(律子以外の)アイドルが3話まで出ないのはこの話くらいじゃなかろうか。
次話で必ず登場します。
翌日。
入社手続きの終わった俺は研修を受けるために765プロの事務所に来ていた。
まあ研修……というより基本知識のようなものなのかもしれないが。
「おはようございます!」
「おはよう! うむ、元気が良くて感心だよ!」
事務所に入ると社長が待っていた。
……さて、研修を受けるとしようか。
「社長。本日は何を教えて頂けるのでしょうか?」
「うむ。まずは……アイドル業界の基本からだね」
アイドル業界の基本。
まず初めに、オーディション、フェス、ライブ、営業、資金営業、レッスンを基本としたスケジュールを作成、管理し、担当アイドルの予定をきっちりコントロールすること。
……当然だ。アイドル自身に自分の仕事の予定管理をさせるわけにはいかないだろう。
仕事は事務所に入り、それをアイドルに割り振る形になっている。
なので、それぞれの仕事に応じて適任と思われるアイドルに仕事の予定を入れなければいけないだろう。
ダンスが得意で歌が苦手な子に歌の仕事を回しても上手く行かないだろうし、ビジュアル面で不安が残る子にビジュアルが重視される仕事を回しても駄目だと思う。
……適材適所、と言う奴だろうか?
「そう、その通りだよ。うちでは……よほどのことが無ければ天海君にダンスの仕事を任せるわけにはいかない。菊地君か我那覇君に回した方が成功するだろうね」
「……そこまでアイドルの技術に差があるのですか?」
もちろん、最低限の腕前――――歌を最後まで歌い、踊りきる程度の技量はどの子も持っているはずだ。
だが、その歌や踊りを『どれだけ上手く見せられるか』には個人の能力差が出てくる。
恐らく……。
「うむ。天海君のダンスと菊地君、我那覇君のダンスでは相当な差がある。ライブのアンコールでただ披露したり、普通に踊る分には問題ないが、オーディションやフェスで披露するとなるととても勝負にならないだろうね」
「なるほど……」
その辺りを見抜いてちゃんと適切に仕事を管理できるかがプロデューサーの腕の見せ所、でしょうか?
「その通りだよ。……ああ、アイドルの説明もまだだったね。天海君と言うのは……」
「……昨日の晩に調べてあります。天海春香さんですね?」
「調べてくれていたか。では他の二人に関しても……」
「最低限の事は調べてあります」
菊池真……中性的――ボーイッシュな女の子で、衣装も「カッコいい」系統の物が多いみたいだ。
我那覇響……沖縄出身のアイドルで、人懐っこく明るい少女……という紹介は見た。
それ以外の細かいところが分からないのが不安要素だが……。
社長の言葉を聞く限り、この二人はどちらもダンスが得意なのか。
「うむ。今でこそまだ未熟ではあるが、磨けば輝くと私は考えているよ」
「なるほど……」
アイドルを大成させるのがプロデューサーの仕事、だな。
「ああ、注意しなければいけないことが一つあったよ」
「?」
……注意、か。何だ?
「アイドル業界の仕事の所で説明した仕事の中には開催にお金がかかるものがあるのだ。具体的にはライブと資金営業なのだがね……」
「ライブと資金営業……」
まあ、考えれば当然だろう。
ライブは「ドームなどを自分達で借り切って行う」物であるし、資金営業は読んで字のごとく、自分たちが出資してアイドルを直接売り込みに行くものだ。
それだけに効果も大きいんだろうけど……。
「残念ながら我が社にはそれらを行う資金力が無い。なので、この二つはプロデューサーがアイドルの仕事で獲得したお金を用いてやってもらう必要がある」
「……!」
なるほど。自腹で開催する物だから、小さな事務所では簡単に出来ないのか。
「そういう事だよ。他にも、新たな衣装を仕立ててもらったり、アクセサリーを揃えるのもやはりお金がかかる」
「まあ、当然ですよね」
つまり、アイドルの売り出しによって得たお金を集めて新しい衣装を用意したり、アクセサリーを揃えないといけないのか。
アイドルの子を上手く売り出せないとそれだけ厳しくなるな……。
「当然のことだが、アイドルの衣装は個々のアイドルの体に合うように作ってあるからね。スーツのような使いまわしは効かないよ」
「確かに、そうですよね……」
……確か、双海亜美、双海真美の姉妹は体つきから顔立ちまでそっくりだった気がするが。
まあ、あの二人は例外だろうな。
「さて、話を戻そうか。まずオーディションだが……これは、他の事務所のアイドルと番組出演をかけて戦う仕事だよ」
「番組出演……。と言うことは、合格できれば……」
「うむ。出演料が入るだろう。それに、地方か全国かはともかく、番組に出演させてもらえれば知名度も大きく上がるだろう」
「テレビ番組に出演するわけですからね」
とはいえ、他の事務所のアイドルが居る、と言うことは……。
「そう。出場枠をかけて戦うことになるよ。具体的には、どちらがより審査員の目に留まるか競うことになる。当然負ければ……」
「番組には出られない……ですか」
だから社長は「その仕事にふさわしいアイドルに受けさせるように」と言ったのか。
腕試しならともかく、真剣な仕事で行かせるなら当然だとは思うが。
「その通りだ。次にフェス……。表向きはアイドルによるライブの祭典だが……」
「だが?」
「アイドルにとっては、どちらがよりステージを盛り上げられるかを競う真剣勝負! 培った技能の全てを使って、共演している相手のアイドルよりステージを盛り上げなければいけないんだよ」
「オーディションより激しい、アイドル同士の真剣勝負。と言う事ですか」
アイドルによる直接対決、とも取れるな。
しかし、フェスに参加するメリットはあるのか?
「もちろんあるとも。勝っても負けても、フェスでの経験はアイドルの力となるだろう。それに、相手のアイドルのファンを取り込むことも可能かもしれない。……まあ、こちらのファンを持っていかれる可能性もあるがね。それと、参加すれば結果に関係なく出演料がもらえるよ」
「出演料が必ずもらえるんですね……」
それは大きいかもしれない。
ただ、フェスに負けた場合のフォローが問題かな?
「仮に私がアイドルなら、フェスで戦い抜くことを最も嬉しく思うがね……。相手のアイドルのステージを見ることは自分の力に出来るかもしれないし、相手側の「ステージを盛り上げる手段」を盗んでしまえば……」
「アイドルが体得できるかはともかく、後の力になりますね」
となると、フェスの勝負の間は相手側のアイドルのステージを録画でもするべきかな?
それか、俺が休みの日に他のアイドルのフェスがあれば客としてそこに出て行って……。
「可能ならよろしく頼むよ。無論、無理をしない範囲でだがね。他の事務所のアイドルのフェスのビデオはアイドルの子達も喜ぶはずだ」
「分かりました」
……フェスか。
最初のイメージと異なり、重要な仕事になりそうだな。
「さて、最後に営業関係だね」
「まあ、読んで字のごとく、ですよね?」
テレビ番組のお仕事やビデオの作成、撮影など……で合っていますよね?
「うむ。しかし、番組の仕事などはヘマをしなければ必ず出演料がもらえるだろう。それにオーディションやライブ、フェスと異なりレッスンを行う程度の時間なら取れるはずだ」
「確実な収入とレッスンの時間を確保出来る事、それが営業の利点ですね?」
「そういう事だよ。営業に行くときは、君は営業先でアイドルの子のフォローを頼む。何かあった時に彼女達が頼れるのは君だけだ」
「はい!」
営業の際のフォローは恐らくプロデューサーの仕事で最も重要な物の一つだろうな。
ステージで歌うアイドルに手助けは出来なくても、営業中なら手助け出来る。
……そう考えると、アイドルとの信頼関係を作る、と言う点において、営業はもっとも重要なのか?
俺も分からないことだらけだが、それでもトラブルに対応できれば……。
「その通りだよ。アイドルとプロデューサー、双方の信頼無くては成功も無いからね」
「そうですね。自分も、担当のアイドルに信頼してもらえるように頑張ります」
互いの信頼が無ければ上に行く、行かない以前の問題だろう。
プロデューサーとして働くなら、アイドルに信頼されないと駄目だな。
……信頼はどれだけ積み重ねても崩れる時は一瞬だって聞くし、特に注意しないと。
「……そこまで硬くならなくても大丈夫だと思うが……まあ、それくらいの方が頼もしいだろうな」
「ところで……レッスンに関しては説明がまだのようですが」
「ん? ああ、当然だよ。君はレッスンのスケジュールを組んでアイドルを見守るだけでいい。レッスンの心得のあるプロでもなければ、トレーナーに鍛えてもらうのが基本だからね。こういうのはプロがやらなければ駄目だ」
「なるほど。確かに……」
素人が教えることはできないな。
……と言うことは、これで説明は終わりか?
「うむ。アイドル業界の基本は以上だ。では次はアイドルのイメージについてだな」
「アイドルのイメージ……ですか」
そうだ。
さっき社長が「適材適所」みたいなことを言ってたじゃないか。
まだ知らなければいけないことは山ほどあるな。
「そう。アイドルのイメージについてだが……ダンス、ボーカル、ビジュアルの3種類がある」
「ダンス、ボーカル、ビジュアル……」
「これはアイドル本人の適性に加え……身に着けている衣装とアクセサリー、そして使用している楽曲によって変化するのだ」
「衣装、アクセサリー、楽曲ですか……」
確かに、活動的に見える衣装を着ている場合と、お姫様のようなドレスを着ている場合じゃ見た時のイメージは大きく変わるな。
「それだけではないぞ。誰が見ても「ちゃんとしている」ように見えるコーディネートでなければ話にならない。アイドルは芸人ではないのだからな」
「鼻眼鏡を付けたり付け髭を付けるようなアイドルは居ませんよね……」
というか、むしろそんなネタアイドルを見てみたい気がする。
見たら腹筋が壊れると思うが。
「そういう事だよ。コーディネートはアイドルと話し合って決めることになるだろうが……変な物を使わないように頼むよ?」
「はい」
芸人に転向させるわけにはいかないからな。
……さて、次は「おはようございまーす!」
「おお、アイドルの子が来たようだね。君、研修の続きはまた今度だ。まずはアイドルの子に挨拶してきなさい」
「そうですね、行ってきます。では社長、失礼します」
自分なりの解釈でアイマス2の業務を書いてみました。
ただ、フェスはオリジナル要素が非常に増えると思います。
ただのアイドル対決で終わらせるのは勿体ないですし、2の仕様だとバースト連射で封殺こそ最高のアイドル、ってなりかねん。