 

 そして、ルイズは…見事、2年生への進級を許された。つまり、召喚に成功したのだ。

 

 

 

 

 “召喚”には――

 

 

 

 

 乾いた笑みを零したルイズの視線は、部屋の中央に置いてあるテーブルへと向かった。そのテーブルの上、ちょこんと置かれているのは、彼女が昨日召喚に()()()()()()()()モノだ。

 

 

 それがなんなのか、一言で表すならば、“クマ”だ。

 

 そう、あの熊。大当たりだと、そう思うだろうか?

 

 なるほど確かに、もしも使い魔として熊が出てきたのであれば、それはどちらかといえば当たりの方なのかもしれない。熊の姿をした幻獣だって少なからず存在しているし、普通の犬や猫…どこぞの縦ロールが召喚したカエルなんかよりは数百倍もマシだろう。

 

 だが、そう…()()()()()()()()()()()()と明記したように、その熊は普通の熊じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()、なのだ。

 

 

 

 

 

「一体全体、なんだってのよー!!」

 

 土煙が晴れ、全体像をはっきりと捉えた後に叫んだものと全く同じ内容を、周囲の部屋――別に隣の部屋はいいけど――の迷惑にならない程度の声量で叫ぶ。

 

 

 実際のところ、使い魔召喚の儀式によって()()()を召喚した事例というものは少なからず存在するらしい。

 だが、それらは大抵の場合が強力なマジック・アイテムだったりするらしく、見るからに何の変哲もないクマのぬいぐるみ(テディベア)だなど、まず間違いなく過去に例などなかっただろう。

 

 

 ルイズが心のままを叫んだ直後、周囲でそれを見ていた同級生たちには当たり前のように笑われた。まぁ、普段から『ゼロ』だなんだと馬鹿にしていた少女が、ここにきて大一番のボケをかましてくれたのだ、そりゃあ笑いたくもなるだろう。

 

 ただ、昨日から唯一気になる点がある。それは、今回の『サモン・サーヴァント』の監督をしていたジャン・コルベールの態度だ。

 

『ミス・ヴァリエール…このぬいぐるみは、大切に取っておきなさい。貴女の気持ちはお察ししますが、決して! …そのぬいぐるみに当たるような真似はしないようにご注意を』

 

 嫌々“使い魔契約(コントラクト・サーヴァント)を行い、「ルイズのファーストキスの相手はクマだ」と周囲が爆笑に包まれている中、少しでも空気を変えようとしたのか、念のためにと“ディテクト・マジック”をコルベールが使った、その後の台詞だ。

 

 昨日は抱いた羞恥やらなんやらを周囲に喚き散らしながらも整理するので精いっぱいだったのであまり気にしていなかったのだが…

 

 

「もしかしてこのぬいぐるみ、実は物凄い秘めた力があったり……ないわね…」

 

 普段の彼女ならば、「そうよ、そうに決まってるわ!」と無理やり自分に言い聞かせもしたのだろうが、如何せん今回の一件は衝撃過ぎて、そんな元気など残っていなかった。

 

 ただこのぬいぐるみ、確かに()()()()()()という点には賛同できる。日頃からクラスメートに馬鹿にされているルイズであるが、その実は此処トリステイン屈指の名門貴族であるヴァリエール公爵家の三女なのだ。

 平民は当然として、そこいらの男爵や子爵家と比べてみても遥かに良い生活をしているだろう。だが、そんな彼女から見ても、目の前のぬいぐるみは非常に高品質であった。

 

 そっと手を伸ばし、頭を撫でる…嗚呼、なんという…なんという…なんという触り心地か。

 最高品質の天然素材で作られたテディベアの触り心地は、正直言って『自分の使い魔』という最悪の出会い方でさえなければずっと抱きしめていたいほどに良い。

 

 このぬいぐるみを召喚したことによる唯一の利点が『触り心地による癒し』だと、そんな考えが脳裏に浮かべば多少浮かび上がってきた気分が一瞬で地面どころかクレバスから奈落の底まで急降下しそうだ。

 

 

「……あぁ、いけない…自分で着替えないといけないんだったわね…」

 

 暫しの間、ぬいぐるみの頭を撫でたりお腹を軽く押してみたりして気分を落ち着かせていたルイズは、今日から使用人が来ないのだということを思い出しクローゼットへと向かった。

 

 別に、今から使用人を呼んで着替えさせてもいいのだが、そんなことをしていたら余計に時間が掛かるだけだ。幸いなことに、彼女の家は確かに公爵家であるが、厳格な母のおかげで必要最低限のことは1人でも行えるようにはなっている。自分の身支度を綺麗に整えるのだなどそれこそ朝飯前だった。

 

 

「……うん、よし」

 

 やはり使用人にやってもらう時よりも若干時間は掛かったが、お陰様で制服に余計な皴などを作ることなく着替えを済ませることは出来た。脱いだ衣類に関しては、後で使用人に洗濯してもらうとしよう。

 寝癖も整え、部屋の鍵を片手に食堂へと向かおうとして、一旦歩みを止める。

 

「……」

 

 振り返り、見つめるのはテーブルの上に置いたままのぬいぐるみ。

 さて、どうする…持っていけば、十中八九ネタにされ、笑われるだろう。しかし、持っていかなければ持っていかないで馬鹿にされるに決まっているし、こんな質の良いぬいぐるみ、もしかしたら自分が部屋を空けている間に盗まれてしまうかもしれない。

 

 昨日のコルベールの言葉もあって、ルイズは結局ぬいぐるみを抱きかかえ、一緒に行動することにした。そして抱きしめて分かったが、このぬいぐるみ…やっぱり抱き心地は最高だったし、なんだか良い香水の香りもする。ほんの少しだけ、機嫌はよくなった。

 

 

「…げ」

「……あ、ら…ルイズじゃない…」

「……」

 

 廊下に響いた扉を開く音は2()()。嫌な予感がして横を見れば、案の定自分と全く同じタイミングで部屋から出てきたのは、常日頃から何かと絡んでくる燃えるような赤い髪と異国の褐色の肌、そして、その……無駄に(ここ重要)豊かな胸の少女――これが自分とそう変わらない年齢とか認めたくないが――、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーであった。

 

 朝から嫌な奴と出くわしてしまったと露骨に表情を歪めたルイズに対し、キュルケはどこか上の空で、ルイズの呟きによって漸く存在に気付いたかのようにこちらに顔を向けるのであった。

 

「ふわぁぁ…おはよ」

「…お、おはよう…って、な、なによなによ…なんか、偉く覇気がないけど…」

 

 人前では何かと猫を被るような彼女にしては珍しく、口元に手を添えているとはいえ大きな欠伸を零すその様子に思わず訝しげな視線を送る。

 

「えぇ、まぁ…ちょっとね…」

「…ふぅん……っていうか、ちょっと待って。その子…」

「……」

 

 普段の彼女らしくない気のない返事にやはり謎は深まるが、それよりもまた気になることが出来た。最初はキュルケの足元でどこか不安げに彼女を見上げているサラマンダーについて言及しようとも思っていたのだが…それよりも、先ほどからキュルケの隣で彼女のマントを握ったまま立っている青い髪の少女のほうが気になった。

 

「もしかして…2人で寝てたわけ?」

「しょーがないじゃないのよー…この子…あ、タバサっていうんだけど…真夜中に突然やってきて、ベッドの中に潜り込んで…ぁ痛っ」

「…余計なこと、言わなくていいから」

 

 目の前の色魔がついに同性にまで手を出したのかとドン引くルイズに気付く様子もなく、青い髪の少女――タバサが隣にいる理由を喋るキュルケに対し、タバサはもう片方の手に持っていた自身の背丈よりも長い杖で彼女の頭を軽く小突く。

 

 …中途半端なタイミングで止められたせいで、余計に()()()()疑いが深まったことに、彼女たちは気付いていないようだ。

 

 

「…ま、まぁいいわ。それじゃあ、お先に失礼するわね」

「えぇ、また後でね…ふわぁ~ぁ…」

 

 2人+サラマンダー1匹で並んで歩き始めたキュルケ達に歩幅を合わせるとなんとも時間が掛かりそうなため、ルイズは彼女たちを置いて先に食堂へと向かうことに決めた。抱きしめたままのぬいぐるみが汚れぬように、食事にはいつも以上に気を遣おうと決めながら。

 

 

……

………

…………

 

 

「…憂鬱だわ」

 

 

 無事に食事を終え、授業のある教室の前でルイズは深い溜息を零す。食堂では、流石にほとんど全員が礼儀作法の方を重要視した為に陰でくすくすと笑われる程度で済んでいたが、授業中はそうもいくまい。特に、食堂と違って教室ではほぼ皆が自分たちの使い魔を連れてきているだろうから。

 

「…よし」

 

 覚悟を決め、ルイズは教室の扉を開ける。

 すると、先ほどまで扉越しにも聞こえていた談笑がぴたりと止まり、全員の視線がルイズと、そしてルイズが抱きかかえているクマのぬいぐるみへと交互に動く。

 

 そして、

 

 

『ぷっ…あははははははっ!!!』

 

 

 誰ともなく、教室は笑いに包まれた。昨日の『使い魔召喚の儀式』で、“我らがルイズ”がしでかした出来事が夢ではなかったと改めて確認が出来て、そして食堂と違って大笑いができる環境であったからこそ、()()()()()笑いの渦に包まれた。

 

「ぐっ…ぐぬぬぬぬ…!! アンタらぁ……って、あれ…?」

 

 いつも通り、肩を震わせながらも顔を真っ赤にしたルイズが周囲に言い返そうとしたその時、ふとした違和感に気付く。

 そうだ、食堂でも薄々気にはなっていたが…何故、先ほどから騒いでいるのが男子生徒だけなのだろうか。実に不本意ながら、こういう時には女子生徒だって一緒になって馬鹿にしてくることがしょっちゅうだったというのに。

 

「アンタらうるさいわよっ!! ったく…」

 

 取り敢えず男子生徒を一喝し、女子生徒を観察してみれば…寝てる。寝てる。寝てる…教室にいる女子生徒の半数近くが、机に突っ伏して眠っていた。

 どうやら男子生徒もそれはそれで気になっていたらしいが、ルイズというよりタイムリーないじりの対象が現れたために矛先が此方に向いていただけらしい。

 

「…なんなのよ、いったい…」

 

 見れば、キュルケとタバサも互いに軽く体重を預けるようにして眠っていた。ルイズはというと、確かに昨日のショックで快眠とまではいかないまでも、不貞寝のまま本当に眠っただけあって眠気はない。

 …昨日、自分に内緒でパーティでも開いていたのか? いや、そうなったとしたら幾らなんでも声くらいは掛かるはずだ。特にキュルケは、そういった催しの時はまず自分に声を掛けてくる…主に、パーティ中の立ち居振る舞いで自分との差を見せつけるために。

 

 結局のところ彼女たちがなぜ寝ているのか…寝不足に陥っているのかという理由が分かるはずもなく、ルイズは席へと座り、誰も座っていない隣の席にぬいぐるみを置いた。“錬金”の授業を執り行ういかにもな魔女風貌の女性、シュヴルーズがやって来たのはその数分後であった。

 

 

「…あぁー、えぇと…コホン、皆さん、授業の時間ですよ」

 

 教卓の前に立ち、教室にいる生徒や使い魔たちを見たシュヴルーズが、日頃から浮かべている温和な笑みを思わず崩し、怪訝そうな顔を浮かべた。まぁ、そりゃあ教室にいる女子生徒の大多数が未だに寝ているのだから当然か。

 あくまでも品よく、しかしちゃんと起こすためにそこそこの声量で咳払いすると漸く女子生徒たちは目を覚ましたのか、慌てて顔を上げ、羞恥心を誤魔化すように乱れた髪を整えたり席に座り直したりしている。

 

「まったく、一体どうしたというのですか?」

「す、すみません先生…実は、昨日夢の中で魘されて、よく眠れなくて…」

「あ、わ、私も昨日の夜中から変な視線を感じて…」

「私も昨日変なものを見た気がして…」

 

 それとなく理由を聞いてみると、女子生徒の間から次々と寝不足の理由が上がる。そのどれもこれもが似通っており、それらを聞いていた青髪の少女が身を固くし、隣の赤髪の少女に掴まったのは此処だけの話だ。

 

 

「コホン…お話はそこまでに、気を取り直しまして…。皆さん、『使い魔召喚の儀式』は大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」

 

 再びの咳払いで女子生徒を静かにさせ、シュヴルーズは先ほど出来なかった分今回はしっかりと使い魔たちを観察するように辺りを見渡す。

 

「…あら?」

 

 ルイズのほうを――正確には、ルイズの隣の席に置いているクマの顔を見て零れた疑問の声に、ルイズは目を瞑って始祖ブリミルに祈る。

 『――神様どうかミセス・シュヴルーズに空気を読む力をお与えください』

 

「ミス・ヴァリエール? そちらのぬいぐるみはいったい…?」

 

 神は死んだ。まかり間違ってもそんなこと口にはできないが。

 

 周囲の男子生徒が口元を抑えて控えめに笑う中、ルイズはシュヴルーズを睨まないように努めるので精一杯だった。やがて何も答えないルイズにシュヴルーズが首を傾げた時、生徒の1人が立ち上がって声を上げる。

 

「おいおい『ゼロ』のルイズ! 先生の質問にはちゃんと答えろよ! それは君が召喚した『使い魔』じゃないか!」

 

「えっ、なんですって?」

 

 下唇を噛み、顔を真っ赤にさせたルイズを見て漸くシュヴルーズも今の質問が藪蛇だったことに気付いたがもう遅く、周りの男子生徒は更に捲くし立てた。

 

「まったく、いくらまともに魔法を使うことが出来ないからって、まさかそんな玩具を持ってくるなんてな!」

「ハハッ、せめて本物の動物か、なんならその辺の平民でも連れてくればよかったものをな!」

 

「う、うるさいってさっき言ったでしょ!! 大体、なんで私の魔法が失敗したこと前提で決めつけてんのよ!!」

「だって、君が今まで成功したことなんてないじゃないか。だから『ゼロ』だっていうのに、そんなことも忘れちゃったのかい?」

 

「ミ、ミセス・シュヴルーズ!! 今のは侮辱です!! あの『かぜっぴき』のマリコルヌが、私を侮辱しました!!」

「僕は『風上』だ!」

「うっさい! 風上にも置けない変態のくせに!」

「なんだとー!?」

 

「お静かに、それ以上はご自身の品格を貶めるだけですよ。いいですね、級友を悪く言うことは許されません」

「で、ですがミセス・シュヴルーズ。ルイズが『ゼロ』なのは本当のことで…」

 

 ヒートアップするルイズとぽっちゃり体系の男子生徒、マリコルヌの口論をシュヴルーズは冷静に収めようとするが、納得いかないマリコルヌが意見をしようとする。しかし、それはシュヴルーズが彼の口に赤土の粘土を魔法で押し付けたことで強制的に止められてしまったのであった。

 

「ミスタ・グランドプレはそのまま授業を受けるように」

 

 もともと自分の藪蛇で起こってしまった問答なだけに、今回はルイズの味方をしてあげようと決心したシュヴルーズなのであった。

 

 

「ふぅ…それでは…授業を始めますよ」

 

 漸く始まった授業は、基本的に1年生の時の座学で習ったことの復習から始まった。魔法の四大系統や伝説とされている“虚無”の魔法のこと、さらにはシュヴルーズが土系統のメイジであるが故の()()()()()()()()土系統贔屓な説明まで。

 そして、授業の本題である“錬金”の話になった時、シュヴルーズの先ほどの決心からの悲劇が起こる。

 

 

「では、たった今私がやったように何方かに“錬金”をやっていただきましょう」

 

 先ほど四大系統に関する質問にも答えたばかりであったが故、ルイズはこの時完全に気を抜いていた。此方を見て静かにほほ笑むシュヴルーズの姿に気付いた時には、もう彼女は口を開いていて。

 

「…では、ミス・ヴァリエールにお願いしましょう」

「……うぇ?」

 

 瞬間、教室が凍り付いた。

 先ほどまで舟を漕いでいた女子生徒もカッと目を見開き、シュヴルーズのことを信じられないものを見るような目で見つめている。

 

「せ、先生、それは危険です!」

 

 こんな状況下でも未だに寝ぼけ眼のキュルケに代わり、男子生徒の1人が声を上げる。

 

「あら、危険とはどういう意味です?」

「せ、先生は僕たちの授業を受け持つのが初めてでしたよね? お願いですから、考え直してください」

「考え直すも何も…“錬金”の魔法に危険な要素など1つもないではないですか」

 

「ぐっ…ル、ルイズ! 君からも何か…」

 

 シュヴルーズの説得は不可能だと悟った男子生徒はルイズに懇願するように視線を向ける。しかし、この場においてその行動は悪手だ。

 

「ミセス・シュヴルーズ、私やります」

 

 決意…いや、意地によって立ち上がったルイズを見て、他の生徒たちは早くも説得を諦めて身の安全の確保に動く。先ほどまでキュルケ共々眠りこけていたタバサは、とっくに教室を後にしていた。

 

 

「はい、よくぞ言って下さいましたわ。さぁ此方へ。気負うことなく、肩の力を抜いて下さいね」

 

 それが出来たら苦労はしない、と頭の片隅で考えながらも、深呼吸によりシュヴルーズの助言を実行しようと試みる。そして

 

「『イル・アース・デル』!」

 

 教卓の石ころに向け、スペルと共に杖を振る。

 

 教室は、眩い光の後、轟音と共に爆風に襲われるのであった。

 

 

……

………

…………

 

 

「はぁ、死にそう……」

 

 教室での騒動、そしてそれらの後片付けを無事に終え、ルイズは午後になってようやく授業に合流することが出来た。とはいえ、今日の午後にはもう授業は執り行われることない。というのも、使い魔と主人との交流のために、午後の授業が潰されているからである。

 

 ルイズはほかの生徒たちと同じように茶会に出席し、テーブルの1つを陣取って突っ伏していた。そのテーブルの中央には、当然のようにクマのぬいぐるみが置いてある。掃除を終えて、すぐ茶会…そう、彼女は昼食を取りはぐっていた。

 

 たった1人で掃除をしていただけに普段よりも披露し、腹が減った中でさらに昼食抜き。「死にそう」というのは流石に言い過ぎだが、ここにきてまたルイズのテンションは急降下していた。

 

「ミ、ミス・ヴァリエール? 大丈夫ですか…?」

「んぁ?」

 

 他の女子生徒たちは、あの後の授業でも寝ていたのかこの時間にはすっかり普段通りになっていたが、今度は逆にルイズのほうがこんな感じになってしまって、流石に誰も近寄ってこない。

 そんな中、知った声が耳に届くとルイズはのそりと顔を上げ、心配そうに此方を見つめる黒髪の少女の顔を視界に捉える。

 

「あぁ、シエスタ…ちょっと、お腹すいちゃってね…」

「まぁ…それは…」

「あ、勘違いしないでよ。お昼を抜いちゃったからだからね。そんなお昼食べてすぐにお腹すいた、なんて言わないわよ」

「えぇ、それはもちろん…って、お昼を抜いてしまったんですか? えぇ、と…使用人が食べるようなまかないでよければ、まだ厨房に残っているとは思いますが…」

「あら、本当に? それじゃあ、後で私の部屋に持ってきてもらえる? まかないだろうと、今は食べれればそれでいいわ…」

 

 使用人の服を着た黒髪の少女、シエスタは、1年生の間寝起きの悪いルイズを起こしたり身の回りの世話をする係だった。起こされたり、服を着替えさせてもらったりという短い時間でも、1年間其れを続ければ多少なりとも交友関係とは深まるもので、本来の『貴族と平民』の関係図に比べれば、2人のやり取りは何倍もフランクに見えることだろう。

 

 本来貴族に平民が食べる料理を進めるのもどうかとは思うだろうが…ルイズの母は厳格なのだ。「常に良い物が食べられるわけではない」として、時折わざとグレードダウンした料理を使用人に作らせることも過去にはあり、ルイズは平民の料理にも抵抗を抱くことはなかった。

 

 

「かしこまりました。それでは、普通は順番が逆なのでしょうけれど…」

「あら、ありがとう」

 

 取り敢えず小腹を満たしてくださいと微笑みながらテーブルに置かれたクックベリーパイと紅茶に、ルイズは身を起こして短く礼を言う。「これが仕事ですから」と再び微笑んだシエスタは、ケーキやパイの乗ったカートを押して他のテーブルに向かおうとするが、その前にと視線を動かして。

 

「…可愛いぬいぐるみですね」

「…えぇ、ありがと」

 

 これが『使い魔』であると知らず、悪気などなく放たれた本音に、ルイズは毒気を抜かれたように肩を竦めて答える。シエスタの後姿を見送り、ルイズは好物のパイと紅茶で空腹を少しだけ満たし始めた。

 

 

……

 

 

「ケ、ケティ…これは違うんだ。落ち着いて、聞いておくれ」

 

 顔を青ざめさせながらも語るギーシュ・ド・グラモンの言葉には、何の説得力もなかった。

 

 一体何故こんな事になったのだろうと、シエスタは呆然としながら考える。

 貴族の子弟たちが行っている茶会のケーキと紅茶の配膳を同じ仕事仲間と手分けをしながらも行っていたその最中、地面に落ちていた“小瓶”を偶然にも拾い上げてしまったのが、そもそもの始まりだった。

 

 紫色の液体が入ったその小瓶の中身が恐らくは香水なのだろうということは、使用人としての最低限度の知識として知っていた。問題は、それが誰の物だったのかということ。恐らくはその小瓶に一番近い場所にいる金髪の貴族様の物なのだろうと当たりを付け、実際のところそうなのだろうなと思ったが、どういうわけかその貴族…ギーシュは努めて冷静に、しかし見え透いて必死にそれを否定する。

 

 ほんの少し前に彼が今付き合っている女性は誰なのかという話題になっていたばかりだったが為に、近くにいた男子生徒の1人がその香水はモンモランシーの手製のものだと叫び、ギーシュは更にそれを否定しようとした。彼の背後に大量の冷や汗を掻いているもう1人の彼の姿を幻視して、シエスタはちょっぴり嫌な予感を覚える。

 

 そして、案の定…陰から声を掛けるタイミングでも窺っていたのか、明らかにギーシュと深い関係らしき下級生の少女がやってくる。勿論、モンモランシーではない。

 

 

「もう無理です!! 何も聞きたくない!! さようなら!!」

 

 涙を流し、最後に手痛いビンタを食らわせてケティと呼ばれた少女は走り去っていった。

 周囲が呆然とそれを見送る中、一足先に我に返ったギーシュは、なんとかその場を取り繕おうとするが…残念、本番はこれからだ。

 

「あらあら…随分と素敵なマークを入れてもらったのね、ギーシュ」

「モ、モンモランシー…」

 

 周りが…シエスタも含めた全員が口を手で塞ぐ。まかり間違って余計な茶々を飛ばしたりしないように。

 

「モ、モンモランシー。愛しのモンモランシー、聞いておくれ、あれは何かの間違いで…」

「あらそう、でも安心して頂戴。 …これは間違いでも何でもないから!」

 

 吐き捨てるように告げて、モンモランシーもまたケティとは逆の頬を叩き、挙句彼の頭にワインを浴びせた。

 こうなるように煽った男子生徒までもが何も言い出せずに空気が完全に凍り付いた中、モンモランシーまでもが去っていったのを見計らい、ギーシュはハンカチで顔を拭く。

 

「…ふ、ふふ…か、彼女達は、薔薇の何たるかを理解していないようだ、だ…」

 

 声が震えてるぞ、なんて指摘する勇者は流石にいなかった。

 

 さて、ここまで大人しく…というか呆気に取られて最後まで事の成り行きを見守っていたシエスタであったが、流石にいつまでも呆けているわけにはいくまい。「香水、ここに置きますね」と一言告げて、そそくさとその場を後にしようとしたのだが。

 

「待ちたまえよ、きみ」

「っ…」

 

 椅子に腰を下ろし、足を組んだギーシュがキザったらしく前髪を掻きあげながらもシエスタを呼び止める。平静に努めているようだが、その声に含まれたやり場のない怒りを感じたシエスタは無意識的に肩を跳ね上げ、恐る恐る振り返る。

 

「君が愚かにもこの香水を拾ってしまったばっかりに、罪なきレディが2人も傷ついてしまった。どう責任を取ってくれるんだい?」

「そ、そんな…私は、ただ…」

「ただ、なにかな?」

「っ…も、申し訳ございません…!!」

 

 いくらルイズと交流する機会が増えてある程度の耐性が出来ているとはいえ、平民と貴族という絶対の身分差による理不尽への恐怖は消えることはない。シエスタが語ろうとした正論は言い終える前に封殺され、シエスタはその場に跪いて許しを請うしかできなかった。

 

 …とはいえ、だ。ギーシュとて抜けたところはあるが決して愚かではない。ましてや彼は人一倍女性への扱いは心掛けている――不倫はしてしまってたわけだが――故、こうしてシエスタが謝罪を口にし、最低限の面目は保てたと自らに言い聞かせ、彼女を開放するつもりであった…シュヴルーズといい、シエスタといい…藪蛇や空気の読み間違いによる悲劇は終わらず、「もういい」と言おうとしたギーシュに待ったを掛ける者が、そこに現れるまでは。

 

 

「ギーシュ、それくらいにしなさいよ」

 

「はっ…あ、うん? ル、ルイズ?」

「ミス・ヴァリエール…」

 

 自身が言葉を発するよりも先に投げかけられた言葉に思わず間の抜けた声を漏らしたギーシュ。ざわついた周囲は皆ぬいぐるみを抱えてこちらに歩み寄るルイズへと向いた。

 

「シエスタ、こんな奴に頭を下げる必要なんてないわ、ほら、立ちなさい」

「えっ、いえ…し、しかし…」

「お、おいおい…彼女を許すか否かを決めるのは僕の役目だろう、勝手に首を突っ込まないでくれ」

 

 ルイズは周囲の視線を完全に無視し、シエスタの肩に手を置くと正面に回って手を差し出す。シエスタは困ったようにルイズとギーシュを交互に見るが、ルイズが躊躇っているシエスタの手を取り、立ち上がらせた。そのまま背中を押して帰らせようとするルイズに、流石のギーシュも黙っていられずに抗議をすると、水を得た魚のように周囲の生徒たちもギーシュに同調してルイズを責めた。

 

「うっさいわね、そもそもの話、許す許さないって時点でおかしいでしょうか。いつかはバレるアンタの浮気が今バレて、その恥ずかしさをシエスタで発散しようだなんて、みっともないと思わないの?」

「ぐっ…」

 

 ルイズの言い分に内心そのことを自覚していたギーシュは言葉に詰まる。するとどうだ、周囲の生徒は物の見事に手のひらを返し、今度はギーシュを責め始める。ようは自分たちが楽しめればそれでいいのだ。だからこそ、ルイズは今回に関しては完全に周囲の声を無視していた。だが、ギーシュは違う。こういった場面で、彼はルイズよりも耐性がなかった。

 

 

「う、うるさいうるさい! …ふ、フンッ! そんな平民の肩を持って何を言うのかと思えば。魔法が使えないからってついに平民と仲良しこよしをするつもりかい?」

「なっ…今は魔法がどうとかなんて、関係ないじゃない!」

 

 嗚呼、違う、本当はこんなことを言いたいわけではないのに。ギーシュは心の中で後悔すれどももう遅い。売り言葉に買い言葉で結局ルイズも熱くなり、冷静にこの場を収められる者はいなくなってしまった。

 

 そして、両者の言い合いは完全に脱線し、ただの罵倒のし合いになって、ついに…

 

「いいだろう…そこまで言うのなら…決闘だ! 僕は君に、決闘を申し込む!!」

「はぁ…!?」

 

 本来、貴族の子弟同士では禁止されている私闘に話はもつれ込む。しかし、流石にそこまではルイズといえども容認できるはずもなく、校則で禁止されていることを持ち出すが。

 

「ほう…怖いのかい? この僕に負けるのが」

「あんですってー!? 誰が、アンタなんか恐れるもんですか!! いいわよ、決闘。やってやろうじゃない!!」

「ミ、ミス・ヴァリエール!!」

 

 傍らでオロオロと事のいく末を見守っていたシエスタが悲鳴に近い叫びをあげた時にはもう全てが遅い。この場にいた全員が『確かに聞いたぞ』とあくどく笑い、ギーシュは決闘の場にヴェストリの広場を指定してさっさと去って行ってしまった。

 

 その場には、ルイズとシエスタだけが取り残されることとなるのであった。

 

 

「ミス・ヴァリエール…も、申し訳ございません…わ、私なんかのせいで、大変なことに…」

 

 顔を真っ青にし、震える声でルイズに跪こうとしたシエスタを、ルイズは肩に手を置き止める。

 

「いいのよシエスタ、それに、“なんか”だなんて言葉使わないでちょうだい。貴族にとって、平民を守るのは義務なのだし、それに…その…ね…」

 

 いつも以上に頼もしく見える凛々しい顔に、シエスタは思わずどきんとしてしまった。ただ、後半になるにつれてその言葉は小さくモゴモゴしだし、足元とシエスタとを交互に見つめて何かを言いたそうにしている。

 シエスタは、これが自分の自惚れでなければルイズが何を言いたいのかがなんとなく理解できた。ただ、今はまだ素直になれるほどの交友関係を築けていないらしい。

 

 自然とシエスタの体から震えは消え、クスリと笑みが零れ出る。それを見たルイズは小恥ずかしそうに抱きしめているクマに顔を埋め、顔の上半分だけを出して恨めしそうにシエスタを見る。

 

 その後、何方ともなくおかしくなって、食堂に2人――いや、3()()()笑い声が木霊するのであった。そのうちの2人は、その事実に気付かぬままに。

 

 

……

………

…………

 

 

 ヴェストリの広場は、暇を持て余した貴族の子弟たちの熱気に包まれていた。

 自然と出来上がった輪の中央には、特徴的な薔薇を模した杖を高々と掲げるキザな金髪の少年、ギーシュの姿が。

 

「さぁ諸君! 決闘が始まるぞ!」

 

 ルイズが此方に向かっているとクラスメートの男子生徒に聞くと、ギーシュは周囲の熱気をさらにヒートアップさせるべく声を上げる。

 …実のところ、こうすれば手遅れになる前に教師陣が止めにきてくれるだろうという彼なりの考えもあったのだが、生憎とルイズの『使い魔』についてを聞いている此処の学院長は敢えて決闘を静観することに決めるので、無意味どころか事態の悪化しか招かない。

 

 

 そうこうしている間に、男子生徒の言っていた通りルイズがやってくる。傍らにはこの決闘騒動に関わっている平民の少女。腕に大事そうに抱えられているのは、彼女が召喚した『使い魔』のぬいぐるみ。

 ルイズは、そのぬいぐるみをシエスタへと渡す。最初は驚いたような顔をしたシエスタであったが、やがて頷くと先ほどのルイズのように大切そうに抱きしめる。

 

 

「待たせたわね、ギーシュ」

「いやなに、逃げなかっただけでも褒めてあげたいね。…本当、よく来る気になったものだよ」

 

 内心では勢いに任せて口走り、実現してしまったこの決闘を非常に不本意に思っているギーシュはどことなく苦虫を潰したような表情を浮かべる。そして、そんな彼の心情をなんとなくだが察知しているルイズであったが、それでも今更逃げたりはしない。

 決闘には“誇り”が掛かっている。そのうえ、ルイズにとってはシエスタの名誉もある。結局、ギーシュもルイズも互いに譲れず、決闘は始まる。

 

 

「さぁルイズ、覚悟はいいかい? 僕の美しいワルキューレに、きみはどう対抗する!?」

 

 そう叫び、ギーシュは薔薇…杖を振る。花弁が一枚ひらりと落ちて、やがてそれは青銅製のゴーレムへと変化した。

 戦乙女(ワルキューレ)の名前が示す通り、そのゴーレムは女性の甲冑姿をしている。現れたのは1体だけで、しかも無手。少なからず彼の“錬金”を知っているルイズを含めた周囲の生徒は、これがまだほんの小手調べに過ぎないことを分かっていた。

 

 しかし、それでも既に2対1…ただでさえ不利なルイズは、手駒の数でもギーシュに勝てないのだ。

 

「おーっと、これは早くも敗色濃厚かーっ!?」

「折角なら、此処に来るまでにその辺の平民でも捕まえて連れて来ればよかったのにな」

「いやいや、ルイズにはホラ…“優秀な使い魔”がいるじゃないか!」

「ははっ、確かに!! ゼロのルイズ! なんならあの可愛らしい使い魔を乱入させてもいいぞ!!」

 

「(全く、好き放題言うね…でも…)彼らの言うことも尤もだよ、ルイズ」

 

 周囲でわめく野次馬たちに敢えて同調したギーシュに、ルイズはふるふると手を震わせる。

 確かに、メイジとその使い魔は一心同体。メイジ同士の決闘を使い魔が代わって行うことそれ自体はよくある事だが…。

 

 ギーシュ以外の野次馬たちは、ルイズの使い魔が“そういったこと”になんの期待も持てないのだということを分かったうえで、わざとこう言ってきたのだ。

 

 怒りのマグマをためながら、ルイズはいつも以上に鋭い眼光でギーシュを睨んだ。

 

「…ッ…どうする…どうするかですって…!? そんなの、決まってるでしょ…!!」

 

 ギーシュが合図を送るとともに地を蹴って距離を詰めにきたワルキューレに対し、ルイズは杖を抜くとワルキューレ目掛けて魔法を行使する。

 

 初手で狙うは『ファイアー・ボール』。

 

「うわぁっ!!?」

「あっ…」

 

 しかし、彼女の魔法は例の如く失敗し、全く関係のない地面を爆破、近くにいた生徒たちが驚き悲鳴を上げ、その後ルイズに野次を飛ばす。

 ギーシュもルイズもそちらに意識が向いてしまったおかげでワルキューレの動きも鈍り、隙を突かれることはなかったが距離は大分詰められた。

 

「くっ…『イル・アース…」

「遅い!」

 

「ぐ、っ…!!」

 

 これ以上近づかれると、下手に魔法を使って爆発した時に自分までもを巻き込みかねない。ならばと今度はワルキューレの兜を“錬金”しようとするが、ギーシュの声と同時に腰を低くしたワルキューレの速度が上がり、咄嗟に後方に下がろうとしたルイズにタックルを食らわせる。

 

 背中を強かに打ち付け、苦悶の声を上げたルイズに対し、ギーシュはワルキューレを一旦自身のもとへと戻すと余裕たっぷりに前髪を掻き上げた。

 

「ふっ…これで分かっただろう? ルイズ、確かに君の爆発は、戦いにおいては立派な武器なのかもしれないが…ロクにコントロールもできないんじゃ宝の持ち腐れだ。大人しく降参を…」

「『イル・アース・デル』!」

「なっ…!?」

 

 たった一撃、しかもなんの捻りもない普通のタックル一発でも、並の人間ならば戦意は折れることだろう。女性を傷つけてしまったのは不本意だが、彼女だってこうなることは覚悟の上だった筈、だから、ギーシュはこれ以上ことが悪化する前に降参しろと呼びかけたかった。

 

 それは、ワルキューレにほど近い空間で起こった爆発により、強制的に遮られる。

 

「はっ…はぁっ…なによ、意外と脆いのね…!」

「き、きみは…何故…」

 

 平民の成人男性だって、今のタックルを食らえば暫くは悶絶する筈だ。なのに何故、肉体的にはそれよりも劣るであろう彼女は立っているのだ。思わず零れた呟きに、ルイズは不敵な笑みを浮かべた。

 

「ふふっ…持つべきは、厳格なお母様、ね…」

 

 これで3度目になるが、彼女の母はとても厳格だった。「魔法が使えなくなった場面を想定し、せめて受け身の取り方くらい練習しなさい」と、ある日突然演習場で言われ、反論する間もなく風の魔法で吹き飛ばされたのは苦い思い出だったが…今は、良い思い出だと言えそうだ。余談だが、こう見えて体も結構柔らかい。

 

 

「…そんなわけで、ギーシュ! アンタ、そんな余裕かましてていいの? 私の魔法(爆発)は、いつか必ずアンタに届くわよ!」

「…ふっ。なるほど確かにその通りだ…しかしルイズ、そういう言葉は、これを何とかしてから言うといい!!」

 

 情けない話だが、今回に限って言えば魔法を失敗したときに起こるのが爆発でよかった。これで何にも起きないだけなんだったら、とっくに負けていただろうから。

 本来ならば言う必要のないであろうルイズの言葉に、ギーシュは小さく笑みを零す。しかし、だからといって大人げなく本気を出すなどといった真似は彼のプライドが許さない。杖を振るい、落ちた花弁は3枚…やはり無手のワルキューレが、今度は3体現れ、有無を言わさずルイズへと殺到する。

 

「っ…『ラナ・デル・ウィンデ』!」

 

 低位だろうが高位だろうが、それらは等しく爆発に変わる。ならばとルイズは脳裏に浮かんだスペルを次々と唱えながら、常人ではありない速度で距離を詰めてくるワルキューレに杖を振るう。自分の後ろの方にいるシエスタ以外には基本的に気を遣うことはなく、野次馬の近くで爆発が起ころうとも最早ギーシュもルイズもそちらに見向きもしない。

 

 だが…

 

「っ、きゃぁ!?」

 

 運よく2体のワルキューレを爆風で吹き飛ばすことには成功したが、足止めさえもできなかった残り1体に足払いを仕掛けられ、ルイズはその場で尻もちを突く。そこに生じた隙をギーシュが逃すはずもなく、爆風で吹き飛んでいたワルキューレもすぐにルイズのもとへと向かわせると、3体で取り囲んで

 

「これで、チェックメイトだ!」

 

 ワルキューレ達が重心を下げ、拳を作る。無論本気で殴らせるつもりはなくあくまでも寸止めさせるつもりだが、そんなことギーシュ以外が知るはずもなく。

 

 

「ミ、ミス・ヴァリエー……えっ!?」

 

「ッッ―――!!!」

 

 生徒たちに交じって観戦していたシエスタの悲鳴が上がる。その最中で聞こえた驚愕の声にルイズや周りが気付くことはなく。ルイズは、咄嗟に体を守ろうと頭を抱え、ぎゅっと目を瞑って――

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なん、だと…」

「……ぇ…えっ…?」

「………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふわぁ…んもぉ~…一体なんの騒ぎなの~??」

 

 





無駄にブランクがあるせいか、ただでさえ読みにくい文章がさらに読みにくくなっているやもしれません。いや、なってます←

 また、ルイズを始めとするキャラの設定を少しいじっています。あとがきで言うことじゃないかな?

 後編は絶賛執筆中。今年中には出します(白目
 

 ※しゃのあ様、誤字報告ありがとうございます。

 
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