渚が椚ヶ丘中学校の三年E組に転入してから数日が経過した。渚は今まで長い髪を肩まで垂らしていたが、茅野に髪の毛を束ねた方が良いと言われ、茅野に髪を茅野と同じ髪型であるピッグテールに束ねられた。最初は戸惑ったが、髪を束ねた方が動き易いので今では自らピッグテールにしている。
渚は学校生活を過ごしながらも暗殺対象である殺せんせーのちょっとした事でも新たな発見を見付ける度にメモを取っていた。そのメモの内容の一部を杉野に見せ、杉野は殺せんせーの暗殺に動いた。
杉野は元野球部で対殺せんせー用のBB弾を埋め込んだ野球ボールを持ちながら、渚のメモから得た内容に書かれた殺せんせーの行動分析で朝のホームルーム前は校舎裏でハワイにまで行って買ったジュースを飲みながら、英字新聞を読んでいる事を知ったので杉野は茂みに隠れながら殺せんせーに向けて感付かれない様に勢い良くボールを投げた。だが、しかし・・・
「おはようございます、杉野君」
「ええっ!?俺はボール投げた筈なのに・・・いつの間に俺の後ろに!?」
「先生が最速マッハ20で動ける事を忘れた訳じゃないですよね。杉野君が私にボールを投げようとしていたのは初めから気付いていましたので、杉野君がボールを投げるまで暇でしたので、用具室に野球グローブを取りに行きました。そして、杉野君が投げたボールをグローブでキャッチしました」
杉野が投げたボールは用具室までわざわざ律儀にグローブを取りにまで行った殺せんせーにキャッチされてしまっており、先程まで殺せんせーが寛いでいた場所には杉野が投げたボールをキャッチしたグローブが置かれていた。
「杉野君のボールに対先生用BB弾を埋め込んだのは良いアイデアですし、ボールならエアガンと違い、発砲音も無いのでバレ難い暗殺ですが、もう少し工夫しましょ。杉野君、殺せるといいですね、卒業までに!」
殺せんせーは杉野のボールを使った暗殺のアイデアは素晴らしいと称賛したが、杉野は結果を出せなかった為か少し落胆した表情になる。
「もう少ししたら朝のホームルームを始めますので、杉野君も早く教室に入っている様に」
「はい・・・」
朝のホームルームの時間が近くなったので殺せんせーが杉野に教室に行く様に告げると、杉野は少し気落ちした様子で教室に戻ろうとした時、殺せんせーが後ろに向けて触手を伸ばした。杉野は何事かと思い、殺せんせーの後ろを見ると、殺せんせーに暗殺を仕掛けようとしたのか渚が対先生用のナイフを握っていたが、殺せんせーの触手が渚の手を抑えているので、殺せんせーは渚の暗殺を防いだ様だ。
「渚君、気配に殺気を完全に消した上に物音を立てずに私に近付いた事は素晴らしいのですが、残念ながらこう見えても先生の鼻はいいのです。臭いさえ有れば、どんなに気配を殺し、殺気を消し、音を発てずに動こうとも臭いさえ嗅ぎ取れれば、君の暗殺を防ぐ事は簡単なのですよ。先生じゃなければ、殺せたでしょう。しかし、私は地球をいつでも消せる超生物ですので、簡単には殺られませんよ」
「失敗したか・・・鼻が無い様で有るって事か。さすがに簡単には殺らせてくれないか、殺せんせーは・・・」
渚は気配と殺気を消して音を発てずに殺せんせーの背中を取ったが、臭いでバレるとは思いもしなかったので驚愕した様だが、今の暗殺の支部始終を見ていた杉野からすれば、渚の暗殺者としての才能が高く見えてしまい、自分とは違って遠い存在に思えてしまった。
渚は杉野の心中を知ってるか知らないか定かではないが、杉野に声を掛ける。
「杉野の暗殺も僕の仕掛けた暗殺も失敗したか。仕方ないか、杉野。もうすぐで朝のホームルームが始まるし教室に戻ろうか。暗殺はチャンスが有ればいつでも仕掛けられるし、気落ちする必要は無いさ」
「あ、ああ。そうだな・・・」
渚から暗殺はいつでも仕掛けられるから気落ちするなと言われるが、杉野は暗殺を仕掛け続けても本当に殺せんせーを殺せるのかと疑問に思い、自分が得意な野球を取り入れた暗殺を仕掛けても簡単に防がれたので、杉野は自分がE組に落ちた理由を考えると自分には才能が無いのではないかと思い落胆した表情をするので、渚は杉野をどう元気付ければいいのか考える事にした。
杉野はホームルーム前の暗殺で失敗した事を引き摺ってしまったのか、授業中でも溜め息を吐いてばかりで元気が無かった。
昼休みになると、殺せんせーはニューヨークのメジャーリーグの試合を見に行き教室にいないので、その間に暗殺の近況を聞こうと防衛省の職員である烏間がE組の教室に尋ねてきた。
「どうだ?例の
「無理ですね、渚以外は・・・渚はSAO帰還者だからなのか、気配を消して音も出さずに殺せんせーに近付く事が出来たんですけど、臭いでバレたみたいで暗殺は失敗しましたけど・・・臭いさえ対処すれば、渚なら殺せんせーを暗殺出来そうかと思いますが、臭いは完全に消すなんて不可能だから臭いを少しでも感じない様にする程度が限界ですかね。渚を除けば俺達じゃ暗殺は難しいかと思います。どうも殺せんせーはニューヨークでメジャーリーグの試合を観戦しにマッハ20のスピードを使って行ったみたいだし、正直言ってマッハ20で飛べる様な怪物を殺せそうには思えません・・・」
烏間にクラス委員の磯貝が渚を除いた生徒では殺せんせーの暗殺は出来そうに無いと言うと、烏間はクラス皆に発言した。
「確かにマッハ20で飛ぶ様な怪物を殺すのはどんな軍隊でも不可能だろう。だが君達だけにはチャンスが有る。奴は何故か君達の教師として動く事を欠かさない。奴をこのまま放置しておけば来年の3月には地球を破壊する。月の崩壊状態を見る限り、地球が破壊された瞬間に人類が生き残る可能性は0だ。奴を生かしておくのは危険だ。現在の状況ではこの教室だけが奴を唯一殺せる場所だ!!」
烏間が生徒達に発言した後、烏間は防衛省に戻っていた。殺せんせーは何故地球を破壊するのか、何故E組の担任になったのか解らないが、このE組の教室こそが殺せんせーを唯一殺せる場所なのは確かなのだが、未だに殺せんせーの素性が解らないので渚は殺せんせーの情報をこれからも集める事にした。
放課後、杉野は未だに今朝の暗殺の失敗を引き摺っているらしく落胆した様子で下校していたので、渚は杉野を元気付ける為に明日の放課後にプレゼントを送ろうと考えた。プレゼントする物を自分の貯金を使い購入し終えた後、プレゼントは明日の放課後に渡したいので駅のコインロッカーの中に仕舞う事にした。駅員に事情を説明した後にコインロッカーにプレゼントを仕舞い、渚は帰宅した。
次の日、杉野は昨日の失敗を引き摺っており、今日も落胆した様子で溜め息を吐いてばかりだった。その日の放課後、杉野は他の生徒達が帰宅し誰もいない校庭で溜め息を吐いていたので、そんな杉野に殺せんせーが昨日の暗殺に使われたボールをピカピカに磨いたのを杉野に手渡し声を掛けてきた。
「杉野君、昨日の暗殺で投げた球は良い球でした。昨日の球は先生がピカピカに磨いておきましたので、君に返しますよ」
「ボールをピカピカにして返してくれたのは感謝するけどさ、良い球でしたってよく言えたもんだな・・・考えてみりゃ、マッハ20で動ける先生に当たる筈が無いしよ・・・」
「杉野君は野球部に入っていますよね?」
「前はな・・・」
「前は?」
「この隔離校舎にまで通わせられるE組の生徒は部活禁止なんだ。成績が悪くてE組に落ちたから勉強に専念しろって事が表面上の理由だけど、正しくは本校舎の生徒と交わって部活を行えば、本校舎の生徒に悪影響を与えるだろうからって理由が真実だと思う」
「それはまた随分な差別ですね。部活も生徒の意欲を高める為にも必要な事の筈ですのにねぇ。杉野君は野球が好きだから野球部に入った筈ですし、悔しくないのですか?」
「確かに部活すらやらせてくれないのは悔しいけどさ、もういいんだ。昨日の球を見れば解るだろ?遅いんだよ、俺の球は。遅い球ばかりを投げるからさ、試合では相手に打たれてばかりだったから、レギュラーから外され二軍行きさ・・・そうなった後、俺は野球も勉強もやる気を無くしてE組に落ちた訳さ・・・」
「そうですか。なら、杉野君。先生が君にアドバイスをあげます」
E組に落ちた理由を話した杉野に殺せんせーはアドバイスを送る事にし、殺せんせーは杉野を自分の触手で絡み付き、杉野をいじくり回すので杉野は何故こんな目に会っているのか戸惑うが、ある程度いじくり終わった後に殺せんせーは杉野を解放するとこう告げる。
「杉野君、君の投球フォームですが、メジャーに行った有田投手を真似していますね?」
「そうだけど、それがどうしたんだ?」
「触手は正直でして、君と有田投手の肩の筋肉を比べると直ぐに解りました。君の肩の筋肉の配列は有田投手と比べると悪い方でしてね、君はいくら有田投手の真似をした投球フォームで球を投げても彼の様な豪速球は投げられません」
殺せんせーが杉野に有田投手の投球フォームを真似ても彼の様な豪速球は投げられないと言った後、影から話を聞いていた渚が姿を見せると殺せんせーに尋ねた。
「杉野にそこまで言うからには、何かしらの根拠が有るって事ですよね?」
「はい。勿論ですよ、渚君。昨日のメジャーリーグの試合中に有田投手本人に触手で触れて確かめてきましたから」
「確かめたのかよ!?殺せんせー、そんな事をして目立つと危ないだろ。先生は国家機密だしよぉ」
「大丈夫です。アメリカ国家が黙認しますので平気です。後、有田投手にサインを貰いました・・・」
殺せんせーが有田投手から貰ったサイン用の色紙には『ふざけるな触手!!』と有田投手の怒りを感じる一言が書かれており、厳密にはサインとは言えなかった。
杉野は有田投手本人の身体と比べた結果を反映した結果だと知ると、落胆した表情になる。
「そうか。やっぱり才能が違うんだな・・・」
そう言って落ち込む杉野に殺せんせーは補足の言葉を告げた。
「一方で杉野君の場合、肘や手首の柔らかさは君の方が素晴らしい。鍛えれば有田投手とは違う才能を持った投手になれますし、彼を大きく上回るでしょう。いじくり比べた先生の触手に間違いは有りません。才能の種類は一つじゃ有りません、君の才能に合った暗殺を探し、先生を暗殺してみせなさい!」
杉野にそう告げた後、殺せんせーはその場を後にし、杉野は殺せんせーに言われて初めて自分が持つ才能に気付き、落胆した表情が消えて今では活気付いた表情になっているので、渚は少し早まったかなと思いつつも、杉野へのプレゼントは後で渡す事にして、今は殺せんせーに聞きたい事が有ったので、渚は殺せんせーの後を追った。
「殺せんせー、昨日ニューヨークに行ってメジャーリーグを観戦したのは杉野にアドバイスを与える為だけに?」
「はい、勿論です。先生ですから、生徒のアドバイスの為になら殺される以外なら何でもしますよ」
「そうですか。聞きたい事が有るんだけど、殺せんせーは何でE組の担任になったか知りたいな」
「渚君。人には誰もが一つ位は語りたくない過去が有ります。君にも有る筈です、君がSAOにいた時に『SAO最強の暗殺者』と言われ畏怖されていた時とかね」
「確かに僕にも語りたくない過去が存在します。でも、せめて何故、教師になったのかどうかだけは聞かせてほしいですね」
「なら、少しだけ話します。先生はある人との約束を守る為にこのE組の担任になりました。私は来年は地球を破壊する予定ですが、その前にこのE組の担任なのです。このクラスの生徒達と真剣に向き合うのは先生にとっては地球の終わりよりも重要なのですよ。そんな訳で、君も生徒として、暗殺者としてこのE組での生活を楽しみなさい」
殺せんせーは渚にそう話した後、校舎の中に入っていた。渚はこれ以上の捜索はせず、杉野と合流する事にした。
杉野と合流した後、杉野と一緒に下校しないかと声を掛け、杉野と一緒に下校する中で渚は駅に着くと杉野にちょっと待っていてくれと伝えた後にコインロッカーを開けて、杉野へのプレゼントを取り出した後に杉野の下に戻り、そのプレゼントを手渡した。
「昨日、杉野があまりにも落胆した様子になっていたからさ、元気付けようとしてプレゼントを用意したんだ。と言っても、殺せんせーのアドバイスのお陰で随分と元気になったから、少し早まったかなって思ったけど、用意したからには渡す事にするよ」
「何か気を使わせてしまったみたいで悪かったな渚・・・それにしても、俺を慰めるプレゼントにしては少し大きくないかコレ?」
「まあ、そう言わずに貰ってくれないかな。プレゼントの中身が何かは杉野が家に帰ってから確認して。その後に僕に電話を掛けてくれれば色々と教えるよ」
「教えるって何をだ?」
「秘密だよ。お互いに帰ってからのお楽しみという事で」
杉野と別れて渚は電車に乗り、家に帰宅した後、自室で杉野からの連絡を待つ事にした。
杉野は渚から貰ったプレゼントを手にしながら帰宅し、自室に入るとプレゼントの中身を確認すると、中に入っていたのはナーヴギアの後継機であるアミュスフィアとそのソフトである『アルヴヘイム・オンライン』、通称ALOのソフトだった。
プレゼントの中身に驚いた杉野は渚に電話を掛けて確認した。
「おい渚。アミュスフィアとALOのソフトをプレゼントしてくれるのは嬉しいけどさ、さすがに高過ぎて貰えないって!?」
「まあ、そう言わずに受け取ってよ。確かに高かったけどさ、お金の事は気にしないで貰ってよ。勝手に用意したのば僕なんだしね」
「はあっ・・・解ったよ、貰っておく事にするよ。それでまず、どうすればいいんだ?」
杉野は渚からのプレゼントを有り難く受け取る事にし、渚にどうやって起動させるのか、ALOへのログイン方法とかを説明書を見ながら聞き、やり方を聞いた後にアミュスフィアにALOのソフトを入れた後に装着し、自ら全身を触りキャリブレーションを済ませた後、パスワードを設定しALOの世界へとフルダイブした。
ALOにフルダイブすると、ALOは妖精の世界なのでまずは自分の種族を決める。杉野は予め決めておいた火妖精サラマンダーにし、アバター名はドイツ語で杉を意味する言葉を少しもじり『ゼベル』にした。種族とアバター名を決め終えたと同時に杉野の意識がALOの世界へと飛んでいった。
杉野は気が付くと、サラマンダー領の街中にいた。サラマンダー領の街は大きな建物の屋上から炎が吹き出ており、まるで火山地帯みたいな雰囲気で少々焦げ臭いが、街の雰囲気を見た杉野は自分が無事にALOへログイン出来たと確信し、街に有る水場を覗きこみ自分の姿を映し、自分の姿を確認した。髪が少し赤くなっているが、容姿は現実の自分と同じなので現実で少し顔バレしないか不安だが、全く違う姿になるよりはマシかと思い、体格もキャリブレーションした為か現実と同じなので殺せんせーに教えられた自分の肘や手首の柔らかさも引き継いでいたので、本当にゲームの中とは思えない程によく作りあげられた世界だなと思った。
とりあえずは渚のアバターであるアズワルドと合流する事にした杉野はサラマンダー領の街中を歩いていると、赤いバンダナを巻いた顎髭の野武士面の男に声を掛けられた。
「よぉ、ソコの兄ちゃん。もしかしてフルダイブは初めてか?」
「えっ?ああ、はい。フルダイブは初めてですし、アミュスフィアは友達からプレゼントされて今日始めたばかりだから、VRMMO自体が初めてです」
「そうか。もしかして、その友達は水色の長髪で女の子と間違えられてもおかしくない外見の男の子か?」
「えっ、もしかして渚・・・いや、アズワルドってプレイヤーの事を知ってます?」
「本当に知り合いかよ。そうか、アイツはキリト達とは違う学校へ行くと聞いたから、友達が出来るかどうか少し気になったんだが、どうやら余計な心配だったみてえだな。そんで、お前さんの名前は?名前と言っても、現実での名前じゃなくて、アバターの名前な」
「勿論、言われなくても現実の名前は言わない様にします。俺の名前はゼベルと言います」
「ゼベルってのか。俺の名前はクラインだ。年上だからって気にせずにクラインと呼び捨てでOKだし、敬語は堅苦しいから気軽に話してくれて構わないぜ!」
互いに自己紹介を終えたゼベルとクラインはその後、クラインがアズワルドに連絡をしてサラマンダー領に杉野がゼベルというプレイヤー名で来た事を伝えると、アズワルドはサラマンダー領の近くに有る高原で待つと返事が返ってきたので、クラインはゼベルをアズワルドの待つ高原に連れて行く前にビギナーだからとゼベルに回復アイテムであるポーションを10個渡した。
「ちょっと、これはさすがに貰えないって・・・」
「遠慮すんなよ。俺の単なるお節介だと思って受け取っておけよ。さて、ポーションの次は武器を選ばないとな」
「武器なら既に持っていますけど」
「いや、それはサラマンダーを選んだ時の初期装備である片手剣だろ。別にそれでも良いなら構わないけど、やっぱり自分に合った武器を使う方が一番だと思うぜ。だから、武器屋に行って自分に合った武器をまず探そうな」
ゼベルはクラインがそこまで言うならと武器屋に入り、武器屋に有る武器を色々と手にして確認すると、近接武器だけでは無くて飛び道具である弓矢が有るので、ゼベルは弓矢を手にすると、しっくり来る何かが有るので弓矢を選んだ。ゼベルが武器を選んだ事を確認するとクラインは弓矢を購入し、ゼベルに渡した。
「ホラよ、受け取りな」
「ありがとう、でも武器の代金は俺が払うべきじゃ・・・」
「ゼベル、お前の言いたい事は解る。だが、お前は先程初めてこのゲームにログインしたから、お金なんか持ってないだろ」
「あっ、本当だ・・・1ユルドすら無いぞ・・・」
「だろ。だから、遠慮せずに貰ってくれよ。これも先程のポーション同様に俺の単なるお節介だと思えばいいからよ」
「そうだな。じゃあ、遠慮しないで受け取っておくか」
ゼベルはクラインから弓矢を買って貰った後、クラインの後に続いていき、アズワルドが待つ高原に移動した。
高原に着くと、黒い髪のピッグテールの少年の姿が見えた。その少年がゼベルとクラインの姿を確認すると、二人に声を掛けてきた。
「どうやら、無事にログイン出来たみたいだね。僕のこの世界での名前はアズワルド。今の君がゼベルという名前の様にね」
「本当にお前かよ。アズワルドの外見って現実の姿と髪色を除いて一緒なんだな」
「ゼベルこそね。髪色以外は現実と同じじゃないか。ゼベルの種族はクラインと同じサラマンダー、僕の種族は闇妖精インプだよ。サラマンダーは攻撃特化の種族だから使い易いし、だから選んで正解だったと思うよ。僕の種族であるインプは奇襲型だから上級者向けだしね」
「お二人さん、話してる最中で申し訳ないんだが、俺は予定が有るからここで別れるけどよ、その前にアズワルド。お前髪型をいつ変えたんだ?」
「ああ。数日前にクラスの女子生徒一人に髪を束ねる事を勧められてね、それでこの髪型に落ち着いただけかな」
「そうか。結構、似合っているぜ。元から女みたいなナリしてるから」
「それはどういう意味か聞きたいな、クライン?」
「おっと!?そろそろ落ちねえと予定が狂うな。じゃあ、俺は街に戻ってさっさと落ちるからよ」
クラインはそう言った後にサラマンダー領の街に戻っていた。アズワルドは女みたいだと言われるのも慣れっこだが、やっぱり少し気に落ちないらしい。
「クラインは相変わらずだな。さてと、ゼベル。もう少しで夕食時だし、簡単なレクチャーだけをしたら今日はALOからログアウトしようか」
「そうだな。思ったより時間を使ったから遊ぶ時間も少なくなったな。それでまずは何をする気だ?」
「勿論、実戦だよ」
「やっぱりか・・・」
「ちょうど、練習にもってこいのモンスターがいるし、ゼベルの武器である弓矢なら気付かれずに遠くから攻撃出来るから狙ってみなよ」
アズワルドはゼベルにモンスターがいる場所を指差して教えると、ゼベルはアズワルドが指差した先にいる熊型モンスターに向けて弓矢を向けると、矢を放った。しかし、ゼベルの放った矢は他の弓矢を使うプレイヤーと比べると矢のスピードが遅く、モンスターに簡単に避けられてしまい、モンスターがゼベルに向かって突っ込んでくる。
「ゼベル、君の放つ矢のスピードは正直言って他の弓矢使いと比べると遅過ぎる。真っ直ぐに射とうとしても避けられるだけだ」
「ざっくり言うな、アズワルド・・・ボールを投げるスピードは遅いし、放った矢のスピードまで遅いとなると落ち込むな・・・今日の放課後前までの俺ならな。殺せんせーに言われて気付いた俺の才能、もしかするとこの弓矢でも活かせるかもしれねえ!」
ゼベルは弓矢を射る時に矢の持ち方を変え、手首と肘の角度を調整しながら矢を射ると、矢は最初は真っ直ぐに動くが途中から軌道を変えていく。ゼベルは矢を連続で射る中で全ての矢は違う軌道を描きながら飛んでいき、熊型モンスターに命中すると熊型モンスターは光となり散った。
「野球で変化球を投げる時の様に矢の持ち方を変えて、手首と肘の角度を調整しながら矢を射る事で矢の軌道を変えた。よく考えたねゼベル」
「いや、ぶっつけ本番だったし、俺でもここまで上手く矢の軌道が変わるとは思ってもいなかったしな」
「そうだとしても上手くいったんだし、良かったんじゃない。それでどうだった?初めての戦闘の感想は?」
「最初は少し不安だったけど、自分の攻撃が上手く決まってはモンスターを倒せた時の達成感は凄かったな。まあ、俺とお前が倒すべき真のモンスターは現実にいる殺せんせーだけど、この達成感は本当に他では味わえないし、この世界にハマる人が多いのも納得だ」
ゼベルは初めての戦闘で弓矢の軌道を変えるという戦法でモンスターを撃破し、自分の手でモンスターを倒せた時の達成感は凄いと感じ、ALOに夢中になる人が多いのも納得だと思った。
その後、ゼベルは魔法を習得するかどうか悩んだが、呪文を唱えるのが大変そうだと思い断念し、アズワルドのサポートを受けながらモンスターと戦っていき、有る程度は戦闘に慣れてきたので、アズワルドはゼベルにALOの世界で一番重要な要素である翅を使っての飛行移動について教えた。
「翅を使っての飛行移動は初心者用の疑似コントローラーを使っての飛行移動、上級者用の背中に生えた翅を自分の意志で動かす随意飛行の二つが有るけど、ゼベルの場合は初心者用の疑似コントローラーを使っての飛行だと、片手が疑似コントローラーで塞がるから弓矢を使い難くなるし、上級者用の随意飛行が出来る様になった方がいいよ。随意飛行は背中に翅が生えたイメージをしただけでは飛べない。随意飛行は背中に生えた翅の中に擬似的な筋肉と骨が有る事をイメージしながら動かすんだ」
「翅の中に筋肉と骨が有るイメージって・・・結構難題だな、こんなに難しいとは思わなかった・・・」
ゼベルは随意飛行が出来る様に頑張ったが、何度やっても落ちてばっかりだったが、何度か挑戦する内に少しコツが掴めたのか少しふらついた感じだが、随意飛行が出来る様にはなったので、アズワルドは解散しようと宣言した。
「そろそろログアウトしないと危ないし、今日はここまでにしてログアウトしようか」
「そうだな。やっと随意飛行のコツが掴めたんだけど、仕方無いか。自分の翅で飛ぶのも悪くないし、明日またレクチャーしてくれよ、アズワルド」
「了解。それじゃ、互いに帰ろうか」
ゼベルとアズワルドはそれぞれの領に戻った後にログアウトした。尚、ログアウトした時間が夜の8時なので互いに母親に怒られたという。
それからしばらくして、学校の授業が終わった放課後に渚と杉野はキャッチボールをしており、杉野はスピードこそは遅いものの様々な変化球を投げており、渚はその変化球をかろうじてキャッチしながら話をする。
「杉野、今の球は凄かったよ。まるで消えたかの様に変化したよ!?」
「かろうじてとは言えどキャッチしておいてよく言うぜ。遅いストレートでも変化球と組み合わせる事で早く見せられる。殺せんせーと渚のお陰で気付いた。人間の才能の活かし方は様々だってな。俺の才能は手首や肘の柔らかさで、それは現実では変化球を投げるのに最適で、ALOの中では弓矢を使う時に矢の軌道を変える事が出来る。才能の活かし方もそれぞれ違うってな!それでも、殺せんせーからすれば変化球でも遅いんだろうけどさ、俺は続けるよ。野球も暗殺もな!それと同時にALOもやっていきたい。あの世界で翅を使って飛ぶと、嫌な事を忘れていくしな。まあ、未だにふらついた感じでの飛行だけどな。そろそろ随意飛行が上手くなりたいところだな」
杉野はこの間までとは違う生き生きとした表情をしており、暗殺は失敗しても落胆する事は無くなり、むしろ何度でも挑戦し続けるつもりだ。だからこそ、杉野は渚を連れて今、課題の採点をしている最中の殺せんせーに外から職員室の窓を開けて発言した。
「殺せんせー、ちょっと殺したいんだけど来てくれないかな?ちょうど新しい渚とのコンビネーションを思い付いたからさ」
「ヌルフフフ。懲りませんねえ、いいでしょう。やれるモノならやってみなさい。例え、杉野君が変化球を投げているその間に渚君が気配を消して近付いても先生は殺せませんしね」
「それはやってみないと解らないよ、殺せんせー」
杉野が思い付いたアイデアで暗殺を行い、見事なコンビネーションを見せたが結局は殺せんせーは殺せなかった。それでも杉野はどこか誇らしげだったという。
すみません、杉野のアバター名をどうするか悩んでしまい、少しペースがダウンしました。
只今、E組生徒のVRMMOでのアバター名を活動報告にて募集していますので、良い意見が有れば活動報告の返信にてお願いします。