「ありがとうございました、菊地真さん」
「真、ありがとう!」
「あはは……。たまたま居たから声をかけられただけなんだけど、役に立てて良かったよ」
ラジオの仕事が終わり、俺達は一度事務所まで戻ることに。
春香さんのレッスン用の荷物を受け取らないといけないからだ。
「ところで、あなたが社長の言ってた「新しいプロデューサー」ですか?」
「はい、昨日765プロに入社しました上坂翼です。よろしくお願いします、菊地真さん」
朝には見かけなかったな。
飛び出していくときに来ていたとしてもあの時は気付かなかっただろうし。
「よろしくお願いします、プロデューサー!」
「こちらこそ、これからよろしくお願いします」
「……」
「……?」
……真さん?
何か俺の顔についてるか?
「あ、いえ、そういうわけじゃないんですけど……」
「?」
「その、敬語で話されるのって慣れないというか、くすぐったいというか……」
「あ、真もそう思う?」
……ええ~。
いや、まあ律子の時みたいに、本人の希望なら普通に話すけど。
「えっと、出来たら私の事は春香って呼んでほしいんですけど……。さんづけってなんだか距離があるように感じちゃいますし」
「……僕もなんだか落ち着かないんです。事務所の人にさん付けの敬語で話されるの」
「分かりま……分かった。これでいいかな?」
……個人的にはやっぱり慣れないんだよなあ。
敬語、さんづけは当たり前のはずなのに……。
本当に変わったところだよ。
「ところで、レッスンは昼からだったよな? 予定通りに終わったわけだし、時間は少しあると思うけど真はどうする?」
「僕ですか?」
「ああ。俺と春香はレッスン用の荷物があるから、一度事務所に戻らないといけないんだ。真の予定はまだ知らないけど、もし急ぎの用事があるなら連絡入れておくから直接そっちに向かってもらっても……」
「大丈夫です。そのレッスン、僕も参加しますから!」
「そうか。じゃあこのまま三人で戻ろう」
しかし、敬語無しが基本とはな……。
フランクすぎて違和感が凄い。
アイドルとプロデューサーってもっと距離感があるものだと思ってたんだが。
「ただいま戻りました!」
「「ただいま~!」」
「お帰りなさい、プロデューサーさん、春香ちゃん、真ちゃん」
無事に765プロに戻ってこれた。
春香の営業は成功したし、これなら来週も大丈夫だな!
さて、レッスンの出発まで時間があるわけだが……。
「レッスンの時間まで余裕がある。昼食を食べておいた方が良いかもしれないな」
「……そうですね。今から食べておいたらレッスンの時には問題なくなりますし」
「そうします。じゃあ春香、プロデューサー、また後で」
春香も真も昼食を買いに出かけた。
俺も買ってきた弁当を腹に放り込んで、しばらく時間つぶしでもするか……。
「……ん? ゲームの音?」
弁当を食べてぼーっとしてると、不意に聞き覚えのある音が聞こえてきた。
……事務所内でゲームやってる子が居るのか。
まあ、それ自体は別におかしなことじゃないけど、これ……。
「まさかマリカー……か?」
ダブルダッシュじゃないか、この音楽。
相当やり込んだから懐かしいな。
……携帯機ならともかく、何故これの音が?
「うぎゃ~! 真美速すぎだぞ~!」
「うーん……ひびきんじゃ相手になんないよー……」
「というか、真美相手に勝負になるのって亜美くらいしかいないんじゃないのか?」
……アイドル二人が勝負してるのか。
覗いてみようかな。
「ん? 良いところに次のマトが来たっぽいね……」
「あ、どうも……」
……向こうから声をかけられたならこっそり覗く必要も無いだろう。
そう思っていた。が……。
「まあ、かけたまえ。そんでもって、これを持ちたまえ」
「ゲームキューブのコントローラー……」
何故かソファに座らされ、コントローラーを持たされる。
つまり「俺にも参加しろ!」と?
「まあ、兄ちゃんが真美の相手になるとは思えないけど、ひびきんよりは手ごたえあるっしょ」
「ふむ……真美さんはこれ得意なのですか?」
俺は一応これはミラーまで全部クリアしたし、直ドリも使いこなせる。
正直、最新作の方が下手くそだが……。
「事務所の中じゃ、亜美とどっちが上か競い合う中だよ」
「ほう……。ところで、二世代も前のゲームが何故ここに?」
今これは時代遅れもいいところなんだが。
「今度仕事でレトロゲーム大会ってのがあってね、真美はその特訓中なんだよ~」
「けど、真美の相手になるのって亜美くらいしかいないから……。自分なんか50回やっても勝ち目ないぞ~……」
「だから、たまたま来た俺を対戦相手に選んだと?」
「そういう事だよ兄ちゃん。まあ、一戦だけの相手だろうけど、よろしく頼むね~」
……良いだろう。
本気出していいかな?
「ん? 兄ちゃんの本気? いいよ。真美負けないと思うし」
……言ったな。
全力でやらせてもらう!
「ところで、ルールはどれでやるんだ?」
「んっと……150のキノコ。CPUの方が強そうだし」
「分かった。早速始めよう!」
さて、どれほどの腕だ?
言うからには相当な強さっぽいが……。
それはそうとキャラだな。
真美は……猿と亀! ガチか!
ならこっちは、キノコと亀だな!
「ルイージサーキットだな」
「ひびきんよりCPUの方が強いんだよね~。キノコって」
「分かる。キノコのCPUはヤバい。っと、始まるな……」
カラカラさばく以外鬼のように強いからな……。
3、2、1……今!
ロケットスタート成功!
「ぷ、プロデューサーも真美と同じことできるのか!?」
「「……!」」
真美の方も決めて来たか!
言うだけのことはあるみたいだな!
だったらこれは……!
「うわあ、ぷ、プロデューサーの車カーブでもないのにドリフトしてる!?」
「兄ちゃん素人じゃなかった!? これは真美も本気出さないと不味いっぽい!?」
「真美までやりだした!? もしかしなくても自分の時手抜きだったのか!?」
直ドリまで使うのかよ!?
猿取られてる以上、マジでやらないと勝てない!
「って、両方すごく速いぞ! 1位の敵にあっという間に追いついてる!」
「インチキ雑魚はどいてろ!」
「ええ!? カーブ中に甲羅当てたの!? あんな投げ方しても当たるんだね……」
「すっこんでろー! 真美の敵は兄ちゃんだー!」
「真美まで追撃した!? トップが一気に転落したぞ!」
真美の攻撃も受けて転落したか。
いや、あのチーターは戻ってくる!
「兄ちゃん覚悟ー!」
「ちぃっ! バナナが無いのが致命的すぎる!」
時間差で飛んでくる赤甲羅三連発。
バナナが無い以上、緑甲羅しか対処法は無い!
って、トゲゾーの音!?
「うあうあ~トゲゾーじゃん! 近づいてきたってことはまさか兄ちゃん真美ごと……!」
「誰が孤独死してやるか! 巻き添えにしてやる!」
「うあ~! 真美のアイテムが~!」
真美ごと巻き込み、足止めした。
こうでもしないと、バナナのアドバンテージには勝てない!
「な、なんか自分にはついていけないレベルの戦いになってるぞ~……」
そんな感じで戦いは進み……。
「雑魚から奪ったボム兵くらいやがれえええ!」
「反対側から投げてくるとか兄ちゃん鬼っしょ!?」
「さっきのボム兵のお礼参りだよ兄ちゃん!」
「危な……ってこのアイテムボックス偽も……!」
「地獄にご案内だよ兄ちゃーん!」
「うわ、ヤバい! 落ちる……!」
「負けるかああああ! 減速地帯をキノコで突っ切ってやる! まだ勝負は終わってない!」
「負けられないのは真美だって同じだよ! 負けるかああああ!」
全力を使い果たした戦いは終わりを告げた。
「……」
「何、だと……」
ポイント数同点。
僅差で勝利したのは真美だった。
「よっしゃあああ! 兄ちゃんに勝ったああああ!」
「馬鹿な……」
確かにブランクはあったが、まさか全力で戦って負けるとは……。
「……兄ちゃん」
「……何だ?」
「兄ちゃん、メッチャ強かったんだね……」
「真美もな……」
正直、最初の時点では甘く見てた。
まさか同レベルのバトルになるとは思ってなかったよ。
恐らく真美も同じ感想だろう。
「レベルが高すぎて自分には全くついて行けなかったぞ……」
「……ところで、響はどれくらいの腕なんだ?」
恐らく普通の腕だと勝負になるはずもないだろうが。
「んっとね~……真美が邪魔しなかったら100でなんとか一位になれるくらい?」
「なるほど。無理だな」
「ぐ……け、けど強くなってるはずだから! た、多分全力を出し切った今のプロデューサー相手なら……」
「良いだろう。じゃあ、100のスペシャルで遊ぼうか」
……久々だが、コースは覚えてる。
問題ないだろう。
「スペシャルで兄ちゃんのキャラ……。ひびきんがどうなるか見ものですな~?」
「じ、自分簡単には負けないぞ? ……多分」
ゴリラと猿。そしてコースはスペシャル。
もちろん車は緑の土管。
さあ、始めようか……。
「うぎゃー! なんでこんなところにバナナがあるんだー!?」
「ジャンプ台で加……誰だこんなところに偽物置いたのー!」
「何も無かったから安心したらその先に罠がー!?」
……面白いほど簡単に引っかかるな。
直ドリする必要……というか、普通のドリフトも要らない。
「ひびきん、簡単に罠にかかるね~……。そんなんじゃいつまで経っても真美の相手にはなんないよ? 兄ちゃんもさっきの真美みたいに普通に走ってるっぽいし」
「正直、ここまで簡単に引っかかるとは思わなかった」
「うがー! どうして自分が通ろうとした先にいつも罠があるんだー!」
「……何故だろうな?」
異様に分かりやすいんだよな。
一度罠にかかった道を避けようとするから、違う道に罠を置いたらほぼ確実に引っかかる。
それに、CPUが通らない道を好むみたいだが、そこに罠を張れば当然……。
「はい、終了」
「うぐ……またしても罠ばっかりでまともに走れなかったぞ……」
勝敗は言うまでもない。
面白いように罠にかかるから、順位が下がりがちな響はCPUとの対決に手いっぱいだった。
当然CPUも罠にかかって落ちるんだが、響が先行したら当然響の方が罠にかかるわけで……。
「っと、そろそろ時間だな。レッスンの付き添いに行かないと」
「そーなの? 兄ちゃんに相手してもらおうと思ったゲームまだまだあるけど……」
「ごめんな。レッスンから戻ってきたら続きやろう」
久々に触ったゲームはやはり面白かったが、今はレッスンの付き添いに行かないといけない。
……ところで俺と真美や響、自己紹介したっけ?
真美とゲームで遊ぶPは見ないから、あえてやってみた。
後悔は無い。