因果律の鎖を越えて -ULTRA・ZEST-   作:猫丸又三郎

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皆さん、お久しぶりです!
猫丸又三郎です!

前回の更新から三ヶ月……。更新が遅れて申し訳ありません……(´;ω;`)

4月からは執筆する時間が多く取れる見込みですので、次回からはまた月1~2ペースで更新出来ると思います。
これからも応援よろしくお願いします!

追記)活動報告「参戦作品追加報告(その3)」を投稿しました!


第十三話 動き出した歯車

 

 

【???】

 

 

 

「始まった様ね………」

 

「この世界の『武装組織フィーネ』が動き出した。つまり、ここから新たな戦火と混沌が始まるという事だ」

 

「………そういえば、『彼』からは連絡はないの?」

 

「定時連絡にも答えない。奴は何処かで油を売っているのだろう」

 

「でも、『彼』の事だから上手く潜入しているでしょうね。………一応、保険は掛けておいたつもりだけど」

 

「……人形どもを使うのか?」

 

「中でもW17は完璧よ? 私の自慢の娘、みたいで」

 

「フン……好きにしろ。いずれにせよ、計画に支障が出ているのは確かだ。早急に事を進めなければいけないぞ……」

 

「その為にも、『この世界』のフィーネと大ショッカーに赴かないと、ね?」

 

「そうだ。……闘争が永遠となる世界の為に」

 

 

 

 

 

 

「………貴方は何をしているの、アクセル………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  因果律の鎖を越えて -URTLA・ZESTー

 

 

  第十三話 動き出した歯車

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【QUEENS OF MUSIC ライブ会場】

 

 

 

 

「我ら武装組織フィーネは、各国政府及び地球平和連合に対して要求する! ……そうだな……差し当たっては、国土の割譲、そしてTPCの解体を求めようか!」

 

 フィーネと名乗ったマリアのその口上に、隣に立つ翼は絶句した。

 

「馬鹿な……!?」

 

 そう、馬鹿な話である。

 たかが一テロリスト集団が、全国家に向けて宣戦布告するという事自体、馬鹿げた話である。

 だが、彼女たちにはそれが出来る自身があった。

 

 ノイズを操る能力。

 

 それは今や、核兵器よりも恐ろしい力である。

 

「もしも24時間以内にコチラの要求が果たされない場合は、各国の首都機能がノイズによって不全となるだろう!」

 

 全世界へ生中継されている故に、それは全ての国家の首脳の元へと容易に伝わる事となる。

 既に対策を始める者がいれば、慌て狼狽する者、ただ事態を静観する者……。混乱が始まる予感がそこにはあった。

 

 

 

【???】

 

 

 

 暗闇の部屋の中で、生中継を見る女が一人。

 車椅子に乗ったその年老いた女性――ナスターシャ教授は画面上に移るマリアを眺めながら一言だけ呟いた。

 

「……あの娘ったら」

 

 

 

 

 

【ライブ会場】

 

 

 

「何処までが本気なのか………」

 

 歴戦の防人である風鳴翼すらも、この事態が何処へと行くのか全く分からないでいた。

 ここまで大事になるのは、それこそ2年前の邪神戦争以来であろう。

 

「――私が王道を敷き、私達が住まう為の楽土だ。素晴らしいと思わないか!?」

 

 

 

「何言ってんだよアイツ……! アイドル大統領って事かよ!?」

 

 城戸は舞台袖からその場を静観するしか出来なかった。

 彼が動いても何も出来ない事は百も承知であったし、何よりノイズがいつ暴れるか分からない現状で動くのは得策ではないからだ。

 

「くそっ、何か……何か出来ないのかよ!」

 

 行動する事が出来ない自分に心底苛立ちを隠せない城戸は、手に持ったモノをチラっと見た。

 

 龍騎のライダーデッキ。

 

 この力があれば、今の現状をどうにか出来るかもしれない。

 城戸は機会を伺いつつ、舞台袖からステージ上を睨み続けた。

 

 

 

 ノイズが動かないとはいえ、人々の中で徐々に動揺と混乱が再び生まれているのは見らずとも分かる事であった。

 それ故に、翼はマリアに噛みつく。

 

「何を意図しての語りか知らぬが………!」

 

「私が語りだと……?」

 

「そうだ! ガングニールのシンフォギアは、貴様の様な輩に纏えるモノではないと覚えろ!!」

 

 そう叫ぶと、彼女は首のシンフォギア・システムに強く念じた。

 

(私の甘えを………今日ここで消し去る!!)

 

 そして、ゆっくりと口を開いた。

 

 

「Imyuteus………」

 

 

 シンフォギア・システムを起動させる詠唱。

 翼はゆっくりと、心に念じる様に詠っていく。

 

 

 

 

 

 

 

「――これ以上、計画に支障をきたすわけにはいかない」

 

 ライブ会場の一角に、一人佇む女。

 まるで生気がない様なその眼は、風鳴翼をじっと睨みつけていた。

 そして、眼の奥でナニカが起動する様な音が響いた。

 カチリ、と。

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

「………ん?」

 

 マリアは、ふと視界の端でモゾモゾと動くモノを捉えた。

 それは、フィーネが操作しているノイズである。今はその場で静止と教えていた筈だが、少しモゾモゾと動いている様にも見える。

 

「……………っ、………!」

 

 すると、そのノイズはまるで糸が切れた人形の様に、突如として動き始めた。

 

「なッ……………!?」

 

 マリアはあくまでも「静止」を命じていた。だが、それを何等かの手段で突破し、一瞬で凶器となって襲い掛かった。

 

 

 

 無論、その光景はバックステージで静観していた城戸の目にも映る事となった。

 

「あ、危ないッ!」

 

 瞬間、彼はライダーデッキをかざしながらステージ上へと飛び出していた。

 

 

 

「anmenohaba―――ッ!?」

 

 それは、翼が再び目を開けた時に気付いた。

 ノイズがステージ上へと上り、槍状の形態へと変形して彼女を攻撃しようとしている事に。

 だが、いくら何でも瞬間的に動ける程の運動能力は身に着けていない。

 翼は、その一瞬で死を覚悟した。そして、走馬灯が彼女の脳裏をよぎる。

 

 

(死ぬのか、私は………?)

 

 

(何も護れないで、このまま……………)

 

 

(奏………私は……………)

 

 

 瞳の裏にかつての相棒の姿を映し、彼女は目を瞑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――変身ッ!」

 

 叫び声と共に、ノイズの目の前に滑り込む様に立ち塞がった。そして、即座にカードをロードする。

 

 

 ――ガードベント――

 

 

「き、城戸、さん………!?」

 

 翼とノイズとの間に割って入った城戸真司―――仮面ライダー龍騎は、即座にシールドで攻撃を防ぐ。

 弾かれたノイズはそのままライブモニターへと流れ、モニターを粉々に粉砕した。

 液晶が割れ、表面を覆っていたガラスがステージ上にも散らばる。

 

「大丈夫か、翼!?」

 

「え、あ、あぁ………」

 

 唐突の出来事に、彼女は一瞬だが混乱した。

 すんでの所で、龍騎がノイズの攻撃を防ぎ護ってくれたのだ。その事実を理解すると、彼女は安心した。

 

 翼の無事を確認した龍騎はすぐさまマリアの方に向き直る。

 

「おいアンタ、どういう事だ! 攻撃はしないって約束だったろうが!?」

 

「こ、コレは私ではない! 断じて、私はそんな卑怯な手を使う筈………」

 

 狼狽するマリア。彼女自身が、一番この事態に驚いていた。

 

「そんな事、信じられるかよ!」

 

 龍騎はそう言いながら臨戦態勢を取った。

 すると、観客の中からもマリアの非道を非難する声が上がり始めた。

 

「騙し討ちか!」

 

「卑怯だぞー!」

 

「鬼、悪魔ァー!」

 

 マリアは城戸達が自身の言葉を聞き入れない事に苛立ちを覚えた。

音がする程の歯ぎしりをする。

 自身が手に持つマイク兼杖を振りかざし、目の前の龍騎に向ける。

 

「お前の様な者が現れなければッ………!」

 

 そう言うと、マリアは一気に踏み込んだ。

 シンフォギア・システムで強化されているせいか、城戸は一瞬だけ遅れを取る。

 

「ッ、何!?」

 

 再びシールドで防御しようとしたが、彼は即座に機転を利かせた。

 シールドを突っ込んでくるマリアに向けて投げると、すぐさまデッキからカードを引き抜く。そしてそれをドラグレッダーに差し込んだ。

 

 

 ――ソードベント――

 

 

「うりゃぁぁぁぁっ!」

 

 天から降って来たドラグセイバーを即座に掴むと、そのままその峰でマリアの杖を防いだ。

 

「な………こいつ、シンフォギア・システムではない!?」

 

 マリアは絶句した。

 目の前にいつ紅い戦士もまた、てっきりシンフォギア・システムかと思っていた。だが、先ほどの剣を召喚した事等も含めて、これはシンフォギアとは全く別の存在である事が分かった。

 そして、シンフォギア・システムでないにも関わらず、さっきノイズの攻撃を防いだ事もまた、彼女に心理的ダメージを与えていた。

 

(何だこいつは………!? ノイズ相手に物ともしないなんて……!)

 

 一方の城戸は城戸で、シンフォギア装者について考察していた。

 

(成程な……。ライダーと違って対ノイズ専用だから、人体を護る装備は比較少なくても良いって訳か。こりゃ少し手を抜かないといけない奴か………?)

 

 シンフォギアはあくまでもノイズ殲滅用であり、ライダーの様に様々な敵と戦う事など想定されていない。

 よって、位相差障壁を無効化、更に炭化攻撃を無力化する事だけに特化されている為に、実体物から肉体へ攻撃された場合は普通にダメージが加わるという事であった。

 

 城戸はらしくない程にそう考えた後、鍔迫り合いをしていた間合いからバックステップで抜け出す。

 マリアも城戸が離脱した事で同じく距離を取った。

 

「……おいアンタ、もう諦めて負けを認めろ! その方がアンタの為にもなる!」

 

「ふざけるな……ッ! ここで私が負けを認めれば、『あの娘達』の思いはどうなるッ!」

 

 あの娘達、という単語が城戸の脳裏に引っ掛かった。

 

 マリアもまた、何かの為に戦っているのだ。それも、自分とは桁違いな重荷を背負って戦っている。直感的にそう感じた。

 

 その事を認識した城戸はドラグセイバーを投げ捨てた。それはステージを囲っている壁に突き立つ。

 

「っ!?」

 

「マリア・カデンツァヴァナ・イヴ! 俺はアンタのその行為を認めない! だから、俺がアンタを止めてみせる!」

 

 そう言うと、再びデッキからカードを一枚引き抜いた。そのカードに描かれている意匠は紅龍の頭である。

 

 

 ――ストライクベント――

 

 

 すると、ドラグセイバー同様、空から龍の頭――ドラグクローが降って来た。

 うまくそれを手に装着し、マリアに向かって構える。

 

「お、おい待て! マリアを殺す気か!?」

 

 後ろに隠れる翼は龍騎の背中をバンバン叩きながら抗議の意を知らせる。

 

「大丈夫。シンフォギアが護ってくれるだろ?」

 

 だが龍騎はシンフォギア・システムの防御力を信用しているらしく、構えを解く姿勢を見せない。

 そうこうしている内に、ドラグクローの腔内に炎のエネルギーが充填されていく。

 

「遠距離からの攻撃か!」

 

 マリアは瞬時にそう理解し、マントを盾にする様に自身の前に広げた。

 

「ハァァァァッ!」

 

 龍騎はドラグクローを突き出す。同時に口から火炎弾を吐き出した。

 ゴウッ、と音を立てて吐かれた炎がマリアを直撃する。

 

「っ、グッ!!」

 

 事前に展開していたマントによってその威力は殆ど減衰出来たが、熱エネルギーだけは防ぐ事が出来ず彼女に襲い掛かった。

 だが、多少の火傷を負いながらそれでも毅然として立つマリア。

 龍騎と翼はその執念に少し恐怖を覚えた。

 

「まだ……こんな攻撃で倒れる訳にはいかないッ! あの娘達の…為にもッ!」

 

「なんて奴だ……」

 

「おい翼、そんな事を言ってる暇があったら早く逃げろ!」

 

 龍騎は振り返るとそう叫びながら翼の肩を持った。

 

「駄目だ! まだ多くの人がいるではないか!?」

 

 未だ囚われの身になっている観客達はステージ上で行われている謎の戦闘に釘付けで、自身の身の危険を忘れてすらいた。

 翼は彼らの身を案じ、自身よりも観客の避難を最優先としていた。

 

「くっ………おい、マリア! せめて観客だけは解放しろ!」

 

 龍騎はそう叫ぶ。

 翼がシンフォギア・システムを発動させる為には、まず観客達を逃がす必要があった。それに、全世界に中継され続けているカメラも止める必要がある。

 マリアが信念の為に戦っている以上、案外まっすぐな人間であると思ったから龍騎はこんな行動に出れた。

 

「何……解放だと?」

 

「ああ! 何も関係ない人間を巻き込むな!」

 

 龍騎はそう叫ぶ。

 それはかつて、無力な市民を護る為に戦った経験がある城戸故に出た言葉であろう。

 

「アンタが何を企んでいるのか知らないが……いや、それが語りかどうかすら分からないけど、他の人を巻き込む事に何か意味があるのかよ!」

 

「意味……だと?」

 

 そうだ、と言う様に龍騎は更に叫び続ける。

 

「これだけ大勢の人質を必要としてまでも、こんな事をやらないといけないのか!? こんな事をするのが、お前の意思なのか!?」

 

「私の意思………」

 

 マリアは龍騎のその言葉を聴いて、少し俯く。表面上は冷静を装っているが、かなり動揺していた。

 

(私の、意志……それは何だ……? 私は……私は………?)

 

 

 

【ライブ会場 通路裏】

 

 

 

「………再び計画遂行に支障発生。このままでは順序通りにはならない」

 

 先程まで観客席にいた女は、いつの間にか関係者通路に立っていた。

 そしてそこで彼女は一連の流れを視ていた。

 

 ―――だが、そこにはモニターなど存在しない。

 

 彼女の瞳、その中から、事のしだいを視ていた。

 

「………排除プログラム第二弾を発動。速やかに例のモノを召喚する」

 

 無機質かつ機械的な口調でそう一人でに呟くと、懐から一つの物体を取り出した。

 全体が沈んだ青、紺色をした、リング状のアイテム。リング部分のみが赤く怪しく光り、まるで返り血の様に見えなくもない。

 そして、彼女は懐からもう一つ取り出した。

 一枚のカード。

 それは龍騎のアドベントカードやディケイドのライダーカードとも違う。

 中央に描かれるのは、禍々しい姿をした人である。

 

 瞳は黒く、全身が紅、黒、銀の三色で覆われたその存在は、カードながら周囲の空間に重いナニカを振りまくようである。

 

 女はその黒いリングを右手に掴むと、左手に持ったカードをリングに通そうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――その時、

 

 

 

 

 音がした。

 

 優しく、撫でられるような音。ハーモニカであろうか?

 

 何処からともなくメロディーが突如として流れ出し、女は困惑する。

 

 

「……周囲の人間は、既に全員殺した筈だが…………」

 

 そう言いながら振り返る。

 

 そこには一人の男が立っていた。

 茶色のジャケットを羽織り、ハーモニカらしきモノを口にしている男。

 

「……貴様か、この雑音を発しているのは?」

 

 女はそう尋ねる。

 

「……だったら何だ?」

 

 手にするハーモニカから口をはなすと、青年は女を一瞥しながら言った。

 

「………見られた以上、ここで殺す」

 

 そう呟くと、女は青年に飛び掛かった。

 手にするリングを、青年の後頭部目掛けて振りかざした。

 

 

 ガッ、という音が響く。

 

「!?」

 

「……残念だが、俺を仕留めるのは叶わなかったようだな」

 

 青年は攻撃を防いでいた。

 

 ―――女の持つリングと同じモノ。

 いや、正確には色が違った。

 コチラのリングは銀、赤によって意匠が刻まれている。

 

 それは、オーブリングと呼ばれるモノ。

 

「貴様………何者だ?」

 

 女はすぐに後退りしながらそう訊ねる。

 青年はリングを懐にしまうと、女の眼を見ながら叫んだ。

 

「俺はガイ! クレナイガイだ!」

 

 

 

【ライブ会場 ステージ上】

 

 

 

 少しの間、沈黙を保つマリアが口を開いた。

 

「………会場の観客諸君を解放する!」

 

「な……!?」

 

 翼はその言葉を聴いて少し困惑する

 

(城戸さんの言葉を聴いて………だが、何が彼女を動かしたというのだ………?)

 

 一人そんな疑問を抱きつつも、マリアの言葉を聴き続ける。

 

「ノイズに手出しはさせない! 速やかにお引き取り願おうか!」

 

 そう宣言すると、彼女は龍騎の方へと振り向いた。

 

「………これが、私の意志だ」

 

「そうか……」

 

 龍騎はそう応える。

 本当なら、このままお縄に付く、という所までいって欲しかったが、流石にそこまではいかない様だ。

 だが、これで観客達に犠牲者が出る事はまずないだろう。

 龍騎は安心して、小さくため息をついた。

 

 

 

 

『―――何が狙いですか? コチラの優位を放棄するなど、筋書きには無かった筈です。……説明して貰えますか?』

 

 マリアの耳に装着されたヘッドセット、そこから女性の声が聴こえてきた。

 フィーネの一員であり、マリアの指導者、ナスターシャ教授からの通信である。

 

「このステージの主役は私。……人質なんて、私の趣味じゃないわ」

 

 龍騎の言葉によって揺れ動いた彼女は、自身の意思でそう言った。

 

『血に汚れる事を恐れないで!』

 

 ――血に汚れる

 

 これから彼女は、幾つもの戦いを通して血を浴びる事となるだろう。

 だからこそ、ナスターシャはここで彼女に決意を示す一環として立って欲しかった。

 

 ……だが、そうはいかなかったようだ。

 

『……調と切歌を向かわせています。作戦目的をはき違えない範囲でおやりなさい』

 

「了解、マム………ありがとう」

 

 そう応答した直後、通信は切られた。

 そして、マリアは決意を決めた目をして龍騎と翼を見つめた。

 

 

 

【ライブ会場 通路裏】

 

 

 

「クレナイガイ」と名乗った青年と女は、人知れずそこで格闘戦をしていた。

 

 バシュッ、という人間では出せないような音が響き渡る。

 女の放った鉄拳を掌で受け流すと、ガイはその腕を掴んで動きを封じる。

 

「一体何が目的でこんな所に居る! そして、そのダークリングは何だ!」

 

 問い詰める様にそう叫ぶ。

 だが、女は力尽くでガイの拘束を振り払った。

 

「………貴様に話す口など、ない」

 

 そう言うと、女は拳銃を構えた。

 

「なにッ!?」

 

 ガイは咄嗟に回避をしようとしたが、直後に間に合わないと直感する。

 女は右に転がったガイを完全に追従する様に拳銃を向け、そのトリガーを引いた。

 

「死ね」

 

 バン、という乾いた音。

 それと共に、一瞬大きくナニカが輝いた。

 

「っ、危ねぇ………」

 

「な………」

 

 ガイは無事であった。

 

 何故か?

 

 彼の右手に握られている一振りの剣、オーブカリバーによって銃弾を防いだからである。

 

「………お前、人間じゃないな。異星人か何かか?」

 

 オーブカリバーを女に向けながら立ち上がる。

 

「話す口は無いと言った」

 

 女はそう言うと、ガイを振り切ろうと飛び出した。

 ガイの脇から抜けようとしたが、無論の事ながらオーブカリバーによってその道を防がれる。

 

「なら……」

 

 女は跳躍した。ジャンプした、とは比べ物にならない程に。

 そのまま通路の壁に張り付く様に着地すると、そのまま三角飛びの要領でガイの後ろ――つまり、観客達が脱出している通用口へと続けて跳躍した。

 

「何ッ!?」

 

 咄嗟の事に対応が遅れたガイが後ろを振り向くが、既に女の姿はそこには無かった。

 上手く逃げられてしまった。

 

「クソ………逃げ足が速いな……」

 

 ガイが溜息を付きながらリングを懐に直すと、オーブカリバーは光の粒子となって彼の手の中から消えていった。

 そして、彼は女の行方を追う為にその場から姿を消した。

 

 

 

【関東圏 上空 ヘリ内】

 

 

 

 ライブ会場への移動を急ぐ響たちの元に一通の連絡が入ったのは、マリアが観客の解放を宣言してすぐの事であった。

 

「よかった! じゃあ観客に被害は出てないんですね!」

 

 被害がない事に喜びの声を上げる響。

 だが通信モニターに映し出される弦十郎、藤尭の顔は依然厳しいままである。

 

『現場で検知されたアウフヴァッヘン波形については、現在調査中………だけど、全くの偽物(フェイク)であるとは………』

 

 ライブ会場からは、ガングニールのアウフヴァッヘン波形が検知された。

 だが、それは本来立花響の駆るシンフォギア・システムが放つものであり、マリアが持っている筈はないのだ。

 

 ―――第一、ガングニールのシンフォギア・システム自体、前装者である奏、そして響以外に使いこなせる筈などないのだ。

 

 響は自身の胸に手を当て、そして感じた。

 自身の胎には、未だガングニールの聖遺物が存在している事を。

 

「私の胸のガングニールが無くなった訳ではなさそうです」

 

 その応えにモニターの向こうの弦十郎は顔を一層厳しくした。

 

「………案外模倣は簡単かもしれないな」

 

 横からそう言ったのは士であった。

 

『どういう事だ……士くん?』

 

 弦十郎は士の言葉に疑問を覚え、こう投げ掛けた。

 

「………まあ仮の話だが、例えば、このフィーネとかいう組織の裏に……ショッカーの姿があったとしたら?」

 

 その言葉に、一同が息をのんだ。

 

「俺のディケイドライバー……これだって、元はと言えばショッカーが開発したモノだ。あいつ等の並外れた科学力をもってすれば、ガングニールのコピーだって容易かもしれないという話だ」

 

 つまり、何処からかガングニールの聖遺物の欠片さえ手に入れれば、失われた部分の修復、完全模倣も可能ではないかという話である。

 

「うーん……理解できるような、できないような………」

 

 今の士の言葉を聴いて、響は頭をこんがらがせていた。

 

「お前、今のは分かり易かっただろ……」

 

 隣でクリスが頭を抱えているのは言うまでもない。

 こんなおバカとコンビを組まされている事に、改めて哀しさを覚えた。

 

『………つまり、フィーネの裏にはショッカー、又はそれに並ぶ組織が関与しているという事か……』

 

「あくまで推測の域だ。だが、それぐらいは想定していてもいいんじゃないか?」

 

『………もう一振りの、撃槍(ガングニール)……』

 

「それが……黒いガングニール………」

 

 

 

【関東圏 上空 ヘリ内】

 

 

 

 観客の避難は完了し、会場に残るのはマリア、翼、城戸、緒川だけとなっていた。

 

 もの寂しくなった観客席を眺めながら、マリアはふと口を開く。

 

「………帰る所があるというのは、羨ましいものね」

 

 それは彼女の本心か。

 

 龍騎は未だ身構えつつも、彼女のその言葉の意味を理解しようとした。

 

「マリア………貴様は一体………?」

 

 翼もまた、その意味を理解しようとそう投げ掛けた。無論、言葉が返ってくる事はない。

 彼女には「帰るべき居場所が存在しない」という事だけが、事実として残っているだけである。

 

「……悲しいやつだな、アンタは」

 

 龍騎の仮面の下の顔は、哀れむ様に彼女を見つめ続けた。

 

「………観客は皆退去した! もう被害者がでる事はない……翼、それでも戦えないというのなら、それは貴方の保身の為!」

 

 そう言うと、マリアは再び彼女に向かって啖呵を切った。

 

「っ、戦うのなら、俺が相手だ!」

 

 龍騎はドラグクローを構えながら翼の一歩手前に飛び出す。

 だが、その行動を見越していたのか、マリアは翼ではなく龍騎目掛けて脚を繰り出した。

 

「ハァッ!」

 

「グッ……!?」

 

 マリアのしなやかな左脚の蹴りが龍騎の脇腹に直撃した。シンフォギア・システムによって何倍にも強化された物理エネルギーは、ライダースーツの防御能力すら容易く破る勢いである。

 龍騎は蹴られた衝撃でステージ上からはじき出された。

 眼下にあるのはノイズの群れである。ハイエナの如く獲物を待ち続けていた奴等は、すぐさま龍騎に襲い掛かる。

 

「城戸さん!」

 

「俺に構うなッ!」

 

 ライダーシステムのおかげで炭化攻撃は無効化できる龍騎は、そのままノイズ達相手に戦い続ける。

 だが、ドラグクローだけでは限界があるのは明白である。

 

「よそ見をする余裕があって?」

 

「くっ……!」

 

 マリアは翼の懐に迫ろうと突貫してくる。

 翼はそれを辛うじて避けるが、生身の人間ではいつか避けきれなくなるのがオチだ。

 

(シンフォギアを……天羽々斬を纏わねば………だが)

 

 未だ全世界に中継されている中でシンフォギア・システムを発動させる事は、彼女の歌手人生を棒に振るのと同じである。

 自身の夢を捨てきれない故に、変身する事は拒み続ける。現状をどうにかしようと、翼はそのままステージ袖に走り出した。

 

(ステージ外に、カメラの外に出てしまえば………!)

 

「……その魂胆か!」

 

 行動の意味を悟ったマリアは、彼女をそのまま追従する。

 そして、目の前にあった剣状のマイクを彼女の脚目掛けて投げだした。

 

「それ位の攻撃ッ………!」

 

 翼はそれをジャンプで回避する。

 そして着地した、その瞬間―――

 

 

 ――パキン

 

 

「……………っ!」

 

 走る事に慣れていないヒールが、負荷に耐えられずに折れた。

 そして、一瞬生まれたラグが彼女をひどく動揺させた。

 

「貴方はまだ、ステージを降りる事は許されない!」

 

 先の龍騎同様、足蹴りを腹部に叩き込まれる。

 

「グ………ぁっ!」

 

 苦悶の表情を浮かべながら吹っ飛ばされる翼。

 彼女の落着地点には、龍騎と戦い続けるノイズの姿があった。

 その幾つかが、彼女に照準を定めたかのように向き直る。

 

「な……、勝手な事を!」

 

 だが、マリアの指示を聞こうともしないノイズ達は、彼女を殺そうとする為だけに集まり続ける。

 

「ッ、翼ァッ!」

 

 龍騎が助けに入ろうとするが、無数のノイズ達が立ち塞がった。

 

 

 

(……決別だ……歌女であった私に……)

 

 もはやシンフォギア・システムを発動するしかない事態。

 彼女は、自身の歌を捨てる覚悟を決めた。

 

 それは、自身の夢を捨てる事。

 後悔はない。

 だが、それと同時に脳裏に浮かぶモノ………

 

 

(翼さん!)

(翼さん!)

(翼!)

 

 

 自分の歌で喜びの顔を浮かべる響、いつも陰ながら支えてくれた緒川、助けてくれた城戸、そして―――

 

 

(翼………)

 

 

 友でありパートナーであった奏………

 

 

(奏……私は………)

 

 

 翼はだた目を瞑りながら、口を開いた。

 

「Imyuteus amenohabakiri tron………!」

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間であった。

 

 ―――ズドンッ!

 

 

「!」

 

 その場にいた全員の視界が、暗く歪んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅かったか………!」

 

 通路から急ぎ飛び出したガイは、見上げながらそう呟いた。

 目の前に広がるのは巨大なナニカ。

 何時からそこに居るのか、と言えば、つい数秒前からという事になる。

 55mという巨体。銀の体に紅のラインが光っているそれは、かつて誰もが信じた者にそっくりであった。

 

「ウルトラマン………」

 

 ガイはそう呟く。

 だが、その姿は未だ誰も知る事のない者である。

 

「……まさかアレにそっくりなニセモノが出てくるとはな………

 

 ガイだけが、その存在を知っていた。

 

 ―――いや、正確には、限りなく近い存在を知っていた。

 

「ウルトラマン………『ダイナ』……いや、『量産型ウルトラマンダイナ』か……?」

 

 微動だにしない巨人――ウルトラマンダイナは、ただただ虚空を眺めていた……。

 

 




~次回予告〜


 何者かによって呼び寄せられたウルトラマン。だが、彼は突如として破壊活動を始めてしまう。
 フィーネとウルトラマンの挟撃に苦戦する翼達の前に、マドカ・ダイゴが立ち上がる!
 そして、ユーゼスは間に合うのか?

 次回、因果律の鎖を越えて
      -ULTRA・ZEST-

 光の復活


 今再び甦れ! ウルトラマンティガ!

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