渚はかつて自分がSAOの中で二年過ごした事ををクラス全員に話し出した。
「二年前、僕が小6の時には既に両親は離婚していた為、僕は母と一緒に暮らしていた。父と会えるのは決まった面会の日ぐらいだった。そんな父と面会出来る日が二年前の11月に有ったんだけど、その時は父に急用が出来てしまい、父は自分が買っていたナーヴギアとSAOのソフトを僕に渡して面会出来る時間が出来ずにいた事を謝って、お詫びにそのゲームで遊んでくれと父の親切心で僕はナーヴギアを被ってSAOの世界へとダイブした。」
「つまり、渚はSAO事件の犠牲者って事なのか?だから、さっきの寺坂の言葉に怒ったのか」
「そうだ。僕はそのSAOの世界で二年間を過ごした。だからこそ、その二年間を過ごしたSAO帰還者への冒涜と言える寺坂の言葉に我慢出来なかった」
渚がSAO事件の犠牲者だと知ると、クラスの誰もが渚はどんな二年間をSAOの世界で過ごしたのか知りたくなった。興味本意とかでは無く、SAOで起きた事を詳しく知ってSAO事件の犠牲者がどんな気持ちで過ごしていたのか知りたかった。
「今から僕がSAOにログインした後の話を少しだけ話す。よく聞いてほしい。」
渚は自分がSAOで体験した話を第1層の攻略までの事を話す事にし、クラス全員は渚の話に耳を傾けた。
渚はナーヴギアを被り、自分の憧れの姿である高身長の男の姿をしたアバターを作った後にアズワルドというプレイヤーとしてSAOにログインした。
SAOにログインすると、渚の目には現実の様に思える街並みが写った。ソコはまるで中世時代のヨーロッパの様な街で『始まりの街』と渚の視界に街の名前が表示された。渚は自分の手を見て確認すると、現実の自分とは違う大きな手だったので、近くの窓を覗いて自分の姿を写すと、アバターで設定した通りの姿になっている自分がいた。
渚は本当にここがゲームの世界だとは思えない程に忠実に作り上げられた世界だったので純粋にSAOの世界に来れた事に感動していた。だが、渚はこの時は小6の子供なので、アバターであるアズワルドの外見が大人に見えても精神は小6の子供なので、まずはどう動けばいいのか解らずにいた。
そんな困った渚の姿を見た茶髪のセミロングの青年が声を掛けてきた。
「ソコの君、もしかしてフルダイブは初めてなのか?」
「えっ?は、はい。初めてフルダイブしました」
「ははっ!やっぱりね。その慌てようだと余程、慣れてないんだろうね。良ければ俺が教えるよ。こう見えてβテスターだしね!」
「βテスター?」
「おや?ゲーム自体が初めてなのかな?βテスターは簡単に言えば、このゲームが正式にリリースされる前に予め募集した者からテストプレイヤーを決めてゲームの進行具合に不具合が無いか確かめる為に選ばれたテストプレイヤーの事さ」
「成る程。じゃあ、このゲームの事は詳しいんですか?」
「勿論。まあ、βテスト通りなら問題は無いと思うけど、とりあえずはこのゲームでの戦い方にソードスキルの発動の仕方やアイテムの使い方を教えるよ。君の武器は片手剣か。基本的な武器だから槍使いの俺でも教えられそうだし大丈夫だよ」
渚は元βテスターである青年からレクチャーしてもらう事になったので、渚は彼に感謝すると同時に名前を尋ねた。
「親切に教えてくれるんですか!ありがとうございます。あなたの名前は?」
「俺の名前はマキウス。君の名前は?」
「僕はなぎ・・・違った。この世界ではアズワルドという名前です」
「気を付けた方がいい。間違っても現実での名前は出さない様に。変に悪用されたら困るのは君だしね」
マキウスに自分の現実での名前は出さない様に注意された後に、マキウスから様々なレクチャーをされ、SAOがどんなゲームなのか理解し、アイテムの使い方も習った後に、このゲームの代名詞であるソードスキルの使い方を指導され、ソードスキルの扱い方も理解した。
マキウスと一緒にフィールドを移動してはモンスターをソードスキルを使い倒していき、ソードスキルの扱いにも慣れてきたところで渚は時刻を確認すると夕方なので、早くログアウトしないと母に怒られると思い慌てふためいた。
「しまった!?もうこんな時間に・・・急がないと母さんに叱られる・・・」
「そうか、門限が近いんだね。じゃあ、アズワルド。また会えたら、一緒に冒険しようか」
「はい。またログイン出来たらいいけどね・・・」
この時の渚の母親は怒るとヒステリックになるので、渚は一刻も早くSAOの世界からログアウトしようとしてメニューを開き、ログアウトの項目を探したが見つからないので、マキウスに尋ねた。
「マキウスさん。ログアウトの項目が見つからないんですが?」
「えっ?そんな事は無い筈だよ。メニューを開いて一番下にログアウトの項目が有る筈・・・アズワルド、俺の方にもログアウトの項目が見当たらない。どうやら、SAOのシステムがバグったのかエラーでログアウトの項目が一時的に消えたんだろう。とりあえず
渚はマキウスの言う通りにして、
鐘の音が響くと渚とマキウスの視界は真っ白になり、二人は気付くと始まりの街に強制的に転移されていたのだ。いや、二人だけではなかった。他のプレイヤー達全員が始まりの街に急に強制的に転移されたのだ。
他のプレイヤー達も渚とマキウス同様にログアウトの項目がメニューから消えてるらしく、『早く現実に帰せ』等の声が聞こえる中で空が急に赤い警告文で真っ赤に染まると、空から赤い液体が落ちてきて、その液体が少しずつ形を作り上げていくと赤いローブの巨人となり、その巨人が全プレイヤーに向けて話し出した。
「私の名前は茅場昌彦。知ってるかと思うが、ナーヴギアの製作者でSAOのソフトも私が作り上げた物だ。それとこのSAOの世界を管理する
赤いローブの巨人は自分がSAOの製作者兼
「諸君らは私が身代金目的かテロ目的でログアウト出来ない様にしたと思っているだろうが、それは違う。この状態こそが私の目的そのものなのだ。つまり、私の目的は諸君らを現実から引き剥がしてこの世界に縛り、この世界の住人になってもらう事だったのだよ。」
茅場はログアウト出来ない様にした理由はプレイヤー達を現実から引き剥がしてSAOの世界に縛る事でこの世界の住人にする事だと告げられたので、この時の渚は小6の子供の為かそんな事の為だけに沢山の人をこの世界に閉じ込める事に何の意味が有るのか理解出来なかった。
「私の目的を明かしたところで、この世界を脱出する唯一の方法を教えよう。この世界を脱出するにはこのゲームをクリアする事だ。諸君らが今いるアインクラッドの第1層から第100層まで上り、第100層にいるラスボスを倒す事が出来ればゲームクリアとなり、諸君らは全員が現実世界に帰る事が出来る。次の層に行くには各層毎に有る迷宮区に潜むボスを倒す事だ。ボスを倒す事で次の層に続く道が開かれる。その手順を繰り返して第100層にたどり着いてラスボスの撃破を目指したまえ」
茅場から唯一の脱出手段はこのゲームをクリアする事だと告げられたが、βテストではまともに上る事すら出来なかったと聞いたとかの声が出る中でも茅場の話はまだ続いていた。
「続いて、諸君らにはこの世界が今の諸君らにとっての現実世界だという事を自覚してもらう為に私からプレゼントを送ろう」
茅場がそう言うと全プレイヤーにアイテム『手鏡』が送られてきたので、渚はマキウスの目を見て手鏡を取り出すと、手に手鏡が握られており、渚はその手鏡を覗いた瞬間だった。手鏡が光だすと、手鏡に写っていた姿がアバターのモノでは無くて、現実世界での自分と同じ姿になっていた。顔だけでは無く、体格に身長までもがだ。
渚は戸惑いつつもマキウスの方を向くと、ソコには茶髪で短髪の少し切れ長な目をした青年がいた。
「君はアズワルドかい?」
「えっ?もしかして、マキウスさん!?」
「ああ、そうだ。まさか、現実と同じ容姿にするとはな・・・それにしても、アズワルド。君は子供だったのか。道理で街で見掛けた時の仕草が子供のソレだった訳だ」
「ははっ・・・何か騙した感じになってしまいましたね・・・」
「気にするな。君はこのゲームを楽しもうと思ってこの世界に来たのだろ。だが、こんな事になるとはな・・・」
マキウスはこのゲームを純粋に楽しもうとしていた渚を含めた子供のプレイヤーまでをも閉じ込めた茅場に怒りを感じていたのかもしれない。
全プレイヤーが茅場のプレゼントである手鏡によって、現実世界での姿となった様で中には男性が女性物の装備をしている者もいる。いわゆるネカマらしく、正体が暴かれたネカマは騙されたと知った男性プレイヤー達から逃げる様子も有ったが、茅場はそんな状況だろうと話を続けた。
「これでこの世界が現実その物だという自覚が出来ただろう。そして、これが一番重要な話だ。正式版SAOにてHPが無くなったプレイヤーのアバターはシステムにより削除され、二度とこの世界に姿を現す事は無い。更にアバターが削除されると同時にそのアバターを使用したプレイヤーのナーヴギアから高出力の電磁マイクロウェーブが流れて脳を焼ききる。つまり、この世界での死は現実世界での死も意味するのだ。それと外部から無理矢理ナーヴギアを外そうとした場合も電磁マイクロウェーブで脳を焼かれ死を迎える。その後にアバターも自動的に消滅する。この事は全て私がマスコミやインターネットを通して世界中に知らせてある。だから諸君らは現実世界の肉体を気にせず、ゲームクリアを目指したまえ。それでは正式版SAOのチュートリアルを終える。ゲームクリアを目指して頑張りたまえ」
茅場は最後にこの世界での死は現実世界での死も意味すると告げた後にゲームクリアを目指して頑張る様にと言い残して姿を消した。
茅場が去った後、始まりの街はプレイヤーの声で響きだした。
「ふざけるな!!ここから出せよ!!」
「やっと就職出来たのに・・・クビにされたら茅場、お前のせいだからな!!」
「明日は重要な会議が有るんだぞ!!」
「出せよ!!俺にはまだ産まれたばかりの子供がいるんだぞ・・・こんな形で会えなくなるなんて有ってたまるか!?」
「よっしゃ!!これで毎日ゲーム三昧だ!ざまあみろ!お袋!」
一つ変なのが混ざっていたが、ほとんどのプレイヤー達がこのゲームに閉じ込められた事への不満の声を挙げていた。
マキウスは何か考えが有るのか渚に声を掛けた。
「アズワルド。少し考えが有る。俺についてきてくれ」
「は、はい」
渚はマキウスの後を付いていき、街の出口付近に移動するとマキウスは渚に自分の考えを話した。
「おそらく、先程の茅場が言った事は全て本当だろう。HPが無くなれば本当に死ぬこのゲームを生き残るには二つの選択肢が有る。一つ目は何もしないでこの街に引きこもる。街にさえいれば、モンスターと会う事は無いから戦闘を行う事はまず無いだろうから、街にいれば一番安全かつ生き残れるだろう。ただし、この場合はゲームクリアを他人任せにするしかないので、ゲームクリアまで待つしかないという事になる」
「二つ目は何ですか?」
「二つ目の選択肢は言うまでも無く、SAOクリアを目指してレベルを上げて強くなり、装備を強力にしていき、各層毎のボスを倒して先に進んでいきラスボスを撃破して、ゲームをクリアして脱出する。この選択肢は戦う事が前提の為にゲームをクリアする前に自分が死ぬリスクが高い。だが、確実にこの世界に順応して生き残れるかもしれない方法としては一番だろう」
「この世界で戦いながら、ラスボスを目指して進んでいき、ラスボスの撃破を目指すか・・・」
「俺は二つ目の選択肢である戦いの道を選択する。アズワルド、君はまだ子供だ。街に引きこもる事を選択しても責める奴は誰もいない。俺としては君には生き残っていてほしい」
「何でですか?僕とマキウスは今日出会ったばかりなのに・・・」
「君は病気で死んだ弟に似てるんだよ。ちょうど君の様に男なのに長髪で女みたいな奴だったんだよ」
「酷い!?僕は好きでこの髪型な訳じゃないのに・・・」
「それは悪かった。とにかく俺はアズワルド、君に生き残ってほしい。どんな選択で有ろうとも、俺は君の味方をしよう」
マキウスは渚にそう告げた後に、渚の意志を尊重する事にして渚の答えを聞く事にし、街に引きこもるなら金銭を渡して生活で苦労しない様にサポートし、戦う道を選択するならばマキウスは渚を強くする為にレベル上げやクエストの手伝いをする事を考えていた。
渚はよく考えて自分が後悔しない道を選んだ。
「僕は逃げたくないです。この世界で生きる為に街にずっと引きこもるのは現実から目を背けているだけだし、自分で動かないと事態は改善されないと思います。だから僕は戦います!この世界で戦って生き抜いてみせます!そして、この世界から脱出して現実世界に戻ってみせます!」
「そうか。それが君の答えなんだな、アズワルド。わかった、俺は君を子供じゃなくて一人のプレイヤーとして接して、力を貸すよ。さあ、行こうか。この街の周りのモンスターは落ち着きを取り戻したプレイヤー達に狩り尽くされるだろう。システムでモンスターが出現するタイミングは限られているし、次の街に向かおう。ソコのモンスターはこの辺りのモンスターよりレベルは高いけど、二人で連携しながら相手すれば苦戦はしない。だから、俺と一緒に行こうかアズワルド!」
「はい!一緒に行きますよ、マキウスさん!」
渚はこの世界で戦って生き抜く道を選択し、マキウスと一緒に行動する事にした。マキウスの案内で次の街に着いた後はその辺りのモンスターを倒してレベルを上げていき、区切りが付いたらマキウスが更に次の街か村に行く事を勧めた後に、マキウスと一緒に次の拠点に移動してはその辺りのモンスターを倒すという手順を三回は繰り返したと思われる。
渚はマキウスと行動し、マキウスから道具屋で売られていたマキウス同様に元βテスターだったプレイヤーが書いたマニュアルを渚に渡し、渚はそのマニュアルを読んでこの世界での知識を取り入れていき、渚はマキウスが驚く程に順調に強くなっていた。
デスゲームとなった正式版SAOが開始してから二週間経ったある日、宿で寝ていた渚が起きるといつも隣の部屋で寝ている筈のマキウスの姿が見えずにいたので、渚は街の中を探し回ったがマキウスの姿が何処にも無かった。
不安に思った渚はもしかすると、マキウスはフィールドに出たのかもしれないと思い、街を出てフィールドに出るとマキウスを探しに動いた。マキウスを探している時でもモンスターは現れるので、現れたモンスターを倒しながらマキウスを探していると、植物型モンスターであるリトルペネントの大群にマキウスは囲まれていたのだ。
渚はマキウスのHPバーを見ると、マキウスのHPは既にレッドゾーンに到達しており、渚はマキウスを助ける為にリトルペネントを三体纏めて片手剣のソードスキル[ホリゾンタル]を喰らわせ、三体のリトルペネントを撃破した後に残ったリトルペネントをソードスキルの使用後硬直が解けたら直ぐにソードスキルを使い、数体ずつ倒していき、リトルペネントが残り一体になったところでその最後の一体が渚の後方に回ると一撃を加えようとしてきた。
「しまった!?(ソードスキルを使い過ぎて後ろに回り込まれてしまった・・・)」
「アズワルド!?させるかぁぁっ!!」
マキウスはボロボロで満身創痍の状態ながらも渚を押し出して、リトルペネントに槍を突き刺してリトルペネントを倒したが、リトルペネントの攻撃もマキウスを捉えており、マキウスのHPが減っていき無くなろうとしていた。
渚は急いでマキウスに近付いてポーションを飲ませて回復させようとしたが、マキウスがそれを拒んだ。
「ダメだアズワルド。お前は俺を探してる間にポーションを使って数を減らしてしまった筈だ。お前の残り少ない回復アイテムを減らしてまで俺は生き残ろうとは思わない。すまないな、勝手に飛び出した結果がこの様だ。強力な片手剣と交換してくれるクエストが有ったんだ。そのクエストの報酬を得る為にはリトルペネントの中に稀に出現する花付リトルペネントを倒した時に手に入るこの花が必要だったんだ」
「でもマキウスさんは槍を使うんだから、剣なんて手に入れても・・・まさか、僕の為に・・・」
「本当にすまない。この事は秘密にして君に報酬の剣を渡して驚かせようかと思っていたんだが、どうやら俺は少し侮っていた様だ。リトルペネントは実を付けた奴もいてな、その実を付けた奴を攻撃すると実が弾けてその臭いに釣られるかの様に大量のリトルペネントを引き寄せるんだ。俺はそれを利用して花付リトルペネントを出現させたんだが、思ったより多い数のリトルペネントが現れた結果がこれだ」
渚はマキウスが自分の為にこんな無茶をしてしまい、死なせる原因になってしまった事に心を痛めるが、マキウスはそんな渚にリトルペネントから手に入れた花を手渡すと、渚に告げた。
「これはアズワルド。君のせいじゃない。これは俺が勝手に先行してこの世界を侮ってしまった事による慢心が生んだ結果なんだ。だから君のせいじゃない。アズワルド、君は俺の分まで生き残ってくれ。どんな方法でもいい。君は無事に生き残ってこの世界から脱出してくれ。俺は君をいつまでも見守っている。さよなら、アズワルド」
マキウスはそう言い残した後に光の粒子となり散った。渚はマキウスの死に悲しみながらもマキウスに言われた通り、この世界をマキウスの分まで生き残ってこの世界から脱出する事を目指す事にした。
渚は街に戻ると街の片隅にマキウスが使っていた槍を墓石代わりに地面に刺した後に、散ったマキウスに向かって言う。
「僕はマキウスさんの分まで生き残ってみせます。だから僕を見守っていて下さい。僕はあなたの様に優しく誰かを守れる様に頑張ってこの世界で戦い抜きます。さよなら、マキウスさん」
渚はマキウスの墓の前から去っていき、マキウスから渡されたリトルペネントの花を渡してクエストの報酬である片手剣アニールブレードを手に入れた後に街を去っていき、渚はこの世界でマキウスの分まで生き残る為にも先に進むのだった。
何か、語りになってしまいました。渚視点では有りますが三人称で統一させてください。
次回は言うまでも無く、語りの続きです。