因果律の鎖を越えて -ULTRA・ZEST- 作:猫丸又三郎
追記)ユーゼス回とは言ってない
【数時間後 日本海域 海上】
ゾイガーが日本へと向かっている中、国連軍極東支部のパーソナルトルーパー部隊は海上で奴と接敵していた。
汎用PT、アルブレード6機で構成されたその部隊は、ジャイアント・レールガンを手にゾイガーと射撃戦を繰り広げる。
既に一機中破し、中々にダメージを与えている筈だが、ゾイガーは倒れる事なく口から光弾を吐き続けてきた。
『ライディース隊長、奴め効いていません!』
「くっ……! やはり、パーソナルトルーパーの武装では奴の皮膚を貫く事は出来ないか……!」
部隊を臨時で率いる隊長、ライディース・F・ブランシュタインは歯噛みしながら唸る。
彼の乗るアルブレードは全身が蒼く塗装され、また他機体と違い肩部に二連装ビームキャノンを取り付けられていた。
月のマオ・インダストリー社が次世代量産PTとして試作した機体『アヴァランチ・エルシュナイデ』と呼ばれるこの機体の特性と操縦者の腕が絶妙にマッチする、と言う事で数日前からライディースがトライアルを行っていた。
ライはトリガーを押し込み、エルシュナイデが右手に持つマグナ・ビームライフルを連射する。
放たれたビーム弾がゾイガーの腹部に命中したが、ダメージを与えられた気配は以前として感じられなかった。
「―――ギュアァァァァァァァァッ!」
雄たけびを上げるゾイガー。
周囲に展開するアルブレード達はそれに怯えるかの様に、少しだけ動きが止まった。
「―――ッ、全機、動きを止めるな!」
ライは瞬間そう叫んだが、硬直したアルブレードのパイロット達は即座に動く事が出来ない。
囲む様に展開する防衛網の脆い一点から、ゾイガーが飛び出すのは時間の問題であった。
「くっ、逃したか!?」
高速飛行出来るゾイガーと違い水上をホバーするしかないパーソナルトルーパーでは、突出した怪獣を捕捉する事は難しい。
ライはレーダーを確認しながら機体を転身させた。他のアルブレードもまた同じく反転する。
ゾイガーは依然として東京湾から内陸部を目指して飛行を続けている。
その軌道はずっとある一点を目指している様である。
(やはり、ゾイガーの目的はブラック・エンジェルか……?)
らしくない歯噛みをしながら、ライはふと脳裏にそう思い浮かべる。
国連の情報部―――ギリアム少佐から送られてきたデータに記されていた謎の機動兵器『ブラック・エンジェル』。
仮に、ゾイガーや邪神ガタノゾーアがブラック・エンジェルと関連がある場合、早急に対処しなければ、再び邪神戦争と同じ末路を辿る可能性もあった。
少しずつ感じる憤りを抑えようとライは深く深呼吸する。
(……あの時と違って俺達には力が―――SRXがない。今持てる最大の力で、奴を倒さなければ……ッ!)
既に対異星人用兵器は存在しない。SRX計画は邪神戦争終結後に凍結され、機体は全て解体されてしまった。
そして、ウルトラマンという存在も既に無い。
この地球は、人類の小さな力で守っていかなければならないのだ。
「全機、ゾイガーを追え!」
部下にそう命令しつつ、ライはフットペダルを踏み込む。自身のA・エルシュナイデのスラスターも火を吹き、急加速した。
長距離レーダーに映るゾイガーのマーカー。
それは、既に東京へと上陸しようとしていた……。
【東京都 ブラック・エンジェル落下現場付近】
ブラック・エンジェル落下現場からほど近い場所にある、少しひらけた場所。そこにユーゼス・ゴッツォは立っていた。
「……感じる。邪悪な存在が、近付いて来ているな……」
ゾイガーの気配を感じ取ったユーゼスは、懐から菱型の結晶を取り出す。
光と闇、それぞれのエネルギーをユーゼスにコンバートする収束装置であるコレが、ゼストへと変身出来る唯一のアイテムである。
「フッ……まさかこうも早く再びゼストとして戦う事になるとはな……」
結晶を右手で掴み、それを胸の前へとかざした。
すると、淡い紫と赤の光が混ざり合う様に輝き始める。ぼんやりと、だが確実にそこに存在する様に光るそれが、ユーゼスに託された『力』である。
「……罪を償おうとは思わん。だが、せめてこの世界は護らせて貰うぞ」
―――ドクン……
鼓動。
ユーゼス、そしてゼストの生きる印。
結晶―――ゼストクリスタルから放たれる光が徐々に広がり、彼の周囲も包み込む。
二つの相反するエネルギーは十分に蓄積された。
「……っ、はあッ!」
ゼストクリスタルを持つ右手を、上空へと突き上げた。
その瞬間、ユーゼスは思考した。
(―――私の願いを聴くのならば、私に力を寄越せッ!)
強大な力が、彼の体を覆う。意識が、徐々に力の渦に飲まれる。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ―――」
雄たけびと共に、ユーゼス・ゴッツォという存在は姿を大きく変えた。
アルブレード隊の防衛線を突破したゾイガーは、あと少しで東京上空という所まで来ていた。
悠々と飛行するゾイガー。奴の中には、一つの思考しかなかった。
―――全てを破壊し、殺せ
何時植え付けられたかすら分からないその単語だけが、ゾイガーを動かす。
眼下に広がる都市。人。
それを潰す事が、奴の存在している意義であった。
光弾の有効射程距離へと辿りつく。
口を開け、破壊のエネルギーが迸る、その瞬間―――
「ディアァァッ!」
ゾイガーの視界の端を横切るナニカ。
その存在に気付いた瞬間、体は水面へと落下した。
「ッ!?」
水柱を上げながら水面へと叩きつけられる。
何が起こったのか認知出来ぬまま、ゾイガーは上空に佇むナニカを睨みつけた。
鋼色の肉体に黒の意匠。漆黒の翼がその存在が異質である事を示していた。
「…………お前が、ゾイガーか」
超神ゼスト。
『神』の名を冠する、光と闇の力を持った巨人。
「ギャアアアッ!!」
ゾイガーは一目見た瞬間に察した。
巨人の存在は、ウルトラマンよりも危険であると―――
威嚇された超神ゼスト――ユーゼスの意識は、ゾイガーという怪獣がどういうモノであるか理解する。
「成程……単純な思考しか持たない、邪神の尖兵という事か」
ゾイガーは腔内に溜めていた破壊のエネルギー球を数発ゼストに向かって吐き出した。
高速で射出された光弾を、ゼストは避ける事なく全て腕で打ち消す。
バリッ、という普通なら有り得ないであろう音を立てて光弾が粉々に割れる。
ゼストは少しつまらない様にしながら嘲笑う。
「そんなものか……?お前は、邪神の忠実な下部なのではないのか?」
そんな『言葉』が理解出来ないゾイガーは羽ばたき空へと飛び上がる。そして、そのままゼストに向かって体当たりした。
「……無駄だという事が、まだ分からんのか?」
右手一本で、ゾイガーの巨体を止めた。
そのままゼストは意識して右の掌に力を込める。
「デュアッ!」
殺気、と言うべきモノで、ゾイガーは吹きとばされた。
飛行速度よりも速く投げ出されるが、流石怪獣、すぐに体勢を整えて減速した。
「少しはやれる様だが……結局はそんな程度だという事か。……私の敵ではないな」
ゼストは両脚とゼストウィングに力を込めた。そして、生み出された反重力エネルギーで夜空を滑空する。
数キロ飛ばされたゾイガーの腹目掛けて、ゼストは左腕を振った。
「ディアァァァァッ!!」
高速、いや光速で振られる腕から発せられた真空波が、ゾイガーの脇腹を引き裂く。
一瞬の出来事に、ゾイガーはすぐに理解する事が出来ない。
「ギ、ギィアアアアァァァッ!?」
斬られた傷口からあふれ出す血と闇。
このゾイガーの個体は初めて、痛みというものを知る事となった。
『た、隊長! あれは……!?』
「何ッ! ……ウルトラマン、なのか?」
ゾイガーがやっと有視界で視認出来る位置までアルブレード隊が来た時、彼らは驚愕を隠せずにいた。
ライは目の前に佇む黒と銀の巨人をただ茫然と眺める。
「……なんだ、この既視感は……?」
唐突に、記憶の奥底に引っ掛かる感覚がした。だが、あんなモノと出会った記憶など今までなかった。
しかし、デジャヴを感じられる。
ライは酷く混乱していた。
「クソッ、一体何だこの不快な気分は……!」
パーソナルトルーパーを視界の端に捉えたが、彼らが攻撃して来る気配がない事に少し安心した。
怪獣と間違われて攻撃されるかもしれない事も考えていたが、そうならなかった事に感謝する。
「……そろそろ、決着を着けさせて貰おうか……!」
ゼストは更に上空へと飛び上がった。同時に、両腕に力を込める。
右腕には光の力。
左腕には闇の力。
ゼストの体内にある二つのエネルギーを、両腕それぞれに解放する。
「……何故だろうな。この技を使おうとすると、自然と笑いがこみ上げてくる……」
低く冷笑しつつ、彼は上空で静止した。
白い光を纏った右腕と、紫の光を纏った左腕が彼の力を示す。
「ハァァァァァッ……!」
右腕で縦に、左腕で横に空を斬った。すると、そこに白と紫の混ざり合った十字が現れる。まるで照準の様に、ゾイガーを捉える。そして―――
「フフフ……ゼストファイナルビーム……」
空を斬った両手を十字、スペシウム光線と同じ形に組んだ。
二つのエネルギーが一つに混ざり合い、スパークしながら腕に収束されていく。
「ギュルアァァァァァッ!」
ゼストが必殺光線を出すと察したゾイガーは、腔内に残っていた光弾を連射して放った。
必死の抵抗の様に吐き出される光弾であったが、虚しくもゼストに当たる事はない。
「デット・エンド・シュートッ!!」
収束された二つの力が、一つのエネルギーとして解き放たれた。
光速で放たれる光線はゾイガーの首から腹部一体に直撃し、その肉体を削っていく。
「ギャァァァァァァッ!!」
苦悶の叫びを上げるゾイガー。そして、数秒の後にはその叫びは虚空へと消えていった。
肉体も意識も魂も、全ての存在がこの世界から抹消された。
ゼストは十字に組んでいた腕を解くと、ゾイガーが在った空間を一時眺めていた。
「……悲しいモノだな。闇に生み出された存在は……」
かつての自分との決別の意も込めて、彼はそう吐き捨てた。
「……正体不明の巨人が、ゾイガーを倒したか」
コックピット内でライは呟く。
対怪獣・異星人用として開発されたパーソナルトルーパーではもう歯が立たない事、新たな巨人が現れた事、その巨人が圧倒的な力でゾイガーを消滅させた事……。
たった数分の間だが、そんな出来事にライは少し困惑していた。
―――その困惑が、世界を揺るがす事態に対応出来なかった事に気付くのは、もっと後の事である。
「―――ッ! 何だ……? この不快感……何が起こった!?」
突如、背筋が凍りつく様な感覚がゼストに伝わる。
クロスゲート・パラダイム・システムが教えているのか、または彼自体が察知したのか……。
ゼストは後ろ――東京へ振り返ると、そのままそちらの方角へとすぐさま飛び去った。
(この感覚……空間が歪んでいる……?)
嫌な空気が支配する東京へと急行していった。
「どうしたんだ……? 東京へと向かって行ったぞ」
突然飛び去っていった巨人に、ライは首をかしげる。と、その時、無線通信のコール音が鳴った。
『ライディース少尉、今すぐ東京へ引き返してくれ!』
「ギリアム少佐! 一体どうしたんですか!?」
通信の相手であるギリアムは少し焦る表情である。
『………宣戦布告だ』
【数時間前 東京 QUEENS OF MUSICライブ会場】
ゼストが戦う少し前の事……。
『マリア・カデンツァヴナ・イヴ、風鳴翼のスペシャルコンサート』
世界トップアーティストの夢の競演。
そう題されたこのライブには多くの観客が動員され、さらに世界にも同時生中継されていた。
戦争によって傷付いた人々の心を癒す、等と銘打っているが、どうせ市場拡大を狙うそういう輩の仕組んだ事なのだろう。
そう思っていながらも関心する城戸真司の姿があった
「……ほんと、スゲェ人気だなぁ風鳴翼って」
「そうですね、世界中で人気を誇りますから」
ライブ会場の舞台裏でそう話しているは、弦十郎から護衛任務を任された城戸と翼のマネージャーである緒川慎次である。
「でも、俺なんかで役に立つのか? 護身術とかは、緒川さんの方が上手いのに」
そう不思議に思っていた城戸はそう言う。
「……万が一ノイズが出現した場合は、翼さんだけでもどうにかなります。ですが、舞台裏のスタッフを護るまでは出来ない。そこで、城戸さんの力が買われた……って事です」
「成程……」と納得した城戸は、舞台袖から相変わらずライブを眺める。
ステージ上で歌う彼女をまともに観るのはこれが初めてであるし、何より、彼女に対する罪の意識があったからでもあった。
(……まだ高校生なのに、孤独な戦いに投じるのは相当キツイ筈だ……。それでも、ステージでは笑顔を絶やさないって、凄いよな本当)
二年前、邪神戦争の真っ最中に起きたライブ会場の悲劇。
翼がまだ「ツヴァイウィング」であった時の事だ。
彼女は相棒である天羽奏を失った。そして、代わりに響はガングニールの力を手に入れたらしい。
相当数の死者も出した、史上最悪の災害として未だ語り継がれる。
龍騎の力が戻るまで何故か忘れていた事だったが、この事件にはミラーモンスターも関わっていたのだった。
未だライダー同士で戦っていた時、ミラーモンスターがノイズと共に現実世界に現れて暴れていたらしい(その時、ミラーモンスターはノイズと思われていたらしい)。
だが、城戸はライダーバトルのせいで救援に行けず、結局はあれだけの死者を出してしまった。
奏の死にミラーモンスターが直結している訳ではないが、それでもあの事件の一端が自分にもある事が、城戸にとって重荷にもなっていた。
翼はミラーモンスターの事も、ライダーバトルの事も知らない。だから、城戸が言わなければ責任も問われないままだろう。
だからこそ、城戸をじわじわと苦しめていた。
(……俺は、護る事が出来るのかな……優衣ちゃん………)
かつて護る事が出来なかった人の顔を思い出しながら、城戸はただひたすらに彼女の歌を聴いていた。
【同時刻 QUEENS OF MUSIC会場 観客席】
「……やっぱり凄いなぁ、マリアと翼のライブは」
客席に座る一組のカップル。
彼らは世界各地を周る旅の最終点として、ここに訪れていた。
「隊長から貰ったチケットのおかげだね」
未だ感動の熱が抑えられない青年、マドカ・ダイゴは隣に座るヤナセ・レナに応える様にそう言った。
かつての歴戦の戦士である二人もまた、戦いの傷を埋める様にライブを楽しんでいた。
二人は既に、GUTSの隊員としてはもう戦う事は無いと判断し、TPCの火星開拓計画関係の仕事へと異動していた。
―――もう、あの『力』も無いのだから
「……このライブが終われば、結婚式だね」
「あぁ……」
ダイゴとレナの結婚式は、もう一週間を切っていた。二人は結ばれ、はれて家族になる訳である。
ダイゴは、もう目の前に近付きつつあるこの平和を、心から望んでいた。
戦わなくても良い世界。
みんなが幸せに暮らせる世界。
未だノイズによる災害が残っているものの、それでも、二年前と比べて十分すぎる程世界は落ち着きを取り戻していた。
歴戦の戦士たちも、銃を下す時が来たのであった。だからこその、二人の結婚式である。
GUTS隊の仲間からは祝福の言葉を贈られたし、サワイ総監にも祝電を貰った程だ。
世界が平和になる
そう、ダイゴは思っていた。
思っていた、筈であった………
「結婚式の招待状、もう全員分出したの?」
レナはライブから目を離さないまま、そう呟く。
ダイゴは普通にそれに応え、
「殆どは出したさ。あとは―――」
『………私にはくれないの?』
「ッ!」
ふと、声が聞こえた。
女の声だ。
聞き覚えのない、だが、妙に懐かしい様な声……。
『ダイゴ………』
「……誰だ?」
ダイゴは小さく呟く。
だが、返事など帰ってくる筈がなかった。
周囲を見渡すが、話しかけてくる人の姿はない。皆、ライブに集中しているからであろう。
「……どうしたの?」
少し挙動がおかしいダイゴに気付いたレナはそう問い掛ける。
「……レナ、ちょっとトイレに行ってくる」
なんて言い訳を一言だけいい、すぐに席から立ち上がる。
何となく感覚で、声の主を探す為に小走りしていった。
「ダイゴ! ……もう」
だが、レナは心配する様子もなくそのままライブの方を見続けた。
「誰だ! 僕を呼ぶのは!」
人気のないライブ会場の通路に入り込んだダイゴは、大声でそう叫んだ。
先程から何か嫌な予感がして、ダイゴは気が気でない。
ダイゴが通路を数歩歩くと、目の前が少し揺らいだ気がした。
『―――会いたかったわ。 ……ずっと』
「!!」
今まで何もなかった空間に、突如として女が立っていた。礼服の様な漆黒の服を着た、一人の女性。
だがダイゴはその女に見覚えは無かった。
「お前は……?」
『私の事、忘れたの? ……あの女と同じね。でも、すぐに思い出す……すぐにね……』
「何……、っ!」
突如通路内に強風が吹いた。
吹く筈がない風で目を瞑る一瞬、ダイゴは女が笑っている様に見えた。
「………っ! 何処に行った!?」
目を開けると、既に女は目の前には居なかった。
存在が消えたかのように何もなく、ただダイゴの中に大きな謎だけが残っていた。
「……一体、何なんだ」
突如として起こった謎の現象に戸惑いつつも、ダイゴはレナの元に戻ろうとしていた。
……だが、彼の望んだ平和は、やがて壊される事となった。
【ライブ会場 ステージ上】
風鳴翼とマリア・カデンツァヴナ・イヴの特別ライブはインターバルを迎えていた。
二人とも歌を歌いあげ、ファンに向けて手を振っている。
舞台袖から見守る城戸と緒川も思わず熱が入っていた。
「ありがとう、みんな!」
翼は声援に答える様にマイクにそう言う。
「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」」」
その投げ掛けられた言葉でファンのボルテージはMAXを通り越してしまいそうである。
「私はいつもみんなから沢山の勇気を分けて貰っている! だから今日は、私の歌を聴いてくれる人達に少しでも勇気を分けてあげられたらと思っている!」
翼のその言葉に会場中の人々は歓喜に沸いた。駆け巡るレーザースポットがまた会場を飾っている。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「生きてて良かった~!」
「翼さん愛してるぞー!」
熱狂的なファンたちの声援を受けて、翼は心底嬉しそうな笑顔をたたえた。
その顔を横からじっと見つめるマリアは、正面に向き直ってマイクを取った。
「私の歌を全部、世界中にくれてあげる!! 振り返らない、全力疾走だ! ついて来れる奴だけついて来いッ!」
彼女のファンサービスによって、世界中のファンたちがさらに喜びの熱にさらされる。
(なお、この時にある国では涙を流し、彼女に祈祷する者達すらいたという)
全世界同時放映によって、世界が音楽に包まれようとしていた。
ステージ上のマリアは翼を横目で見ながら再び口を開く。
「今日のライブに参加出来た事を感謝している。そしてこの大舞台に、日本のトップアーティスト、風鳴翼とユニットを組み歌えた事を!」
初めてマリアの口から聞かされた感謝の言葉に、翼も応えた。
彼女に近付き、自身もマイクに向かって口を開く。
「私も、素晴らしいアーティストに巡り合えた事を、光栄に思う」
感謝のしるし、とも言うべきか、翼は右手を差し出した。
そしてマリアもまた右手を差し出し、堅い握手を交わした。
二人のコラボレーションに、一層観客達に熱が入っていった。
一方、マリアは翼の目を見ながら、言葉を掛ける。
「私達は世界に伝えていかなきゃね。『歌』には力があるって事を」
「それは、世界を変えていける力だ」
そうね、という様に少し笑うと、マリアは観客達の方を振り向きながらステージの前の方へと歩き出した。
「――そして、もう一つ」
なんだ?、と思いながらも翼は耳を傾ける。それは観客達も、視聴者達も同じであった。
一刻の静寂。
すると、マリアは自身のドレスをなびかせた。
―――まるで、ナニカの合図の様に
その瞬間、恐怖が、会場を包んだ。
「ッ!?」
翼はその瞬間を逃さず目撃していた。
ステージ下に、突如としてノイズが出現したのだ。……いや、それは会場中のいたる場所に現れた。観客を囲む様にして。
「「「きゃぁぁぁぁぁっ!!」」」
観客達は悲鳴を上げ、逃げ惑う。
だが限られた出口に人々が押し寄せればどうなるか、検討などすぐについた。
最悪、2年前の再来である。
「い、一体何が………!?」
これまでノイズと戦ってきた翼ですらも驚愕し、その場にただ立ち尽くすばかりである。
「っ、翼!」
「駄目です城戸さん! ここでむやみに飛び出して、何かあれば……!!」
思わず飛び出そうとしてしまった城戸だったが、緒川の一言で静止する。
だが、城戸は駆けつける事が出来ない事に激しく歯ぎしりした。
(クソッ……! 俺はまた、救えないのかよ!?)
「これは………!!」
舞台裏の通路から出てきたダイゴもまた、この光景を目にしていた。
逃げ惑う人々。ただ突っ立つノイズ。
「っ、レナ? レナ! 何処だレナッ!!」
既に逃げたのか、レナの姿はどこにも見当たらなかった。
もしかしたら、ノイズに襲われる危険性だってある。
それに、旅をしていた為にGUTS隊の銃、GUTSハイパーすら持っていない現状では、奴等に対処できる筈もなかった。
「くそっ! どうすれば………」
ダイゴは隣にある観客席をヤケクソ気味に蹴った。
所詮、あの『力』がなければただの人間だ。
戦う力すらない、弱い人間なのだ。
そう思えてきた事に、少しずつ絶望しつつあった。
【特異災害対策機動部二課 二課仮設本部】
ノイズの出現の報は、特異災害対策機動部二課にもすぐに伝えられた。
「ノイズの出現反応多数! 場所はQUEENS OF MUSICの会場!」
「何だと……!?」
藤尭朔也の報告に、弦十郎は席から立ち上がる程に驚く。
未だ響たちのチームは東京へと向かっている途中であるし、ユーゼスの調査隊からも連絡は一向にないままであった。
弦十郎は歯噛みしながらモニターを睨みつける。
「こんなタイミングで……あおい君に繋いでくれ!」
「分かりました!」
朔也はすぐに通信網を確保し、帰投しつつあった士達に連絡を入れる。
彼らはヘリコプターで東京へと目指している途中であった。
「聞こえるか、あおい君、士君! ノイズが出現した! すぐにそちらに向かってくれ!!」
『大体分かった。……だが、まだ辿り着くには時間が掛かるぞ?』
『装者二人、それと門矢さんの現場介入までの推定時間は40分を予定……。到着次第、事態の収拾にあたります』
【日本上空 ヘリコプター内】
端末の通信を切ると、あおいは響とクリスへ振り向いた。
「聞いての通りよ。疲労抜かずの三連戦になるけど、お願い」
コクリと頷く二人。
士も「ガキ共と違って、俺は余裕で行けるぜ?」等と軽口を叩いてる。
「またしても操られたノイズ………」
クリスが望遠映像を見ながらそう呟く。
「詳細は分からんが……だが」
そこで言葉を濁す士。
「だが?」
「仮に、例の杖……ソロモンの杖を狙った襲撃と、ライブ会場に出現したノイズが無関係とは言えないだろうな」
士のそんな推測に、装者二人は眉をひそめた。
今はただ、現場に早く向かえる事を祈るだけである。
(翼さん、城戸さん、緒川さん………もう少しだけ待っててください……)
響は無事を祈る様にそう目を瞑った。
【???】
「遅かりし……ですが、ようやく計画を始められます………」
【QUEENS OF MUSIC ライブ会場】
未だ逃げ惑う人達。出口ではすでに逃走路を巡って暴行すら起きようとしていた。
「………るな……」
「狼狽えるなッ!!」
恐怖が支配する空気を切り裂いた一喝。
人々はその言葉で、一斉に動きを止めた。
そして、声の主の方を見る。
人々の混乱は一時的だが収まり、重大な事故などが起こらずに済んだ。
――だが、これからが本当の恐怖の始まりである
「………………」
事態を静観出来なくなった翼は、首に付ける赤いペンダント――シンフォギア・システムに手を掛けようとした。
「――怖い娘ね」
投げ掛けられる言葉。
それは、隣に立つマリアからのモノであった。
「この状況にあっても、私に飛び掛かる機を伺っているなんて」
(………読まれていたか)
翼は少し苦しい表情をしたくなったが、表には出さず心の中で毒づいた。
「……でも逸らないの。聴衆達はノイズからの攻撃を防げると思って……?」
「くっ……!」
例え翼がシンフォギア・システムを発動しようと、護れる人間には限りがある。
三人ならまだしも、一人で戦うとなればそれ相当の被害が出てしまう事は確かであった。
それをマリアに指摘され、翼は反論する事が出来ない。
「それに………」
マリアはじっと遠くを見つめる。
その先にあるのは、全世界生中継を伝えているモニターとカメラであった。
先程までもそうだが、今現在の状況も、世界中へと配信されているのである。
「ライブの模様は世界中に中継されているのよ? 日本政府はシンフォギアについての概要を公開しても、その装者については秘匿したままじゃなかったかしら? ……ねぇ、風鳴翼さん?」
そこまで知り得ている事には、もはや驚きもしない。
だが、彼女が情報を知っているという事は、裏に何か組織があるという事でもあった。
(ショッカー等という下賎な組織か、あるいは………)
だが、今は模索している暇などない。
この時間にも、もしかしたらノイズが暴れ出すかもしれないからだ。今は大人しく静止していても、いつ動き出すか分からないのが現状だ。
「甘く見ないで貰いたい。そうとでも言えば、私が鞘走る事を躊躇うとでも思ったか!」
マイクを突き立てながら、そう反論する翼。
彼女には、覚悟があった。
戦う為に、何もかもを捨てる覚悟が。
護る為に、自身が積み上げてきた全てを捨てる覚悟が。
「………貴方のそういう所、嫌いじゃないわ。貴方の様に誰かが誰かを護る為に戦えたら、世界はもう少しまともだったかもしれないわね……」
「なん………だと…………?」
「世界はもう少しまともだった」という彼女のその言葉に、翼は少し揺らいだ。
この時、少しだけ思ったからであった。
(彼女もまた、何かを護る為に戦うとでも言うのか……!?)
その雑念が、翼を鈍らせている事に代わりはなかった。
「マリア・カデンツァヴァナ・イヴ………貴様は一体………」
その問いに応えるかの如く、マリアはマイクを再び握りしめる。
「そうね……そろそろ頃合いかしら」
マイクを持ち、そして、重く口を開いた。全ての者に向かって。
「私達は、ノイズを操る力をもってして、この星の全ての国家、そして地球平和連合TPCに要求する!!」
「世界を敵に回しての口上……!? これはまるで――」
【ライブ会場 裏通路】
ライブ映像を放映している管制室へと向かう途中の緒川慎次は、ライブされているモニターを見ながら一言呟いた。
「……宣戦布告!」
【ライブ会場 ステージ上】
「――そして」
そこまで言うと、彼女はマイクを上空へとブン投げた。回転するマイクはそのまま宙を舞う。
「………はっ!」
その瞬間、翼は何かを悟った様にマリアを見た。
そして、翼のその予想は見事的中する事となる。
――Granzizel bilfen gungnir zizzl――
光。
そう、光だ。
マリアを包む様に現れる光。
そして、その次に放たれるのは一種の波であった。
空気を揺らす、振動の波。
そしてそれは、マリアという存在を鎧で包み込む。
「まさか………!?」
翼は自身の直感が当たった事に驚き、更に有り得ないであろうその現象に戸惑っていた。
【特殊災害対策機動部二課 二課仮設本部】
「この波形パターン……まさかこれは………!?」
コンピュータによってはじき出された波形の鑑定結果が、管制モニターへと投射される。
そこに映し出されていた文字は―――
<GUNGNIR>
「ガングニールだとォッ!?」
【ライブ会場 ステージ上】
「………な………」
先程までとは一変、純白のドレスから漆黒の甲冑を纏ったマリア・カデンツァヴァナ・イヴの姿がそこにあった。
「黒い……ガングニール………」
翼はそのまま開いた口がふさがらない。
驚愕の出来事に、ただただ立ち尽くす事しかできなかった。
「………私は………私達は『フィーネ』。そう、終わりの名を持つ者だ!!」
来年は早めに投稿頑張ります……
皆さん、良いお年を!
猫丸 又三郎でした
~次回予告〜
遂に姿を現す『武装組織フィーネ』。そして、裏で暗夜する黒い影……
現れる謎の風来坊、誰も知らない巨人……
動き出した歯車は止まることがあるのだろうか?
次回、因果律の鎖を越えて
-ULTRA・ZEST-
動き出した歯車
平和の為に、戦え! 仮面ライダー龍騎!